論点整理から中間報告とりまとめへ、メリット制存続の正当化図る意図【第7回労災保険制度の在り方に関する研究会】

7回労災保険制度の在り方に関する研究会が6月18日に開催され、「労災保険制度の在り方について(論点整理)」が示されて議論が行われた。ゴチック体で示された内容を以下に紹介する。
今後、中間報告とりまとめに進むものと思われるが、具体的な法改正にどのくらいつながるかどうか注目される。一方で、例えばメリット制について、「メリット制には一定の効果があると意見が複数あった」、また、労災隠しとの関係では「メリット制度の意義を失うほどの悪影響があるものではないと言えるのではないかとの意見があった」ことを記録に残して、存続の正当化を図りたい意図がうかがわれる。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_46695.html

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目次

Ⅰ. 適用について

1. 労災保険の適用範囲について

論点① 強制適用の範囲について

◆労働者以外の就業者に労災保険を強制適用することについて、検討課題とし得るとする意見と検討課題とするのに消極的な意見の双方があった。

検討課題とし得る理由としては、

・報酬を得て働く人を強制適用とすることは考えられるものの、法制度の根幹を見直すことになり、フリーランスに関する社会的動向や労者性に係る議論等を踏まえながら長期的な検討課題とし、短期的には特別加入を拡大していくことが適当

・フリーランスにとって事業主に類する者に、保険料を一定程度負担させることも検討してはどうか

一方、 検討課題とするのに消極的な意見の理由としては、

・ 暫定任意適用事業が存続している状況下で、労働者以外に対象を広げことは不適当
・ 自ら長時間働くことを選択した経営者と、業務命令によりやむなく長時間働く労働者では状況が大きく異なる
などといった意見があった 。

論点② 保険料負担の在り方について

◆労働者以外の就業者に労災保険を強制適用する場合の保険料負担ついて、 災害のリスクを自ら負わずに利益を得ているという観点から、発注者やプラットフォーマーに拠出させることも検討し得るとの意見があった一方、当事者間契約の自由に委ねるべきことや報酬への転嫁リスクがあることを理由に適当でないとする意見もあった。
◆また、労働者以外の者が特別加入している場合には、特別加入に係る負担分を発注者が自主的に経費に上乗せすることは望ましい取組であるという意見や、特別加入の必要性が高い業種にあっては、加入へのインセンティブを課したり、注文者への保険料負担を求めたりすることもあり得るという意見があった。

2. 家事使用人への災害補償責任及び労保険法の適用について

◆家事使用人に労働基準法が適用される場合には、災害補償責任及び労災保険法も適用することが適当とする意見が複数あった 。
◆具体的な適用においては、事務負担の軽減等の課題を精査する必要があるとの意見があった。

3. 暫定任意適用事業

◆現行の暫定任意適用事業については、強制適用すべきとの意見があった。
◆全面適用とするには課題があるが、適用事業の把握の困難性や事業主の事後負担などの課題を解決する余地はあるのではないか、との意見があった。

4. 特別加入団体

論点① 特別加入団体が災害防止の役割を担うことについて

◆①特別加入団体に災害防止措置を義務付けるべきとする意見と、②義務付けではなくとも災害防止への取組を期待し得るとの意見があった一方、③特別加入団体の取組には限界がある、あるいは、かえって特別加入促進の妨げになる等の意見があった。

論点② 特別加入団体の要件等の法令への規定について

◆承認要件に法令上の根拠を与え、当該要件を満たさなくなった場合に保険関係の消滅ができるようにする必要があるとの意見があった。
◆特別加入団体の保険関係の取消が特別加入者に大きな影響を及ぼすことから、保険関係の消滅に先立ち、当該団体に改善の要求をする等の段階的な手続を設けてもよいのではないか、との意見があった。

Ⅱ. 給付について

5. 遺族(補償)等年金

論点① 遺族(補償)年金等の趣旨・目的をどのように考えるのか

◆「被扶養利益の喪失の補填」と解する意見のほか、 「永久的全部労働不能による損失の補填」、「遺族の生活水準の急激な低下を緩和する」もの、あるいは「労働者が得るはずであった賃金の代替物」であると解する余地もあるとの意見があった。

論点② 給付の要件について

(1) 生計維持要件について

◆①労災保険における「被扶養利益の喪失の補填」との趣旨との関係で不合理ではないとの意見、②生計同一の意味を含む独自のものとして運用されているとの意見、③現行の取扱いが妥当なのか検討が必要ではないか、との意見があった。

(2) 労働基準法の遺族補償との関係について

◆遺族(補償)等年金の支給対象者は労働基準法の遺族補償の対象者よりも限定しており見直すべきではないかとの意見があった。
◆労働基準法より労災保険法の補償の方が下回るべきではなく、両方の整合性を確保するべきとの意見があった。

論点③ 夫と妻の支給要件の差について

◆夫と妻の支給要件の差については、その正当性は失われており、要件が異なる状態は解消していくことが必要との方向性では、いずれの意見も一致していた。
◆要件が異なる状態の具体的な解消方法については、
・ 夫と妻の支給要件についても、いずれも年齢要件は不要とする意見
・ 妻の優遇を見直し、夫と同様に年齢要件を設けるのが適当とする意見
・ 遺族(補償)等年金の配偶者の年齢要件の見直しについては趣旨目的を考慮する必要があるとの意見
があった。

論点④ 給付の期間について

◆制度趣旨を永続的労働不能による損失の補填と捉えた場合や生活保障としての側面を有すること等を踏まえれば、長期給付が望ましいとの意見や有期化には躊躇せざるを得ないとの意見があった。
◆一方で、遺族(補償)等年金の趣旨をが遺族が自身の就労によって自立するまでの生活を支えるものと考え、将来的には給付期間を有期化することが望ましいとの意見があった。

論点⑤ 特別加算について

◆妻への特別加算については、創設当時の考え方は現在では妥当せず、妻のみに加算を設ける合理性はないとの意見があった。
◆加算の在り方の具体的な見直しについては、「配偶者と未成熟子に対して補償を充実することはあり得る」、「障害への加算の意義と合わせて考える必要がある」又は「遺族(補償)等年金の給付水準や加算が必要となる者の範囲についての議論が必要」などの意見があった。

6. 遅発性疾病に係る保険給付の給付基礎日額の算定方法について

(1) 就業期間中に発症したケースでは、発症時の賃金を給付基礎日額の算定根拠とし、それが最終ばく露事業場の離職時賃金に満たない場合には最終ばく露事業場の離職時賃金を給付基礎日額の算定根拠とすることについて

◆社会保障的性格や生活保障の観点から、発症時の賃金を原則とする取扱いが適切であるとの意見があった。
◆発症時の賃金が最終ばく露事業場離職時賃金に満たない場合の取扱いについては、
・ 労働基準法の災害補償責任に基づいて最終ばく露事業場離の職職時賃金を最低限補償するとの意見
・ 労災保険が生活保障の趣旨から例外的に水準を拡大して最終ばく露事業場の離職時賃金を算定の根拠とするとの意見
・ 労災保険においては最終ばく露事業場離職時の賃金を最低基準とする必要はないの意見
があった。

(2) 未就業中に発症したケースで、最終ばく露事業場の離職時の賃金をもとに給付基礎日額を算定することについて

◆未就業中に発症した場合に、最終ばく露事業場の離職時賃金をもとに給付基礎日額を算定することについては、許容し得るとの意見があった。
◆その際、労災保険法が想定していな場面とも考えられることから、今後の議論が必要との意見もあった。

(3) その他の意見

◆その他、メリット制の適用方法、年齢別賃金スライドの導入可能性、老齢厚生年金等との併給調整について言及する意見があった。

7. 災害補償請求権・労災給付請求に係る消滅時効

◆消滅時効期間の見直しについては、請求手続自体が疾病の増悪を招く場合には一定の配慮が必要との意見があった一方、消滅時効期間の見直しを前提とせずに適切な周知広報等を実施するべきとの意見もあった。
◆仮に消滅時効期間を見直すのであれば、
・ 請求手続自体が疾病の増悪を招く場合に特例を設けるという意見
・ 労基法の改正経緯や動向を踏まえれば特例を設けるのではなく一律に時効期間を延長することが適当という意見
があった。
◆他の社会保険制度と労災保険制度との相違については、請求手続や認定手続の特殊性を理由として労災保険制度特有の事情が見出せるという意見があった一方、他の社会保険制度との差別化は困難であり、仮に消滅時効期間を見直すのであれば、制度横断的な検討が必要であるとの意見もあった。

8. 社会復帰促進等事業

(1) 特別支給金の処分性について

◆特別支給金の処分性については、不服申立ての機会の必要性を踏まえ、認めることが妥当との意見があった。

(2) 特別支給金の保険給付化について

◆特別支給金の保険付化については、特別支給金が実態として保険給付と一体化していることや補償の安定性を確保すべきであること、さらに事業主の二重負担を是正すること踏まえ、保険給付化することが本来の姿であるという意見があった一方、ボーナス特別支給金については、不確定要素に左右されるボーナスを算定基礎とすることから保険給付して算定することが非常に難しいのではないかという意見があった。

(3) 社会復帰促進等事業に係る不服申立を労審法〔労働保険審査官及び労働保険審査会法〕の対象とすることについて

◆社会復帰促進等事業に係る不服申立ての取扱いについては、国民の分かりやすさ、手続きの煩雑さを解消する観点から、労審法の対象とする事が適当との意見があった。

Ⅲ. 徴収等について

9. メリット制

論点① メリット制の効果について

(1) メリット制には災害防止の効果があるといえるか

◆メリット制には一定の効果があると意見が複数あった。
◆一方で、メリット制の効果は認められるものの、一定の留保が必要との意見があった。

(2) +40%が続く事業場への対応について

(ゴチック体の記載なし)

(3) メリット制と労災隠しの関係について

◆調査範囲が限られた中での結果ではあり また一定の留保を前提とするが、メリット制度の意義を失うほどの悪影響があるものではないと言えるのではないかとの意見があった

論点② 脳・心臓疾患や精神障害に係る給付の取扱いについて

◆これらの疾病に係る給付をメリット制の算定対象から除外する理由はないと意見があった。
◆一方で、事業主が予防努力をしても業務上と認定される疾病に係給付については、公平性の観点や災害防止の観点から算定対象から除外してもよいのではないかとの意見もあった。

(2) 高齢者や外国人に係る給付の扱いその他について

◆脆弱性のある労働者をメリット制の算定対象から除外すれば、災害予防行動が取られなくなる懸念があることや、当該者に係る問題は雇用政策の中で扱うべきである等の理由から、算定対象から除外すべきではないとの意見があった。
◆一方で、脆弱性のある労働者を雇用した使用者に結果的に重い保険料負担をさせることは公平性を欠くと考えられることや高齢者や障害者については政府が雇用促進していることとの整合性の観点から、算定対象から除外する、又は一定の工夫をする余地があるのではないかと意見があった。
◆また、外国人は外国籍であることをもって特別な脆弱性は考えにく、特別な扱いをする理由はないとの意見があった。
◆災害復旧の事業に係るメリット制の取扱いについては、安全衛生対策は事業主の責任であことや事業に伴い発生するコストを他の事業主に分散させるべきでないことから、特例を設けることに否定的な意見があった一方、災害時のエッセンシャルワーカーにそのまま適用することの適否について論点とするべきとの意見もあった。

10. 徴収手続と使用者への情報提供

論点① メリット制適用事業主への労災保険率の算定基礎となった情報提供について

◆保険料を負担している事業主に対しては、手続保障の観点からも、保険料の前提となる事実を知らせることは重要との意見があった。
◆一方で 、労働者にとって機微な一定の情報ついては、慎重に取り扱うべきとの意見があった。

論点② 支給決定(不支給決定)の事実を事業主に伝えることについて

◆手続保障の観点や早期の災害防止を図る観点から、保険料を負担する事業主に対して、保険料の前提となる支給・不支給の事実を知らせることは重要との意見があった 。
◆一方で 、情報提供を行うに際しては、将来のメリット制の不服申立を見据えて事業主から被災労働者等に接触が行われる等、関係者にとって追加的な負担が生じる懸念には留意する必要があるとの意見もあった。

安全センター情報2025年8月号