「恒常的長時間労働」で認定 山梨●「パワハラ」中で総合評価「強」

村山誠一 (山梨ユニオン)

2016年3月11日、Uさんの精神障害の労災申請が、不服審査で「都留労基署の不支給決定を取り消す」として認定されました。2014年3月15日、労災申請してから2年がたっていました。以下、経過と認定のポイントを報告させていただきます。

目次

1. 会社及び当該Uさん

会社は、観光地で有名な山梨県富士河口湖町にある河口湖チーズケーキガーデンです。本社は津具屋(長野県・高森町、子会社店舗16店、長野8店舗、山梨6店舗、京都2店舗)。関連会社の売上金回収や従業員の賃金支払いなど総務は津具屋本社が一手に行っていました。
Uさんは、2010年4月に、親会社である津具屋社長より「河口湖に、ひとつ店を作るからやってくれないか」とヘッドハンティングされ、2010年5月1日から河口湖スイーツガーデン(河口湖2号店)で働きはじめました。
「労働条件通知書」では、①勤務先「河口湖スイーツガーデン」、②職種は「販売及びそれに付随する業務」、③労働時間「交替制で午前8時から午後5時及び午前9時から午後6時、年間休日105日で1年単位の変形労働時間制、賃金は、残業割増賃金も規定されていました。2010年3月21日の「覚書」では、1か月は22日労働(1日8時間×22日=176時間)で176,000円(時給1,000円×176時間)でした。しかし、毎月22日労働日では、年間264労働日となり、年間休日は101日となります。ですから、「労働条件通知書」で記載する年間休日105日とあいません。また、「覚書」にある22日労働日は、1年間の変形労働時間制にしても違法な労働時間です。Uさんの働き方には、1年間の変形労働時間制の労使協定及び36協定が必要ですが、Uさんは見たことも締結したこともありませんでした。さらには会社就業規則もみたことがありませんでした。
実労働時間は当初より月30日や29日出勤の長時間労働をしています。そして、何時間働いても時間外・休日の割増賃金は支給されたことがありません。
賃金明細から見ると、賃金は、当初(ひとつの店の時は)時給1,000円、2011年12月から2つの店をまかされ、2012年1月から時給1,200円になりました。
Uさんの賃金は、賃金明細で理解しましたが、月額賃金=時給×労働時間となっております。Uさんは店舗をまかされた責任感と売り上げノルマがあるため仕事にのめりこんでいたため賃金明細もすべて確保しておくこともできませんでしたが、通帳に振り込まれた賃金から一覧を作成し、労働時間を推計することができました。
Uさんの職場は観光地ということもあって、年間の観光シーズンの時期と暇なときの労働時間の違いが大きいです。発症半年前は、冬から春先なので、労働時間は通常月の労働時間より幾分少なくなっています。
Uさんは、当初は1店舗の店長でしたが、もうひとつの店(河口湖1号店)の店長が売り上げが伸びないと責任を取らされ、転勤することになったので、2011年12月からは2つの店をまかされたため、いっそう忙しくなり長時間労働に拍車がかかりました。
こうした長時間労働が続くなか、2013年以降、出来事があり眠れなくなり、2013年6月1日の出来事でとうとう倒れ休業しました。休業中は、気が付いたら河口湖湖畔にいて「湖に身を投げて死にたい」などと希死念慮がありました。同年6月7日心療内科に診察し「適応障害」と診断され、現在まで病気休業中です。

2. 労災申請しようとしたら懲戒解雇

また、会社は、Uさんが労災申請に向けてタイムカードの調査を都留労基署に依頼し、都留労基署が会社にはいったとたん、2014年3月20日付けで代理人弁護士を通じてUさんに対し、内容証明郵便でもって懲戒解雇を行ってきました。以来、同年3月以降労災請求とともに懲戒解雇撤回裁判・仮処分裁判を闘ってきています。仮処分裁判は負けましたが、懲戒解雇撤回裁判は証人尋問を行っている最中です。ここでは労災関係について記載します。

3. 経過(その1)労災申請まで

(1)初回面談

Uさんは、友人から「ユニオンってところがあるらしいよ」と、教えてもらい、インターネットを検索しユニオンを探しだし、2013年7月末、山梨ユニオン(以下「組合」という)に東京のNPO労働相談センターを介して相談にこられました。当初、産業カウンセラーと相談員で面談し、2回目に私が面談しました。
Uさん面談時は、目は腫れぼったく、睡眠障害がうかがえました。休業している7月4日にも、総務部長から「Uさん、適応障害ってどういうことよ」と、大声で怒鳴られたとたんに、頭の中が真っ白になり少しの間、車の中で気を失ってしまいました。
Uさんは、労働時間記録はつけていなかったのですが、賃金明細を拝見し、Uさんの仕事の話を伺うと長時間労働をしていたことがうかがえました。賃金は時給×労働時間数で、何時間働いても時間外割増賃金分が支給されていないことがわかりました。面談時には、休業に基づく傷病手当金支給手続きもされていましたので、とりあえず、以下の2つのアドバイスを行いました。

  1. 主治医から診断書に、「会社がUさんに直接FAX電話することはしない」ことを記載してもらうこと。
  2. 傷病手当金によりゆっくりと休むこと。

(2)本社による 退職勧奨、傷病手当金支給手続き嫌がらせ

7月8日に本社総務部長より電話で、「うちの会社にはあわないので、会社に郵便局に人の奥さんがいるので、郵便局に戻れるように話してみるので…どう?」と、休職後も退職強要とも言える暴言がありました。
また、上記①のアドバイスにより、主治医の診断書を会社に提出したところ、会社総務部長による威圧的な電話・FAXはなくなりましたが、会社から委託された衛生コンサルタントが携帯メールを送ってくるようになりました。そこには「私は会社の犬ではありません」などと記載されていました。
その後、傷病手当金支給手続きを行っても、8月以降の傷病手当金が入金されなくなりました。津具屋本社が、支給手続きの嫌がらせを行っていたのです。
何度も、けんぽ協会長野事務所に行きましたが、嫌がらせは続きました。

(3)2013年10月-傷病手当金支給手続き問題嫌がらせ改善

ここに至って、組合として「(傷病手当金)支給手続きの嫌がらせをやめるよう」会社に文書で申入れましたら、改善されました。本来、精神障害で休業中の労働者には、ゆっくり休むことを優先したほうがよいので、労組公然化はあまりしたくなかったのですが、会社の対応があまりにひどいのでやむなく公然化し、支給手続きを行うことを求めた次第です。

(4)2013年11月-会社から退職勧奨、文書で「休業期間満了」との退職勧奨

(2)で記載しましたように8月頃から会社より口頭で退職勧奨がありましたが、11月に会社が委託している衛生コンサルタントより文書で退職勧奨が届きました。
文書には「休業期間が6か月」と案内され「Uさんの休業期間は12月初旬で休業期間満了で退職になります。退職してゆっくり治療されたらいかが」というものでした。しかし、Uさんは会社就業規則もみたこともなかったので、これを了解せず、組合から引き続き休業を文書で申し入れました。

4. 経過(その2)労災申請と会社による懲戒解雇

(1)2014年2月-療養補償申請準備

都留労基署から「療養補償給付を請求したら」とのアドバイスで申請を準備しました。具体的には、労災療養補償取得に向けて、タイムカードなど労働時間調査を求めました。都留労基署は、2月に会社に入る予定が雪により延期され3月はじめに、会社(本社である津具屋及び河口湖チーズケーキガーデン)に入ることになりました。

(2)2014年3月20日-都留労基署へ労災申請会社による懲戒解雇

それに対して、2014年3月17日付け懲戒解雇文書が届いたのは3月20日でした。この日は、都留労基署に労災申請手続きを、Uさんと私2人で一緒に行きました。そのときに「会社から封筒が届いているので」とUさんがいってきたので1人で見るのではなく一緒に見ましょうと言って開封しました。その内容は刑法253条業務上横領罪などで懲戒解雇するというものでありました。
このことは、労災療養補償にむけて、労働時間調査を行ったことへの会社からの意趣返しであり、小口現金のことについて言いがかりをし、就業規則の周知もなしに懲戒解雇した違法無効のものであります。また同時に、組合員としてのUさんへの不利益取り扱い、かつ支配介入でもあります。このことは労組法7条1号・3号違反の不当労働行為でもあります。

5. 2014年3月20日-「労災申立書」のポイント

精神障害の労災認定基準に沿って、「中」は2つ、「弱」は複数で総合評価「強」、を狙って申し立て。

(1)長時間労働発症前6か月-時間外労働80時間以上「中」を狙う

Uさんからの聞き取りではタイムカードの記録もなく正確な労働時間記録もありませんでした。そのため、賃金明細から逆算して労働時間を算出しました。何故なら、会社の賃金明細は、時給×労働時間=賃金、であったため、賃金を時給で割ると単純に労働時間が推計できるからでした。この場合、もちろん、一日8時間以上は時間外割増賃金、となりますが、会社は時間外割増賃金を一度も支給したことがない労働基準法違法実態であり、そもそも36協定もない労働基準法違反実態でした。
ここから、発症6か月前時間外労働は月平均80時間以上、と推計し「中」を狙いました。また発症6か月前に1回100時間以上の時間外労働があったので、「恒常的な長時間労働」が認定されれば、と考えました。このことが認定されれば総合評価は「強」となります。

(2)2013年6月1日出来事-部下からのパワハラは「中」を狙う

6月1日、出来事として、部下からのパワハラ行為、具体的には、勤務ローテーションが少なくされたことに対し、A部下が夫と夫の友人を連れて、女性ばかりの職場でもありUさんが店長をやっていた職場にきてUさんに対して2時間にわたって詰問したことがありました。
以上(1)(2)、この2つは、「中」を、さらに発症前6か月での時間外労働が100時間以上の恒常的な長時間労働もあるので総合評価「強」。もしくは最低でも「中」の複数の出来事として総合評価「強」を狙いました。また、2014年1月に主治医から意見書も提出していただきました。

6. 2015年2月10日-都留労働基準監督署不支給決定

(1)2015年1月23日-「山梨地方労災医員協議会・精神障害専門部会」意見書

山梨地方労災医員協議会・精神障害専門部会」の意見書でも、内容は、部下によるパワハラが「中」で「中」が1つ、ほかに「弱」が4つでした。
また、長時間労働については、会社が本人の職場部下同僚などに「被災者本人は店にいなくて仕事をしていたかどうかわからない」などとの文書を書かせ、その主張が反映したせいか、時間外の長時間労働についての評価がまったくありませんでした。
具体的には、タイムカードは下記の通りでした。
発症前6か月間合計462時間49分、1か月(89時間38分)、2か月(114時間12分)、3か月(77時間01分)、4か月(73時間41分)、5か月(34時間29分)、6か月(73時間48分)でした。
にもかかわらず、都留労基署は「発症前6か月間の時間外労働時間は、全て労働時間と評価できないタイムカード上の打刻時刻に基づき時間外労働時間を集計したものである」として、「当該時間外労働時間をもって心理的負荷の強度の評価を採用するのは適当ではないものと判断している」と決めつけました。これは、長時間労働をまったく認めていない不当な決定でした。

(2)他の出来事「弱」の認定は下記の4つ

  • 8項-達成困難なノルマが課された
    「売り上げ目標が達成できなくても降格や辞職などのペナルティは課されていなかった」
  • 9項-ノルマが達成できなかった
    未達成でも「ペナルティはない」
  • 17項-2週間以上にわたって連続勤務を行った
    「店舗内労働を専ら行う立場」にもかかわらず、「店舗内の労働実態はない」「連続勤務の労働密度は高いとは評価できない」
  • 7項-業務に関連し違法行為を強要された
    「違法と判断することはできない」「強要されていない」

(3)労働時間の評価-「特別な出来事」「出来事」の有無

当該の発病前6か月間の時間外労働時間は(1)のとおりです。
本来であれば、発症前6か月間において月100時間を超える時間外労働時間があれば、「恒常的長時間労働」が認定されるのですが、都留労基署長は、当事者の労働実態を聴取せずきわめて恣意的な認定で「不支給」を決定しました。
また、このときはUさんも記憶を充分取り戻せない健康状態から労働実態を十分説明できる状態ではなかったことも弱点としてありました。

7. 審査2016年3月11日-審査官「都留労基署の不支給決定を取り消す」、労災認定
出来事のパワハラを「中」、「恒常的な長時間労働」を認定総合評価「強」

(1)2015年8月-山梨労働局審査新証拠

労働時間について、Uさんは、会社タイムカードだけでなく、警備保障会社の鍵締めを行っていたことを思い出し、そのことで審査官にUさんの長時間労働の実態が徐々に明らかになってきました。発症前6か月間で、2週間以上の連続勤務が繰り返しあった事、労働時間の実態を精査することにより月100時間以上の時間外労働があったことが明らかにされてきました。Uさんは、思い出したことを2016年2月11日まで文書として提出してきました。

(2)2016年3月11日-審査決定文書から 認定された発症前6か月の労働時間

  • 1か月(2013年5月31日~5月1日)257時間47分
    休日9、所定労働176時間、時間外81時間47分
  • 2か月(2013年4月30日~4月1日)273時間47分
    休日9、所定労働168時間、時間外105時間47分
  • 3か月(2013年3月31日~3月1日)245時間56分
    休日9、所定労働176時間、時間外69時間56分
  • 4か月(2013年2月28日~2月1日)214時間52分
    休日8、所定労働160時間、時間外54時間52分
  • 5か月(2013年1月31日~1月1日)183時間37分
    休日9、所定労働176時間、時間外7時間37分
  • 6か月(2012年12月31日~12月1日)250時間49分
    休日9、所定労働176時間、時間外74時間49分

* 認定労働時間は審査官。
* 休日や所定労働・時間外労働時間は、こちらで計算

8. 審査労災認定のポイント

(1)「労働時間を評価しない」との判断を変更するのか否か

Uさんの勤務実態が、正当に評価されれば「発症前6か月の間に、1か月で100時間を超える時間外労働を行った」ことで「恒常的長時間労働」が認定され、「強」となるのですが、このことは、ストレートに認定され「恒常的長時間労働」として「強」になりました。審査では、Uさんの勤務実態を繰り返し述べました。審査官も勤務実態を独自に調査していただきました。

(2)「2週間以上の連続勤務」について

Uさんの勤務実態は、「2週間以上の連続勤務」どころか「1か月以上の連続勤務を行っていた」ことが明らかなのですが、これが認定されれば「強」になります。
審査では、「1か月以上の連続勤務」は、認定されませんでしたが、「2週間以上の連続勤務が」繰り返しあり「強」と認定されました。
Uさんはタイムカードを押していない日も仕事にでていましたが、それは「労働時間である」との法的理解が十分でなく、結果、「1か月以上の連続勤務」という主張が十分ではありませんでした。しかし、タイムカードからみても「2週間以上の連続勤務」が繰り返しあった、として認定されました。

(3)精神障害の労災認定実務要領

以上の(1)(2)は「精神障害の労災認定実務要領」問19、及び問26、両方とも当てはまる実態でした。
Uさんは、「適応障害」の症状が、裁判などがあると具合が悪くなったりする中で、店舗の警備記録を思い出し、その調査によって、審査官によってUさんの労働時間実態が評価されることになりました。そして、総合評価は「強」となりました。

9. 今後の課題

(1)休業補償請求

療養補償請求はしていたのですが、休業補償請求はしていませんでした。早速、都留労基署で手続きしたところ、「時効になるかも」とも言われましたが、都留労基署から厚生労働省に問い合わせたところ、2013年6月7日からさかのぼって支給されることとなりました。

(2)休業補償請求にむけ算定平均賃金

休業補償支給の算定平均賃金について、前述したように会社は時間外労働賃金を支給していません。ですから、審査で認定された労働時間から賃金を再計算することが必要です。
支給を急ぐことから、当面は会社が支給した賃金で請求手続きを行い、審査で認定された労働時間賃金で再計算した請求につき、都留労基署に検討いただくこととしました。

(3)懲戒解雇撤回裁判

最高裁判例にあるとおり、「就業規則が周知されていたかどうか」が最大の争点ですが、証人尋問で、会社側証人の証言によっても会社側の主張はねつ造であることが明らかになりつつあります。とはいえ油断は禁物です。
引き続き、不当な懲戒解雇に対し闘っていきますので、多くの皆様のご支援・ご協力をお願いいたします。

安全センター情報2016年8月