フリー・カメラマンに労災認定/東京●形式上業務委託でも実態は労働者

フリーランスと呼ばれる個人事業者として働く人びとが増えている。

政府は今年5月、いわゆる「フリーランス新法」(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)を成立させた(施行は1年6か月以内)。しかし、この法律は、仕事を発注する事業者に比べ取引上、弱い立場に置かれているフリーランスに係る取引の適正化と就業環境の整備を目的としている。
その一方で、形式的には業務委託契約を結びながら、実態は事業者の使用従属関係のもとで労働者として働いている「偽装フリーランス」の問題を見過ごすことはできない。

東京都品川区内の会社でフリーのカメラマンとして働いていたYさん(40歳)は、昨年7月、車で撮影現場に向かう途中で後続車に追突され、足指の骨折、頚椎捻挫など、負傷した。

Yさんは以前から会社からの不当な扱いやハラスメントを受けおり、フリーランスの労働組合「ユニオン出版ネットワーク(出版ネッツ)」(以下、組合という)に相談していた。

Yさんの働き方には裁量性がほとんどなく、社長の指揮命令のもとにスケジュールやシフトが組まれ、諾否の自由はない。就業場所、就業時間とも管理されており、「業務月報」の提出が求められる。Yさんが他のカメラマンを手配して仕事をさせるような「代替性」はなく、報酬も月額固定給+オプション料で、国定給に近いものだった。もちろん、仕事を休む場合には、会社に事前申請しなければならない。業務繁忙期に仕事を発注する外注のカメラマンと比較しても、Yさんら内注カメラマンの使用従属性は明らかだった。

昨年4月、同僚のカメラマンがスタジオで負傷する事故が発生した。会社はフリーランス契約を理由に、労災にしなかった。Yさんは偽装フリーフランスで働かされていることに強い不安と会社への不信が募った。

7月、追突事故で負傷してしまったYさんは自賠責保険で治療していたが、組合とも相談し、12月、品川労働基準監督署に通勤災害として労災請求した。Yさんの労働者性を示す証拠資料、組合と東京労働安全衛生センター、神奈川労災職業病センター連名での要請書を労基署に提出し、Yさんの労働者性を認め早期に認定するよう求めた。

労基署は、労働者性を判断する際に、「労働基準法研究会報告」(「労基研報告」1985年)の基準を用いている。労働者性の判断のポイントは、「指揮監督下の労働」であるかどうかである。具体的には、①仕事の依頼、業務指示の諾否の自由の有無、②業務遂行上の指揮監督の有無、③拘束性の有無、④代替性の有無、さらに報酬の労務対償性の有無や労働者性を補強する要素として、⑤事業者性の有無、⑥専属性の程度等を労働実態に即して判断する。

「労基研報告」が作成されたのは今から40年近くも前である。その後、就業形態、就業環境も大きく変化し、労働者の働き方も多様化している。加えて、現代はICT(情報通信技術)の発展と新型コロナウイルス感染症予防対策という新たな労働衛生上の課題に対応するために、テレワークや在宅勤務等が推奨されるようになっている。

労働者性を争った裁判等を通じて、裁量性の高い労働者の労災を認める判例もでるようになった。直近ではアマゾンの荷物配達員の労災が認定される事例も報道された(前月号記事参照)。

しかし、実際には労基署は、依然として昔ながらの「労基研報告」を物差しとして労働者性を判断している。判断基準のアップデートが問われている。
今年6月、品川労基署との交渉で、労基署は、労働者性を認め、会社に労働保険番号を通知したこと、労働保険料の徴収の手続に入ったことを確認した。そして10月、Yさんのもとに休業給付の支給決定通知が届いた。

11月15日、Yさんと組合は厚生労働省で記者会見を行った。Yさんは、「労災が認定されて安心しました。フリーランスの労災についても会社側が対応する法律を作ってほしい」と述べた。

組合は、今回のフリーランスのカメラマンの労災認定の意義を次のようにまとめている(会見資料からの引用)。

  1. 労働行政が働く者の権利を守る(とくに、労働安全衛生、労災という健康や命にかかわる部分で)という原則的立場に立って、適切に個別事案の状況を聴取、確認した上で適切に対応した好事例である(とくに、指揮命令の在り方についての判断)。
  2. 出版・メディア業界に多いハラスメント労災にも道を拓く。
  3. フリーランスの増加に伴い、企業が脱法的に業務委託を使うケースが増えているととが危慎される。労働行政が「誤分類の修正」※に力を入れることが、こうした企業の動きに歯止めをかける。
  4. フリーランスは「生身の働き手」。労働者と同じように、安全衛生対策を図る必要がある(メンタルヘルス、長時間労働や過労の防止などを含む)。安全で快適に働ける就業環境の整備に、行政、発注側企業が取り組むことを促す。

組合とYさんは今回の労災認定を受け、会社との団体交渉を通じて、速やかに労働保険に加入し、雇用契約への変更を求めたが、会社側は、Yさんの認定を不服として組合の要求を拒否している。

フリーランスの働き方は「業務委託契約」とされている場合が多いが、Yさんのように「偽装フリーランス」として労働者性が認められる場合が少なくない。それでも事業者との力関係から、フリーランスが労災請求に踏み切ることは容易ではない。仕事を減らされたり、契約更新を拒否されたりすることも考えられるからである。今回、Yさんが組合に相談し、勇気をもって労災請求したこにより、会社の労働実態明らかになり、労働者として認められることができた。

いま厚生労働省は、フリーランス、個人事業者の職種によっては新たな労災保険の特別加入制度の適用拡大を進めようとしている。しかし、Yさんのように「偽装フリーランス」として労働者としての権利救済が抑圧されている実状を改善していく取り組みが必要である。

※フリーランス新法制定時の審議の過程で誤って雇用を業務委託と分類してしまう問題が指摘された。

文・問合せ:東京労働安全衛生センター

安全センター情報2024年1・2月号