建設・型枠大工アスベスト肺がん、同じ職歴の兄は労災認定、弟は不支給も裁判勝訴:石綿繊維・認定基準不合理明らかに

概要・解説

本件は、兄弟で同じ建設・型枠大工としての作業歴をもち、肺がんを同時期に発症し、同一労基署に労災申請したところ、計測された石綿繊維について、認定基準レベルの上下によって、兄は労災認定、弟は不支給となり、弟は不支給処分取消しを求めて行政訴訟を提訴し、弟についても、認定基準のレベルを下回っているが職業性ばく露を示すレベルであることから不支給処分が取り消された事案である。厚生労働省は控訴せず、確定判決となった。
本件の原告代理人は、アスベスト訴訟 (関西) 弁護団である。

記事/問合せは、ひょうご労働安全衛生センター

同じ職歴、同じ労基署で別判断

石綿が原因で肺がんを発症したとして労災申請したものの、国が労災と認めなかったため、労災不支給処分の取り消しを求め争っていた訴訟の判決が、5月12日に神戸地方裁判所で言い渡された。裁判長は、「神戸西労働基準監督署が原告に対してなした支給しないとの処分を取り消す」と読み上げ、肺がんによる死亡は労災であると判断した。(また、建設現場で働き、石綿小体1,845本の医学的所見がありながらも、労災請求が不支給となった案件について、処分の取り消しを求めて、6月10日に岡山地裁に提訴が行われた。2012年に定められた新認定基準の本数規定をめぐっては、全国初となる訴訟であったが、この訴訟は、提訴後、一転、自庁取消しで労災認定され、訴訟は取り下げとなった。

Bさん(1947年8月8日生れ)は、約36年(1967年から2003年)に渡り型枠大工としてビル・マンション・大型店舗等の建築作業に従事し、2008年3月24日に肺がんで亡くなられた。
Bさんの兄Aさんは、約44年(1963年から2007年)に渡り同じ型枠大工として建築作業に従事し、2007年10月3日に肺がんで亡くなられた。二人は、長男が社長であるF組の従業員として働き、作業現場もほぼ同じだった。

二人は同時期に肺がんを発症し、同じ病院で肺がんの治療を受けたのであるが、兄弟が同時期に肺がんを発症したことに疑問を抱いた主治医が、職歴から石綿との関連を疑い、労災申請を薦めたのだった。そこで2008年3月、BさんとAさんのご遺族は、神戸西労基署に労災申請を行った。

ところが、神戸西労基署は2009年8月31日に、弟のBさんの労災申請については不支給、兄のAさんの申請については認定という異なった決定を行った。

そのため、Bさんのご遺族が、労災の不支給処分の取り消しを求め、2011年7月8日に神戸地裁に提訴し、争ってきた。

石綿小体、石綿繊維数基準で機械的に判断

石綿による肺がんの認定基準(2006年認定基準)は、①第1型以上の石綿肺、②胸膜プラーク+石綿曝露作業10年以上、③石綿小体又は石綿繊維+石綿曝露作業10年以上、となっていた。厚生労働省の事務通達では、「作業内容、曝露形態、石綿の種類…等を勘案し、総合的に判断する」としているが、実際には機械的な判断が行われ、石綿小体が5,000本/g以下の場合はほぼ不支給とされていた。

石綿曝露により肺内に吸入された比較的繊維の長い石綿繊維は、鉄アレイのような形をした石綿小体を形成する。石綿小体の表面に鉄蛋白質が付着して、雪だるまのように太った鉄アレイ状になる。

この石綿小体は、核が青石綿(クロシドライト)や茶石綿(アモサイト)の場合は頻繁に見られるが、白石綿(クリソタイル)の場合は稀にしか確認されない。白石綿は、青・茶石綿に比べ、肺内でより細かくなって消失しやすいという性質が影響していると言われている。日本に輸入された石綿のうち、圧倒的に使用量が多いのは白石綿で、建材として使用されてきた石綿の多くは白石綿である。

建築労働者であるBさんとAさんの場合、石綿小体は兄Aさんが410本で弟Bさんが918本だった。

そこで、神戸西労基署は石綿繊維の数を検討した。
Bさんと兄Aさんの石綿繊維の計測結果の対比は、表のとおり。

兄Aさんの石綿繊維(1μm)がほぼ500万本認められることから、労働災害と認定し、弟の悦郎さんの石綿繊維が認定基準に満たないから、労働災害と認めなかった。神戸西労基署は、石綿繊維の本数のみもって、悦郎さんの労災申請を不支給としたわけである。

表をよくみると

ところが、この表をよく見ると、1μm及び5μmを超える石綿繊維とも、計測された石綿の種類とその割合はほぼ同じであるといえる。このことからも、二人が同じ作業現場で同じ作業に従事し、同じ作業環境の下で同じように石綿に曝露したことは明らかだった。

この間、石綿肺がんの認定要件である石綿小体をめぐる訴訟に関しては、本誌でも何度も掲載しているが、原告勝訴の判決が続いている。

  • 英裁判(石綿小体741本、2013年2月・大阪高裁)
  • 小林裁判(石綿小体1,230本、2013年6月・東京高裁)
  • 日航整備士(石綿小体469本、2314年1月・東京地裁)
  • 大阪・建設大工(石綿小体998本、2014年3月・大阪地裁)

の4件が確定した。

また、北村裁判(神戸地裁・石綿小体2,551本)については、結審直前に国側が労災と認める判断を行ったため、訴訟を取り下げることになったが、実質的には勝訴と同じ結果である。

つまり、労災請求を行い不支給となった案件で、訴訟を行えば患者側が勝利する結果が、5件続いていた。

今回の神戸地裁判決は、これまでの確定判決と同じく、「石綿小体数を基準に判断することに合理性はない」と指摘した。
そして、「曝露した石綿は石綿小体を形成しづらいものが主体だった」としたうえで、「一般人より明らかに高いとされる1,000本に近い石綿小体が検出されており、業務に起因すると認めるのが相当」と判断した。

裁判強いる理不尽

判決後の会見で、原告は「何度も諦めかけたが、労災と認められて、今は感謝で一杯」と話された。

今回の判決を含め、司法の判断に従えば、救済される肺がん患者はもっとたくさんあるはずである。しかし現実には、労災不認定の結果が出れば諦めるケースが圧倒的であり、審査請求や再審査請求の手続を経なければ提訴できないため、多くはこの過程で泣き寝入りすることになる。国側は司法の判断を重く受け止めるべきで、本数を重視する認定基準を改正する必要がある。

なお本件も、国側が控訴を行わなかったため、5月末に判決が確定した。

少なすぎる肺がん労災認定

世界の医学会では、石綿による疾病は、中皮腫1に対して石綿肺がんはその2倍であるというのがコンセンサスとなっている。アスベスト問題が社会問題化する中で、中皮腫の患者・家族への救済は一定進んでいるが、日本における石綿肺がんの患者・家族の救済は中皮腫以下というのが現状である。

石綿肺がんの救済が進まない原因は、労災の認定基準のハードルが高すぎることが影響しており、「曝露状況等を総合的に判断」するとしながらも、石綿小体・石綿繊維の本数についての数字のみで判断してきたことが、原因としてあげられる。

そうした中、国は石綿肺がんの労災認定基準を2012年3月に改訂した。

2012年基準は、これまでの認定基準を緩和した箇所もあるものの、石綿小体数に関しては「総合的に判断する」とされていたものが、「1,000本以上5,000本未満」の案件については、労働基準監督署ではなくすべて本省で判断されることとなった。石綿小体・石綿繊維に関する問題点は改正されず、より厳しくなったというのが実情である。

2012年改定基準を争う裁判提訴

岡山県井原市に住むCさんは、1968年3月から2007年8月まで、主に大工として建築作業に従事した。木造建築では石綿含有建材の加工・裁断作業に、鉄骨建築では石綿が吹き付けてあるそばでの作業において、石綿に曝露した。

2008年11月に近院での胸部画像撮影において異常陰影を指摘され、倉敷中央病院を受診したところ肺がんと診断された。その後、左肺上葉切除術を受け、抗がん剤治療を続けていたが、本年1月21日に亡くなられた。

Cさんは、生前に療養補償給付と休業補償給付の請求を行った。調査を行った笠岡署は2012年6月6日付けで「労災の認定基準に至らなかったため」との理由で、労災と認めなかった。労災申請が認められなかった理由は、肺内から検出されて石綿小体の数が1,845本で、5,000本に満たないということが大きな理由だった。

その後、岡山労災保険審査官は、2013年2月12日付けで請求を棄却し、労働保険審査会は、同年12月11日付けで請求を棄却した。そのため、労災不支給処分の取り消しを求め、6月10日に提訴することとなった。

今回の提訴は、石綿肺がんの認定基準における石綿小体の評価を争う裁判となる。2012年の新認定基準をめぐっては全国で初めての訴訟であり、労災不支給処分の取り消しを求めるなかで、認定基準(2012年基準)のあり方、石綿小体・石綿繊維の数と肺がん発症リスクについて争うこととなる。本数議論に終止符を打つための重要な裁判となるので、ご支援をお願いします。

※この岡山裁判は、提訴後、「胸膜プラークがみつかった」として突然、不支給処分を国が取消し労災認定する異例の展開となり、裁判は取り下げられた。
国の不戦敗となった。勝負を避けたという見方もあるだろう。

ひょうご労働安全衛生センター

安全センター情報2014年8月号