アスベスト管理に対する安全衛生庁(HSE)のアプローチ「1 はじめに」-イギリス下院労働・年金委員会報告書から, 2022.4.21

アスベスト管理に対する安全衛生庁(HSE)のアプローチ-イギリス下院労働・年金委員会報告書,2022.4.21
1 はじめに
2 今日のアスベスト・リスク
3 戦略的アプローチの採用
4 HSEによる執行
5 アスベスト産業の規制
結論と勧告
付録1:アスベスト曝露限界値
付録2:国際的アプローチ

労働・年金委員員会

労働・年金委員員会は、労働・年金省[DWP]とその関連公的機関の支出、運営、及び政策を検証するために、下院によって指名されている。
現在のメンバー
Stephen Timms MP(労働党、East Ham)(委員長)
Debbie Abrahams MP(労働党、Oldham East and Saddleworth)
Shaun Bailey MP(保守党、West Bromwich West)
Siobhan Baillie MP(保守党、Stroud)
Neil Coyle MP(労働党、Bermondsey and Old Southwark)
Steve McCabe MP(労働党、Birmingham, Selly Oak)
Nigel Mills MP(保守党、Amber Valley)
Selaine Saxby MP(保守党、North Devon)
Dr Ben Spencer MP(保守党、Runnymede and Weybridge)
Chris Stephens MP(スコットランド国民党、Glasgow South West)
Sir Desmond Swayne MP(保守党、New Forest West)
https://publications.parliament.uk/pa/cm5802/cmselect/cmworpen/560/report.html

目次

アスベストに関する背景

1. アスベストは、自然界に生成する鉱物であり、イギリスでは1990年代後半まで約150年にわたり、耐火材や断熱材などとして、広く使用された。青石綿(クロシドライト)と茶石綿(アモサイト)は1985年から禁止され、アスベストの輸入、供給及び使用は1999年から禁止されている。その後、一部のアスベストは除去されたものの、HSE[安全衛生庁]は2017年に、「アスベストはまだ多くの建物内に存在している」と述べた。HSEはガイダンスのなかで、アスベストは2000年より前に建てられたあらゆる建物でみつかるかもしれないとしている。

健康影響

2. アスベストはカテゴリー1の人間に対する発がん物質であり、イギリスにおける毎年の労働関連死亡の最大の単一原因である。アスベスト繊維を吸入すると様々な肺疾患を引き起こす可能性があり、中皮腫(肺の内膜のがん)、肺がん及び石綿肺(じん肺の一種である非悪性疾患)が3大致死的疾患である。HSEは、中皮腫による死亡の年間総費用を34億ポンド、アスベスト関連がんによる死亡で31億ポンド、これらの費用のほとんどが「痛み、悲しみや苦しみ」の貨幣化に関連したものであると推計している。HSEは、「唯一の有効なセーフガードはアスベスト繊維への曝露を回避するか、または最小限に抑えることである」としている。

アスベスト関連疾患・死亡の傾向

3. 茶石綿の大量使用が、イギリスが世界でもっとも中皮腫発生率が高い国のひとつであることの主な理由であると考えられている。HSEが作成した全国統計は、「中皮腫、肺がん、石綿肺を含むアスベスト関連疾患の死亡者数は年間5,000人以上」であることを示している。2019年に2,400人近い人々が中皮腫で死亡し、同じくらいの数の肺がん死亡者が過去のアスベスト曝露と関連している。アスベスト関連死亡は1980年から2015年の間に劇的に増加し、その大部分は中皮腫症例の非常に大きな増加によってもたらされた(囲み1)。これらの統計は、アスベスト関連疾患による死亡が現在ピークに達したかもしれない初期の証拠を示している。

4. 典型的には、アスベスト繊維への初回曝露からアスベスト関連疾患の発症までには、長い時間がかかる。平均潜伏期間は約35年である。アスベスト繊維の吸入が将来の末期的中皮腫の発症にどのように影響を及ぼすかを知り、合わせてイギリスでいつアスベストの使用が禁止されたかを知ることで、HSEは中皮腫死亡の将来の軌跡を予測することができる。HSEは、今世紀の最初の15年間に到達した非常に高いレベルから、少なくとも2030年(予測期間の終わり)まで減少すると予測している。

囲み1  HSEイギリスにおけるアスベスト関連死亡と労働災害障害給付請求 2021年7月
[訳注 グラフ上から 中皮腫死亡、中皮腫IIDB事例、石綿肺IIDB事例、胸膜肥厚IIDB事例、石綿肺死亡、中皮腫死亡予測(点線グラフ)]

5. 囲み1は、イギリスにおける労働災害障害給付(IIDB)請求の増加予測も示している。アスベスト被害者支援団体フォーラムのJoanne Gordonはわれわれに、いかに多くのフォーラムのメンバーが、バロー-イン-ファーネスに所在するIIDB請求の処理を専門に扱うDWP[労働・年金省]フェニックス事務所を評価してきたか話した。3月17日にDWPは、その「バック・オブ・ハウス・サービスの戦略的野心」の一環として、バロー事務所を閉鎖する予定であると発表した。これは、その専門性がどのように維持されるかについて不確実性を残しており、われわれはDWPに説明を求めている。

アスベスト含有建物数

6. 2017年にHSEは、イギリスには2002年時点で「何らかの種類のアスベストを含有した」「約50万の非居住用施設があった」と推計したと述べた。われわれが金曜日に質問した際、HSE最高責任者のSarah Albon氏は、「少なくとも30万のビジネス施設」がいまなおアスベストを含有していると話した。その後HSEは、これが非居住用施設についての推計であることを明らかにした。HSEは、最新の推計値を「暫定的」として「21万から41万の範囲内で、最良の推定値は31万である」と説明した。HSEも認めているように、影響を受ける建物の数の推計は「きわめて不確実」なままである。HSEは、2023年に予定されている建物の築年数に関する陸地測量部データを活用して、その推計を「更新」する予定であるとしている。しかし、このデータは、建物がアスベストが使用された時代[に建てられた]のものであることは示すだろうが、実際にアスベストが存在するかどうかは検出しないだろう。

2012年アスベスト管理規則

7. アスベストが危険であり、建物に存在し続けていることは、アスベストが効果的な規制の対象でなければならないことを意味している。アスベスト物質の製造は1930年代に初めて規制され、20世紀後半に規制の対象が拡大された。2002年アスベスト管理規則は、労働者その他の者の曝露を管理するために、施設内のアスベストを管理する具体的な義務を導入した。2006年アスベスト管理規則は、すべてのアスベスト規制をひとつのセットに統合した。

8. 最新のアスベスト管理規則は2012年4月に導入され、事業や業種の性質にかかわらず、(一定の居住用建物の「共有部分」を含む)すべての非居住用施設に対して適用される。これは、1974年労働安全衛生法のもとで制定され、健康リスクに対処し、グレートブリテンのみに適用される。北アイルランドとジブラルタルには、その領域を対象とする別の法令がある。

9. 地方当局や鉄道・道路事務所とともに、HSEが、アスベスト規則とその支援的枠組みの実施に重要な役割を負っている。HSEは、以下のことを行う。
・アスベスト管理に関する実施基準[code of practice]とガイダンスを発行し、また、調査研究を実施する。
・リスクの高いアスベスト作業を行う事業に認可を付与・更新する-法定アスベスト認可制度を運営する。HSEは、2020/21年度にすべてのアスベスト認可申請を「定刻に」処理したと言っている。
・アスベストについての規制制度を執行する。この一環としてHSEは、2012年アスベスト管理規則の遵守をチェックするために、すべての届け出られた認可アスベスト除去作業に対する監督計画を維持している。

10. HSEのアスベストに関する承認実施基準[Approved Code of Practice]とガイダンスは、以下に対して情報を提供する。
・規則にしたがってアスベストを管理する義務を負う、非居住用施設の所有者または施設の維持または修理に責任を有する者のいずれかである「義務保持者」
・アスベストに関わり、曝露し、攪乱する作業を行い、または攪乱する可能性のある労働者の使用者、若しくはアスベストサンプリング及び分析所での分析を行う労働者の使用者

アスベスト規則の実施後レビュー

11. HSEは、その規則の5年ごとの実施後レビューを実施することを義務づけられている。2012年アスベスト管理規則の、2017年に行われたHSEの最初のレビューは、規則がその目的に合っており、「規則による政府の介入はまだ必要であり、アスベストへの曝露のリスクを管理するもっとも効果的な方法であり続けている」と結論づけた。また、2017年レビューは、アスベストが関わる認可、非認可及び届出作業の分類間の区別をより明確にすべきであると勧告した。2017年レビューは、アスベスト管理計画に関する義務保持者ガイダンスと作業計画に関するアスベスと請負業者ガイダンスは改善されるべきであると言った。HSEはその後、義務保持者を支援するために、アスベストの管理に関する「ステップ-バイ-ステップ」ガイドを実施した。

12. HSEは、今年報告予定の、アスベスト規則の2回目の法定実施後レビューに役立てるために、2021年に最初の協議を行った。2月にわれわれの前に現われたSarah Albon氏は、HSEはわれわれの報告書をみるまではその最終的な結論に至るつもりはないと述べた。その後のやりとりのなかで彼女は、「この分野における適切な次のステップを特定する」際に、われわれの調査結果を考慮することを確認した。

われわれの調査

13. われわれの調査は、アスベスト管理に対するHSEのアプローチを検証するものである。われわれは、49通の書面の提出を受け付けた。3回の口頭ヒアリングにおいて、アスベスト関連疾患被害者を代表する組織、労働組合の代表やキャンペイナー、ドイツ・フランス・オランダの代表、アスベスト産業のスポークスパーソン、安全衛生専門家団体・学会から話を聞いた。われわれはまた、障害者・保険・労働省とHSEスタッフからも話を聞いた。われわれは、貢献してくれたすべての方々に感謝している。

14. アスベスト関連疾患は、現代における最大の職場惨劇のひとつである。20世紀におけるアスベストの大量使用が、何千もの死を引き起こしている。20世紀半ばから後期にかけての極端な曝露は過去のものとなったかもしれないが、その遺産はいまも生き続けている。アスベストはいまも多くの建物に残っている。現在のアスベスト規制の5年ごとの法定見直しは、規制枠組み-とこれに対するHSEの貢献-が可能な限り効果的に機能しているかどうか評価する絶好の機会である。
15.われわれは、HSEと政府が、アスベスト規制とアスベスト管理に対する長期的アプローチの迅速な実施後レビューの参考情報として、われわれの報告書の結論と勧告を活用するよう勧告する。