韓電、毎年平均8人が労災死亡にも『発注者』の免罪符 2023年11月02日 韓国の労災・安全衛生

全国建設労組と、電柱開閉器作業をして感電事故で亡くなった韓電の下請け労働者・故キム・ダウンさんの遺族が昨年1月10日、故人を追悼し、韓国電力に危険の外注化の責任を問う記者会見をしている。/資料写真チョン・ギフン記者

韓国電力公社で最近三年間に年平均8人が労災で亡くなったことが判った。捜査機関はすべてで韓電を発注者と判断し、刑事処罰は1件もなかった。韓電の地位を『請負人』と『発注者』のいずれで判断するかを巡って論争が続く中での統計だ。

産業安全保健法は、労災事故が発生した時、建設工事の発注者は処罰しないと定めている。但し、建設工事の施工を主導し、総括・管理した場合には『請負人』と認められる。発注者は産業安全保健法上、安全保健措置義務を負担しない。実際、検察は2021年11月、電柱作業中に高圧電流に感電して死亡した韓電の下請け労働者・キム・ダウンさん(死亡当時38歳)の事故に関して、韓電を『発注者』と見て職員を不起訴処分にし、批判に直面した。

2021年に最多の10人死亡、事故の行列は続く

<毎日労働ニュース>が正義党のリュ・ホジョン議員室から入手した『韓電の事業場内での重大災害、三年分の月別発生件数』によれば、2020年1月から今年9月までに、韓電(請負・発注作業現場含む)で発生した労災死亡事故は24件(死亡者25人)に達した。統計は韓電・安全保健処が作成した。

韓電の労災死亡事故は2021年が10人と最も多かった。2020年6人、昨年3人、今年9月までに6人がそれぞれ命を失った。事故の類型別に見ると、落下(6人)、感電(5人)、挟まれ(4人)、ぶつかり(4人)、殴られた(2人)、交通(2人)の順だった。死亡者の年齢層は20代から70代まで様々だった。感電だけでなく、様々な形態の死亡事故が次々と発生したと見られる。

韓電では『配電作業』と関連して、2017年~2021年に23件の死亡事故が発生した。このうち感電死は7件で、2020年の直営作業場の事故1件を除けば、全て下請け業者の作業で発生した。今回の統計で、キム・ダウンさんの以後も、労働者9人の死亡が新たに確認された。

しかし捜査機関と雇用労働部から『発注者』と認定されたため、韓電の関係者はすべて刑事処罰を避けられた。直営事業場の死亡事故で、同僚の労働者に罰金500万ウォンが賦課された1件が全てだ。特に、2021年1月に全面改正された産業安全保健法の施行以後に起きた事故でも、韓電は『発注者』の地位を獲得した。2021年以降に発生した韓電での事故は18件に上る。施工会社の下請け業者7社だけに過怠金144万~4千万ウォンが賦課された。

『発注者』として免罪符、検察「韓電は工事業者ではない」

韓電を『発注者』と判断する傾向はキム・ダウンさんの事故でも同じだ。労働部は韓電を請負人と見て検察に起訴意見で送致した。しかし検察は9月19日に、韓電は請負人ではなく『発注者』だったと見て、元請け職員を不起訴処分とした。下請け業者の責任者5人だけを業務上過失致死・産業安全保健法違反などで在宅起訴した。

検察は電気工事業法を根拠に、韓電は発注者の地位にあると判断した。電気工事業法3条1項によると、電気工事は工事業者でなければ請負したり施工することができない。当時、キム・ダウンさんが行った作業の回路遮断転換スイッチ(COS)の投入・開放作業は『高圧配電工事』に該当し、これは配電工事専門会社が施工するということだ。検察は「韓電は電気事業者に該当するだけで、電気工事業法による電気工事業者に該当しないため、電気工事を請け負ったり施工できないので『発注者』の地位にある」と解釈した。

『発注者』の判断は、配電工事業者が専門性を有しており、電気工事の施工を総括し、管理すべき義務を負担するという論理に繋がった。韓電には具体的で直接的な義務ではなく、『一般的な』監督業務があるだけだという趣旨だ。このため、当時の韓電驪州支社長と驪州支社次長は容疑を免れた。

仁川港湾公社事件、最高裁の判断に注目

建設工事での『発注者』の判断の流れは『仁川港湾公社事件』でも続いている。2020年6月に仁川港の閘門修理工事の過程で労働者が亡くなった事故に関して、産業安全保健法違反で起訴されたチェ・ジュンウク元・仁川港湾公社社長は、9月に控訴審で無罪を宣告された。一審はチェ・ジュンウク元・社長を請負人と判断して懲役1年6月の実刑を宣告したが、二審は反対に『発注者』と見て、産業安全保健法上の義務を認めなかった。

『発注者-請負人』の判断基準は、最高裁が最終結論を出すものと想われる。検察はチェ・ジュンウク元・社長に対する二審の判決から五日後に、仁川地裁に控訴した。二審が、港湾公社が港湾施設の維持・補修工事を「自ら施工する資格や能力」を備えていないと判断した以上、最高裁が請負人の意味を「元請けの実質的な地位」によって規範的に解釈するか、それとも実際の施工専門性を中心に調べるかが関心事だ。一審は港湾公社が施工の過程で、下請け業者を実質的に支配・管理したと判断した。下級審が交錯し、法理攻防が激しくなるものと予想される。

韓電の下請け労働者のキム・ダウンさんの事件でも、検察は「実質的な施工能力」を基礎に、韓電の地位を決めたと解釈される。しかし、既に韓電は『請負人』に該当するという昨年三月の最高裁判決があり、検察の論理が貧弱だという指摘が出ている。専門家もやはり、請負人の範囲を狭めれば『危険の外注化』がより一層量産されると憂慮する。

資料写真/チョン・ギフン記者

専門家「発注者の解釈、リスクの外注化を量産」

重大災害専門家ネット共同代表のクォン・ヨングク弁護士は「発注者でも、建設工事の施工を主導し、総括・管理する者であれば請負人の責任を負うことになる。」「ところが、実務では発注者だという理由で、産業安全保健法上の安全保健措置義務の適用対象から除外しているという疑惑が、着実に起きている」と指摘した。発注者が支配・運営・管理する責任がある場所に建設工事を発注したとすれば、従事者に対する責任があるという意味だ。

キム・ダウンさんの事件の不起訴に関しても批判の声が大きい。ソン・イクチャン弁護士は「韓電が行う電気事業は、韓電に専門知識があり、現場を統制する以外にないので、請負人と見るべきだ。」「しかし検察は、韓電が『工事業者』にはなれないという論理で、作業指示ができないと見た。論理上矛盾している」と話した。パク・ダヘ弁護士も「最近の検察と裁判所の判断を見れば、契約の形式ではなく、実質によって判断する法解釈が全く守られていない。」「韓電の不起訴理由のような論理であれば、企業は危険な業務を下請けに外注して、その危険を管理・統制する責任を回避できることになる」と批判した。韓国放送通信大学のチェ・ジョンハク教授(法学)は「産業安全保健法が適用されても、経営責任者の具体的な管理・監督義務は認められる。」「韓電も同様に、工事現場を統制していたので請負人の地位と見るべきだ」と強調した。

リュ・ホジョン議員は「韓電を『発注者』だという形式だけを見て、産業安全保健法上の『請負人』という実質を判断せずに法的責任から逃れられるようにした。」「危険の外注化に対する免罪符であり、労災発生の主要な原因になっている」と指摘した。

2023年11月2日 毎日労働ニュース ホン・ジュンピョ記者

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