18歳でサムソン半導体に入社した労働者の腎臓病に「労災」 2023年09月14日 韓国の労災・安全衛生
18歳でサムソン電子の半導体工場に入社し、約15年間、有害物質にばく露しながら夜間交代勤務をし、慢性腎臓病に罹った労働者が、裁判所で業務上災害を認められた。裁判所は関連の研究結果が不充分でも、持続・繰り返しばく露されたのなら、障害を招く可能性が高いと判断した。科学的根拠が不充分であれば業務上疾病とは認めないという勤労福祉公団の判定に、警鐘を鳴らしたという評価だ。
エッチング工程のクリーンルームに閉じ込められて昼夜交代勤務
<毎日労働ニュース>の取材によると、ソウル行政裁判所は、サムソン電子半導体の工場を退社したAさんが、勤労福祉公団に対して提起した療養不承認処分取り消し訴訟で、原告勝訴判決を行った。
Aさん(47)は1995年5月、サムソン電子半導体器興工場に入社し、11年2月までエッチング工程(化学薬品の腐食作用を利用してウェハーの特定物質を除去する工程)を担当した。1999年からは四組三交代で、午後8時から翌日午前6時まで働いた。2011年からは新製品のマスク(Mask)供給管理業務を担当した。
作業環境は有害物質のばく露を避けられなかった。作業過程では、ヒ素などの重金属を含むトルエン・キシレン・トリクロロエチレン・ベンゼンに複合的にばく露した。産業安全保健研究院は、2004年と2007年に実施した職業環境測定の結果、エッチング工程では有機・無機化合物が生成される可能性があると確認した。研究院が2012年に発表した『半導体産業勤労者のための健康管理道標』にも、フッ酸・塩酸・過酸化水素・一酸化炭素などが有害危険要因と表記された。結局、入社15年に身体に異常が生じた。2010年5月頃、慢性腎臓病と診断された。2006年に発病した急性腎盂炎以外には、特に腎臓疾患はなかった。2014年に出産した後、腎臓の機能が急激に悪化し、「末期腎不全」と診断された。2016年11月には乳がんに罹り、手術を受けなければならなかった。
疫学調査では「有害物質へのばく露は低調」
2018年2月に退社したAさんは、乳がんには労災療養が承認されたが腎臓病の療養は拒否された。公団は「業務的な要因で腎臓疾患が発病または悪化したと認めるに値する科学的な根拠や立証が足りない」という業務上疾病判定委員会の審議結果を根拠に、労災不承認の判定を行った。産業安全保健研究院が公団の依頼を受けて2019~2021年に実施した疫学調査の結果が根拠となった。研究院は有機溶剤のばく露レベルは高くなかったと評価した。Aさんは2021年9月に訴訟を提起した。
裁判所の鑑定医(職業環境医学科)は、作業環境が腎臓病を誘発した可能性があるという所見を出した。「高くない濃度であっても、短くない期間、有害物質に持続的にばく露され、慢性腎臓疾患の進行に影響を与えかねない交代勤務を行い、傷病の発生または悪化に寄与した可能性がある」と判断した。有害物質のばく露量と強度が、腎臓病を誘発する程のレベルではないという業務上疾病判定委の多数意見とは異なる。
密閉空間・保護具の不着用、裁判所「研究不足の根拠にならない」
裁判所も業務上の疾病を認めた。Aさんが作成した環境手帳に書かれた「トリクロロエチレン使用」が根拠として作用した。裁判所は「原告がエッチング工程のオペレーターを担当しながら、腎臓疾患を誘発する有機溶剤にばく露した可能性は相当なものと見られる。」「1995~2003年までは有害因子へのばく露レベルを測定する資料がなく、先端産業の特性上、有害物質の問題点に対する認識が高まった点を見れば、研究で確認されるレベルよりも重大だっただろう」と解釈した。
特に、有害物質の濃度が許容基準未満だという研究結果だけで、腎臓病誘発の可能性がないとは断定できないと見た。裁判所は「作業当時、瞬間的に高い濃度の化学物質が発生する可能性を排除できない」とした。合わせて『密閉された作業場』も原因と指摘した。「事業場は外部からの空気の流入率が低く、有害物質が循環し、他の工程の作業者にも影響を与えかねない構造」と指摘した。化学物質の保護具が備わっていない点も指摘した。
昼夜交代勤務も腎臓疾患に影響を与えたと判断した。女性労働者は、交代勤務の時に慢性腎臓疾患の危険性が高くなるという研究結果が後押しした。「交代勤務による不規則な睡眠と生体リズムの混乱が、傷病の発病や進行を促進する原因として作用した可能性を排除できない」とした。長期間の勤務しながらばく露した有害物質と交代勤務が、相乗作用を起こしたということだ。
裁判所の鑑定医の所見を排斥する特別な事情もないとした。代理人のイム・ジャウン弁護士は「裁判所は、傷病を起こし得る様々な有害物質に複合的にばく露された事実は確認されるが、ばく露『レベル』が判る資料が存在しない場合、間接事実によってばく露のレベルを推断できるとした。」「科学的な根拠不足を理由に業務関連性を否認した公団の処分が、労災保険制度の目的と最高裁の判例の趣旨に合わないと判断した点で意味がある」と話した。
2023年9月14日 毎日労働ニュース ホン・ジュンピョ記者
http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=217275