カスハラ抑止措置の例示追加とフリーランス対策の検討で修正/労働施策総合推進法等改正案が成立

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等のの一部を改正する法律案(内容については2025年3月号掲載の法律案要綱を参照)は、自民、立憲、維新、国民、公明による修正案が可決されたうえで、5月20日に衆議院本会議、6月4日に参議院本会議で賛成多数により通過、成立した。5月16日に衆議院厚生労働委員会、6月3日に参議院厚生労働委員会で、各々附帯決議が採択されている。
衆議院で可決された修正は、①職場における顧客等の言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置の例示の追加、及び、②特定受託事業者(フリーランス)が受けた業務委託に係る業務における顧客等の言動に起因する問題に関する施策の検討に関するものである。
職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者(「顧客等」)の言動であつて、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの(「顧客等言動」)により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、労働者の就業環境を害する当該顧客等言動への対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置その他の雇用管理上必要な措置を講じる事業主の義務の新設は、2026年中に施行される予定とされる。


衆議院で可決された修正案要綱

1 職場における顧客等の言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置の例示の追加
職場における顧客等の言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置の例示として、「労働者の就業環境を害する当該顧客等言動への対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置」を追加すること。(労働施策総合推進法新第33条第1項関係)

2 特定受託事業者が受けた業務委託に係る業務における顧客等の言動に起因する問題に関する施策の検討
政府は、特定受託事業者(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律第2条第1項に規定する特定受託事業者をいう。以下同じ。)が受けた業務委託(同条第3項に規定する業務委託をいう。)に係る業務において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該業務に関係を有する者の言動であって、当該特定受託事業者に係る特定受託業務従事者(同条第2項に規定する特定受託業務従事者をいう。以下同じ。)が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより当該特定受託業務従事者の就業環境が害されることのないようにするための施策について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとすること。(附則第8条の2関係)

3 その他
その他所要の規定の整備を行うこと。

衆議院で可決された修正案

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律案の一部を次のように修正する。
第2条のうち労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第30条の3を第32条とし、同条の次に二条を加える改正規定のうち第33条第1項中「もの」の下に「(以下この項及び次条第一項において「顧客等言動」という。)」を、「整備」の下に「、労働者の就業環境を害する当該顧客等言動への対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置」を加える。
第2条のうち労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第30条の3を第32条とし、同条の次に二条を加える改正規定のうち第34条第1項中「前条第一項に規定する言動」を「顧客等言動」に、「言動に」を「顧客等言動に」に改める。
附則第1条第1号中「第7条」の下に「、第8条の2」を加える。
附則第8条の見出しを削り、同条の前に見出しとして「(検討)」を付し、同条の次に次の一条を加える。
第8条の2 政府は、特定受託事業者(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号)第2条第1項に規定する特定受託事業者をいう。以下この条において同じ。)が受けた業務委託(同法第2条第3項に規定する業務委託をいう。)に係る業務において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該業務に関係を有する者の言動であって、当該特定受託事業者に係る特定受託業務従事者(同条第2項に規定する特定受託業務従事者をいう。以下この条において同じ。)が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより当該特定受託業務従事者の就業環境が害されることのないようにするための施策について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

衆議院附帯決議

政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずるべきである。

1 カスタマーハラスメント対策の実効性を担保するため、労働者が事業主に相談した場合に形式的でなく実効性のある対応が行われるような指針を策定すること。また、カスタマーハラスメントに関する業界団体のガイドライン策定等に当たっては、消費者、障害者等の利害関係者にも配慮するよう留意すること。
2 福祉事務所、病院等のサービスが途絶すると生存に影響が及ぶ施設等においては、その利用が途絶しない工夫を行いつつ、カスタマーハラスメント対策を講ずること。また、事業主が前述の施設等でのカスタマーハラスメント対策を講ずる際には、利用者に理解してもらえるように代理人の同席を認めることや弁明の機会を設けるなどの権利擁護の配慮を怠らないよう指導等を行うこと。
3 カスタマーハラスメント対策の強化のため、事業場において労働者と同一の場所において作業を行う労働者以外の作業従事者も含むカスタマーハラスメント対策の在り方について、本法の施行状況を踏まえ、必要な検討を行うこと。
4 他の事業主にカスタマーハラスメント対策の協力を求めた場合の他の事業主の対応について、協力を求めた事業主に調査を行うことにより、その実効性について検証を行い、必要な措置を講ずること。
5 地方自治体でのカスタマーハラスメント対策は住民の権利制限と表裏一体のため、制度設計に当たって総務省からの支援策を講ずること。また、国及び地方自治体でのカスタマーハラスメント対策について、本法の施行後一定期間が経過した後に実態調査を行い、実効性のある対策が取られているか等の運用面の確認等を行うこと。
6 措置義務の対象となるハラスメントに限らず、悪質なハラスメントは刑事罰等の対象となり得ることを踏まえ、都道府県労働局等が相談を受けた際は、真摯に対応すること。そのため、都道府県労働局等の相談支援の強化やハラスメントに関する紛争解決援助制度等の利用促進について検討を進めること。
7 性的指向や性自認(SOGI)の開示であるいわゆる「カミングアウト」を禁止する又は強要・強制する行為がパワーハラスメントに該当し得ること、顧客等から労働者に対するSOGIに関連するハラスメントがカスタマーハラスメントに該当し得ること及び就職活動中の学生に対するSOGIに関連するハラスメントの防止が必要であることをそれぞれ関連するハラスメント防止指針に明記し、もって広く事業主に周知啓発を行うこと。
8 パワーハラスメントを受けた労働者からの相談には適切に対応し、相談者の意向を丁寧に聴取しながら解決するよう事業主に周知徹底すること。
9 労働者の就業環境等を害する言動又は行為については、仕事の世界におけるハラスメントとして全て禁止することについて検討すること。また、我が国のハラスメント法制との整合性を精査した上で、ILO第190号条約の批准に向けて検討すること。特に、地方自治体の長及び議会の議員によるハラスメントの禁止に向けた地方自治体の取組を支援すること。
10 男女雇用機会均等法第7条に規定する間接差別の禁止の対象の拡充について、社会情勢の変化や国際機関の意見を踏まえつつ、機動的に検討を行うこと。
11 女性の職業生活における活躍に関する情報公表について、女性管理職比率及び男女間賃金差異の定義を明確化するとともに、客観的に比較可能なものとなるような計算方法を示すこと。男女間賃金差異については、企業規模にかかわらず全ての企業への公表の義務化並びに男女間賃金差異が一定割合を超えている企業についてその原因分析及び是正計画の策定・公表の義務化を含め、実効的な対策を検討すること。また、公表項目の充実及びよりわかりやすい公表の在り方を検討すること。
12 治療と仕事の両立支援を推進するため、新たに公表する指針の周知に努めるとともに、守秘義務に留意した上で、産業医と主治医の間における効果的な情報交換の在り方及び病気休職中の労働者からの相談窓口を明確にする等の職場復帰に向けた支援の在り方を検討すること。また、本法の施行状況を踏まえ、治療と仕事の両立支援の在り方について今後も検討すること。
13 疾病などを抱える労働者が適切な治療を受けながら働き続けられる職場環境の整備を含めた事業主の取組を支援するとともに、治療と仕事の両立に資するよう、医療機関の待ち時間の短縮などの好事例を周知すること。また、小規模事業場で働く労働者を支援する観点から、産業保健総合支援センター等の産業保健活動総合支援事業による企業支援の強化に取り組むとともに、労働者からの相談に応じ、適切な対応をするために必要な体制整備の支援に取り組むこと。

参議院附帯決議

政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずるべきである。

1 カスタマーハラスメント対策の実効性を担保するため、労働者が事業主に相談しやすい環境を整備するとともに、相談した場合に形式的でなく実効性のある対応が行われるような指針を策定するとともに、小規模事業者への必要な支援を行うこと。また、カスタマーハラスメントに関する指針の策定に当たっては、消費者、障害当事者から意見を聞いた上で検討すること。
2 障害者等が社会的障壁の除去を求めたにもかかわらずカスタマーハラスメントと判断され、合理的配慮の提供を受けられない場合は、事業者に問題を指摘して改善を促す必要があることから、相談窓口の周知を図ること。また、事業者がカスタマーハラスメント対策を実施するに当たり、障害者等への不当な差別的取扱いが生じないよう、事業者が正しい障害特性の理解、接し方を学ぶための周知広報ツールが活用されるように促すこと。
3 医療、介護分野等を含む公務・公共現場において、サービスが途絶すると利用者等の生命や心身の健康に重大な影響が及ぶ現場においては、その利用が途絶しないことに最大限の配慮を行いつつ、適切なカスタマーハラスメント対策を講ずること。
4 政府が定める指針に基づく措置を実行するに当たり、事業主はそれぞれの業種業態・顧客等対応業務の内容等に応じた最善のカスタマーハラスメント対策が講じられるよう、その対策の内容を検討、実行するに当たっては、現場の労働組合又は従業員代表、職場委員等の参加・参画の下で、実際に発生したカスタマーハラスメント行為の詳細や対応の結果、効果などを記録し、対策の継続的な改善のために活用するよう努めること。
5 カスタマーハラスメントのみならず、労働者の就業環境を害する言動を行ってはならないことについて、事業主その他国民一般の関心と理解を深めるため、広報活動、啓発活動その他の措置を講ずる際には、各事業分野の特性を踏まえつつ、労働者以外の者へのハラスメントも含め、厚生労働省と業所管省庁が連携して行うこと。
6 事業主が、実効性を伴うカスタマーハラスメントの抑止のための措置を講ずることができるよう、警察との連携、仮処分命令の申立てを含め、当該措置の具体的な内容を指針に示すとともに、各事業分野におけるカスタマーハラスメントの抑止に資するよう、必要に応じて業法の見直しを含め検討すること。
7 労働者に対するSNS等インターネット上での誹謗・中傷として、無断で撮影された労働者の顔写真や名札などの個人情報が拡散される事例が生じていることを踏まえ、労働者のプライバシーを保護し、又はハラスメント被害を訴えたことに対し周囲から誹謗・中傷を受ける二次被害を防ぐため、当該行為がカスタマーハラスメントに該当する行為であることを指針に明示することを検討すること。
8 公務・公共現場でのカスタマーハラスメント対策は国民及び住民の権利制限と表裏一体のため、制度設計に当たって人事院及び総務省からの支援策を講ずること。また、当該対策について、本法の施行後一定期間が経過した後に実態調査を行い、実効性のある対策が取られているか等の運用面の確認等を行うこと。
9 措置義務の対象となるハラスメントに限らず、悪質なハラスメントは刑事罰等の対象となり得ることを踏まえ、都道府県労働局等が相談を受けた際は、警察との連携、事業主に対する指導を含め、真摯に対応すること。そのため、都道府県労働局等の相談支援の強化やハラスメントに関する紛争解決援助制度等の利用促進について検討を進めること。
10 性的指向や性自認(SOGI)の開示であるいわゆる「カミングアウト」を禁止する又は強要・強制する行為がパワーハラスメントに該当し得ること、顧客等から労働者に対するSOGIに関連するハラスメントがカスタマーハラスメントに該当し得ること、就職活動中の学生に対するSOGIに関連するハラスメントの防止が必要であること及び求職者等に対するセクシュアルハラスメントだけでなく、パワーハラスメント、マタニティハラスメント、ケアハラスメントの防止が必要であることをそれぞれ関連するハラスメント防止指針に明記し、もって広く事業主に周知啓発を行うこと。
11 労働者の就業環境等を害する言動又は行為については、仕事の世界におけるハラスメントとして全て禁止することについて検討すること。また、我が国のハラスメント法制との整合性を精査した上で、速やかにILO第190号条約の批准に向けて検討を進めること。
12 女性の職業生活における活躍に関する情報公表について、女性管理職比率及び男女間賃金差異の定義を明確化するとともに、客観的に比較可能なものとなるような計算方法を示すこと。男女間賃金差異については、企業規模にかかわらず全ての企業への公表の義務化並びに男女間賃金差異が一定割合を超えている企業についてその原因分析及び是正計画の策定・公表の義務化を含め、実効的な対策を検討すること。また、一般事業主、特定事業主ともに、公表項目の充実及びよりわかりやすい公表の在り方を検討すること。
13 女性の職業生活における活躍の推進に当たり、女性の健康上の特性に留意する観点から、フェムテックの活用に取り組むこと。
14 治療と仕事の両立支援を推進するため、新たに公表する指針の周知に努めるとともに、守秘義務に留意した上で、産業医と主治医の間における効果的な情報交換の在り方及び病気休職中の労働者からの相談窓口を明確にする等の職場復帰に向けた支援の在り方を検討すること。また、本法の施行状況を踏まえ、治療と仕事の両立支援の在り方について今後も検討すること。
15 疾病などを抱える労働者が適切な治療を受けながら働き続けられる職場環境の整備を含めた事業主の取組を支援するとともに、治療と仕事の両立に資するよう、医療機関の待ち時間の短縮などの好事例を周知すること。また、小規模事業場で働く労働者を支援する観点から、産業保健総合支援センター等の産業保健活動総合支援事業による企業支援の強化に取り組むとともに、労働者からの相談に応じ、適切な対応をするために必要な体制整備の支援に取り組むこと。

右決議する。

安全センター情報2025年8月号