定年退職後同一企業に再雇用された労働者が再雇用後に石綿関連疾患等の遅発性疾病を発症した場合の給付基礎日額の算定について(基補発0626第1号 平成29年6月26日)

本通達は、定年退職後に遅発性疾病(石綿関連疾患等とされるが、石綿関連疾患に限らない)を発症したときに、定年退職後に原因ばく露がなく、かつ、定年時にいったん離職したと判断される場合は、給付基礎日額の算定は定年退職前の賃金額を基礎として算定されるとしたもの。2016年7月20付で出された労働保険審査会裁決のあとに、新たに出された通達である。
定年後に同一企業に雇用されている場合の給付基礎日額算定にあたって特に留意が必要な通達である。

基補発0626第1号
平成29年6月26日

都道府県労働局労働基準部長殿

厚生労働省労働基準局補償課長

定年退職後同一企業に再雇用された労働者が再雇用後に石綿関連疾患等の遅発性疾病を発症した場合の給付基礎日額の算定について(2017.06.26)

労働者災害補償保険法第8条に基づく給付基礎日額のうち、業務上疾病に係る給付基礎日額の算定に当たっては、昭和50年9月23日付け基発第556号「業務上疾病にかかった労働者に係る平均賃金の算定について」等により指示されているところであり、労働者がその疾病の発生のおそれのある作業に従事した最後の事業場(以下「最終ばく露事業場」という。)を離職している場合には、労働者がその疾病の発生のおそれがある作業に従事した最後の事業場を離職した日(賃金の締切日がある場合は直前の賃金締切日)以前3か月間に支払われた賃金により算定した金額を基礎とし、算定事由発生日までの賃金水準の上昇を考慮して当該労働者の平均賃金を算定することとされている。

このうち、定年退職後同一企業に再雇用された後に石綿関連疾患等の遅発性疾病を発症した場合の給付基礎日額の算定に当たっては、最終ばく露事業場を離職した日がどの時点か、個々の事案に即して判断しているところである。これに関し、平成28年7月20日労働保険審査会裁決において、定年退職後再雇用されているものの、役職や勤務日数、賃金額、業務内容等の変更により、定年退職を契機として、一旦会社を離職し、その後、新たな会社と従前とは異なった内容の労働契約を締結して、会社に改めて再雇用されたものとみるのが相当として、定年退職時を最終ばく露事業場を離職した日と判断されたところである。

このため、労働保険審査会の裁決で示された、定年退職後同一企業に再雇用された後に石綿関連疾患等の遅発性疾病を発症した場合の給付基礎日額の決定については、当面の間、本省で個別に判断することとするので、現在調査中のものも含め、該当事案を把握次第、本省に報告すること。

(参考)

平成28年7月20日労働保険審査会裁決
(定年退職後に契約社員として再雇用された労働者の給付基礎日額)について

1 事案の概要

被災者は、昭和44年に入社し、アスベストパッキンの加工業務等に従事し、平成24年7月に定年退職となり、同年8月から平成25年6月まで契約社員として勤務していたが、退職後の同年9月に「悪性胸膜中皮腫」と診断された。
労働基準監督署長は、当該疾病の発症が業務上によるものとして休業補償給付の支給決定を行い、給付基礎日額を契約社員の時の賃金を基に算定したところ、被災者は当該給付基礎日額を不服としたもの。

2 裁決の概要

(1)定年退職後、請求人は、正社員から契約社員へと変更されるとともに、役職も解かれている。
(2)また、請求人の給与明細書などに記入された就労実態をみると、1日の労働時間に変更は認められないものの、1か月当たりの勤務日数は正社員当時20日前後であったものが、契約社員となってからは15日となり、時間外労働や休日労働にも従事していない。
(3)さらに、給与面においては、正社員当時は基本給のほか無資格手当等多くの手当は支給されていたが、契約社員になると、基本給と通勤手当が支給されているにすぎず、基本給についても324,500円から100,000円へと大幅に変更されている。
(4)なお、請求人は契約社員となってからは、石綿にばく露される作業には従事していない。
(5)このように、正社員であった時と契約社員であった時とでは、就労実態大きく異なっていることからすると、請求人は、定年退職を契機として、一旦会社を離職し、その後、新たな会社と従前とは異なった内容の労働契約を締結して、会社に改めて再雇用されたものとみるのが相当である。
(6)そうすると、審査会としては、請求人は、定年退職時において、最終ばく露事業場を離職したものとするのが相当であると判断する。

安全センター情報2018年1・2月号