5万ウォンで避けられた死 2023年05月12日 韓国の労災・安全衛生
「韓国製鋼の代表は一年の懲役で法廷拘束。下請け会社の社長は執行猶予、韓国製鋼は罰金1億ウォン」
「重大災害処罰などに関する法律」(重大災害処罰法)の第2号判決。韓国製鋼の社内下請業者の労働者の労災死亡事故に対する裁判所の判決だ。事件は昨年3月、韓国製鋼の野外作業場で、重さ1220kgの放熱板の引き上げ作業中に、放熱板を引き上げるために固定していたスリング・ベルトが切れて起こった。当時、作業半径の中にいた被害者は、これを避けられずに放熱板に片足を挟まれ、病院で治療を受けている途中に死亡した。
今回の事故の場所である韓国製鋼の咸安工場は、元請けだけで340人の職員を雇用している事業体だ。年間売上も8300億ウォンを超える、相当な規模の会社だ。この程度のレベルであれば、産業安全保健法の安全保健管理規則を守るだけの余力が十分にある会社だ。しかし、2011年と2020年、そして2021年に、安全措置義務をきちんと遵守せずに罰金刑を受けた前歴があった。更に、2021年には事故で一人が死亡する重大災害も発生していた。この事故で、韓国製鋼の代表者は執行猶予を言い渡されていた。重大災害が再び起きれば、直ちに懲役刑を受けるしかなかった。しかし、翌年、下請け業者で労災死亡事故が発生した。
韓国製鋼のような大きな事業場が、数回の罰金と法的な処罰を受けても、産業安全保健措置をきちんと履行していなかった。深刻な問題だ。重大災害処罰法が施行されたのだから、少しでも安全管理に気を使うべきだった。特に、2021年に発生した重大災害で、代表者が執行猶予を受けている以上、安全保健管理にはより一層気を使うべきだった。しかし会社側は裁判で、安全保健体系の樹立をする時間がなくてできなかったと供述した。卑怯な供述だ。該当の作業に対する安全措置をしただけで、十分に防げる事故だった。数億、数千万ウォンが必要な措置でもなかった。たった5万ウォン。作業者の一日の日当にも足らない金でも防げる災害だった。
事故当時に戻ろう。放熱板を引き上げるために、両側の上段部に設置されたラグがある。ラグホールにはシャックル(資材を安全に引き上げるために使用する金属製の輪で、引き揚げ物の重さによって様々な大きさがある)が締結されていない状態だった。単純にスリング・ベルト(重量物を引き上げる時に使用する繊維ロープ)だけがラグホールに掛かっている状態だった。放熱板の重さをスリング・ベルトが完全に受け止めるしかない。引き揚げ作業中に、スリング。ベルトが破れる可能性がある危険なやり方だ。
当時使われたスリング・ベルトも古く、締結の輪が硬化した状態だった。酷いことに、火の粉であちこちが擦れて糸くずが見えてもいた。スリング・ベルトの制限重量が表示されているタグも、色が褪せて解りにくい状態だった。そして、重量物の引き揚げ作業の時に安全な距離内で中心を取ってくれる介錯ロープも用意されていなかった。10ミリのポリプロピレンのロープさえあれば良かったのだ。
この作業にはシャックルが必要だ。ラグホールに差し込んで放熱板を支える3/4規格のシャックルが二つあれば良い。価格は一個で1万ウォン前後だ。800キロ以上引き揚げられるスリング・ベルト2本も1本当たり1万ウォン台だ。また、引き上げの紐として使用する厚さ10ミリ以上のPPロープ10メートルは、6千ウォンで買える。全部で僅か5万ウォンを使うだけで事故を防ぐことができた。また、管理者らが作業前にスリング・ベルト状態、シャックルの有無、引揚ロープの有無さえ確認しておれば、十分事故を予防することができた。
労働災害の構造的な問題にまで触れなくても、直ぐに現場でできる措置だ。5万ウォンの措置だけで作業者が命を失うことはなかった。代表者が懲役刑を受けるのも、下請け会社の社長が廃業を選択するのも(該当人命事故の後、下請け会社の社長は会社を閉鎖してしまった)、韓国製鋼が罰金1億ウォンを払うこともなかっただろう。
もちろん、普通通りに安全保健管理体系を樹立すれば良い。余力がなければ、最小限の物品を管理するだけでも事故の確率を大幅に減らすことができる。
大きなことを望むのではない。些細な領域から気を使う下請け業者の管理者、各工程と作業ごとに核心の安全装備を支給し、正しく使用しているかを確認する元請け業者の職員。産業安全保健法の下位規則である産業安全保健基準に関する規則を一度でも読んで、実践する事業主がいるだけでも、重大災害は最小化できる。
この判決を契機に、多くの事業場が、普段から些細な安全保健管理をきちんとして欲しい。5万ウォン節約しようとして人が亡くなり、数億ウォンもの労災被害補償と1億ウォンの罰金を払い、代表者は懲役刑を宣告された。「安物買いの銭失い」が繰り返されないことを願う。
2023年5月12日 毎日労働ニュース ハ・インヘ安全管理労働者
http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=215034