「標準報酬月額」によって算定された給付基礎日額(平均賃金)に基づく遺族補償給付支給決定処分を審査請求で取消決定→平均賃金を3倍に変更し、過去分を追加給付/大阪労災保険審査官・大阪南労基署
片岡明彦・林繁行
(関西労働者安全センター 事務局員)
目次
「標準報酬月額」が実際の賃金とは到底考えられないにもかかわらず・・・
電気工M氏は2018年9月に胸膜中皮腫にて78歳で死亡された。石綿健康被害救済法による救済認定は受けていたが、遺族からのアスベスト被害ホットラインへの電話相談を契機として調べると、一人親方での就労の前に労働者職歴、社会保険加入記録があることが判明、(加入記録後の国民年金の時期の労働者性検討は留保しつつ)遺族年金請求時効の間近に、社会保険加入記録における最終事業場を所轄する大阪南労基署に遺族補償年金を請求した。そして、2023年8月に支給決定となったものの給付基礎日額(以下、平均賃金)3951円24銭と決定された。
3951円は私達にとって想定外、著しく低額であったため労基署に直接出向き説明を受けたところ、社会保険加入記録による離職前3か月間の「標準報酬月額=52000円」から算出したとのことであった。
当時の大阪南労基署担当労災課長、副署長は「通達と事務連絡に従ったまでである。文句があるなら審査請求をせよ」と言うばかりで「明らかに実賃金とかけ離れている、労基法の趣旨に反し、通達や事務連絡の適用を間違っている、自庁取消で対応してもらいたい」という私達の要求に一切聞く耳をもたなかった。
やむを得ず、2023年11月、大阪労災保険審査官に原処分取消を求めて審査請求を行った。
「取消しで3倍」となったが、同様の間違いは?通達や事務連絡の改正は?
2025年3月24日付けで原処分取消となり、2025年4月18日付けで年金給付変更決定が行われ、平均賃金は3951円24銭から11925円に変更され、年金額の変更と追加支給が行われることになった。
今回の決定は、標準報酬月額を基礎とする平均賃金決定の方法等を指示した通達、事務連絡に従った原処分庁に問題はなかったつつ、算出された平均賃金額は不適切、という趣旨だ。
しかし、これはおかしな話である。
これでは、これからも同じ間違いが起こってしまう。
また、過去に同じ間違いによって過小な平均賃金を決定してしまった事案があった可能性があるので、大阪労働局のみならず、厚生労働省には過去の点検を行ってもらう必要がある。
そして、間違いが生じないように厚生労働省には労基署現場への指示文書を出してもらわなければならない。
※以下に、決定書(個人情報マスク版)とその別紙(関係通達、事務連絡)の全文を掲載しますので、審査請求における私達の主張や審査官の判断の詳細をお読みいただければ幸いです。
決定書【大基審第5-205号】
審査請求人
■■■■■■■■■■■
■■■■
審査請求代理人
大阪府大阪市西区土佐堀1-6-3
JAM西日本会館5階
関西労働者安全センター
片岡明彦
林繁行
原処分をした行政庁
大阪南労働基準監督署長
上記審査請求人に係る審査請求事件につき、当労働者災害補償保険審査官は次のとおり決定する。
主文
大阪南労働基準監督署長(以下「監督署長」という。)が令和5年8月30日付けで審査請求人(以下「請求人」という。)に対してなした労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号。以下「労災保険法」という。)による遺族補償給付の支給に関する支給処分を取り消す。
事案の概要
第1 審査請求の趣旨
請求人の審査請求の趣旨は、主文同旨の決定を求めるということにある。
第2 経過
請求人の亡夫■■■(昭和14年■月■日生、男、以下「被災労働者」という。)は、■■市■■区に所在する■■■■■株式会社(以下「事業場」という。)で、電気工として働いていた。
被災者は石綿ばく露作業に1年以上従事し、平成18年■月■日をもって悪性胸膜中皮腫の確定診断を受け、その後平成18年■月■日に悪性胸膜中皮腫により死亡に至ったものである。
請求人は、被災労働者の死亡は業務上の事由によるものであるとして、監督署長に遺族補償給付(遺族補償年金)を請求したところ、監督署長は、被災労働者の死亡は業務上の事由によるものと認め、.請求人に対し、平均賃金3,951円24銭と決定しそれを基にした給付基礎日額3,952円をもって、これを支給する旨の処分をした。(以下「原処分」という)。
今般、請求人は、上記処分にかかる給付基礎に基づく遺族補償給付の支給決定処分を不服として、本件審査請求に及んだものである。
主張の要旨
第1 請求人の主張
1 審査請求代理人(以下「代理人」という。)は、本件審査請求の理由として、労働保険審査請求書において、次のとおり述べている。(原文のまま記載)
給付基礎日額が標準報酬月額に基づき決定されたものであるところ、その額が現実ばなれした低額であることが明らかであり、それにより決定された原処分は違法であるため。
2 代理人は、令和6年3月25日付け代理人意見書において、要旨、次のとおり述べている(甲第2号証)。
(1)要旨
本件審査請求にかかる原処分(被災労働者が発症し、これにより死亡せる(悪性胸膜)中皮腫についての遺族補償請求に対する監督署長による支給決定処分)における給付基礎日額3,952円は、被災労働者の社会保険加入記録上の標準報酬月額52,000円を月収とみなし、これを歴日数で除して算出した額1,733円に変動率2.28を乗じて算定した平均賃金の額である。しかし、原処分庁が適用通達の趣旨に反する実務処理を行い、その結果、賃金実態とかけ離れた標準報酬月額を基礎とした平均賃金額を算定し、給付基礎日額を決定し原処分を行ったことが明らかであるので、原処分は違法である。よって、原処分を取消し、適正な算出方法による平均賃金を算定し、その額を給付基礎日額として改めて支給決定処分が行われるべきである。
(2)原処分の違法性について
ア 原処分庁が標準報酬月額を用いた法的根拠について
平均賃金に関する原処分庁調査結果復命書(復命年月日令和5年8月25日の1平均賃金について)には、次のとおり記載されており、「調査官意見」のとおりに決定された(甲第3号証)。
(ア)平均賃金の算定について
本件は、業務上疾病の診断確定日に既にその疾病の発生のおそれのある作業に従事した事業場を離職しており、賃金台帳等が確認できないが、標準報酬月額が明らかであるため、平成22年4月12日付け基監発0412第1号(改正平成25年2月22日基監0222第1号)に基づき平均賃金の算定を行い、離職日から診断確定までの賃金水準については、昭和50年9月23日付け基発第566号の記の2に準じて行うものとする。
(イ)被災労働者等について
a 生年月日
昭和14年■月■日
b 症状確認日
平成30年■月■日
c 産業分類(中分類)
建設業(設備工事業)
(ウ)平均賃金について
a 離職した日以前3か月間に支払われた賃金により算定した金額
昭和51年12月26日~昭和52年3月25日
156,000円(離職日以前3か月間の賃金総額52,000円×3)÷90日=1,733.33≒1,733円(円位未満四捨五入)
b 変動率
321,792円(甲第18号証:代理人追加意見書にて訂正)(平成30年1月・算定事由発生日が属する月の前々日)、÷141,133円(昭和52年1~3月・離職の日が属する四半期平均)=2.280≒2.28(少数第3位切り捨て、1以下の場合は1.00)
c 平均賃金の額
1,733×2.28=3,951.24=3,951円24銭
(エ)調査官意見
以上により、本件は平均賃金を3,951円24銭に決定すべきものと判断する。
以上から、原処分における平均賃金の根拠は、結局のところ次の行政通達である。
a 平成22年4月12日付け基監発0412第1号【以下、通達①。】(甲第10号証)
(改正平成25年2月22日基監発0222第1号【以下、通達②。】)(甲第11号証)
b 昭和50年9月23日付け基発第556号【以下、通達④。】(甲第13号証)
本件審査請求に対して提出された「原処分庁意見書」の「3理由」「(2)処分の理由」「ア該当する判断基準」にも同じ内容が記載されている。
ところで、令和5年12月22日付け基監発第1222第1号として通達①の改正通達【通達③。】(甲第12号証)が発出されている。したがって、本件審査請求では、根拠通達として通達③を含めて審査が行われなければならない。
ここで、通達①から④を、あらためて以下に標題とともに記載しておく。
【通達①】平成22年4月12日付け基監発0412第1号
業務上疾病にかかった労働者の賃金額が不明である場合の平均賃金の算定において離職時の標準報酬月額が明らかである場合の取扱について
【通達②】平成25年2月22日基監発0222第1号
「業務上疾病にかかった労働者の賃金額が不明である場合の平均賃金の算定において離職時の標準報酬月額が明らかである場合の取扱について」の改正について,
【通達③】令和5年12月22日付け基監発1222第1号
「業務上疾病にかかった労働者の離職時の標準報酬月額等が明らかである場合の平均賃金の算定について」の一部改正にっいて
【通達④】昭和50年9月23日付け基発第556号
離職後診断によって疾病の発生が権定した労働者に係る平均賃金の算定について
(オ)通達①は、改正通達②そして改正通達③による改正を経て、成文としては結局、現行では次の内容とであると認められる。(改正通達による改正部分に応じて文章を代理人が修正した。)
a 標準報酬月額について
平均賃金の算定の対象となる労働者等(以下「算定対象労働者等」という。)が、賃金額を証明する資料として、任意に、厚生年金保険又は健康保険の標準報酬月額が明らかになる資料を提出しており、当該資料から、労働者が業務上疾病の発生のおそれのある作業に従事した最後の事業場を離職した日(賃金の締切日がある場合は直前の賃金締切日をいう。)以前3か月間(以下「離職した日以前3か月間」という。)の標準報酬月額が明らかである場合は、当該標準報酬月額を基礎として、平均賃金を算定して差し支えないこと。
なお、関係資料から労働者の標準報酬月額等が明らかな場合であっても、当該資料から、労働者の支払賃金額もまた明らかとなる場合には、支払賃金額を基礎として平均賃金を算定すべきであることに留意すること。
b 賃金日額等について
(a)算定対象労働者等が、賃金額を証明する資料として、任意に、労働者が業務上疾病の発生のおそれのある作業に従事した最後の事業場を離職した際(以下「離職時」という。)の雇用保険受給資格者証を提出しており、当該資料から賃金日額が明らかである場合は、当該賃金日額を基礎として、平均賃金を算定して差し支えないこと。
(b)算定対象労働者等が、賃金額を証明する資料として、任意に、離職時の雇用保険受給資格者証を提出しており`当該資料から、基本手当日額のみが明らかである場合は、当該基本手当日額の算定時の基本手当日額表における、当該基本手当日額が該当する等級に属する賃金日額の中間値(当該等級に属する賃金日額が一定額未満又は一定額以上とされている場合には当該一定額)を基礎として、平均賃金を算定して差し支えないこと。
(c)算定対象労働者等が、賃金額を証明する資料として、任意に、離職時の失業保険受給資格者証を提出しており、当該資料から、失業保険金日額が明らかである場合には、(b》に準じた方法で、平均賃金を算定して差し支えないこと。
(d)なお、雇用保険被保険者離職票又は失業保険被保険者離職票は、使用者が自ら支払賃金額について記録した資料であるため、これらの資料から、離職した日以前3か月間の全部又は一部の賃金額が明らかである場合には、・当該賃金額を基礎として、平均賃金を算定すること。
c 賞与等について
aの場合において確認された標準報酬月額に、通貨以外のもので支払われた賃金であって平均賃金の算定の基礎とされないものが含まれている場合又は、bの場合において確認された賃金日額若しくは賃金額(以下「賃金日額等」という。)に、臨時に支払われた賃金、3か月を超える期間ごとに支払われる賃金若しくは通貨以外のもので、支払われた賃金であって平均賃金の算定の基礎とされないものが含まれている場合には、a及びbにかかわらず、当該標準報酬月額又は賃金日額等を平均賃金の算定の基礎とすべきでないこと。
ただし、臨時に支払われた賃金若しくは3か月を超える期間ごとに支払われる賃金の額又は通貨以外のもので支払われた賃金で、あって平均賃金の算定の基礎とされないものの評価額が明らかである場合には、これらの額を当該標準報酬月額又は賃金日額等から差し引いた額を基礎として、平均賃金を算定して差し支えないこと。
なお、標準報酬月額及び賃金日額に反映される賃金の範囲については、下記別紙を参照のこと。
d 賃金台帳等の一部が存在している場合について
離職した日以前3か月簡の一部についてのみ賃金台帳等使用者による支払賃金額の記録が存在している場合で、同時に、算定対象労働者等が賃金額を証明する資料として、上記に該当する資料を任意に提出したことにより、当該労働者の標準報酬月額又は賃金日額が明らかである場合には、賃金額が賃金台帳等によっては確認できない期間につ’いて、当該標準報酬月額又は賃金日額を基礎として賃金額を算定した上で、平均賃金を算定して差し支えないこと。
e 算定対象労働者等への教示について
賃金台帳等使用者による支払賃金額の記録がない事案においては、算定対象労働者等に対して上記取扱いを教示し、算定対象労働者等が上記に該当する資料の提出を希望する場合には、資料の入手方法(資料の請求先となる行政機関など)について教示すること。
〈別紙〉

※失業保険法(昭和22年法律第146号)及び昭和59年7月31日以前の雇用保険法においては、賃金の総額に、臨時に支払われる賃金及び3か月を超える期間ごとに支払われる賃金を含めて賃金日額が算定されていた。
・表中で参照した法律の法令番号
健康保険法(大正11年法律第70号)
労働基準法(昭和22年法律第49号)
厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)
雇用保険法(昭和49年法律第116号)
イ「任意」に提出された資料ではないこと=明白な通達違反
通達①の記の「1標準報酬月額について」(上記アの(オ)a)には、「平均賃金の算定の対象となる労働者等(以下「算定対象労働者等」とい
う。)が、賃金額を証明する資料として、任意に、厚生年金保険又は健康保険の標準報酬月額が明らかになる資料を提出しており」(太字下線筆者)として(甲第2号証)、「標準報酬月額が明らかになる資料」が「算定労働者等」(本件においては請求人)から「任意に」提出されたものであることが前提とされている。
しかし、本件においては、請求人が「任意に」提出したものではなかった。
その理由は次のとおりである。
本件において、原処分庁が入手した「標準報酬月額が明らかになる資料」とは、「被災労働者にかかる被保険者記録照会回答票」(以下、回答票)である。
添付資料1(甲第6号証)によれば、原処分庁は令和5年(5月)23日付第2023-422号により日本年金機構吹田年金事務所に被保険者記録照会をおこない、同月30日付の回答票を同年6月2日付で受領した。
回答票には、事業場における資格喪失年月日(離職日と推定される)は昭和52年3月26日であること、資格喪失年月日直前3か月間の標準報酬月額が52,000円であることが記載されていた。
原処分庁主任労災・労働保険専門員Fは、請求人への電話聴取を令和5年8月4日に実施し、聴取書に「27.平均賃金算定に年金記録の標準報酬月額を基に算定しても構いません。」と記述されている。このあと、原処分庁と請求人との間での回答票や平均賃金算定にかかる事実確認等のやりとりは一切行われていない。
そして、平均賃金は上記の標準報酬月額を基礎に決定され、本件処分が行われたものである。
以上の経過から、原処分庁が入手した回答票の原本や写しを、原処分庁が請求人に直接見せて、その内容の確認や請求人としての意見を聞いていないことは明らかである。したがって、請求人は、標準報酬月額が52,000円であることをまったく知るよしもなかったのである。
仮に、52,000円であることを請求人が知っていれば、明らかにごれが事実や生活実態に反する金額なので、この標準報酬月額を基礎として平均賃金が算定されるべきではないと認識していたことは明らかである。
つまり、「任意に」提出することなどありえなかった。
たとえば、実態とかけはなれた低額の賃金額を事業主が社会保険事務所に申告することをもって、標準報酬月額の過小決定を受け、もって社会保険料(年金保険料、健康保険料)の違法過小納入を行う実態が、残念ながら存在していることはいわば常識である。
そうであるために、通達①には「任意に」という要件が明記されているのである。
また、通達①の記の「5算定対象労働者等への教示について」(上記アの(オ)e)に「賃金台帳等使用者による支払賃金額の記録がない事案においては、算定対象労働者等に対して上記取扱いを教示し、算定対象労働者等が上記に該当する資料の提出を希望する場合には、資料の入手方法(資料の請求先となる行政機関など)について教示すること。」と書かれている。ところが、添付資料1やこれに含まれる請求人に対する聴取書には、「上記取扱を教示し」たという形跡は皆無である。「5算定対象労働者等への教示について」の趣旨は、あくまで、請求人自身が回答票などの「標準報酬月額が明らかになる資料」の内容を把握した上での提出となるように、すなわち「提出を希望する場合」となることを前提=要件としているにもかかわらずである。
もし原処分庁が回答票を入手した後これを請求人に提示して内容を確認させ、それに基づく平均賃金決定方法などの「上記取扱を教示し」、つまりは、通達が想定している適正な手順を実行していればそこに記載された標準報酬月額が被災労働者の当時の月収とかけ離れた額であったことは請求人にとっては認識できたし、そうした申し立てをできたし、かつ、したであろうことは明白であって、その結果、原処分庁が標準報酬月額を平均賃金算定の基礎とするというような違法な誤りを犯すこともなかったのである。
以上のように、本件において、原処分庁が入手した回答票の内容を請求人に実際に見せ、請求人が内容を確認する機会を与えないまま、原処分庁が平均賃金算定の基礎として標準報酬月額を用いることは、適用通達①の趣旨に明白に反しており、’これに基づく本件処分は違法である。
ウ 被災労働者の社会保険資格喪失日(昭和52年3月26日)当時の標準報酬月額を平均賃金算定の基礎として採用することの明らかな誤り
昭和52年3月当時の標準報酬月額52,000円は、報酬月額50,000円以上54,000円未満の等級に該当する。35等級中、低い方から8番目である。(添付資料6参照。)(甲第14号証)
月額52,000円は、日額としては52,000円/30日=1,733円(前述の調査結果復命書記載の内容のとおり)である。
昭和52年の大阪府の最低賃金は315円だった。(添付資料7参照)
(甲第15号証)
一日8時間労働とすると、日給の最低賃金は315×8=2,490円である。
あるいは実際の稼働日数を仮に25日とすると、25日8時間稼働の場合の日給月給の最低賃金は、315円×8×25=63,000円である。いずれにしても、「標準報酬月額52,000円」やこれを基礎に原処分庁が算定した「平均賃金1,733円」は、当時の最低賃金を大きく下回る額なのである。
当時、被災労働者は、事業場の労働者として働き、妻と子供3人の計5人の世帯生計を維持していたのであるから、このよう超低額賃金であったはずは到底ない。この点については、下記エによっても明らかである。
本件において平均賃金算定の基礎として標準報酬月額を用いることは、算定された額をみれば、そもそもが不適切、不合理であることは明らかであることを原処分庁は十分認識できたはずである。にもかかわらず、上記イに述べたように通達①の趣旨内容を読み違え、標準報酬月額が明らかな場合は「絶対的に」標準報酬月額を平均賃金算定の基礎にしなければならないとする「思い込み」に基づく誤った判断を行うという致命的な誤りを犯したのである。よって本件処分は違法であることは明らかである。
エ M氏(事業場代表取締役)の証言
現在の事業場代表取締役であるM氏は、意見陳述書(令和6年2月16日付)において「被災労働者の日当は最低でも10,000円以上はあったものと推測されます」と述べている。(添付資料8)(甲第16号証)
当時の状況を直接知る立場にはなくても、電気工事業界に通じた、被災労働者の元雇用会社の代表者の意見は重視されるべきであり、業界の常識として当時の経験のある電気工の月収額が52,000円だということはありえないことを裏付けるものである。
オ 標準報酬月額を平均賃金算定の基礎とすることを可能とした通達①が発出された経緯を踏まえれば、本件処分が違法であることは明らかである。
通達①が発出されたのは、平成22年4月12日であるが、それより前の時期は、標準報酬月額が平均賃金算定の基礎とされることはなかった。
同日より前に適用されていた行政通達は、まず通達④。
ただし、通達④は「賃金額がわかっている場合」の取扱いを定めたものなので、「賃金額が不明な場合」は、昭和51年2月14日付基発第193号・昭和53年2月2日付基発第57号【通達⑤。添付資料9の165、166頁。】(甲第13号証)によることとされている。
基発第193号は「当該事業場で業務に従事した同種労働者の1人平均の賃金額」からはじまり、(順次繰り下げ適用する)5段階の算定方法を規定している。基本的に、各種の賃金統計調査を利用する方法である。
ところが、基発第193号によって算定された平均賃金が、実際の賃金額に比較して低いと請求人が考え、賃金記録にかわる資料として回答票などの「標準報酬月額が明らかになる資料」を証拠として平均賃決定処分の取消を争うケースがあり、厚生労働大臣は平成22年3月31日裁決で、原処分庁が基発第193号通達に基づいて統計調査数字を根拠に算定した’平均賃金よりも高額である標準報酬月額を平均賃金とすることを認めた。(添付資料10参照)(甲第17号証)
この裁決を受けて通達①が発出されたのである。
つまり、通達①発出の原因となった裁決は、第193号通達により算定された平均賃金よりも標準報酬月額の方が高かったケースについでのものだったのである。(請求人が不服審査請求を行うのはこ(う)したケースである。)
この裁決が、標準報酬月額を使用した平均賃金決定が有り得ることを示したことから、行政通達上で、標準報酬月額を平均賃金決定に使用することができる取扱いを規定することを、厚生労働省は迫られることになった。
ところが、標準報酬月額を使用して平均賃金を算定するとした場合、(前述のように。まさに本件のように)標準報酬月額が実際に支給されていた賃金額よりも低い額で決定されているケースがあることを発出主体の厚生労働省自身が十分に認識しており、もし、「標準報酬月額が明らかになる資料」が存在していた場合に、「絶対的に」「機械的」にこれを使用すると通達に規定したならば、請求人に不当な経済的な不利益を与える場合があり(それは厚生労働省にとっても無用のトラブルである)、そうしたことが惹起しないようにするために、あくまで請求人が「希望して」「任意に」提出した「標準報酬月額が明らかになる資料」を、平均賃金算定の基礎にするという趣旨が、通達①に盛り込まれたのである。その意味では、通達①は現場職員に対しては説明が不足しているといえなくはないものの、上記イで述べたように、通達①の内容を忠実に実行していれば、本件めごとき違法な処分には至らなかったのである。
(ちなみに、通達④は、原処分庁が厚生年金の標準報酬月額を基礎に平均賃金を算定したところ、請求人が、健康保険の標準報酬月額の方が高いとする資料を証拠として提出して、審査の結果、健康保険の標準報酬月額を基礎として平均賃金を算定するべきとする行政不服審査会答申が令和5年7月28日付で出されたことを受けて、厚生労働大臣が取消裁決を行い、これを受けて同年12月22日付け発出されたものである。この「答申」は通達④の別添であり、本意見書添付資料4に含まれている。)(甲第12号証)
力 結語
以上の次第であるので、原処分庁が適用通達①の趣旨に反する実務処理を行い、その結果、賃金実態とかけ離れた標準報酬月額を基礎とした平均賃金額を算定、決定し原処分を行ったことが明らかであるので、原処分は違法であり、取り消されなければならない。
そのうえで、基発第193号による適正な算出方法による平均賃金を算出し決定し、その額を給付基礎日額として改めて支給決定処分が行われなければならない。
(3)添付資料(別紙として決定書に添付)
ア 平均賃金に関する原処分庁調査結果復命書と添付資料(甲第3、4、5、6、7、8、9号証)
イ 【通達①】平成22年4月12日付け基監発0412第1号
業務上疾病にかかった労働者の賃金額が不明である場合の平均賃金の算定において離職時の標準報酬月額が明らかである場合の取扱について(甲第10号証)
ウ 【通達②】平成25年2月22日基監発0222第1号
「業務上疾病にかかった労働者の賃金額が不明である場合の平均賃金の算定において離職時の標準報酬月額が明らかである場合の取扱について」
の改正について(甲第11号証)
エ 【通達③】令和5年12月22日付け基監発1222第1号
「業務上疾病にかかった労働者の離職時の標準報酬月額等が明らかである場合の平均賃金の算定について」の一部改正について(甲第12号証)
オ 【通達④】昭和50年9月23日付け基発第556号
離職後診断によって疾病の発生が確定した労働者に係る平均賃金の算定について(労災保険給付基礎日額の手引き(改訂9版、労働調査会発行)の抜粋)(甲第13号証)
力 厚生年金保険標準報酬月額等級の変遷(甲第14号証)
キ 地域別最低賃金のデータ(時間額)(甲第15号証)
ク 被災労働者の遺族補償年金の給付基礎日額に対しての意見陳述書(令和6年2月16日付事業場代表取締役M)(甲第16号証)
ケ 【通達⑤】和51年2月14日付基発第193号・昭和53年2月2日付基発第57号
業務上疾病にかかった労働者の離職時の賃金額が不明な場合の平均賃金の算定(甲第13号証)
コ 「誤り認めた厚労大臣の裁決 静岡●算定不能な平均賃金の決定方法」と題した文書(安全センター情報平成22年6月号抜粋)(甲第17号証)
3 代理人は、令和6年5月8日付け追加意見書「~被災労働者の元同僚・I氏(以下「I氏」という。)の「同僚証言」と「I氏の被保険者記録照会回答票」等の提出について」において、要旨、次のとおり述べている(甲第18号証)。
添付資料
①被災労働者同僚証言(I氏、令和5年12月1日)(下記4のとおり)
②I氏の被保険者記録照会回答票(別紙として決定書に添付)(甲第20号証)
③本件にかかる原処分庁調査結果復命書添付資料No.6請求人提出資料(別紙として決定書に添付)(甲第21、22、23号証)
添付資料①、②、③の意義
添付資料①にあるように被災労働者の元同僚であるI氏は昭和13年2月15日生であり、昭和14年8月27日生の被災労働者とほぼ年齢が同じである。
また、添付資料②にあるように被災労働者の事業場での厚生年金加入期間が昭和41年1月6日~昭和52年3月26日であるところ、I氏の事業場における加入期間は昭和42年6月5日~昭和52年3月26日とほとんど重なっており、資格喪失日は同一である。
添付資料①によると、I氏は昭和42年3月から平成21年まで事業場に在籍したとのことであるので、上記の事業場における厚生年金加入期間の記録に照らすと早くて昭和52年3月27日以後は一人親方または事業主として事業場の仕事を継続したと考えられる。
この点は、被災労働者と同様であるといえる。すなわち、添付資料③(本件にかかる原処分庁調査結果復命書添付資料No6請求人提出資料)の2枚目は、被災労働者が生前に石綿健康被害救済法にかかる認定申請時において環境再生保全機構に対して提出したアンケート回答票(写)であるところ、ここに「昭和42年~平成21年電気工・溶接工、大阪市此花区東洋電設に入社、後日社名が事業場に変更」とあり、その下に「事業場にて森口電工として請負仕事を始める」との、被災労働者自身の記載が確認できるからである。
以上から、I氏が、被災労働者とは長年にわたって事業場における同年配の同僚として電気工事に従事した人物であることが明らかであり、I氏の証言は信用できる。
そのI氏によれば、「被災労働者の離職当時の社会保険・標準報酬月額が月額52,000円は何かの間違いでは無いのか、月額賃金がそんなに低額では無かったと記憶している」(下記4)ということである。この証言内容は、平均賃金決定の根拠とした被災労働者の標準報酬月額が実態とかけ離れた低額であったことを示すものである。
もともと、被災労働者の厚生年金加入期間の終期における標準報酬月額が、極めて低額であり、実態賃金とかけ離れた額であることから、平均賃金決定の基礎として採用すること自体が不合理であるにもかかわらず、原処分庁が、関係事務連絡を正しく理解することなく平均賃金を決定し原処分をなしたことの違法性を、職は令和6年3月25日付意見書(甲第2号証)で述べた。
今回、I氏の協力により、I氏自身の被保険者記録照会回答票を入手したところ(甲第20号証)を入手したところ、I氏の標準報酬月額は、次のように変遷していた。
昭和42年6月~昭和42年9月:45,000円
昭和42年10月~昭和51年9月:60,000円
※昭和45年4月~※厚生年金基金加入
昭和51年10月~昭和52年2月:142,000円
昭和52年3月26日:資格喪失
ちなみに、被災労働者について、次のように変遷している。
昭和41年1月~昭和51年2月:52,000円
※昭和45年4月~ ※厚生年金基金加入
昭和52年3月26日:資格喪失
I氏についても、実態賃金とはかけはなれた低額(60,000円)で(ほとんど同一時期に)ほとんど全期間推移している点が、被災労働者と場合と共通している。
I氏の場合は、資格喪失日の直前に、60,000円から2倍以上の142,000円に増額されているのも非常に不可解、不自然である。I氏には、こうした標準報酬月額やその突然の異常な増額変化についての記憶はまったくないということであった。
以上のように、2名の労働者において、実態賃金とはかけ離れた低額で、しかも、約10年間も標準報酬月額が不変であるといったことは、きわめて不自然であることからも、事業場においては当時、社員の標準報酬月額が実態賃金とはかけ離れた額で、作為をもって申告されていた可能性が極めで高いと言わざるを得ない。
よって、被災労働者の平均賃金を決定する根拠として標準報酬月額を活用することは、そもそもできないというべきなのである。
以上のとおりであるので、原処分が取り消されなければならないことは明白である。
4 上記3の代理人追加意見書に添付された、令和5年12月1日付けI氏が作成した「被災労働者同僚証言」と題した書面には、要旨、次のとおり記載されている(甲第19号証)。(本項目においてI氏を「私」という。)
(1)事業場の勤続期間
入社は昭和42年3月から平成21年まで事業場に在籍しており、被災労働者とは入社時期及び退職時期もほぼ同一であった。この段階でお互いに勤続年数は42年である。
なお、私は、事業場退職後、一人親方とレて事業場から仕事を請け負い、平成30年まで仕事を続けていた。(満80歳)まで、現在は無職である。
(2)大阪南労働基準監督署(以下「監督署」という。)が決定した原処分給に関する平均賃金算出方法と矛盾点
代理人の説明では、被災労働者の離職当時の給与明細・賃金台帳が無いため、監督署は事業場よりの社会保険・標準報酬月額が月額52,000円を参考にして労災保険の平均賃金を算出しようとしたが、あまりにも低額となったためとの報告を伺った。
被災労働者の離職当時の社会保険・標準報酬月額が月額52,,000円は何かの間違いではないのか、月額賃金がそんなに低額ではなかったと記憶している。
平成21年当時は私の給与は、日給15,000円、月額375,000円くらいあった。参考までに、平成30年に私の最終賃金は、日額2万円以上あった。その証拠は事業場に残っている。
5 代理人は、令和6年5月31日の当審査官との面談時において、要旨、以下のとおり述べている。(丙第1号証)
(1)労働者の賃金額が不明である場合の平均賃金の算定において、標準報酬月額を使用する場合、請求人から任意に提出されたことにより用いるべきものであるが、原処分庁が収集したものであり、その入手方法など請求人に教示されていない。
(2)標準報酬月額が、客観的に見て社会常識や実情にそぐわず疑義が生じる場合は、昭和51年2月14日付け基発第193号通達などに基づき調査し再検討すべきであるが、実際に適正な調査が行われていない。調査の流れに蝦疵があり調査不足である。
(3)同僚の証言内容や同僚の被保険者記録照会回答票からも、標準報酬月額が過少であり、実態とかけ離れていることは明らかである。
6 代理人は、令和6年9月30日の口頭意見陳述において、要旨、以下のとおり述べている。(丙第2号証)
厚生年金であろうと健康保険であろうと、ある方が平均賃金の算定額、いわゆる統計調査を基にしたら実際より低かったので、そのときは厚生年金の標準報酬月額がもっと高かったので、この部分で、最低限のものとして、うそをつくこと、虚偽であることはないので、それよりも低いというのはおかしいのではないか。要するに、統計数字における算定賃金額が、標準報酬月額を使った賃金額と、統計数値がぐっと低ければ、やはりおかしいのではないかという話に客観的にもなるので、標準報酬月額でやってくださいという審査請求をして、それで、再審査請求の請求で認められたというのが1回目あったわけである。
それで、社会保険における標準月額が分かった場合は使えるということが始まったのである。
あくまで本人が中身を分かった上で出したものはオーケーだが、例えば今回のケースにしても、調査官が入手した資料、これはもう個人情報であるから、もう一回請求人にそれを提示して、これ間違いないですかと確認する。恐らく大阪労働局高度労災補償調査センター(以下「ARC」という。)の者も、それを見たらえらい低いなと思ったのである。実際そうであろう。実際に算定される平均金額が3,000円とかになるということで、ええ、という感じになると思う。
そうすると、これ本当かなと思ったら、請求人に見せて、被災労働者こういうことになっているのであるが、これ使ってやっていいか確認する。そしたら請求人は、そしたらどうなるのかと言う。これに基づくと、月収このぐらいだということに一応想定されることになるのであるが、そこどうであるのかという話を請求人とすれば、こんなことは多分起こらなかったのではないかと想像しているので、同じ間違いが起こってはいけないというのが審査請求の趣旨でもある。
通達自身が、標準報酬月額が分かったらそれを使えというふうに、原則的に書いていない。教示とか任意とかそんな言葉を使っているわけであるから、通達の趣旨はそこにあるのだというふうに我々は理解するので、今回の審査請求では、審査官にも原処分庁にもそのことは特に言いたい。
要するに教示していない、示していない。だから、請求人が、年金記録の中身を知らない状況がある中で、標準報酬月額、年金記録を入手したので、これを使ってやってもいいかという質問をして、どうぞと言っただけだ。その質問の受け答えをする中で、その中身についてのどういうやり取りがあったかはもう既に分からないが、教示とか、額とか、そもそもそれがどういうものなのかとか、そういうことも知らされることがないまま、その回答の言葉尻を取って、それを回答書(審査官注:乙第6号証の聴取書と解する。)に書いた。
調査する側の、問題の重要性は2つあって、最終事業場をどこにするのかということと、そのときの額をいかにするめかの2つである。
恐らく、調査する側は、最終事業場をどこにするのかということに重きを置いていたというふうに感じる。そうなると、最終事業場をここだということで決めれば、あとは自動的に決まる。こういうふうに恐らく概念されていると思う。そこにやはりミスがあったと思う。
最初はそこでいいのであるが、そこでやればこうなる、そこのところはこうであるということも含めて説明しないといけない。説明するという頭がないので、まさしく言うように、最終事業場はここになるから、記録があるのが最後なのでこれでやっていいのかと、頭の中には最終、最終というのがあったのだと思う。額はあまり考えていなかったと思う。ひょっとしたら、昔はこんなものだったのかなというところもあったのかもしれない。少なくとも最低保障額ではないから、出てくるのが、最低保障額は超えていたので、これあるかなというぐらいしか思っていなかったのだと思う。
だから、残念であったのは、電気工事やっていて、この年でこの額でなんで電気工事をやってるのかという統計数字を参考までに少し調べてみれば、これはおかしいよということが分かったはずであるが、それは、ARCの他の人が見てやらないといけない話なのである。そのときにきっちりやっていたら、こんな面倒なことはしなくてよかったというふうに思っている。
労災保険でお金もらえたらそれでいいからと言って、文句言わない人がたくさんいると思うが、なかなかそうはならない。やはり、おかしいと思う人は、やはりおかしいと思う。
例えば、教示をしたのであれば調書や電話聴取書に、教示をした、全部を理解したと言ったであるとか、これを見せたとか、今どきそういうのは、医療カルテなどではいっぱいある、このようなことを言った、本人はこれを理解したというふうに言ったということで、そこまで書いて初めて教示なのであり、それはやはり教示になっていないと思う。
要するに、早い話が、通達を読めということを言いたいわけである。だから、ほんと今どきそんなことしないと言うかもしれないけど、事務的間違いであると思う。
7 代理人は、令和6年11月11日付け追加意見書2「~本件審査請求口頭意見陳述、同審理調書に関連して~」において、要旨、次のとおり述べている(甲第24号証)。
追加意見書(令和6年5月8日付)において、本件原処分が平均賃金算定の根拠とした「標準報酬月額」が、被災労働者の賃金実態からかけ離れていたことを根拠をもって証した。
一方、意見書(令和年3月25日付)において、原処分庁の平均賃決定の突務過程そのものが依拠すべき事務連絡に反して実行されたことの違法性を主張したところである。
特に事務連絡に明記されている「任意」「教示」について・その重要性についての認識を原処分庁がまるで欠いていた点がポイントである。
本件審査請求意見陳述においては、とりわけ、このポイントについて、原処分庁について質問し、回答を得た。
その結果、原処分庁が、事務連絡が必須としているところの、標準報酬月額関係資料の被災者(審査官注:請求人と解する。)からの提出の「任意」性についてまったく担保されていなかったこと、事務連絡の内容についての「教示」をおこなっていないことが原処分庁自身によって明らかとなった。
たとえば、「この任意の提出ということの意味合い、事実関係でいうと、請求人から直接、資料をもらったものではない」、「明示はしていない。その金額を、例えば口頭で電話などで説明してということもない」、「説明していないということで、受け止めていただいてよいと思う」ということである。
原処分庁が職権で入手した標準報酬月額関係資料の内容そのものを「知らなかった」のであるから、それを「任意に提出したもの」であると言うことなど到底できない。
以上のとおり、本件原処分が取り消されるべきであることは、今回の口頭意見陳述によってさらに明らかになったのである。
第2 原処分庁の意見
監督署長は、本件審査請求を棄却するとの決定を求める旨の意見書を提出し、その理由として、要旨、次のとおり述べている。
1 該当する判断基準
(1)労災保険法第8条
(2)労働基準法第12条
(3)平成22年4月12日付け基監発0412第1号(改正平成25年2月22日付け基監発0222第1号)
(4)昭和50年9月23日付け基発第556号
2 判断
(1)被災労働者について
ア症状確認日:平成30年3月19日
イ離職年月日:昭和52年3月25日
ウ産業分類(中分類):建設業(設備工事業)
(2)平均賃金について
以下のとおり平均賃金の算定を行った。
ア 離職した日以前3か月間に支払わられた賃金により算定した金額
156,000円(標準報酬月額より52,000×3)÷90日(昭和51年12月26日~昭和52年3月25日:90日間)=1,733.33・・≒1,733円(円位未満四捨五入)
イ 変動率
321,792円(平成30年1月・算定事由発生日が属する月の前々月)÷141,133円(昭和52年1月~3月・離職の日が属する四半期平均)=2.280・・≒2.28(小数第3位切り捨て、1以下の場合は1.00)
ウ ③平均賃金の額
1,733×2.28ニ3,951.24=3,951円24銭
(3)結論
以上のとおり、平均賃金は3,952円24銭であることから、給付基礎日額は、3,952円である。
理由
第1 争点
本件の争点は、監督署長が、被災者の平均賃金を3,951円24銭と算定し、その額を基にした年金給付基礎日額による遺族補償給付(遺族補償年金)の額が妥当であると認められるか否かにある。
第2 審査資料
本件の審査資料は、次のとおりである。
1 請求人の提出した資料
(1)審査報告書(令和5年12月22日付け代理人作成) 甲第1号証
(2)意見書(令和6年3月25日付け代理人作成) 甲第2号証
(3)上記意見書に添付された資料
ア 調査結果復命書(平均賃金について)(令和5年8月25日付け、主任労災・労働保険専門員F作成)写 甲第3号証
(ア)上記調査結果復命書に添付された資料(全て写し)
a 労働者災害補償保険遺族補償年金支給請求書(令20和5年4月20日受付、(以下「遺族補償年金請求書」という。) 甲第4号証
b 請求人からの聴取書(令和5年8月4日付け、同上専門員作成) 甲第5号証
c 被保険者記録照会回答票(令和5年5月30日付け、日本年金機構吹田年金事務所作成) 甲第6号証
d 報告書(令和5年5月9目付け、事業場代表取締役作成) 甲第7号証
e 聴取書2枚(同上専門員作成) 甲第8号証
f 平均賃金決定通知書(令和5年8月30日付け、監督署長作成)及び変動率資産資料 甲第9号証
イ 平成22年4月12日付け基監発0412第1号通達(厚生労働省労働基準局監督課長発出) 甲第10号証
ウ 平成25年2月22日付け基監発0222第1号通達(厚生労働省労働基準局監督課長発出) 甲第11号証
工 令和5年12月22日付け基監発1222第1号通達(厚生労働省労働基準局監督課長発出)及び令和5年7月28日付け令和5年度答申第21号答申書(平均賃金決定処分に関する事件、審査庁厚生労母大臣)、甲第12号証
オ 労災保険給付基礎日額の手引き(改訂9版、労働調査会発行)の抜粋 甲第13号証
力 厚生年金保険標準報酬月額等級の変遷 甲第14号証
キ 地域別最低賃金に関するデータ(時間額) 甲第15号証
ク 被災者の遺族補償年金の給付日額に対しての意見陳述書(令和6年2月16日付け、事業場代表取締役作成)甲第16号証
ケ 安全センター情報平成22年6月号(抜粋) 甲第17号証
(4) 追加意見書(令和6年5月8日付け、代理人作成) 甲第18号証
(5) 上記追加意見書に添付された資料
ア 被災労働者の同僚証言(令和5年12月1日付け、I氏作成) 甲第19号証
イ 被保険者記録照会回答票(I氏分、日本年金機構福島年金事務所作成) 甲第20号証
ウ アンケート(環境省及び環境再生保全機構実施、被災労働者作成) 甲第21号証
工 制度共通被保険者記録照会回答票(職歴原簿参照)(吹田年金相談センター作成) 甲第22号証
オ 「参考になるかどうか」から始まる書面及び写真(事業場社員旅行の写真5枚) 甲第23号証
(6)追加意見書2(令和6年11月11日付け、代理人作成) 甲第24号証
2 原処分庁が提出した資料(全て写し)
(1)遺族補償年金請求書(令和5年4月20日受付、甲第4号証と同じ)及び年金・一時金支給決定決議書 乙第1号証
(2)年金・一時金支給決定通知(令和5年8月30日付け、監督署長作成) 乙第2号証
(3)調査結果復命書(業務上外・遺族補償年の支給可否について)(令和5年8月25日付け、同上専門員作成) 乙第3号証
(4)遺族補償給付受給権(資格)者認定書(令和5年8月25日付け、同上専門員作成) 乙第4号証
(5)調査結果復命書(平均賃金について)(令和5年8月25日付け、同上専門員作成、甲第3号証と同じ) 乙第5号証
(6)請求人からの聴取書(令和5年8月4日付け、同上専門員作成、.甲第5号証と同じ) 乙第6号証
(7)事業場関係者A(以下「A」という。)からの聴取書(令和5年7月24日付け、同上専門員作成) 乙第7号証
(8)事業場関係者B(以下「B」という。)からの聴取書(令和5年7月24日付け、同上専門員作成) 乙第8号証
(9)被保険者記録照会回・答票(令和5年5’月30日付け、日本年金機構吹田年金事務所長作成、甲第6号証と同じ) 乙第9号証
(10)報告書(令和5年5月9日付け、事業場代表取締役作成、甲第7号証と同じ) 乙第10号証
(11)平均賃金決定通知書(令和5年8月30日付け、監督署長作成)及び決定に関する添付資料乙第11号証
3 当審査官が収集した資料(全て写し)
(1)審理調書(令和5年5月31日付け、代理人面談要旨当審査官作成) 丙第1号証
(2)審理調書(令和6年8月26日付けの口頭意見陳述の要旨、同年9月30日付け当審査官作成) 丙第2号証
(3)書籍(「日経連の賃金政策1一定期昇給の系譜一」の抜粋(平成31年2月20日付け初版第1刷発行、株式会社晃洋書房発行)) 丙第3号証
(4)「賃金の現状と課題(第1節我が国における賃金等の動向)」(厚生労働省のホームページより) 丙第4号証
(5)「賃金・主要企業春季賃上げ率」(独立行政法人労働政策研究・研修機構のホームページより) 丙第5号証
(6)厚生白書(昭和52年版抜粋) 丙第6号証
第3 参与の意見
参与は、全員が「取消し」相当、との意見であった。
第4 判断
1 判断の要件
(1)給付基礎日額について
労災保険法における給付基礎日額は、同法第8条の規定により、労基法第12条の平均賃金に相当する額とする。この場合において、同条第1項の平均賃金を算定すべき事由の発生した日は、「これを算定すべき事由の発生した日(以下「算定事由発生日」という。)以前3か月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額」とされ、同条第2項において、「前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する。」とされている。
ただし、「雇入後3か月に満たない者については、第1項の期間は、雇入後の期間とする。」(同条第6項)とされている。
なお、「支払われた」とは、現実に既に支払われている賃金だけではなく、実際に支払われていないものであっても、算定事由発生日において、既に債権として確定している賃金をも含むと解されている。
(2)年金給付基礎日額
年金給付基礎日額については、労災保険法第8条の3において、「算定事由発生日の属する年度(4月1日から翌年3月31日までをいう。以下同じ。)の翌々年度の7月以前の分として支給する年金たる保険給付については、第8条の規定により給付基礎日額として算定した額を年金給付基礎日額とする。」とし、「算定事由発生日の属する年度の翌々年度の8月以降の分として支給する年金たる保険給付については、第8条の規定により給付基礎日額として算定した額にスライド率を乗じて得た額を年金給付基礎日額とする。ただし、その額が、年金たる保険給付を支給すべき月の属する年度の8月1日(当該月が4月から7月までの月に該当する場合にあっては、当該年度の前年度の8月1日)における被災労働者の年齢(遺族補償年金においては、被災労働者が生存していると仮定した場合の年齢)の属する年齢階層の最低限度額を下回る場合にはその最低限度額を、また、最高限度額を上回る場合にはその最高限度額を、年金給付基礎日額とする。」と規定されている。
(3)ただし、業務上疾病の確定診断日に、既にその疾病の発生のおそれのある作業に従事した事業場を離職している場合の災害補償に係る平均賃金については、具体的には通達に基づき判断することとされており、別紙の各通達のとおりである。
2 認定した事実と結論
(1)認定した事実
ア遺族補償年金請求書には、要旨、次のとおり記載されている(乙第1号証)。
(ア)死亡労働者の氏名
被災労働者
(イ)死亡労働者の所属事業場
事業場
大阪市西成区玉出西1-11-.17
(ウ)死亡労働者の職種
電気工
(エ)死亡年月日
平成30年■月■日
イ 令和5年8月30日付け請求人あての年金・一時金支給決定通知には、要旨、次のとおり記載されている(乙第2号証)
(ア)保険給付等の種類
遺族補償年金・遺族特別支給金・遺族特別年金
(イ)支給決定年月日
令和5年■月■日
(ウ)平均賃金
3,951.24円
(エ)給付日額
3,952円
(オ)算定基礎
3,952×175×0.80=553,280
ウ 令和5年8月25日付け調査結果復命書(業務上外・遺族補償年金の支給可否)には、要旨、次のとおり記載されている(乙第3号証)。
(ア)平均賃金等について
3,951円24銭(別途決裁による)
(イ)算定基礎年額について
事業場報告書には、不明と記載があり、請求人及び同僚の供述も不詳であり、給与明細等も残っていないため、賞与の支給の有無が確認できない。
(ウ)死亡診断書について
死亡年月日:平成30年■月■日
死亡した場所:病院(■■■■■病院)
直接死因:悪性胸膜中皮腫
(工)調査官意見について
被災労働者に発症した悪性胸膜中皮腫は確定診断が得られており、石綿ばく露作業に1年以上従事したことが認められ「石綿による疾病の認定基準について」の認定要件を満たすことから、業務上の疾病が原因で死亡した。
(オ)受給権者について
被災労働者の死亡当時、被災労働者の収入により生計維持関係にあった者は、遺族補償年金受給資格者の第1順位である請求人であると認める。
工 遺族補償給付受給権(資格)者認定書には、要旨、次のとおり記載されている(乙第4号証)。
(ア)本人
a 出生
昭和14年■月■日
b 死亡
平成30年■月■日
c 満年齢
死亡
(イ)配偶者(請求人)
a 出生
昭和18年■月■日
b 満年齢(被災労働者死亡時)
■歳
(ウ)子
a 出生
昭和44年■月■日
b満年齢(被災労働者死亡時)
■歳
(エ)子
a 出生
昭和45年■月■日
b 満年齢(被災労働者死亡時)
■歳
(オ)出生
a 出生
昭和47年■月■日
b 満年齢(被災労働者死亡時)
■歳
オ 令和5年8月25日付け調査結果復命書(平均賃金)には、要旨、次の、とおり記載されている(乙第5号証)。
(ア)平均賃金の算定について
本件は、業務上疾病の確定診断日に既にその疾病の発生のおそれのある作業に従事した事業場を離職しており、賃金台帳等が確認できないが、標準報酬月額が明らかであるため、平成22年4月12日付け基監発0412第1号(改正平成25年2月22日基監発0222第1号)に基づき平均賃金の算定を行い、離職日から確定診断日までの賃金水準の上昇については、昭和50年9月23日付け基発第556号の記の2に準じて行う。
(イ)被災労働者について
a 生年月日
昭和14年■月■日
b 症状確認日
平成30年■月■日
C 離職年月日
昭和52年3月25日
d 産業分類(中分類)
建設業(設備工事業)
(ウ)平均賃金について
a 離職した日以前3か月間に支払われた賃金により算定した金額
昭和51年12月26日~昭和52年3月25日
156,000円(離職日以前3か月間の賃金総額52,000×3)
÷90日=1,733.33…≒1,733円(円位未満四捨五入)
b 変動率
321,792円(平成30年1月・算定事由発生日が属する月の前々月)÷141,133円(昭和52年1~3月・離職の日が属する四半期平均)=2.280…≒2.28(小数第3位切り捨て
、1以下の場合は1.00)
c 平均賃金の額
1,733×2.28=3,951.24=3,951円24銭
力 請求人は聴取において、要旨、次のとおり述べている(乙第6号証)。
(本項目において請求人を「私」、被災労働者を「夫」という。)
夫は、石綿曝露作業にて悪性胸膜中皮腫を発症し、平成30年■月■日に死亡した。
私と夫はお互い初婚で昭和43年■月■日に入籍した。私と夫の間の子供は3人で障害はない。
夫が亡くなったときに同居していたのは私だけで、同居していなかった子供や孫に仕送りすることはなかった。夫の両親は亡くなっている。夫の兄弟姉妹は5人いたが、夫が亡くなる前に見弟姉妹に仕送りなどはしていなかった。
夫には内縁関係にあった女性はいないし、子供は3人だけである。夫の厚生遺族年金は私が受け取っている。
夫の職歴について私が知っていることは、昭和30年3月に中学校を卒業後、昭和30年4月に■■■■■高校に進学したが中退し、高校の時は、昼間は仕事をして夜間の学生だと聞いている。作業内容は分からない。
夫の仕事内容は電気関係の仕事だと聞いていたが、’結婚した当初に夫が、「今日は屋根裏の中での作業で、ほこりがもうもうとしていた。這いつくばって作業したから、作業着が真っ白になったわ。」と言っていたのを覚えている。
また、夫の葬儀の際に同僚の方々が、「夫は本州製紙の仕事をよくしており、そこの工場は石綿が使われていた。」とか、「焼却炉での作業の際はたくさんの石綿を吸い込んだと思う。」などお話をしてくれた。
また、中皮腫と診断された際に、医師からアスベストの仕事を今までにしたことがないか聞かれた、「しました。」と返答しており、労災への請求を勧められたが、証明してくれる人がいないからと環境省の請求にした。
その際に夫が話した内容をまとめて書いた申請書を使用し、申立書を記入した。申立書は長女が代筆してくれた。夫は70歳までずっと仕事をしていた。
(平成30年)3月末から旅行の予定があり、3月上旬に念のため、近医の内科に行った。胸水貯留が確認され、■■■■■病院を紹介された。
夫は、旅行に行く前に胸水を抜いてもらい、旅行から帰ってきてもう一度診察をしでもらったら、行く前より胸水が溜まっていた。呼吸器外科のある■■■■■病院を紹介された。
受診の際に、手術をするのは年齢的に厳しいといわれた。とりあえず胸水を抜き、PET検査などをした結果、中皮腫と診断された。抗がん剤治療も2、`3回したが、・あまりよくならないとのことで、免疫治療を勧められた。夫の中皮腫は進行が早く、入院したまま病院で亡くなった。喫煙歴や既往歴はない。
平均賃金算定に年金記録の標準報酬月額を基に算定しても構わない。
今まで住んでいた家の近くに石綿工場や造船所などはなく、日常生活においても石綿に曝露するようなことはなかったと思う。
環境再生保全機構に申請し、平成30年12月に決定受けているが、労災請求が認定されたら環境再生保全機構の分は返す。
労災の認定基準に満たない場合があることは理解している。また、労災の決定に不服がある場合、審査請求ができることも説明を受け理解している。
キ Aからの聴取書には、要冒、次のとおり記載されている(乙第7号証)。
(本項目においてAを「私」という。)
私は19歳の時から、被災労働者より先に事業場で働いている。
仕事内容は、工場内の電気工事をしていた。現場で覚えているのは■■■■、■■■■■株式会社、■■■■■や■■■■■■などの現場であった。他にもいろんな現場に行っていた。
電気工事で配線を這わすのに壁に穴を開けたり、研り作業もしていた。被災労働者とはずっと一緒の現場ではないが、工場の電気室内の吹き付けられた石綿を壁から剥がす作業もしたことがあるで、私もそうだが、被災労働者も石綿を吸い込んで作業をしていたと思う。
スレート材を切ったりすることもあり、スレートには石綿が含まれていると聞いたこともあるので、そういうことでも吸い込んでいたのではないか。マスクなど防護着などはなかった。
私たち、被災労働者もであるが下請けとして事業場から仕事をもらっていた。できる人には難しい報酬のいい仕事、できない人には簡単な安い仕事を前々社長(審査官注:事業場の前々社長と解する。)が振り分けていた。しかし20~30年前ぐらいから、公平に日給月給制にすることに変わり、現在は日給月給制である。
ク Bからの聴取書には、要旨、次のとおり記載されている(乙第8号証)。
(本項目においてBを「私」という。)
私が事業場に在籍していたのは、昭和42年頃から5年前までである。被災労働者は私の1つ下の歳であった。
アスベストの現場で覚えているのは、45~50年前ぐらいの仕事で、本州製紙という会社が、大阪にあった工場を滋賀に移すときの工事である。私たち事業場からは、5人程で行っており、被災労働者もいた。
作業内容は、工場内の電気関係の配線や配管の工事であった。その工事は突貫工事で、工期も短く、石綿の吹き付けをしている横で私たちは配線の作業を行っていた。工場内は換気も悪く、マスクもせず作業をしていた。石綿の吹き付け作業をしているところは覆われていたわけではなく、横で作業していた私たちは石綿を吸い込みながら作業していたと思う。そういう仕事はそこだけではなく日常的にあった。
数十年程前からは石綿に関しては厳しくならていったが、被災労働者が在籍していた昭和の時代は、石綿の吹き付けがされている現場での作業は当たり前であった。
事業場は事務員や作業員含めて大体30人ぐらいはいた。現在は日給月給制であるが、社長が変わる前までは、日給ではなく、1つの現場に対していくらという形で給与をもらっていた。
作業内容は事業場に指示され、班ごとに分かれてしていた。5つ程の班に分かれ現場で作業をするという感じであった。
被災労働者が在籍していた時は、いろいろな会社から仕事を請けて、様々な現場ぺ行き作業していた。
現在は、■■■■■■の下請けが主である。他に■■■■■■や尼崎にあった■■■■などであった。
ケ 大阪労働局労災補償課長からの依頼に応じ日本年金機構吹田年金事務所が提出した被保険者記録照会回答票及び同回答票(資格画面)は、次にとおりである(乙第9号証)。
(ア)被保険者記録回答票

(イ)被保険者記録照会回答票(資格画面)

コ 事業場代表者が提出した「報告書」には、要旨、次にとおり記載されている(乙第10号証)。
(ア)事業場の概要
電気工事業
(イ)労働者数(被災労働者離職時め事業場について)
不明
(ウ)(被災労働者の)入社後の職歴
不明
(エ)被災労働者が従事していた石綿ばく露作業
不明
(オ)賃金関係(被災労働者離職時における)
a 賃金
不明(離職前6か月間の賃金台帳、出勤簿等は無)
b賞与
不明
(カ)事業主意見
残念ながら昨年事業場を移転する際古い資料を処分した。(但し、40年前)そのため、当時を知る資料などは手元にない。
昭和41年~昭和52年と言えば事業場代表者が4~15歳で、およそ46年~57年前になり、当時のことはよくわからない。
ただ、いろいろなところで、当時の吹き付けには石綿が含まれていると聞いている。
サ 請求人あての平均賃金決定通知書及びその関係資料は、以下のとおりである(乙第11号証)。’
(ア)平均賃金決定通知書

(イ)添付資料


シ 書籍「日経連の賃金政策1一定期昇給の系譜一」には、要旨、次のとおり記載されている(丙第3号証)。
(ア)なぜ賃金は「上がり続ける」のか
かつて高度成長時代を享受した1960年代から70年代前半までの日本は「ベースアップ」と呼ばれる賃金水準の上昇が毎年10%を超える水準で推移していた。その分物価も上昇していたが、多くの勤務労働者(いわゆるサラリーマン)は、毎年の大幅な賃金上昇を享受していた。
(イ)定期昇給とベース・アップの動き

上記図は日経連及び日本経団連によって毎年行われる「定昇・ベース・アップ調査」より、賃上げ率を昇給率とベース・アップとに分けて、過去50年に遡って示したものである。ここでいう昇給率は、定期昇給を意味する。
1950(昭和25年)年代は昇給率がベース・アップを上回っていたが、1960(昭和35年)年代に入るとベース・アップが昇給率を上回り、石油ショックを契機とする1970(昭和45年)年代前半の物価高の時代にはベース・アップが30%に迫る勢いで上昇した。
しかし、同年代後半からベース・アップは次第に低下し、1993年(平成5年)に再び定期昇給を下回った後には、ほとんど0%に近い状態で推移している。
一方で定期昇給については、1960年代まではおおむね5%程度で推移していたが、1970年代に入ると2%台になり、この状況が最後まで続いている。近年では、ベース・プップが0%近くまで低下したため、賃上げ率は昇給率とほぼ同率となっている。
このことを換言すれば、過去半世紀近くに渡り、日本の賃金においては定期昇給が根強く存在し続けていたことを示している。
ス 厚生労働省ホームページにある「賃金の現状と課題(第1節我が国における賃金等の動向)」には、要旨、次のとおり記載されている(丙第4号証)。

上記図は、1970年を100とした場合の名目の一人当たり生産性と賃金の推移を表したものである。
1970年代~1990年代前半では、名目生産性と名目賃金が、ほぼどちらも一貫して増加しており、両者は極めて強く連動していた。1970年代の労働白書では、当時みられていた高い賃金上昇率が、さらなる物価上昇につながりかねないことや、経済の実態と合わないことへの懸念が示されていた。
労働省(1975)においては、1974(昭和49年)年の春闘について、「物価高騰の影響による大幅賃上げが物価にはね返り、それが(昭和)50年春闘に影響して再び大幅賃上げになるのではないか」、「経済や労働市場の実勢とかけ離れた賃上げが行われるのではないか」ということ、また、労働省(1976)においては、第一次石油危機の中で、物価安定を重視し、高い賃金上昇により、「企業の人件費負担が急上昇」しており、「企業はコスト負担面から雇用調整をさらに強化せざるをえなかった」ことが指摘されている。
一方1980年代になると、これまで強く問題とされていた物価上昇は落ち着き、賃金の伸びも一段落したことから、労働省(1984)では、賃金の推移について「我が国の賃金上昇率が高度成長期に比べて鈍化しているのは、基本的には我が国経済が安定成長に移行したことに応じたもの」と分析している。
セ 独立行政法人労働政策研究・研修機構のホームページにある「賃金・主要企業春季賃上げ率」には、要旨、次にとおり記載されている(丙第5号証)。
(ア)賃金(常用労働者1人平均月間現金給与額1947年~2023年、年平均)

(イ)主要企業春季賃上げ率(1956年~2023年)

(ウ)主要企業春季賃上げ状況


ソ 昭和52年版厚生白書の第3編「所得保障の充実」、第2章「生活保護」、第2節「生活保護基準」には、要旨、次のとおり記載されている(丙第6号証)
(ア)生活扶助基準の改善
生活扶助基準については、従来から一般国民生活の向上の度合い等を考慮して改善を図ってきており、(昭和)52年度においても同様の観点から対前年度当初比12.8%の引上げ措置を講じた。
この改善の結果、1級地(大都市及びその周辺地域)における標準4人世帯の生活扶助基準額は51年度(当初)8万4,321円から9万5,114円となり、月額1万793円の増額となっている。
(イ)生活扶助基準額の年次推移

(2)結論
上記第4の2(1)で認定した事実に基づき、上記第4の1に照らして判断すると、次のとおりである。
ア まず本件は、被災労働者に発症した悪性胸膜中皮腫は確定診断が得られており、かつ石綿ばく露作業に1年以上従事したことが認められ「石綿による疾病の認定基準について」の認定要件を満たし、その後、被災労働者は業務上の疾病である悪性胸膜中皮腫が原因で死亡したことが認められ、被災労働者の死亡当時、その収入により生計維持関係にあり、遺族補償年金受給資格者の第1順位である請求人が遺族補償年金を受給している。
イ 被災労働者が業務上疾病の確定診断日に、既にその疾病の発生のおそれのある作業に従事した事業場を離職しており、離職時の賃金台帳等が確認できない状況にある。しかし、標準報酬月額が明らかであることから、原処分庁は平成22年4月12日付け基監発0412第1号(改正平成25年2月22日基監発0222第1号)に基づき平均賃金の算定を行い、離職日から確定診断日までの賃金水準の上昇については、昭和50年9月23日付け基発第556号の記の2に準じて行い、平均賃金の算定を行っている。
ウ 上記により、原処分庁は本件の平均賃金を、被災労働者の離職前3か月の間に支払われた賃金により算定した金額の1,733円に、毎勤調査における当該賃金構造調査の調査対象年月が属する四半期と算定事由発生年月日が属する月の前々月間の賃金水準の変動率である2.28を乗じ得た金額の3,951円24銭としたものである。
エ ー方代理人は、本件平均賃金の算定に対し、特に標準報酬月額は、実態とかけはなれた低額の賃金額を事業主が社会保険事務所に申告することをもって、標準報酬月額の過小決定を受け、もって社会保険料(年金保険料、健康保険料)の違法過小納入を行う実態が、残念ながら存在していることはいわば常識である。
また、もし原処分庁が回答票を入手した後これを請求人に提示して内容を確認させ、それに基づく平均賃金決定方法などの「上記取扱を教示し」、つまりは、通達が想定している適正な手順を実行していれば、そこに記載された標準報酬月額が被災労働者の当時の月収とかけはなれた額であったことが請求人には認識でき、そうした申立が出来、かつ、したであろうことは明白であって、原処分庁が標準報酬月額を平均賃金算定の基礎とするというような違法な誤りをおかすこともなかったのではないか。
オ さらに、現在の事業場代表取締役は、意見陳述書(2024年2月16日付)(甲第16号証)において「被災労働者の日当は最低でも10,000円以上はあったものと推測されます」と述べ、また被災労働者の同僚は、資格喪失日の直前に、60,000円から2倍以上の142,090円に増額されているのも非常に不可解、不自然であり、こうした標準報酬月額やその突然の異常な増額変化についての同僚の記憶が全くないと述べるなど、このように、2名の労働者において、実態賃金とはかけ離れた低額で、しかも、約10年間も標準報酬月額が不変であるといったことは、きわめて不自然であることからも、事業場においては当時、社員の標準報酬月額が実態賃金とはかけ離れた額で、作為をもって申告されていた可能性が極めで高いと言わざるを得ないと主張したうえ、被災労働者の平均賃金を決定する根拠として標準報酬月額を活用することは、そもそもできないというべきであり、原処分が取消されなければならないことは明白であ
ると主張する。
キ そこで当審査官は、本件平均賃金の妥当性について検討したところ・原処分庁は関連通達に基づき平均賃金を算定したものであり、その経緯に誤りがあるとは言えない。しかし、書籍などの参考資料から1960年から1970年前半にかけて日本は高度成長時代にあり、その享受により賃金水準の上昇が毎年10%を超える水準で推移していた時代であり、ほとんどの勤務労働者の賃金は毎年上がっていたとされていることや、厚生労働省ホームページにある「賃金の現状と課題(第1節我が国における賃金等の動向)」には、1970年代~1990年代前半では、名目生産性と名目賃金が、ほぼどちらも一貫して増加しており、当時みられていた高い賃金上昇率が、さらなる物価上昇につながりかねないことや、経済の実態と合わないことへの懸念が示されていたことを指摘していることが窺える。
ク また、標準4人世帯1級地における生活扶助基準額は、実施日昭和48年4月1日では50,575円、実施日昭和49年4月1日では60,690円、実施日昭和50年4月1日では74,952円、実施日51年4月1日では84,321円と年々増額され、実施日昭和52年4月1日では前年から10,793円増額され95,114円と改善されている。被災労働者は昭和52年当時、請求人をはじめ、8歳、7歳、5歳になる子供3人を含め5人家族であったことからすると、生活扶助基準額をも下回る標準報酬月額であったことになり、生存権をも脅かされる程度の収入しかなかったことになる。
コ 当時のこのような時代背景から鑑みても、毎年賃金上昇があったと考えられるが、被災労働者の標準報酬月額は昭和41年1月6日から昭和52年3月26日まで、52,000円と一定で不変であることはあまりにも不自然である。
このようなことからも、本件平均賃金額が社会通念に照らし合わせても妥当であると判断するには無理があり、本件については、昭和51年2月14日付け基発第193号通達も含め再度検討し、平均賃金の見直しを要するものであると考える。
ク したがって、監督署長が算定した平均賃金を必然的に上まわることは明らかであることから、監督署長が請求人に対してした遺族補償給付の支給処分は妥当ではなく、取り消されるべきである。
よって、主文のとおり決定する。
令和7年3月24日
大阪労働者災害補償保険審査官
西山耕三
別紙(一括PDF)
○業務上疾病にかかった労働者にかかる平均賃金の算定について(基発第556号昭和50年9月23日)
○業務上疾病にかかった労働者の離職時の賃金額が不明な場合の平均賃金の算定について(基発第193号昭和51年2月14日)
○業務上疾病にかかった労働者の賃金額が不明である場合の平均賃金の算定において離職時の標準報酬月額が明らかである場合の取扱について(平成22年4月12日基監発0412第1号)
○「業務上疾病にかかった労働者の賃金額が不明である場合の平均賃金の算定において離職時の標準報酬月額が明らかである場合の取扱について」の改正について(平成25年2月22日基監発0222第1号)
○「業務上疾病にかかった労働者の離職時の標準報酬月額等が明らかである場合の平均賃金の算定について」の一部改正にっいて(令和5年12月22日基監発1222第1号)