『なぜ未だにセウォル号か』はあなたに～生命安全尊重社会を作ろうとすれば　2022年4月14日　韓国の労災・安全衛生

16日は世越（セウォル）号惨事の8周忌だ。惨事の後、大統領が一度変わり、間もなく次の大統領が就任する。それでも私たちの質問は依然としている。惨事の真実は何であり、誰が責任を負うべきなのか？　韓国社会は安全か？

2014年4月16日、セウォル号惨事が起きたまさにその時、光化門や清渓川の間を行ったり来たりしながら、街の電光掲示板を見ていた。朴槿恵(パク・クネ)政権に抗議するため、朝から街頭に出ていた。画面に映し出された場面と、数百人の生死が確認されないという字幕が、まるで現実ではないように感じた瞬間の記憶が、未だ生々しい。

セウォル号惨事は他の多くの惨事と違って、韓国社会で、真相究明が他の何よりも優先的に要求される惨事だった。その結果、惨事の原因究明に適用されるには未だ距離があるとしても、惨事の収拾における実質的な意味の不作為による殺人が認定された、最初の事例となった。すなわち、社会が提起する『一体、なぜ？』という疑問に対する、やむを得ない回答だったが、最高裁は初めて「必ず、結果の発生に対する目的や、計画的な犯行の意図がなければならないのではなく、簡単に防止することができたにも拘わらず、結果の発生を容認し、傍観したまま義務を履行しないと認識をすれば足りる」ということを根拠に、「不作為による殺人」を認定した。

セウォル号の発生後、「一体なぜ？」という質問を投げかけながら、私たちは災害に対する私たちすべての不作為を一緒に考える時間を持った。その結果、2014年4月を基点にした一年間、これといって何も変わっていない状態で、労災死亡事故の発生が急減したという。そしてその後再び増加したという調査結果が、最近になって出た。結局、セウォル号という不作為に接し、その反対概念としての作為、つまり遂行すべき義務を実際に遂行することの重要性を、社会全体が感じるようになった最初の事件となった。

私たちはよく美術品を鑑賞したり、遺跡を探訪したりしながら、「解って見て、見て感じる」という言葉を口にする。ところが、美しいものだけでなく、災害を招く危険もまた同じだ。危険は「疑わなければ気が付かず、気付かなければ、それに対する行動ができない」。これは、私たちの脳が物事を認識する上で、ありのままに見たり聞いたりするのではなく、従来の体現化した概念に基づいて、見たり聞いたりしたことの内容を予測することで、その結果、人を始めとするすべての生物は状況を認識し、行動するようになるという脳科学的な事実からもそうである。

すなわち、美しさや危険は、ありのままに認識されるのではなく、体現化した概念に基づいて予測されなければならない現象だ。ここで災害発生とその収束において不作為が成立するとすれば、作為に対する社会的な期待と、それに伴う体現化された概念がなければならない。危険に対する作為は、危険を認識し、それに対して執るべき適切な措置に対する社会的な期待によって遂行される。私たちはセウォル号を通して不作為に接し、その対称点としての作為に悩んだ結果、昨年、重大災害処罰等に関する法律（重大災害処罰法）をようやく持つことになった。危険に対して遂行すべき義務をきちんと遂行する作為の責任を負わせることによって、事業主に危険の疑いと管理を社会的に体現化させない限り、繰り返される産業災害を減らすことはできないという、合意の結果であった。

このような背景を持つ重大災害処罰法を、単に『企業家の経営意志を萎縮させる法』と酷評する大統領当選者の言葉から、私たちは事業主の危険性の疑いの体現化を、単に経営意志の萎縮と理解する認識の偏狭さを伺い知ることができる。政府の不作為が起きる原因についての学界の研究は、『予見される失敗を、最小化すべき政府の予期的な責務性を果たせない理由は、単に力量不足にあるのではなく、予見されたことを先制的に措置することを困難にする、組織の行動と制約にある』ということを何度も指摘している。政府と同様、企業でも、不作為の責任は、力量不足からではなく、組職の行動と制約、すなわち組職の責任を負う事業主の態度に見出さなければならない。

不作為とは、一定の処分をすべき法律上の義務を履行しないことである。私たちの健康権・幸福権などは、これらを阻害する危険性と有害性を指摘して管理すべき義務を伴う。今こそ、セウォル号の惨事を再び記憶し、そして新政府を迎えてもう一度、私たちは私たちすべての不作為を振り返らなければならない時だ。

2022年4月15日　毎日労働ニュース　ペク・ドミョン緑色病院職業環境医学センター長

http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=208422