労働災害・職業病の記録と届出およびILO職業病一覧表報告書(2B)
2002年第90回ILO総会[国際労働会議]第5議題
特集/「労災隠し」と労災職業病の記録・届出
目次
はじめに-省略(別記事に掲載)
A 1981年の職業上の安全及び健康に関する条約の議定書の提案
国際労働機関の総会は、
理事会によりジュネーブに召集されて、2002年6月3日にその第90回会期として会合し、
以下のように述べた1981年の職業上の安全及び健康に関する条約第11条の規定に留意し、
権限のある機関は、第4条の政策を実施するため、次の事項が漸進的に実施されることを確保する。
・・・
(c) 使用者及び、適切な場合には、保険機関その他の直接関係のある機関による、労働災害・職業病の届出の手続の制定及び適用並びに労働災害・職業病に関する年次統計の作成
・・・
(e) 第4条の政策に従いとられる措置並びに就業中に又は就業に関連して生ずる労働災害、職業病及び他の健康障害に関する情報の毎年の発行
また、その原因を確認し、予防措置を確立する目的で労働災害・職業病の記録及び届出の手続を強化し、また、記録及び届出のシステムの調和化を促進する必要性を考慮し、その会期の議事日程の第5議題である労働災害・職業病の届出及び記録に関する提案の採択を決定し、
その提案が1981年の職業上の安全及び健康に関する条約の議定書の形式をとるべきであることを決定して、
次の議定書(引用に際しては、1981年の職業上の安全及び健康に関する条約の2002年の議定書と称することができる)を2002年6月の本日、採択する。
対象
第1条
この議定書の適用上、
(a) 「労働災害」とは、就業に起因し又は就業中に生ずる、死に至るか又は死に至らない傷害をもたらす事象をいう。
(b) 「職業病」とは、就業活動から生ずるリスク要因への曝露の結果として罹患した疾病をいう。
(c) 「危険事象」とは、就業者又は公衆に対して傷害又は疾病をもたらす可能性のある、国内法令により容易に確認できる事柄をいう。
(d) 「小事故」とは、就業に起因し又は就業中に生ずる、「危険事象」以外の人身傷害をもたらさない不安全な事象をいう。
(e) 「通勤災害」とは、就業場所と以下の場所との間の直接経路上で生ずる、死亡又は労働時間喪失を伴う傷害をもたらす災害をいう。
(i) 第一又は第二の住所
(ⅱ) 通常食事をとる場所
(iii) 通常報酬を受け取る場所
記録・届出制度
第2条
権限のある機関は、法令により又は国内の事情及び慣行に適合する他の方法により、関係のある代表的な使用者団体及び労働者団体との協議の上、次の事項に関する要件及び手続を制定し及び定期的に再検討する。
(a) 労働災害、職業病、危険事象、小事故、通勤災害及び適当な場合には職業病の疑いのある疾病の記録、及び
(b) 以下の事項の届出
(i) 労働災害、職業病及び危険事象、並びに
(ii) 適当な場合には通勤災害及び職業病の疑いのある疾病
第3条
記録の要件及び手続は以下の事項を決定する。
(a) 使用者の責務
(i) 労働災害、職業病、危険事象、小事故、通勤災害及び適当な場合には職業病の疑いのある疾病を記録すること
(ⅱ) 労働者及びその代表に、記録制度に関する適当な情報を提供すること、及び
(ⅲ) 当該記録の適切な管理及び予防措置策定への活用を確保すること、
(b) 記録すべき情報、及び
(c) 当該記録の保存期間
第4条
届出の要件及び手続は以下の事項を決定する。
(a) 使用者の責務
(i) 権限のある機関又は指定された機関に、労働災害、職業病、危険事象及び適当な場合は通勤災害、職業病の疑いのある疾病を届け出ること、及び
(ii) 労働者及びその代表に、届出事例に関する適当な情報を提供すること
(b) 適当な場合には、保健機関、職業衛生機関、医師その他直接関係のある機関が届け出るための措置
(c) いかなる労働災害、職業病、危険事象及び適当な場合は通勤災害、職業病の疑いのある疾病を届け出るべきかの基準
(d) 届出の期限
第5条
届出には以下の事項に関する資料を含む。
(a) 企業、事業所及び使用者
(b) 適当な場合には、被災者及び傷害又は疾病の性質
(c) 災害又は危険事象、及び職業病の場合には健康有害要因への曝露の状況
国内統計
第6条
本議定書を批准する各加盟国は、届出及び他の利用可能な情報に基づき、労働災害、職業病、及び適当な場合には危険事象、通勤災害に関して、国全体を表すような方法で作成した統計並びにその分析結果を毎年公表する。
第7条
統計は、国際労働機関又は他の権限ある国際機関の下で設定された関連する最新の国際体系と互換性のある分類体系を用いて設定する。
B 職業病一覧表および労働災害・職業病の記録と届出に関する勧告の提案
国際労働機関の総会は、
理事会によりジュネーブに招集されて、2002年6月3日にその第90回会期として会合し、
1981年の職業上の安全及び健康に関する条約・勧告並びに1985年の職業衛生機関条約・勧告に留意し、
1964年の業務災害給付条約に添付される1980年に修正された職業病一覧表にも留意し、
その原因を確認し、予防措置を設定し、記録及び届出制度の調和化を促進し、並びに労働災害・職業病の事例の補償方法を改善するために、労働災害・職業病の記録及び届出手続を強化する必要性を考慮し、
職業病一覧表を更新する手順を簡素化する必要性を考慮し、
その会期の議事日程の第5議題である、労働災害・職業病の届出及び記録並びに職業一覧表の定期的再検討及び更新に関する提案の採択を決定し、
その提案が、勧告の形式をとるべきであることを決定して、
次の勧告(引用に際しては、2002年の職業病一覧表勧告と称することができる。)を2002年6月の本日、採択する。
- 権限ある機関は、労働災害・職業病の記録及び届出方法の設定、検討及び適用に際し、1996年の労働災害・職業病の記録及び届出に関する実施準則、並びに将来国際労働機関が承認する本事項に関連する他の実施準則又は手引を考慮すべきである。
- 権限ある機関により、国内の事情及び慣行に適する方法により、必要ならば段階的に、記録、届出及び補償のための国内の職業病一覧表が設定されるべきである。
(a) 一覧表は、少なくとも、1964年の業務災害給付条約の付表1に掲げる疾病を含むべきである。
(b) 一覧表は、可能な限り、本勧告に添付した職業病一覧表に含まれる他の疾病を含むべきである。 - 本勧告に添付する職業病一覧表は、専門家会合又は理事会が承認する他の手段を通じて、定期的に再検討され及び更新されるべきである。
更新された職業病一覧表は、国際労働機関の加盟国に通告され、以前の一覧表に代える。 - 国内の職業病一覧表は、上記3.項により最新化された一覧表にしたがって定期的に再検討され及び更新されるべきである。
- 本勧告に添付する職業病一覧表の定期的再検討及び更新に資するために、加盟国は、国内の職業病一覧表を設定又は改訂し次第速やかに、国際労働事務局に通知すべきである。
- 加盟国は、統計の国際交換及び比較に資するために、労働災害・職業病、並びに適当な場合には危険事象及び通勤災害に関する包括的な統計を、毎年国際労働事務局に提供すべきである。
付表 職業病一覧表
※[ ]内に、1964年の業務災害給付条約付表1に掲げられた29疾病の該当番号を付した。
1. 作用物による疾病
1.1. 化学的作用による疾病
1.1.1. ベリリウム又はその毒性化合物による疾病[6]
1.1.2. カドミニウム又はその毒性化合物による疾病[7]
1.1.3. 燐又はその毒性化合物による疾病[8]
1.1.4. クロム又はその毒性化合物による疾病[9]
1.1.5. マンガン又はその毒性化合物による疾病[10]
1.1.6. 砒素又はその毒性化合物による疾病[11]
1.1.7. 水銀又はその毒性化合物による疾病[12]
1.1.8. 鉛又はその毒性化合物による疾病[13]
1.1.9. 弗素又はその毒性化合物による疾病[14]
1.1.10. 二硫化炭素による疾病[15]
1.1.11. 脂肪族又は芳香族の炭化水素の毒性ハロゲン誘導体による疾病[16]
1.1.12. ベンゼン又はその毒性同族体による疾病[17]
1.1.13. ベンゼン又はその同族体の毒性ニトロ誘導体及び毒性アミノ誘導体による疾病[18]
1.1.14. ニトログリセリンその他の硝酸エステルによる疾病[19]
1.1.15. アルコール、グリコール又はケトンによる疾病[20]
1.1.16. 窒素性物質(一酸化炭素、シアン化水素又はその毒性誘導体、硫化水素)による疾病[21]
1.1.17. アクリロニトリルによる疾病
1.1.18. 窒素酸化物による疾病
1.1.19. バナジウム又はその毒性化合物による疾病
1.1.20. アンチモン又はその毒性化合物による疾病
1.1.21. ヘキサン又はその毒性化合物による疾病
1.1.22. 無機酸による歯牙疾病
1.1.23. 薬物による疾患
1.1.24. タリウム又はその化合物による疾病
1.1.25. オスミウム又はその化合物による疾病
1.1.26. セレン又はその化合物による疾病
1.1.27. 銅又はその化合物による疾病
1.1.28. 錫又はその化合物による疾病
1.1.29. 亜鉛又はその化合物による疾病
1.1.30. オゾン・フォスゲンによる疾病
1.1.31. 刺激性物質(ベンゾキノン及びその他の角膜刺激物)による疾病
1.1.32. 上記の1.1.1から1.1.31までに記載されていないその他の化学物質による疾病であって、労働者のこれらの物質への曝露とかかった疾病との関係が立証されるもの
1.2. 物理的作用による疾病
1.2.1. 騒音による難聴[22]
1.2.2. 振動による疾病(筋肉、腱、骨、関節、末梢血管又は末梢神経の障害)[23]
1.2.3. 高圧空気下における作業による疾病[24]
1.2.4. 電離放射線による疾病[25]
1.2.5. 熱性放射線による疾病
1.2.6. 紫外線による疾病
1.2.7. 極端な温度による疾病(例えば日射病、凍傷など)
1.2.8. 上記の1.2.1から1.2.7までに記載されていないその他の物理的作用による疾病であって、労働者のこれらの作用への曝露とかかった疾病との直接的関係が立証されるもの
1.3. 生物学的作用
1.3.1. 病原体による汚染の危険が特に存在する業務においてかかった感染症又は寄生虫症[29]
2. 標的臓器系別の疾患
2.1. 職業性呼吸器疾患
2.1.1. 組織硬化性の鉱物性粉じんによるじん肺(けい肺、炭けい肺、石綿肺)及びけい肺結核(けい肺が労働不能又は死亡の主たる原因である場合に限る。)[1]
2.1.2. 超硬合金の粉じんによる気管支肺疾患[2]
2.1.3. 綿の粉じんによる気管支肺疾患(ビシノーシス)又は亜麻、大麻若しくはサイザル麻の粉じんによる気管支肺疾患[3]
2.1.4. 作業工程におけるその存在が不可避な物質のうち感作性物質又は刺激性物質として認められている物質による職業性ぜん息[4]
2.1.5. 有機粉じんの吸入による外因性アレルギー性肺胞炎及びその続発症であって、国内の法令で定めるもの[5]
2.1.6. 鉄沈着症(シデローシス)
2.1.7. 慢性閉塞性肺疾患
2.1.8. アルミニウムによる肺疾患
2.1.9. 作業行程におけるその存在が不可避な物質のうち感作性物質又は刺激性物質として認められている物質による上気道障害
2.1.10. 上記の2.1.1から2.1.9までに記載されていないその他の呼吸器疾患であって、労働者のこの物質への曝露とかかった疾病との直接的関係が立証されるもの
2.2. 職業性皮膚疾患
2.2.1. 物理的、化学的又は生物学的な因子で他に掲げられていないものによる皮膚疾患[26]
2.2.2. 職業性白斑
2.3. 職業性筋骨格系障害
2.3.1. 特定の危険因子が存在する一定の職業活動又は職業環境による筋骨格系疾患
該当する活動又は環境の例には以下を含む
(a) 迅速又は反復動作
(b) 強い力を込める
(c) 機械的力の過度集中
(d) 不具合又は不自然な姿勢
(e) 振動
局所的又は全体的な寒冷がリスクを増強することがある。
3. 職業がん
3.1. 以下の物質によるがん
3.1.1. 石綿[28]
3.1.2. ベンジジン及び塩
3.1.3. ビスクロロメチルエーチル(BCME)
3.1.4. クロム及びクロム化合物
3.1.5. コールタール及びコールタールピッチ、すす
3.1.6. ベータナフタルアミン
3.1.7. 塩化ビニール
3.1.8. ベンゼン又はその毒性同族体
3.1.9. ベンゼン又は同族体の毒性のあるニトロ又はアミノ誘導体
3.1.10. 電離放射線
3.1.11. タール、ピッチ、瀝青、鉱物油、アントラセン又はこれらの物質の化合物、製造物若しくは残滓による皮膚の原発性上皮がん[27]
3.1.12. コークス炉排出物
3.1.13. ニッケル化合物
3.1.14. 木材粉じん
3.1.15. 上記の3.1.1から3.1.14までに記載されていないその他の物質によるがんであって、労働者のこの物質への曝露とかかった疾病との直接的な関係が立証されるもの
4. その他
4.1. 坑夫眼振
安全センター情報2002年6月号