重大災害処罰法の初年度、事故死亡者が39人減った 2023年1月20日 韓国の労災・安全衛生
昨年、職場で611件の重大災害が発生し、644人の労働者が命を失った。「重大災害処罰などに関する法律」(重大災害処罰法)施行前の2021年に比べ、事故件数は8.1%(54件)減り、死亡者は5.7%(39人)減少した。しかし、重大災害処罰法が適用される50人以上の事業所の事故死亡者は256人で、法施行以前より3.2%(8人)増加した。なぜこのようなことが起こったのだろうか。
重大災害処罰法適用事業場の死亡者がなぜ増えたのか
300人以上の事業場死亡者10人中3人が火災・爆発で
大型事故77%増加
19日に雇用労働部が発表した『2022年労働災害現況』によると、昨年の労災死亡事故は611件で、644人が死亡した。法施行以前の2021年と比較すると、死亡者は39人、事故件数は54件減少した。事故件数が減ったのに比べて死亡者数の減少が少ない理由は、二人以上の命を奪った大型事故が増えたためだ。昨年、火災・爆発・倒壊などの大事故は13件で、2021年より5件増えたが、これによる死亡者数(39人)は77.3%増加した。
大型事故は主に300人以上の大企業に集中した。300人以上の事業場での事故死亡者は47人で、2021年に比べて30.6%(11人)増えた。この内、火災・爆発事故による死亡者が29.8%(14人)の割合を占めている。
大企業での大型重大災害の増加は、50人以上の事業場で事故死亡者の数が増えた直接的な背景だ。昨年、50人以上の事業場で230件の労災死亡事故が発生し、256人が命を失った。2021年から8人(3.2%)増えたが、事故件数は4件(1.7%)減少した。
ソウルサイバー大学(安全管理学)のカン・テソン教授は、「重大災害処罰法の施行以後、全体の事故件数が減ったことは肯定的」とし、「墜落や挟まれ事故は短期間の安全措置で改善できるが、爆発・崩壊事故は老朽化した施設を解決するなど、根本的で構造的な対策が必要なので、事故予防に時間がもう少しかかるおそれがある」と解説した。
実際、昨年の墜落事故は2021年より47件(14.9%)減った268件、挟まれ事故は9件(9.1%)減った90件と集計された。一方、火災・爆発事故は57.1%(16件)増の44件、倒壊事故は76.2%(16件)増の35件だ。
火災・爆発の重大災害は、主に施設が老朽化した国家産業団地に集中した。2月に麗水産業団地で、熱交換機が爆発して4人が命を失い、4月にはSKジオセントリック蔚山工場で、清掃中の火災で2人が死亡した。最近3年間、大山と蔚山、麗水などの国家産業団地で、火災・爆発事故だけで7件が発生し、13人の口惜しい命が消えた。
製造業だけでなく、全業種にわたって火災・爆発事故が発生したことも注目すべき点だ。昨年9月には、大田アウトレットの火災事故で7人の労働者が目を閉じた。また、8月の甘川港バージ船の爆発事故、11月の大邱LPG充電所の爆発事故で、それぞれ2人が死亡した。
死亡者が10%以上減少した50人未満の事業場
元請け経営者の責任を強調した重大災害処罰法の「トリクルダウン効果」
昨年の重大災害発生現況での大きな変化は、50人未満の事業場に現れた。依然として重大災害の60.2%がこれら中小規模の事業場に集中しているが、昨年の事故は50件(11.6%)、死亡者は47人(10.8%)に減少した。特に5人以上、50人未満の事業場での事故死亡者は67人で、2021年から14人(17.3%)減少した。
小規模事業場の労災死亡者は、建設・製造・その他業種など、全産業の全てで減った。新型コロナウイルス感染症の社会的距離拡大戦略の解除で景気が回復し、就業者数が大幅に増加したことを考慮すれば、50人未満の事業場の重大災害減少の実質的な効果は、更に大きいものと見られる。
カン・テソン教授は「元請けの経営責任者の、下請けの安全保健管理責任を強化した重大災害処罰法の施行による落水効果」だと解釈した。最高経営者の労災死亡に対する関心が高まり、重大災害処罰法の施行に対するマスコミ報道が増え、中小事業場の警戒心も高くなったと推論できる。
小規模建設の景気低迷の影響だという分析も出ている。昨年の建設業での事故死亡者は341人で、前年から18人(5%)減少したが、特に、1億ウォン未満の小規模建設現場で、前年から19人(19%)減少し、最も減少幅が大きかった。1億~50億ウォン以上の建設現場では、むしろ死亡者が0.7%(1人)増えた。
韓国労働安全保健研究所のソン・ジンウ常任活動家は、「50人未満の事業場の死亡事故が減ったのは、色々な影響があるだろうが、建設景気の低迷も見逃せない」とし、「事故死亡万人率など、死亡事故全般に対する分析が必要だ」と指摘した。
299件の重大災害を捜査、拘束捜査は0件
「尹錫悦政府の処罰緩和のシグナルで災害が増加」
労働部は昨年、労災死亡事故の中から、重大災害処罰法の適用対象として229件を捜査した。この内、177件は依然として捜査中だ。事件処理率は22.7%に過ぎない。
労働部が捜査を終えて検察に渡した事件は34件、この内、検察が起訴した事件は11件に止まる。内偵終結処理をされた事件は18件で、44.4%は「法違反なしが明確だ」という理由で終結した。それ以外は「法適用対象ではない」3件、「支配・運営・管理範囲外」3件、「個人の持病で死亡など、その他」4件だ。
検察に事件を送検した33件の内、50%は300人未満の中小企業か、120億ウォン未満の建設現場だ。大手法律事務所を動員して法律防御に力を入れた1千人以上の大手企業は4件に止まった。工事金額が800億ウォン以上の事業所も1件に過ぎない。
労働部のチェ・テホ労災予防監督政策官は18日の記者ブリーフィングで、「企業が有害要因を確認して改善するなど、事前的な予防努力が強化されると期待したが、実際には最高経営者(CEO)の処罰を免れる部分に集中して活動がされたようだ」とし、「早く起訴されて判決が出れば、全般的に企業に与えるメッセージが大きかったはずだが、事例が出てこないことで、緊張度が落ちるという影響があったと見られる」と説明した。
尹錫悦政府の重大災害処罰法の改正推進が影響を与えたという分析も出ている。民主労総のチェ・ミョンソン労働安全保健室長は、「上半期までは減少傾向を見せていた重大災害が、尹錫悦政府が処罰緩和のシグナルを出した7月以後から増加し始めた。」「企画財政部を前面に立てた重大災害処罰法改悪のメッセージが、悪い影響を与えた」と批判した。
2023年1月20日 毎日労働ニュース キム・ミヨン記者
http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=213105