解体作業者に対する建材メーカー責任否認/最高裁●神奈川二陣の高裁判決を覆す

建設アスベスト神奈川2陣訴訟 最高裁判決を受けた声明

2022年6月3日

建設アスベスト訴訟全国連絡会/建設アスベスト訴訟神奈川原告団/建設アスベスト訴訟神奈川弁護団/神奈川県建設労働組合連合会

1 (最高裁判決の結論)

建築現場における作業を通じて石綿粉じんに曝露し、中皮腫や肺ガンなどの石綿関連疾患を発症した被災者及びその遺族が、国と石綿含有建材製造企業(以下、「建材メーカー」という。)を訴えていた建設アスベスト神奈川第2陣訴訟について、最高裁判所第2小法廷は本年6月3日、原告5名(被災者単位4名)との関係で、原告らのニチアス及びA&Aに対する請求を認めた東京高等裁判所第20民事部の判決を破棄し、原告1名について審理を東京高裁に差戻し、原告4名について原告らの請求を棄却する判決を言い渡した。

今回の最高裁判決は、建物の解体作業に従事した被災者との関係で、建材メーカーらの警告義務違反を認めた東京高裁判決を取り消すものである。
なお、東京高裁に差戻しとなった1名の原告は、建物の解体作業以外の建築作業に従事した経歴を有することから、損害の額等について更に審理を尽くさせる必要があるとして差戻しとなったものである。

2 (最高裁判決の不当性)

建築現場では、石綿の危険性や石綿粉じん曝露防止策の必要性が全く周知されていなかったため、多くの建築作業従事者が無防備な状態で作業に従事し、石綿粉じんに曝露することになった。このような状況は、建物の解体作業に従事した被災者との関係でもまったく同じであった。

ところが、最高裁は、東京高裁判決が認めた警告表示の方法について、建材自体に警告情報を記載することが困難なものがあること、加工等により記載が失われたり、他の建材、壁紙等と一体となるなどしてその視認が困難な状態となったりすることがあり得ること、警告情報を記載したシール等を建材が使用された部分に貼付することが困難な場合がある上、シール等の経年劣化等により警告情報の判読が困難な状態となることがあり得ること、警告情報を記載した注意書及び交付を求める文書を添付したとしても、建物の解体までには長期間を経るのが通常であり、その間に注意書の紛失等の事情が生じ得ること等を指摘し、いずれも警告表示の方法として実現性又は実効性に乏しいと判断して、建材メーカーらに建物の解体作業に従事した被災者との関係では警告義務を認めなかった。

このような最高裁の判断は、建物の解体現場の実態を十分に踏まえないものであり、建物の解体作業における石綿粉じん曝露防止策の重要性を軽視するものであって、きわめて不当なものである。

また、最高裁は、建物の解体作業においては、当該建物の解体を実施する事業者等において、当該建物の解体の時点での状況等を踏まえ、あらかじめ職業上の知見等に基づき安全性を確保するための調査をした上で必要な対策をとって行われるべきものであるとして、建材メーカーらには建物の解体作業に従事した被災者との関係で警告義務を認めなかった。

しかしながら、建物の新築の場合、建設業者が負うべき安全対策に関する責任と建材メーカーの警告義務とは両立するものである。そのため、建物解体の場面であっても、同様に解体事業者が負うべき安全対策に関する責任と建材メーカーの警告義務とは両立するのであって、解体事業者が安全対策に責任を負うことを理由として建材メーカーの責任を免除することは不当である。

3 (最高裁判決の射程)

今回の最高裁判決は、東京高裁判決が認定した事実関係を前提として、建材メーカーの警告義務を建物の解体作業に従事した被災者との関係で否定したものである。そのため、建物の解体作業との関係で、およそ建材メーカーの警告義務を認める余地がないことまでを示したものではない。

したがって、建物の解体作業との関係で、実効性のある警告表示の方法や、警告表示の内容を作業者に伝達する方法などを多角的に検討することで、今回の不当な最高裁判決を乗り越えられる可能性は大いに残っているのである。

4 (最後に)

石綿は、建材に大量に使用されてきた。そのため、現在でも多くの建物に石綿含有建材が残ったままの状態となっており、今後の建物の解体作業において、十分な安全対策が講じられなければ、深刻な健康被害の発生が続くと懸念されている。

建設アスベスト訴訟において認められてきた、建材メーカーらの法的責任は、石綿の危険性や石綿粉じん曝露防止策の必要性を建築作業従事者に示してこなかったことによるものである。

それにもかかわらず、将来にわたって深刻な健康被害を生じさせる強いおそれがある建物の解体作業との関係で、建材メーカーらの警告義務を認めないのでは、建築作業従事者に将来生じる深刻な健康被害について救済を放棄するに等しく、大きな禍根を残すことになる。

われわれは、今後の訴訟を通じて、建物の解体作業に従事した被災者の救済を認めなかった不当な最高裁判決を乗り越えるとともに、作業内容の相違にかかわらず、建築作業従事者を区別なく救済する制度を建材メーカーらとの関係でも実現するために、今後も全力を尽くしていく覚悟である。

※最高裁判決は以下で入手できる。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/202/091202_hanrei.pdf

安全センター情報2022年8月号