アスベスト肺がん労災認定:石綿運搬・造船配管作業で。ばく露16ヶ月・広範囲胸膜プラーク該当/長崎

記事/問合せ:ひょうご労働安全衛生センター

概要・解説

本件は、アスベスト運搬と造船所内配管作業において石綿ばく露作業従事期間が16ヶ月かつ広範囲胸膜プラークがある男性に発症した肺がんについて、2012年に改訂された石綿肺がんの労災認定基準に設定された「1年以上ばく露+広範囲プラーク」に該当するとして労災認定された事案である。

2012年労災認定基準改定

2012年3月に石綿による疾病の労災認定基準が改訂された。石綿肺がんの認定要件のうち胸膜プラークに関する部分は、以前の基準より緩和されたといえる。今回、わずか16か月間だけ石綿曝露作業に従事した男性が発症した肺がんについて、長崎労働基準監督署は労災であるとの認定を行った。これほど短期間での石綿曝露による肺がん発症事案を、労災と認めたケースはめずらしい。

石綿ばく露作業従事期間は1年半弱

昨年10月、長崎労基署が不支給とした中皮腫案件が、審査請求で逆転認定となったことが毎日新聞西部本社版で大きく報じられた(2014年1・2月号)。その記事内にひょうご労働安全衛生センターの電話番号が掲載されており、新聞を読まれたAさん(長崎市在住)のご家族から相談が寄せられた。

Aさんは、2012年の年末に受診した病院で肺がんと診断され、長崎大学病院に転院し治療を開始した。大学病院の主治医から、「肺に石綿がある」と説明され、労災申請を勧められた。しかし、Aさんの記憶では、石綿と接触したのは、1967年3月から68年1月(10か月間)まで石綿製の配管用保温材を倉庫から出し入れする作業と、1968年7月から69年1月(6か月間)まで造船所において配管に石綿を被覆する作業の合計16か月間だけだった。その後の40年間は、トラックとタクシーの運転業務に従事され、整備作業に従事することもなく、石綿と接触する機会はなかった。

高濃度ばく露推認する要件追加に該当

そのため、「2013年4月に長崎署に申請を行ったが、調査が長引き、結果がなかなか出ない」という相談であった。
2012年3月に改訂された認定基準の石綿肺がんの要件では、①石綿紡織品製造作業、石綿セメント製品製造作業、石綿吹付け作業に5年以上従事した労働者の場合は医学的所見が不要。②胸膜プラークが確認できる明らかな陰影が認められる場合、または胸壁内側の4分の1以上のものは石綿曝露作業の従事期間が1年、に変更となったことが特徴だった。

これまで肺がんの場合、石綿曝露作業への従事期間が10年とされており、10年未満については本省協議扱いとなっていた。2012年基準では、高濃度曝露が推認でき、広範囲に胸膜プラークが認められる場合は、従事期間要件が緩和された。

確定診断委員会意見が必要なのか?

Aさんの場合は、石綿曝露作業への従事期間がわずか16か月しかないため、エックス線写真において胸膜プラークと確認できる明らかな陰影又は胸壁内側の4分の1以上のプラークの所見が必要だった。
労基署が調査したところ、長崎大学病院の主治医は、「『明らかな陰影及び4分の1以上のプラーク』には該当しないが胸膜プラーク有」との意見。

一方、長崎労働局地方労災医員は、「左側の胸部CT画像上、胸膜プラークが最も広範囲に描出されたスライスで、その広がりが胸壁内側の3分の1程度であると認められる」と意見で、認定基準の「胸壁内側の4分の1以上のもの」に該当すると判断した。また、Aさんの画像を水嶋医師に読影を依頼したところ、「胸膜プラーク。胸壁の4分の1周以上の拡がりを有する」との意見をいただいた。

ところが長崎労基署は、主治医と労災医員の意見に相違があるからとの理由で、石綿確定診断委員会に判断を委ねたため、調査が長引くことになった。結局、ご家族の元に決定通知書が届いたのは、3月の初めだった。認定基準の改訂が良い結果に結びついた事例であるが、高濃度曝露の場合は医学的所見が不要であることや、広範囲の胸膜プラーク所見がある場合は曝露作業が1年で認定されることの周知はまだまだ行われておらず、埋もれている石綿肺がん患者が多いことは十分推認できる。

埋もれている被害者の掘り起しと、認定基準改訂の十分な周知が必要である。そして何よりも、曝露作業を重視した認定基準への改正が求められている。

安全センター情報2014年1・2月号