イ・ドンウさんの事故から一年、赤ん坊を抱いた妻の奮闘 2023年3月22日 韓国の労災・安全衛生
「夫の事故以来、私は毎日『監獄暮らし』をしています。しかし、チャン・セウク東国製鋼代表取締役(副会長)は、何の責任もとっていません。安全規則を全く守らずに人が死にました。『悲しい』『ダメだ』と思っても終わることではありません。東国製鋼が重大災害処罰法違反で処罰される大企業の、最初の事例になれば良いと思います」
東国製鋼の浦項工場でクレーンの安全ベルトに巻き込まれて亡くなった下請け労働者のイ・ドンウさんの妻クォン・クミさんは、事故が起きてちょうど一年になった21日、<毎日労働ニュース>にこのように話して泣き出した。クォンさんは「チャン代表は懲役20年程度を宣告されて欲しい」と話した。重大犯罪による殺人罪に宣告される量刑だ。
クォンさんは「元請けの代表が、安全保健確保義務を果たさなければ自らの『人生』も一緒に終わりになるかも知れないという危機意識を持つためには、厳罰が必要だ」と強調した。彼女は「イ・ドンウ東国製鋼非正規労働者労災死亡事故解決要求支援会」など、市民・社会団体が東国製鋼本社の前に用意した一周忌追悼文化祭に参加した。
事故から11カ月目に退任した共同代表のみを送致
一年が経ったが、クォンさんはその日の記憶が生々しいと話した。昨年3月21日の朝はいつものようだった。イ・ドンウさんは「行ってくるよ」と言って家を出た。出勤の途中では電話でクォンさんと日常的な会話をした。クォンさんは妊娠三ヵ月目で、家で休んでいた。午前11時頃、夫の会社から連絡が来た。夫が救急室にいるから、早く来いと言った。クォンさんは直ぐに駆けつけたが、夫はすでに冷たい遺体となって横になっていた。世界が一挙に崩れた。クォンさんは「普段は行って来るよとキスをしてくれるが、その日は真似もしてくれなかったことがしきりと思い出される」と言ってすすり泣いた。
『安全不感症』が起こした事故だった。イ・ドンウさんは下請けのチャンウEMC所属の同僚二人と一緒に、天井クレーンのブレーキを交換していたが、クレーンが作動して、シートベルトに体が巻き込まれた。安全措置と管理監督は行われていなかったことが判った。雇用労働部の現場調査の結果、クレーンの電源が遮断されていなかった。クレーンの上部には『信号手』も配置されていなかった。結局、管理監督者が運転しろという信号を出してクレーンが動き、シートベルトを肩に固定して作業していたイ・ドンウさんは、そのままシートベルトに巻き込まれた。現場には元請けの管理者はいなかった。
東国製鋼による真相究明は皆無だった。遺族は昨年4月19日に上京し、東国製鋼の本社前で無期限テント座り込みに入った。会社に、△チャン・セウク代表の公開謝罪、△事故調査報告書・再発防止対策の提供、△重大災害処罰法による損害賠償、を要求した。事故から88日目の昨年6月16日に最終合意した。東国製鋼のホームページに、一週間、謝罪文が掲示された。再発防止対策も約束した。
しかし、捜査は足踏み状態だ。事故から11ヵ月経った先月14日、大邱地方雇用労働庁はキム・ヨングク元共同代表を重大災害処罰法違反の疑いで送検した。東国製鋼の浦項工場長と下請けの代表は、産業安全保健法違反の疑いで起訴されたが、チャン代表は除かれた。労働庁の関係者によると、検察の指揮による措置だと確認された。
チャン・セウク代表を法廷を立たせて会いたい
遺族側は昨年12月、最高検察庁に捜査要求を文書で伝え、先月はチャン代表を重大災害処罰法違反の疑いで告訴した。チャン代表がCEOとしての最終決定権があるにも拘わらず、検察が捜査をいい加減にしたという趣旨だ。チャン代表は9.43%の持分を保有している東国製鋼の二大株主だ。遺族は9日、大邱地検浦項支庁に起訴を求めるなどの行動を続けている。
検察の態度が生ぬるいと遺族は批判する。クォンさんは「検事は遺族と面談する時、最善を尽くしていると言っただけ」で、「最近来た時も、検事が10日間出張していると言って、会うことを避けた」と指摘した。チャン代表は事故の後、一度も遺族と会っていない。立件されたキム・ヨングク前代表も、昨年12月末に辞任した。これについてクォンさんは「びっくりした」と言った。彼女は「夫の死亡から8日目にキム前代表が訪ねて来たが、会社が当時、事態を収拾できずに事態を大きくした責任を問われたのではないか」と疑っていると話した。
チャン代表が法廷に立つ日まで闘うというクォンさんは、「チャン代表が起訴されて法廷に出れば、やっと会えそうだ」と言い、「夫は東国製鋼のために働いたのに、あなたの会社の職員ではないのか?」「法廷で責任がないと言うのなら、代表の席にいる資格があるのか?」と訊きたいという。何より「罰金刑や執行猶予ではダメだ」と声を強めた。
東国製鋼浦項工場でクレーンの安全ベルトに巻き込まれて亡くなった下請け労働者のイ・ドンウさんの妻のクォン・クミさんが、一周忌の21日、東国製鋼本社の前で行われた追悼文化祭で発言している。/ホン・ジュンピョ記者
「しっぽ切り捜査、法の趣旨を蔑ろに」
検察も批判した。クォンさんはこの日の追悼文化祭で、「真の社長チャン・セウク代表を挙論もしていない検察は、キチンと仕事をしていると思うのかを訊きたい。」「見せかけの社長の責任を問い、紙屑のように軽い処罰で済まそうとする検事たちは、今からでもしっかりせよ」と批判した。政府の『重大災害処罰法無力化』の試みについても批判した。彼女は「一回安全点検さえ行っていれば、労働者が無念にも死ななかったはずなのに、処罰はとても軽い。」「経営責任者の責任範囲が曖昧だという財界の主張をそのまま受けてはならない」と強調した。
キム・ヨンギュン労働者の母親で金鎔均財団のキム・ミスク理事長も、「真の社長のチャン代表は除いて、キム前代表を起訴したことは欺瞞だ。」「もし政府の重大災害処罰法の緩和基調に力付けられて処罰を免責しようとする隠れた意図なら、ハナから夢にも見ないように願う」と指摘した。遺族を支援したクォン・ヨングク弁護士は「イ・ドンウ労働者の不幸が繰り返されないようにするためには、安全を無視した経営責任者に、相応しい責任を問うべきだ」と強調した。
支援の会などは「月給社長だけを経営責任者として送検したのは、典型的な尻尾切り式の捜査で、検察が大企業の最高経営者に免罪符を与えているという疑惑が濃厚だ。」「最終的な意思決定権を持つ、実質的な経営責任者を処罰すべきだという重大災害処罰法の趣旨に背を向ける処置」と批判し、検察にチャン代表の告訴事件を徹底的に捜査し、重大災害処罰法違反罪で処罰せよと追求した。
息子に伝えること「最後まであきらめなかった」
クォンさんは同日、息子のイ・ジュファンと一緒に追悼祭に来た。事故の後、臨月の体で座り込みをしたクォンさんの息子は、産まれて五ヶ月になった。8年目にやっとの思いで抱いた子供だった。片言を言い始めた息子は、父親にそっくりだという。彼女は「息子が大きくなったら、お父さんは誠実に働いて、悔しい事故に遭ったと教えたい」と涙を流した。
そして、責任者たちが適当な処罰を受ければ、息子にこのように言ってあげたいと言った。「ジュファン、パパはあなたの走る息づかいを聞いて泣いたよ。君がお腹の中にいる時、お父さんの悔しさを知らせると誓ったママは、最後まであきらめずに(責任者たちに)罰を与えようと努力した。これがお父さんのいない場所で、あなたにしてあげられることだった。二度とお父さんのような状況を作らないために最善を尽くした。仕事で死なない社会になれるように、あなたは社会に奉仕しながら生きて欲しい。」
2023年3月22日
毎日労働ニュース ホン・ジュンピョ記者
http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=214100