アスベスト管理に対する安全衛生庁(HSE)のアプローチ「4 HSEによる執行」-イギリス下院労働・年金委員会報告書から, 2022.4.21
アスベスト管理に対する安全衛生庁(HSE)のアプローチ-イギリス下院労働・年金委員会報告書,2022.4.21
1 はじめに
2 今日のアスベスト・リスク
3 戦略的アプローチの採用
4 HSEによる執行
5 アスベスト産業の規制
結論と勧告
付録1:アスベスト曝露限界値
付録2:国際的アプローチ
HSEによる監督と執行
84. HSEは、監督と執行の選択肢のポートフォリオをもっている。2021/21年度にHSEは、対象となる産業全体で5,500件の安全衛生(COVID以外)監督を実施し、約5分の1が建設業のものだった。これらの監督は、義務保持者の役割を検討するだろう。HSEは、どの義務保持者を監督するか決定する際には、アスベスト含有物質がかかわる作業の性質と作業を行う者または組織の特性に基づいて監督の優先順位づけを行いながら、リスクに基づくアプローチをとると言っている。
85. 認可アスベスト除去業者に対しては、特別な監督体制が実施されている。2012/13年度にHSEは、アスベスト規則の遵守をチェックするために、1,520件の認可アスベスト除去業者の監督を行った。パンデミック直前の2019/20年度にHSEは、認可アスベスト除去業者による作業について907件の監督を実施し、2012/13年度よりも40%少なかった。HSEは、約380の認可アスベスト除去業者による作業について890件の監督を実施した。
86. 監督によってHSEが重大な違反を確認した場合、法律の遵守を確保するための一連の執行ツールを使用することができる。これには、以下が含まれる。
・是正通知-監督官が法律違反があるという意見だった場合に、是正措置及び措置を完了する日付を明記する。
・差止通知-監督官が作業活動またはプロセスに関連する重大な人身傷害のリスクがある、または措置に重大な不備が確認されるという意見だった場合に、直ちに活動を停止させる。
・起訴-重大な法律違反がある場合。HSEは、2016年2月の量刑手続ガイドラインの変更により、安全衛生事件の起訴に時間がかかるようになっていると話した。2019/20年度にHSEは、アスベスト規則のもとで11件を起訴し、HSEの安全衛生起訴全体の3%であった。HSEは、9件のうち少なくとも1件有罪判決を獲得し、有罪率82%、違反1件当たりの平均罰金3,063ポンドであった。
・アスベスト認可の取り消し-アスベスと請負業者がアスベストに関する安全衛生法に違反した場合。
87. HSEが発行した執行通知は、経時的に減少している(囲み2)。2011/12年度と2018/19年度の間に、発行されたアスベスト執行通知の数は60%減少した。比較すると、同じ期間に、HSEの業務の全領域で発行された合計執行通知は10%の減少だった(9,910件から8,935件)。
88. 英国職業衛生協会は、「アスベストに対する国家的な優先順位づけが不足しているなかで」、HSEは「義務保持者と[アスベスト]作業を実施する者との関わりを優先させるために限られた資金」を使用していると判定した。これは、「市場が遵守に対してリスクに基づくアプローチをとっている」ことを意味している。Darren Evans氏は同意した。彼は、「訪問される可能性は低いと考えている人々が多いために、手抜きが行われている」と述べた。
89. GMB労働組合は、HSEは、「長年にわたり『フラットキャッシュ決済』(インフレに関わりなく、したがって実質的な予算削減)を受けてきた」と述べ、「こうした削減は撤回され、HSEのリソースを2000年レベル以上に引き上げなければならない」と主張した。労働組合共同アスベスト委員会のGill Reed氏も、「根本的に、われわれはこの[HSE]資金問題に挑戦しなければならない」と述べた。
90. 2010/11年度にHSEは、政府資金として2億1300万ポンドと、その他の収入として1億2400万ポンド受け取った。パンデミック直前の2019/20年度にHSEは、政府資金として1億3600万ポンドと、その他の収入として9500万ポンド受け取った。したがって、2010/11年度と2019/20年度の間に、HSEの政府推移筋は実質46%減少した(2019/20年度価格)。コロナウイルスのアウトブレイクに対するDWP[労働・年金省]の対応に関する2019/20年度報告書のなかで、われわれは、政府は「HSEの将来の資金調達に関する明確な中長期計画」を策定する必要があると言った。われわれの勧告に対する政府の対応は、HSEの長期的な資金レベルについての沈黙であり、2021年10月の支出見直しではHSEへの資金拠出について何も言及されなかった。
91. 2019/20年度のHSEの収入には、HSEが2012年10月に実施した介入政策手数料による約1500万ポンドの表回収も含まれている。この政策は、HSEが「汚染者負担」の原則を適用して、重大または重要なやり方で法律に違反した者から、規制業務の費用の一部を回収できるようにしている。その導入は、それに先立つ安全衛生システムの改革に関する政府の協議を踏まえたものだった。HSEは、その「介入料」の最初の18か月間の運用を検討することを、リバプール大学のAlan Harding教授を議長とする「独立レビューパネル」に委託した。パネルは2014年6月に報告を行った。それは、HSEがその料金を「収入を得るためだけの、現金輸送手段」として利用したことを示唆する「説得力のある証拠はない」と結論づけた。
92. 認可アスベスト除去作業を行うために認可を受けた業者が支払った認可料には監督費用のための要素も含まれていることから、彼らに「介入料」を請求することはできない。Darren Evans氏は、HSEは、認可アスベスト除去の件で追加的料金を稼ぐことはできないことを認めたが、HSEの業務のその他の領域と比較して、そのことがHSEの監督活動の意欲を削ぐことになったかどうかはわからない。Gill Reed氏は、執行活動減少の理由の一部は、実際には、Gaffham卿の2010年の報告書「コモンセンス、コモンセーフティ」によって促進された安全衛生政策におけるより広いシフトを反映しているかもしれないと示唆した。この報告書は、Reed氏が「これらの建物における今日の現実のアスベスト・リスク」と呼ぶものにもかかわらず、事務所や学校などの多くの建築環境を「ハザードの低い」職場と定義している。
93. Sarah Albon氏は、発行された執行通知の経時的減少は、部分的には遵守の改善によるものと考えていると述べた。しかし、彼女は、HSEが近年、執行活動の最初のステップである監督の実施を減らしていることも認めた。彼女は、これは監督官のキャパシティの減少と新人を訓練する必要があるためだと説明した。彼女は、介入料は、HSEが監督と執行のリソースをどこに投入するかをゆがめてはいないと述べた。彼女は、今後数年間に、「監督件数は再び増加するだろう」と予想した。彼女は、HSEは2022/23年度に、アスベスト規則のもとでの「管理義務」に具体的に焦点を置いた「さらに400件の監督を計画している」と付け加えた。
94. HSEは、政府からの資金提供の大幅な削減を経験してきた。助成金の減少は、介入「費用回収」モデルへの料金導入によって一部緩和されているとはいえ、これは認可アスベスト除去作業に対象を絞った監督に用いることはできない。それゆえ、HSEによるアスベスト執行活動が近年減少していることは驚くべきことではない。しかし、HSEの執行活動全体と比較した場合、この間にアスベスト規則の遵守状況が劇的に改善したという具体的かつ説得力のある証拠がないにもかかわらず、その減少の規模は顕著である。HSEは、アスベスト執行業務の最近の減少が、経験豊富な監督官を新人の訓練の支援にまわさざるを得ず、キャパシティが低下したことが一因であることを認めている。HSEは、2022/23年度にはアスベスト監督の数の増加が見込まれると言っている。これは歓迎するが、とりわけ政府のネットゼロ目標の達成が建物が更新されることによる重大なアスベスト曝露リスクにつながることから、長期的に持続させられる必要がある。
95. われわれは、HSEが、アスベスト管理規則の遵守に目標を絞った監督・執行活動の持続的増加を約束するよう勧告する。われわれの2020年6月の勧告を繰り返し、政府とDWP[労働・年金省]は、中期的に事業計画の増加を支援するためにHSEに十分な資金を提供することを確保すべきである。HSEはまた、この重要な役割を実行する人々について、最低限の知識、訓練またはその他の要件を特定する必要があるかを考慮しつつ、計画されている2022/23年度の義務保持者に対する監督計画から幅広い教訓を確認すべきである。
HSEの関与と行動キャンペーン
関係者の関与
96. アスベスト規則の遵守を促進する取り組みの一環として、HSEは以下のようなネットワークにも参加している。
・HSEが主催する建設業諮問委員会(CONIAC)とHSEが議長を務めるアスベスト・ネットワーク。CONIACの主な目的は、建設業におけるよりよい安全衛生の成果を確保することを目指した活動を促進することである。それには、建設業の労働組合、業界団体や専門職団体が含まれる。HSEは、アスベストは「Tackling Ill Health」ワーキンググループで議論されていると言う。2020年以来、CONIACは、政府が支援する業種リーダーシップの発揮を担う団体である建設業リーダーシップ評議会(CLC)に対する労働安全衛生アドバイザーとして主導的な役割を担っている。
・アスベスト・ネットワークには、労働組合、専門認証機関、業界団体(調査、分析、訓練、認可アスベスト除去)、その他の執行機関(廃棄物と地方当局)及び不動産管理業の代表が含まれる。HSEによれば、アスベスト・ネットワークは、アスベストに関する情報を交換し、建物内のアスベストの管理実務や技術的基準など、特定の課題に対処するワーキンググループをもっている。
・国際標準化機構や欧州労働安全衛生パートナーシップなどの技術的・科学的ワーキンググループ。HSEは、イギリスでは、英国職業衛生協会のアスベスト評価・管理ファカルティや除染機器製造業連盟などと協力していると言う。
97. 教員労働道組合NASUWTは、「HSEはアスベスト問題について外部の関係者と連携している」が、「主な問題」は「執行活動の不足」であると述べた。アスベスト分析・コンサルタント協会も、真の変化は「執行を通じてしか実現することはできず、これがまさにリソースのために起きていない」と述べた。英国職業衛生協会は、「HSEの関係者との連携は模範的であり、他の規制当局がばらばらに見えるほどだ」と言った。しかし、他の者と同じように、同協会も、「問題は、致死的な健康曝露…に対処するためにHSEが利用できるリソースが非常に少ないことだ」と述べた。
キャンペーン活動
98. HSEは、広告キャンペーンも実施し、DfE[教育省]などの政府部局や自治体とも協力していると述べた。これらの介入は、意識を高め、アスベスト管理慣行を改善することを意図している。Graham O’Mahonyは、HSEのキャンペーンは「非常に成功してきた」と述べた。しかし、彼は、アスベスト曝露のリスクのある建築業者を対象とした「Hidden Killer[隠れた殺人者]」などのHSEキャンペーンが継続されていないことは「恥ずかしい」ことで、「おそらくリソースが減ったためだろう」と言った。GMB労働組合は、「Hidden Killer」などのキャンペーンが、「もっともリスクの高い職業の者の意識を高めるために多大な貢献をした」ことに同意した。Thompsons Solicitorsはわれわれに、それが終了した理由が何であれ、「Hidden Killer」は(その早すぎる終了まで)成功する見込みがあったように思われると話した。
99. 複数の証人が、建物の義務保持者を対象としたキャンペーン活動の適切性について懸念を示した。Graham O’Mahony氏はわれわれに、アスベスト管理に関連した「一定のレベルの知識または意識をもたなければならないと義務保持者に強制し、または課す具体的な規制は存在していない」と話した。彼は、「独自の個人的評価に基づいて…人々が有能であると信じるのではなく、彼らが有能であることを確保するための、JSEによるキャンペーンまたはガイダンスをみたい」と述べた。IOSHも、「義務保持者の能力に対する監視はない」と述べた。アスベスト分析・コンサルタント協会は、「HSEのアスベスト・キャンペーン活動は停止され、その責任はIOSHなどの組織に委ねられた」と述べた。同協会は、「HSEは、アスベスト・リスクに関してより多くのことを行うための政治的闘いを行うことができなかったようだ」と結論づけた。
100. Sarah Albon氏はわれわれに、HSEがソーシャルメディアを利用して行動に影響を与え続けていると話したが、「遠い存在に見えるリスクの深刻さと重要性を人々に理解してもらうことは非常に難しい」ことを認めた。彼女は、キャンペーン活動は理解を改善したことを示すことが多い-約10%-が、ソーシャルメディアの刹那的な性質は、「2年後や5年後にも」キャンペーン情報に基づいて行動しているかどうかを確認するために、「同じ人々を対象とした体系的な再調査」をHSEが行うことを妨げていると述べた。
101. HSEは、国内・国際的ネットワークへの参加を通じて、アスベストの危険性の理解、技術的知識の交換やアスベスト規制の遵守を促進している。HSEはまた以前は、アスベストに曝露する可能性のもっとも高い職業を対象にした大規模なキャンペーンに投資してきた。「隠れた殺人者」などのキャンペーンは成功したと広く評価されている。しかし、HSEは近年、このような行動的取り組みへの投資を減らしており、その理由はリソースの不足にあるようにみえる。義務保持者を対象とした同様の介入がないと述べた証人もいた。例えばソーシャルメディアを通じた-キャンペーンを活動を続けることについて、HSEは、その長期的影響がどのようなものか確実なことは言えない。
102. HSEは、多様なメディアを活用し、また、アスベスト管理に関するより幅広い戦略の開発と同時進行させながら、様々なメディアを通じた持続的なキャンペーン活動に投資することを約束すべきである。どのメッセージとどの方法が義務保持者と職人の行動にもっとも大きな影響を与えるか検証するために、しっかりとした評価手法を採用すべきである。