人権と有毒物質からの労働者の保護に関する原則 国連人権理事会第42回総会(2019年9月9-27日)

目次

人権と有毒物質からの労働者の保護に関する原則

有害な物質及び廃棄物の環境上適切な管理及び廃棄の権に対する影響に関する特別報告者の報告

要約

有害な物質及び廃棄物の環境上適切な管理及び廃棄の人権に対する影響に関する特別報告者はその報告書のなかで、各国、ビジネスその他主要な関係者が、有毒な職業曝露から労働者を尊重及び保護するとともに、彼らの権利の侵害に対して救済を提供するのを助ける諸原則の最終セットを提示する。この報告書に含まれる諸原則は、2017年以降に行われた対象を定めた集中的なコンサルテーションはもちろん、各国訪問、課題別調査及び国及び国以外の関係者とのコミュニケーション並びにを含めた委託された任務のもとでの25年近い作業に基づいたものである。本報告書は人権理事会決議36/15にしたがって準備された。

Ⅰ はじめに

  1. 1995年以来、人権委員会及び、続いて人権理事会は、有害な物質及び廃棄物の環境上適切な管理及び廃棄の人権に対する影響に関する特別報告者を委任してきた。
  2. 決議36/15のなかで人権理事会は、特別報告者に対して、有害な物質及び廃棄物の人権に対する影響に関する詳細な情報の提供を継続するよう求め、とりわけ国際労働機関(ILO)及び世界保健機関(WHO)との協力を奨励し、また、特別報告者に、理事会に対して年次報告並びに有害な物質及び廃棄物の人権に対する否定的な影響に対処するために至急とられるべき諸措置に関する特別な勧告及び提案を提出するよう求めた。
  3. 2014年の委任を想定して、現在の特別報告者バスクト・トゥンジャクは、有毒物質への曝露(「有毒曝露」)によって影響を受ける労働者の状況についてより高い可視性を与え、かかる曝露の具体的事例についての各国との対話を再開し、また、国際人権フォーラムでこの問題の喚起を継続することを約束した。
  4. 25年間近くの間に、労働者の権利の様々な事例が、この任務保持者らの関心を引き、世界、国及び地域レベルでの報告書及び議論のなかで扱われてきた。これら事例の徹底的な調査を通じて、特別報告者は、ディーセントワークに関する持続的開発のための2030アジェンダの目標8の実施を含め、有毒物への曝露の人権影響を各国、国連諸機関及び関係者に知らせる努力の一部として、労働、人権及び環境諸フォーラムのなかでの労働者の権利についての関連する様々な議論に橋を架ける必要性を認識した。
  5. ILOによれば、世界中で278万人をこす労働者が毎年、不安全または不健康な状態によって亡くなっている。労働者の健康の保護に関係する明確な人権義務にもかかわらず、世界中で労働者は自らが危機の渦中にあることを見出している。少なくとも30秒ごとに1人の労働者が、有毒な化学物質、農薬、放射線及び他の有害物質への曝露によって亡くなっていると推計されている。しかし、いくつかの文脈及び諸国において曝露の事象が著しく過少報告となっていることから、この数字は過少推計であるかもしれない。
  6. 各国訪問及び関連する課題別報告からのフィードバックに基づいて、特別報告者は、有毒及びさもなければ有害な化学物質への職業曝露のトピックに関して、2017年に2つのワークショップと何回かのそれより小規模なコンサルテーションを開催した。2018年には、同じ課題に関する質問票及び提出の呼びかけが、各国、市民団体の代表、労働組合、労働者の団体及び他の関係者が利用できるようにされた。合計31の回答を受け付け、特別報告者及びこの委任事項を支援するチームによって分析された。2018年5月16~17日に専門家会合が招集され、また、協議プロセスを通じて到達した結論、予備的な見解及び協議プロセスに基づいて形成された「勧告」を共有するために、2018年6月8日に各国との説明会が開催された。
  7. これらの機会に特別報告者は、有毒曝露からの労働者の保護への人権の基準及び慣行のよりよい統合のための彼の見解及び計画を共有した。様々な協議及び情報収集を通じて、また、数年間にわたり委託された任務のもとで積み重ねられた経験に基づいて、既存の人権の規範及び基準に基づいて、有毒物質への曝露から労働者を保護するための一連の原則を明確にする緊急の必要性があることが明らかになった。協議プロセスのなかで特別報告者は、彼に委任された活動の枠組みのなかで、有毒曝露からの労働者の保護に関する諸原則を準備及び提案するという彼の意向を共有し、多数の国及び他の関係者から十分な支持及び熱意が寄せられていることを知って満足した。
  8. 2018年9月に特別報告者は、何人かの一連の任務保持者らの作業に基づき、有毒物質に曝露する労働者に立ち向かう世界的危機に焦点をあてた報告書を第39回人権理事会に提出した。彼は、主要な課題を概述するとともに、各国、ビジネス及び他の主要な関係者が有毒曝露から労働者を保護するとともに、労働者の権利の侵害に対する救済を提供するのを助ける15の原則を提案した。この諸原則は、既存の国際人権法を基礎にするとともに、ビジネスと人権に関する指導原則、いくつかのILO文書並びに関連する有毒な化学物質及び廃棄物に関する国際協定の上に構築された。報告書と彼の口頭説明の両方のなかで特別報告者は、各国及び他の関係者から、諸原則草案が彼らの法律、政策及び手続のなかで、関連する場合には職業曝露に対して、どのように反映されているかに関する追加のインプットを収集して、理事会に諸原則の最終セットを提出するという彼の計画を共有した。
  9. 特別報告者は、第39回理事会における双方向の対話のなかで、労働者の権利に関する委託された任務のもとでの努力の継続及び翌年の活動計画に対する各国からの圧倒的支持に注目した。大部分の対話者は報告書を歓迎するとともに、諸原則がすでに法律や慣行のなかで実施されている事例やグッドプラクティスを共有した。代表団らは、原則草案がとりわけビジネスと人権に関する指導原則、いくつかのILO文書並びに関連する有毒な化学物質及び廃棄物に関する多国間環境協定の構造の上に練り上げられたという事実に特別な感謝を表明した。表明された関心と支持のレベルは、有毒曝露からの労働者の保護に関する諸原則の最新かつ最終のセットを理事会に提示することを視野に入れて、この課題に関する議論を継続するための必要な推進力と肯定を与えた。
  10. 2019年に特別報告者は、彼が諸原則を仕上げるのに役立てるために、すべての関係者に質問票を配布し、それはこの報告書に収録されている。すべてに近い回答者が諸原則に支持的で、それらの妥当性に同意したことを指摘することは励みになった。
  11. 2018年課題別報告書に含められた諸原則草案は、書面による協議を通じて受け取ったコメントや提案、2019年に行われたILO、WHO及び他の国際機関との追加協議や小規模な討論に基づいて修正された。とりわけILOは、提案された諸原則のどれも、ILO憲章を含めた国際労働諸基準と矛盾せず、また、大部分はそれらに完全に統合され、また支持されていると指摘した。特別報告者は、諸原則の改訂において、すべてのコメントを考慮した。
  12. 本報告書に含められている諸原則はしたがって、各国訪問、課題別調査及び国及び国以外の関係者とのコミュニケーション並びに2017年以来実施された集中的な対象を定めた協議を含め、委託された任務のもとでの25年近い作業に基づいたものである。
  13. 特別報告者は、ILOの基本的原則及び労働における権利のひとつとして労働安全衛生を加えた、ILOの最近の努力に注目する。人権と有毒物質への曝露からの労働者の保護に関する諸原則の必要性は、ある使用者団体の代表が労働安全衛生は人権のひとつであると明確に主張した、2019年の国際労働会議の100周年会期のなかで明らかになった。特別報告者はILOとWHOが労働安全衛生基準の強化に向けた彼らの努力を継続し、また、ILO理事会に対して労働安全衛生を基本的原則及び労働における権利のひとつとして認識するよう奨励する。
  14. 特別報告者は、委託された任務にしたがって、すべての労働者の権利を促進するための支援を与えてくれたことに対して、すべての国及び他の関係者に再度感謝する。

Ⅱ 人権と有毒物質への曝露からの労働者の保護に関する諸原則

  1. 労働者の権利は人権であり、また、人権は労働者の権利である。これらの権利は相互に関連し、不可分かつ万人に共通するものである。それらには、市民的、政治的、経済的、社会的及び文化的諸権利が含まれる。すべての労働者は、尊厳に対する権利、尊厳をもって、非人間的なまたは品位を貶める労働の状態にさらされることなく、倫理的に扱われる権利をもっている。何者も、彼らが行う労働を理由に、人権を奪われることがあってはならない。
  2. 安全で健康的な労働条件は、1966年に経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約が採択されて以来、明確に人権のひとつと認められてきた。それらは、公正かつ好ましい労働の状態に対する人権の基本的側面のひとつである。安全で健康的な労働に対する権利は、生活、健康、肉体的(身体的)インテグリティ及び個人の安全に対する権利を含め、他の多くの相互に関連し、相互に依存し合う諸人権を包含している。これらは、情報、意味のある参加、表現、集会及び結社の自由並びに効果的な救済に対する権利と不可分である。
  3. 50年以上にわたり世界的に認められているものの、また、一定の諸国や文脈における具体的な努力にもかかわらず、安全で健康的な労働条件に対するすべての労働者の権利や他の相互に関連し、相互に依存し合う労働者の諸人権は、とりわけ有害物質に対する職業曝露に関して、実施や実現が不十分なままに残され続けている。本報告書に含まれた諸原則は、国及び他の関係者が人権が労働者の権利であることをよりよく確保するのを助けるために提供されるものである。特別報告者の見解では、実施されれば、諸原則は、有毒物質への労働者の曝露に関して、人権と労働安全衛生基準との間の一貫性を強化するのを助けるだろう。
  4. 諸原則の目的のために、「労働者」の用語は、直接雇用される労働者だけでなく、インフォーマル労働者や契約労働者、下請業者、代理店、他の種類の臨時労働者や労働または労働関連活動を行う他のすべての者を含んでいる。
  5. 特別報告者は国、ビジネス企業及び他の関係者に対して、各々の法的及び政策的枠組みやイニシアティブ及びプログラムを通じて諸原則を実施することを求める。

A. 曝露を予防するための義務及び責任に関する諸原則

  1. 安全で健康的な労働条件に対する権利は、公正かつ好ましい労働の状態に対する権利の基本的側面のひとつとして、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(第7条)のなかで明確に認められている。しかし、それはまた、他の多くの相互に関連し、相互に依存し合う諸人権を包含してもいる。
  2. フォーマルとインフォーマル双方の状況にある労働者を含め、すべての者が、生活に対する生来の権利、身体的及び精神的健康の到達可能な最高の基準を享受する権利並びにその肉体の身体的インテグリティに対する権利をもっている。急性中毒や他の有毒物質への極度の曝露は、労働者を暴力的、残酷、非人間的かつ品位を貶めるかたちの扱いにさらす、疑う余地のない労働者のこれらの権利の侵害である。しかし、これらの権利は、同様に暴力的、残酷、非人間的かつ品位を貶める結果を生じさせ得る、有毒物質への長期、慢性曝露にも及んでいる。
  3. これらの労働者の権利は、曝露の予防に左右される。有毒物への慢性曝露の危害はしばしば目に見えず、また、否定的な健康影響が労働者やその子供たちに現われるまでに何年もまたは何十年もかかるかもしれない。労働者の権利を含め、人権を守るためには、有毒物質への曝露の予防が不可欠であり、以下の原則はこの現実を反映している。
原則 1-すべての者は労働における有毒物質への曝露から保護されなければならない。

注釈

  1. 労働者は、その人権の侵害に対してとりわけ脆弱であり、なかでも無視できないのが労働の過程で有毒物質への曝露にさらされることである。「労働者」とは、直接雇用される労働者だけでなく、インフォーマル労働者や契約労働者、下請業者、代理店、他の種類の臨時労働者や労働または労働関連活動を行う他のすべての者のことである。
  2. 労働者自身が「炭鉱のなかのカナリア」であってきた。典型的に最初に、またもっとも多く曝露し、有毒化学物質使用の致死的な代価を明らかにしてきたのである。これはたんに知られていないリスクの問題だけではない。労働者は、様々な理由から、相対的に有害性の少ない代替物が存在する場合でさえ、工業用化学物質や農薬を含め、既知の有毒物質に曝露され続けている。例えば、労働衛生に関する法律や政策はしばしば健康保護的でない。それらは、同じ司法権管轄下における労働者以外の者についてより、何千倍ではないとしても、何百倍も高いレベルで労働者が有毒物質に曝露させられるのを許している。曝露のリスクアセスメントは、それが実施される場合には、しばしば不完全な知見または誤った仮定に基づいており、安全の仮定へのミスリードや労働者の健康に対する影響の拡大につながっている。曝露からの保護の基準を改善するためのプロセスは、数十年でなければ、数年、意図的に遅れさせられ続けており、数えきれない早期死亡につながっている(原則⑥参照)。
  3. 労働者は集団として脆弱であり、したがって国による特別な注意を必要としているが、労働者のいくらかの集団はとりわけ脆弱で、侵害の二重の危険にさらされている。こうしたもっとも曝露のリスクにさらされる者たちは、搾取に対してもっとも脆弱な者たちでもある。貧しい者、子供や女性、移住労働者、障害をもつ者や高齢者である。彼らはしばしば多種多様な人権侵害を受ける傾向があり、健康と収入の間の許しがたい選択を強いられる。大部分の場合、彼らの苦境は、大部分の消費者や公正な移行を可能にする力をもつ政策立案者にとって目に見えないまま取り残されていることは、とりわけ悲しいことであり、容認できない。低所得国ではとりわけ、インフォーマル部門で働く者と比較して、正規に雇用されている者の数が少なく、非常に多くの人々を、適用可能な基準や監視の外側に置く明らかな結果となり、それゆえ著しく高められた曝露のリスクにさらされる。
  4. 安全で健康的な労働に対するすべての者の権利を実現するなかで、フォーマルまたはインフォーマルな状態のなかか、収入、年齢、ジェンダー、民族、人種、宗教や他の階級または地位に関わりなく、すべての労働者が有毒物質への曝露から保護されなければならない。安全で健康的な労働条件に対する権利は恩恵ではなく、すべての者の人権である。1990年ILO化学物質条約(第170号)は、労働者は「自らの安全または健康にとって緊急かつ重大なリスクがあると信じる合理的な理由がある場合には…自らを危険から避難させる権利」をもつことを認めている(第18条)。
  5. 低収入労働者の経済的不安定さは、けっして有毒物質への曝露からの保護の不十分なレベルの正当化の理由にはならない。あらゆるジェンダーの人々が、安全で健康的な労働に対する同じ権利をもっている。生態や社会的役割の違いに基づく異なるジェンダー間の異なるリスクを踏まえれば、国とビジネス企業がその義務と責任を満たすなかで、ジェンダーの側面を統合することが不可欠である(例えば原則②、③及び⑫参照)。子供たちを労働において有毒物質に曝露させることは抗弁の余地がない。子供たちが、農薬、有毒工業用化学物質、金属または他の有害物質を使用する、またはさもなければそれらに曝露させられる労働は、最悪の形態の児童労働のひとつである。
  6. あらゆる形態における人種差別に対する禁止が適用される。移住及び臨時労働者は、平等に対する権利及び安全衛生や他の労働条件に関して国民への平等な待遇を享受する権利をもつ。人種または民族はけっして、安全で健康的な労働条件に対する労働者の権利の現実化において禁止要因であってはならない。障害をもつ人々は、他の者と対等に、安全で健康的な労働条件に対する権利及び関連する人権をもつ。
原則 2-国は有毒物質への曝露の予防を通じて労働者の人権を保護する義務がある。

注釈

  1. すべての国は、有毒物質への職業曝露を予防するための措置を採用する義務がある。国は、不自然なまたは早すぎる死亡を引き起こすかもしれない、または、民間の者及び実体から生じる脅威を含め、尊厳をもって生活を享受するのを妨げる行為または不作為から個々人を保護するために、何らかの適切な法律または他の措置を採用することを含め、生活に対する権利を保護する積極的な諸措置を求められている。その生活に対する権利を保護する義務にしたがって、国は、労働者など、その生活が特定の脅威のために特定のリスクにさらされている、脆弱な状態にある人々に向けた特別の保護措置を講じることも求められている。さらに、国は、健康的な労働条件のための諸条項を含め、健康に対する権利を保護するための予防措置を採用することを義務付けられている。国はまた、健康に対する権利のもとで産業衛生のあらゆる側面を改善する義務もある。これには、労働災害職業病に関する予防措置をとることや、放射線や直接的または間接的に人間の健康に影響を及ぼす有害化学物質の予防及び低減が含まれる。
  2. 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約の締約国は、安全で健康的な労働条件に対する権利を保護する義務がある。同規約の第6条で規定される労働はディーセントワーク[訳注:働きがいのある人間らしい仕事=ILO駐日事務所]でなければならない。ディーセントワークは国に、有毒曝露によって侵害される、身体的インテグリティに対する労働者の権利を尊重及び保護することを求めている。
  3. 曝露の予防は、国による意識的な行動を必要とする。国は、有毒物質への職業曝露から、その領域及び/または司法権管轄内のすべての労働者を保護するために、できる限りのすべてのことをしなければならない。国は、効果的な政策、立法、規制及び執行並びに裁定を通じて、有毒またはさもなければ有害な物質への職業曝露の事例について、予防、調査、処罰及び救済を提供するための適切なステップをとらなければならない。
  4. 国は、労働衛生に関するその法律や政策が健康保護的かつ権利に基づいたものであるようにしなければならない。曝露を許す法律や政策は必ずしも労働者の健康保護的でない。国は、雇用の必要性を越える強力な公益の正当化の理由がない限り、一般人口と比較して、相対的に大きな曝露による否定的健康影響のリスクにさらされることを労働者に許してはならない。国は、科学的不確実性に直面して、労働者を保護するための行動をとるべきである(原則⑥も参照)。労働者の搾取を見て見ぬふりをすることがないようにするために、国は、曝露の定期的監視を含め、労働条件を監視するとともに(原則⑧も参照)、労働者の権利保護のための法律を実施しなければならない。
  5. 国は、インフォーマル労働者を含め、高い社会的または生理的リスクにさらされる労働者の保護に関する義務を高めてきた。国は、曝露による搾取に対してとりわけ脆弱な労働者の集団のために、相対的に高い保護基準を適用すべきである。複数の要因(原則①参照)は、有毒物への曝露に関して、労働者の一般的脆弱性をさらに悪化させる。予防及び曝露状況への対応は、社会的地位、教育レベル、年齢、ジェンダー、国籍、民族、障害及び他の効果的であるための労働者の脆弱性悪化因子を考慮に入れなければならない。有毒物質への曝露から、とりわけ、鉱業、農業、建設業、エネルギー、軍隊、製造業や廃棄物処理など、ハイリスク部門の労働者保護のために、特別な措置がとられなければならない。安全で健康的な労働条件を促進するための国の政策や計画は、フォーマル部門だけでなく、インフォーマル部門で働く者が通常労働者に対する有害物質の影響に関する統計に捕捉されていないことを踏まえて、インフォーマル部門にも狙いを定めるべきである。
  6. 国は、子供たちが労働において有毒物質を使うか、またはさもなくば曝露する状況を含め、最悪の形態の児童労働を根絶しなければならない。国はまた、有毒物質への労働者の曝露予防に、ジェンダー固有のアプローチを統合しなければならない。有害な労働条件からリプロダクティブ・ヘルスを保護することは、雇用における女性に対する差別の根絶のなかで国の核心的義務のひとつである。女性労働者は、彼らにリプロダクティブ・リスクを引き起こす全期間中の特別な保護、及び、彼らまたはその胎児を有毒化学物質に曝露させる労働からの保護を必要とする、彼らの子に対する権利をもつ。同時に、女性が、雇用または収入についての平等の機会を奪われるべきではない。女性労働者はまた、妊娠の前や初期段階中や、彼らが妊娠していることを知るかもしれない前に、労働において有毒物質に曝露するかもしれない。この現実は、差別的な方法で雇用を制限することなしに、有毒物質への彼らの曝露を予防することによって、女性のリプロダクティブ・ヘルスを保護するために、国とビジネスの側の特別な配慮を必要とする。そうするための最良の手段は、労働において有毒物質を根絶するとともに、すべての労働者に対し適切な保護の基準を適用することによることである。
原則 3-ビジネス企業は有毒物質への職業曝露を予防する責任がある。

注釈

  1. 今日の世界では、世界でもっとも経済的に強力かつ技術的に進んだ産業も含め、すべての経済部門が明らかに安全で健康的な労働に対する権利の進行中の侵害と関わりがある。これらの産業・部門の多くは-彼ら独自のデザインによって-インフォーマル経済との結びつきを含め、広大で不透明なサプライチェーンをもっている。こうしたビジネス企業には、例えば、水銀を使うインフォーマル労働者によって抽出された金を取り引きし、とりわけ女性労働者その子供たちの健康に重大な影響を引き起こしている金融機関など、関わりが一目瞭然ではないものもある。
  2. こうした企業にはとりわけ、使用者、製品の購入者や有毒物質の供給者が含まれる。職業曝露の場合、ビジネス企業に責任がある影響には、有毒物質への曝露と否定的な健康影響が含まれる。安全で健康的な労働条件に関するビジネスの責任は、労働条件の継続的改善を必要とするとともに、自国と海外の双方における、またその製品のライフサイクルにわたる、そのビジネス関係に広がっている。
  3. ビジネス企業は、その事業とビジネス関係の人間の健康に対する危害や環境影響を低減させる代替策を開発及び採用することができる。すでにそのようにしてきているものもある。しかし、外注化及び/または有毒曝露の問題をそのグローバル・サプライチェーンのより下方に押し込めてきた多くを含め、多数の企業はそうしていない。このことは彼らを、ビジネス企業はその人権デューデリジェンスの一部として有毒物への曝露を予防すべきであるという期待が高まっているにもかかわらず、有毒労働の影響を受ける労働者の権利を尊重する措置を採用する代わりに、「いつものようにビジネス」を継続できるようにしてきた。
  4. ビジネス企業は、人権に対する侵害を「予防[及び]緩和」するために、彼らに期待されているデューデリジェンスの一部として、有毒物質への職業曝露を予防する責任がある。人権侵害の予防は、デューデリジェンス手続における本体であり、また緩和への序曲である。労働者の権利に対する否定的影響を予防するために、ビジネス企業は、何よりも最大限可能な限り、その製品と製造プロセスから有毒物質を根絶することによって、有害場曝露を予防する責任がある。ハザーズを根絶できない場合、ビジネス企業は、曝露を予防するためのハザード管理のヒエラルキーを厳密かつ系統的に適用するとともに(原則④)、最後の保護手段としての個人保護機器の提供を含め、健康に対する否定的影響を緩和すべきである。ビジネスは、そのサプライ及びバリュー・チェーン全体にわたって、労働条件を積極的に調査すべきである。
  5. ビジネスは常に、その方針と慣行が有毒物質への曝露のリスクにもっともさらされている労働者を保護するようにしなければならない。ビジネス企業は、子供たち、若者及び妊娠している、最近出産したまたは授乳中の女性が、労働において有毒物質を使用したり、またはさもなくば曝露したりすることがないようにする責任がある。措置には、彼らの労働条件や労働時間の調整、他の適切な労働を行う機会、または、当該職場で調整が技術的に実行可能でなかったり、妥当と認められない場合に、別の職場での労働を提供することが含まれるかもしれない。とりわけ、鉱業、農業、建設業、エネルギー、軍隊、製造業や廃棄物処理など、ハイリスク部門の労働者を有毒物質への曝露から保護するために、特別の措置がとられなければならない。
原則 4-ハザードの根絶は職業曝露予防における最優先事項である。

注釈

  1. 有毒物質への労働者の曝露を予防するもっとも効果的な手段は、それらを職場から根絶することである。このことは、ILOや労働安全衛生に関係する国の機関によって促進されている、ハザード管理のヒエラルキーとして知られるグッドプラクティスのなかに反映されている。曝露の予防に関する有効性の下行順位のなかで、根絶の次に、相対的に有害でない物質への代替などのリスク緩和オプション、さらに工学的管理、行政的管理、個人用保護機器の使用が続く。労働安全衛生を改善するILOその他の努力は、特定のハザーズに対処するための保護措置のより伝統的な処方箋を補完する、発がん物質や他の懸念される化学物質を根絶することによる労働災害・職業病の予防をより強く強調する方向に進歩してきた。
  2. その労働安全衛生立法の一部として、国はビジネス企業に、可能である限りハザーズを根絶するとともに、ハザーズを根絶することができない場合にはこのヒエラルキーを適用することを強いるべきである。国は、科学的不確実性のレベルが高いことが多いことから、こうした法律や慣行が予防的に実施されているようにすべきである。ビジネスは、法律によって求められているかどうかにかかわらず、このハザーズ管理のヒエラルキーを適用すべきである。
原則 5-有毒物質への労働者の曝露を予防する義務と責任は国境を越えてひろがる。

注釈

  1. 天然資源の抽出、有毒な化学物質や農薬の使用または有害廃棄物の処分であろうとなかろうと、有毒物質への曝露から労働者を保護する適切な措置なしの、有害で汚い労働の国際移転は、労働者とその家族や地域社会を彼らの人権に対する憂慮すべき影響の重大なリスクにさらされたままにしてきた。例えば、グローバリゼーションや他の諸要因の結果として、一度は高度に工業化した諸国に所在した、化学物質集約型の製造及び加工活動は、サプライチェーンのグローバリゼーションを通じて、着実に開発途上諸国や移行経済諸国にひろがってきた。グローバルなサプライ及びバリュー・チェーン全体を通じた、制限された透明性と追跡可能性は、有毒物への曝露の問題を増強させるとともに、労働衛生を改善するための様々な関係者の努力を妨害している。
  2. 一定の技術の国際移転に付随し得る社会的利益を認めつつも、相対的に発達したシステムをもつ諸国から労働者保護の基準の低い諸国への、労働者の職業曝露リスクを伴った物質や製造方法の移転は、重要な問題であり続けている。保護のレベルの低い諸国への、有害な製造プロセス、材料及び物質の国境を越えた移転は、有毒曝露から労働者を保護するための適切な措置がとられない場合には、搾取のひとつの形態とみなされるべきである。
  3. 国は、その領域外で生じる、また、合理的に予測可能な管理を行使することができるビジネス主体の活動を原因とする適用可能な権利の侵害を生じさせる、有毒物質への労働者の曝露を予防するために合理的な諸措置をとることを義務付けられている。国はそのようなビジネス主体に対して、海外の子会社、供給者及び他のビジネスパートナーによる侵害を把握及び予防するためにデューデリジェンスをもって行動するよう求めるべきである。
  4. ビジネス企業、とりわけ多国籍で事業を行っているものは、自らが引き起こし、原因のひとつになり、または関わりのある、有毒物質への労働者の曝露の結果に責任を有する。このことは、そのもとで彼らの製品が製造、使用及び廃棄される状況に対して、様々な程度の責任を伴う。安全で健康的な労働に対する権利及び他の適用可能な人権に関するビジネス企業の責任は、国境を越えて適用される。彼らに関わりのある結果に関して、ビジネス企業は、そのサプライ及びバリュー・チェーンにおける、また、その製品のライフサイクルの間の、労働者の権利に対する影響を積極的に調査する責任がある。ビジネスは、彼らとその供給者が、自国と海外の双方において、その製品のライフサイクル、操業及びサービス全体を通じて、有毒物質への曝露を予防するためのハザード管理のヒエラルキーなど、グッドプラクティスを採用しているようにする責任がある。
原則 6-国は曝露を持続させるための科学的証拠の歪曲またはプロセスの操作から第三者を予防しなければならない。

注釈

  1. 安全で健康的な労働を含め、労働者の人権を保護する能力は、証拠を保護的な法律や政策及び科学的進歩の利益を受ける人権の適用に転換する能力にかかっている。健康ハザーズと曝露双方の明らかな証拠にもかかわらず、リスクを低減させる行動を遅らせるために、証拠をわかりにくくし、プロセスを操作するようにデータが改ざんされる事例が繰り返されてきた。このことは、証拠を労働者を保護するために必要な具体的措置に転換するうえで、数十年間に及ぶこともある、著しい遅れにつながってきた。例えば科学をゆがめることに狙いを定めたキャンペーンを通じて、保護的な法律や規則の採用を遅らせることを追求してきた一定のビジネス企業による様々な手法が多数報告されている。
  2. 健康保護的な法律、曝露基準や慣行の改善の採用を妨げるいずれかの関係者による努力は、有毒物への労働者の曝露を予防する義務と責任に対する侮辱を表わしている。それらは、社会の内部及び間における不平等の利己的利用を持続させることを追求する、人権に対する軽視以上のことである。
  3. 国は、そのような努力が表現の自由に対する権利を尊重するようにしながら、立法または他の手段を通じて、科学的証拠の不明化やねじ曲げ、または、労働者の健康と安全の損害に対するビジネス企業や他の第三者によるプロセスの操作をともなった意図的な改ざんを予防しなければならない。とりわけ、公衆衛生の保護は、表現の自由に対する正当な例外のひとつである。そのような不正行為の加害者は、適切な場合には刑事制裁を通じることを含め、責任を問われるべきである。
原則 7-有毒物質への曝露から労働者を保護することは彼らの家族、地域社会や環境を保護する。

注釈

  1. 労働者が有毒な職場に曝露する場合、かかる曝露の結果は彼らのウエルビーイングや人権の侵害をはるかに越えて広がる。かかる曝露の身体的及び精神的結果はまた、彼らの家族も負わされ、一般的には彼らの地域社会にとっての有毒環境につながる。例えば、大気汚染は、直接曝露する労働者だけでなく、彼らの子供たちの健康やより広い地域社会にも影響を及ぼし得る。職人採掘、廃棄物処理や(紡織など)広範囲の製造業及び農業活動など、高度に有害な生計手段に従事する労働者は、しばしば自らの住居や地域社会のすぐ近くで、ときには彼らの子供たちを伴って、または助けられて、働いている。
  2. 有毒曝露から労働者を保護することは、社会に対して広範な利益がある。潜在的な相乗効果は、政府のすべてのレベルにおける労働及び環境衛生努力の間のより強力な連携によって現実化され得る。国は、有毒物質への職業曝露からの労働者の保護と環境保護の相互補強効果を認識すべきである。有毒物質から人間の健康を保護するための法律や政策は、他の要因のなかでもとりわけ、労働及び環境曝露の双方を考慮されるべきである。国は、労働、公衆衛生及び環境に責任を有する諸当局間の効果的協力を確保すべきである。

B. 情報、参加及び集会に関する諸原則

  1. 労働者を含め、すべての者は、労働組合に加入及び脱退する自由並びに情報に対する権利を含め、表現、集会及び結社に対する奪うことのできない権利をもつ。
  2. 情報、参加及び表現と結社の自由に対する権利並びに団結と団体交渉に対する権利は、労働者の有毒曝露から生じる人権の侵害の予防を可能にする。さらに、情報に対する権利の完全な現実化は、かかる曝露の不利な影響に対する効果的救済に対する労働者の権利を現実化するために必要である。
原則 8-すべての労働者は自らの権利を知ることを含め、知る権利をもつ。

注釈

  1. 情報に対する権利は、有毒曝露に関するすべての労働者の権利の現実化にとって基本的である。労働者は、とりわけ曝露のもつ意味、曝露を予防するためにとられている諸措置及びかかる曝露と関連した彼らの権利、を知る権利をもつ。すべての労働者は、有毒物及びさもなければ他の有害物質への現実の及び潜在的曝露に関する最新の情報を知る権利をもつ。
  2. 健康への影響と責任を評価及び分析するために、ハザーズと曝露に関する情報を収集、監視、報告及び検証するための公的な枠組みが必要である。具体的事象を理解し、また、様々な労働者や子供たち、主産年齢の女性、移住労働者とその家族、高齢者や障碍者を含め、他の曝露集団に関する具体的対策の影響の正確な知見のためには、成分別に分けられる、正確かつ完全な情報を維持することが必要である。
  3. ILO条約は、労働者(とその家族)の知る権利や、国の義務、化学物質供給者を含め、使用者やビジネスの責任のいくつかの側面を認めている。例えば、関係する労働者と労働者代表は、「労働において使用される化学物質の正体、かかる化学物質の有害性、予防的措置、教育と訓練に関する情報」に対する権利をもつ。
  4. 労働安全衛生情報は、労働者のスキル、言語能力と状況を考慮しつつ、また、訓練及び他の手段を通じて、彼らの必要性に効果的に役立つかたちで、彼らが利用及び入手可能でなければならない。
  5. 国は、労働者が遭遇するハザーズとリスクに関する情報及び業務上の疾病や障害の疫学的及び他の証拠を作成、収集、評価及び更新する義務がある。国、使用者及びビジネス企業は、医学的検査の結果を含め、安全衛生情報を労働者、労働組合及び他の労働者代表に効率的に通知しなければならない。
  6. ビジネス企業は、そのサプライチェーンにおける、また、自らの活動から生じる有毒物質への労働者の現実的及び潜在的な曝露を把握及び評価する責任がある。これには、業務上の環境における有毒物質の種類、かかる物質固有のハザーズ及び曝露関連データに関する情報が含まれる。化学物質の供給者は、労働者の保護のための情報を把握、評価及び労働者、使用者、他のビジネス企業や国に通知するより大きな責任がある。
  7. 労働衛生リスクに関する情報に対する権利はもちろんのこと、労働者は、様々な権利とそれを行使及び侵害された場合に防護する方法に関する、彼らの権利と国やビジネス企業の関連する義務や責任について知らされる権利ももつ。
原則 9-有毒物質に関する安全衛生情報は秘密であってはならない。

注釈

  1. 有毒化学物質との関連で情報に対する権利を現実化することに対する持続的な問題のひとつは、機密性または秘密性の主張である。有毒物質と潜在的曝露に関する機密のビジネス情報または貿易上の秘密の違法な主張は、安全で健康的な労働条件や救済に対するアクセスを含め、彼らの人権を労働者から奪う可能性がある。安全衛生情報が関わる機密性や秘密性の主張は、有毒物質へ労働者を曝露させることによって彼らを搾取及び侵害し続けるビジネス企業の間で感染する可能性のある免責感を助長するとともに、そうすることから得る利益を正当化するだけでなく、問題を隠蔽し、またその結果、労働衛生を改善するための製品やプロセスに関する革新的調査研究を抑制する可能性がある。
  2. 機密情報の取り扱いの問題は、予防的及び保護的諸措置における情報の重要性のゆえ、また、救済に対するアクセスを提供することから、労働安全衛生の分野で関連がある(原則⑫参照)。国は、有毒物質に関する情報が機密のビジネス情報である、または貿易上の秘密が合法あるという主張を確保する義務がある。個人の医療歴の秘密性は確保されなければならないが、それらは職場で生じる健康問題を隠ぺいするために用いられてはならない。
  3. 公的機関やビジネス企業を保有するあらゆる健康安全情報は、プライバシーや公衆衛生の保護など、狭い公益の制限に該当しない限り、開示の対象になる。国やビジネスにとって、とりわけそれが利益や競争力に悪影響を与えるだろうという立場から、それが機密であるということを理由にして、安全衛生情報の開示を拒否することは決して正当化できない。このために、有毒化学物質に関する国際協定は繰り返し、有毒物質に関する安全衛生情報は機密とされるべきでないことを規定しているのである。国は、安全衛生情報を開示しないビジネスや他の関係者に適用できる刑事制裁を確保すべきである。
  4. 使用者と化学物質の供給者はその方針のなかで、例えば、国、労働者とその家族、労働者代表、その労働者が労働者が曝露し、または地域社会に影響を与えているかもしれない使用者に対して、安全衛生情報を秘密にしておかないことを明確に表明すべきである。彼らはかかる方針を厳密に実施すべきである。
原則 10-安全で健康的な労働に対する権利は結社の自由、団結権及び団体交渉権と不可分である。

注釈

  1. 他の権利のなかでもとりわけ安全で健康的な労働に対する権利を防護しようとする労働者らは数のなかに強さを見出す。労働組合の結成を含め、団結権、結社の自由に対する権利及び団体交渉に対する権利の強力な保護は、有毒物質及び他の他のリスクへの曝露からの労働者の保護を強化するうえで効果的であることを証明してきた。
  2. 結社の自由と団体交渉権の効果的な認知は、ILOによって、経済発展のレベルに関わりなく、すべての国のすべての人々に適用される、2つの基本的原則及び労働権であると認められている。労働組合を結成する自由と団体交渉権を含め、結社の自由なしには、労働者は、安全で健康的な労働に対する権利や他の人権を防護する可能性が少なくなってしまう。人権の責任が果たされ、持続可能な開発の目標が達成されるために、権利保持者が関与しなければならず、また、システム全体を通じて労働者の参加が支持されるべきである。
  3. 国は、効果的な立法、規則及び政策を通じて、結社の自由、団結及び団体交渉に対する権利を保護、促進、尊重及び履行する義務がある。彼らは、すべての者が差別なく職場で結社の自由に対する権利を行使できることを確保しなければならない。米州人権裁判所の解釈によれば、団結権に関連する結社の権利は、必ずしも何らかの実体または組織における参加の創造が関わるものではなく、それが平和的かつ条約を遵守している限り、非常に多様な目的のための散発的な集会または会合のなかでも表明され得るとされていることに注目すべきである。
  4. ビジネスは、結社の自由、団結及び団体交渉に対する労働者の権利を尊重するという彼らの責任を平等に果たすべきである。加えて国は、ビジネスまたは他の関係者によるそれらの権利の侵害を予防または中止させるうえで、彼らの役割を果たすべきである。ビジネスは企業レベル、労働者またはその代表、及び場合によっては彼らを代表する団体が、彼らの労働に関連する労働安全衛生のすべての側面について問い合わせをし、また、使用者から協議を受けるための手配をすべきであり、この目的のために双方の合意により事業所外部から技術的助言者が招かれるかもしれない。
  5. 女性労働者やその権利を防護するために行動するリスクの高い他の階級の限られた能力に対処するために特別な配慮が払われるべきである。例えば、一定の状況のもとでは、労働組合は女性の特別の関心事に適切に対処しないかもしれない。労働組合は女性を勧誘するうえで困難に直面するかも知らず、また、積極的に発言する女性に対する文化的非難のために女性は労働条件に関する議論に関与するうえで抵抗感があるかもしれない。
原則 11-労働者、労働者代表、公益通報者及び権利擁護者はすべて威嚇、脅迫及び他の形態の報復から保護されなければならない。

注釈

  1. とりわけリスクに最もさらされる者が彼らの権利を防護するために、権利保持者をエンパワーすることは、国が人権法のもとでの責任を果たす、とりわけ責任の原則、情報及び効果的な救済に対する権利を支持するのを助ける。労働者は、彼ら自身と同僚が保護されているようにするために懸念を提起するよう奨励されるべきである。
  2. 労働者が安全で健康的な労働に対する彼らの権利を享受するために、労働者またはその代表は、報復の恐れなく、使用者、同僚、報道、公的及び政府機関に懸念を提起することができなければならない。労働者、公益通報者や人権擁護者は、彼らの権利を行使、及び、有毒及びさもなければ有害な物質への職業曝露の被害者であるか、またはあるかもしれない者の権利を防護することについて、威嚇、脅迫及び他の報復があってはならない。しかし、曝露からのより大きな保護を提供することの競争上の不利が雇用の喪失につながるだろうと脅すことによって、労働者の金銭的不安を悪用するために、多くのキャンペーンが追求されてきたのである。
  3. 安全で健康的な労働に対する労働者の権利の保護に関する合意に達するよう努力する際に、優位に立つために雇用または収入の喪失の脅しがけっして用いられるべきではない。これには、職を海外に移転するという使用者の脅しも含まれる。
  4. まだそうしていない国は、労働権擁護者のために国の保護計画を実施するとともに、擁護者に対する威嚇、脅迫及び他のかたちの報復の加害者に対する適切な懲罰、民事的及び刑事的手続を開始すべきである。国は、労働者、公益通報者及び擁護者並びに労働組合及び彼らを代表する市民団体と協議して、労働権擁護者の保護における有効性を強化するために、国の保護計画の独立的な定期的レビューを委任すべきである。

C. 効果的な救済に関する原則

  1. 正義と効果的な救済に対するタイムリーなアクセスを確保することは、たんに労働者の人権であるだけでなく、労働条件を改善するための潜在的に強力なインセンティブでもある。それはビジネス企業が、相対的に有害でない代替物への置き換えから曝露を低減させるための工学的措置の採用までの範囲にわたる彼らの責任を果たす、より安全な慣行を開発及び採用する動機付けを与えることができる。他方で、その行動または怠慢が有毒物質への労働者の曝露につながる、一定のビジネス企業及び他の受益者が罰を受けないことは、世界中の数えきれない労働者の状況を改善するうえでの妨害物である。
  2. 調査研究は、有毒物質への曝露によって危害を受ける労働者のごく一部しか救済にアクセスすることができないことを示唆している。[結果]責任と救済に対する主要な障害には、不当に高い立証責任、いくらかの事例における結果が現われるまでの長い潜伏期間や因果関係の確立における困難-ハザーズの把握、曝露の測定や疫学的影響の明細に関する重大な情報のギャップ、様々な職業環境における、また労働歴を通じた多数の異なる物質への曝露、責任をサプライチェーンの上または下にシフトさせ得る供給者と購入者の間の契約関係の諸規定-が含まれる。
  3. 有毒曝露の被害者である労働者に対する効果的な救済にアクセスできない蔓延している状況は、世界中の何百万もの労働者にとって安全で健康的な労働への移行にとって障害となっている。以下の諸原則の効果的な実施を確保することは、侵害の再発や将来の被害者を回避しつつ、被害者に正義をもたらすとともに、曝露を予防する努力を推進することの双方に役立つだろう。
原則 12-労働者、その家族及び地域社会は適切かつ効果的な救済を即時に受けられなければならず、それは曝露の時点から得られるべきである。

注釈

  1. 有毒曝露による彼らの権利の侵害または違反の被害者であるすべての労働者は効果的な救済へのアクセスに対する権利をもたなければならない。適切かつ効果的な救済には、医療、補償、繰り返されないことの保証やリハビリテーションのための訓練、復帰及び合理的な調整を含め、被った危害の迅速な回復が含まれる。効果的な救済にはまた、有毒物質への曝露に責任を有する者に正義をもたらすことも含まれる。効果的な救済が遅れることは、効果的な救済が否定されることでもあり得る。
  2. すべての権利保持者は、法律によって提供されるルールと手順にしたがって、能力のある裁判所または他の仲裁者に対して適切な救済のための手続を開始する資格がある。国は、有毒物質への曝露から生じる人権侵害の被害者に対して、効果的な救済へのタイムリーなアクセスを確保しなければならない。
  3. 有毒物に曝露する労働者は、労働者または労働者の子供に疾病または障害が現われたときだけでなく、彼らが曝露するときに危害を加えられる。何年または年十年でさえあり得る、曝露後の疾病や障害の潜伏は、多くの労働者とその家族にとって、効果的な救済へのアクセスを不可能にさせる可能性がある。労働者によるさらなる曝露の予防は、繰り返されないことの保証の必須の要素である。
  4. 国は、国内立法のもとを含め、適切かつ効果的な救済に対する労働者の権利を現実化する一次的義務がある。国は、最低閾値に達した後の広範な違反の存在の可能性を自動的に調査するとともに、そうするなかで国際協力に従事する責任がある。これは、効果的な救済を追求するために被害者によってなされるなんらかの調査または行動とは別であるべきである。国は、関連する法律や慣行の変更、一定のクラスの物質の生産及び使用の禁止並びに再発を予防するための情報の流布を含め、職業曝露を生じさせる状況のタイムリーな中止を確保すべきである。課される罰は、ビジネス企業や他の関係者が、有毒物質への労働者の曝露を予防する予防措置をとるとともに、繰り返されないことを確保する抑止力として行動するよう誘導及び動機付けるのに十分に重大であるべきである。
  5. 曝露の否定的影響をもっとも受けやすい労働者は、しばしば効果的な救済へのアクセスにもっとも大きな困難に直面する。例えば、女性労働者は、経済的不安性、力の不均衡、教育や情報へのアクセスの不平等、世話の責任や他のジェンダー別役割のゆえに、有毒曝露からの効果的な救済にアクセスがあまりありそうにない。それゆえ、救済のための仕組みは、ジェンダー、年齢、地位やアクセスを妨げるかもしれない他の要因に特別の配慮を払うべきである。国は、影響を受ける集団、とりわけ彼らとその子供が有毒曝露の影響を異なって経験するとともに、多数の社会的、経済的、法的、技術的及び文化的理由について追加的な障害に直面することから女性に対して、効果的な救済へのアクセスを提供するために特別の強化された行動をとるべきである。
  6. 有毒物質への職業曝露を引き起こし、寄与し、または関係のあるビジネス企業も、労働者が適切かつ効果的な救済へのタイムリーなアクセスをもつために、確固たるプロセスを確立する責任がある。国とビジネスは、例えば、曝露を予防するために利用可能な最善の技術や最善の環境慣行の利用を促進することによるなど、すべての可能性のある救済を検討すべきである。
  7. とりわけサプライチェーンのなかの女性にとっての主要な課題のひとつは、ビジネス企業が影響を被った労働者に適切かつ効果的な救済を提供するための十分なリソースをもっていないことかもしれない。国は、サービスの受益者も救済の提供に責任を負うよう確保すべきである。現にいくつかの国は、企業が提供するか、または、有毒物質への曝露を含み得る労働者の搾取から何らかの種類の利益を手に入れる他の者に可能にする状況に対処する立法を策定している。
  8. 労働者との和解に関する情報は、安全で健康的な労働の違反の程度を理解するために重要である。提供される救済に関する情報は、被害者のプライバシーに対する権利を尊重するために必要な範囲についてのみ秘密にされるべきである。(通常口止めまたは差し止め命令として知られる)和解協定の秘匿条項は、開示の強い公益性を踏まえて、有毒物質やその使用を促進するのに用いられた手口に関する情報を抑制するために用いられる場合には、法的強制力がないものとすべきである。
原則 13-労働者またはその家族は効果的な救済を得るために病気または障害の原因を証明する責任を負わされるべきではない。

注釈

  1. 立証責任を労働における有毒物質によって危害を受けた者に負わせることは、有毒物質への曝露により生じる違反についての[結果]責任の確保と効果的な救済へのアクセスにおける、大きなかつしばしば乗り越えられない課題であり得る。対処されなければこれは、生活、健康及び身体的インテグリティに関する労働者のもつ権利を有毒曝露について執行不可能な状態にするとともに、かかる曝露による労働者の搾取についての破滅的な免責を助長する可能性がある。
  2. 必要とされる情報や被った危害の原因を提供する責任のタイプはしばしば、労働者が効果的な救済にアクセスするために闘う場合における共通の分母である。労働者は救済にアクセスするために必要な諸要素を確立することができるようにするために必要な知識やリソースを欠いていることが多い。第1に、どの物質に自らが曝露したか知らないことは普通である。第2に、彼らが曝露した物質は、疾病や障害を引き起こす可能性について調べられたことがないかもしれない。適切な情報、及び最小の安全衛生データでさえ、数万もの有毒である可能性のある工業用化学物質について欠けている。第3に、有毒物質への曝露の申し立てがなされる場合、「曝露の程度、または存在に関する具体的証拠でさえほとんど入手できない」。かかるデータを追跡及び保管することが使用者の責任であるべきなのにもかかわらず、そうしなかったことが、病気や障害を負った労働者に対する救済の容認できない拒絶を正当化するために利用される。最後に、労働者はしばしば使用者間や産業間を移動しており、そのことが彼らを有毒曝露の多様性の対象にし得る。タバコやアルコール摂取など、労働者の個人的行動も、因果関係の決定のさらなる複雑化を引き起こすかもしれない。
  3. 様々な状況のなかで各国は、立証責任を使用者または他のサービス受益者に転換させてきた。別の事例では、司法及び非司法的な仕組みが、救済へのアクセスを確保するのを助けるために、労働者の立証責任を少なくしてきた。
  4. 国は、労働者が労働において有毒物質に曝露した、また、かかる曝露が同様の状況において危害を生じさせることが証明されているという情報がある場合には、合理的な確実性をもって懸念を反証するために、責任が使用者に転換されるよう確保すべきである。これは、とりわけ申し立てを解決することに関連する事実や事象が完全に、または部分的に、使用者または他の関係者の排他的管理の範囲内にある場合に適切であるかもしれない。
  5. 労働者が有毒物質に曝露したかもしれないという情報は、曝露レベルまたは正確な化学物質の確認という形式である必要はない。それには、特定の種類の労働または産業において職業病が発生してきたことが知られているという情報も含まれ得る。使用者または他のサービス受益者は責任の推定に反論することを許されるべきではあるが、その責任は使用者にあるべきである。
原則 14-労働者から安全で健康的な労働に対する権利を奪うことは犯罪とされるべきである。

注釈

  1. 有毒物質への労働者の曝露をもたらした行動または怠慢は、一定の状況においては犯罪であり得る。刑事制裁の適用には多様なアプローチがあるものの、各国は数十年間にわたって、有毒物質への労働者の曝露に関して企業及び/または個人に対する刑事責任を認め、また課してきた。しかし、刑事責任は、ビジネス実体及び/または個人による労働者の見地の侵害に対する救済を執行及びそれにアクセスするための主要なまたは唯一の手段であってはならない。
  2. ビジネス活動が労働者の人権の侵害をもたらす場合、または、デューデリジェンスにしたがってリスクを緩和する行動を怠ったことがかかる侵害が生じるのを許した場合には、刑事制裁が適当であり得る。刑事責任は、[結果]責任を高め、効果的な救済へのアクセスや免責に対する闘いを助けることに加えて、抑止と執行を通じた公共の保護における重要な機能を果たすことができる。
  3. 国は、有毒曝露から生じる労働者の権利の侵害に関するビジネス実体及び/または個人に対して、刑事制裁が適用可能であるよう確保すべきである。国は、適切な場合には他の関係者とともに、ビジネス企業のトップが責任を負うことを確保して、かかる事例を調査及び訴追すべきである。
原則 15-国は職業曝露により危害を受けた労働者の国境を超えた事例に対する責任を確保すべきである。

注釈

  1. 責任と補償の仕組みは、現代のグローバル経済とその国境を越えた消費、生産、貿易、廃棄及び投資のパターン及び結果として起きる労働者による有毒曝露の国境を越えたリスクの現実に合致するよう設計されなければならない。国際的サプライチェーン、多国籍ビジネス企業と国や外国人投資家が関わった多様なパートナーシップが拡張及び増大してきた。しばしばこれは、有毒曝露から生じる侵害から労働者を十分保護するための適切な統治構造や能力が開発される前に、各国で起こる。
  2. まさに保護及び尊重する義務と[所在]責任は国境を越えて広がっており(原則⑤)、[結果]責任についてもそうであるべきである。国境を越えた活動とビジネス関係における権利侵害の被害者は、有毒物質への職業曝露に対する効果的な救済にアクセスするうえで特別な障害に直面している。様々な理由について、危害が生じる国の裁判所で被害者が入手可能な救済が入手できない、または効果がないかもしれない。問題点には、損害の立証や因果関係の確立、大部分の司法管轄内における救済へのアクセスの金銭費用、技術的能力の限界やいくらかの司法システムにおける独立性の欠如が含まれる。
  3. 国は、彼らが管理を行使できる関係者の活動によってもたらされる、彼らの領域または司法管轄の外部で生じる有毒曝露による労働者の権利の侵害を正すための措置を講じる責任がある。これらの関係者には、とりわけ企業、使用者、製造者、輸入者や輸出者など、様々な企業が含まれる。
  4. 国境を越えた事例における効果的な責任と救済へのアクセスには、予防及び情報開示のための措置を含め、国際協力を必要とする。国は、自国の法制度の公法及び私法執行双方に関して、国の諸機関や司法諸機関の間の国境を越えた協力の有効性を改善するための措置を講じるべきである。
  5. 司法管轄内のビジネスが海外で有毒物質への曝露から労働者の権利の侵害を引き起こし、それに寄与し、または関係がある状況においては、かかるビジネスの母国は、地元の司法制度がかかる有毒曝露によって危害を受けた労働者が正義または効果的な救済にアクセスするのを確保しそうにない場合に、がかかるビジネス企業及び/または個人に対する申し立てを裁くことを、彼らの国内司法制度が海外の労働者に許すよう確保すべきである。

https://undocs.org/en/A/HRC/42/41