アスベスト肺がん不支給取消・英訴訟大阪高裁で勝訴確定、労災認定。神戸港・検数業務/兵庫
目次
概要・解説
本件は、神戸港において検数業務に約20年従事する中で石綿にばく露した、石綿ばく露作業従事期間が10年以上の男性が発症した原発性肺がんについて、労災申請したところ、胸膜プラーク所見なく、石綿小体数が741本/グラムであることを根拠に労災と認めず不支給処分とされたために、同処分取消訴訟が提訴され、一審、二審ともに認定基準上、石綿ばく露作業従事期間が10年以上であってばく露状況を総合的に考慮した上で、石綿小体が確認されているので業務上と判断されるとして不支給処分を取り消し、判決が確定した事案である。アスベスト肺がんにおける国の認定基準運用に事実上無理があるとした最初の高裁判決となった。
なお本件原告代理人は、アスベスト訴訟弁護団である。
記事/問合せ ひょうご労働安全衛生センター
「本件控訴を棄却する」との判決文が読み上げられた瞬間、大阪高裁74号法廷を埋め尽くした傍聴席を、「勝った」との声が笑顔とともにひろがった。アスベストにより肺がんを発症したが、国が労災と認めなかったため、労災不支給処分の取り消しを求め争っていた訴訟の大阪高裁判決が、3月22日に言い渡された。
訴訟の概要
港湾荷役において積荷の数量や状態を確認し証明する業務(検数業務)に、約20年間従事した英(はなぶさ)規雄さんは、200年1月10日に肺がんで亡くなられた。
神戸港は、日本でも有数の石綿を荷揚げする港で、日本の石綿輸入量が最大であった1976年には、全輸入量の約40%を神戸港が占めていた。石綿が入った袋は、神戸港に着くまでに手カギをかけて運ばれ、また輸送中の荷崩れによって破損するなど、石綿粉じんが大量に発生し飛散する状態であった。その袋を荷役作業員が手カギを用いて艀(はしけ)に移し、艀から沿岸に荷上げする作業において、検数員は常にその傍ら作業を行い、大量の石綿粉じんに曝露したのである。
英さんは、生前中に神戸東労働基準監督署へ労災申請を行ったが、神戸東署は2006年7月10日に不支給処分を決定し、処分の不服を申し立てた兵庫労働者災害補償保険審査官は、同年12月20日に審査請求を棄却した。さらに、労働保険審査会も2008年7月30日に、請求を棄却したのであった。
国側が労災と認めなかった理由は、「肺内に蓄積された石綿小体が741本/gしかない」ということであった。
石綿肺がんの認定基準
石綿による肺がんの認定基準(2006年2月基準)は、①石綿肺、②胸膜プラーク+石綿曝露作業10年以上、③石綿小体又は石綿繊維+石綿曝露作業10年以上、④10年未満であっても胸膜プラーク又は一定量以上の石綿小体(5,000本以上)・石綿繊維(1μm500万本以上、5μm200万本以上)が認められるものは本省協議、の4項目が示されている。
ところが、厚生労働省は、2007年3月14日付で事務通達(支援団体では「裏通達」と呼んでいる)を発し、「石綿曝露作業10年以上であっても、石綿小体5,000本以上なければ不支給」とする運用を始めた。
石綿曝露作業10年未満の人を救済する目的で設けられた規定を、10年以上の労働者にも5,000本基準を求めるようになったため、石綿肺がんの認定基準のハードルが高く引き上げられてしまったのである。
アスベスト特有の中皮腫による死亡者数は、2011年度は1,258人となり、2006年度に初めて1000人を超えて以降、毎年増加し続けている。世界の医学界においては、「石綿肺がんは中皮腫の2倍」とのコンセンサスが確立しているが、日本では労災として認められている人数は中皮腫より少ないという傾向が続いている。その大きな原因が認定基準のハードルの高さにあると考えている。
地裁判決の内容
石綿肺がんの労災認定基準は、内外の知見を踏まえ、肺がんの発症リスクを2倍以上に高める石綿曝露量があれば、石綿を原因とみなすとなっている。国は「石綿小体が741本/gしかない」との理由で、石綿が原因ではないと判断したわけであるが、逆に「石綿小体が741本/g」なら肺がんの発症リスクが2倍以下なのかということが、本裁判で争われたのであった。
神戸地裁は、本件の争点を、①業務起因性の判断基準及び②石綿曝露状況の2点であるとして判断を行った。
まず、①に関しては、「リスクを2倍以上に高める石綿曝露の指針として、石綿曝露作業に10年以上従事した場合については、石綿曝露があったことの所見として肺組織内に石綿小体又は石綿繊維が存在すれば足り、その数量については要件としない」と判断した。さらに、「石綿小体数は業務起因性の判断基準ではなく、また仮に、石綿小体数を判断基準において考慮するとしても、クリソタイル(白石綿)曝露では妥当しないと解されている」との見解も示された。
次に、②に関しても、認定基準が定める石綿曝露作業に該当し、10年以上に渡り従事していることが認められると判断。そして、「本件処分は違法であり、取り消しを免れない」と判断し、英さんが発症した肺がんを労災であると認めたのであった。
高裁で争われた点と判決内容
国の控訴理由は、肺がんの発症危険度を2倍以上に高める石綿曝露があったことを認めるには、石綿曝露作業に10年以上従事し、かつ、5,000本以上の石綿小体の存在が必要であると主張したのである。しかも、曝露作業への従事期間よりも医学的所見が優先するとの主張であった。
大阪高裁の判決文は、全文でわずかか10ページと短いものであった。まず、石綿曝露作業への従事期間が10年以上であることは、肺がんの発症リスクを2倍に高める指標とみなすことができるとの見解を示した。そして、「認定基準の『肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められること』という要件は、『肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められれば足り、その量的数値は問題としない。』という趣旨であると理解すべき」と述べ、地裁判決は間違っていないと判断したのである。
また、「裏通達」についても、「医学的知見に基づき示されたものではない」「合理性があるとは認めがたい」と、国に対して厳しい見解を示した。そのうえで、「原判決は相当である。」とし、「本件控訴は理由がないから棄却する」と判決した。
全国の訴訟への影響
現在、国による石綿肺がんの不支給処分取り消しを求める訴訟は、全国で7件争われている。
今回の英裁判以外に、東京高裁で争われている小林裁判(石綿小体1,230本)、神戸地裁で争われている丸本裁判(プラークの有無)・北村裁判(石綿小体2,551本)・藤田裁判(石綿小体913本)、東京地裁で争われている猪俣裁判(石綿小体469本)、そして大阪地裁で争われている建設労働者の訴訟(石綿小体998本)である。
昨年2月の東京地裁・小林裁判、3月の神戸地裁・英裁判、6月の東京地裁・池内裁判(プラークの有無・確定)、そして今回の大阪高裁判決と、石綿肺がん訴訟は原告側が4連勝中である。
しかも、石綿曝露作業への従事歴10年で肺がん発症リスクを2倍とする判断が固まりつつある。東京高裁で争われている小林裁判は、3月に結審し判決を迎えることとなるが、現在の司法の流れが変わることがないと確信している。そして、丸本裁判、北村裁判、藤田裁判へとさらにつながるものと考える。
石綿肺がん切り捨てを行うな
大阪高裁判決と同じ2月12日付けで、石綿肺がんの不支給処分の取り消しを求めていた不服申立の決定書が、岡山の審査官から届いた。内容は「本件審査請求を棄却する」である。建設現場で34年間働いた方が発症した肺がんについて、石綿小体が1,845本だからと不支給になった案件である。国は、いつまで本数による被害者の切り捨てを続けるのか。患者と家族の貴重な時間をどれだけ奪うつもりなのか。(この岡山のケースはのち不支給取消訴訟提訴となるも提訴後に不支給処分が取り消され労災認定される異例の展開となった)
英さんが亡くなられてから、早や7年が経過した。国はこれ以上の争いを止めるべきで、労災を不支給とした誤りを素直に認め、上告を断念すべきである。※国は上告せず、判決は確定した。
ご遺族のコメント
大阪高裁にて、父・英規雄のアスベスト肺がん労災の控訴審におきまして勝訴の判決をいただきました。皆様の力強いご支援があっての結果であり、遺族一同、心より感謝申し上げます。
大阪高裁でも、神戸地裁の一審同様、石綿小体5,000本の2007年通達は明確に否定されました。しかしながら、2012年の改正基準においてもこの点は改まっておらず、依然として肺がんの労災認定のハードルは高いものとなっていると認識しております。
小体の認定は、被災者・家族にとりましては、最後の救済の機会となることが多いと考えられます。曝露歴と組み合わせ石綿小体の量的数値を必要条件とする5,000本基準は必ず撤廃しなければいけません。今回の高裁判決が、この後の、同様の裁判での勝訴判決へとつながり、結果、国の労災認定が適切なものへと改善されることを願っております。今後とも皆様のご指導を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
英 克希
なお、大阪高裁判決、大阪地裁判決の内容は、次の通り。
石綿肺がん行政訴訟大阪高裁判決/2013年2月12日
平成24年(行コ)第73号 療養補償給付等不支給処分取消請求控訴事件
(原審・神戸地方裁判所 平成21年(行ウ)第1号)
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人[国]の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
第2 被控訴人の請求
神戸東労働基準監督署長が被控訴人に対して平成18年7月10日付けでした労働者災害補償保険法に基づく療養補償給付、休業補償給付、遺族補償給付及び葬祭料を支給しないとの各処分を取り消す。
第3 事案の概要
1 本件は、被控訴人が、夫である亡K(以下「亡K」という。)が肺腺がんにより死亡したのは業務に起因するものであるとして、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく療養補償給付、休業補償給付、遺族補償給付及び葬祭料を不支給とした平成18年7月10日付けの神戸東労働基準監督署長の各処分(以下、併せて「本件処分」という。)の取消しを求めた抗告訴訟である。
原判決は、被控訴人の請求をいずれも認容したため、控訴人がこれを不服として控訴した。
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり訂正、付加し、後記3に当審における控訴人の主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」の第3ないし第5(原判決3頁8行目から31頁25行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決6頁23行目の「乾燥肺組織重量(以下「乾燥肺」という。)」を「乾燥肺重量」に改める。
(2) 同7頁末行の「及び」を「又は」に改める。
(3) 同13頁7行目及び9行目の各「乾燥肺」の次にいずれも「重量」を加える。
(4) 同26頁3行目の「カナダから貨物船」を「カナダからの貨物船」に改める。
(5) 同26頁8行目の「海上検数員」を「サイド検数員(海上検数員)」に改める。
3 当審における控訴人の主張
(1)争点(1)について
原判決は、肺がん発症と業務上の石綿ばく露との間の業務起因性を肯定するためには、肺がん発症の相対危険度を2倍以上に高めるような累積石綿ばく露を要することを前提とした上(控訴人においても、この前提には異論がない。)、肺がん発症の相対危険度を2倍以上に高める累積石綿ばく露があったことを認定する基準として、①石綿ばく露作業従事期間が10年以上であり、かつ、②肺組織内に石綿小体又は石綿繊維が存在すること(その数量は問わない。)という基準を定立し(この基準を以下「原判決基準」という。)、原判決基準に基づき、Kの肺がんの発症につき業務起因性を肯定した。しかしながら、次のとおり、原判決基準は誤りであり、肺がん発症の相対危険度を2倍以上に高める累積石綿ばく露があったことを認定するためには、平成19年認定基準が示すとおり、①石綿ばく露作業従事期間が10年以上であり、かつ、②乾燥肺重量1g当たり5000本以上の石綿小体が存在するという基準によるべきである。
ア 諸外国においても、一般に、肺がん発症が業務上の石綿ばく露に起因するか否かを判断するに当たっては、従事した作業内容を考慮して、これに伴う石綿のばく露濃度の程度が問題とされているところ、我が国では、業種別・職業別の石綿ばく露の濃度の程度が明らかではない上、同じ業種・職種でも作業内容やその頻度によって石綿ばく露の濃度の程度に差があり、被災者が従事した業種・職種のみから高濃度ばく露あるいは中濃度ばく露があったと評価することはできない。そのため、我が国において、石綿ぱく露作業従事期間を殊更に重視し、これのみを指標として、相対危険度を2倍以上に高める累積石綿ばく露があったと認定することは相当ではなく、肺がん発症の危険度を2倍以上とする累積石綿ばく露量に相当する医学的所見を要するとするのが相当である。
そして、肺がん発症の相対危険度を2倍以上に高める石綿ばく露量の指標は25本/ml×年以上の累積石綿ばく露量とされるところ、これに相当する医学的所見としては、乾燥肺重量1g当たりの石綿小体数を基準とする場合、5000本ないし1万5000本と考えられており、5000本は最低限度のレベルである。
なお、石綿の種類がクリソタイルであつたとしても、クリソタイルの肺がん発症リスク、他の種類の石綿と比較して、10分の1程度の低いものであることを踏まえれば、クリソタイルの排出速度が他の種類の石綿に比べて上回っていることを考慮に入れても、石綿小体数5000本以上を基準とすることには十分な合理性が認められる。
イ 原判決基準は、平成18年認定基準の定める要件(本件要件)中の「肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められること」という要件を「肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められれば足り、その量的数値は問題としない。」という趣旨であると理解して定立されたものであるが、この要件は、そのような趣旨のものではない。
平成18年認定基準が前提としている平成15年認定基準は、①石綿ばく露作業への従事期間が10年以上であり、かつ、②肺組織内に石綿小体又は石綿繊維が認められる場合には、別表7号7の業務上疾病として取り扱うと定めているところ、この「肺組織内に石綿小体又は石綿繊維が認められること」とは「肺組織切片測定方式によって、肺組織切片標本に石綿小体又は繊維組織が認められること」を意味している。なお、平成15年認定基準においては、乾燥肺重量1g当たりの石綿小体若しくは石綿繊維又は気管支肺胞洗浄液中の石綿小体を位相差顕微鏡によって測定する方法(乾燥肺測定方式)が、平成15年当時普及していなかったため、この方式によることは想定されていなかったが、肺組織切片測定方式によって、肺組織中に1本でも石綿小体が検出される場合を乾燥肺測定方式で測定した場合に換算すると、石綿小体1万本ないし2万本が認められることに相当する。
平成18年認定基準の「肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められること」という要件は、平成15年認定基準の「肺組織切片測定方式によって、肺組織切片標本に石綿小体又は繊維組織が認められること」に、新たに「乾燥肺測定方式によって、肺組織あるいは気管支肺胞洗浄液から一定量の石綿小体等が計測されること」を加えたものであるところ、乾燥肺測定方式では、前記のとおり、肺組織中に1本でも石綿小体が検出される場合を乾燥肺測定方式で測定した場合に換算すると、石綿小体1万本ないし2万本が認められることに相当することや、肺がん発症の危険度を2倍以上とする累積石綿ばく露量に相当する医学的所見は、乾燥肺重量1g当たりの石綿小体が最低5000本認められることであると考えられていることに鑑みると、平成18年認定基準は、肺がん発症の相対危険度を2倍以上に高める累積石綿ばく露があったことを認定するためには、乾燥肺測定方式による場合、乾燥肺重量1g当たり5000本以上の石綿小体が認められることを必要としていると理解すべきである。
ウ 平成19年認定基準は、平成18年認定基準についての上記理解を明確化したものである。
(2) 争点(2)について
ア 亡Kの乾燥肺重量1g当たりの石綿小体数は741本であり(この値は、一般住民に乾燥肺測定方式で認められる石綿小体数と同程度の値である。)、また、胸膜プラークの所見もなかったのであるから、亡Kには、肺がん発症の相対危険度2倍と認められるような医学的所見は存在しない。
イ 亡Kが従事した検数作業の業務内容は、石綿そのものや石綿製品に直接触れたり、石綿入りの貨物を運搬するものではないこと、亡Kが検数作業を行った貨物のうち石綿の入った貨物は一部にすぎず、この貨物に接近する機会・時間も業務時間全体のうちごく限られた時間にすぎなかったことなどからすると、亡Kは、その業務従事中、石綿にぱく露した機会がある程度あったとしても、低濃度の石綿ばく露しか受けていなかったといえる。このことは、亡Kの乾燥肺重量1g当たりの石綿小体数が、職業ばく露の可能性が低い一般住民と同程度である741本であったという客観的所見とも整合する。
第4 当裁判所の判断
当裁判所も、被控訴人の請求はいずれも理由があるものと判断する。その理由は、次のとおり訂正し、後記2に当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」の第6の1ないし4(原判決32頁1行目から50頁8行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決32頁8行目の「19頁」を「21頁」に改める。
(2) 同33頁10行目の「引き掛かける」を「引き掛ける」に改める。
(3) 同34頁14行目の「1980年代」を「1980年(昭和55年)代」
に改める。
2 当審における控訴人の主張に対する判断
(1) 当審における控訴人の主張(1)について
本件検討会がその検討結果を報告した平成18年報告書の内容は、前提事実6(4)イ(原判決12頁3行目から14頁2行目まで)記載のとおりであり、これによると、「肺がんの発症リスクを2倍に高める石綿ばく露量の指標としては、石綿繊維25本/ml×年の累積ばく露量がこれに該当し、これを示す医学的所見としては、①石綿肺(第1型以上)、②乾燥肺重量1g当たり石綿小体5000本以上、③BALF(経気管支肺胞洗浄液)1ml中石綿小体5本以上、又は④乾燥肺重量1g当たり石綿繊維200万本以上(5μm超)とするのが妥当と考える。」「職業ばく露とみなすために必要なばく露期間に関しては、諸外国での取扱いを踏まえ、胸膜プラーク等の石綿ばく露所見が認められ、原則として石綿ばく露作業に概ね10年以上従事したことをもって肺がんリスクを2倍に高める指標とみなすことは妥当である。」とされている。そして、この検討結果を踏まえて発出された平成18年通達中の平成18年認定基準においては、「次の①又は②の医学的所見が得られ、かつ、石綿ばく露作業への従事期間が10年以上あること。ただし、次の②に掲げる医学的所見が得られたもののうち、肺内の石綿小体又は石綿繊維が一定量以上(乾燥肺重量1g当たり5000本以上の石綿小体若しくは200万本以上(5μm超。2μm超の場合は500万本以上)の石綿繊維又は気管支肺胞洗浄液1ml中5本以上の石綿小体)認められたものは、石綿ばく露作業への従事期間が10年に満たなくとも、本要件を満たすものとして取り扱うこと。①胸部工ックス線検査、胸部CT検査等により、胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)が認められること。②肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められること。」という要件に該当する場合には、別表7号7の業務上疾病として取り扱うこととされている(前提事実6(5)イ(ア))。
平成18年報告書の前記内容からすると、平成18年報告書は、原則として石綿ばく露作業に概ね10年以上従事したことを、胸膜プラーク等の石綿ばく露所見が認められる限り、石綿繊維25本/ml×年の累積ぱく露量を示す医学的所見が存在する場合と並んで、肺がんリスクを2倍に高める指標とみなすことは妥当であるとしているのであって、石綿繊維25本/ml×年の累積ばく露量を示す医学的所見がない場合には、石綿ばく露作業に概ね10年以上従事したとしても、これを肺がんリスクを2倍に高める指標とみなさないとするものでないことは明らかである。そして、平成18年報告書の内容を踏まえた平成18年基準が、石綿ばく露作業への従事期間が10年以上あることに加えて要求している医学的所見が「胸部工ックス線検査、胸部CT検査等により、胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)が認められること」又は「肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められること」であることからすると、平成18年基準は、平成18年報告書で必要とされた「胸膜プラーク等の石綿ばく露所見」として、明示的に示されていた胸膜プラークの外に、「肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められること」もこれに該当することを明らかにしたといえるのであって、平成18年基準が、平成18年報告書において、原則として石綿ばく露作業に概ね10年以上従事したことを肺がんリスクを2倍に高める指標とみなすための要件として必要とされていなかった25本/ml×年の累積ばく露量を示す医学的所見の存在を、その要件として付け加えたと理解することは到底できない。このことは、25本/ml×年の累積ぱく露量を示す医学的所見が認められれば、石綿ばく露作業への従事期間が10年に満たなくとも、本要件を満たすものとして取り扱うこととする旨を規定している平成18年認定基準の前記ただし書からも十分窺い知ることができる。
以上によると、平成18年認定基準の定める要件(本件要件)中の「肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められること」という要件は、「肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められれば足り、その量的数値は問題としない。」という趣旨であると理解すべきであり、このような理解の下に定立された原判決基準は相当である。上記理解が誤りであることを前提とする控訴人の主張は採用できない。
なお、平成19年認定基準では、「石綿ばく露作業に10年以上従事した場合にも、石綿小体に係る資料が提出され、乾燥肺事量1g当たり5000本を下回る場合には、「乾燥肺重量1g当たり5000本以上」と同水準のばく露とみることができるか、という観点から、作業内容、頻度、ばく露形態、石綿の種類、肺組織の採取部位等を勘案し、総合的に判断することが必要である。」とされているが(前提事実6(6))、これは平成18年認定基準を上記趣旨であると理解する限り、平成18年認定基準とは異なる運用基準を示したものであるとみざるを得ない。そして、この運用基準が、平成18年通達が発出された後に新たに得られた医学的知見に基づき示されたものでないことは、控訴人において、平成19年認定基準は、平成18年認定基準についての理解を明確化したものであると主張するだけで、そのような医学的知見について何らの主張、立証をしていないことからして、明らかであるから、本件検討会の検討結果を踏まえて発出された平成18年通達中の平成18年認定基準とは異なる運用基準を示した平成19年認定基準に合理性があるとは認め難い。
(2) 当審における控訴人の主張(2)について
控訴人のこの点に関する主張は、原審における主張の繰り返しに過ぎない。争点(2)に関する当裁判所の事実認定及び判断は、既に原判決を引用して説示したとおりである。
第5 結論
以上によると、被控訴人の請求は理由があるから認容すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。
よって、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第12民事部
裁判長裁判官 谷口幸博
裁判官 一谷好文
裁判官 秋本昌彦
石綿肺がん行政訴訟神戸地裁判決(抄)/2012年3月22日
平成21年(行ウ)第1号 休業補償給付不支給事件
第6 争点に対する当裁判所の判断
1 争点1(業務起因性の判断基準)について
(1) 業務起因性に関する考え方
ア 労災保険法に基づく保険給付は、労働者の業務上の負傷又は疾病について行われるところ、労働者が業務に起因して負傷又は疾病を生じた場合とは、業務と負傷又は疾病との間に相当因果関係があることが必要であり(最高裁昭和50年(行ツ)111号同51年11月12日第二小法廷判決・集民119号189頁参照)、上記相当因果関係があるというためには、当該災害の発生が業務に内在する危険が現実化したことによるものとみることができることを要すると解すべきである(最高裁平成6年(行ツ)第24号同8年1月23日第三小法廷判決・集民178号83頁、最高裁平成4年(行ツ)第70号同8年3月5日第三小法廷判決・集民178号621頁各参照)。
イ そして、前記前提事実のとおりのヘルシンキ基準及び平成18年報告書等の知見に照らせば、石綿ばく露作業に従事した労働者に発生した原発性肺がんに関する業務起因性は、肺がん発症のリスクを2倍以上に高める石綿ばく露の有無によって判断するのが相当であるというべきである。
(2) ヘルシンキ基準及び行政上の認定基準の内容の理解
ア 前記前提事実のとおり、ヘルシンキ基準は、肺がん発症リスクを2倍以上に高める石綿ばく露に関する指標として、「1年の高濃度ばく露、5から10年の中濃度ばく露」という石綿ばく露作業従事期間を位置づけている。
イ(ア) 行政上の認定基準のうち、昭和53年認定基準は「石綿ばく露作業への従事期間が概ね10年以上」であることを石綿肺がんの業務起因性の判断基準として定めている。
(イ) 平成15年認定基準及び平成18年認定基準は、「①肺内に石綿小体又は石綿繊維の医学的所見が得られ、②石綿ばく露作業への従事期間が10年以上あること」を定めているが、平成18年認定基準が前提とした平成18年報告害は、ヘルシンキ基準や諸外国での取扱いを踏まえて、原則として、概ね10年以上の石綿ばく露作業期間を肺がんリスクが2倍以上に高める指標とみなすことが妥当であるとしていることに照らせば、平成18年認定基準は、上記要件を満たすものが、上記指標に相当するものと認めたものと解することができる。
そして、平成18年認定基準は、①について、石綿小体又は石綿繊維が認められれば足りるとし、具体的な数値を要求していない。また、②についても、ヘルシンキ基準では、高濃度ばく露や中等度ばく露といった業種別、職種別で異なるばく露期間を定めているが、平成18年報告書は、日本では、業種等別のばく露濃度が明らかではなく、同じ業種や職種であっても、作業内容や頻度によってばく露の程度に差があることを理由に、ヘルシンキ基準の上記業腫等別のばく露期間を日本においてそのまま採用することができないとして、肺がんリスクを2倍に高める指標としてのばく露期間を「石綿ばく露作業に原則10年以上」としており、これを踏まえて平成18年認定基準が策定されたことにかんがみると、上記②の「石綿ばく露作業」とは、業種や職種、作業内容や頻度、石綿濃度を問わないものと解される。
(ウ) これに対し、平成19年認定基準は、石綿ばく露作業に10年以上従事した場合であっても、乾燥肺lg当たりの石綿小体数が5000本以下の場合は、ばく露期間に加えて、上記石綿小体数と同水準のばく露とみることができるかという観点から、作業内容や頻度、ばく露形態等を総合判断する必要があるとして、平成18年認定基準より、業務起因性の認定要件を厳格化しているものと認められる。
なお、この点につき、被告は、平成19年認定基準は、平成18年認定基準の解釈基準を示したものにすぎないと主張するが、被告も自認するように、平成18年認定基準の定める本件要件の内容は、文言上、10年ばく露要件を満たし、かつ、石綿小体が存在する場合には、石綿小体の数を問わず、業務起因性が認められるとする表現となっている上、実質的にも、前記(イ)判示のとおり、その内容において、石綿小体及び石綿繊維数については、存在が認められれば足り、具体的な数は問題としていないものと理解できるから、上記被告の主張を採用することはできない。
(3) 当裁判所が採用する認定基準
ア 前記(1)のとおり、石綿ばく露作業に従事した労働者に発生した肺がんに関する業務起因性は、肺がん発症のリスクを2倍以上に高める石綿ばく露の有無によって判断すべきであると解されるが、ヘルシンキ基準及び平成18年報告書に照らして検討すると、上記リスクを2倍以上に高める石綿ばく露の指標として、石綿ばく露作業に10年以上従事した場合については、石綿ばく露があったことの所見として肺組織内に石綿小体又は石綿繊維が存在すれば足り、その数量については要件としない、平成18年認定基準の定める本件要件によることとするのが相当である。
イ これに対し、被告は、上記のような基準によると、10年ばく露要件を満たし、かつ、乾燥肺重量1g当たりの石綿小体が5000本を下回る事案について、平成18年認定基準の定める本件要件を形式的に適用した場合には、肺がんの発症リスクが2倍以上とは認められない事案について業務起因性を認めることとなりかねないと主張するのでこの点について検討する。
(ア) 平成18年認定基準の前提となった平成18年報告書は、石綿繊維25本/ml×年の累積ばく露量を肺がんリスクが2倍以上となる指標とした上で、これに相当する指標として、「石綿肺」や「乾燥肺lg当たり5000本以上の石綿小体数」、又は「ばく露期間(胸膜プラーク等の石綿ばく露所見が認められ、原則として概ね10年以上従事したこと)」を別個独立の判断指標と位置付け、ばく露期間を指標とする場合に要求する胸膜プラーク等は、あくまで石綿ばく露の事実があったことを裏付ける所見であると解している。また、平成18年報告書が前提としているヘルシンキ基準も、肺がん発症リスクが2倍となる指標として、前記前提事実のとおり、石綿繊維25本/ml×年の累横ばく露量、石綿小体数、石綿繊維数、ばく露期間をそれぞれ別個独立の指標と位置づけている。
そうすると、平成19年認定基準が、石綿肺がんの業務起因性の認定要件として、「10年のばく露期間及び石綿ばく露所見としての石綿小体等の医学的所見の存在」に加えて、一定数の石綿小体を要求することは、ヘルシンキ基準及び平成18年報告書の理解に反するものというべきである。
(イ) また、平成18年報告書を作成した本件検討会において、森永謙二座長(以下「森永座長」という。)は、石綿繊維又はBALFによって石綿小体数を調べることは一番最後の手段であると述べ、他方で、10年の職業歴や胸膜プラークがなく、情報が少ない場合に石綿小体数のみで労災認定をした事例は少ないとの発言にも同調しており(乙54・5頁、6頁)、このような森永座長の発言や本件検討会の議論の経過を踏まえると、「乾燥肺1g当たり5000本以上の石綿小体数」基準とは、本件要件の文言どおり、ばく露期間が10年に満たない場合に業務起因性を認めるための救済規定として定められたものであると解するのが相当である。
したがって、10年以上の石綿ばく露作業従事歴のある者について、石綿小体等の数量を判断要件に加えた結果、救済範囲を狭めることとなる内容の平成19年認定基準は、平成18年報告書の趣旨に反するものと認められる。
(ウ) さらに、石綿小体については、これが5000本末満であっても業務起因性が認められた事例は多数存在し(甲21、甲22、甲25、甲48)、単に石綿小体数のみで職業性を判断することは困難であるとも考えられており(甲25)、特に、クリソタイルばく露の場合は、前記前提事実及び前記1(4)イ認定のとおり、クリソタイルが石綿小体を形成し難く、稀にしか確認されないという特性からすれば、累横ばく露量に比し、肺内の石綿小体濃度が高くないことも予想されるところであるし、クリソタイルばく露の場合には、石綿小体がヘルシンキ基準を下回る場合も多いとして、今後、石綿のばく露×年という産業医学的手法の普及が必要であるとする見解も存在している(甲24)。
したがって、これらの諸事情を考慮すると、少なくとも、クリソタイルばく露において、石綿小体数を基準として、業務起因性可認定範囲を限定することに合理性は認められないというべきである。
ウ したがって、平成19年認定基津の内容には合理性があるとは認められないから、これに基づいて石綿肺がんの業務起因性を判断することは相当でないというべきである。
3 争点2(亡Kの石綿ばく露状況)について
(1) 亡Kの石綿ばく露状況及びばく露年数
ア 被告は、亡Kが石綿ばく露作業に従事したとする、A証人の供述及び意見はあいまいであってこれによって亡Kの作業実態を認定することはできず、他にこれを裏付ける客観的な資料は存在しないから、原告が主張する亡Kの石綿ばく露状況及び年数を認めることはできないと主張する。
イ しかし、石綿関連疾患については、石綿ばく露開始時期から発症まで非常に長い潜伏期間があることは公知の事実であり、平成18年報告書でも、石綿肺がんの場合、その潜伏期間は、従来から「20年以上の潜伏期間を経て発症すると報告されてきた。最近の我が国での報告では、Kishimotoら(2003)は造船業や建設業を中心とした70例の石綿肺がんの潜伏期間は15~60年(中央値43年)、濱田ら(1996)の石綿加工業者の石綿肺がん22例のそれは平均31.8年で、石綿ばく露開始から40年以上経過して発生する事例もあると報告している。、以上のように、石綿による肺がんは、その多くがばく露開始から発症までが30年から40年程度といった、潜伏期間の長い疾患であるといえる。」とされているところである(甲17・15頁)。
そうすると、このように、石綿ばく露から石綿肺がんの発症までに極めて長い時間が経過する場合があることからすれば、客観的な資料が散逸することは当然に生じ得るから、石綿ばく露作業に従事した状況及びその年数等の事実関孫については、客観的資料のみならず他の証拠についても十分な検討を行うのが相当である。
ウ そこで検討するに、亡Kが勤務していた検数協会が提出した亡Kの勤務状況に関する意見書も、亡Kが「アスベスト貨物の検数作業に従事したことは、当時の職務(本船従事者)から推測されますが、その作業に間違いなく携わったことを、正確に証明する書類等が現在では一切保存されていないこと」を理由として、亡Kが「アスベスト作業に従事していた証明が出来ない」としているにとどまり(乙19)、上記の内容に照らせぱ、亡Kが石綿ばく露作業に従事していたことが否定されるものではなく、むしろ、一定程度の石綿ばく露作業に従事していたことを裏付けるものといえる。
そして、前記1(3)認定の亡Kの作業実態は、Aの主観的な認識及び記憶に基づくものであるが、亡Kの同僚であったA自らが経験した石綿ばく露作業状況を踏まえた具体的根拠に基づくものであり、石綿貨物の輸入統計(乙40の2)や亡Kの同僚であるMからの聴取内容(乙16)とも整合し、その内容も合理的なものといえるから、これによって亡Kの石綿ばく露状況及び年数等を認定することは相当であるというべきであり、他方で、本件記録上、他に、亡Kの作業実態に関する前記認定を左右する証拠はない。
したがって、亡Kは、少なくとも昭和36年6月から昭和55年までの間(ただし、庶務係に所属した昭和41年1月から同年11月までの間を除く。)、10年以上にわたり、サイド検数員又は主席補助検数員として、石綿貨物を取り扱う海上検数作業に従事し、石綿ばく露を受けていたものと認められる。
(2) 業務起因性について
そこで、本件疾病の発症及びこれによる亡Kの死亡が、亡Kが従事した石綿ばく露作業に起因するか否かについて以下検討する。
ア 石綿ばく露作業該当性について
前記1(2)エ認定のとおり、亡Kは、サイド検数員又は主席補助検数員として、在来船における荷役作業の開始から終了までの間、空気中に石綿が飛散している船倉内において、荷役作業員や荷粉屋のすぐ近くで検数作業を行っており、作業の一環として、貨物のマーク等を確認するために自ら石綿の入った荷袋の表面を軍手をはめた手で触ることもあったことも考慮すると、亡Kが従事した検数作業は、少なくとも、平成18年認定基準が定める「石綿ばく露作業」のうち、「倉庫内等における石綿原料等の袋詰め又は運搬作業」の「周辺等において間接的なばく露を受ける作業」に該当するものと認められる。
イ 本件要件該当性について
そして、前記(1)のとおり、亡Kは、10年以上にわたって上記検数作業に従事しており、かつ、亡Kの肺内からは、乾燥肺1g当たり741本の石綿小体か認められている。
さらに、前記前提事実のとおり、亡Kには喫煙歴や肺がんの家族歴はないから、本件疾病の発症の要因が、亡Kの遣伝的要因であると認めることはできず、他に、本件記録上、石綿ばく露以外の要因が、本件疾病の発症に寄与したことを認めるに足りる証拠はない。
したがって、亡Kは、石綿ばく露作業に10年以上従事しており、その肺組織内に石綿小体の存在が認められるから、本件疾病の発症について、平成18年認定華準による本件要件を充足するものと認めるのが相当である。
ウ これに対し、被告は、①検数業務は、直接ばく露作業と同程度の石綿ばく露作業ではなく、直接ばく露作業と比較して、石綿ばく露の頻度が相当低いこと、②乾燥肺1g当たりの石綿小体数が1000本末満の場合は職業ばく露を受けた可能性は低いとされていることから、業務起因性は認められないと主張する。
しかし、①については、平成18年認定基準が、間接ばく露作業を「石綿ばく露作業」として明示的に挙げている上、前記2(2)認定のとおり、同基準は、「石綿ばく露作業」の認定において、当該作業の頻度やばく露形態を問わないこととしているのは前記判示のとおりである。(なお、間接ばく露については、石綿関連工場に勤務していた従業員が自宅に持ち帰った作業着やマスクを通じて、従業員の妻や子が、石綿に特異的な疾患である中皮腫で死亡した例も報告されている(甲8・49頁)。)
また、②については、前記1(4)認定によれば、一般的には、石綿小体数が1000本末満の場合は一般人レベルの石綿ばく露レベルであると評価することができるが、前記2のとおり、石綿小体数は、業務起因性の判断基準ではなく、また、仮に、石綿小体数を判断基準において考慮するとしても、、上記評価は、クリソタイルばく露では妥当しないと解されているところ、前記1(1)及び(2)認定によれば、昭和48年神戸港の石綿輸入量のうち、クリソタイルのみを産出するカナダやソ連からの輸入量が約7割を占め、亡Kがカナダ船やソ連船の検数作業に多数回にわたって従事していたことからすると、亡Kがばく露した石綿の相当数は、クリソタイルであった事実が推認されるから、亡Kの石綿ばく露は、主としてクリソタイルばく露であり、そのばく露レベルについて、上記評価は妥当しないというべきである。
したがって、被告の各主張は失当である。
4 まとめ
以上のとおり、亡Kの本件疾病の発症及びこれによる死亡は、亡Kが10年以上にわたって石綿ばく露作業に従事したことによる、業務に起因するものと認められるから、これを業務外の疾病とした本件処分は違法であり、取消しを免れない。
第7 結論
よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所民事第6部
裁判長裁判官 矢尾 和子
裁判官 金子 隆雄
裁判官 村井美喜子
安全センター情報2013年6月号