胆管がんシンポジウムの記録・胆管がん多発事件はどうして起こったか?原因と対策を考える/2012年12月16日@大阪

印刷事業場に係る胆管がんの労災請求について、2013年2月12日に厚生労働省は、問題の発端となった大阪の事業場(SANYO-CYP社)の16名以外の請求件数が46件となり、同社以外に、宮城県と福岡県でも同一事業場で複数(各2件ずつ)の請求があったことを公表した。

続いて2月20日付け朝日新聞朝刊は、「胆管がん労災認定-厚労省方針 大阪・印刷会社16人」と報じた。3月14日に開催予定の「印刷事業場で発生した胆管がんの業務上外に関する検討会」の取りまとめの内容をスクープしたようで、同日の夕刊以降、マスコミ各社が追いかけて同じ内容を報道している。

全国安全センターと関西労働者安全センターは、2012年12月16日に大阪で「シンポジウム 胆管がん多発事件はどうして起こったか-原因と対策を考える-」を開催した。死亡からすでに5年以上が経過して消滅時効が成立している事例も含めて、また、SANYO-CYP社以外の事例も含めて、すべての被災者・遺族の労災請求が認められるべきであることを明らかにするとともに、まさに、「原因と対策」を多くの方々の英知を結集して、多面的に検討しなければならないと考えたからである。

その場で発言していただいたSANYO-CYP社元労働者の野内豊伸さん(下表の17番)は、前々日に診断が下され、17人目の被害者になったことを自ら明らかにされた。2月28日に労災請求を行ったことが報道されている。

本誌がお手元に届くときには、3月14日の前記検討会の内容が明らかになっていると思われるが、SANYO-CYP社の16人の労災請求については、全員に業務との関連を認め、同社以外の事例については4月以降検討する。厚生労働省は、死亡後5年以上経過している事例の労災請求も認める方針、と伝えられている。
すべての事例について、時効差別なき労災認定がなされるよう、ぜひ注目していただきたい。

一方で、別の医学専門家グループによる疫学的調査も、2012年8月から開始されているが、こちらの方の調査期間は、2014年末までと伝えられている。
今回の事件が、法制度等の不十分だった過去に生じた曝露の結果であって、現状は心配ないと言えればよいのであるが、考えれば考えるほど、現在の状況のもとにおいてさえも、予防できると言い切れないどころか、被害の発生を早期に把握することすらできないのではないかとの懸念が強まるばかりである。必ずや、今回の教訓から、具体的な対策の改善を一歩でも二歩でも引き出さなければならないと、強く感じているところである。

本号では、そのような問題意識に共感していただいた専門家の方々のご協力も得て開催した、12月16日のシンポジウムの内容を一挙掲載した。午前中には、熊谷信二、毛利一平、久永直見、イム・サンヒョク、毛利一平、中地重晴の各氏から報告・提起をいただいたが、熊谷・イム両氏以外については、口頭発表の内容ではなく、シンポジウムに向けて用意していただいた抄録の内容の方を紹介させていただいた。午後のパネル・ディスカッションの内容は、ほぼそのまま収録した。今回のシンポジウムでは、一定の提言なりをまとめるまでには至っていない。しかし、厚生労働省等の動きも注視しながら、議論を継続していくことを確認している。

また、今回の事件を海外に伝えることの重要性も指摘されるなかで、韓国でも調査が開始されて、イム氏に報告していただくことができたことは幸いであった。この面でも引き続き、今年7月1日には韓国・ソウルで日韓合同会議も開催される予定である。

入社7年目の2003年、転勤先の東京本社工場勤務中に胆管がんを発症し、大阪に帰京。2005年に27歳という若さ(最年少)で死亡したNさん。問題の大阪本社工場地下の校正印刷室で(1999年撮影。表の4番)

胆管がん事件の経緯と現状/ 熊谷信二
(産業医科大学産業保健学部安全衛生マネジメント学)

胆管がん事件の背景と意味/久永直見
(愛知教育大学・保健環境センター)

胆管がんの多発をなぜもっと 早く発見できなかったのか ・毛利一平
(三重大学医学部公衆衛生産業医学分野)

韓国印刷業の洗浄剤の調査の結果・任祥赫(イム・サンヒョク)
(韓国:グリーン病院労働環境健康研究所・滋賀医科大学衛生学部門)

胆管がん事件と化学物質管理制度・ 中地重晴
(熊本学園大学)

胆管がんシンポジウム-パネル・ディスカッションの記録

シンポジウム記録映像