あの時、重大災害処罰法さえきちんと作っておけば 2022年11月4日 韓国の労災・安全衛生

資料写真/チョン・ギフン記者

梨泰院惨事に国の責任を問う声が強い。10万人が集まる状況であることを予見していたにも拘わらず、当日の29日、現場に配置された警察官は137人で、この内、秩序維持のための勤務者は58人に過ぎなかった。惨事が起こる前から、圧死の憂慮を伝える112通報が11件あったという事実が明らかになり、世論はさらに悪化した。警察庁長官とソウル市長、行政安全部長官と龍山区庁長が押し出される形で謝罪した。

世越号惨事、加湿器殺菌剤惨事を経験した後、市民の生命と身体を保護するとして「重大災害処罰などに関する法律」(重大災害処罰法)を制定したが、法に規定された重大市民災害に関連する条項は、梨泰院惨事には適用できないという。梨泰院惨事が、法の適用対象である公衆利用施設・公共交通手段で発生した災害なのかが明確ではないというのが理由だ。政府の主張の通り、「主催者がいない行事」で、法が定めた安全保健確保義務の履行責任者が不明だということもある。

重大災害処罰法は、社会的惨事に国の責任を問うという目的が明確だったが、法案議論の過程でこの意図が色褪せた。『毎日労働ニュース』が、6回の法制司法委員会・法案審査小委員会の会議録から議論の過程を振り返ってみた。

「重大市民災害発生の責任は国にある」
与野党が異見なく同意し、法案2条に反映

法案審査小委員会で、与野党は重大市民災害の責任は国にあると明らかにしている。2020年12月24日の一次小委員会で、共に民主党のキム・ヨンミン議員は「聖水大橋崩壊、三豊百貨店が崩壊した事件など、社会的で不特定多数の市民が命を失ったり怪我をした事件にも、公務員と事業主が軽くしか処罰されない慣行が繰り返された。」「不特定多数の市民が安全義務違反によって被害を受ける場合も、保護する必要性が高い」とした。

同月29日の二次小委員会では、中央行政機関や地方自治体が市民災害の責任を負うべきだという具体的な発言が出ている。当時のペク・ヘリョン小委員長が、全国市長・郡守・区庁長協議会が、重大市民災害の責任を負うという条項について『(責任範囲が)広すぎる』という反対意見を出したと伝えると、国民の力のキム・トゥプ議員は「このような事故を予防・教育するために政府があるのではないか。」「(そうでなければ)政府や地方自治体が本来の義務を放棄することだ」と主張した。

雇用労働部次官は「中央政府や地方自治体が、直接的に事業・企業活動をすることはないので、自治体の責任部分を被災市民の側に残したのではないかと理解し、妥当と見られる」と話した。キム・トゥプ議員は2021年1月5日の四次小委員会でも、「公衆利用施設などの部分は、政府または地方自治体が責任を負うべきだ。」「より集中的かつ緻密に、安全措置について管理監督しなければならないという責務が、ここ(公衆利用施設関連条項)で、再び確認される」と強調した。

重大市民災害を議論する施行令から政府・地方自治体が除かれた

このような主張は重大災害処罰法2条9項(経営責任者など)に反映され、経営責任者として『中央行政機関の長』と『地方自治体の長』が含まれた。しかし、重大市民災害を「特定の原料または製造物、公衆利用施設または公衆交通手段の設計、製造、設置、管理上の欠陥が原因となって発生した災害」と定義し、公衆利用施設の範囲を施行令で規定する過程で、死角地帯が発生した。地下鉄の駅舎と鉄道の駅舎、地下商店街、待合室と旅客ターミナルのような施設、橋梁、トンネル、防波堤などが含まれたが、道路はどこにも該当しない。

公衆利用施設を列挙することによって発生する死角地帯の問題は、既に議論の過程で問題になった。昨年1月6日の第五次法案小委員会でキム・ヨンミン議員は、「重大市民災害の立法趣旨と少し違うようだが、遊園地と一緒に抜けたものがある」と、消防庁火災予防課長に問題を提起した。

裁判所の行政処はこれに対して、「その他に、先の施設に準ずる施設での災害発生時に、生命・身体上の被害が発生するおそれが高い場所」という包括規定を提示した。行政処長は、「除外される施設ができるのは仕方なく、新しい業種や施設ができるのはやむを得ない」ので、「包括的に規定し、大統領令でその都度決めれば、問題は解決できる」とした。現行の法文にはこの意見が反映された。

重大市民災害の規定を新たに定義する必要
安全関連法に基づく義務違反の責任を問うべき

労働界と専門家たちは、重大市民災害を防ぐために、公衆利用施設と公衆交通手段の要件を羅列するやり方に反対し、社会的惨事の発生時に、安全関連法に規定された責任者の義務違反の有無を調べ、責任者を処罰する方向を提示している。

労働界と市民社会、労災被害者、法曹界、安全保健専門家団体で構成された「重大災害のない世の中作り運動本部」は、このような方向への法の改正要求を継続して提起してきた。この主張の通りに重大災害処罰法が制定されていたとすれば、梨泰院惨事に関しても、警察が混乱を統制せずに警察官職務執行法に違反し、政府と地方自治体は、「災難および安全管理基本法」(災難安全法)上の安全管理を行わなかったために重大市民災害を発生させたという責任を問うことができる。

ソン・フンチャン弁護士は「関連法令によって当然守るべき義務に違反した場合に責任者を処罰しようということで、新たに義務が生じる訳ではない」と説明した。「責任範囲が広範囲だというが、災害との因果関係を把握して義務放棄の責任を問うので、責任は無制限に拡がらない」と付け加えた。

「重大災害のない世の中作り運動本部」は3日に会議を行い、重大災害処罰法の不備な点への補完策を議論し、法の不備を評価して具体的な代案を発表する予定だ」とした。

2022年11月4日 毎日労働ニュース イム・セウン記者

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