「独立個室型の便所」新設/プライバシー確保も強調-50年ぶりの事務所衛生基準規則見直し-(2021年12月1日施行)

2021年12月1日に、①作業面の照度(事務所則第10条)、②便所の設備(事務所則第17条及び安衛則第628条)、③救急用具の内容(安衛則第634条)について「事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令」が公布され、②③は即日施行、①は2022年12月1日に施行されることとなった。

省令見直しに至る経緯・情報

今回の見直しにあたっては、以下のような作業がなされている。

① 事務所衛生基準に関する現状把握

厚生労働省は、2019年度に委託事業として、事務所則や快適職場指針の関係部分につき、約1,200事業場に対する実態調査を実施して現状の把握と分析を行い、2020年3月に「事務所作業に係る労働衛生管理及び快適な職場環境整備に関する検討会報告書」が取りまとめられた。

また、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が厚生労働省の要請を受け、2019年度に労働者約7,000人に対するWEBアンケート調査を行い、事務所を含む事業所における休養や清潔保持のための各種設備の現状や労働者の満足度、改善要望について、「事業所における労働者の休養、清潔保持等に関する調査」(2020年11月30日)を取りまとめている。

② 事務所衛生基準の見直しに関する検討会

2020年8月25日の第1回から2021年2月15日までに6回、検討会が開催され、同年3月24日に報告書が公表された。

検討会報告書は冒頭、次のように言っている。

「事務所衛生基準規則においては、事務所における清潔を保持するための措置、休養のための措置、事務所の作業環境等が定められており、50年にわたり、労働者が事務作業に従事するあらゆる業種の事務所における衛生水準の確保を担ってきた。これらは、女性の社会進出や活躍、高年齢労働者の働きやすい環境を整備するために重要な役割を担っており、今後も、障害のある人を含む全ての労働者にとって働きやすい環境の確保という観点から、関係規定の確認と見直しが求められている。」

③ パブリックコメントと審議会

2021年6月28日に、事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令概要が示されて、7月27日までパブリックコメント手続が実施された。公布日は9月上旬(予定)とされていたが、12月1日となり、結果公表も同日。

7月28日に第139回労働政策審議会安全衛生分科会で改正省令案要綱について審議が行われ、10月11日の第140回安全衛生分科会でおおむね妥当とされた。(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-rousei_126972.html)
厚生労働省は同日、12月1日施行に向け、速やかに省令改正作業を進めると発表した。

④ 改正省令の公布・施行と関係通達等

厚生労働省は「事務所における労働衛生対策」特設ページを開設し、施行通達、リーフレット、質疑応答集及び情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインの改訂に関する情報を提供している。

⑤ 事務所衛生基準規則に関する研究-妥当性と国際基準との調和

2019年度に採択された労災疾病臨床研究事業費補助金研究(研究代表者:武藤剛・北里大学医学部衛生学講師)、3年計画の1年目と2年目の報告書が公表されている。

今回の見直し検討には反映されなかったようだが、注目すべき内容が多々含まれているので、13頁に、既刊の報告書概要の内容を紹介した。

事務所衛生基準等の現状

「旧事務所衛生基準規則(昭和46年労働省令第16号)は、労働基準法(昭和22年法律第49号)に基づく省令として制定され、昭和47年に労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)に基づく事務所衛生基準規則(昭和47年労働省令第43号。以下『事務所則』という。)となった。

事務所則は、空気環境、照度等、騒音及び振動、清潔、休養、救急用具等に関する規定から構成されている。事務作業を前提としており、有害物の取扱い、ガス、蒸気又は粉じんの発散等に対する規定は含まれていない。

事務所則の体系は、昭和39年にILO[国際労働機関]において採択された商業及び事務所における衛生に関する条約(昭和39年第120号条約)及び同名の勧告(昭和39年第120号勧告)に規定する保安と清潔、換気と空気浄化、照明、温度調節、作業場の配置、飲料水、更衣室と振動、その他を参照している。
これまでの主な改正としては、平成16年に行われた、空気環境の調整が必要な機器の追加、ホルムアルデヒドに係る基準の設定及び測定等の追加がある。

通常の事務作業においては、危険有害業務は比較的少ないと考えられるものの、事務室内の汚染空気の吸入や作業状態に合わない温熱環境、機械設備等による騒音や振動は、健康リスクとなる。また、長時間の情報機器作業において、目の疲れ、指先の反復操作による肩や腕への静的な負担、不自然な作業姿勢のままで作業を続けることによる腰部への負担等があることから、適切な作業環境の確保、作業方法の改善等により健康リスクを低減し、事務作業における健康障害防止を図るための衛生基準を定めているものである。

平成4年の労働安全衛生法改正により、事業者の努力義務として、快適な職場環境の形成のための措置が定められた。これに関し、事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針(平成4年労働省告示第59号。以下『快適職場指針』という。)において、空気環境、温熱条件、視環境、音環境、作業空間等を快適な状態に維持管理するための措置、不自然な姿勢、荷物の持ち運びや高温多湿な場所での作業における作業方法を改善するための措置、労働者の疲労を回復するための休憩室やシャワー室等の施設・設備の設置等が示されている。」 (検討会報告書)

事務所を取り巻く環境の変化

「昭和46年の旧事務所衛生基準規則の制定以降、事務所を取り巻く環境は様々に変化している。
昭和60年以降、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号)をはじめとする各種制度の整備により、採用、配置、昇進等において男女の差別が禁止され、職場での女性の活躍が定着してきた。平成28年には、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(平成27年法律第64号)が施行され、企業は、自社の女性活躍に関する状況の把握や分析を行い、行動計画を策定することが求められている。

また、健康で働く意欲のある高齢者の増加に伴い、企業での定年延長や再就職等も含め高年齢労働者が増加している。平成29年から平成30年にかけて開催された人生100年時代構想会議において『人づくり革命基本構想』(平成30年6月人生100年時代構想会議決定)が取りまとめられ、その後『経済財政運営と改革の基本方針2019』(令和元年6月21日閣議決定)においても、人生100年時代の到来を見据え、いくつになっても活躍できる社会の構築が求められたことを受け、令和2年に高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号)が改正される等、高年齢労働者にとっても働きやすい環境の整備が求められている。

一方、職場は、多様な働き手が長時間を過ごす場ともなっている。例えば、国連の障害者の権利に関する条約(平成20年5月3日発効)に関連して、平成25年に障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)が改正され、事業主に対して、障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置を講ずることを義務付けている。こうした中、高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号。以下『バリアフリー法』という。)等に基づき、旅客施設や公共施設その他の建築物等における移動の円滑化が進められてきたことは、障害のある労働者の通勤等における負担軽減につながる取組でもある。

さらに、事務所における作業環境等も変化している。事務所則第1条では、事務用機器の例として、カードせん孔機やタイプライターが掲げられているが、旧来、事務所で使われていたカードせん孔機、機械式タイプライター等の事務用機器が一般には使われなくなる一方、ワードプロセッサー等が導入され、事務所でより多くの労働者が事務用機器を用いた作業に従事するようになり、昭和60年に『VDT作業のための労働衛生上の指針』(昭和60年12月20日付け基発第705号)が示された。その後、パーソナルコンピュータの導入や、キーボードを使用しないタブレットやスマートフォン等の携帯用情報機器の普及に対応して同ガイドラインの全面的な見直しが行われ、令和元年7月に『情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン』(令和元年7月12日付け基発0712第3号)が定められたところである。
また、新型コロナウイルス感染症の拡大による緊急事態宣言(令和2年4月7日から同年5月25日まで)を契機に、在宅勤務等のテレワークが急速に広まったところであり、事務所における事務作業についても、書類の電子化の加速や勤務状況の変化が生じること等が予想される。」 (検討会報告書)

事務所則等規定一覧と改正内容

検討会報告書は、「事務所則に規定する事項のうちから、令和元年度に実施した各種調査結果、日本産業規格やその他の規格等を踏まえつつ、今般検討が必要と考えられる論点を議論し、①トイレ設備、②更衣設備・休憩の設備等、③作業面の照度、④一酸化炭素・二酸化炭素の含有率に係る作業環境測定の4つの論点を取り上げ」たとしている。

以下に、事務所衛生基準規則の規定及び労働安全衛生規則(第3編 衛生基準)の規定との比較を一覧表にして示した。

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今回の改正箇所をゴチック体で示したが、表中では、①事務所則の作業面の照度規定の変更と、②事務所則及び安衛則の便所の規定に新たに「独立個室型の便所」を位置づけたことだけである。表に示されていない省令改正や運用の見直しの内容を含めて、以下でみていきたい。

作業面の照度基準の引き上げ

事業者が適合させなければならない労働者を常時就業させる室(以下「室」という。)の作業面の照度基準に関し、作業の区分を従来の3区分から「一般的な事務作業」及び「付随的な事務作業」の2区分に改め、各々「300ルクス以上」及び「150ルクス以上」とされた。(事務所則第10条第1項)

また、1989年に策定された「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」の、「ディスプレイを用いる場合のディスプレイ画面上における照度は500ルクス以下、書類上及びキーボード上における照度は300ルクス以上を目安とし、作業やすい照度とすること」の下線部が削除された。

安衛則第604条の、労働者を常時就業させる場所の作業面の照度基準は変更されていない。
精密な作業-300ルクス以上
普通の作業-150ルクス以上
粗な作業-70ルクス以上

施行通達では、まず、この規定は「照度不足の際に生じる、眼精疲労や文字を読むために不適切な姿勢を続けることによる上肢障害等の健康障害を防止する観点から、全ての事務所に対して適用する趣旨である」と解説している。

また、「高年齢労働者も含めた全ての労働者に配慮した視環境の確保を図る必要があることから、必要に応じて、個々の労働者に視力を眼鏡等で矯正することを促した上で、作業面における照度を適切に確保することが重要である」、「個々の事務作業に応じた適切な照度については、本条に定める基準を満たした上で、日本産業規格JIS Z 9110に規定する各種作業における推奨照度等を参照し、健康障害を防止するための照度基準を事業場ごとに検討の上、定めることが適当である」としている。

検討の経過からは、「夜間路上の街灯下程度の70ルクス等は事務作業に適さ」ないため廃止し、「全ての事務所に対して適用する」下限値を、付随的な事務作業(「文字を読み込んだり資料を細かく識別したりする必要のないものに限る」)=粗な作業で70→150ルクス、一般的な事務作業=普通の作業で150→300ルクスに引き上げ、「作業に応じた適切な照度は、これを満たした上で事務所ごとに検討すべき」、精密な作業等には「作業に応じてより高い照度を定めるべき」という趣旨と考えられるが、質疑応答集を含めてその旨が明記されておらず、わかりにくい(括弧書きは検討会報告書)。

JIS Z 9110[照明基準総則]は、具体的な作業または活動ごとに照度基準を示しており、事務作業を行う「机上面」において必要な照度は750ルクスとされ、「視覚表示装置(VDT)を使用する視作業のための照明」も扱われている。

前出の「事務所衛生基準規則に関する研究―妥当性と国際基準との調和」が、「まずは現行の基準を国際基準に近いJIS基準にまで引き上げる」ことを提言していることも指摘しておきたい。

質疑応答集には、「情報機器作業を行う際、作業面で300ルクスを維持しようとすると、照明の光が画面に反射して視界に入り、まぶしすぎるが、どのように対応すればよいか」という問いに、「まぶしさを感じないようにすることが必要」、方法は上記ガイドラインの「4 作業環境管理」に記載があるので、参考にされたいという答が示されているだけである。
照度基準の改正は、2022年12月1日施行である。

便所の設置基準の例外

便所の設置基準について、同時に就業する労働者が常時10人以内である場合は、便所を男性用と女性用に区別することの例外として、事業者が、男性用と女性用に区別しない四方を壁等で囲まれた一個の便房により構成される便所(以下「独立個室型の便所」という。)を設けることで足りることとされ、施行通達で以下のように示された。(事務所則第17条の2、安衛則第628条の2、第677条)

① 作業場に設置する便所については、作業場の規模にかかわらず男性用と女性用に区別して設置することが原則である。一方で、住居として使用することを前提として建築された集合住宅の一室を作業場として使用している場合など、便所が1箇所しか設けられておらず、建物の構造や配管の敷設状況から、男性用便房、男性用小便所、女性用便房の全てを設けることが困難な場合もある。このような場合についても例外なく、便所を男性用と女性用に区別して設置する原則を適用した場合、作業場の移転や便所の増設に必要なスペースを確保することによる作業環境の悪化などが生ずるおそれがあることから、同時に就業する労働者の数が常時10人以内である場合は、独立個室型の便所を設置した場合に限り、例外的に男女別による設置は要しないこととしたものであること。

② 本条は便所を男性用と女性用に区別して設置する原則の適用が困難な作業場における例外規定であり、同時に就業する労働者の数が常時10人以内である場合においても、可能な限り便所は男性用と女性用に区別して設置することが望ましいことはいうまでもないこと。

③ 同時に就業する労働者の数が常時10人以内である場合であって、既に男女別の便所が設置されている場合において、本条を根拠に便所の一部を廃止し、又は倉庫等他の用途に転用することは、本条の趣旨を踏まえれば、不適切な対応であり、許容されるものではないこと。

④ 新たに作業場を設ける場合(建物を新たに設置する場合のほか、既存の建物の一部を賃貸等により作業場として使用する場合も含む。)については、当該作業場で同時に就業する労働者の数が常時10人以内である場合には、独立個室型の便所を1箇所設ければ足りるものであるが、同時に就業する労働者の数が常時10人を超えた場合には、直ちに法違反となる一方、便所の増設は容易ではないことを踏まえれば、あらかじめ男性用と女性用に区別した便所を設置しておくことが望ましいこと。

⑤ 「独立個室型の便所」とは、男性用と女性用に区別しないそれ単独でプライバシーが確保されている便所のことをいい、仕切り板又は上部若しくは下部に間隙のある壁等により構成されている便房からなる便所と対をなす概念の便所であること。「壁等」とは、視覚的、聴覚的観点から便所内部が便所外部から容易に知覚されない堅牢な壁や扉のことをいい、「四方を壁等で囲まれた」とは、全方向を壁等で囲まれ、扉を内側から施錠できる構造であることをいうこと。

なお、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律施行令」(平成18年政令第379号)に規定されている車椅子使用者用便房やオストメイト対応の水洗器具を設けている便房からなる便所についても、上記要件を満たす場合は、当然、独立個室型の便所に該当するものであること。

⑥ 独立個室型の便所は、施錠できることが要件とされているが、便所の使用に際し、(i)内部に他者が侵入し、施錠された場合に退避困難となること、(ii)施錠された便所内で体調不良者が発生した場合に救護等が困難となること等から、便所内に容易に押下することができる非常用ブザー等の設置や、異常事態発生時に外部から解錠できるマスターキーを事業場管理者が有しておくことなど、非常事態を想定した対応を衛生委員会等で調査審議、検討等を行った上で定めておくことが望ましいこと。

⑦ 手洗い設備は便所内に設けることとされているため、独立個室型の便所ではその定義により、便房内に設けられていることが基本となるが、便房の外側に設けられている場合であっても、排他的に近接しているものについては、便房内すなわち便所内に設けられているものとみなすことができること。

⑧ 上記⑥及び⑦の状況は、男性用と女性用に区別する四方を壁等で囲まれた一個の便房により構成される便所においても、独立個室型の便所と同様に生じうることから、同様の対応を行うことが望ましいこと。

⑨ 一個の便房を男女が共用することに伴う風紀上の問題や心理的な負荷については、個々の作業場における便所の設備や設置場所、男女比率等によっても大きくことなることから、消臭や清潔の保持についてのマナー、サニタリーボックスの管理方法、盗撮等の犯罪行為の防止措置、異常事態発生時の措置(防犯ブザーの設置、管理者による外側からの緊急解錠等)など、便所の使用や維持・管理に関するルール等について、衛生委員会等で調査審議、検討等を行った上で定めておくことが望ましいこと。

なお、前出のJILPT調査によると、全体で、「男女別」が78.4%、「男女共用」が21.6%。「男女共用」は、事業所規模「29人以下」で39.5%と高く、事業所形態別では「病院、医療・介護施設」(37.1%)、「旅館、ホテル棟の宿泊施設」(27.3%)、「店舗、飲食店」(27.1%)が高くなっている。

独立個室型便所の付加的設置

また、男性用と女性用に区別した便所を設置した上で、独立個室型の便所を設置する場合は、男性用大便所又は女性用便所の便房の数若しくは男性用小便所の箇所数を算定する際に基準とする同時に就業する労働者の数について、独立個室型の便所1個につき男女それぞれ10人ずつ減ずることができることとされ、施行通達で以下のように示された。(事務所則第17条の2、安衛則第628条の2、第677条)

① 職場においても障害のある労働者への配慮や、高年齢労働者の利便性の改善等、便所に対するニーズは多様化していることから、男性用便所と女性用便所をそれぞれ設置した上で、独立個室型の便所を付加的に設ける場合は男性用大便所の便房、男性用小便所及び女性用便所の便房をそれぞれ一定程度設置したものとして取り扱うことができる旨新たに規定した趣旨であること。

② 便所の利用状況は事業場ごとに異なることから、便房や手洗い設備の増設による待ち時間の短縮、ニーズを踏まえた機能の付加等、労働者の利便性向上を図ることは重要であり、事業場の実情に応じて、衛生委員会等で調査審議、検討等を行い、その結果に基づいて柔軟に対応することが望ましいことはいうまでもないこと。

改正への懸念と質疑応答集

「以上のトイレ設備の見直し…(は)…事務所を前提に議論されたものであるが、いずれも事務作業特有のものではないことから、工場や現場等事務所以外の事業場においても適用されるべきである」(検討会報告書)ということで、事務所則と安衛則の双方に同じ内容が規定されたものである。

実は、これらのトイレ設備規程の見直し提案に対して、Twitterでの「女子トイレの危機です」というtweetからはじまり、「#厚労省は職場の女性用トイレをなくすな」というハッシュタグがついたtweetが拡散され、一時的にではあるがトレンド入りする事態となったという。パブリックコメントには、1,542件の意見が寄せられ、「女性専用トイレを廃止すべきでない」等の意見が多数を占めてていた。このため、パブリックコメント期限の翌日に設定された安全衛生分科会では急きょ答申を見送ることになり、次回の分科会に「懸念事項への対応方針」が示されて答申に至ったという経過があった。

対応のひとつが、前述の施行通達の記述であり、また、質疑応答集で以下のような質問も取り上げられている(「答」は編集者による要約)。

① 今回の改正で、作業場の便所は作業場の規模にかかわらず男性用と女性用に区別するという原則に変更はあるか。
(答)変更はない。

② 今回の改正は女性用便所の男女共用便所への改修を推進するものなのか。
(答)そういう趣旨ではない。

③ 今回の改正における「独立個室型の便所」には具体的にはどのようなものが該当するか。
(答)男性用と女性用に区別しない単独でプライバシーが確保されている便所のことをいう。全方向を視覚的、聴覚的観点から便所内部が便所外部から容易に知覚されない堅牢な壁や扉で囲まれ、扉を内側から施錠できる構造である必要及び手洗い設備を備えている必要がある。例えば車椅子使用者用便房で、上記要件を満たすものは当然独立個室型の便所に該当する。

④ 施行日以降は、全ての事業場において独立個室型の便所を設置しなければならないのか。
(答)今回の改正により、作業場における便所の設置に関する選択肢が増えるものであり、独立個室型の便所の設置を全ての事業場に対して求めるものではない。独立個室型の便所を設置するか否かは、事業場の実情に応じて、衛生委員会等で調査審議、検討等を行い、その結果に基づいて対応することが望まれる。

⑤ これから起業することを考えている。マンションの一室を事務所として使用しようと考えているがトイレが1箇所しかない。問題はあるか。
(答)例外の要件を満たせば問題はないが、男性用と女性用に区別して設置が望ましい。

⑥ 本事業場では、同時に就業する労働者の数が男女合わせて常時10人以内であり、現在、独立個室型の便所が1箇所しかないが、労働者の利便性向上や労働者の人数が増加した場合のため、もう1箇所独立個室型の便所を設けようと考えている。独立個室型の便所が2箇所あるとき、便所男女別の原則に基づき、便所を男性用と女性用に区別するために、一方を男性用便所、もう一方を女性用便所として表示し、使用する場合について、男性用小便所を設けていなければ問題となるか。
(答)男性労働者が20人以内であれば、男性用小便所を設けなくとも設置基準を満たす。

⑦ 本事業場では、同時に就業する労働者の数が男女合わせて常時10人以内であり、現在、独立個室型の便所が1箇所しかないが、労働者の利便性向上のため、独立個室型の便所内に、大便器のほかに、男性用小便器を設置しようと考えているが、問題はないか。
(答)問題にはならないが、便房及び男性用小便所を設置したとはみなせないことに注意。

⑧ 本事業場では、基本的には同時に就業する労働者は6人だが、シフトの交代の際には、引き継ぎ等のために、一時的に短時間、同時に12人就業することがあるが、独立個室型の便所1箇所のみの設置で問題ないか。
(答)個別の状況について一概に回答するのは困難だが、同時に就業する労働者の数が常時10人以内である場合は、独立個室型の便所を1箇所設けることで足りる。

⑨ 便所に男性用、女性用の表示をする必要があるか。
(答)事務所則や安衛則で便所への男女別の表示は規定していないが、表示の在り方も含め、便所の使用や維持・管理に関するルール等について、衛生委員会等で調査審議、検討等を行った上で定めておくことが望まれる。
表示については、日本産業規格JIS Z 8210[案内用図記号]が参考となる。

検討会報告書は、「バリアフリートイレを性的マイノリティ等多様な労働者が利用することもあるなど、便所に対するニーズは多様化している」、「多様なニーズへの対応については、事務所則等において全ての事務所に対して一律に規定するのではなく、事業の実情に応じて、衛生委員会等の場を活用して柔軟に対応することが望ましい」として、ジェンダー配慮の観点から職場のトイレ規制を検討してはいない。海外の議論について別稿で紹介する。

救急用具の決定方法

事務所則に規定がないため一覧表には示していないが、安衛則は旧第634条で、事業者が少なくとも少なくとも備えなければならない救急用具の品目について定めていたが、今回その規定が削除され、施行通達で以下のように示された。

「安衛則[新]第633条において、事業者に対して備えることを義務づけている『負傷者の手当に必要な救急用具及び材料』について、事業場において労働災害等により労働者が負傷し、又は疾病に罹患した場合には、速やかに医療機関に搬送することが基本であること、及び事業場ごとに負傷や疾病の発生状況が異なることから、事業場に一律に備えなければならない品目についての規定は削除すること。ただし、負傷等の状況や事業場が置かれた環境によっては、事業場において負傷者の応急手当を行う場合もあるため、リスクアセスメントの結果や、安全管理者や衛生管理者、産業医等の意見、衛生委員会等での調査審議、検討等の結果等を踏まえ、事業場において発生することが想定される労働災害等に応じ、応急手当に必要なものを備え付けること。この場合、マスクやビニール手袋、手指洗浄薬等、負傷者などの手当の際の感染防止に必要な用具及び材料も併せて備え付けておくことが望ましいこと。

なお、事業場において労働災害等が発生した際に、速やかに医療機関へ搬送するのか、事業場において手当を行うのかの判断基準、救急用具の備付け場所・使用方法等をまとめた対応要領を事業場においてあらかじめ定めておくことが望ましいこと。」

質疑応答集では、「職場に備えるべき救急用具の品目はどのように決定すればよいか」という問いに対して、「事業場の実情に応じて、負傷者の手当てに必要な救急用具及び材料を備える必要があることから、リスクアセスメントの結果や、安全管理者や衛生管理者、産業医等の意見を踏まえて決定することが重要です」と回答されている。

用語及び条文の運用の見直し

さらに、これも一覧表には示されていないが、カードせん孔機は一般に見かけなくなったことから例示としての記載を削除、睡眠または仮眠の設備としてかやは必要な用品には含まれないと考えられることから例示から削除など、事務所則及び安衛則の用語の見直し等が行われた。

最後に、事務所則及び安衛則の条文の運用の見直しも行われている。以下、内容の説明は施行通達によっている。

CO・CO2測定方法を追加

測定方法(一酸化炭素・二酸化炭素の含有率)(事務所第8条関係)-本条における一酸化炭素、二酸化炭素の含有率の測定器としてあげられている検知管方式と同等以上の性能を有する測定器には、一酸化炭素に関しては定電位電解法、二酸化炭素に関しては非分散型赤外線吸収法(NDIR)による測定器が含まれること。

検討会報告書は、以下のように指摘している。

「事務所の空気環境の維持管理の状況は、建築物衛生法に基づき報告されたデータからは全体として改善されているとはいえず(ただし、建築物衛生法と事務所則では、二酸化炭素の含有率の基準値が異なることに留意が必要である。)、作業環境測定を実施して、労働者が滞在する事務室における空気環境を把握することが必要である。特に、二酸化炭素の含有率については、主として事務室内に滞在する労働者の呼気により上昇し、外気の導入により通常希釈されるものであるが、外気に含まれる二酸化炭素の濃度が高い状態にあるとともに、設備の省エネルギー対策等による外気の導入量の低下によって、室内の二酸化炭素の濃度が高くなる傾向がみられる。

近年、自動制御機能を備えた空気調和設備等、必要な換気性能を有する建築物も増えてきている。そのような建築物では、在室者数に応じた十分な気積が確保され、かつ二酸化炭素濃度が上昇しすぎないよう十分な外気導入量が確保されている事例が多くみられる一方、在室者数の大幅な増加や二酸化炭素濃度の制御設定値を高く設定することで外気導入量を減少させる事例もあり、室内の二酸化炭素濃度の上昇につながっている。

一酸化炭素については、燃焼器具の使用に伴う発生や駐車場等外部環境からの流入によるものが考えられ、その異常な濃度上昇による健康障害を考慮すると、作業環境測定の実施により一酸化炭素濃度を把握することは必要である。

これらのことから、一酸化炭素・二酸化炭素の含有率に係る作業環境測定については、現行の仕組みを維持することが妥当と言えるが、設備や機器の状況に応じ今後も検討が期待される。また、衛生管理者等の事業場担当者による作業環境の自主的な把握、管理の観点からは、検知管方式による検定器に限らず、作業環境測定基準に適合する一酸化炭素・二酸化炭素の含有率の測定に使用可能な電子機器を運用上明確化することが妥当である。

これらの電子機器を活用して事務室内の空気環境を定期的に測定してデータを収集したり、在室者数や空気調和設備の運転状況に応じて追加で測定したりすることにより、換気が適切になされ、事務室内の空気環境を確認することが可能となる。」

更衣設備等のプライバシー確保

更衣設備等(事務所則第18条第2項関係)-更衣室を設ける場合は、性別を問わず安全に利用できる必要があることから、プライバシーの確保に配慮すべきであることに留意すること。なお、各事業場のニーズに応じて設ける、事務所則に規定する「更衣設備」としてではなく、各事業場のニーズに応じて設ける更衣室やシャワー設備についても同様に留意すること。

洗身の設備、更衣室(安衛則第625条第1項関係)-洗身の設備、更衣室を設ける場合は、性別を問わず安全に利用できる必要があることから、プライバシーの確保に配慮すべきであることに留意すること。なお、安衛則に規定する「洗身の設備」としてのシャワー設備や「更衣設備」としての更衣室に限らず、各事業場のニーズに応じて設けるシャワー設備、更衣室についても同様に留意すること。

休憩設備・休養室等の考慮事項

休憩の設備(事務所則第19条、安衛則第613条関係)-事業場ごとに、休憩の設備の広さや、各事業場のニーズに基づく休憩設備内に備えるべき設備については、衛生委員会等で調査審議、検討等を行い、その結果に基づいて設置することが望ましいこと。

休養室等(事務所則第21条、安衛則第618条関係)-常時50人以上又は常時女性30人以上の労働者を使用する事業者は、休養室又は休養所を男性用と女性用に区別して設けなければならない。休養室又は休養所は、事業場において病弱者、生理日の女性等に使用させることを趣旨として設けられるものであり、長時間の休養等が必要な者については、速やかに医療機関に搬送する又は帰宅させることが基本であることから、専用設備として設けなくとも、随時利用が可能となる機能を確保することで足りるものであること。

なお、休養室又は休養所では、労働者がが床することが想定されており、プライバシーの確保のために、入口や通路から直視されないよう目隠しを設ける、関係者以外の出入りを制限する、緊急時に安全に対応できる等、設置場所の状況等に応じた配慮がなされることが重要であること。
発汗作業に関する措置(安衛則第617条関係)[事業者は、多量の発汗を伴う作業場においては、労働者に与えるために、塩及び飲料水を備えなければならない]-本条の「塩」は、塩飴や塩タブレット等のほか、スポーツドリンクなどの飲料水中に含まれる塩分も当然に含む趣旨であること。

引き続き見直しの検討を

2022年3月に再度事務所則の改正が行われて、室の気温の努力目標値の下限が17℃から18℃に引き上げられる予定である(関連追加情報)。それを含めても、今回の改正は、検討会報告書が「事務所衛生基準等の現状」や「事務所を取り巻く環境の変化」で取り上げていた様々な点に照らしても、保守的でマイナーな内容にとどまったという印象である。

例えば、「事務所衛生基準規則に関する研究―妥当性と国際基準との調和」の既刊の報告書は、温度、相対湿度、一酸化炭素濃度、二酸化炭素等について、現行の事務所衛生基準規則の規定を見直す方向性についての具体的提言を示しているだけでなく、多くの新たな課題も取り上げている。また、「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」は、自宅等でテレワークを行う際は、事務所衛生基準規則と同等の作業環境となるよう、事業者が労働者に教育・助言等を行うよう求めており、コロナ下での経験から、教訓を引き出すことも求められている。

安全センター情報2022年3月号