苫小牧市立小学校教諭の中皮腫の業務起因性に関する意見書-学校・教員アスベスト
名取雄司(中皮腫・じん肺・アスベストセンター所長)
目次
(1)はじめに
今回意見陳述をさせていただくことになった名取雄司です。巻末の略歴[省略]のとおり、2006年厚生労働省労働基準監督署が労災認定の際に参考とされてきた、「石綿ばく露歴把握のための手引き」の編纂に委員として参加して参りました。また、国土交通省アスベスト対策部会アスベストWG主査として、「建築物石綿含有建材調査者テキスト」作成に携わり、現在も主査をさせていただいております。
過去に胸膜中皮腫や石綿肺がんで私が詳細に調査し意見書を記載させていただいた事例では、全例労災認定、公務災害認定をいただいて参りました。H氏についても、お住まいの苫小牧市に何度となく調査に伺って段ボール箱1箱弱の資料を用意し、原処分時にまとめを意見書として提出させていただきました。今回も十分な御検討と審査をお願いする次第です。
(2)石綿関連疾患総論中皮腫は低濃度・短期間ばく露で生じる疾患
石綿関連疾患の診断基準として世界的に知られている基準は、ヘルシンキ基準1)です。ヘルシンキ基準は、「中皮腫の原因のほとんどは石綿が原因であり、中皮腫の80%は職業性石綿ばく露が原因である」と記載しています。石綿に関しては、石綿濃度測定と工場従業員の死亡原因を調査した複数の疫学調査が過去に報告されてきました。石綿紡績工場、石綿セメント製造工場、石綿断熱材工場等で石綿肺や石綿肺がん等になった方の長年の調査結果が調べられてきたのです。その結果を元に石綿関連疾患の潜伏期と石綿の累積曝露濃度との関連を、概念としてまとめたのが有名なBOHLIGの図です。
石綿を吸入してからの潜伏期では、胸膜肥厚斑や石綿肺が先に出現し、その後に肺癌や中皮腫が出現します。石綿肺は中等度以上の累積曝露濃度に多く、胸膜肥厚斑や中皮腫は低濃度の累積曝露濃度でも起こることがわかります。肺がんは低濃度でも一定の寄与もするのですが、累積曝露が多い場合に明瞭になります。
石綿肺や石綿肺がんは、累積石綿ばく露量に応じて罹患数、死亡数が増加量反応関連を持ち、一定の石綿ばく露量以上で発症する場合が多いのです。中皮腫は、石綿肺や石綿肺癌と異なり、石綿(の累積)ばく露量が少ない場合(低濃度で短期ばく露)であっても発症する点が特徴で、中皮腫の発症に関しては下限値、閾値は科学的にはないとされています。中皮腫の場合、一定の職業性石綿ばく露が証明され、それ以外の原因が否定されていれば、100%厳密な科学的因果関係でなく、職業性石綿ばく露と相当因果関係があると考えてよいと考えられます。
(3)石綿ばく露の把握の方法中皮腫の場合の石綿ばく露歴
厚生労働省の「石綿に関する健康管理等専門家会議マニュアル作成部会」は、平成18年10月に153頁の「石綿ばく露歴把握のための手引」を作成、同手引は「石綿濃度とばく露量の判断」としてpp89~95で説明に7頁をさき、労働基準監督署等で労災認定の際の聞き取りに同「手引き」は参考として使用されてきたものです。現在厚生労働省HPに掲載されています。(http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/sekimen/最終閲覧日2013年12月26日)手引きによると、様々な場所での石綿濃度、累積石綿ばく露の把握方法は疫学的に、累積石綿ばく露量=石綿のばく露濃度(繊維/ml)×ばく露期間(年)で表示するとされています。累積石綿ばく露量として、肺がんの場合はリスクが一般人口の2倍となる基準として、25繊維/ML・年数とされています。
また、同手引きはp93で、「石綿小体からの石綿ばく露歴の推定方法として、白石綿は石綿小体の形成が少なくこの方法では石綿ばく露量は推定しにくい。(中略)なお(世界的な石綿関連疾患の診断基準である)ヘルシンキ・クライテリアで、「1,000本/乾燥肺1gを職業性石綿ばく露の可能性が高いと認識するガイドラインとしている」ことが記載されています。
中皮腫は、低濃度石綿ばく露で発症するため、石綿肺がんと同等の量的判断は、労災認定時行わないのが通常です。中皮腫は、一定期間の職業性石綿ばく露が証明され、他因(家族による石綿ばく露、周辺工場等からの石綿ばく露、吹付け石綿のある建物ばく露、等)による中皮腫である点の反証がない場合は、科学的に職業性石綿ばく露と考えるのが妥当であり、こうした考え方は、産業衛生学会、肺癌学会等の論文発表等でも踏襲されています。
厚生労働省労働基準局労災補償部補償課職業病認定対策室「石綿による疾病の認定基準について」(平成24年3月29日付け基発0329第2号)は、現在の中皮腫の業務災害の基準ですが、「3中皮腫石綿ばく露労働者に発症した胸膜、腹膜、心膜又は精巣鞘膜の中皮腫であって、次の(1)又は(2)に該当するものは、最初の石綿ばく露作業(労働者として従事したものに限らない。)を開始したときから10年未満で発症したものを除き、別表4第1の2第7号7に該当する業務上の疾病として取り扱うこと。
(1) 石綿肺の所見が得られていること。
(2) 石綿ばく露作業の従事期間が1年以上あること。」
としています。
中皮腫の労災の認定基準は、「(職業性)石綿ばく露作業の従事期間が1年以上あること」を概ね証明すれば良いという考え方に立っています。厚生労働省労働基準局労災補償部補償課職業病認定対策室「石綿による疾病の認定基準について」の「第3 認定に当たっての留意事項 2 中皮腫関係」を見ると、「中皮腫は診断が困難な疾病であるため、臨床所見、臨床検査結果だけではなく、病理組織検査結果に基づく確定診断がなされることが重要である。確定診断に当たっては、肺がん、その他のがん、結核性胸膜炎、その他の炎症性胸水などとの鑑別が必要となる。このため、中皮腫の業務上外の判断に当たっては、病理組織検査記録等も収集の上、確定診断がなされているかを必ず確認すること。なお、病理組織検査が行われていない事案については、あらためて病理組織検査に基づく確定診断が行われるようにし、それが実施できないものであるときは、体液腔細胞診、臨床検査結果(腫瘍マーカーを含む。)、画像所見、臨床経過、他疾患との鑑別を踏まえて診断が行われるようにすること」と、中皮腫の病理診断の精度にのみ留意を促しています。
石綿ばく露歴については特段留意を促していないのです。職業性石綿ばく露1年以上の確認が重要であることが、良く理解できます。
(4)掃除作業は、「(10)(1)から(9)までに掲げるもののほか、これらの作業と同程度以上に石綿粉じんのばく露を受ける作業」であることに関する検討
厚生労働省の「石綿に関する健康管理等専門家会議マニュアル作成部会」は、34の作業が列挙されており、「〇20~32、34注目すべき作業」とされ、注目すべき作業として、「20.吹き付け石綿のある部屋・建物・倉庫等での作業(教員その他)」、「33.その他の石綿に関連する作業」など15職種が掲載されており、教員は石綿関連疾患が生じやすいことが記載されています。
厚生労働省が中皮腫の労災認定基準にあげる、「(10)(1)から(9)までに掲げるもののほか、これらの作業と同程度以上に石綿粉じんのばく露を受ける作業」として、「掃除作業が石綿粉じんのばく露を受ける作業」であるかどうかであるが、過去に一定数の論文が示されています。
原処分時に名取が提出した意見書4)の該当部分を再掲します(文献番号[省略]は原処分時のまま)
「飛散した石綿が落下し後に掃除した際の石綿濃度として、石綿除去対策の最初の論文でSawyerは、除去中の石綿濃度8.2f/mlの後の掃除の石綿濃度を6.5f/mlと報告した。吹き付け石綿の建物を初期に問題にしたLumleyは飛散時の石綿濃度11.89f/mlに対し堆積した床の掃除の石綿濃度を3.75f/mlと報告した。文京区の石綿飛散事故の再現実験は、吹き付け石綿除去時の個人ばく露濃度が35.72f/ml、翌日床に堆積した石綿線維を掃除した時の個人ばく露濃度が19.10f/mlとしている。また、再現実験の各場の時間毎の濃度でも、除去2.59f/mlで掃除1.44f/ml、除去2.44f/mlで掃除1.88f/ml、除去1.51f/mlで掃除1.04f/mlと、除去時の2/3から1/2の濃度が多くの測定で見られている。掃除は10時間以上かけて沈降した石綿繊維を再飛散させるため、こうした濃度になるのも頷ける。掃除作業は吹き付け石綿や石綿建材切断と加工作業に準じた濃度の石綿曝露作業である事が知られた結果、石綿建材の掃除には現在HEPAフィルター付きの真空掃除機が使用され、石綿建材は二重包装のビニール袋に入れて廃棄するようになってきた経緯があるのである。塗装工の石綿関連健康障害を報告した論文では、塗装工の胸膜肥厚斑は5.3%とかなり多い。塗装工からの聞き取りを行うと、自分では石綿建材作業は一切しない人がかなり多いが、塗装工は塗装する床や壁等をまずきれいに手箒(ほうき)で掃除し塗装面を良い状態にしてから作業を行うため、前日までに他職種が石綿建材を切断加工した石綿繊維が床や壁にあり吸入することが多い。掃除が石綿作業と同等の曝露になることがうなずける。」
掃除作業は、吹付け石綿除去同様に、直接のかなりの石綿濃度の作業と知られています。
(5)石綿ばく露の把握の方法石綿小体数
現在国際的に共通な石綿関連疾患の診断基準として、ヘルシンキ規準(Helsinki Criteria)が提案され、「職業での石綿粉じん曝露が高い可能性のある人物であることを確定するガイドラインとして乾燥肺重量1g当たり1,000本以上の石綿小体」としています。
中皮腫よりは石綿ばく露の判断の厳しい厚生労働省の肺がんの認定基準を以下に示しますが、
「以下の事案については、関係資料を添えて本省に協議すること。
(1) 肺がん
ウ 乾燥肺重量1g当たり1,000本以上5,000本未満又は気管支肺胞洗浄液1ml中1本以上5本未満の石綿小体が認められるもの」
としています。
乾燥肺重量1g当たり1,000本以上の場合は、個別に検討し労災認定を行っているのです。本事例は、肺がんでなく胸膜中皮腫ですで、石綿小体が乾燥肺重量1g当たり1,000本以上ある中皮腫は職業性で労災とするのが、労災の場合の通例の考え方であると思います。
(6) H氏の業務起因性に関する事実
疾患について
2003年1月21日の市立S病院病理組織検査5)によると、「malignant mesothelioma, epithelial type、1個程度の核小体を有する類円型核を有する腫瘍細胞が、細長い管状~乳頭状の形態を示し脂肪織を中心とする間質へ浸潤しています。壁側胸膜及び横隔膜では浸潤は剥離面に及びmargin(+)、肺へはわずかに浸潤しています。brs(-)、リンパ節転移(-)」とされ、胸膜中皮腫と診断されました。
市立S病院のK医師記載の死亡診断書は6)、「直接死因悪性胸膜中皮腫発病から死亡までの期間2年10月、手術有右肺胸膜全摘術、解剖無」と記載しています。
2003年1月17日の切除腫瘍部標本を借用し、癌研病理部長石川雄一医師が2006年12月10日に実施した病理検査報告書7)は、「悪性胸膜中皮腫、上皮型、切除事例Malignant mesothelioma, epithelioid type, of the pleura, resection」としている。その所見(借用ブロック切除例15-0197-141ブロック)は、「肺表面に厚さ3-10mmの腫瘍塊が2.5cmにわたって付着したような組織。組織学的に、少量から中等量の好酸性の細胞質とやや空胞状で核小体の見られる中型の核を持つ細胞が、明瞭な乳頭状ないし腺腔構造を作って増殖している。細胞は比較的そろっている。本検体では、肺内浸潤はないように見える。肺の反対側には脂肪織がみられ、腫瘍が浸潤している。間質は中等量で、線維性ないし浮腫性。HE像からは、上皮型悪性中皮腫がまず考えられ、肺の乳糖状腺癌が鑑別に挙がる。免疫染色では、calretinin(+)、D2-40(+)、cytokeratin5/6(+)、WT1(+)、AE1/3(+)、EMA(+)、CAM5.2(+)、vimentin focally(+)、CEA(-)、BerEP4(-)、TTF-1(-)であり、中皮腫で陽性となるマーカーは7つとも陽性、腺癌のマーカーは3つとも陰性、上皮型悪性中皮腫の典型例と考えられる。尚、線維性間質ではcalretinin(-)、D2-40(-)であり、反応性の線維化と考えられる」7)としました。
以上より、H氏の病理診断は、悪性胸膜中皮腫、上皮型と確定されました。H氏の妻が2006年9月7日請求した特別遺族弔慰金・特別葬祭料請求に対し、2007年1月18日独立行政法人環境再生保全機構は、H氏を中皮腫と認定しました8)。
石綿小体数
2003年1月17日の切除腫瘍部標本を借用し、ひらの亀戸ひまわり診療所の名取雄司等が実施した「H氏石綿小体消化試験結果報告書」9)は、「石綿小体は光学顕微鏡で40×10倍で観察、石綿小体数は肺乾燥重量1gあたり1,300本の結果であった。石綿曝露(職業及び工場周囲等の環境)のないコントロール群の石綿小体数は、肺乾燥重量1gあたり平均35(0~79)本である。現在国際的に共通な石綿関連疾患の診断基準として、ヘルシンキ規準(Helsinki Criteria)が提案されている。職業での石綿粉塵曝露が高い可能性のある人物であることを確定するガイドラインとして肺乾燥重量1gあたり1,000本以上の石綿小体としており、今回の結果はこの基準に該当し、職業性石綿曝露と考えられた」13)としました。
厚生労働省は、肺がんの労災認定基準で「以下の事案については、関係資料を添えて本省に協議すること。(1)肺がん ウ 乾燥肺重量1g当たり1,000本以上5,000本未満又は気管支肺胞洗浄液1ml中1本以上5本未満の石綿小体が認められるもの」とし、乾燥肺重量1g当たり1,000本以上の場合、個別に検討し労災認定を行っています。本事例は肺がんでなく胸膜中皮腫ですので、石綿小体が乾燥肺重量1g当たり1,000本以上ある中皮腫は職業性で労災とすることが、労災の場合の通例の考え方であると思います。
職業性石綿ばく露期間
H小時代の同僚A先生は、「H先生は職員室に戻ってこない。H先生は、きれい好きでよく掃除をしていた。職員会議でよく特別教室を掃除するように言っていた」とされている。同じくB先生は、H先生は異常なくらい掃除ずきであった。子供と教室にも一緒によくいた。急増で保健室を1年間教室にしてよく掃除をしていた。体育の関係では、立場上掃除をすることがあった。高学年になると自分の教室以外に、体育館の担当になっていたことがある。他の部署の掃除をしていた。H先生は担任をもっていて、高学年をもつことが多かった。職員室にはあまりこないほうの先生だった」と答えています。掃除の際の石綿濃度は高濃度曝露であり、H先生が掃除を通じて、校舎内に広く薄く飛散した石綿を吸入した可能性は著しく高いと推定されます。
原処分時に意見書4)として提出させていただきましたが、以下にH氏の石綿ばく露作業の従事期間の結論部分を再掲します。
「1) 昭和37~S46年年度のH氏のH小での石綿曝露期間は、最低でも185~240日と推定された。H小にはH氏在籍中に増築部の図面がない工事があり、これ以上の石綿曝露期間があったと推定された。
2) 昭和47~昭和53年度のH氏のT小での石綿曝露期間は、80~110日と推定された。
3) 昭和54年~昭和60年度のH氏のW小での石綿曝露期間は、最低でも70~85日と推定された。さらにH氏在籍中に増築部の図面がない工事があり、これ以上の石綿曝露期間があったと推定された。
4) 昭和61~平成3年度のH氏のB小での石綿曝露期間は、一定程度あったと推定された。
5) 苫小牧市の小学校勤務時期を合計すると、H氏の石綿曝露期間は335日~435日と推計され、さらに図面のない時期の追加期間分があると推定された。」4)
厚生労働省労働基準局労災補償部補償課職業病認定対策室「石綿による疾病の認定基準について」(平成24年3月29日付け基発0329第2号)は、現在の中皮腫の業務災害の規準です。
「3 中皮腫石綿ばく露労働者に発症した胸膜、腹膜、心膜又は精巣鞘膜の中皮腫であって、次の(1)又は(2)に該当するものは、最初の石綿ばく露作業(労働者として従事したものに限らない。)を開始したときから10年未満で発症したものを除き、別表4第1の2第7号7に該当する業務上の疾病として取り扱うこと。
(1) 石綿肺の所見が得られていること。
(2) 石綿ばく露作業の従事期間が1年以上あること。」
としています。
H氏の石綿ばく露従事期間は少なくとも335日~435日で、すでに学校の建築図面がない期間での石綿ばく露が30日以上はあるとの推定も考慮すると、「石綿ばく露作業の従事期間は、1年以上あることは証明されていると思われます。中皮腫の労災の認定基準である、「(職業性)石綿ばく露作業の従事期間が1年以上あること」を満たしていると考えられます。
その他の原因の有無
家族に起因する石綿曝露、居住地での石綿の環境曝露、吹き付け石綿のある建物からの石綿曝露は、ないと考えられました4)。
(7)H氏の公務災害に関する判断
上記事実等を検討した結果、名取は公務災害について以下のように判断しました。
本件疾病が公務上の災害と認められるためには、H氏(以下被災職員)が公務に関連して石綿ばく露作業に従事し、そのことによって中皮腫を発症したものと認められる必要がある。なお石綿ばく露作業とは、下記に掲げる作業をいう。
(1) 石綿鉱山又はその附属施設において行う石綿を含有する鉱石又は岩石の採掘、搬出又は粉砕その他石綿の精製に関連する作業
(2) 倉庫内等における石綿原料等の袋詰め又は運搬作業
(3) 次のアからオまでに掲げる石綿製品の製造工程における作業
ア 石綿糸、石綿布等の石綿紡織製品
イ 石綿セメント又はこれを原料として製造される石綿スレート、石綿高圧管、石綿円筒等のセメント製品
ウ ボイラーの被覆、船舶用隔壁のライニング、内燃機関のジョイントシーリング、ガスケット(パッキング)等に用いられる耐熱性石綿製品
エ 自動車、捲揚機等のブレーキライニング等の耐摩耗性石綿製品
オ 電気絶縁性、保温性、耐酸性等の性質を有する石綿紙、石綿フェルト等の石綿製品(電線絶縁紙、保温材、耐酸建材等に用いられている。)又は電解隔膜、タイル、プラスター等の充填剤、塗料等の石綿を含有する製品
(4) 石綿の吹付け作業
(5) 耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱若しくは保温のための被覆又はその補修作業
(6) 石綿製品の切断等の加工作業
(7) 石綿製品が被覆材又は建材として用いられている建物、その附属施設等の補修又は解体作業
(8) 石綿製品が用いられている船舶又は車両の補修又は解体作業
(9) 石綿を不純物として含有する鉱物(タルク(滑石)等)等の取扱い作業
(10) (1)から(9)までに掲げるもののほか、これらの作業と同程度以上に石綿粉じんのばく露を受ける作業
(11) (1)から(10)までの作業の周辺等において、間接的なばく露を受ける作業
これを本件についてみると、
(1)被災職員が中皮腫に罹患していたか否かについては、2003年1月21日の市立S病院病理組織検査結果報告書が「悪性胸膜中皮腫、上皮型」とし、癌研病理部長石川雄一医師が2006年12月10日実施した病理検査報告書11)「悪性胸膜中皮腫、上皮型」も同様で、2007年1月18日独立行政法人環境再生保全機構が中皮腫と認定したことから、明白と考えます。
(2)次に、被災職員が従事した業務についてみると、上記のとおり、被災職員は(10)「(1)から(9)までに掲げるもののほか、これらの作業と同程度以上に石綿粉じんのばく露を受ける作業」として、石綿含有建材加工作業の近傍の掃除作業に従事していたことが認められます。被災職員は、昭和37年から昭和60年まで少なくとも23年間で、少なくとも335日~435日掃除で石綿ばく露し、さらに図面のない時期で石綿ばく露の追加期間分があると推定され、1年以上の石綿ばく露作業と考えることが妥当です。掃除作業は直接的な石綿ばく露作業であり、したがって被災職員の当該作業の内容、従事年数及び作業頻度を併せ考えると、被災職員は石綿ばく露作業に相当する業務を長期間行っていたものと認められます。
(3)被災職員の石綿小体数は、職業性石綿ばく露の指標である石綿小体数1,000本/1g乾燥肺を越しており、石綿小体数からも職業性石綿ばく露であることが裏付けられました。
(4)以上のことから、本疾病は、被災職員が改築・解体の持続する学校での業務(石綿含有建材の掃除作業)に従事したことにより発症したと認めることが相当です。
以上の諸点を総合的判断すると、本件疾病は公務に起因したと認めるのが相当です。
以上
参考資料
(1)ヘルシンキ基準、Asbestos, asbestosis, and cancer: the Helsinki criteria for diagnosis and attribution. Scand J Work Environ Health. 1997;23:311-316.
(2)石綿ばく露歴把握のための手引:厚生労働省石綿に関する健康管理等専門家会議マニュアル作成部会、pp1-153、平成18年10月
(3)厚生労働省労働基準局労災補償部補償課職業病認定対策室「石綿による疾病の認定基準について」(平成24年3月29日付け基発0329第2号)
(4)H氏医師意見書、医療法人社団ひらの亀戸ひまわり診療所医師 名取雄司作成、原処分時、平成22年5月作成
(5)2003年1月21日市立S病院病理組織検査
(6)H氏死亡診断書:市立S病院K医師作成、平成17年8月26日
(7)臨床材料検査結果報告書(N-20017)、同写真:癌研究所病理部 石川雄一医師作成、2006年12月10日
(8)環機石第1号、H氏妻宛 特別遺族弔慰金、特別葬祭料に係る認定等について(通知)、平成19年1月18日
(9)H氏石綿小体消化試験測定結果報告、ひまわり診療所 名取雄司医師作成、2006年10月2日
略歴[省略]
※2014年1月22日、地方公務員災害補償基金北海道支部審査会に提出。
安全センター情報2014年6月号