労災保険制度の在り方に関する研究会/夫と妻の給付要件の差の解消、家事使用人適用等を提言か~遅発性疾病に係る給付基礎日額等も議論
労災保険制度の在り方に関する研究会は、2024年12月24日の第1回はフリーディスカッションで、2025年2月4日の第2回に「第1回研究会における主な意見(「遺族(補償)等年金」及び「消滅時効」関係)」と題した1頁の資料が出されているが、以降、具体的課題別に議論が行われ、次回に、「現時点における議論の確認」を含めた「前回研究会における委員ご発言の概要」と題した資料が出されている。
※https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_46695.html
今回は、第2~4回のこの内容を紹介する。
4月4日の第5回研究会では、徴収関係等としてメリット制や徴収手続の課題等が取り上げられている。5月まで月1回程度の開催で、適用、給付、徴収等それぞれの課題を議論した後、6~7月に中間とりまとめという進め方が示されている。
目次
第2回研究会(2025年2月4日)
1. 遺族(補償)等年金
論点① 遺族補償年金の趣旨・目的
【「被扶養利益の損失の補填」を肯定するご意見】
- 目的としては今なお被扶養利益の喪失の補填という概念は有用。
- 労災は損害の填補という考え方からはじまっているところ、被災労働者に生じた損害を、本人ではなく遺族に補償していくとなると、特に年金となると、補償の範囲が労基法や労災補償制度が目的とした被災労働者や遺族の生活の安定等の範囲を超える広範なものとなり得る。「被扶養利益の喪失」は「損害」を概念的に狭めているかもしれないが、損害の1つである「被扶養利益の喪失」という「損害の填補」と整合性のあるものとして設定しており、特に遺族の中でも補償の必要が高い人達に充実した年金の給付を行っているというのが今の考え方という理解ができるのではないか。
【「被扶養利益の損失の補填」以外で捉えるべきとのご意見】
- 「被扶養利益の喪失状態が続く限り」という一方、「補償を必要とする期間必要な補償」ともあり、給付期間を永続的にする必要があるかは疑問。子どもは男女問わず18歳になれば、性別を問わず就労可能として失権する。この考えによれば、妻についても夫が亡くなった後で就労し自立すると考えられる。遺族厚生年金と同じように、遺族補償給付は遺族の生活水準の急激な低下を緩和し、その後の就自立までの期間を支えるものとして有期給付化することが望ましい。未成年の子がいる場合や中高年になってから夫を亡くした場合など就労が難しい状況もあるので、制度設計にあたっては、個別の配慮が必要。
【その他遺族補償年金の趣旨・目的に関わるご意見】
- 損害賠償との関係も踏まえるべき。労災保険は、損害賠償における過失の立証の困難さを考慮して、それを補完するために無過失責任を採用した側面がある。
【現状の評価に関するご意見】
- 労働基準法の遺族補償では、遺族たる配偶者に関してなんら生活状況を問う要件がない。また、労災保険法成立後の1948年の解釈によれば、労働者の死亡は永久的全部労働不能の最たるものと解釈されている。遺族補償がカバーしようとしていたのは、遺族の生活能力によって左右されうる具体的な被扶養利益というよりは、まずは永久的全部労働不能がもたらすなんらかの永続的な損失と考えられていたことがうかがわれる。
- 生計維持要件と一緒に考えていく必要がある。民法上の扶養義務を踏まえ抽象的に「被扶養利益が喪失された」とこれまで説明してきたのではないか。一方で、必要な遺族に必要な補償を行うという趣旨の説明もあり、また、給付要件について夫と妻の要件の差は実質的な扶養の必要性・生活への打撃の緩和が重要な趣旨であるかのような説明もされており、これまでの制度は運用も含めて考えると、整合的ではないのではないか。
- 労働災害という事象に照らせば、全ての労働者にあまねく広がっているわけではない。特定の業種、社会状態の人の災害発生率が高まっているということであれば、その特性に応じた被扶養利益があるのではないか。
論点② 給付の要件について
(1) 生計維持要件
- 社会保障の一般論で言えばそれぞれの制度のニーズを踏まえて設定されているが、労災保険は、ニーズと言うよりも今まで入ってきていたお金が入ってこなくなるという損害の落差に軸があると考えられ、その視点を踏まえれば、現行の取扱いにはそれなりに理由があるのではないか。夫婦であれば一般的に経済的な結びつきが認められ、配偶者の収入はお互いに引退するまでは続いていたことが想定される。共働きも対象としている現行の維持要件は、一方配偶者からの収入が消えたという明らかな損害があることからすれば、広く見れば「被扶養利益」と呼んでもよく、損害の穴埋めをする制度だと理解すれば、緩やかに生計維持関係を見るのはそれほど不合理ではない。
(2) 夫と妻の要件の差
- 女性の年金権の確立がS63の研究会でも言及され、また、共働き家庭も増えており、夫の収入に完全に依存している訳ではない。被扶養利益の喪失の填補との趣旨の妥当性は認めつつも、「被扶養」の実態が相当程度変化していることを踏まえた検討をするべき。なお、障害を有しているものの社会参加は進んではいるが、女性の就労ほどではない。
- 現在の労災保険の実務は、必ずしも妻が独力で生計維持できないことまで要求しておらず、現在の実務が想定している程度の「被扶養利益の喪失」は妻を亡くした夫にも十分認め得る。
- 夫と妻の給付要件が異なることは解消すべき。
- 昭和40年当時には女性は独力では生計維持できないと考えられたのであろうが、今のデータを見れば、女性は独力で生計維持できるように思われ、性別で差を設ける必要性は失われている。
(3) その他
- 被扶養利益の喪失の補填という趣旨目的からすると、年齢要件・障害要件で対象者を絞っていくのは目的と乖離がある。どちらかと言うと国民年金などの公的年金のようにニーズがあるから補償するという発想に近いのではないか。要件が妥当ではないとは言わないが、年齢や障害で対象者を区切っているということについては別途説明が必要。
- 現行の制度に現れていないが、法律の扶養義務で言えば、親と小さい子、夫婦という結びつきは社会通念では一般的なので、そこに充実した補償というのは不当ではないのではないか。
- 現行は、要件を満たすか否かで年金か一時金かという大きな差が生じる。技術的に可能ならば、要件を緩めたり、死亡当時の扶養の状況を踏まえ、給付基礎日額の調整等をするのも選択肢ではないか。
論点③ 給付水準について
(1) 給付の位置づけ・期間について
- 遺族補償がカバーしようとしていたのは、具体的な被扶養関係ではなく、永久的全部労働不能による損失と考えられていた【再掲】。素直に考えれば長期給付が想定されるが、一企業が行うものなので一時金にしたり金額の設定がなされたりしている。労災保険法ではそういう考慮は必要ないこともあり、遺族厚生年金とは違って長期給付を検討すべき。そうでないとしても、具体的な生計維持を考慮するのであれば、労基法遺族補償の上に制度構築されるべき。
- 損害賠償との関係も踏まえるべき。労災保険が無過失責任を採用した理由は過失立証の負担なく被災者への補償を図るという点にもある【再掲】。有期給付化により補償額が下がれば、損害賠償額との差額が大きくなり、これについては別途争わなければならなくなる。そのような事態となれば制度趣旨に反するおそれがある。
- メリット制は災害発生予防の効果が期待され設けられたが、今後見直しで遺族補償給付の給付額が下がる、あるいは有期となると、障害給付の方がむしろメリット制に影響が出ることになるのではないか。メリット制との関係も含めて判断を行う必要があるのではないか。
- 「被扶養利益の喪失状態が続く限り」という一方、「補償を必要とする期間必要な補償」ともあり、給付期間を永続的にする必要があるかは疑問。子どもは男女問わず18歳になれば、性別を問わず就労可能として失権する。この考えによれば、妻についても夫が亡くなった後で就労し自立すると考えられる。遺族厚生年金と同じように、遺族補償給付は遺族の生活水準の急激な低下を緩和し、その後の就自立までの期間を支えるものとして有期給付化することが望ましい。未成年の子がいる場合や中高年になってから夫を亡くした場合など就労が難しい状況もあるので、制度設計にあたっては、個別の配慮が必要。
(2) 特別加算について
- 特別加算が創設されてから、これまでずっとそのまま行われているという理解でよいか。
受給権者の高齢化が制度にとっての過度な負担になっていないか、素朴な疑問。昭和45年創設当時から平均寿命はかなり変わっている認識だが、ずっと変えないままでいいのか。積極的に変える必要は無かったのかもしれないが、創設から50年くらい経っているので、特別加算でどれくらいのニーズがカバーできるのか。受給権者の高齢化、給付の長期化についても考えてみたい。
論点④ 労働基準法との関係について
- 配偶者に関して、当然に負うような扶養関係ならまだしも、具体的な生活に踏み入った扶養の在り方のみをベースに制度設計を考えるのは労働基準法との関係において適切ではない。
・労災保険法は労基法の災害補償責任をもとにしており、労災保険法を労働基準法よりも狭めるとの方針はないはず。労働基準法及び労基則において、配偶者について、配偶者であること以外には何ら要件がない。遺族の支給要件に関して、夫婦に関して夫婦である以外の何らかの要件を設けると労働基準法の要件よりは狭くなってしまう。 - 労働基準法より労災保険法が下回ることはないし、そうあるべきではないというのが共通認識。受給権者について労基法は法律に「配偶者」と規定している一方で、労災保険法では法律には「遺族」とだけ記載していて、詳細は施行規則に定めている。労災保険法との整合性を確保できていないのであれば、施行規則を変えていく、あるいは、労基法の遺族の範囲の解釈を検討するという考えもあるのではないか。
≪現時点における議論の確認≫
◎夫と妻の要件が異なっているという現状については解消の方向で考えていくべきだというのが概ねの方向。
◎出発点として、「被扶養利益の喪失の填補」を所与のものと考えるという意見と、必ずしも前提としないという2つの立場があった。この点についてより深い議論が必要。
◎給付水準については制度の趣旨・目的の議論を深めながら検討していくのがよいのではないか。
2. 消滅時効
- 消滅時効については諸外国と比較しても、日本が特に短いという印象は無い。業務上災害は発生したことが明らかであり、いたずらに延ばす必要はない。
- 人身損害については被害者から時効の完成を阻止するのが難しいという点で配慮が必要という面があるが、労災保険の特殊性を考えると時効期間の完成の阻止が必ずしも時効の延長に直結せず、他の措置でも対応が可能に思われ、具体的なケースに即した広報や周知などが大事ではないか。
- 労基法の災害補償請求権と労災保険制度の短期給付は2年以上、労災保険制度の長期給付は5年以上とある。早期の権利確定は労働者救済の観点は重要だが、他方で長期給付については労災保険法でも5年で整理されたこととの関係をどう考えるかというのはある。安全衛生措置の促進、早期の職場復帰という意義を、時効という仕組みだけに持たせるのではなく、時効以外の仕組み(周知等)でも対応できるのではないか。
- 健康保険などの短期給付は2年、年金保険などの長期給付は5年であって、労災と足並みが揃っている。しかし、健康保険は医療機関に行って保険証を見せれば保険給付が自動的に受けられるが労災保険制度は請求手続が必要なので、その部分を考慮しても良いのかもしれない。
- メンタル疾患など、手続自体が精神的負荷になるという事例もあろうが、そのバランスを取るという点では、一般に、時効を延ばすのではなく、資料p2の「権利行使ができるとき」の例外(特別な事情がある場合など)を設けるのも一つの方向性ではないか。「特別な事情がある場合」「正当な理由がある場合」について取扱については実務的な検討を深めるのが一つの方向性ではないか。
- 調査結果の時効期間の徒過事由には、請求人失念や制度の誤解、事業主の手続き漏れなどがあるが、これについては、相談援助の仕組みを検討してもよいのではないか。
- 労災保険法12条の5第1項のように退職後も請求できる仕組みがあるが、それを知らない人もいるであろう。制度の周知をお願いしたい。
- 休業(補償)等給付は事業主の手続漏れが多く上げられているが、これは時効にかかわらずあってはならないことで、時効を延ばせばいいというものではない。
≪現時点における議論の確認≫
◎建議の中に記載されている内容は必ずしも時効制度だけで機能させていくものでもないのが含まれているのではないかという指摘があった。
◎精神疾患の被災者などについては何らかの対応が必要ではないか。
第3回研究会(2025年2月21日)
1. 給付基礎日額
有害業務に従事した時点と疾病の発症時点の時間的乖離が大きい場合の給付基礎日額
- 労災則9条1項各号および労働基準法12条では、同条1項にいう平均賃金の特例となるのはおおむね「労働基準法の平均賃金では労働者にとって不利になる場合」が挙げられていることから、平均賃金を用いて不利でないにもかかわらずこれを用いないときには、労災保険法8条2項にいう「適当でない」理由があるかが説得的に説明されるべき。そのような説得的理由がないときには、労働基準法12条1項の原則どおり(発症時の賃金)とするのが法の趣旨に沿うのではないか。ケース1(ばく露時よりも発症時の方が賃金が高い場合)は原則として発症時の賃金を使い、ケース1でもばく露時よりも今の方が賃金が低くなるケースや、ケース2(発症時に職に就いていない場合)では労働者が不利益にならないように、ばく露時等の適当な時点における賃金を用いるのが基本的な改正の在り方ではないか。
- 社会保障的性格を強調するなら、ケース1(ばく露時よりも発症時の方が賃金が高い場合)については、発症直前の生活水準を補償する趣旨で現在(発症時)の事業場の賃金をもとに給付基礎日額を算定するという方法もあり得る。退職した事業場の賃金を現在の事業場の賃金が下回るとか、現在の賃金が以前よりも下がっているという場合には、労働基準法の「災害補償責任」に戻って最終ばく露事業場の賃金に戻って最低保障をする。ケース2(発症時に職に就いていない場合)の支給については、退職後の高齢者で年金生活に移行している者も、働ける年齢で休職している者も様々あり得、難しいが、参考にすべき直前の水準がない場合は、最終ばく露事業場の賃金で算定するしかないのではないか。
- 労災保険制度の趣旨に照らして検討をするにあたっては本来であれば、過去の給付基礎日額の例外(556号通知)がどのような趣旨だったかの検証が必要だと思うが、労働基準法に基づく事業主の災害補償責任の考え方が基本にあるのではないかと思う。労災保険の補償は、原因となる有害業務に従事させたことに関する事業主の補償と考えられるところ、有害業務への従事に着目すべきで、その後の働き方の違いや退職のタイミング、発症時期のタイミングなどで給付基礎日額の扱いが異なるのは、かえって公平ではない。
- 556号通達は労災の原因を作った事業主との関係を特定した上で補償内容を考える趣旨と理解。一方、法令の規定では「疾病の発生が確定した日」とされており、疾病の発症に危険因子へのばく露から一定の時間的ラグがあるのは法の予定した範囲であり、原則(法律の規定)に戻るのが妥当ではないか。ケース1(ばく露時よりも発症時の方が賃金が高い場合)については、現在(発症時)の賃金水準を元に給付基礎日額を算定することでいいのではないか。その理由・趣旨については、生活保障の役割という社会保障的なものを重視していくべきではないか。
- 過去に働いていた事業場へのメリット制の適用については、当時(ばく露時)の賃金水準の限度にとどめるという方法も採り得る。この部分だけ基準法の災害補償責任より拡大して生活保障的な給付を行うという考え方もあるのではないか。
賃金水準が下がってから、あるいは離職してからの発症に係る給付については、556号通達を使う場面もあってもいいが、理論的な整理が必要。 - ケース1、2の問題は、障害補償年金の給付内容の定型化によって生じる不合理な側面が顕在化したものと捉えることができる。支給額について被災時の賃金をもとに給付水準を設定し、支給期間について大抵は稼得能力を喪失している老齢期にも支給を継続している。これがケース1では過小に見え、ケース2では過剰にも思える給付となっているように見える。解決・是正方法として検討の余地があるのではないか。
- 給付基礎日額の算定方法について、若年だったらその後の昇給が期待できた、中年だったらその後、低下が見込まれているが現在の賃金スライドを発展させ、年齢別の賃金水準を考慮したスライドを検討できないか。それができれば、若年労働者には賃金水準の上昇を考慮した給付の充実を図ることができ、高年齢の被災労働者に対しては本来であれば生じるはずであった賃金水準が反映され、過剰な給付を抑制できる。損害の填補という制度趣旨により沿ったものになり抜本的な解決となるのではないか。ただし、全ての労働者に妥当する年齢に応じた賃金変動というものを想定するのは難しく、年功的要素が後退している現状においては年齢に応じてスライドをするということは齟齬があるとの反論は想定されるが、1つの可能性。
- 支給期間との関係では、老齢期になっても障害補償年金等を支給継続していることは被災労働者の保護等の観点からも妥当とは思うが、一方で稼得能力の喪失を前提としている老齢厚生年金、老齢基礎年金との関係では検討の余地はあるのではないか。引退した被災労働者については、老齢年金を支給されていると思うが、現行法の障害補償年金は、同一障害による障害厚生年金、障害基礎年金とののみ調整が想定されている。したがって障害補償年金と老齢年金が出されることになるが、障害補償年金が稼得能力の減退喪失に着目して損害の填補を図る給付であることに鑑みると、稼得能力の喪失を前提にしている老齢厚生年金等との間で併給調整することも合理的ではないか。
≪現時点における議論の確認≫
◎給付基礎日額について、556通達の取扱いをケース1とケース2で一貫させていくのか、区別して対応するのか、あるいは抜本的にいじるかという意見がある。
<参考>配布資料「遅発性疾病に係る労災保険給付の給付基礎日額について」から
【現状】
- 給付基礎日額(平均賃金)は、原則として、算定すべき事由の発生した日(疾病による休業であれば診断確定日)以前の3か月間に支払われた賃金の総額をその期間の総日数で除した金額と定めているところ、労働者が疾病の発生のおそれのある作業に従事した事業場を離職している場合には、「疾病の発生のおそれのある作業に従事した最後の事業場」を離職した日以前の3か月間の賃金(※)を基礎に算定する。(昭和50年9月23日付け基発第556号)
※ ただし、離職した日以前3か月の賃金総額が不明の場合は、診断により疾病発生が確定した日における最終事業場又は同種・同規模等の事業場における同種労働者の賃金や統計調査における同職種の労働者の賃金等を考慮して得た額を基礎に推算する。(昭和51年2月14日付け基発第193号)
【課題】
- 業務上疾病のうち、石綿関連疾患等の遅発性疾病については、石綿ばく露作業などの有害業務(疾病の発生のおそれのある作業)に従事した時から疾病の発症までの期間が長い。(通常30~40年)
- このため、既に原因時の事業場を離職している労働者については、当該原因時の事業場の離職当時の平均賃金(※1)をもとに算定されるため、保険給付の額が発症時の賃金に比べて相当程度低くなる可能性がある。【ケース①】
- また、労働者が定年退職後等で就労しておらず、賃金収入がないときに発症した場合においても、当該原因時の事業場の離職当時の平均賃金(※1)をもとに算定される。【ケース②】
※ 1:離職日以前3か月間から算定事由発生日(発症日)までの給与水準の上昇を考慮するために、離職日以前3か月間に支払われた賃金により算定した金額に、同一事業場の労働者の賃金額又は毎月勤労統計調査の結果を用いて算出した変動率を乗じる。(昭和50年9月23日付け基発第556号)
2. 社会復帰促進等事業
論点① 保険給付と労働者向けの社会復帰促進等事業の給付との関係(役割分担)
【特別支給金について】
- 社会復帰促進等事業特別支給金特別支給金
特別支給金は、創設当初は流動的なものだったかもしれないが、今となっては必要性や補償内容は恒常的・固定的なものとなっており、法定の保険給付化が考えられても良いのではないか。
過去の最高裁判例を踏まえると、特別支給金を保険給付にすることで社会保障的な性格が後退すると指摘する人もいるであろうし、また、特別支給金が民事上の損害賠償の調整対象となり労働者側に不利になるかもしれないが、補償の安定の観点から、法定化して保険給付として扱うのが良いのではないか。 - H8の最高裁判決では、特別支給金は保険給付と異なるとして損害賠償額から控除する対象とはしていないが、特別支給金は保険給付の上積みであり、実務としても一体的に行っている。事業主は社会復帰促進等事業費も含めて保険料を払っており、保険料を負担しているにも関わらず、特別支給金が損害額から控除されないために事業主は二重の負担を負っていると言える。労働者側からすれば、その部分については損害賠償を受け取れなくなるので一見すると不利益であるが、特別支給金については保険給付として法定化することが本来的な制度の在り方であると思う。
- ボーナス特別支給金は、算定方法が直近1年間の特別給与をもとにしている。この金額は夏・冬のボーナスが中心であり不確定要素に左右される。特別支給金を保険給付とした場合、適切なボーナス特別支給金の算定が非常に難しいのではないか。
【アフターケアについて】
- リハビリの給付化については、リハビリについては保険給付の内容に含まれており、アフターケアが事業として扱われており、その具体的内容は保健指導など比較的柔軟な対応が必要なもので、保険給付として定型化することが必要なものではないと認識した。現在の保険給付とアフターケアの区分は合理的と考えている。
- アフターケアについて、給付の要件は治癒、症状固定までとしているが、医療の進歩を鑑みると、医療というものが治癒・症状固定にとどまることがなくなってくる。アフターケアが治癒・症状固定に続く段階で提供されるものであり、医学的アプローチとして相応の役割が客観的に評価できるのであれば、保険給付に位置づけることも議論の余地はあるのではないか。
論点② 社会復帰促進等事業の給付(対労働者等)に係る審査請求
論点③ 特別支給金の処分性
- ボーナス特別支給金については、算定方法や給付設計について疑義が生ずる余地があり、紛争を生じさせる可能性は相当程度あるのではないかと思われる。その点を踏まえれば、長期にわたる給付内容の事項に関して審査請求の機会を認めるのは意義のあることと思われ、特別支給金について処分性を認めることが適当。
- 審査請求のありかたについて、労働者が審査請求をしようとしても手間がかかるのは、申請を断念させてしまう大きな要因になるのではないかと思われる。審査請求手続は、保険給付と一本化・改善した方がいいのではないか。
- 保険給付と社会復帰促進等事業の不服申立が二つに分かれているのは国民に分かりにくく、コストも考えると一本化するのがいい。その上で、労災保険法40条で、保険給付の処分取消しの訴えについて審査請求前置を定めている。他方で、行審法の審査になっている社会復帰促進等事業は審査請求前置となっていないところ、労審法への移管により処分に対して直接に取消訴訟を提起できなくなるのは留意すべきである。
- 社会復帰促進等事業の審査請求を労審法の対象とすることは、国民に分かりづらいという理由によるべきと思料。総務省からの指摘を踏まえれば、変更する方向で検討するのが妥当であろう。
- 社会復帰等促進事業の処分性を広く認める契機となった最高裁判決の影響はすごいが、その上で特別支給金に処分性を認めていない特別支給金ことは理由に乏しく、認めることが妥当。
≪現時点における議論の確認≫
◎社会復帰促進等事業について審査請求を保険給付と一本化することが妥当であることは総意。
◎特別支給金の在り方については実際の機能を踏まえて法定化を検討するべき。
3. 生計維持要件
- 労災保険法の生計維持要件は生計維持者と被生計維持者の依存関係を相互的なものと捉えている。遺族の労働者に対する経済的依存性というよりは両者の経済的基盤の共通性に着目するもの。従って生計同一とその内容が類似している。これに関して、労基法施行規則42条2項で定める配偶者以外の遺族について、生計維持に並んで生計同一も対象となっていることを踏まえても労災保険法は「生計維持」を年金各法と異なり、労働基準法施行規則と足並みを揃え生計同一の意味合いを含んだ、より広い独自のものとしてきたと考える。労災保険法が労働基準法と異なるのは、生計維持要件というよりは年齢や障害によって制限している点であり、これらの要件によりなぜ労働基準法よりも支給対象者が絞られるのかが検証されるべき。
- 年齢と障害の要件については男女格差が問題になるがこのことは遺族としての女性だけでなく、労働基準法上の労働者としての女性としても検討されるべき。労働基準法では女性の勤務に制限をかけてきた経緯がある。遺族補償給付の年金化時点では女性が危険労働から保護されやすかった分、女性が労災で死亡することは相当少なかったところ。男性労働者の死亡による補償が典型的な事例として想定されていたのではないか。労働基準法上の制限が撤廃され、業務上の危険の質が男女同等となった今日では、女性労働者の死亡損害の金銭的評価をむしろ男性労働者の評価の在り方に合わせるという道筋もあり得る。
- 昭和41年当初から、主たる生計維持者だけでなく、従たる役割を果たしていた者が死んだ場合でも被扶養利益の喪失の補償の対象にしていたことが明らかになった。平成2年の通知改正でも、親子や配偶者の間の生計維持の扱いは基本的には変化していない。したがって、妻を亡くした配偶者についても行政実務が念頭に置く被扶養利益の喪失は認められると思われる。提示されたデータからも、妻がパートタイムで働く共働き世帯は増えている状況であり、フルタイムだけでなく、パートタイムで働く妻を亡くした男性についても妻の死亡による遺族補償年金の支給の必要性が認められるだろう。
- 遺族補償年金の支給目的・支給期間について、労働者を亡くした後の生活激変を一定期間支えるものと考え、有期給付化していくとの考えについては我が国では労災補償と損害賠償の併存が認められており、遺族補償年金の給付が縮小することに伴って損害賠償訴訟をしなくてはならなくなり、労働者や遺族の生活の安定が図られなくなるという点が指摘される。しかし、一方で、20代の男女間については、賃金差はほぼない状況。したがって、将来の世代に向かって、夫を失った妻だけが一生の補償を受け続けられるという、現代の仕組みを改めていくことは考え得るのでは。
- 生計維持要件の変遷については、見直し前提ではないが、既に年金化から50年も経過しており、このままでいいのかという視点は必要ではないか。例えばS41年の通知2(2)については、婚姻直後に配偶者が亡くなったケースを想定しているものと思料するが、今の離婚率を考えたら同じことが言えるか。以前の説明が今も可能なのかは検証をした方がいいのではないか。
≪現時点における議論の確認≫
◎制度創設当初から色々な意味で変化があったことを踏まえてさらに検討していく必要がある。
第4回研究会(2025年3月12日)
1. 適用範囲(総論)
労働基準法が適用される労働者以外の就業者で、強制適用とすべき者はいるか。また、その保険料の負担は誰が負うべきか。
- 労基法が適用される労働者、あるいは適用されるべき労働者であっても労災保険が強制適用されない労働者が存在する現段階で、労働者以外の就業者を強制適用とする考えには反対。これらの者は特別加入を通じた保護が可能。事故型の業務災害では、経営者と従業員との間で、事故のリスクや保障のニーズは大きく異ならないと思うが、疾病型の業務災害、特に長時間労働が原因となるような疾病について、自ら長時間働くことを選択した経営者と、業務命令により長時間労働を余儀なくされる労働者とでは、状況が大きく異なると考える。
- 労基法は危険責任の法理に基づいているといわれ、労基法上の労働者かどうかで危険の内実と責任の質は変わる。自らの意思で就労できていれば避けることができたかもしれない災害が、使用者の指揮命令に従い自由を制約されながら業務に従事する中で発生したというところに、労働者以外の者と違って、契約に内在する危険とその金銭的な補償を使用者に行わせる根拠があると思う。
- 労災保険法の適用範囲は、労災保険の社会保障的特徴を強調するのであれば、報酬を得て働く人は強制加入とすることもあり得る。ただし、これは法制度を根幹から見直すことになるので、長期的な検討課題になる。短期的には、ニーズに応じて特別加入を広げていくのが現実的。
- 第2種の特別加入者をすべて労働者と並べて強制加入とするのは一定の限界がある。フリーランスに係る今後の社会的な動向、労基法の労働者概念の議論の動向、安衛法の注文者の責任にかかる議論の動向など踏まえ検討が必要。
- 適用対象者について労基法と労災保険法の今後の関係を検討する必要がある。労基法と労災保険法の適用対象者を切り離し、労災保険の強制適用を労基法の労働者より広げることは現行法の解釈としては難しいが、法改正により労災保険法の趣旨を一定変え、拡大を図ることは理論的には排除されない。
- 現在の労働者は使用従属性や時間的場所的拘束があり、事業主は補償責任・保険料の支払い責任を負うところに労災保険の中核はあると考える。労災保険法が労基法とは別制度であり、労災保険の原則を崩さなければ、特別加入のように労災保険法の適用対象を労基法の適用対象よりも拡張できるという認識。その前提で、保険料負担の根拠と技術的可能性から、第2種特別加入の対象になる者について、労災保険の強制適用の対象範囲をどこで線引きするのかということが問題となる。事業主に類する者が保険料を負担する一定の根拠があり、その徴収が技術的に可能か議論した上で、労働者ではないが、その保険料を一定負担してもらうことを検討してもよいのではないか。
- 労働者以外の就業者については特別加入することを前提に、特別加入にかかる保険料相当額を発注事業者が自主的に経費に上乗せすることは望ましいと考える。
- 労災保険の強制適用を労基法の労働者より広げることは理論的には排除されない一方で、労基法とのつながりを維持し、特別加入の必要性の高い者には加入や保険料負担のインセンティブを課したり、注文者やプラットフォームなどに保険料負担を求めることもあり得る。
- 労働者以外の就業者を強制適用にすると、使用者に当たる者がいない以上、保険料は本人負担になる。労働者と労働者以外の就業者を1つの制度に統括するにしても、保険料負担の観点から区別は残る。プラットフォームなどの注文主に保険料負担を課すのは難しいのではないか。保険料負担も含めた費用を相手に求めるかは当事者間の契約の問題であり、こうした契約に関する課題は、フリーランス新法など他の法律の問題であって、労災保険法の問題ではないと考える。
- 保険料負担と報酬の最低補償が密接に関連しているところ、労基法の労働者以外の者に保険料負担させる場合、当該者に契約交渉力がないと、報酬に転嫁されるおそれがある。対処法として最低賃金法の様に報酬について最低補償の仕組みが必要ではないか。一方で適用拡大になる就労者の契約交渉力が強ければ、あえて他方契約当事者に保険料を負担させずとも、報酬の中に保険料額などを就労者自身が含めることができるので、拡大の必要はない。
- 注文者は指揮命令も拘束もしないが、災害発生のリスクを自ら追わずに利益を得られるというのが保険料を負担させる根拠になり得る。一方で労働者と違って働き方の自由度が高く自ら災害を避けることもできるところ、注文者の全額負担に拘泥せず、保険料の折半もありうると考える。この場合、中長期的な課題ではあるが、任意加入を原則としつつも、注文者の負担もあるので、就労者が保険加入を望んだ場合には、注文者にも保険料を強制的に拠出させることもあり得るのではないか。
- 労災保険においては適用事業所とその賃金総額のみが特定され、給付の対象となる労働者は特定されていないため労災が発生して初めて対象になっていなかったと認識することもある。第3種特別加入では同様の裁判例もある。フリーランスについて広く特別加入が認められるようになっている中で、特別加入者の中に労働者性のある者が含まれていたという話もあるが、逆に本来特別加入すべき人が入れていなかったということもある。適用関係や特別加入を議論する際には補足的に考慮すべき。
≪現時点における議論の確認≫
◎中長期的には労災保健制度そのものを変えることも可能だが、短期的には難しいという前提で、現在の適用範囲の対象を今すぐ大きく変えるものではない点は一致している。適用事業所や賃金総額が特定されていても、補償対象となる労働者が特定されていないのは重要な指摘。
2. 特別加入制度
一人親方等の労災補償を適切に運用していくため、特別加入団体にどのような役割を担わせるべきか。
- 特別加入団体を介在させなければ制度が成り立たないのかの議論をしても良いと考える。通常の事業主のように保険料支出によって災害補償責任を免れる受益のない特別加入団体に災害防止の義務を課すのは、むしろ団体を作るハードルが上がり加入促進の妨げになるのではないか。義務や要件の設定ではなく、インセンティブの付与(社復の安全衛生確保等事業の利用を通じた災害防止措置などの推進)が適切ではないか。
- 特別加入制度の一人親方と作業従事者の関係について、両者の区別が曖昧になっている。一人親方に当たる場合は事業の全体が対象になる一方で、特定作業は特定の作業のみ補償の範囲に差がある点は検討の余地がある。
- 特定フリーランスの特別加入団体は、災害防止教育の実施の厚労省への報告が要件になっているが、既存の特別加入団体にも同様の要件を課す必要があるのではないか。
- 特別加入制度を知らないという理由で活用されていないのは問題。周知を徹底して保護の機会を広げてもらいたい。
- 特別加入団体は加入者の仕事の内容を把握しておらず権限もないため、予防の取組には限界がある。予防について、安衛法における注文者の安全管理の責任に注目されている状況も踏まえ、労災保険法でも注文者に何らかの安全管理の責任を求められないか検討の余地はある。
- 特別加入について、対象を制限しない完全任意の個人加入としつつ、一部の業務委託やプラットフォームとの関係で特別な制度を考えていくという仕組みにできないか検討の余地はある。
- 保険には一般にモラルハザードが伴う。特別加入者の過失による災害もカバーされる仕組みになっているが、本来行動の自由がある働き手の不注意を問わないのは労働者よりもモラルハザードを招きやすい。立法論としては予防に関する仕組みは労働者よりも厚くてもいいのではないか。
- 災害防止について、フランスの例だが、災害率だけでなく、一定の災害予防を採ったかで保険料率を変えるという仕組みもある。
- 労災保険制度に課された役割として、労災を抑止するインセンティブが付されていると考えるなら、保険料を業種のリスクに見合ったものにしていくべき。団体に措置を講じさせるのが難しければ保険料で対応していくのも一般論としてある。現時点で業種毎の保険料率が適切でない部分も有るなら見直していく必要もある。
- 特別加入団体の役割は特別加入の有無にかかわらず、特定の業種・職域で接点をもっている自営業者に、職業上のリスクの理解を深めてもらい、その上で保険加入の対象を促し、その際の選択肢として特別加入を示すような周知広報への貢献は求められないか。
- ★現段階で特別加入団体が行っている災害防止措置の取組に関して、どういったことを行っているのか、次回以降でエピソード的なものでもいいので教えてほしい。
≪現時点における議論の確認≫
◎特別加入団体について、特別加入に際して団体の介在が必要なのかという意見や、加入者の災害防止等に貢献し得るとの意見もあった。
3. 家事使用人
- 労働者を雇用する以上事業主であることを自覚し、責務を果たしていただくことが必要だが、手続的、事務的側面の負担は、軽減すべき。具体的には、保険関係成立や変更の届出、保険料の納付等の事務の代行機関が存在し、そこに負わせることが考える。
- 家事を労基法上の事業と整理するのは難しく、私家庭への適用は慎重になるべき。一方で災害補償に関する限りでは、指揮命令下の労働について、労災のリスクを使用者が管理できる前提で危険責任が一つの論拠になる。私家庭でも家事従事者に対する指揮命令があれば、この危険責任の論拠は妥当する。その上で労基法の災害補償とこれを受けた労災保険の保険料に関する負担を私家庭に負わせるのは可能。危険責任から導かれる、労働災害に関する経済的な補償のために不可欠な責任(未納付の保険料・追徴金の納付、事業主からの費用徴収)は私家庭にも負わせることができるのではないか。一方で危険責任から導くことができない、企業活動への適用を前提とした技術的な規定(使用者の報告・出頭、立ち入り検査など)は私家庭に負わせることは妥当ではない。
- 家事使用人は介護の業務に従事することもあるが、認知症などの判断能力が低下した主体が労働契約の相手方になる可能性が他の種類の事業よりも高い。そのような場合、雇用者が各種の責任を負えるのか疑問。また、労働保険事務組合を活用にするにしても判断能力が劣る人が活用するには工夫が必要。それにより、ひいては家事使用人とその雇用者との間での紛争を防ぐことにもなる。
- 強制適用された場合、保険料負担や手続履行などのコストがかかるので家事使用人を直接雇用しなくなる可能性がある。労働契約とのグレーゾーンが増えて取り締まるのが難しくなるのではないか。災害が発生した場合のみ手続をしたり、災害が起こりうる危険の高い事業のみが顕在化するような逆選択の問題が生じるのでは。
- 請負か雇用関係かという判断は一般論として難しく、私家庭では十分に判断できないのではないか。家事使用人に対して労災保険を積極的に適用することは賛成だが、家事使用人の働き方・実態が十分に見えてこない印象もある。今後家事使用人の働き方がマッチングサービスの発展や、外国人労働者の関係で増えてくる可能性はあるところ、労災保険の中でも可視化していく必要がある。
- 私家庭が事業主と言えるのか、みなし事業とするのか、労働保険事務組合の仕組みが使えるのか、家事使用人の実態が日雇い近いのか、検討をしていくこともあり得る。
- 家政婦紹介所等が家事従事者と私家庭の間に入る場合には、家政婦紹介所等に一定の手続促進のための(努力)義務を課し、実効性の確保を図ることもできるのでは。
- 私家庭が直接家政婦を雇用する場合に事務負担を求めると、家事代行サービスと比べて競争上著しく不利になる。現在働いている人との関係でも事務負担の関係を検討しなければならない。
- 労基法の中で災害補償責任を認めないという話になると、問題の構造として特別加入のように労基法の責任とは結びついていないものを補償することになり、その場合は紹介所等を事業主に擬制するなどもあるかもしれない。
- 家事使用人について、強制適用の課題はありつつも補償の必要性が高い。その上で、実際に個人家庭と直接労働契約を結んでいる家事使用人が実態としてどれだけ存在していて、適用対象になった場合に把握・指導することができるのか、監督事務の議論と平仄を合わせていく必要がある。
- ★かつては住み込みの家事使用人が想定されたのに対し、近年は通いの家事使用人が想定され、家事使用人の中の内訳が変わってきている。また、家事使用人の数が減っているのではないか。
≪現時点における議論の確認≫
◎労基法の労働者の議論と接続しているので、平仄を合わせながらも、労災保険の適用対象としていく必要があるのではないか。また、家事使用人の実態が分かるのか、強制適用した場合にどういう問題があるのかは精査する必要がある。
4. 暫定任意適用事業
- 暫定任意適用事業となっている農業についても強制適用すべきと考える。労働実態の把握が困難であることが理由とされてきたが、農業特有の労働慣行がみられなくなって、「労働実態」は少しずつ現代的になっているはずであり、「把握」の手段も多様化しており、保護の必要性もあるといえる。
- 農林水産業は強制適用するのがよい。労働基準法では農林水産業も強制適用であったとしても労働として見分けられる前提である一方で、労災保険法では労働者かどうか見分けられないというのは一貫性がない。海外では賃金支払いの点で他の業種と違うものにみなし保険料の仕組みを設けているケースもあるが、日本では農林水産業でも最低賃金法が適用されるので、この点でも特別に扱う必要はない。
- 逆選択の問題はあるが、過半数の希望や法人化した場合、事業主が特別加入している場合には強制適用となるところ、農林水産業については逆選択の弊害はある程度甘受されている。
- 全面適用とするには課題があるが、農業協同組合との協力により、適用の課題とされている適用事業の把握の困難性や事業主の事務負担などは解決する余地があるのではないか。
≪現時点における議論の確認≫
◎強制適用すべきという発言があったが、その課題について引き続き検討が必要。
安全センター情報2025年6月号