日本の肺がん死亡の24%が職業リスクに起因するもの~職業リスク要因による世界と日本の疾病負荷:世界疾病負荷(GBD2021)推計データ

世界疾病負荷研究(GBD)とは

世界疾病負荷(GBD)研究は、現在まででもっとも包括的な世界的観察疫学研究である。ワシントン大学(米国シアトル)の健康指標評価研究所(IHME)が主導するGBD研究は、21世紀に世界中の人々が直面している健康上の課題の変化を理解するための強力なリソースを提供している。…
ランセット誌はIHMEと提携し、2010年から、GBD研究による世界的保健推計を発表している。2018年12月に世界保健機関とIHMEは、GBDの妥当性を強化するとともに、その政策との関連性・有用性を向上させるため、世界的保健推計の単一のセットを生み出すために協力する正式な提携関係を発表した。」

https://www.thelancet.com/gbd/about

GBD2021の発表

ランセット誌403巻10440号は、以下の6つの論文を発表した(GBD2021サマリー論文と呼ばれている、すでに関連論文もいくつか発表されており、今後も増えるだろう)-GBD2021の発表である。

https://www.thelancet.com/gbd/collection

  1. 204か国・領域及び811地方における世界年齢-性別死亡率、平均余命、及び人口推計 1950~2021年、並びにCOVID-19パンデミックの影響:2021年世界疾病負荷研究のための包括的人口統計学的分析(人口統計-3月11日)
  2. 204か国・領域における世界出生率 1950~2010年、及び2100年までの予測:2021年世界疾病負荷研究のための包括的人口統計学的分析(出生率・予測-3月20日)
  3. 204か国・領域及び811地方における288の死亡原因の世界負荷及び平均余命の分解 1990~2021年:2021年世界疾病負荷研究のための系統的分析(死亡原因-4月3日)
  4. 204か国・領域及び811地方における371の疾病及び傷害の世界罹患率、有病率、障害生存年(YLDs)、障害調整生命年(DALYs)、及び健康余命(HALE) 1990~2021年:2021年世界疾病負荷研究のための系統的分析(疾病・傷害-4月17日)
  5. 204か国及び811地方における88のリスク要因についての世界負荷及び証拠の強さ 1990~2021年:2021年世界疾病負荷研究のための系統的分析(リスク要因-5月18日)
  6. 204か国・領域における疾病負荷シナリオ 2022~2050年:2021年世界疾病負荷研究のための予測分析(予測-5月18日)

https://www.thelancet.com/gbd/collection

5月18日にランセット誌に発表された別の論文「2021年世界疾病負荷研究の知見」は、次のように「要約」している。

「ランセット誌にわれわれは、一連の6つの論文で、疾病・傷害・リスク要因世界負荷研究(GBD)2021年の知見を発表した。GBDは、1991年にはじまり、過去30年以上にわたって、世界における健康の包括的実証的評価を提供してきた。GBDは、より多くの原因、リスク、所在を含めるとともに、年齢グループ層分析の精度を改善するなど、回を重ねるごとに詳細さを増し、また、予測研究や抗菌薬耐性負荷の推計など、拡張研究の完成を可能にしてきた。このようなより大きな詳細は、一次データソースが大幅に増加したために可能になったもので、GBD2021では328,938の異なるソースが使用され、6,070億以上の推計を算出することができた。しかし、注目すべきことに、リソースの少ない環境では依然として多くのデータギャップが残っている。これら6つの論文にわたるわれわれの治験のハイレベルな要約を公表することで、世界的な、年齢、性、所在、及び社会人口学的指標に基づく諸グループ間のもっとも顕著な傾向及び格差の主要な次元についての概要を、読者に提供する。GBD2021では、COVID-19パンデミックの影響が多種多様なメカニズムを通じて中心的なテーマとなっているが、GBDは、世界が大きな健康上の衝撃を経験している間も、他のマクロトレンドは続いていることを私たちに思い出させてくれる。GBDのための予測に関する論文は、肥満の蔓延、物質使用障害の増加、気候変動などの要因により、将来のトレンドは過去のトレンドとは大きく異なる可能性があることも強調する一方で、次世代の健康の軌道を変える絶好の機会があることも強調している。」

合わせて、IHMEが運営する「GBD比較データーベース」も更新されて、国別データも含めて、様々な推計データを抽出できるようになっている。
https://vizhub.healthdata.org/gbd-compare/

疾病・傷害(原因)のヒエラルキー

論文④(疾病・傷害)のタイトルにあるように、GBD2021では371の疾病・障害(原因)が対象とされており、365の原因は非致死的結果をもち、288の原因は致死的結果をもっている。

論文③(死亡原因)は、「GBD疾病・傷害のヒエラルキー」を以下のように説明している。

「GBDは、疾病・傷害を、致死的な原因及びそうでない原因の双方を含む、4つのレベルに分類している。レベル1の原因には、3つの大まかなカテゴリー(A. 伝染性、母体、新生児、及び栄養[CMNN]疾病;B. 非伝染性疾病[NCDs];及びC. 傷害)が含まれ、レベル2ではこれらのカテゴリーをさらに22の原因のクラスターに細分化し、さらにレベル3及びレベル4の原因に細分化する。もっとも詳細なレベルでは、288の致死的な原因が推計されている。レベル別の死亡原因の完全なリストについては、付録1(表S2)を参照されたい。GBD2021では、初めて12の[新たな]死亡原因を個別に報告している。COVID-19[A.2.5.]、OPRM[D. その他パンデミック関連の結果]、肺動脈性肺高血圧症、及び9種類のがん;肝芽腫、バーキットリンパ腫、その他の非ホジキンリンパ腫、眼がん、網膜芽細胞腫、その他の眼のがん、軟部組織・その他の骨外肉腫、骨・関節軟骨の悪性新生物、神経芽腫・その他の末梢神経細胞腫瘍である。」

A.2.5. COVID-19による死亡数は、2019年までは0で、世界では、2020年4,801,012、2021年7,887,554(全死亡の11.6%)、日本では、2020年3,477、2021年14,887(全死亡の1.0%)。D. その他パンデミック関連の結果による死亡は、2019年までは0で、世界では、2020年1,348,067、2021年2,081,725、日本では、2020年12、2021年8,489と推計されている。

また、COVID-19によるDALYs数は、2019年までは0で、世界では、2020年123,352,762、2021年212,009,596(全DALYsの7.4%)、日本では、2020年57,803、2021年242,928(全DALYsの0.6%)。その他パンデミック関連の結果によるDALYs数は、2019年までは0で、世界では、2020年39,413,336、2021年77,380,460、日本では、2020年902、2021年107,743と推計されている。

リスク要因のヒエラルキー

本特集と主に関係するのは論文⑤(リスク要因)であるが、「GBDリスク要因のヒエラルキー」については、以下のように説明されている。

「GBDは、すべてのGBDリスク要因を4段階のリスク要因階層に分類し、さらに全リスク要因を総合した包括的な分類もある。レベル1では、リスク要因は、①環境・職業リスク、②行動リスク、③代謝リスクに分類される。レベル1の諸分類は、レベル2で、20のリスク要因またはリスク要因の集合(例えば、食事リスクと大気汚染)に細分化される。レベル3では、レベル2のリスクのうち9つがさらに42のリスク要因またはリスクの集合に細分化され、レベル3には、さらに細分化されていない11のレベル2リスクも含まれる。もっとも詳細なレベルであるレベル4では、レベル3リスクのうち5つがさらに22の具体的なリスク要因に細分化され、またレベル4には、レベル3で細分化されなかった11のレベル2リスクと、レベル4でさらに細分化されなかった37のレベル3リスクも含まれる。この階層構造により、低出生時体重のような個々のリスク要因の評価だけでなく、小児・母体栄養不良や行動リスクのような政策上関心のあるリスク要因グループの評価も可能になる。全体で、GBD2021は、合計88のリスク(全リスクをまとめたひとつの集約プラス、3つのレベル1リスク、20のレベル2リスク、42のレベル3リスク、22のレベル4リスク)をカバーしており、GBDで初めて報告されることになったひとつのレベル3リスク;自動車排出ガスによって大きく影響される追加的大気汚染指標である二酸化窒素を含んでいる。2021年GBDのリスク要因の全階層構造については、付録1(表S1)を、付録1(表S6)及びリスク要因の定義やモデリングの詳細に関するMethods Web Portalと合わせて、参照されたい。」

リスク要因推計方法

本特集は、職業リスク要因によるGBD2021推計を紹介しようとするものであるが、その前に、「リスク要因推計」方法について、難解ではあるが、論文⑤による説明を紹介しておこう。

「GBD2021のために、われわれは、88のリスク要因と選択された健康結果-リスク要因全体にわたり155の結果-の関連性を推計し、合計631のリスク-結果のペアについて分析した。特筆すべきことに、今回の分析では、データの制約から、リスク要因または健康結果にまたがるCOVID-19パンデミックの影響を正式に組み込みまたは定量化しなかった。GBD2021は、サマリー曝露値(SEV)、RR[相対リスク]、人口寄与割合(PAF)、障害調整生命年(DALYs;早期死亡による損失年数と障害を抱えて生活した年数の合計)で測定されたリスクに起因する負荷、及び死亡についてのリスク別の推計を生成した。さらに、RR推計を補完する新たな手法として、RR入力データにおける説明のつかない研究間の不均一性を考慮するとともに、リスク-結果の関連性及びその基礎となる入力エビデンスについて追加の保守的な解釈を提供する、証明責任リスク関数(BPRF)分析を導入した。過去のGBDラウンドで指標を生成するために採用された方法はGBD2019で採用された方法にほぼ準拠しており、過去のGBDラウンドにおいて、また、GBD2021のためのピアレビュープロセスの一環として並行して、広範にピアレビューされた。ここでは、GBD2019からの主な変更点を中心に、方法論の概要を提供する。GBD2021の分析手法のより包括的な説明については、GHDxのGBD2021 Sources Toolからオンラインで入手できる入力データのソースの詳細とともに、付録1に示されている。これらの資料はいずれも、本論文のピアレビュープロセスに含まれている。
われわれの分析は、リスク要因推計を算出するために確立された比較リスク評価(CRA)の枠組み(付録1表S2)に基づいており、7つの主要な相互に関連した方法論的要素が含まれている。第1ステップでは、特定のリスク要因への曝露の関数として生じる特定の健康結果のRRを定量化することにより、効果量を推計した(付録1セクション2ステップ1)。推計は、GBD2019にすでに含まれていたリスク-結果のペア(世界がん研究基金の方法・基準に従って評価された関連性の説得力のあるまたは確実な証拠に基づく)、及び、以下(付録1セクション2.1.1)に述べる包含基準を満たす追加候補と考えられた新たなペア(十分なデータと主要指標を推定するための適切な方法に加えて、GBD共同研究者及びその他の専門家による、疾病負荷または政策への潜在的重要性に関する情報に基づいた判断に基づく)について生成した。われわれの標準的分析プロセスでは、RRを推計するために用いられる主なツールは、Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses(PR ISMA)の枠組みに従って、各リスク-結果のペアについて、実施した系統的レビューを通じて確認・抽出したデータを統合するために用いられる証明責任アプローチにおけるメタ回帰分析だった。付録1(セクション6)及びMethods Web Portal(前述)で提供される-データソース、系統的レビュー、データ抽出、及びモデリング戦略を含め-系統的レビューとバイアス評価に関するガイドラインは付録1(セクション2.1.3)で提供されている。証明責任アプローチは、対数線形関係を課すのではなく、データから(潜在的に非線形の)RR関数の形状を捉えるためのアンサンブルスプライン法に依拠している。このアプローチはまた、入力研究のデザイン・特性における確認された不均一性を考慮するために、RR関数、系統的バイアスについての検定・調整を統合することによって、異なる比較グループについての曝露範囲の差異を組み込むとともに、入力データにおける潜在的に歪んだ異常値を調節する。スプライン、ノット配置、単調性制約、トリミング戦略、及びバイアス調整に関する方法論の詳細は、付録1(セクション2.1.4)で提供されている。RR推計は、GBD2021に新たなリスク-結果のペアを追加するための基礎を提供する。GBD科学評議会が定義した包含基準は、GBDに含められるべきリスク-結果のペアについては、説明できない研究間の不均一性を考慮することなく、従来どおりに計算されたRR推計の95%信頼区間(UI)がRRヌル値の1を交差してはならない(すなわち、平均RR推計が1より有意に高く[有害リスクについて]または低く[保護リスクについて]なければならない)と定義している。これに基づき、GBD2021では、新たに118のリスク-結果のペアが含まれて、合計631ペアとなった。GBDサイクル間で含まれるリスク要因とリスク-結果のペアの安定性を維持するために、GBD2019にすでに含まれていたペアについての除外基準は緩和され、従来どおりに計算された90%UIがヌルを交差した場合にのみ、すでに含まれていたペアを除外した。これに基づき、25のリスク-結果のペアがGBD2021から除外された。GBD2021に含まれたリスク-結果の組み合わせのリスト、及びGBD2019以降に追加または除外された組み合わせの詳細については、付録1(表S7)を参照されたい。GBD2021で新しいことは、証明責任アプローチが、潜在的な出版または報告バイアスも評価(付録1セクション2.1.7)するとともに、説明できない研究間の不均一性を定量化した(付録1セクション2.1.5)ことである。研究間の不均一性は、不確実性の推計に組み込まれ、標準的な分析プロセスを通じて得られた平均RRsを補完するBPRFを生成するために用いられた。BPRF指標(すなわち、リスク-結果スコアと星による格付け評価)は、リスク-結果の組み合わせの効果及び基礎となる証拠の一貫性について、追加の保守的な解釈を提供する(以下及び付録1セクション2.1.6で詳述)。
第2ステップでは、曝露データを収集するとともに、異種データをプールし、バイアスについて制御及び調整するために、主に2つのベイズ統計モデル(時空間ガウス過程回帰[ST-GPR]及び疾病モデルメタ回帰[DisMod-MR 2.1]を用いて、各リスク要因への曝露のレベル及び分布を推定した(付録1セクション2ステップ2及びセクション6)。第3ステップでは、疫学的証拠に基づいて理論的最小リスク曝露レベル(TMRELs;健康リスクを最小化するであろう反事実的曝露レベル)を決定した(付録1セクション2ステップ3)。第4ステップでは、リスク曝露がTMRELまで低減した場合に生じるであろう健康における比例変化を定量化したPAFの推計を、曝露、RR、及びTMRELの推計とともに、リスク-結果のペアごとに個別に算出した(付録1セクション2ステップ4)。第5[ステップ]に、各リスクについて、年齢別のリスク加重有曝露率を表わすSEVsを計算した。SEVは0から100のスケールで報告され、0は人口全体(評価に含まれる年齢グループ、例えば、低出生時体重について0~27日齢の者)がTMRELレベルで曝露するシナリオに相当し、100は人口全体が最大リスク曝露レベルに曝露することを示す(付録1セクション2ステップ5)。第6[ステップ]に、一部のリスク要因が結果に至る生理的経路上の他のリスクに影響を与えるため、リスク要因間の独立性が仮定される場合にPAFの過大評価を補正するとともに、リスク要因の組み合わせに起因する負荷を算出するために、媒介要因を推計及び使用した(付録1セクション2ステップ6;表S6は媒介マトリックス全体を示している)。最後[第7ステップ]に、年齢集団、性、所在、及び年の各組み合わせについて、起因負荷(すなわち、PAFと結果に関連するDALYsまたは死亡の積により定量化された、リスク要因に起因する疾病負荷の割合)の推計を計算した(付録1セクション2ステップ7)。リスク-結果のペアの大部分は、この標準的な分析プロセスで評価された。一部のリスク-結果のペアについては、それらのリスクについて入手可能な証拠に基づいて、他の方法が用いられた(付録1セクション2ステップ1及びセクション6)。例えば、非至適温度のRR推計とTMREL確認は、温度と原因別死亡率の間の関係の一次分析を通じて行われた。一部のリスク-結果のペアについては、PAFは100%であるという定義によって仮定された(例えば、糖尿病の100%は、定義上、空腹時血漿ブドウ糖(FPG)値が高いことと関連があると仮定される)。結果があるリスク要因に特有である他のペア(例えば、中皮腫とアスベストへの職業的曝露)については、標準的分析プロセスで生成されたRR推計ではなく、疾病から直接計算された直接PAFを使用した(付録2表6)。
現在のGBDラウンドにおけるリスク曝露とリスク起因負荷を推計するための方法論的改善は、上述したRR推計の標準化及び研究間の不均一性を組み込んだリスク-結果の関連性とその根拠の保守的な評価を生成するための新たなBPRF法の適用;媒介マトリックスの仕様の改善;19のリスク要因-主に食事リスクと高い収縮期血圧(SBP)、高いLDLコレステロール、高い肥満度指数(BMI;2019年TMREL値の変更については付録1表S9を参照)-についてのTMREL値の改訂につながった、メタ回帰またはその他の手法によるTMRELsの再評価に重点を置いたものだった。これらの改善の詳細は、以下または付録1(セクション2)で提供されている。」

職業リスク要因による負荷

本特集で紹介するのは、世界及び日本についての、主に職業リスク要因に焦点をあてた、リスク要因別の、GBD2021による死亡数推計及びDALYs数推計(ともに全年齢・男女合計)である。1990~2021年の各年について推計データがあるが、紙幅の関係で表では、1990、2005、2021年の3年についてのデータのみを示している。

本誌で紹介するいずれの図表も論文⑤には示されておらず、本誌が独自に「GBD比較データベース」から直接抽出したものである。

■死亡数-世界・日本とも増加

まず、全原因(疾病・傷害)による総死亡数をみると、世界では、1990年4,610万から2021年6,787万へと47.2%増加しているが、COVID-19による2020年と2021年の増加が顕著な特徴である。日本でも、1990年81万から2021年144万へと76.7%増加しているものの、COVID-19による顕著な増加はみられていない(図表1)。

図表1

これらのうち全リスク要因による死亡数は、世界では、1990年2,745万から2021年3,409万へ24.2%の増加で、総死亡数の増加率よりは低い。そのため総死亡数に対する割合は1990年59.6%から2021年50.2%へと15.7%減少している。それでも、すべてのリスク要因を取り除くことができれば、総死亡数を半減することができるということである。日本では、1990年44万から2021年60万へ37.9%の増加。総死亡数に対する割合は1990年53.7%から2021年41.9%へ22.0%減少している。

全リスク要因はレベル1で、環境/職業リスク、行動リスク、代謝リスクの3つに分類され、各々がさらに細かく分類される。環境/職業リスクで言えば、レベル2で、安全でない水・衛生・手洗い、大気汚染、非至適温度、その他の環境リスク、職業リスクの5つに分類される。各々のレベルごとのGBD2021推計データを抽出することができ、表に示してあるが、同じく表に示してあるように、下位レベルの分類のリスク要因で抽出した死亡数を合計したものが上の分類で抽出した死亡数と、またレベル1の3分類で抽出した死亡数を合計したものが総死亡数と必ずしも一致しないことに留意されたい。

なお、前述のとおり、COVID-19は、GBD2021ではいずれのリスク要因とも結び付けられていないので、今回紹介する表のいずれのリスク要因の項目にも含まれてはいない。

職業リスク要因による死亡数は、世界では、1990年129万から2021年144万へと11.2%増加している。日本では、1990年18,138から2021年30,533へと68.3%の増加で、世界の増加率よりも6倍高い。ただし、これらの増加率は、世界・日本ともに、全原因による総死亡数の増加率よりは低い。

総死亡数に対する職業病リスクによる死亡数の割合は、世界・日本ともに2021年で2.1%という数字だが、世界では1990年の2.8%から減少傾向がみられるのに対して、日本では2.1~2.3%の範囲内でおおむね横ばいに推移している。

■DALYs数-世界は増加・日本は減少

全原因(傷病)による総DALYs数は、世界では、1990年25.9億から2021年28.8億へと11.5%増加しているが、COVID-19による2020年と2021年の顕著な増加は総死亡数の場合よりも際立っている。日本では、1990年3,158万から2021年3,906万へと23.7%増加しているが、やはりCOVID-19による顕著な増加はみられない(表2)。

図表2

これらのうち全リスク要因によるDALYs数は、世界では、1990年13.0億から2021年11.9億へ7.9%減少している。総死亡数に対する割合も1990年50.1%から2021年41.4%へと17.4%減少している。日本では逆に、1990年1,217万から2021年1,344万へ10.4%増加している。ただし、総DALYs数に対する割合は1990年38.5%から2021年34.4%へ10.7%の減少である。

職業リスク要因によるDALYs数も、世界では、1990年2,314万から2021年3,579へ54.6%増加しているのに対して、日本では逆に、1990年138万から2021年112万へ19.1%減少している。

総DALYs数に対する職業病リスクによるDALYs数の割合は、世界では、1990年の2.8%から2021年2.7%へ5.1%の減少であるが、2005年と2010年には3.0%で、全体的には横ばい傾向である。日本では、1990年4.4%から2021年2.9%へ34.6%の減少で、経年的に明らかな減少傾向がみられる。

職業リスク要因別の負荷

職業リスク要因はレベル3で、職業性発がん物質、職業性粒子状物質・ガス・ヒューム、職業性喘息原因物質、職業性傷害、職業性騒音、職業性人間工学要因の6つに分類される。

このうち、職業性騒音と職業性人間工学要因については、死亡数は推計されていないが、DALYs数は推計されている。

■死亡数-日本では発がん物質がダントツ

世界では、職業性発がん物質による死亡数は、1990年208,063から2021年341,998へ64.4%増加し、経年的に増加傾向が見られる。職業性粒子状物質・ガス・ヒュームによる死亡数は、1990年431.218から2021年590,226へ36.9%増加。逆に、職業性傷害による死亡数は、1990年618,630から2021年480,609へ22.3%減少している。この結果、職業性リスク要因のなかで第1位傷害、第2位粒子状物質・ガス・ヒュームであった順位が、2016年以降逆転している。発がん物質は第3位であるが、増加率が他のリスク要因よりも高いため、職業リスクによる死亡数に占める割合が1990年16.2%から2021年23.7%へ46.7%増加しており、第1・2位との差は縮まりつつある。職業性喘息原因物質による死亡数は、1990年29,958から2021年30,546へ2.0%増加している(図表3)。

図表3

日本では、職業性発がん物質による死亡数は、1990年8,423から2021年25,112へと3倍近く増加し、職業リスクによる死亡数に占める割合も1990年46.4%から2021年82.2%へと大幅に増加している。職業性粒子状物質・ガス・ヒュームによる死亡数は、1990年2,302から2021年3,566へ54.9%増加。逆に、職業性傷害による死亡数は、1990年7,060から2021年1,819へと約4分の1に減少している。職業性喘息原因物質による死亡数も、1990年353から2021年36へ10分の1近くまで減少している。

■DALYs数-日本では経年的に減少

世界では、職業性発がん物質によるDALYs数は、1990年501万から2021年746万へ48.9%増加。職業性粒子状物質・ガス・ヒュームによるDALYs数は、1990年980万から2021年1,272万へ29.8%増加。逆に、職業性喘息原因物質によるDALYs数は、1990年178万から2021年176万へと0.8%だが減少。職業性傷害によるDALYs数も、1990年4,174万から2021年3,186万へ23.7%減少。職業性騒音によるDALYs数は、1990年384万から2021年785万へと約2倍に増加。職業性人間工学要因によるDALYs数は、1990年1,085万から2021年1,557万へと43.5%増加している(図表4)。

図表4

死亡数の場合とは異なり、傷害が他を突き放して第1位(ただし減少傾向)で、第2位人間工学、第3位粒子状物質等、騒音と発がん物質がそれに次いでほぼ同水準、喘息原因物質が一番低い。発がん物質が占める割合は、1990年6.9%から2021年9.7%へ40.8%増加している。
日本では、職業性発がん物質によるDALYs数は、1990年17.3万から2021年38.4万へと2倍以上増加している。職業性粒子状物質・ガス・ヒュームによるDALYs数は、1990年5.5万から2021年7.6万へ37.0%増加。逆に、職業性喘息原因物質によるDALYs数は、1990年5.3万から2021年1.3万へと4分の1以下に減少。職業性傷害によるDALYs数も、1990年72.0万から2021年26.8万へと62.9%も減少している。職業性騒音によるDALYs数は、1990年6.0万から2021年8.2万へ37.4%増加。職業性人間工学要因によるDALYs数は、1990年138.0万から2021年111.6万へと19.1%減少している。

第1位傷害が減少し続ける一方で、第2位発がん物質が増加し続け、第3位人間工学要因が横ばい状況というなかで、2010年以降発がん物質が第1位、2012年以降人間工学要因が第2位、傷害は第3位と、順位が入れ替わっている。粒子状物質等と騒音がそれに次いでほぼ同水準、喘息原因物質が一番低い。発がん物質が占める割合は、1990年12.6%から2021年34.4%へと2.74倍も増加している。

DALYs数では、死亡数では現われなかった人間工学要因と騒音による負荷も相当な割合を占めていることがわかる。結果的に発がん物質の占める割合も相対的に低くなる。疾病負荷の経年的傾向としては、日本でのDALYs数のみが減少傾向を示しているが、それでもとりわけ発がん物質で、また粒子状物質等、騒音でも増加傾向がみられる。

原因別の職業リスクの占める割合

GBD2021における職業リスク要因と原因(傷病)の対応関係=職業リスク要因-結果のペアは、以下のとおりである。

  1. 職業性発がん物質-B.1. 悪性新生物、B.3.2.1. 珪肺、B3.2.2. 石綿肺
  2. 職業性粒子状物質・ガス・ヒューム-B.3.1. 慢性閉塞性肺疾患、B.3.2.3. 炭鉱夫肺、B3.2.4. その他のじん肺
  3. 職業性喘息原因物質-B.3.3. 喘息
  4. 職業性傷害-C. 傷害
  5. 職業性騒音-B.10.2. 年齢関連その他の難聴
  6. 職業性人間工学要因-B.11.3. 腰痛

職業性発がん物質のみレベル4でさらに13の発がん物質への職業曝露に分類されるが(後述)、他の職業リスク要因は下位レベルの分類はない。

また、上記の原因のうち、B.1. 悪性新生物とC. 傷害については、下位レベルの原因分類についても職業リスク要因による負荷が推計されているが、他の原因については下位分類がないので、各原因(傷病)別に、職業リスク要因が占める割合を確認することができる(図表5)。職業リスク要因以外のリスク要因による負荷も推計されている原因もあるが、関連情報は省略している。

図表5

■悪性新生物

B.1. 悪性新生物では、7つのがん部位について職業リスク要因による負荷が推計されており、13の発がん物質との対応関係を含めて、後述する。

悪性新生物による死亡数は、世界・日本とも経年的に増加するとともに、総死亡数に対する割合も増加している-世界では、1990年12.5%から2021年14.6%へ16.1%増加、日本では、1990年29.9%から2021年32.3%へ8.0%増加している。DALYs数でもやや下がるが、同じ傾向である。

悪性新生物による死亡数を分母にすると、職業リスク要因(職業性発がん物質)の占める割合は、世界では、1990年3.4%から2021年3.3%でほぼ横ばい状態だが、日本では、1990年3.2%から2021年5.3%へと64.5%増加。DALYs数での割合は、世界では、ほぼ2.8%で横ばい、日本では、1990年2.7%から2021年4.7%へ75.4%増加している。

■じん肺

B.3.2.1. 珪肺、B3.2.2. 石綿肺、B.3.2.3. 炭鉱夫じん肺、B3.2.4. その他のじん肺についてはすべて、死亡数・DALYs数ともに職業リスク要因が占める割合が100%であり、したがって上位の分類であるB.3.2. じん肺についても同じである。B.3.2. じん肺に対応するリスク要因は、職業性発がん物質と職業性粒子状物質・ガス・ヒュームの2つである。石綿肺のみ、世界・日本とも、経年的に大きな増加傾向を示しているが、じん肺に係る推計は現在進行中の研究を通じて更新される可能性もある。

■慢性閉塞性肺疾患

B.3.1. 慢性閉塞性肺疾患による死亡数も、世界・日本とも経年的に増加しているが、総死亡数に対する割合は、世界・日本とも微増にとどまる(2021年に世界では5.5%、日本では2.3%)。DALYs数でもやや下がるが、同じ傾向である。

慢性閉塞性肺疾患よる死亡数に職業リスク要因(職業性粒子状物質・ガス・ヒューム)の占める割合は、世界では、1990年の17.0%から2021年15.7%へ7.6%減少し、日本では、1990年11.3%から2021年10.3%へ8.5%減少している。DALYs数での割合は、世界では、1990年の17.0%から15.8%へ6.8%減少し、日本では、1990年11.5%から2021年10.7%へ6.5%減少している。

■喘息

B.3.3. 喘息による死亡数に職業リスク要因(職業性喘息原因物質)の占める割合は、世界では、1990年の8.0%から2021年7.0%へ12.5%減少し、日本では、1990年5.9%から2021年2.0%へと約3分の1に減少している。DALYs数での割合は、世界では、1990年の7.8%から8.2%へ5.8%増加しているが、日本では、1990年8.4%から2021年6.9%へ7.9%減少している。

喘息による死亡数・DALYs数とも、日本では大幅に減少しているのに対して、世界では、DALYs数は増加、死亡数でも微増という状況である。

■傷害

C. 傷害にはさらに下位レベルの分類についても職業リスク要因による負荷が推計されている。具体的には、C.1. 交通傷害(そのまた細分類であるC.1.1とC.1.2.、C.1.1.1.~C.1.1.5.もすべて該当)、C.2.1. 転落、C.2.2. 溺死、C.2.3. 火・温熱物質、C.2.4. 中毒(C.2.5.1.、C.2.5.2.も)、C.2.5. 機械力への曝露(C.2.4.1.、C.2.4.2.も)、C.2.7. 動物との接触(C.2.7.1.、C.2.7.2.も)、C.2.8. 異物(C.2.8.1.8.、C.2.8.3.も、C.2.8.2.は除く)、C.2.12. その他故意ではない傷害である(ちなみにC.2.は故意ではない傷害、C.3.は自傷・対人暴力で、C.3.は職業リスクと結び付けられていない)が、本特集ではそれらによる負荷は省略して、C. 傷害としてのデータのみ取り扱うこととする。

傷害による死亡数・DALYs数とも、世界・日本とも微増した後に減少に転じているが、総死亡数・DALYsに対する割合は、世界・日本ともに減少傾向にある(死亡数で、2021年に世界では6.4%、日本では4.8%)。DALYsではやや下がるが、同じ傾向である。

傷害による死亡数に職業リスク要因(職業性傷害)の占める割合は、世界では、1990年の14.8%から2021年11.1%へ25.1%減少し、日本では、1990年12.4%から2021年2.6%へと約5分の1に減少。DALYs数での割合は、世界では、1990年の15.0%から12.9%へ4.2%減少し、日本では、1990年20.2%から2021年9.0%へと半分以下に減少している。

■難聴

B.10.2. 年齢関連その他の難聴によるDALYs数は、世界・日本ともに、1990年から2021年に2倍前後まで増加し、総DALYs数に対する割合は、2021年に世界では1.5%、日本で2.8%になっている。

一方、職業リスク要因(職業性騒音)によるDALYs数は世界・日本ともに増加しているものの、職業リスク要因の占める割合は、世界では、1990年の18.0%から2021年17.7%へとわずかに減少して(間に18%を超えている年もあり横ばい状況といったほうがよい)、日本では、1990年10.5%から2021年7.5%へと28.5%も減少している。

■腰痛

B.11.3. 腰痛によるDALYs数と総DALYs数に対する割合はともに、世界・日本ともに、1990年から2021年へ増加しており、2021年のDALYs数に対する割合で、世界では2.4%、日本では5.7%である。

一方、職業リスク要因(職業性人間工学要因)によるDALYs数は、世界では増加しているものの、日本では減少し、職業リスク要因の占める割合は、世界・日本ともに減少している(2021年に世界では22.2%、日本では13.2%になっている)。

職業がんの占める割合

■職業性発がん物質とがん等の対応関係

上記の図表5に職業性発がん物質による死亡数の全体像を示した(以下ではDALYsデータは省略)。

発がん物質別では13物質-ヒ素、アスベスト、ベンゼン、ベリリウム、カドミウム、クロム、ディーゼルエンジン排ガス、ホルムアルデヒド、ニッケル、多環式芳香族炭化水素(PAH)、シリカ、硫酸、トリクロロエチレンへの職業曝露による死亡数が推計されている。

以上の職業性発がん物質ばく露による死亡数が推計されている悪性新生物は、喉頭がん、気管・気管支・肺のがん、鼻咽頭がん、卵巣がん、腎臓がん、中皮腫、白血病の7つで、それ以外に珪肺と石綿肺についても推計されているということである。

がんの部位別の発がん物質との対応関係は以下のとおりである。

  1. B.1.11. 気管支・気管・肺のがん(9物質)-ヒ素、アスベスト、ベリリウム、カドミウム、クロム、ディーゼルエンジン排ガス、ニッケル、多環式芳香族炭化水素(PAH)、シリカ
  2. B.1.10. 喉頭がん(2物質)-アスベスト、硫酸
  3. B.1.2. 鼻咽頭がん(1物質)-ホルムアルデヒド
  4. B.1.19. 卵巣がん(1物質)-アスベスト
  5. B.1.22. 腎臓がん(1物質)-トリクロロエチレン
  6. B.1.28. 中皮腫(1物質)-アスベスト
  7. B.1.32. 白血病(2物質)-ホルムアルデヒド、ベンゼン

発がん物質別では、アスベスト(4つのがんと石綿肺)とホルムアルデヒド(鼻咽頭がんと白血病)以外の11物質は、単一のがん部位のみと対応している(1対1のペア)。

■肺がん

B.1.11. 気管支・気管・肺のがん(肺がん)による死亡数は、1990年から2021年へ、世界では86.7%、日本では2倍以上に増加し、総死亡数に対する割合もともに増加して、2021年に世界では3.0%、日本では6.4%となっている(図表5)。

全リスク要因による死亡数も、世界(70.1%)・日本(89.0%)ともに増加しているが、全リスク要因の占める割合はともに減少している。職業リスク以外のリスク要因-たばこ、食事リスク、その他の環境リスク、大気汚染-による死亡数も参考に示しており、世界・日本ともに、たばこの占める割合が過半を占め、かつ増加しているものの、増加率は肺がん死亡全体の増加率よりは低い。

職業リスク要因による死亡数も、世界・日本ともに増加しているが、増加率は世界では66.3%なのに対して、日本では3倍を超えている(肺がん死亡全体の増加率よりも高い)。職業リスク要因の占める割合は、世界では1990年15.9%から2021年14.2%に10.9%減少しているのに対して、日本では1990年16.6%から2021年24.3%へ46.4%増加している。

職業リスク要因は9つの発がん物質への職業曝露に分類されるが、世界・日本ともに、アスベストがもっとも多く、シリカがそれに次いでいるの同じであるが、日本ではアスベストの占める割合が世界におけるよりもはるかに高い。アスベストへの職業曝露による死亡は、世界では1990年から2021年へ51.3%増加、日本では4倍近くに増加している。その肺がんによる全死亡数に対する割合は、世界では、1990年11.6%から2021年9.4%に18.9%減少しているのに対して、日本では、1990年12.6%から2021年21.8%へ73.2%増加している。

■喉頭がん

B.1.10. 喉頭がんによる死亡数は、世界では36.7%増加し、日本では11.3%の増加にとどまる。職業リスク要因(アスベスト・硫酸への職業曝露)による死亡数は、世界ではいずれも増加しているが、日本では、アスベストが2倍以上に増加しているのに対して、硫酸は26.0%減少している。職業リスク要因の占める割合は、2021年に世界では5.9%、日本では12.2%であるが、日本では、アスベストの占める割合が1990年5.2%から20121年10.8%へと2倍以上に増加している。

■鼻咽頭がん

B.1.2. 鼻咽頭がんによる死亡数は、世界では16.1%の増加だが、日本では2倍以上に増加している。職業リスク要因(ホルムアルデヒドへの職業曝露)による死亡数は、世界・日本ともに増加しているが、職業リスク要因の占める割合は、世界では0.8%、日本では0.1%にとどまる。

■卵巣がん

B.1.19. 卵巣がんによる死亡数は、世界では84.5%増加し、日本では53.7%増加している。職業リスク要因(アスベストへの職業曝露)による死亡数も、世界・日本ともに増加しているものの、世界では増加率が死亡全体の増加率より低いのに対して、日本では、2.66倍に増加しているの。職業リスク要因の占める割合は、2021年に世界では3.0%、日本では3.7%であるが、世界では減少傾向、日本では増加傾向がみられる。

■腎臓がん

B.1.22. 腎臓がんによる死亡数は、世界では2.1倍、日本では2.8倍に増加している。職業リスク要因(トリクロロエチレンへの職業曝露)による死亡数も、世界では3倍以上に、日本では78.1%増加している。しかし、職業リスク要因の占める割合は、2021年に世界では0.05%、日本では0.01%と低い(図表5)。

■中皮腫

B.1.28. 中皮腫による死亡数は、世界では2倍近く、日本では3倍以上に増加している。職業リスク要因(アスベストへの職業曝露)による死亡数も、世界・日本ともにやや上回る増加率で増加しており、職業リスク要因の占める割合は、2021年に世界では91.6%、日本では96.8%である。

■白血病

B.1.32. 白血病による死亡数は、世界では29.1%、日本では66.1%増加している。職業リスク要因(ホルムアルデヒド・ベンゼンへの職業曝露)による死亡数は、世界ではいずれも増加しているが、日本ではいずれも減少している。職業リスク要因の占める割合は低く、2021年に世界では0.8%、日本では0.4である。

アスベストへの職業曝露

次の図表6に発がん物質別の死亡数を要約しておいた。

図表6

とくに注目されるのは、アスベストへの職業曝露による死亡である。とりわけ日本では、すでにみたように、B.1.11. 肺がん、B.1.28. 中皮腫、B.1.19. 卵巣がん、B.1.10. 喉頭がんのいずれについても、アスベストによる死亡数が全死亡数の増加率を上回って増加しており、したがってアスベストの占める割合も増加している。2021年には、肺がん死亡の21.8%、中皮腫死亡の96.8%、卵巣がん死亡の3.7%、喉頭がん死亡の10.8%がアスベストへの職業曝露によるものと推計されているのである。

アスベストへの職業曝露による死亡数の合計は、世界では、1990年146,850から2021年228,833へ55.8%増加し、肺がん/中皮腫の比率は2021年に6.98。日本では、1990年6,085から2021年22,501へと3.7倍に増加し、肺がん/中皮腫の比率は2021年に12.17と推計されている。

WHO/ILO共同推計との関係

以上みてきたGBD2021における職業リスク要因-原因のペアは、GBD2019から追加も除外もなく、まったく同じである。

一方で、本誌は、2024年4月号で傷病の労働関連負荷に関するWHO/ILO共同推計について紹介している(以下の2021年6月号、8月号、12月号掲載記事も参照)。

特集/職業リスクによる世界疾病負荷(GBD)-日本の肺がん死亡の24%が職業リスクに起因するもの-世界疾病負荷(GBD2019)推計データ
特集/職業リスクによる世界疾病負荷(GBD)-推計方法の実例 ①職業リスクに起因する中国の疾病負荷
特集/職業リスクによる世界疾病負荷(GBD)-推計方法の実例②職業性発がん物質による疾病負荷
特集/職業リスクによる世界疾病負荷(GBD)-WHO/ILO傷病の労働関連負荷:系統的レビュー/期待されるGBD推計への成果の反映
進化・発展する世界疾病負荷(GBD)推計ー進化・発展中のGBD推計、傷病・リスク別では変動も:世界疾病負荷(GBD2015~2019)推計データ
進化・発展する世界疾病負荷(GBD)推計ー長時間労働への曝露は世界で最大の職業リスク/日本の死亡・DALYs数は世界第10位
特集:労働関連死亡WHO/ILO共同推計/41労働関連傷病で200万人死亡、長時間労働、COPD、職業がん等-初のWHO/ILO共同推計と既存推計の比較

GBD2021の職業リスクによる傷病負荷推計は、WHO/ILO共同推計よりも高くなっているが、WHO/ILO合同推計に組み込まれた以下のリスク-原因のペアは、GBD2021には含まれなかった。

① 長時間労働への職業曝露-虚血性心疾患
② 長時間労働への職業曝露-脳卒中
③ 太陽紫外線への職業曝露-非黒色腫皮膚がん

WHO/ILO共同推計では、確立された推計方法はあるもののWHOとILOが方法論と利用可能な証拠をレビュー中という理由でじん肺が除外されていたが、2023年5月に「粉じん及び/または繊維(シリカ、アスベスト及び石炭)への職業曝露の有曝露率及びレベル:傷病の労働関連負荷に関するWHO/ILO共同推計による系統的レビューとメタアナリシス」が発表され、以下の結論が示されている。

https://www.sciencedirect.com/special-issue/10NWQ8LM55Zt

結論:全体として、シリカへの職業曝露に関する証拠は、証拠の質は、有曝露率について非常に低いと中等度の間、レベルについて非常に低いと低いの間で、業種によって様々であると判断した。アスベストへの職業曝露については、証拠の本体は、有曝露率について非常に低い質と中等度の質の間で業種によって様々、レベルについて非常に低い質であった。石炭粉じんへの職業曝露については、証拠の本体は、有曝露率について非常に低い質かまたは中等度の質、レベルについて低い質であった。含められた研究はいずれも、人口ベースの研究(すなわち業種の労働者全体をカバーしたもの)ではなく、石炭・亜炭採掘の業種における石炭粉じんへの職業曝露についてのものを除いて、間接性について懸念があると判断した。業種別のシリカへの職業曝露の有曝露率及びレベルに関する選択された推計は、WHO/ILO共同推計のための入力データとして適切であるとみなされ、アスベスト及び石炭粉じんへの職業曝露の有曝露率及びレベルに関する選択された推計もおそらく、推計目的に適しているかもしれない。」

これを受けて、今後、じん肺の労働関連負荷がWHO/ILO共同推計に含まれることになるものと考えられる。

また、2022年12月に発表された、「溶接ヒュームへの職業曝露の気管、気管支及び肺がんに対する影響:傷病の労働関連負荷に関するWHO/ILO共同推計による系統的レビューとメタアナリシス」も、労働関連負荷の推計の生成は証拠に基づいたものであり、既存のプール影響推計は、WHO/ILO共同推計のための入力データとして使うことができるとしている。

GBD推計とWHO/ILO共同推計が、より調和がとれたかたちで、建設的にともに発展を続けることを期待したい。

さらに、2024年4月号で紹介した「労働者の健康のための世界的指標:選択された職業リスク要因に起因する疾病による死亡率」は、持続可能な開発目標(SDGs)の世界的指標枠組みにWHO/ILO共同推計労働関連疾病による死亡率を追加することを提唱している。これはもちろん、GBD推計についても適用可能である。

安全センター情報2024年8月号