危険まで押し付けた不法再下請け、父親の死を放置 2023年08月14日 韓国の労災・安全衛生

建設現場でリフトに敷かれて死亡したマ・チェジン氏の二人の娘ヘジンさん(左)とヘウンさんが、韓国建設の本社前でデモを行っている。/マ・ヘウンさん提供

建設現場で一人で作業中に、落ちてきたリフトの下敷きになって死亡

三人の親子が五日間のデモ

元請け、韓国建設後が謝罪、下請・再下請業者が「黙とう」

「各企業は責任回避にだけ汲々としている。予防のための態度変化が必要」

生前に好きだった焼酎を一杯を差し上げて、父親をキチンと見送るまでに丸37日もかかった。先月19日、光州南区の建設現場で、マ・チェジンさんの追悼式が行われた。父親を奪った貨物用エレベーターの前に設けられた祭祀膳に向かって、次女のヘジンさん(28)が四回お辞儀をした。安全帽を被った建設労働者たちと、黒いスーツを着た施工会社・韓国建設の役員もお辞儀をして、故人の魂を慰めた。その姿を見ていた長女のヘウンさん(32)は両手で臨月のお腹を支えたまま、涙を浮かべた。

マ・チェジンさんは6月11日、建設現場内の貨物用リフトの自動化設備を一人で設置していて、落ちてきたリフトに敷かれて死亡した。事故当時、現場には誰もいなかった。マ・チェジンさんは二時間リフトの下敷きになっていて、見付けられた。

マ・チェジンさんが見付かった後も、現場にリフトの専門家がおらず、遺体を収拾するのに二時間かかった。外科医のヘウンさんでさえ、周りから凄惨だからと止められたために、遺体を見ることができなかった。

マ・チェジンさんの死は様々な疑問を残した。二人の娘は、父親がなぜ休日の日曜日に出勤したのか、なぜ二人一組ではなく一人で作業をしたのか、リフトはなぜ墜落したのか、事故当時、なぜ安全管理者が現場にいなかったのかが解らなかった。「父親は、管理者が現場にいれば、二時間もリフトに敷かれていたでしょうか。」次々と浮かぶ疑問点を解決してくれる人はいなかった。建設現場の責任を負うべき元請けも、父親と10年間仕事をしてきた下請け業者も、すべて責任回避で忙しかった。

葬儀費用を支援すると言っていた元請けの韓国建設が突然連絡を絶った後になって、ようやく二人は変な気配に気付いた。父親の事故はニュースで見たことのある労災であり、元請けが重大災害処罰法の処罰対象になり得ることを知った。元請けは事故の経緯を説明したり謝罪する代わりに、現場で追悼式を行ったという写真を送ってきた。遺族には事前に知らせず、あったことすら知らない追悼式だった。

労働災害という言葉も聞き慣れていなかった姉妹は、図書館で産業安全保健法に関する図書10冊余りと法規を読んで勉強を始めた。「一体、なぜ父親がそこで、一人でそうしていたのか、誰にどんな責任があるのかを知りたかったのです。」ヘウンさんは今回のことを経験したことによって、父親がこの10年間働いていた二次下請け業者の建設現場が、危険なところだったことを知った。「不法再下請けをなぜ不法と言うのかが解りました。現場で最も利益を得る元請けが勤労者の安全に責任を負わなければ、下請けは本人の事業場でもないところでの安全管理を、ずっと疎かにすることでしょう。」

姉妹は処罰と真相究明を要求して、光州地方雇用労働庁の前で記者会見を行ったが、韓国建設は黙って答えなかった。元請けは、下請け業者の責任まで一人で負うことはできないというふうな言い訳をした。「元請けの安全管理者が不在で、父親は放置されていたにも拘わらず、責任を回避する姿に一番腹が立ちました。人が死んだのに、どうして一度の謝罪をするのがそんなに難しいのでしょうか。」ヘジンさんが声を高めた。

父親が亡くなって一ヶ月後の7月10日。三人の母娘は、猛暑の中で喪服を着て、韓国建設本社の前でデモを始めた。「問題だということは知っていましたが、遺族がこのような状況でできることはそんなに多くはありませんでした。会社がずっと黙っているので、一人デモ以外にはする方法がないようでした。」8月初めに出産予定で臨月のヘウンさんが父親の遺影を、ヘジンさんが『誰が私の父を殺したのか』と書かれた立て札を持った。藁をも掴む心情だった。

五日間のデモの結果、元請けが謝罪した。韓国建設のホームページとムドゥン日報に謝罪文が掲示された。「不十分な対処と意思疎通がなく、再び大きな無力感を与えた部分について謝罪する」という内容だった。遺族が一緒にする追慕式が初めて行われた。

真実を知るために闘っている間、家族同士で悲しみを癒す時間は与えられなかった。玄関のドアを開けて入るとリビングに立って、「一緒に夕食を食べる、何を作ってあげようか」と訊いた父親を、「パパ」でなく「チェジン」と、まるで友達のように呼んでいた父親を、懐かしがってばかりいる余裕がなかった。「どうしてこんなに痛い思いで逝ったのか、父が恨めしいほどでした。充分に悲しみ、回顧するにも足りなかったのです。」二人は元請けと下請けが葬儀場で謝罪さえしていれば、デモをして、法によって問い詰めるのではなく、お互いに慰めることができたと話した。

父親は見送ったが、問題がすべて解決したわけではない。依然として下請け業者と再下請け業者は謝罪していない。重大災害法違反の有無を調査している労働庁の調査は本当に遅い。4日、二次現場鑑識が行われたが、労働庁が誰を調査しているのか、具体的にどんな違反事項を調査しているのかは判らなかった。

ヘジンさんは、「法令を見ると、リフト自動化設備を設置する前には点検すべきだったが、労働庁がこうした内容を調べているのか、下請けの主体はきちんと把握しているのかが判らない」と話した。連日の雨で現場が壊されることはないのかも心配だ。

マ・チェジンさんの事故の後も全国各地の労働現場で労災が発生した。追悼式の直前には五松の地下道路でも惨事が起きた。二人は「どんな事故でも、責任者がキチンと処罰され、事故の疑問が解消されなければ、また別の被害者が出る」と話した。

孤独な闘いの中で、他の遺族との連帯は大きな力になった。追慕式にも故イ・ハンビッPDの父親のイ・ヨングァンさんが、往復5時間の距離を厭わずに走ってきてくれた。「会社の関係者たちの中で、私たちが寂しい思いをしていないかと想って、遠い距離を来てくださって本当にありがとうございました。別の家族がこのようなことを経験して闘う時には、私も側に立ってあげなければならないとも感じました。」イ・ヨングァンさんと挨拶したヘウンさんが話した。

ヘウンさんとヘジンさんは、父親の犠牲が無駄にならないためには、変化がなければならないと話した。

「人が死んでから慌てて原因を見付けようとするじゃないですか。責任回避に汲々とするのではなく、人の命を守ることを優先する態度に変わるべきだと思います。そうしなければ、もっと大きな事故が起きると想います」

2023年08月14日 京郷新聞 キム・ソンイ記者

https://www.khan.co.kr/national/labor/article/202308140600015