【ロシア軍侵攻以前のウクライナにおけるアスベスト禁止をめぐる動き①】ウクライナのアスベスト戦争-2021年4月15日 アスベスト禁止国際書記局(IBAS)

ウクライナのアスベスト禁止問題は、欧州連合[EU]加盟を目指す同国と、それを阻もうとする旧同盟国で現占領者であるロシアの地政学的な対立に巻き込まれたものである。21世紀を通じて、ロシアは世界最大のクリソタイルアスベスト生産国であり、そのようなものとして世界のアスベスト市場を守り、アスベスト使用によってもたらされる健康被害の証拠を隠蔽するために、様々な策略を練ってきた。ことあるごとに-ウクライナ・クリソタイル協会を含め、しかしそれに限られるものではない-ウクライナのアスベスト関係者は、外国のロビイストと協力して、世界保健機関、国際労働機関、国際がん研究機関、その他の国際機関による勧告に従って、多くの国で禁止されている物質の使用を廃止しようとする、ウクライナにおける試みを攻撃してきた。

ウクライナ保健省によるアスベストを禁止する最初の試み(2017年6月)は、2017年10月に法務省と国家規制庁により国家登録簿から規則が抹消されて、無効化された。2018年1月31日、キエフの地方行政裁判所において、禁止の破棄に対して保健省が起こした手続が開始された。保健省は、健康上の見地から禁止令は復活されるべきであると主張した。この訴訟の第2回審理は2018年4月18日に行われ、クリソタイルアスベストの使用によってもたらされる健康被害を実証する証拠を提出するために原告によってなされた申請が承認された。2018年6月11日、キエフ裁判所でアスベスト事件を審理した3人の裁判官は、ウクライナ人がアスベスト曝露のない暮らしをする権利を支持し、保健省の2017年アスベスト禁止規則を指示した。残念なことに、この判決を受けて予想されていたハッピーエンドは実現しなかった。既得権益者による集中的なロビー活動を経て、2018年8月7日、キエフ控訴裁判所は、技術的な理由からアスベスト禁止規則を取り消したのである。この判決は、2019年3月29日にウクライナの最高裁判所が下した判決によって確定し、その結果、アスベスト禁止は無効にされた。

EU加盟を達成するプロセスの一環として、ウクライナは、一定の法的、政治的、経済的及び行政的要件を満たさなければならない。公衆衛生に関するその義務を履行するために、2020年9月22日付け「公衆衛生制度について(第4142号)」と題した法案が、2021年2月4日の第1読会で国会によって採択された。同法案の第27条には、以下の文言が含まれていた。

「その種類を問わずに、アスベスト及びアスベスト含有製品・物質の製造及び使用は、あらゆる施設における技術工程及び建設・設置作業の実施において禁止される。アスベスト及びアスベスト含有製品・物質の安全対策及び有害な影響に対する防護は、州の衛生規則で定められる。」

国会の保健・医療・医療保健委員会のミハイル・ラドゥツキー委員長によれば、第27条が法案の中でもっとも議論を呼んでいる。

「この法案には-左派、右派、そして中道-多くの反対派がいた。『国民の僕』派の中でさえ、それに対する態度はあいまいだったが、ありがたいことに第1読会を通過することができた。同時に、第2読会までに約900の修正案が提出された…。この法律は、ウクライナでのアスベストの使用を最終的に禁止するものであることから…非常に大変なものであることがわかった。継続使用を主張するロビーグループもいる。」

アスベスト擁護派によるロビー活動のひとつは、一連のインフォマーシャル-独立的な報告にみせかけて、実際は産業ロビーによるプレスリリースにすぎない記事というかたちをとった。その内容は、村人たちのパニック、スレート(「伝統的」)屋根のブラックリスト化、アスベスト屋根の交換の義務化や農家への経済的打撃などを警告していた。

現在、法案第4142号に対して提出された900以上の修正案が検討されている。ロシア軍の動向が伝えられる中、この地域では何事も当たり前にできることはない。しかし、ウクライナの人々が、欧州連合に代表される民主主義国家の仲間入りを果たし、アスベストへの有害な曝露なしに生活を送る権利を含め-EU加盟国すべてに与えられた恩恵と権利を享受するための努力を成功させることを願うことはできる。

http://www.ibasecretariat.org/lka-ukraine-s-asbestos-war.php