それは仕事の一部ではない-仕事における暴力への対処に関する安全衛生ガイド-イギリスUNISON(公共部門の労働組合) 2013年7月11日改訂
目次
はじめに
安全代表・委員のために作成された、このガイドは、例えば顧客またはその他の一般市民など、従業員以外に者による暴力のみを扱っている。いじめやハラスメントについては、別途UNISONのガイダンスがある[編注:「仕事における尊厳方針モデル」部分のみを紹介した前掲の「仕事におけるハラスメント-UNISONガイド」、従業員以外の者によるいじめ・ハラスメントに特化したものではない]。
仕事における暴力は、多数のUNISON組合員にとって重要な問題である。身体的暴力はもっとも深刻な暴力の形態であるが、言葉による嫌がらせや脅迫のほうがはるかに多く、また、長期間にわたる健康影響を与える可能性がある。
仕事における暴力とは何か?
安全衛生庁(HSE)は、仕事における暴力を「労働者が、その仕事に関連する状況のなかで、嫌がらせ、脅迫または攻撃を受ける何らかの事象」と定義している。いかなる定義も、死亡、(医療的支援を必要とする)重度傷害及び(応急措置が必要、または医療扶助を必要としない)軽度傷害につながる事象を含まなければならない。しかし、たとえ身体的傷害が生じなかったとしても、脅迫や言葉による嫌がらせを含めることが、同じように重要である。
そのような嫌がらせ[abuse]は、身体的暴力につながる可能性があり、また、組合員が経験するストレスのレベルに貢献するだろう。HSEによれば、身体的攻撃は「明らかに危険であるが、深刻または持続的な言葉による嫌がらせまたは脅迫も、不安またはストレスを通じて、労働者の健康を損なう可能性がある」。繰り返される言葉による嫌がらせは、抑うつにつながり、モラルを低下させ、病気休業を増加させる可能性もある。
労働に関連した暴力は、実際の職場だけに限られるのではなく、地域社会、通勤途上、切り離された空間または労働者の自宅でも起こる可能性があることに留意することも重要である。
問題の認識と方針の策定
まず最初に、暴力の問題が存在することへの使用者の同意を取り付けるとともに、それが安全衛生問題であることを認識させることである。安全衛生法で求められているからだけでなく、それを怠れば費用がかかることから、仕事における暴力を予防する方針を策定することは、使用者の利益になる。暴力の費用には、以下が含まれ得る。
-労働者が傷つき、恐れ、またはストレスを感じることによる欠勤の増加
-トレーニングへの投資と離職者の増加に伴う経験の喪失
-法的補償の費用
-悪評
-モラルの低下
暴力の管理及び予防に関する方針を策定することは、使用者がこれらの費用を回避するのを助けるだろう。しかし、労働者との適切な協議なしに、孤立して方針が策定されてはならない。スタッフは、自らが決定に関与し、また、仕事やリスクを直接経験していると感じる場合に、よりよく働くことができる。加えて、使用者は、安全衛生問題についてUNISONの安全代表と協議することを、法律で求められている。
方針は、使用者が、暴力防止に尽力しており、事象が発生するまで対策を講じる用意がないということではないことを、スタッフに示すこともできる。
いかなる方針も、以下を含まなければならない。
-労働に関連する暴力の定義
-使用者があらゆるかたちの労働関連暴力を管理及び予防することを約束するとともに、スタッフに対するいかなるそのような攻撃も容認できず、仕事の一部ではないことを明確にした声明
-方針を監視及びレビューするための仕組み
方針の策定は最初のステップにすぎず、それが効果的に実施されなければならない。そして、それがスタッフに対する暴力を低減または最小化するという目的を実現していることを確保するために、監視及びレビューされなければならない。
いったん合意されたら、方針はスタッフの注意を引かなければならない。使用者は、全スタッフへのコピーの配布、スタッフミーティングの開催、入社時及び安全衛生講習に含めることによって、これを行うことができる。
UNISON組合員は、「ゼロ・トレランス[不寛容]」アプローチを期待している。これは、仕事における暴力は容認されず、雇用契約の一部でもないことを意味している。これは、スタッフに対する攻撃をただちに一掃することのできる容易で単純な解決策があることを意味しているのではない。しかし、暴力を避けることも、予測することもできず、そのため管理できないものと考えている使用者もいるのようである。
使用者は、まず第一に攻撃の発生を予防するためにできるすべてのことをし、攻撃が起きてしまった場合には、労働者にその必要とする支援を提供しなければならない。例えば、組合員が労働関連暴力のために病気休暇をとった場合には、事業場の病気欠勤手続によって不利益をこうむってはならない。
予 防
労働関連暴力のリスクは、例えば以前事象が起こったことがある場合など、予見可能なことが多い。したがって、評価または最小化することが可能であるとともに、使用者にはこれを行う明確な義務がある。要するに、使用者は、リスクを評価しなければならず、それらのリスクを取り除かなければならず、また、それらを根絶することが不可能な場合にのみ、それらを管理するための包括的な戦略を導入しなければならないということである。暴力は、運が悪かったとか、能力がなかったとか、個人の性格のせいにされてはならない。それは、組合員の仕事や彼らが働かなければならない状況から直接生じる、仕事に関連したものである。
法律:労働安全衛生法(HSWA)のもとで、使用者には、その労働者の健康と安全を保護する義務がある。これは、他の仕事におけるリスクとまったく同じように、暴力からのリスクにも当てはまる。また、労働安全衛生マネジメント(MHSW)規則は、使用者に、低減させるための措置を確認するために、安全衛生リスクを評価することを求めている。
暴力のリスクが確認される場合、それは根絶または可能な最低のレベルに低減されなければならない。使用者はまた、重大または切迫した危険に直面した場合に従うべき手順を確立するとともに、確認された安全衛生リスク及びそれらに対処するために実施されている措置についての情報及びトレーニングを提供しなければならない。
傷病危険事象報告(RIDDOR)規則のもとで、使用者は、死亡、重大な傷害または8日以上の休業につながった労働者に対する(身体的)暴力が関わる事象を報告しなければならない。不幸なことにRIDDORは、脅迫や言葉による嫌がらせ、あるいはそれらによる休業を対象としていない。しかし、そうした事象を記録することは、使用者と労働者双方の利益にかなっている。そして情報は、傾向をみつけるとともに、トレーニングや実施されている措置を改善するために活用することができる。RIDDORに基づく[報告]義務は、すべての事故をアクシデントブック[記録文書]に記録する義務とは別のものである。
リスクアセスメント:MHSW規則のもとで、使用者は、それらを低減させるために講じる必要のある措置を確認するために安全衛生リスクを評価しなければならない。暴力のリスクも、その他の危険有害要因と同じやり方で評価されなければならない。アセスメントの結果が暴力の発生する可能性を示す場合には、使用者は、そのリスクを除去または最小化するための措置を講じなければならない。
HSEは、暴力のリスクを評価するために、以下の5ステップ・アプローチを提案している。
-ステップ1:危険有害要因[ハザーズ]を探す
-ステップ2:誰がどのように危害を受ける可能性があるか判定する
-ステップ3:リスクを評価し、予防措置を決定する
-ステップ4:結果を記録し、措置を実施する
-ステップ5:評価を見直し、必要な場合には更新する
ステップ1:危険有害要因[ハザーズ]を探す
危険有害要因を探し、誰がどのように危害を受ける可能性があるか判定し、またリスクを評価することの重要な一部は、適切な報告制度である。非常に多くの場合、脅迫、またとりわけ、脅迫や言葉による嫌がらせは、報告されていない。あらゆる攻撃は、危険有害要因を確認する引き金とならなければならない。これが、UNIOSONが、すべての部門における、適切な全国報告制度のためにキャンペーンしている理由である。
スタッフは、経営陣によって報告がどのように受け取られるかについて確信がもてないかぎり、事象を報告しないだろう。多くの者は恐れを感じ、暴力の事象に関わったことが彼らの失態とみなされた経験をもつ者もいる。また、その経験に苦痛を感じ、とりわけ明確な予防措置が実施されていない場合には、報告することで苦痛が増すと考える者もいるかもしれない。
そうした理由から、暴力事象の報告及び記録は、この重大な労働関連リスクに取り組んでいるとみられるような全体的戦略の一部として、確立されなければならない。また、すべての労働者、とりわけ他の使用者の施設で働く者が含められることが重要である。最低限、以下の情報が収集されなければならない。
-何が起こったかの説明
-被害者、加害者及び目撃者の詳細と発生場所の詳細を含めた、事象が起きたときの状況
-被害を受けた個人及び組織全体の双方についての失われた労働時間を含め、結果
使用者が暴力事象に気がついていないことは、問題が存在していないことを意味しているのではない。HSEは、孤立したものと思われていた事象が、調査を進めるにつれて、暴力が報告されておらず、当初考えられていたよりも広範な職種に影響を与えていたことが判明することが多いとしている。(通常一回限りのもので、まったく予想できず、避けることができなかったものとされる)暴力による労働関連死亡についての調査が、その他の傷害、脅迫、明らかに潜在的リスクを示す状況を明らかにしている。
言葉による嫌がらせ[Verbal assaults]:言葉による攻撃は、それ自体が苦痛であるだけでなく、身体的攻撃の前兆であることも多い。すべての言葉による嫌がらせを監視する制度が必要である。
ステップ2:誰がどのように危害を受ける可能性があるか判定する
どの労働者グループが労働関連暴力のリスクにもっともさらされているか確認することが重要である。例えば、HSEによれば、一般の人々と直接接する仕事のスタッフは、相対的に高い暴力のリスクに直面する。これは、例えば、社会福祉や医療、コミュニティや居宅訪問、法施行、住宅、教育や幅広いその他の分野で働く者が嫌がらせ、脅迫行為または攻撃のリスクにさらされる可能性があるなど、UNISONの組合員の大きな割合に当てはまる。
暴力の多くは、これらの組合員が、薬物乱用者や精神を患っている者など、リスクの高い可能性のある顧客グループと働いているからである。組合員が、窃盗犯にとって価値があると思われる金品を扱っていることによるケースもある。しかし、労働関連暴力を引き起こす可能性のあることを行うことを求められている仕事だけではない。その他の要因として、仕事がどのように行われるか、また、仕事を行う状況もある。これには、以下が関わる仕事が含まれる。
-金銭の取り扱い
-薬物の取り扱いまたは薬物へのアクセス
-ラップトップ等高価な機器の運搬
-病気、苦痛、恐怖、パニックまたは投薬中などの状態にある者に対するケアの提供
-大きな怒り、恨みまたは失敗の感情をもつ者との対応
-組織が提供できることに非現実的なほど高い期待をもつ者や、きわめて長期的で複雑な問題をただちに簡単に解決しようとしている者への対処
-助けを求めている大きな組織に対して懸念をもっていたり、不適切と感じている、顧客の友人や家族への対処
-自らを表明したり、要求を実現するのに暴力を使ったことのある者との対応
-法令の執行
-顧客の家、物理的に隔離されたユニットにおける、または周囲に他の労働者がわずかしかいない時間中の一人仕事
-何が起きているのかにかついて顧客にあまり情報を提供しない手順にしたがうこと
-人間的なイメージのない-混雑していたり、忙しかったり、居心地が悪かったり、飲み物、電話や子供のおもちゃなど、一般の人が必要とするものがない-ユニットでの仕事
-仕事量の増加、人員不足や顧客への代替支援の不足によって生まれる圧力のもとでの仕事
雇用されることの多い仕事(例えば、看護、介護労働者、社会福祉)の性質から、女性は仕事における暴力のリスクが高く、黒人女性の場合はさらにリスクが高い。黒人女性は、医療部門に関わることが白人女性よりもはるかに多く、一般の女性に比べて、パキスタンやバングラデシュの女性は2倍多く販売部門で働いている。黒人及びアジア人の女性は、人種[差別]暴力の被害者になる可能性がはるかに高い。
攻撃の対象になる可能性を高めるその他の要因には以下が含まれる。
-ジェンダー
-人種
-年齢
-ジェンダーアイデンティティ
-障害
-性的指向
-宗教的信条
ステップ3:リスクを評価し、予防措置を決定する
既存の予防措置及び現在の作業方法がいまもなお適切かどうかチェックされなければならない。複数の要因の組み合わせが労働関連暴力の原因であることが多い。使用者は、以下を含め、いくつかの要因に影響を及ぼすことができる。
提供するトレーニング、情報及び支援の種類とレベル
トレーニングは、安全な作業システムの代わりにはならないが、労働関連暴力を低減させるために策定される戦略の重要な一部である。多くの使用者は、そうすることの有効性に関わりなく、すべてのスタッフに同じ対応のトレーニングを提供しているが、トレーニングは、リスク及び具体的状況に応じて適切なものでなければならない。例えば、緊急事態に対応する救急スタッフは、押す、殴る、蹴るといった事態に直面する-したがって、トレーニングは、傷害を予防するための拡散や位置決めに焦点をあてるべきである。
顧客との緊密な接触がある、メンタルヘルスまたは教育部門で働く労働者に対しては、アプローチが異なる。ここでは、離脱技術や暴力的な顧客の管理に関する追加のトレーニングが必要かもしれない。彼らはまた、例えば同僚が脅威を感じたり、顧客の人質になった場合など、緊急事態に備えたチームによるアプローチを実践する必要があるかもしれない。暴力の防止及び管理に関するトレーニングは、暴力のリスクが確認されたすべての労働者に提供されなければならず、また、安全衛生導入コースや再教育トレーニングコースにも含まれなければならない。
適切なトレーニングを確認するために、トレーニングの必要性に関する評価が実施されなければならないが、最低でも労働者は、回避または対処いずれかができるように、攻撃性の兆候を認識するためのトレーニングを受けていなければならない。彼らは、自分たちを守るために設定されたシステムについて理解していなければならず、また、暴力歴のある顧客を確認するための必要な情報を提供されなければならない。関連する質問には以下が含まれる。
-仕事で一般の人々と接触するすべての労働者が適切なトレーニングを受けているか?
-潜在的または現実の暴力状況の管理を支援しなければならない可能性のあるその他のスタッフが、特別のトレーニングを受けているか?
-すべてのスタッフが、事象が発生した場合に行うことについて、明確に知っているか?
-一人で仕事をする者に特別なトレーニングが提供されているか?
-トレーニングが定期的に見直されているか?
作業環境
作業環境が、労働関連暴力の予防に重要な役割を果たす可能性がある。利用可能な座席、照明、施設及び待っている間に提供される情報のレベルが行為に影響を与えるかもしれない。固定した職場で仕事をするのではないスタッフは、そのために相対的に高いリスクにさらされる可能性がある。作業環境を評価する場合には、このことも考慮することが重要である。安全代表が尋ねることのできる関連した質問には、以下が含まれる。
-公共の待合室は、照明や装飾、相対的に小さく匿名性を少なくすること、利用可能な座席の数とアレンジ、飲み物や電話へのアクセス、子供が遊ぶ玩具の提供、等によって緊張感を和らげるように変えることができるか?
-人々が、あまりにも長時間、またまったく異なるサービスのために、待たされている大勢のうちの一人と感じることがないように、人々に対応するシステムを変更することができるか?
-面談室は、スタッフが簡単に対比できる手段を提供するとともに、顧客のプライバシーを守るものになっているか?
-いずれかの事務所または作業区画がユニットの主要部分から離れた場所にあって、スタッフに一人で仕事をさせながら、一般の人々がアクセスできるようになっているか?
-居宅訪問に関する方針があるか?とりわけ夜遅く/孤立した地域の訪問に関して、それを再評価する必要性はないか?「仕事の許可」または「訪問後の報告」システムが運用されているか?
-一般の人が、気づかれずに、チェックなしに、職場を歩き回ることができるか?
-とりわけ一日の特定の時間帯または夜に、いずれかの施設または施設の一部が一層孤立させられることがないか?
-建物と駐車場の間の区画が夜に明るいか?
-労働者は、助けを呼ぶことができるように、机、部屋または(外部で働く者に対して)外部の便利な場所に、警報/スイッチが提供されているか?それらは保守管理され、また、助けが常に来るような手順が確立されているか?労働者は、不安を感じたり、警戒感を感じたときにはいつまでも警報を使うよう奨励されていなければならず、また、これが弱さのしるしととられてはならない。
職務の設計
職務は、暴力の発生の可能性を高め得るリスク要因に組み込まれることのないよう、検討されなければならない。関連する質問には、以下が含まれる。
-可能な限り現金の取り扱いが回避されているか?
-顧客の視覚や職場から離れた会合のアレンジがチェックされているか?
-一人労働者に対する暴力を予防/低減させるためにどのようなアレンジが存在しているか?
-スタッフが職場から離れる場合に連絡を取り合うアレンジが実施されているか?
-スタッフに攻撃的または暴力的な顧客について警告するシステムが実施されているか?
-暴力事象に巻き込まれた場合に何をするか労働者が知っているか?
-暴力事象に巻き込まれた者及びその同僚のためのカウンセリング及び支援が利用出来るようになっているか?
ステップ4:結果を記録し、措置を実施する
リスクアセスメントの主要な結果は記録されなければならない。書面による記録は、管理者及びスタッフにとって有用なワーキングドキュメントを提供する。記録には、以下が含まれなければならない。
-確認された危険有害要因[ハザーズ]
-潜在的な加害者
-リスクの高い区画及び/または時間
-曝露する労働者
-実施されている予防措置
-残存するリスクの評価
-必要な追加措置
-管理措置実施の責任者
-措置が講じられ、また見直される期限
追加措置を検討する際には、以下の点が検討されなければならない。
1. その職務はなぜそのようなやり方でなされているのか?いつもそのようになされているという理由か?その作業方法は時間をかけて開発されたものなのか、またはその職務をうまくこなすための唯一の方法と証明されたものなのか?作業方法に関する決定がなされる場合、暴力のリスクに対して何らかの考慮がなされているか?暴力のリスクを低減させるために職務がなされる方法を変更することができるか?例えば、たった一人の人物で顧客に接することが必要または安全か?2人の方がより安全かつより効率的ではないか?
2. 顧客についてのチーム・ディスカッションでスタッフに対する安全衛生リスクを検討する必要はないか?例えば、居宅訪問を計画する場合に、チームが、暴力歴をもつ患者、顧客またはその家族に関する情報を共有しているか?
3. 労働者が責任を負わないですむように、顧客に、手順、タイミング及びなぜそれがその方法でしかできないかという理由に関する情報を与えられているか?
4. スタッフの配置人数、スタッフの勤務表及び一般の人々と直接接して働く者の勤務割りと長さまたは時間を決定する際に、暴力のリスクが考慮されているか?
5. 予測できない絶え間ない仕事量は、疲労、暴力的な状況の早期察知及び対処の双方の能力の低下につながる可能性がある。
6. 現実の必要性に合ったレベルに調整するために、スタッフの配置に十分な柔軟性があるか?
7. とりわけ暴力の可能性のある状況下で、個人が長期間にわたって孤立させられてはならず、また、若手、新人や経験の浅いスタッフが一人で対処しなければならないようにさせてはならない。必須ではない居宅訪問は、夕方、夜、または一人だけの労働者によってなされてはならない。居宅訪問がなされる前に、暴力のリスクが評価されなければならず、また、スタッフを防護する手順が策定されなければならない。訪問がなされる地域も評価されなければならない。一般的に使用者は、同僚と連絡を保つためのシステムを検討しなければならない。UNISON及びHSEは、一人作業に関する詳しい手引きを作成している。
8. 多くの労働者がいま仕事中に名札を着けることを求められている。このことは、仕事及び自宅における-一般の人からの労働関連暴力及び嫌がらせをより受けやすくなると考えるUNISON組合員に懸念を生じさせている。例えば、組合員の自宅の住所を確認するために電子登録を利用した顧客や、仕事中に電話をかけられて口汚い性差別的な言葉をぶつけられた組合員もいる。そのようなリスクを確認するために、名札の着用は、労働関連暴力についてのリスクアセスメントの一環として評価されなければならない。アセスメントの結果、名札の着用による暴力のリスクが示される場合には、代わりのアレンジが検討されるべきである。これには、ファーストネームだけを使うことや、労働者の氏名ではなく、職務名や「偽名」を使うことがあり得る。
9. 暴力のリスクが指摘されると、多くの場合、個人警報機、パニックボタンや携帯電話についての議論になる。これらは有用であり得るが、十分に計画された体系的アプローチの代わりにはならず、また、せいぜい解決策の一部にしかならない。また、リスクに対処する責任を労働者に転嫁することによって、個人に焦点をあてることも多い。個人警報機は暴力を防ぐことはできないが、より早く助けを呼ぶことができるかもしれないことから有用であり得る。しかし、どのようなシステムも、それを支える手順があって初めてなりたつものである。加えて、それはスタッフに誤った安心感を与える可能性があり、安全な作業システムの代わりにはならない。携帯電話も、一人労働者が本部との連絡を保つのに役立つことによって、有用と思われるかもしれない。しかし、区域によってうまくつながらない電話もあることからいつも当てはまるわけではなく、常に信頼できるものではない。それらはまた、利用者が電話について攻撃される可能性もあることから、追加リスクを生み出す可能性もある。
10. 同様に、自己防衛トレーニングは、異なる人々に異なることを意味する可能性があることから、独自のリスクを生み出す可能性がある。それを自己主張または対人関係スキル・トレーニングととらえる者もいれば、攻撃者に対処する物理的対処法として自己防衛トレーニングを見る者もいる。これは、この種のトレーニングは、定期的に行われる場合にのみ有効で、リスクに対処する責任を労働者に転嫁することから、容認できない。
ステップ5:評価を見直し、必要な場合には更新する
有効であり続け、現在の作業状況を反映しているようにするために、リスクアセスメントは定期的にチェックされなければならない。このプロセスは、それが日常的な安全衛生マネジメントの一環である場合に、もっともうまく機能する。事象が発生したり、職務または状況が変化した場合には、どのような追加措置が必要か検討するために、リスクアセスメントが見直されなければならない。
支 援
労働者に対する一度の攻撃は、本人だけでなく、その同僚及び組織全体に対しても甚大な影響を与える可能性がある。だからこそ、まず何よりも攻撃を予防することを最優先にすることが重要である。しかし、事象が発生した場合には、支援や援助が手元にあることが重要である。明らかに、労働組合の安全代表は、支援プロセスの重要な一部である。しかし、労働者の安全と福祉に法的責任を有するのは使用者である。スタッフは、どのような支援を利用することができるのか知っている必要がある。
1. 事象中及び直後
2. 短期的
3. 長期的
事象中及び直後
事象が発生した場合、スタッフは、使用者の支援があることを知っている必要がある。これには警備員が含まれる可能性があり、また、一定の場合には警察も含まれるかもしれない。スタッフは以下のことを必要とするかもしれない。
-応急措置及び/または医療的評価
-大丈夫かどうかを尋ねる同僚
-事象が記録及び調査されることを確保すべき立場にいる直属の上司との非公式な話し合い
-休憩
-帰宅
短期的
短期的に必要とする可能性のある支援の種類には、以下が含まれる。
-作業区画または行う作業の種類の変更(しかし、これは被害者との合意による場合に限られなければならず、さもないと、スタッフが事象について自分が責められているような印象を受ける可能性がある)
-あらゆる問題について話すための直属の上司との定期的な話し合い
-事象から何を学ぶことができるかに関する議論
-(利用可能な場合には)労働サービスからの助言
-安全代表からの助言
長期的
場合によっては、本人が、心的外傷後ストレス障害のような、長期的症状を経験する可能性がある。そのような場合、スタッフは、労働衛生サービスによる支援及び独立したカウンセリング・サービスへのアクセスを必要とするだろう。彼らはまた休業を必要する可能性もあるが、病気欠勤手続きのもとでの病気休暇としてカウントされてはならない。しかし、すべてのスタッフの助けになるのは、事象が相応の真剣さで対処され、教訓が得られ、再発防止のための措置が講じられたことを知ることである。
暴力的なサービス利用者に対処する方針
使用者は、暴力的な顧客、患者またはサービス利用者に対処するために、明確かつ実行可能な手順を実施していなければならない。場合によっては、これにはケアまたはサービスの提供が関わるかもしれない。しかし、これが常に可能ではないかもしれない。例えば、看護士が生命の危機に瀕している患者の治療にあたり、福祉労働者が学習障害やメンタルヘルス問題をかかえる顧客に対応しているかもしれない。そのような場合には、安全な環境、例えば適切な警備支援が実施されている場所で、顧客または患者を扱うためのアレンジが実施されていなければならない。もちろん、暴力をふるう可能性を見極める鍵は、しっかりとしたリスクアセスメント手順である。
警察及び法律の役割
UNISONは、仕事における暴力に曝露する労働者がふさわしい支援を受けることができるようにするための、より強固な法律のために長い間キャンペーンしてきた。例えば、私たちは、すべての公共労働者が、警察官がが受けるものと同じレベルの保護を受けられるようにするためにキャンペーンしてきた。しかし、現行の法律が規定していること、及び、スタッフとより安全な作業環境のために保護を提供するために、それがどのように適用され得るかについて、使用者が理解することが重要である。現行の法律の概略とUNISONが要求していることについては、付録1[省略]に示した。
UNISONの安全代表・委員
プロセスの全体を通じて、攻撃を受けた組合員が、安全代表や地域の委員にアクセスできること及び彼らからの支援について知っていることが重要である。明らかに、安全代表はリスクアセスメント、及び事象を踏まえて実施される予防措置に関与しなければならない。組合員が、必要に応じて援助や支援を提供することのできる、地域委員と連絡をとることも重要である。
法的援助
仕事において攻撃を受け、持続する傷害がある場合には、補償を請求できる可能性がある。UNISONの法律援助制度は、(組合員の適格期間中であることを条件に)そのような状況にある組合員に支援を提供しており、支部を通じて容易にアクセスすることができる。
ケーススタディ[省略]
安全代表のためのチェックリスト
方針の策定
-使用者は、書面による安全方針のなかに、暴力に対処する手順を含めているか?
-暴力に関する方針を実施する責任が、指名された上級管理者の責務になっているか?
-すべての安全代表に、暴力・攻撃に関する方針のコピーが提供されているか?
-方針は、安全代表と協議のうえで、定期的にレビュー及び更新されているか?
-安全代表は、方針が機能し、また、適切に順守されているかどうかチェックしているか?
予 防
-使用者は、暴力事象専門の、報告様式システムを導入しているか?
-派遣スタッフやパートタイムを含め、すべての労働者がこのシステムについて知っているか?
-スタッフは、言葉による嫌がらせや脅迫の事象を含め、あらゆる暴力事象を報告するよう奨励されているか?
-報告様式の供給はスタッフがすぐ利用できるようになっているか?
-監視の結果が、使用者の方針の有効性をチェックするために利用されているか?
-使用者は、問題に対する可能な解決策を追求するために、安全代表と協議しているか?
-協議の一環として、システムによる報告への対応がレビュー及び分類されているか?
-使用者は、(警備コンサルタント、地元警察の犯罪防止担当者、または被害者支援等)外部の専門家と協議したことがあるか?
-あったとしたら、安全代表が協議に参加したか?
-すべての予防措置が、職場のリスクアセスメントに基づいているか?
-駐車場、グランド等の物理的安全を高め、建物へのアクセスを制限し、スタッフに避難所を提供するために、何かできることがあるか?
-パニックボタンを着用しているか?しているとしたら、機能しているか?迅速に対応するための信頼できる手順があるか?
-個人攻撃警報機が提供されているか?されているとしたら、適切な手順によってバックアップされているか?
-専門警備員が雇用されているか?いるとしたら、適切に訓練及び検査されているか?いないとしたら、侵入者に対処するなど、警備問題に誰が責任を負っているのか?彼らは専門的訓練を受けているか?
-居宅訪問に関する方針または手順はあるか?
-可能性のある事象に関する、または、新しい顧客や新しいスタッフを含め、顧客に関する情報を伝えるシステムがあるか?
-適切で、緊張感を生まず、または事象が発生した場合に窮地に陥らせないようにするために、一般の人々/スタッフが利用する部屋または区画に配慮がなされているか?
-孤立した建物、事務所または他の作業区画若しくはオフサイトで働くスタッフを保護するための措置が講じられているか?
-一人作業者やコミュニティで働くスタッフのためのアレンジがなされているか?
-使用者は、人員配置のレベルを決定、作業時間またはシフトを変更する場合に、暴力のリスクを考慮しているか?
-パートタイムを含め、すべてのスタッフが、暴力に対処するための手順についてトレーニングを受けているか?
-トレーニングは適切か?
-スタッフは、現金または財産を守るために自らをリスクにさらすべきではないことが明確にされているか?
-名札が着用されている場合、暴力のリスクが検討されたことがあるか?
-現金及び預金の取り扱いのための詳しい手順があるか?
支 援
-使用者は、厄介な、攻撃的あるいは虐待的な顧客に遭遇したスタッフに対して同情的な支援を提供しているか?(例えば、カウンセリングへのアクセス、回復するための時間、心理的影響についての知識等)
-安全代表は、暴力事象後の被害者との議論に参加しているか?
-応急措置または医療的援助は容易に利用可能か?
-独立したカウンセリングサービスが利用可能か?
-使用者は、暴力的なサービス利用者に対処するための方針をもっているか?
-使用者は、暴力事象に対処及び報告するための、警察との間のアレンジをもっているか?
https://www.unison.org.uk/unison-health-and-safety/health-safety-key-issues/bullying-and-harassment/
安全センター情報2022年5月号