意識を失って交通事故を起こしたタクシー運転手に労災認定 「故意又は重大な過失とはいえない」 2022年11月2日 韓国の労災・安全衛生

資料写真/イメージトゥデイ

意識を失って停止信号をして交通事故を起こし、重傷を負ったタクシー運転手が裁判所で業務上災害を認められた。勤労福祉公団は、信号違反によって事故が発生し、「労災補償保険法」上の『犯罪行為』に該当すると主張した。しかし裁判所は、既に正常に運転できない状態だったと判断した。タクシーの運転手は意識が戻らず、事故の経緯を供述できなかった。

ブラックボックスに意識を失った情況の記録・・・公団「信号違反は犯罪行為」

『毎日労働ニュース』の取材によると、ソウル行政裁判所はタクシー運転手のA氏が勤労福祉公団に起こした療養不承認処分取り消し訴訟で、原告勝訴判決を行った。公団が控訴するかどうかは未だ決まっていない。

タクシー会社所属の運転手のA氏は、2020年2月、運転中に赤信号にも直進し、交差点に進入してきた車輌と衝突した。この事故でA氏は頸椎骨折と心停止などの診断を受けた。相手車輌の運転手は全治2週間の傷害を負った。

ところが、A氏は事故当時には既に意識がなかった状態であったことが分かった。タクシーのドライブレコーダーの映像を見ると、衝突前後に何の音もしなかった。また、信号違反をしたにも拘わらず、交差点を早く通過するために速度を上げていなかった。衝突直前にブレーキを踏んだり、ハンドルを切る動作もなかった。

その後、A氏は公団に療養給付を申請したが、信号違反による「犯罪行為」に該当するという理由で拒否された。労災保険法は、勤労者の犯罪行為によって発生した負傷・疾病・障害または死亡は、業務上災害とは見ないと定めている。

A氏は再審査請求も棄却されると、昨年9月に訴訟を起こした。A氏側は、「24時間の隔日制の勤務で疲労が累積した状態で、眠気や持病である不安全狭心症の発作などで、既に意識のない状態だった」と主張した。

公団「過労時運転禁止」に違反の主張も
裁判所「非正常な身体状態、疲労が累積したはず」

裁判所はA氏の主張を受け容れた。「事故の原因が『犯罪行為』であるということが証明されたとは言えない」とし、「むしろ、タクシー運転手としてA氏が行っていた業務に内在したり、通常伴う危険の範囲内にあると見ることが妥当だ」と判示した。

また、事故当時、正常な状態ではなかった可能性が高いと判断した。裁判所は「ドライブレコーダーの映像に照らしてみると、A氏が不詳の理由で既に意識を失ったり、運転をするに当たって必要な、正常な判断ができる身体状態ではなかったという強い疑いがある」と説明した。

公団は追加して、道路交通法が定めた『過労時の運転禁止義務』に違反していると主張した。重過失以上の注意義務違反に該当するということだ。しかし裁判所は「公団の主張は、処分根拠とした当初の事由(信号違反)と基本的な事実関係が同一だとは見られず、処分理由として追加することもできない」と指摘した。

それと共に「A氏が過労による居眠り運転をして事故が起きたとしても、タクシー運転手として24時間の隔日制勤務をし、就寝時間の不規則、睡眠不足、生活リズムと生体リズムの混乱などで、疲労が相当累積したと見られる。」「勤労者が業務を遂行のための運転の過程で、通常伴う危険の範囲内にあると見る余地が大きい」と強調した。公団が犯罪行為を証明できなかった、という趣旨と解釈される。

A氏を代理したアン・ヘジン弁護士は、「A氏の場合、災害発生の経緯は明確には明らかになっていないが、事故の全体の経緯を考えると、信号違反の故意または重大な過失があるとは考え難いと判断したことに意味がある」と話した。

2022年11月2日 毎日労働ニュース ホン・ジュンピョ記者

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