「50人未満」の事業場の死亡事故で事業主に「無罪」、重大災害法の猶予は? 2023年10月31日 韓国の労災・安全衛生

資料写真/チョン・ギフン記者>

作業者が機械に挟まれて死亡したのに、常時労働者が50人未満の部品会社の社長には責任を問えないという最高裁の判決が出た。「重大災害処罰などに関する法律」(重大災害処罰法)施行以前に発生した事故なので産業安全保健法が適用されたが、裁判所は作業者の過失を理由に、会社代表に『免罪符』を与えた。50人未満の事業場に対する法適用の『猶予』が現実化すれば、事故の予防効果と処罰の強制力が一層弱まると指摘されている。そんな中、尹錫悦大統領が、50人未満の事業所に対する法適用猶予の必要性に言及した。

洗浄機に挟まれて事故、柵・警告標識はなかった

<毎日労働ニュース>の取材によると、最高裁一部は産業安全保健法違反と業務上過失致死の疑いで起訴された華城市のある自動車部品製造業者のA代表に、罰金500万ウォンを言い渡した原審を確定した。公訴事実のうち、産業安全保健法違反と業務上過失致死罪には無罪が確定した。

職員Bさん(死亡当時54歳)は、2021年3月に製品洗浄作業をしていたところ、機械のシリンダーリフトが上昇し、リフトと機械本体に首を挟まれ、24日目に亡くなった。会社は常時労働者が43人の小規模事業場だった。

Bさんは同僚と交代しながら製品の一・二次洗浄作業を担当していた。事故当日もBさんは二次洗浄を、同僚は一次洗浄を担当した。休憩を取った後、同僚が振り向いた時に、Bさんが機械の裏側に入り、洗浄機リフトと機械本体の間に首を挟まれているのを見付けた。

検察はA氏が洗浄機の背面に『防護柵』と『警告標識』を設置しなかったために事故が起きたと判断した。産業安全保健基準に関する規則(安全保健規則)に違反したということだ。雇用労働部も事故以後に安全措置の不設置を摘発した。

「被災者が異例の行動」・・・二審は事業主に『免罪符』

一審はA氏に懲役6ヵ月執行猶予2年を、法人には罰金700万ウォンを宣告した。しかし、二審は産業安全保健法違反罪は犯罪の立証がなかったとし、一審を破棄して無罪を宣告した。事故が起きたリフトは速度が速くなく、機械の後面に接近しなければ危険性は大きくなかったと見た。機械の前面だけで作業者の手動作業が行われ、後面は機械整備をするだけの空間だということだ。後部には施錠されていない鉄製の扉があった。

裁判所は、A氏が作業者に、機械のエラー時には管理者に知らせ、直接機械の後面に行って機械に触れないように警告してきたと推定した。同時に、Bさんが指針を守らず機械の後面に近付いて事故が起きたと判断した。裁判所は「当時、機械の作動が止まり、後面に入って点検をする必要があったという事情は全く見られない。」「専門知識もなく、前面だけで作業すべき被害者が、突然鉄の扉を開けて後面に接近し、頭を入れるという異例の行動をするということを、事業主としては予想できなかったものと見られる」と説明した。裁判所は結論として、Bさんの『異例の行動』によって発生し得る危険まで、A氏に責任を問うことはできないと判示した。最高裁の判断も同じだった。

死亡の80%は50人未満の事業所で、大統領が「小規模事業場は来年の法適用を憂慮」

産業安全保健法違反罪は、労災事故で勤労者が死亡した場合の法定刑を「懲役7年以下」に上限線を定めている。一方、重大災害処罰法の法定刑は「懲役1年以上」と、下限線だけが決まっている。重大災害処罰法が適用されたとすれば、義務違反の範囲が広くなり、A氏にもっと重い量刑が出る可能性もあったと法曹界は評価している。

裁判所が50人未満の事業場に重大災害処罰法を適用すべきだということを立証していると、専門家たちは口を揃える。実際に労働部の統計によると、昨年発生した被災労働者10万7214人の内、7万9788人(74.4%)が50人未満の事業所で発生し、労災事故死亡者数の内、50人未満の事業所が全体の80%(874人中707人)を占める。

しかし与党は、50人未満の事業場に対する法適用の猶予を推進している。・・・・国会・環境労働委員会の与党幹事のイム・イジャ議員は9月に、50人未満の事業場に対する重大災害処罰法適用時期を来年1月27日から2026年1月27日に、二年間猶予する改正案を発議した。財界の要求を反映したものと見られる。中小企業中央会は8月23日、国会に法施行の猶予を要請した。

経済六団体もこの日、「50人未満企業重大災害処罰法猶予法案」に更に関心を持って欲しいと国会に要請した。政府は与党の動きに歩調を合わせている。尹錫悦大統領はこの日の閣議で、「大統領室は多様な民生現場を訪ねて国民の切迫した声を生々しく聞いている。」「50人未満の小規模事業場は、来年から適用される重大災害処罰法が恐いという声を出している」と話した。

しかし重大災害の専門家たちは、『軽い処罰』が続けば小規模事業場の労災死亡事故は予防できないと指摘する。イ・ファンチュン弁護士は「今回の事件では、控訴審で、作業者の過失を理由に産業安全保健法違反罪の部分は無罪だと宣告された。」「産業安全保健法上の安全義務に対する裁判所の狭小な解釈という点でも問題だが、50人未満の事業場に対する重大災害処罰法の適用が猶予され、経営責任者の安全保健確保義務違反についての判断自体がされなかった点がもっと大きな問題だ」と批判した。ムン・ウンヨン弁護士は「安全保健規則87条が定めた『勤労者が危険に遭うおそれがある部位』に関して、極端に厳格に解釈してきた裁判所の慣行が繰り返されている。」「司法府は事業場で発生し得るすべての事故について、安全保健管理体系の構築がなされているのかを調べなければならない」と指摘した。

2023年10月31日 毎日労働ニュース ホン・ジュンピョ記者

http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=217989