イギリスの石綿被害と補償・救済のアプローチ-中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会イギリス訪問団参考資料(2017年)

中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会が2017年7月4~9日、20人からなる代表団をイギリスに派遣することになった。本稿は、同派遣団のための参考資料として準備されたものである。

石綿輸入量と中皮腫死亡

イギリスも日本も歴史的にアスベストはほぼ輸入に依存してきた。全体状況を比較するために、石綿消輸入と中皮腫死亡の推移を図1に示した。イギリスは、日本よりも、石綿使用の歴史的経過が先行し、中皮腫の流行も先行している。

イギリスでは、安全衛生庁(HSE)が中皮腫死亡の将来予測を行っており、最新の推計によれば、現在年間中皮腫死亡数約2,500人でピークを迎えつつあり、今後は減少に転じていくことが期待されている。しかし、以前は2010年に1,500人でピーク、2011~15年に1,950~2,450人でピークとされていたものが、新たな推計がなされるたびにピークが遅くなり死亡数が増えていることや、例えば高齢化の進展を考えてみてもこの推計は過小評価で、まだ減少に転じると断言はできないなどという議論もある。いずれにしろ今後の推移が注目されている。

なお、日本の人口がイギリスの約2倍であることに常に注意していただきたい。仮に人口当たりで過去の累積石綿輸入-曝露の状況が同程度で、中皮腫死亡も同じ道をたどっているとしたら、現在のイギリスの年間中皮腫死亡数約2,500人の2倍の5,000人程度まで、日本の中皮腫死亡は増加するかもしれないということである。

中皮腫の補償・救済状況

イギリスの補償・救済制度についてはおつて解説するが、日本の労災保険制度に相当する労働災害障害給付(IIDB)制度に加えて、IIDBの対象でない=労働者でない、家族曝露等による被害者に一時金を支給する2008年びまん性中皮腫支払(2008DMP)制度ができており、こちらは日本の石綿健康被害救済制度に相当すると言えよう。

両国について、労災補償制度と救済制度の双方から給付を受けたものの合計件数と中皮腫死亡者数を示したのが、図2である(数字は表1・2)。

イギリスは、図3も合わせて参照すると、1990年代後半以前は、IIDB支給件数は中皮腫死亡数の半分に満たなかったようだが、2000年以降増加し、2003年の約60%から2015年には88%を超すに至っている。これに、中皮腫死亡数の20%前後の件数の2008DMP支給件数を合わせた合計は、近年100%を超えている状況である(表1)。

一方日本は、労災補償件数(労災保険と救済法時効救済の合計)と救済件数を合わせた合計は近年約80%であるが、救済件数が労災補償件数を上回る状況が続いている。

以上は支給決定年別データであり、本紙が紹介してきたように、日本については、死亡年別データによる検証が可能であり、ある年に死亡した中皮腫事例のうちのどれだけが補償・救済されたかという率はかなり減少する。イギリスの場合も、あるいはそうであるかもしれない。

それでも、イギリスの方が日本よりも補償・救済状況が進んでいること、及び、労災補償が救済の4倍以上という比率になっていることが確認できる。後者は、中皮腫の8割は職業曝露によるものとするヘルシンキ・クライテリア等の知見を裏付けているとも考えられ、日本の労災補償の比率は明らかに低く、本来労災補償を受けるべき事例が数多く救済に紛れ込んでいるものと考えざるを得ない。

表3・4は、評価/決定件数に対する支給件数としての認定率を比較したものである。イギリスの2008DMPについては支給件数しか入手できないため計算できない。また、表2の1979PWCA及び2014DMPについては、後にふれる。

イギリスのIIDBによる中皮腫の認定率は、2007年以降100%である。一方日本では、労災補償では95%に近づいているものの、救済制度では90%に満たず、格差が確認できる。

中皮腫以外の石綿関連疾患

次に中皮腫以外の石綿関連疾患について、表5・6に示した。イギリスでは、中皮腫以外の疾患については、救済制度に相当するものがないので、IIDBデータのみであり、また、良性石綿胸水はIIDBの対象疾病になっていない。

補償・救済件数の絶対数でみると、石綿肺がんは日本の方がイギリスよりも多いが、石綿肺とびまん性胸膜肥厚はイギリスの方が日本よりも多い。しかし、日本の人口がイギリスの約2倍であることを踏まえれば、いずれの疾患についても日本の方がイギリスよりも少ないと言わなければならない。

石綿肺がんについては、イギリスでは後述するように、石綿肺を伴わない石綿肺がんがIDDB対象疾病に追加されたことが、増加要因になったことは明らかであるが、石綿肺がんは中皮腫の2倍あるいは数倍と理解されていることからすれば、イギリスの現状も決して満足できる状態ではない。

しかし、表7に示されるように、評価件数に対する支給件数としての認定率が、2005年以降100%を維持していることは、日本と比較した場合には驚異的である。

表9に示されるように、イギリスでは、石綿肺についても2008年以降認定率が100%を維持、びまん性胸膜肥厚についても認定率が日本よりも明らかに高いことが確認できる。

イギリスの職業病リスト

ところで、イギリスの職業病リストは、1985年社会保障(労働災害)規則の別表1として規定され、約70の規定疾病が規定されている。これは、IIDBの対象となる疾病のリストであるが、「規定疾病(PD:Prescribed Diseaese)」リストとも称されている。
表11が、現行の職業病リストの石綿関連疾患にかかる部分である。

このリストは、疾病名に対応する「業務の種類」が限定列挙されていて、これ自体が日本の労災認定基準に相当し、別に認定基準ないし職業病リストの運用基準等として示されているものはない。
この職業病リストは、労働年金省(DWP)の労働災害諮問委員会(IIAC)によって随時見直しが行われている。

石綿関連疾患全般についての直近の検討は、2005年7月14日に公表された「アスベスト関連疾患の規定を検討する1992年社会保障管理法第171項に基づく労働災害諮問委員会による報告書」である。
https://www.gov.uk/government/publications/asbestos-related-diseases-iiac-report

この時点で検討の対象となった「旧リスト」の、変更がなされた部分のみを、表12に示した。

もっとも大きな変更点は、以前からあった「D8 石綿肺合併石綿肺がん」に加えて、「D8A 石綿肺合併なし石綿肺がん」が新たに追加されたことである。このことが、石綿肺がん全体の労災認定件数増加に寄与していることは、図3及び表5で確認したとおりである。

しかし、D8Aの「業務の種類」は、以下のとおり限定されている。これは、日本の労災認定基準よりもかなり狭いと言わざるを得ないだろう。
(a)アスベスト織物の製造、または
(b)アスベストの吹き付け、または
(c)アスベスト保温作業、または
(d)造船におけるアスベストを含有する物の適用または除去

(d)には、以下のような基準が加えられている。
「曝露のすべてまたはいずれかが1975年1月1日より前に生じていて、一回の期間または複数の期間の合計が5年以上であること、またそうでなければ、一回の期間または複数の期間の合計が10年以上であること。」

実は、イギリスのこの規定が、日本の2012年の労災認定基準改正で同様の規定を新設する根拠になったという経過がある。

また、びまん性胸膜肥厚について、旧リストの(b)+(i)or(ii)の医学要件が削除された。しかし、このときの改正では、「肋骨横隔膜角の消失を伴う片側性または両側性びまん性胸膜肥厚」とされた。
2016年4月12日に「びまん性胸膜肥厚」に関するIIAC報告書が公表されて、以下のような結論が示された。
https://www.gov.uk/government/publications/diffuse-pleural-thickening-iiac-report

「34. 委員会は、びまん性胸膜肥厚(PD D9)についての表現は、胸部エックス線上の肋骨横隔膜角の消失に関する条件を取り除くよう改訂することを勧告する。PD D9についての職業の対象範囲は変更しないままとすべきである。」

この結果、現行リスト(表11)のように、「肋骨横隔膜角の消失を伴う」も取り除かれて、「片側性または両側性びまん性胸膜肥厚」となった。

この点でも、日本のびまん性胸膜肥厚に係る2006年労災認定基準では、イギリス旧リストの(b)+(i)or(ii)の医学要件が採用されたが、その後、すでに2006年段階でイギリスではそのような医学的要件が取り払われていたことに気がついて、2012年労災認定基準で取り除いた経過がある。

それ以外の近年の石綿関連疾患に係るIIACの出版物は、以下のとおりである。

〇2008年6月20日IIACポジション・ペーパー20「アスベスト曝露と後腹膜線維症」
https://www.gov.uk/government/publications/asbestos-exposure-and-retroperitoneal-fibrosis-iiac-position-paper-20
[結論]「35.委員会は、現在の証拠は、規定を支持するのは不十分であると結論づけた。しかし、委員会は、証拠が非常に限られている領域における今後の質の高い研究を強く奨励するとともに、新たな研究報告を綿密に監視するだろう。」

〇2008年8月7日IIACポジション・ペーパー22「喉頭がんとアスベスト曝露」
https://www.gov.uk/government/publications/laryngeal-cancer-and-asbestos-exposure-iiac-position-paper-22
[結論]「44.委員会は、規定を支持するにはデータが十分に強固ではないと結論づけた。しかし、委員会は、この問題のレビューを継続し、この課題に関する今後の研究知見を監視するだろう。とりわけ、WHOの国際がん研究機関が2009年に、アスベストに関連したがんのレビューを実施すると提案していることが指摘されており、委員会はその結果を精査するだろう。」

〇2015年2月17日IIAC情報ノート「喉頭または卵巣のがんとアスベスト作業」
https://www.gov.uk/government/publications/cancers-of-the-larynx-or-ovary-and-work-with-asbestos-iiac-information-note
この文書は、国際がん研究機関(IARC)モノグラフ100cの発行を踏まえたアスベスト被害者支援団体フォーラムの要求を受けて検討を行った、と明記している。
[結論]「13. 今回のレビュー及び以前検討された証拠に基づき委員会は、2009年になされたように、アスベスト曝露に伴い喉頭がんのリスクが2倍になるという証拠は一貫性がないままであると結論づけた。
いくつかの研究は、おそらく相対的に高い[レベルの]曝露をした労働者において、相対的に高いリスクを示しているものの、そのような報告は一般的に、かかるリスクを招いたであろう曝露のレベルに関する情報が少ないか、または、ない少数の事例に基づいたものであり、いくつかはイギリスで起きたのではない曝露に関するものである。したがって、委員会は引き続き、規定の勧告をさせ、また詳述するには、証拠が十分に強固ではないと考える。」
「23. ここに要約した証拠に基づき委員会は、アスベストへの曝露はおそらく卵巣がんのリスクを高め、非常に高い[レベルの曝露]の場合には2倍以上高めるかもしれないと結論づけた。しかし、エビデンスベースのひとつの不確実性は、腹膜中皮腫を卵巣がんと誤診することによって、どの程度リスクが過大評価されてきたかということである。さらに、イギリスの人々における規定の場合を考慮すれば、(Acheson et al., 1982 and Wignall et al.による研究から経過した時間を踏まえれば)規定によって利益を受ける立場にあるのはいまではアスベスト紡織における労働者だけであり、また、紡織労働者における事例は、職業の規定を定義することができないくらい『重度』曝露の状況の定義が不十分なひとつの研究(Berry et al., 2000)によって支持されるだけである。委員会はそれゆえ、アスベスト曝露に関連した卵巣がんの規定を勧告しない。」

〇2009年6月30日IIACポジション・ペーパー23「胸膜プラーク」
https://www.gov.uk/government/publications/pleural-plaques-iiac-position-paper-23
[結論]「93.委員会は、IIDB制度のもとで補償される規定疾病のリストに胸膜プラークを含めることを勧告しない。」
以上のような、喉頭がん、卵巣がん、胸膜プラークの職業病リストへの搭載をイギリスが見送っていることは、日本にも影響を及ぼしている。

胸膜プラークの補償問題

イギリスでは、胸膜プラークは、職業病リストには搭載されていないものの、かつては民事損害賠償請求が可能であり、被害者(支援)団体にとって大きなキャンペーン課題であったことから、そのひとつクライドサイド・アクション・オン・アスベストのウエブサイトから、概要を紹介しておきたい。
http://www.clydesideactiononasbestos.org.uk/compensation-and-benefits/pleural-plaques-compensation

「良性胸膜所見は中皮腫に変化しはしないが、胸膜のプラークまたは肥厚を有する者は、過去にアスベストに曝露していることから、中皮腫や肺がんのリスクが高くなる。このことはしばしば多くの人々に不安を与えている。」

2007年より前には、胸膜プラークに罹患している場合、イギリスでは民事補償請求を追求することが可能だった。しかし、2007年10月に貴族院は、これは終わらせるべきであると裁定した。この決定の背景については、私たちのキャンペーン情報を参照していただきたい。
http://www.clydesideactiononasbestos.org.uk/about-caa/campaigns

〇スコットランド
CAA(クライドバンク・アクション・オン・アスベスト)はただちに、この状況を正すためのキャンペーンを開始し、2009年損害賠償(アスベスト関連疾患)(スコットランド)法の導入につながった。この法律は、スコットランドで胸膜プラークについて民事請求をできるようにするものである。
将来のアスベスト請求の可能性を防ぐために、胸膜プラークについての請求は、アスベスト疾患があることを最初に知った日から3年以内に起こされなければならない。
「法律が規定するように、3年以内に請求が起こされない場合には、仮により重篤なアスベスト関連疾患を診断されたとしても、胸膜プラーク請求も、また、将来のアスベスト関連疾患請求を起こすのも時効にかかってしまうことになる。」

〇イングランド&ウェールズ
イングランドとウェールズでは、イギリス政府は、スコットランド政府の例に従うことを拒否し、胸膜プラークについて民事請求を追求する権利の回復を拒否してきた。代わりにイギリス政府は、イングランドとウェールズについて、2011年8月1日に新たな申請を終了する時限付き制度を導入した。
「イングランドとウェールズでは、アスベスト曝露により胸膜プラークに罹患した者に対して補償を支払ういかなる規定ももはや存在していない。」

〇北アイルランド
北アイルランド議会は、スコットランド議会に続いて、2011年12月14日から胸膜プラークに罹患した北アイルランドの人々の補償を請求する権利を回復させる、損害賠償(アスベスト関連疾患)法案北アイルランドを導入した。

〇胸膜プラークと公的(政府)給付/補償
イギリス政府の諮問機関である労働災害諮問委員会(IIAC)は、胸膜プラークを診断された人々に対して、労働災害制度を通じた補償が適切であるかどうか検討するようイギリス政府から求められた。委員会は、IIDB制度のもとで補償される規定疾病のリストに胸膜プラークを含めることを勧告しなかった[前出]。したがって、この病気について公的(政府)給付/補償の受給資格はない。

イギリスの補償・救済制度

イギリスの石綿関連疾患の補償・救済制度について、2014年9月にイギリス庶民院が公表した文書「アスベスト関連疾患:労働年金省からの給付」の主要部分によりながら紹介しよう。
http://researchbriefings.parliament.uk/ResearchBriefing/Summary/SN06012

アスベスト繊維への曝露は、多くの重篤な疾病につながる可能性がある。労働年金省(DWP)が運営する制度のもとで補償が受けられる場合がある。一定の条件を被っている者は、過失及び/または法定義務違反により彼らをアスベストに曝露させたことに責任を有する、一人または複数の使用者に対して民事損害賠償請求も追求できるかもしれない。

雇用のなかで職業病に罹患した者に週決め給付を支払うイギリスにおける主要な制度は、労働災害障害給付(IIDB)制度である。IIDBのための「規定疾病」のリストには、アスベスト関連疾患が含まれている。

現在、資格のあるアスベスト関連疾患罹患者に一時金の支払いを提供する3つの制度がある。

1979年じん肺等(労災補償)法のもとで設けられたDWPが運営する制度は、一定のアスベスト関連疾患に罹患した者(または、罹患者が死亡した場合にはその被扶養家族)に対して、使用者が廃業してしまっているために損害賠償を請求することができない場合に、一時金の支払いを提供している。

2008年10月からは、びまん性中皮腫支払制度が、中皮腫と診断されたすべての者に、彼らが他所から補償を獲得しようとする場合に直面する困難さと、彼らが通常診断から数か月のうちに亡くなるという事実を認識して、前払いの一時金の支払いを提供している。これは、自営業者、環境中のアスベストや曝露した家族の一員から作業衣を通じて曝露した者など、これまで援助を求める資格のなかった者を対象にしている。罹患者が亡くなってしまっている場合には、被扶養家族に対して支払いがなされ得る。この制度は、1979年法のもとで設立された制度から利益を得ることのできない者のために、同制度と並行して運営している。それは、その後民事損害賠償請求を得ることができたすべての事例から、なされた支払いを回収することができるようにするために、「補償回収」の仕組みによって資金調達されている。

2014年からは、新たな「びまん性中皮腫支払制度」(DMPS)が、使用者による過失または法定義務違反によりアスベストに曝露し、使用者または使用者の使用者責任(EL)保険者に損害賠償請求を起こすことのできない、びまん性中皮腫罹患者に支払いができるようになっている。これは、2008年に作られた制度とは別のもので、2008年制度は引き続き機能している。新たな制度は、保険業者に課される徴収金によって資金調達され、2012年7月25日以降に初めて診断を受けた者に対して支払いを行う。2008年制度と同じように、罹患者が亡くなってしまっている場合には、被扶養家族に対して支払いがなされ得る。

1 はじめに
アスベスト関連疾患に罹患した者に補償を提供する、労働年金省の4つの制度に関する情報は以下のとおりである。これらの制度に加えて、社会保障給付の本流を通じた金銭的支援も利用できるかもしれない。アスベスト関連疾患罹患者または罹患者が死亡している場合にはその被扶養家族にとくに関わりがありそうな給付には、以下がある。
・雇用及び支援手当
・障害生活手当/個人自立支払
・付添手当
・介護者手当
・死別諸手当
・葬祭料支払
しかし、これは網羅的リストではない。詳しい情報はGOV.UKウエブサイトでみつけることができる[https://www.gov.uk/browse/benefits]。
どの給付を請求できる可能性があるか知りたい方にとって、最良の助言は、「給付確認」について無料支援機関に相談することだろう。市民相談協会は給付確認に対応できる。各地の市民相談協会はそのウエブサイトで確認できる[https://www.citizensadvice.org.uk/]。

2 労働災害障害給付(IIDB)
労働災害障害給付(IIDB)制度は、労働における災害の結果として障害を負った、または労働のなかで規定疾病に罹患した、被雇用稼得者に対して、給付の支払いを提供している。給付は、「無過失」、無税、無拠出制[本人負担なし]であり、労働年金省によって運営されている。
規定疾病と関連業務のリストは、1985年社会保障(労働災害)(規定疾病)規則の別表1である。また、DWPウエブサイトでも入手できる。リストには、約70の規定疾病が載っている。以下が、アスベストに曝露した者に関係があるかもしれない。
D1 じん肺(珪肺及び石綿肺を含む)
D3 びまん性中皮腫
D8 石綿肺の証拠を伴う肺がん
D8A 石綿肺を伴わない肺がん
D9 びまん性胸膜肥厚
胸膜プラークは、IIDBの規定疾病ではない。
ある者が一定の規定疾病についてIIDBの受給資格があるためには、彼または彼女は通常、当該疾病を引き起こすことが知られている一定の業務で働いていたのでなければならない。各規定疾病についての業務の種類は、1985年社会保障(労働災害)(規定疾病)規則別表1の最後の欄で特定されている。例えば、規定疾病D3(びまん性中皮腫)についてIIDBの受給資格があるためには、「広く一般環境中に見られるより上のレベルのアスベスト、アスベスト粉じん、または何らかのアスベスト混合物への曝露」を伴う業務に雇用されていたのでなければならない。
給付の受給資格があったであろうが、請求をする前に亡くなった者についてIIDBに請求をすることは可能である。しかし、「死後請求」をするには期限があり、裁定、死亡日前3か月まで遡及できるだけである。
IIDBの週額は、各事例の、傷害または疾病によって、障害の程度によって異なる。これはパーセンテージで表わされる。雇用条件を満たしていれば、びまん性中皮腫(D3)またはアスベスト関連肺がん(D8及びD8A)については、障害は自動的に100%であると評価される。
規定疾病と関連業務のリストは、不変のものではなく、定期的に見直されている。国務大臣は、規則を通じてリストを変更することができ、疾病の規定及び制度の運用に関して、労働災害諮問委員会(IIAC)による独立的な助言が政府に与えられる。IIACは直近では2005年に全体としてアスベスト関連疾患の規定を見直すとともに、それ以降、アスベスト曝露に関連した特定の諸疾病に関する報告書を作成している。

3 1979年じん肺等(労災補償)法(1979PWCA)
1979年じん肺等(労災補償)法(PWCA)は、一定の粉じん関連疾患に罹患した者、または、罹患者が亡くなってしまっている場合にはその被扶養家族に対して、当該疾病が雇用のなかでの粉じんへの曝露の結果であるが、使用者が廃業してしまっているために使用者に損害賠償請求をすることができない場合に、一時金補償の支払いを提供している。該当する疾病は以下のとおりである。
・びまん性中皮腫
・じん肺(珪肺、石綿肺、カオリンじん肺を含む)
・びまん性胸膜肥厚
・原発肺がん(石綿肺またはびまん性胸膜肥厚を合併する場合に限る)
・綿肺
受給資格があるためには、主に3つの適格要件が必要である。
・当該疾病について、罹患者に労働災害障害給付が通常支払われるべき、または支払われるべきであったこと
・すべての関係する使用者が事業の継続をやめてしまっている(または、事業をいまも行っている場合には、彼らに損害賠償を請求する現実的な見込みがない)こと
・罹患者、またはその被扶養家族は、裁判を起こしたこと、または何らかの補償を受け取ったことがあってはならない
本制度は、以前は環境運輸地方省によって運営されていたが、2012年に労働年金省が責任を引き受けた。
同制度のもとで支払われる可能性のある額は、現在同法のもとでつくられる規則によって毎年改訂されている。

4 2008年びまん性中皮腫制度(2008DMP)
びまん性中皮腫制度は、2008年児童扶養及びその他手当法の結果として、2008年10月1日から施行されている。同制度は、びまん性中皮腫に罹患した者に対して、彼らがイギリスにおいてアスベストに曝露した場合に、一時金の支払いを提供している。これは、1979年じん肺等(労災補償)法(PWCA)と並行して運営している。
この制度は、夫の汚染された衣服を洗濯した女性や自営業者など、イギリスにおいてアスベストに曝露したが、他所から補償を請求することができない、びまん性中皮腫罹患者に一時金支払いを提供することを意図したものである。
PWCAのもとで請求をすることができず、当該疾病について使用者、民事請求または他所から支払いを受けたことがなく、国防省の制度からの補償の受給資格もない者は、この制度のもとで一時金の支払いを請求することができる。請求は、びまん性中皮腫罹患者、または、死亡直前にびまん性中皮腫に罹患していた死亡者の被扶養家族が行うことができる。請求は、診断の1年以内、または、被扶養家族の場合は死亡日から1年以内に行う。
一時金の額は、同疾病を診断された時の罹患者の年齢によって異なる。
DWPは、請求様式を受け取ってから6週間以内に、請求の95%に対して支払うことができることを目標にしている。請求人は、アスベスト曝露による中皮腫に罹患していることを示す医学的証拠を請求に添付するよう求められる。それ以上の医学的検査は求められるべきでない。
びまん性中皮腫制度は、長期的には「費用中性[cost neutral]」であることを企図されている。この制度は、同制度または1979年じん肺等(労災補償)法のいずれかのもとですでに支払いを受けた者に対して、後になされた民事損害賠償の裁定から回収された額によって資金調達される。以前は、ある者が1979年法のもとで一時金を受け取った場合には、使用者とその保険者は、事後の民事損害賠償の解決から、当該支払いに相当する額を差し引くことができ、国は、使用者または保険者から当該額を回収することができなかった。2009年児童扶養及びその他手当法は、政府がそれらの合計額を回収することができるように、ルールを改正した。

5 2014年びまん性中皮腫支払制度(DMPS)
5.1 立法背景
2014年中皮腫法は、使用者の過失または法定義務違反のいずれかによってアスベストに曝露し、当該使用者または当該使用者の使用者責任(EL)保険者に対して損害賠償請求を起こすことのできない、中皮腫罹患者に支払いを行う新たなびまん性中皮腫支払制度の法的枠組みを提供している。それは、ある者が診断された時までに、使用者がもはや操業しておらず、かつ、関係記録が失われ、または破壊されてしまったために当該使用者のEL保険者を追跡することができない場合の問題に対処することを企図したものである。この制度は、保険業界に対する徴収金によって資金調達され、2012年7月25日以後に最初に診断された者に対して支払いを行うことができる。この制度はイギリス[UK]規模のものであり、2014年4月に開始された。
制度の提案は、2010年2月に労働党政権により発行された協議文書の中で示された。次の政府が、保険業界と詳細な交渉を行って、2012年7月25日にその対応を発表した。さらに保険業界その他関係者との議論が行われ、2013年5月9日に貴族院に中皮腫法案が提出された。
法案の通過の過程で政府は、保険業界との交渉を踏まえた、民事損害賠償レベルの70%から75%への補償率の引き上げを含めた多数の変更を発表し、これはさらに80%に引き上げられた。
法案は、2014年1月30日に国王の裁可を受けて、2014年中皮腫法となった。
2014年びまん性中皮腫支払制度規則は、2014年4月5日に施行された。この制度のもとで支払われうる額は、同規則別表4のもとで設定されている。この別表は、2014年7月1日に施行された、2014年びまん性中皮腫支払制度(改正)規則によって大きく改正された。労働年金省は、元の規則の通過の過程で、「支払制度を実行する供給者と契約を結ぶ事業手続に結論が出た」と説明した。事業調査の結果、成功した請求人に対する支払いのレベルを引き上げられるようにする運営費用の節約を確認した。結果的に、「これによって、各年齢範疇に対して同制度のもとでなされる支払いのレベルを、平均8,000ポンド引き上げる効果があった」。

5.2 制度及び入手できる補償の評価
この制度のもとで、支払の受給資格のある40歳以下の者は最大216,896ポンドを受け取り、40歳を超す1歳ごとに一定額のスライド制で、90歳まで約2,945ポンドずつ支給額が減額される。
DMPSは、労働年金省との取り決めにしたがって、Gallagher Bassettによって運営されている。同制度に関する情報を提供するウエブサイトがつくられている[https://mesoscheme.org.uk/]。
※2008年制度(2008DMP)または1979年法(1979PWCA)のもとですでに請求を行っていたとしても、DMPSに請求することができる。2008年制度または1979年法からすでに支払いを受けていた場合には、DMPSから得る額から差し引かれるだろう。仮にDMPS請求が成功しないとしても、2008年制度から請求することができるかもしれない。

労働災害障害給付等の内容

労働災害障害給付(IIDB)は日本の労災保険制度に相当するものと言いつつも、使用者が保険料を負担する保険制度ではなく、国-税金による社会保障制度であり、また、日本の労災保険の療養補償給付のように単一の給付で所得補償機能を担うといったイメージではなく、IIDB以外の諸給付と組み合わせられて支給される。IIDB給付額自体が、障害率(障害の程度の評価)に基づくものの、実際に就労しているか否かには左右されない。

他方、使用者が、被災労働者から損害賠償を請求された時に対応できるようにするために、使用者責任(EL)保険への加入を義務付けられている一方で、実際に損害賠償が支払われた場合には、社会保障制度から支給した分を国が回収するという仕組みをもっている。この点は後に民事損害賠償についての説明でふれるが、日本の労災保険とはかなり違っていることも理解しておかなければならないだろう。

〇使用者責任(PL)保険
https://www.gov.uk/employers-liability-insurance
使用者になり次第、使用者責任(EL)保険に加入しなければならない-保険契約は少なくとも500万ポンドカバーしなければならず、また、公認技保険会社によるものでなければならない。
EL保険は、雇用する労働者が、労働によって傷害を受け、または病気になった場合に、補償を支払うのに役立つ。

〇補償回収部(Compensation Recovery Unit)
https://www.gov.uk/government/collections/cru
補償回収部(CRU)は、以下を回収するために、保険会社、弁護士及び労働年金省の顧客らと協力している。
・補償支払いがなされている場合に、事故、傷害または疾病の結果として支払った社会保障給付の総額(補償回収制度)
・交通事故による傷害から生じた治療のためにNHS病院及び救急搬送トラストが被った費用及び人身傷害請求(NHS料金回収)
補償請求を受けた補償者は、14日以内に登録するためにCRUにCRU1様式を送付しなければならない。請求の登録は、事故、傷害または疾病の責任を認めたことを意味するものではない。

労働年金省「労働災害障害給付:技術的手引」から、給付の内容をかいつまんで紹介しておこう。給付等の額は2016年4月時点のものである。
https://www.gov.uk/government/publications/industrial-injuries-disablement-benefits-technical-guidance

労働災害障害給付(IIDB)

請求の時期
規定疾病に罹患したと考える日またはその日以降のいかなる時点でも請求をすることができる。
何らかの関係する医学的証拠をもっている場合には、請求様式にそれを付けて送付すること。しかし、新鮮な報告の入手に努めることにより、請求を遅らせないこと。
請求を遅らせないこと。遅らせれば、いくらかの給付を失うことになるかもしれない。労働災害障害給付は、以下については支払うことができないからである。
・請求日の3か月よりも前の期間
・他の災害または疾病についてすでに労働災害障害給付を受け取っている場合には、請求日の1か月よりも前の期間

迅速処理案件
規定疾病D3[中皮腫]及び末期症状にある他のすべての疾病については、迅速処理案件として取り扱われる。これらの案件は常に優先される。

能力損失とは何か?
身体的または精神的能力の損失とは、身体のある器官の力または昨日の損失を言う。能力の損失には、それがいかなる身体的障害を引き越していないとしても、醜状を含め得る。能力の損失が障害をもたらしているかどうかは、疾病の結果としての状態の、同年齢及び同性の通常の健康な者の状態との比較によって決定される。

発病日とは何か?
発病日とは、疾病による能力の損失を最初に被った日である。発病日は、給付が実際に払われるようになる日よりも早いかもしれない。これは、給付が払われるようになる日、請求期限その他の条件によって規定されるからである。

請求に対する決定
決定は、身体的または精神的状態のみを考慮して決定され、働く能力があるかどうかとは関係していない。それは、復職しているか否かにかかわらず支払われ、所得には左右されない。
※障害の評価レベルに応じた給付額は、表13のとおりである。表13は、円換算値、また週額を月額(=30/7)に換算した額も表示しているが、換算レートは1ポンド=146円である。以下同じ。
しかし、所得の損失その他の状況は、本手引きで後述するひとつまたは複数の他の給付を受けることができることを意味するかもしれない。

給付の支払い
支給される給付の額は、疾病によっていかに悪く障害を負ったかによって左右される。
労働災害障害給付は、疾病の発症日から最初の15週間(日曜日を含まずに90日間)については支払われない。
これの例外は、請求様式をDWPの事務所が受け付けた日からしか支払いがなされない職業性難聴の請求と、疾病により最初に障害を被った日から、ただし請求日の3か月よりも前ではない日から支払いがなされるびまん性中皮腫とアスベスト関連肺がんの請求の場合である。
通常、障害が14%未満の場合には、給付は受けられない。

特定の疾病についてのルール
(じん肺及び綿肺)
呼吸器疾患じん肺、綿肺については、障害が少なくとも1%と評価されれば、給付を受けることができる。
(びまん性中皮腫)
呼吸器疾患びまん性中皮腫については、障害は100%であると評価される。
(アスベスト関連肺がん)
呼吸器疾患アスベスト関連肺がんについては、障害は100%であると評価される。

労働災害障害給付の他の給付に対する影響
基本的な労働災害障害給付は、以下のような何らかの他の国民保険給付には影響を及ぼさない。
・就業不能給付
・雇用及び支援手当(拠出基準)
・拠出基準求職者手当
・退職年金
しかし、労働災害障害給付は、以下のような罹患者またはその配偶者が受ける収入関連給付には影響を及ぼすかもしれない。
・収入援助
・雇用及び支援手当(収入関連)
・収入関連求職者手当
・年金クレジット
・住居手当
・就労税額控除
・児童税額控除
・ユニバーサル・クレジット

常時付添手当
傷害または疾病の結果として、常時介護や配慮を必要としている場合には、常時付添手当(CAA)が支払われ得る。
以下に該当する場合には、CAAを受給できる。
・生活の必要のために付添に頼っている
・関係する能力の喪失の結果と付添を必要としており、かつ、付添は長期間必要である
CAAは、通常の家事労働の援助または同様の家庭的目的の援助のために支払われず、また、たんに衣服の着脱の援助のためには支払われない。
CAAの受給資格があるためには、日常的に援助が必要であり、かつ、長期間必要としそうであることを示さなければならない。日常的に援助が必要なことを示さなければならないものの、付添が一日中通して必要でなければならないわけではなく、実際には付添を受けないかもしれない。
付添は有料で提供される必要があるわけではなく、付添が身内によって提供される場合であってもCAAは支払われる。CAAが考慮されるには、労働災害障害給付が100%の率で支払われ得るものでなければならない。
いくらの給付を受けるかは、どれくらいの世話を必要としているかによって左右される。(表13)
必要とする付添の量に応じて、4つの額のCAAがある。
・パートタイム
・通常最高額
・中度額
・例外額

超重度障害手当
これは、超重度の障害を負い、すでに中度または例外の額でCAAの受給資格があり、付添の必要が永久になりそうな場合の、追加手当である。
別途請求をする必要はない。CAAと同時に受給資格が検討される。

所得減少手当
所得減少手当(REA)は、労働災害障害給付とは別の給付である。独自にまたは労働災害障害給付に加えて支払われ得る。REAは、1986年10月1日に導入され、特別困難手当(SHA)に置き換わった。

退職手当
退職手当(RA)は、REAが少なくとも週当たり2ポンドで、通常雇用に就いていない場合には、国民年金年齢に達したときにREAに置き換わる。
REAが週当たり2ポンド未満しか支払われておらず、通常雇用に就いていない場合に、国民年金年齢に達したときには、REAまたはRAのいずれかの受給資格がある。
通常雇用とは、労働契約のもとで、連続する5集以上にわたって、週平均10時間以上労働することを意味する。
国民年金年齢に達したときに、通常雇用に就いている場合には、通常雇用に残っている限りREAを受給し続ける。いったん通常雇用をやめると、REAが週2ポンド超支払われるべきことを条件に、RAの受給資格はRAの受給資格によって置き換わる。
RAは、請求をする必要はない。
RAは一生支払われる。
RAの週額は、以下の低い方の額である。
・最後に受給資格のあったREAの週額の25%
・100%労働災害障害給付の額の10%

雇用不能補助
1987年4月6日から、労働災害障害給付の増額に伴って、雇用不能補助(UNSUPP)は廃止された。1987年4月6日時点で雇用不能補助を受給していた者は、給付の基準を満たしていることを条件に、受給し続けることが許される。

労働年金省「労働災害障害給付:技術的手引」には以上の給付以外は解説が与えられていないのだが、「労働災害障害給付の他の給付に対する影響」について説明し、また、前出の「アスベスト関連疾患:労働年金省からの給付」が、「アスベスト関連疾患罹患者または罹患者が死亡している場合にはその被扶養家族にとくに関わりがありそうな給付」を掲げていたように、上記以外の社会保障給付も関係してくる。ここでは、給付額を含めたそれらの解説については割愛させていただく。

上積み補償制度の給付額

すでに概説した労働災害障害給付(IIDB)制度以外の制度のうち、1979年じん肺等(労災補償)法(1979PWCA)と2014年びまん性中皮腫支払制度(2014DMPS)は、明確にIIDBに対する上積み補償制度として位置付けられる。2008年びまん性中皮腫制度(2008DMP)は、IIDB受給者ではない者を対象にしているが、IIDB以外の社会保障給付に対する上積み補償という性格は有しており、これら3つの制度は社会保障給付に上積みする一時金を支給する制度と理解されているようだ。

各々の具体的給付額等は、以下のとおりである。
なお、社会保障給付の回収については、疾病別ないしIIDBに関する内訳データはみつけられていない。社会保障給付-CRU全体では、2015/16年度に981,324件(うち使用者86,495件)、合計額125,758,675ポンド(うち使用者69,766,631ポンド)。

2008年びまん性中皮腫制度(2008DMP)
給付額は、罹患者の場合、年齢及び関連する期間の障害のパーセンテージ評価(10%ごとの区分)ごとによって定められており、現在の91~100%区分の給付額は表14のとおりである。被扶養家族の場合、罹患者が亡くなる前の最後の誕生日の年齢に応じて、給付額は表14のとおり。
実績は、表15のとおりである。

罹患者でみると、給付額は1,277万円(37歳以上)~198万円(77歳以上)、実績では2015年410件、平均給付額279万円、回収率は52.4%となっている。

1979年じん肺等(労災補償)法(1979PWCA)
給付額は、罹患者の場合は診断時の年齢、被扶養家族の場合は亡くなった罹患者の死亡時の年齢に応じて、各々表14のとおり。
実績は、表16のとおりである。
罹患者でみると、給付額は、1,249万円(37歳以上)~194万円(77歳以上)、実績では2015年3,270件、平均給付額182万円、回収率は51.8%となっている。この制度は、中皮腫以外の粉じん関連疾患も対象にしているが、中皮腫に限定したデータは見当たらない。

2014年びまん性中皮腫支払制度(2014DMPS)
給付額は、罹患者の場合は診断時の年齢、被扶養家族の場合は亡くなった罹患者の死亡時の年齢に応じて、各々表14のとおり。
実績は、表17のとおりである。

給付額は、罹患者の場合は3,167万円(40歳以上)~1,017万円(90歳以上)、実績では2015年375件、平均給付額1,897万円となっている。

中皮腫の民事損害賠償

こうしてみてくると、以上の諸制度以外に、民事損害賠償の状況も確認しておく必要性を感じるだろう。

関連する情報として、2014年1月9日に国立経済研究所(NIESR)による「中皮腫事例の平均民事補償額調査」が公表されている。
https://www.gov.uk/government/publications/study-into-average-civil-compensation-in-mesothelioma-cases-rr858

報告書の「ブリテンについての主な調査結果」の内容は、以下のとおりである。

多数の「平均」計算方法が用いられた。それらの方法を用いて:
・平均裁定補償額は137,000~153,531ポンド
※図4は、最低・最高各5%ずつを除いた分の分布である。最高は1億円を超すとのこと。

・平均訴訟費用は22,000~28,407ポンド
裁定補償額と訴訟費用は、個人と事例の特徴によって多様であった。多数の特徴を考慮に入れた回帰分析を用いて、裁定の規模は:
・年齢とともに減少(平均で1歳ごとに3,500ポンド)
・2007年から2012年にかけて増加(平均で17,900ポンド)
・イングラント・ウェールズよりもスコットランドの方が高い(平均で53,500ポンド)
・訴訟手続が発行された方が高い(平均で8,300ポンド)
・解決時に生存していた方が高い(平均で10,900ポンド)
裁定の規模と事件の長さは関係しているようには見えなかった。

訴訟費用に関して、回帰分析の結果は、訴訟費用が:
・補償額100ポンド増につき平均で4ポンド高い
・年齢の高い原告の方が低い(平均で1歳ごとに11ポンド)
・2008年以降になされた請求の方が高い(平均で、年によって2,400~3,100ポンド)
・スコットランドの方が低い(平均で18,400ポンド)
・訴訟手続が発行された方が高い(平均で8,300ポンド)
・事件の長さにつれて上昇、6か月ごと2年後に急に上昇
・裁定時に原告が亡くなっていた場合高い(平均で2,000ポンド)

本調査は以下を対象としたものである。
・民間部門における解決した使用者責任訴訟(政府、地方当局、NHS[国民医療制度]及び不詳事例は除く)
・2007年1月1日から2012年12月31日までに解決したものとして
他の補償制度による「特殊」事例(すなわち、「ターナー・アンド・ニューオール」事例や金融サービス保証機構の管轄下に入ったもの)は除外。合計4,216事件がこれら3つの基準(民間責任、解決時期及び特殊事例除外)に合致。
※2007~2012年の6年間に、公共部門や「特殊」事例等を除いて4,216件の解決事例が確認されており、年平均では約700件ということになる。

補償回収部*[CRU:Compensation Recovery Unit]の事件登録から、本調査に含めるために3.477件のサンプルを選択。 各登録者により登録された事件数は、1件から数百件と多様で、分布は少数の組織に大きく偏っている。
・各登録者の負担を最小にするために、1登録者当たり求められる事件数は300件を上限とした(登録数が300件を越えていたのは3組織で、スコットランドの事例と請求時に原告が65歳未満の事例は全例300件に含め、残りの件数はランダムに抽出された)。
・調査の費用対効果を高めるために、最低でも5件を登録した登録者に限定。この結果、登録された事件の3.2%が除外された。わずかな件数しか扱っていない登録者が、他の登録者とは異なる事件を扱っている可能性はある**。

しかし、これらの登録者は合計でもわずかな件数しか占めていないことから、その除外は、補償レベルの推計に無視できるほどの影響しかもたないだろう。
それらの事件をCRUに登録した組織(「登録者」)は、選択された事件についての詳細情報を提供するよう求められ、結果的に43組織(主として保険会社と被告側弁護士)と連絡を取った。
調査を説明し、回答受領の手はずをするために選択された組織と連絡を取った。英国保険協会が、メンバーが代表らに調査に協力するよう勧奨し、また、代表組織における適切な連絡先の紹介を通じて、大きな援助を提供した。
守秘義務に対する関心から、各組織において質問を受け取る担当者一人を確認した。それから質問をメール送信するとともに、受領が確認されるまで電話による連絡を維持。回答者は、回答を返す前に、独自の事件参照番号を削除するよう指示された。
調査は、2013年1月22日から2013年3月8日に実施された。回答者を手助けするためにヘルプラインを維持。回答者は当初、2週間おきにリマインダーを受け取った。加えて、回答を返すか、または参加を取りやめるまで、さらにリマインダーを受けとった。

合計して、支払われた補償総額及び/または訴訟費用総額のいずれかについて2,334件(サンプル合計の67%)が回答があった。サンプル対象となった43組織のうちの25組織が参加した。

組織の種類/サンプル数/回答数/回答率
保険会社/1,239/1,015/82%
被告側弁護士/1,971/1,156/59%
使用者/24/0/0%
損害査定人/65/0/0%
不詳/178/163/92%
合計/3,477/2,334/67%

分析する前に、北アイルランド管轄事例(回答の記録による)は、(労働年金省及び司法省の制度の管轄外であることから)サンプルから除外され、その結果サンプル総数は2件減って、2,332件になった。また、(256件の回答事例を占める)2組織が回答をCRUデータと連結させる許可を与えなかった(1人の弁護士と「不詳」カテゴリー中の1人)。結果的に、これらのサンプルは回答とCRUデータを連結させる必要のある分析から除外された。したがって、連結分析に使用できたサンプル数は2,076件であった。

調査結果をより全事例を代表したものとなるようにするために、サンプル抽出方法と回答を考慮に入れて、データは調整(「重み付け」)された。
重み付けは、以下からなる。
・3つの大組織についての上限及びスコットランドと65歳未満の課題抽出を反映するための、選択可能性の重み
・無回答の重み:事例は解決年ごとに重み付けされた。(事例の総数が異なることから)支払われた補償総額及び訴訟費用総額の分析には別の重みが適用された。
・回答とCRUデータの連結の許可を与えなかった組織を考慮に入れるために、別の重みが組み立てられた。全体状況を分析するだけの重み(全事例を対象)及びCRUデータから導き出されたサブグループを分析するための重み(許可を与えられなかったものを除外)である。
すべての結果は、適切な重みで重み付けされた。

*CRUは労働年金省の部局。事件の解決を待って、被告から、社会保障給付及び一時金給付を回収している。中皮腫事件はすべてCRUに登録されなければならない。登録は、被告(通常は保険会社または使用者)またはその代理人(通常は法律事務所)によってなされる。しかし、CRUは、補償額に関するデータは保有していない。
**調査対象となった何人かの関係者は、わずかな件数の登録者はホワイトカラーの被害者を扱い、相対的に高い補償を受けている可能性がありそうだと示唆した。しかし、サンプルの3%では、平均補償額の推計に対する影響は無視できるだろう。

他制度による「特殊」事例

最後に、上記報告書で、「他の補償制度による『特殊』事例」としてあげられている「ターナー・アンド・ニューオール」について紹介しておこう。

ターナー&ニューオール・イギリス・アスベスト信託基金
http://www.asbestosis-compensation.co.uk/news/turner-newall-scheme.html
ターナー&ニューオールは、1871年にターナー・ブラザーズとして事業を開始し、1879年、動力機械を使って石綿布を織る最初の会社になったときに、ターナー・ブラザーズ・アスベスト・カンパニーに名称を変更した。
1920年に他の3つの会社と吸収合併されて、ターナー&ニューオールになった。
歴史的にターナー&ニューオール・グループ内のたくさんの会社が、アスベストの使用、製造、流通、販売及び設置に関わった。ターナー&ニューオール・グループによってアスベストに曝露させられた数多くの人々がアスベスト関連疾患に罹患した。
とりわけアメリカにおける、このような疾病から生じた訴訟が増加した結果、2001年10月1日に、T&Nグループ内の多くの会社がイギリスとアメリカで破産手続きに追い込まれるに至った。
イギリスで同社のために指名された管財人は、ターナー&ニューオール・グループ内の一定の会社に対するイギリスにおけるアスベスト関連請求に対処するための一定の制度を導入した。

アスベスト関連請求者に補償を支払うために、二つの主要な基金が設立されている。
・イギリス[UK]アスベスト信託基金
・使用者責任[EL]制度信託基金

ターナー&ニューオール・グループが破産しているために、完全には補償を支払うことができない。
UKアスベスト信託基金は、ターナー&ニューオール・リミテッド及び一定の他の会社との関連で、会社任意整理手続[CVA:Company Voluntary Arrangements]のもとで設置された(CVA会社)。
EL制度信託基金は、いくつかの和議手続[Schemes of Arrangement]のもとで設置されている(EL制度会社)。
EL制度会社とCVA会社は、投票権のある者らによって承認された。

安全センター情報2017年8月号

※アスベスと被害者の全国連携に学ぶ-マンチェスターでの日英+国際交流会と5都市でのアクション・メゾテリオーマ・デー(AMD)イベントに参加(2017年)
※イギリスのアスベスト被害者支援団体とアクション・メゾテリオーマ憲章(2017年)
※イギリスの石綿被害と補償・救済のアプローチ-中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会イギリス訪問団参考資料(2017年)【本稿】
※中皮腫のジェンダー経験調査(GEMS)/イギリス:メゾテリオーマUK(2020.11)