技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況<2020(令和2)年>厚生労働省公表~深刻な現状変わらず~現代の奴隷制=技能実習制度の廃止を!
目次
「現代の奴隷制」=「技能実習制度」廃止を!
「2017年に、技能実習生の保護を目的とする「技能実習法」が施行された後も、技能実習生の人権状況は一向に改善されていない。今回の厚労省の発表においても、違反事業場数も違反率も高止まりしたままである。国際貢献の美名の下で、無権利かつ低賃金の労働者として移住労働者を搾取して使い捨てる。まさに現代の奴隷制と言うべきこの制度の本質は変わっていない。
今回発表された監督指導などの状況を見ると、主な労働法違反の項目として「安全基準」の違反がトップに挙がっており、監督指導の事例として労災事案に関連するものが紹介されている点からも、技能実習生の安全と健康が置き去りにされている実態がうかがえる。コロナ禍の中で、技能実習生が働く職場でのクラスター事例も報道されているが、日本語が不自由で労災保険制度のことを知らされていない技能実習生も多く、当事者が労災申請できているのかどうかも懸念される。
一日も早くこの技能実習制度を廃止し、40万人近い技能実習生が、労働者としての尊厳と権利を保障されて働ける日本社会にしなければならない。」-技能実習生の人権侵害に精力的に取り組んでいる東京労働安全衛生センターの天野理氏
深刻な実態は「監督指導」では変わらず
厚生労働省労働基準局監督課は、2021年8月27日、「外国人技能実習生の実習実施者に対する令和2年の監督指導、送検等の状況」を公表した。
「概要」としてのまとめは次の通り。
- 労働基準関係法令違反が認められた実習実施者は、監督指導を実施した8,124事業場(実習実施者)のうち5,752事業場(70.8%)。
- 主な違反事項は、(1)使用する機械等の安全基準(24.3%)、(2)労働時間(15.7%)、(3)割増賃金の支払(15.5%)の順に多かった。
- 重大・悪質な労働基準関係法令違反により送検したのは32件。
監督指導実施事業場のうち約70%が法違反という「違反率」は、最近5年間で不変。
送検件数32件についても、2016年から40件、14件、19件、34件、32件と横ばいだ。
実態は極めて深刻で「度重なる指導にもかかわらず法令違反を是正しないなど重大・悪質な事案に対しては、送検を行い厳正に対応していきます。」という監督指導・送検では、決して事態は改善できないことを証明している。
以下が厚生労働省が公表資料である。
技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況(令和2年)
1 監督指導の状況
⑴ 全国の労働基準監督機関において、実習実施者に対して8,124件の監督指導を実施し、その70.8%に当たる5,752件で労働基準関係法令違反が認められた。
<注>違反は実習実施者に認められたものであり、技能実習生以外の労働者に関する違反も含まれる。
⑵ 主な違反事項は、①使用する機械等の安全基準(24.3%)、②労働時間(15.7%) 、③割増賃金の支払(15.5%)の順に多かった。
⑶ 主な業種に対する監督指導の状況は、以下のとおりであった。
<注1>「主な業種」は、技能実習の計画認定件数が多い5職種(機械・金属関係職種、食料品製造関係職種、繊維・衣服関係職種、建設関係職種、農業関係職種)に関連する業種について取りまとめたものである。
<注2>「主な業種」の内訳は以下のとおり。
機械・金属・・・鉄鋼業、非鉄金属製造業、金属製品製造業、一般機械器具製造業、電気機械器具製造業、輸送用機械等製造業
食料品製造・・・食料品製造業
繊維・衣服・・・繊維工業、衣服その他の繊維製品製造業
建設・・・・・・土木工事業、建築工事業、その他の建設業
農業・・・・・・農業、畜産業
⑷ 監督指導の事例には、以下のようなものがあった。
事例1 災害を契機に監督指導を実施し、フォークリフトとの接触防止等について指導
概要
■食料品製造業の事業場において、箱詰め作業中の技能実習生がフォークリフトと接触し負傷した労働災害が発生したため、立入調査を実施したところ、フォークリフトについて、接触防止措置が講じられておらず、また、無資格者が運転していた。
指導内容
1 フォークリフトで作業を行うときは、フォークリフト又はその荷に接触するおそれのある箇所に労働者を立ち入らせないための措置を講じなければならないことを是正勧告した。また、フォークリフト誘導時の合図について、技能実習生にもわかりやすい方法とするよう指導した。
指導事項→労働安全衛生法第20条第1号(事業者の講ずべき措置等)
労働安全衛生規則第151条の7(接触の防止)違反
指導事項→フォークリフト誘導時の合図方法
2 技能講習を修了していない労働者に、最大荷重1トン以上のフォークリフトの運転の業務を行わせてはならないことについて是正勧告した。
指導事項→労働安全衛生法第61条第1項(就業制限)
労働安全衛生法施行令第20条第11号違反、労働安全衛生規則第41条
指導の結果
■ 接触防止のため、フォークリフトの運転時に誘導者が配置された。また、合図について技能実習生にもわかりやすいように笛を鳴らす方法とし、朝礼で周知された。
■ 鍵の管理を徹底することで、技能講習を修了している労働者(4名)以外によるフォークリフトの運転を防止することとした。
事例2 監督指導を実施し、割増賃金の不払について指導
概要
■ 繊維・衣服製造業の事業場に対し立入調査を実施したところ、技能実習生の時間外労働に対し、入国後一定の期間、1時間当たり500円の賃金しか支払っておらず、法定の率で計算した割増賃金を支払っていなかった。
指導内容
■ 法定の割増率(時間外労働は25%)以上で計算した割増賃金を支払わなければならないことを是正勧告した。
指導事項→労働基準法第37条第1項違反(割増賃金の支払)
指導の結果
■支払うべき割増賃金を再度計算し、技能実習生6名に対し、入国後一定の期間分の法定の割増賃金との差額として総額約87万円が支払われた。
事例3 外国人技能実習機構からの通報を端緒に監督を実施し、不適切な賃金控除等について指導
概要
■農業を営む事業場において、賃金の計算方法等に問題がある旨の外国人技能実習機構からの通報があったため、所轄労基署が立入調査を実施した。
■この結果、技能実習生の賃金について、一部の労働時間分が計上されておらず、また、実費以上に水道光熱費が控除されているほか、社会保険料についても法定以上に控除されていた。
■年次有給休暇管理簿が作成されていなかった。
指導内容
1 労働時間に計上されていない分の賃金を支払わなければならないこと及び認められている以上の金額を控除してはならないことを是正勧告した。
指導事項→労働基準法第24条第1項違反(賃金の支払)
2 年次有給休暇管理簿を作成し、有給休暇の取得日数等を記録するよう是正勧告した。
指導事項→労働基準法施行規則第24条の7違反
指導の結果
■ 支払われていなかった賃金が支払われるとともに、賃金控除額も適正なものとなった。
■ 年次有給休暇管理簿が作成され、有給休暇の取得日数等が記録されるようになった。
事例4 労働災害を防止するため、機械等の安全措置・点検実施について指導
概要
■機械器具を製造する事業場に対して立入調査を実施したところ、技能実習生も使用するベルトサンダー(金属を研磨するための機械)について身体が巻き込まれるおそれがあるローラーの箇所に覆い等が設けられておらず、天井クレーンについても法定点検が実施されていなかった。また、玉掛用具として使用する繊維ベルトにも著しい損傷が認められた。
指導内容
1 機械のうち、労働者に危険を及ぼすおそれのある箇所について、覆い等を設けるよう命令した。
命令事項→労働安全衛生法第20条第1号(事業者の講ずべき措置等)
労働安全衛生規則第101条(原動機、回転軸等による危険の防止)
労働安全衛生法第98条第1項(使用停止命令等)
2 天井クレーンの年次点検及び月次点検を実施しなければならないことを是正勧告した。また、著しく損傷している玉掛用具を使用してはならないことを是正勧告した。
指導事項→労働安全衛生法第45条第1号(定期自主検査)
クレーン等安全規則第34条・同規則第35条(定期自主検査)
労働安全衛生法第20条第1号(事業者の講ずべき措置等)
クレーン等安全規則第218条(不適格な繊維ロープ等の使用停止)
指導の結果
■ ベルトサンダーのローラーに、覆いが設置された。
■ 天井クレーンについて、年次点検及び月次点検を実施し、新品の玉掛用具が整備された。
2 申告の状況
⑴ 技能実習生から労働基準監督署に対して労働基準関係法令違反の是正を求めてなされた申告の件数は192件であった。
⑵ 主な申告内容は、①賃金・割増賃金の不払(163件)、②解雇手続の不備(26件) 、③支払われる賃金額が最低賃金額未満(17件)の順に多かった。
<注>申告事項が2つ以上ある場合は、各々に計上しているので、各申告事項の件数の合計と申告件数とは一致しない。
⑶ 申告事例には、以下のようなものがあった。
事例1 「労働時間が短く集計されている」との申告があったもの
概要
■ 縫製業の事業場で働く技能実習生から「労働時間が短く集計されている」との申告がなされた。
■ 所轄労基署が調査を実施したところ、始業前の20分間に清掃を行わせていたにもかかわらず、この時間を労働時間として算入していない状況が認められた。
指導内容
始業前の清掃時間であっても使用者の指揮命令下にある時間は労働時間であることを説明した上で、支払われていない割増賃金を計算し支払わなければならないことを是正勧告した。
指導事項→労働基準法第37条第1項違反(割増賃金の支払)
指導の結果
■ 技能実習生2名に対して、入社以来支払われていなかった割増賃金の不足額、約10万円が支払われた。
事例2 「事前の説明にないものについて賃金控除されている。また、残業代が払われていない」との申告があったもの
概要
■ 建設業の事業場で働く技能実習生から「事前に説明されていない内容で賃金控除されている。残業代が払われていない」との申告がなされた。
■ 所轄労基署が調査を実施したところ、①Wi-Fi代、使用者が立て替えて支払った治療費等賃金控除協定に記載のない費用が賃金から控除されて支払われている、②時間外労働に対する割増賃金が支払われていない状況が認められた。
指導内容
1 法令と賃金控除協定に記載されたもの以外を賃金から控除することはできず、また、違法に控除していた金員を支払わなければならないことを是正勧告した。
指導事項→労働基準法第24条第1項違反(賃金の支払)
最低賃金法第4条第1項(最低賃金の効力)
2 法定の割増率(時間外労働は25%)以上で割増賃金を計算し、不足額を支払わなければならないことを是正勧告した。
指導事項→労働基準法第37条第1項違反(割増賃金の支払)
指導の結果
■ 技能実習生2名に対して、支払われていない定期賃金及び割増賃金の不足額、総額約5万円が支払われた。
3 送検の状況
⑴ 技能実習生に関する重大・悪質な労働基準関係法令違反が認められた事案として、労働基準監督機関が送検した件数は32件であった。
⑵ 送検事例には、以下のようなものがあった。
事例1 労基署に対して虚偽の報告を行ったほか、証拠を隠滅するため書類を廃棄した疑いで送検
捜査経過
■ 縫製業の事業場において、違法な時間外労働の疑いがあったため、労基署が立入調査を実施したところ、事業主から、技能実習生に対して、タイムカードや賃金台帳に記載されている時間以上に時間外労働及び休日労働を行わせている旨の説明がなされた。
■ しかし、後日、事業主から、調査時の説明は勘違いであり、タイムカードや賃金台帳に記載された内容が正しい旨申立てがなされたことから、正確な事実の確認のため、必要な事項を報告するよう命じたところ、同様にタイムカードや賃金台帳に記載された内容が正しい旨の報告がなされたものの、なおも法違反が疑われたため、捜査に着手した。
■ 捜査の結果、事業主が指導を逃れるために、①実際には技能実習生に対して、時間外労働及び休日労働を行わせていたが、虚偽の報告を行ったこと、②実際の支払賃金について記録した台帳やタイムカードなどの記録を廃棄していたことが明らかとなった。
被疑事実
○ 実習実施者(法人)及び事業主について
1 労働基準監督署長からの報告命令に対し、虚偽の報告を行ったこと。
違反条文→労働基準法第104条の2第1項・第120条第5号(虚偽報告)
2 労働関係に関する重要な書類を3年間※保存しなかったこと。
違反条文→労働基準法第109条(記録の保存)
※ 労働基準法第109条については、令和2年4月1日より、5年間保存するよう改正されているが、附則第143条の規定により、当分の間3年間のままとされている。
事例2 違法な時間外労働を行わせ、法定の割増賃金を支払わなかった疑いで送検
捜査経過
■ 縫製業の事業場に立入調査を行ったところ、技能実習生の時間外労働に対し、1時間当たり400円程度の賃金のみを支払っており、法定の率で計算した割増賃金を支払っていないことが明らかになった。
■ また、技能実習生に対し、違法な時間外労働を行わせていたことが判明した。
(この事業場の36協定については、使用者の意向に基づき労働者代表が選出されていたため、無効なものであった。)
被疑事実
○ 実習実施者(法人)及び事業主について
1 適法な36協定がないにもかかわらず、時間外労働を行わせたこと。
違反条文→労働基準法第32条第1項・第2項(労働時間)
2 時間外労働に対し、法定の割増率以上で計算した割増賃金を支払っていなかったこと。
違反条文→労働基準法第37条第1項(割増賃金の支払)
事例3 是正勧告を受けた後も、防じんマスク未着用でのアーク溶接作業を行わせた疑いで送検
捜査経過
■ 仮設資材の修繕・整備を行う工場に対し、労基署が立入調査を行ったところ、半自動アーク溶接機を用いて足場材などの補修作業を行う技能実習生に対して、適切な呼吸用保護具(防じんマスク)を使用させていなかったことが認められたため、是正勧告を行った。
■ 後日、これに対して「もうアーク溶接作業は行わせていない」旨の報告がなされた。しかしながら、再々度事実確認のため監督を実施したところ同様の状態が見られたため送検した。
被疑事実
○ 実習実施者(法人)及び法人役員について
金属をアーク溶接する作業に労働者を従事させる際に、有効な呼吸用保護具(防じんマスク)を使用させなかったこと。
違反条文→労働安全衛生法第22条第1号(事業者の講ずべき措置等)
粉じん障害防止規則第27条第1項(呼吸用保護具の使用)
金属をアーク溶接すると、粉じん(金属ヒューム)が飛散し、これを吸い続けるとじん肺などの健康障害を引き起こすおそれがあることから、事業者は当該作業に従事する労働者に有効な呼吸用保護具を使用させる義務がある。
4 労働基準監督機関と出入国管理機関等との相互通報の状況
⑴ 技能実習生の労働条件の確保を図るため、労働基準監督機関では、出入国管理機関・外国人技能実習機構との間で、その監督等の結果を相互に通報している。
⑵ 労働基準監督機関から出入国管理機関・外国人技能実習機構へ通報(※1)した件数は414件、出入国管理機関・外国人技能実習機構から労働基準監督機関へ通報(※2)された件数は1,381件である。
※1 労働基準監督機関から出入国管理機関・外国人技能実習機構へ通報する事案労働基準監督機関において実習実施者に対して監督指導等を実施した結果、技能実習生に係る労働基準関係法令違反が認められた事案
※2 出入国管理機関・外国人技能実習機構から労働基準監督機関へ通報する事案出入国管理機関・外国人技能実習機構において実習実施者を調査した結果、技能実習生に係る労働基準関係法令違反の疑いがあると認められた事案
(注) 平成31年・令和元年については、法務省「技能実習制度の運用に関するプロジェクトチーム」における技能実習生の失踪事案に関する実態調査に基づき通報された事案1,555件を含む。
⑶ 労働基準監督機関が、出入国管理機関・外国人技能実習機構から通報を受けた実習実施者については、監督指導等を実施している。
⑷ なお、監督指導等の結果を相互に通報する以外にも、強制労働等技能実習生の人権侵害が疑われる事案については、出入国管理機関・外国人技能実習機構との合同監督・調査を行うこととしており、令和2年は39件の実習実施者に対して実施した。
<PDF>技能実習生の実習実施者に対する指導監督、送検等の状況(令和2年)
本件関係の過去の厚生労働省発表
平成31年・令和元年(2019)
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