中皮腫のジェンダー経験調査(GEMS)/イギリス:メゾテリオーマUK(2020.11)
目次
- 要 旨
- 1. はじめに
- 2. 背 景
- 3. 方法及び分析
- 4. 主要な知見と実践のための意味合い
- 主要な知見①-男性についてのハイリスクな職業は、女性についてのハイリスクな職業と異なっていた。
- 主要な知見②-すべての年齢の女性と相対的に若い男性は、アスベスト曝露の危険性についての認識を欠いていた。
- 主要な知見③-診断の時点で提供された説明及び支援の経験について、ジェンダー差が存在していた。
- 主要な知見④-家族及び社会における男女の役割の差が、中皮腫の診断に対処する仕方に影響を与えていた。
- 主要な知見⑤-診断後の治療及びケアの経験については、著しいジェンダー差は報告されなかった。
- 主要な知見⑥-中皮腫の経路に沿って専門家とのコミュニケーションの取り方が、男女で違っていた。
- 主要な知見⑦-希望する支援の種類の優先順位は、男女でいくらかの差を示した。
- 主要な知見⑧-男女の家族的及び社会的期待が、民事補償を追求する彼らの意欲に影響を与えていた。
- 結 論
要 旨
本報告の目的は、中皮腫のジェンダー経験調査(GEMS)の知見と実践のための意味合いを要約することである。GEMSは、中皮腫の予後・研究・経験(MORE)調査、HASAG、及び個人・団体へのインタビューから得られたデータを用いた。
データを照合することによって、主要な知見と実践のための意味合いを導き出した。
本報告は、中皮腫のジェンダー経験に関する8つの主要な知見を示している。各知見は、中皮腫とともに生きる男女と関わって働く医療その他の実践者を援助する、実践のための意味合いを持っている。
いくつかの実践のための意味合いが示された。実践のための意味合いが確認された、3つの領域があった。それらは、アスベストの危険性の認識の改善、ジェンダー差があると考えられる支援・情報の提供、及び、男女にとって給付/補償を追求・受給するうえでの障害の探求、に焦点を当てたものであった。
本調査は、シェフィールド大学看護助産学校の中皮腫患者経験研究グループによって実施された。チームは、中皮腫経験及びジェンダー研究の専門知識を有している。
主要な知見は、以下のとおり報告された。
主要な知見①-男性についてのハイリスクな職業は、女性についてのハイリスクな職業と異なっていた。
主要な知見②-すべての年齢の女性と相対的に若い男性は、アスベスト曝露の危険性についての認識を欠いていた。
主要な知見③-診断の時点で提供された説明及び支援の経験について、ジェンダー差が存在していた。
主要な知見④-家族及び社会における男女の役割の差が、中皮腫の診断に対処する仕方に影響を与えていた。
主要な知見⑤-診断後の治療及びケアの経験については、著しいジェンダー差は報告されなかった。
主要な知見⑥-中皮腫の経路に沿って専門家とのコミュニケーションの取り方が、男女で違っていた。
主要な知見⑦-希望する支援の種類の優先順位は、男女でいくらかの差を示した。
主要な知見⑧-男女の家族的及び社会的期待が、民事補償を追求する彼らの意欲に影響を与えていた。
1. はじめに
本報告は、中皮腫のジェンダー経験調査(GEMS)の概要を示している。背景では、本調査が実施された事情の要約を提供する。続いて、定量的及び定性的方法を簡単に記述する。それから、8つの主要な知見について、それらの実践のための意味合いを合わせて、検討する。
GEMSは、シェフィールド大学看護助産学校の研究チームによって実施された。メゾテリオーマUKから資金提供を受けた。
2. 背 景
中皮腫
中皮腫は、アスベストへの曝露や吸入の結果生じる、侵襲性の強いがんである。発症率は、アスベスト採掘や廃棄物処理・建設業など、一定の職業グループで高い。それらは、伝統的に男性の雇用率の高かった産業・職業である。中皮腫の発症率は国内また国によって多様である。イギリスは年に約2,700件の新たな診断があり、国際的にもっとも高い国のひとつである。中皮腫の発症率は減少する兆候をまったく見せていない。いくつかの国ではデータの捕捉が乏しいために、世界的な発症率・負荷は過少報告されていそうである。先進国ではアスベスト使用が劇的に減っているものの、インド、中国、ロシアやいくつかの開発途上国では大量のアスベストがいまなお使用されている。
中皮腫は、主として胸膜の病気(イギリスでは89%)であるが、それほど多くはないが、腹膜(イギリスでは3%)または精巣その他詳細不明の部位(イギリスでは8%)にも生じうる。しかし、腹膜中皮腫は診断が難しいことに注意する必要がある。腹膜中皮腫が中皮腫診断の30%を占めるかもしれないと報告している情報源もある。
中皮腫は男性でより一般的で、83%が男性で生じ、17%が女性である。これは、2017年に男性2,223人と女性256人が中皮腫と診断されていることと一致する。中皮腫の潜伏期間は30年から50年の幅があり、平均は40年である。曝露から診断まで10年またはそれ未満のこともあるが、これは一般的ではない。
中皮腫は治らないがんである。中皮腫と診断された人のほぼ60%が、病気にかかっていることを知ってから1年以内に亡くなる。しかし、治療と治験の数は増えつつある。過去12年間に新しい根治的外科手術が行われるようになり、新薬による治療が開発され、放射線治療技術も進化しつつある。これらすべてがよりよい患者の転帰を提供しようとしている。加えて、trapped lungや悪性胸水(MPE)など、悪性胸膜中皮腫の影響をよりよく管理する新たな手段もある。新薬、外科手術及び放射線技術は、生活の長さと質に関して見込みを与えている。これらの治療介入が実践に移されはじめていることから、適格であるすべての者がそれらにアクセスできることが重要である。それゆえ、潜在的不平等を回避するために、ジェンダーに基づくものを含めて、新たな治療法へのアクセス及び理解に影響を及ぼすあらゆる要因を探求する必要がある。
性、ジェンダーと中皮腫
がんの疫学における性差は広く受け入れられている。男性のほうがよりがんで死亡する傾向があり、この性差が遺伝子/分子レベルやエストロゲンなどの性ホルモンの規制に起因することもしばしばある。肺がんでは、女性のほうがタバコの煙により敏感であるものの、女性のほうが一般にあまり進んでいない肺がんを診断され、また、予後や生存が相対的によいことが指摘されている。
とりわけ中皮腫に関しては、発症率と有病率に関するものを除いて、性差・ジェンダー差に関する研究はわずかしか行われてこなかった。以前の研究は、治療率と生存率における男女の差も示している。しかし、中皮腫とともに生きる経験のいくつかの側面が、男女の間で異なるかもしれないことを示唆する証拠がある。
例えば、最近のある研究は、中皮腫と診断された女性は、手術または化学療法を受ける可能性が低いかもしれないことを確認している。この相違に寄与している要因はわかっておらず、中皮腫の進行に沿った治療とケアの経験についてのさらなる説明が求められている。受ける治療の違いの可能性にもかかわらず、年齢、ステージ及び人種を考慮に入れた場合であっても、女性のほうがはるかに高い生存率をもつことが示されてきた。この後者の研究は、アスベスト曝露と腫瘍生物学における差がすべて、そうした生存統計を生み出すうえで役割を果たしている可能性があることを示唆している。明らかに、中皮腫は、男性でより悪性であり、胸壁、心膜、縦隔及び隔膜に対してより侵襲的であり、またより転移することを示してきた。文献で強調されてきたもうひとつの差は、喫煙曝露と肺がんに対する女性のはるかに大きい感受性と同様に、アスベスト曝露と中皮腫との関係で女性がより急勾配の量-反応カーブをもつことで、ここでもはるかに大きい感受性を示唆している。
証拠はまた、1990年代の初め以来、女性の中皮腫発症率が2倍(97%)になり、男性の率は約0.5倍(51%)増加したことを示している。男女についての発症率のこの差は、ジェンダーの観点から中皮腫とともに生きる経験を探求するもうひとつのモチベーションである。
臨床及び法律専門家の経験も、病気、リスク及び曝露に関する認識、提示と診断、治療・補償へのアクセス及び法的手続きに関して、中皮腫をみるのに女性は男性と違う経験をしているかもしれないことを示している。Asbesotos.comなどのアスベスト・ウエブサイトは、上に挙げた分野において、女性の経験は違うかもしれないことを示唆している。議論や逸話が、中皮腫をかかえた女性は、以下であるかもしれないという関心を生み出してきた。
・自らの曝露やリスクに気づいている可能性が相対的に低いかもしれない。
・明確な職業リンクをもっている可能性が相対的に低いかもしれない。
・迅速に早い段階で診断される可能性が相対的に低いかもしれない。
・自らの職業または環境曝露よりも、例えば男性の家族の作業衣からなど、傍職業を通じて彼らは曝露したという、遭遇仮説。
・処理される補償請求を行う可能性が相対的に低いかもしれない。
こうした仮説や見解を探求する研究はこれまで少なかった。
中皮腫のジェンダー経験調査(GEMS)は、医療、社会福祉や法的実践のための意味合いを確認するために、中皮腫のジェンダー経験に関する証拠と理解を生み出すことを目的にした。
3. 方法及び分析
GEMSは、中皮腫とともに生きる男女についての理解と支援のニーズを探求する、混合研究法による調査である。このセクションでは、最初に定量的方法・分析を示し、定性的方法・分析がそれに続く。調査を開始する前に、データ共有の同意と研究倫理の承認が行われた。
3.1 定量的方法・分析
2つの情報源からのデータの分析が示される。情報源は、あるイギリスのアスベスト支援グループ(ASG)からサービスを受けた相談者の全国データセットと、メソテリオーマUKが資金提供した中皮腫の予後・研究・経験(MORE)調査である。SPSSを用いて記述統計分析が実施される。知見は以下に要約される。これは全体像を提供するものではないが、これらの知見は、次の定性的作業のための重要なコンテキストを提供する。
HASAGデータベース
HASAGは、サウサンプトンを本拠とするアスベスト支援グループ(ASG)である。中皮腫をかかえた人々とのその家族に支援と助言を提供している。HASAGの相談者は主としてイングランドの南部と東南部を基礎にしているが、イギリスのどこからでも相談を受け付けている。
HASAGは、定期的に中皮腫と診断された男女のデータを収集している。ここで検討したデータは、2016年1月から2018年12月の間に収集されたものである。われわれは分析のためにHASAGから匿名化されたデータを入手した。合計で1,177件の中皮腫症例があった(971件/82.5%が男性、206件/17.5%が女性だった)。データベースには非常に若い女性がより多く含まれている(50歳未満)。女性の5%(n=10)が50歳未満だったのに対して、男性は0.5%(n=5)だった。
中皮腫の予後・研究・経験(MORE)調査
MORE調査はメゾテリオーマUKによって2019年に実施された。MOREは、イギリスを基礎にした観察的前向き横断調査であり、中皮腫の経験、健康に関連した生活の質及び現在の臨床管理に関して、直接患者からデータを収集した。募集は、ウエブサイト経由でメゾテリオーマUK、社会的ネットワーク団体/リンク及び専門看護士ネットワークによって行われた。参加者はオンライン調査を完了させ、医学的事項はその後専門看護士によって確認された。
503人の患者から完了回答を受け取り、97人(19.4%)が女性、403人(80.6%)が男性だった。われわれは分析のために匿名化されたMOREデータを入手した。
3.2 定性的方法・分析
このセクションでは、どのようにGEMSの定性的、インタビューに基づくコンポーネントが実施されたかにの詳細を提供する。これには、参加者がどのように募集されたか、誰が参加したか、どのようにデータが収集及び分析されたかが含まれる。
募集
メゾテリオーマUKとASGsを通じて、GEMSに参加する呼びかけが配布された。情報はメゾテリオーマUKによってそのニューズレターとソーシャルメディアを使って配布された。人々は参加に興味があればメゾテリオーマUKインフォーメーションラインに連絡するよう求められた。連絡をした場合、インフォーメンションラインのスタッフが調査にについて説明した。彼らは参加に興味があった場合にはその後研究チームと連絡をとった。加えて、ASGsの積極的なスタッフが中皮腫とともに生きる男女に調査について説明して、当該者が参加に興味があった場合にはその後研究チームと連絡をとった。1枚の情報シートと1枚の同意書が、郵便またはEメールで検討のために当該者に送られた。
データ収集
入手可能な文献及び研究グループが以前実施した調査の知見から、インタビューのトピックガイドを導き出した。プロジェクトの助言グループもトピックガイドの開発を支援した。トピックには、中皮腫の旅程を通じた経験はもちろん、参加者の職業歴も含まれた(完全なトピックガイドは付録1[省略]でみることができる)。
2019年7月から12月の間に半構造化インタビューが実施された。インタビューの前に同意書が入手及び確認された。インタビューは31~113分かかり、録音された。すべてのインタビューは電話で行われた。電話を使ったインタビューは、人々がイギリス中から参加するのを可能にした。この方法はまた、インタビューにより便利さを提供するとともに、負担を少なくした。
サンプル
最終インタビューサンプルは11人の女性と13人の男性からなった。3人の女性と2人の男性は腹膜中皮腫とともに生きていた。残りの参加者は胸膜中皮腫とともに生きていた。参加者の希望に基づいて、3件のインタビューは家族の付き添いのもとに行われた。
参加者の年齢は31歳から89歳の幅だった(女性31~89歳、男性44~77歳)。診断からの時間は5か月から10年の幅だった。匿名性を保つために患者に言及するときは、仮名が用いられた。
データ分析
匿名化したインタビューの記録がQUIRKOS(定性的分析ソフトウエアパッケージ)にアップロードされた。QUIRKOSはデータを管理及び検索するために用いた。6つの分析段階-データへの精通、初期コードの生成、テーマの検索、テーマのレビュー、テーマの定義・ネーミング、報告の作成-を通じて系統的かつ厳密な進行を確保するために、主題(テーマ)分析方法が用いられた。
データは研究チームによって分析された。データのコード化及びカテゴリー化は一定間隔ごとに議論され、研究チームのメンバーの間で合意が図られた。浮かび上がってきたテーマはまた、中皮腫看護専門家を含んだフォーカスグループ、3人の主要関係者(中皮腫で亡くなった女性の2人の娘と1人の事務弁護士)との会合及び助言グループの会合においても検討及び検証された。
4. 主要な知見と実践のための意味合い
このセクションでは、8つの主要な知見を示す。定量的データと定性的データの間には重要な重複があり、それゆえこのセクションのなかで統合されている。いくつかの知見は相対的に、別のものよりもひとつのデータ情報源に依拠している。にもかかわらず、それらは集合的に、中皮腫のジェンダー経験に関してデータから浮かび上がってきたもっとも重要な諸問題を示している。引用はすべて仮名を用いて、匿名化されている。
主要な知見①-男性についてのハイリスクな職業は、女性についてのハイリスクな職業と異なっていた。
HASAGデータとインタビュー記録の分析から、女性がアスベストに曝露した職業のリストは男性のものと異なるというしるしがある。男性は、アスベストを直接手で取り扱うことから、建設関連の職業でもっとも多く曝露していた(表2参照)。知見は、女性については、労働における曝露は、アスベストを直接手で取り扱うことよりも、労働環境ともっとも多く関係し、もっとも多い職業は管理の職業、例えば事務所作業だった。
インタビューデータもアスベストへの職業曝露におけるこうした相違を指摘した。インタビューした4人の女性は秘書で、他の者は管理的役割で働いていた。労働環境がアスベストに曝露した場所だったのだろうかと尋ねた者もいた。
「学校での仕事が[私がアスベストに曝露した]場所かもしれないと言われた。私はいろいろな学校を移動した。」F3 Cath(秘書)
「私が働きはじめたとき、働いていた建物の隣で新しい事務所を建築していたので、おそらくそれがもっとも曝露源の可能性が高そうだと思っている。」F9 Irene(事務所労働者)
インタビューした他の女性については、傍職業曝露が一般にもっとも可能性のあるアスベスト曝露源と考えられた。しかし、当初は傍職業曝露が唯一のアスベスト曝露源だと考えられたが、後になって自らの仕事自体で曝露したかもしれないとわかった女性もいた。
「私はセッターだった。[…]バーナーの周りにはアスベストがあった。でもまったく知らず、自分ですべてに入っていたが、アスベストがあったことをに気が付いた。ただそれを見ていただけだった。それで、勝訴した裁判があった2年前まで、本当に知らなかった。『裁判例があるんだよ』と支援グループから聞かされて初めてわかった。」F1 Amy
この主要な知見は、女性については、男性とは別に、何がハイリスクな職業かが検討される必要性があることを強調している。また、職業歴を聴取する場合に、複数の、例えば傍職業と職業から曝露を検討することが有益かもしれないことも示唆している。
実践のための意味合い
・女性のアスベスト曝露が常に傍職業であると思いこまないこと。自らの労働環境を通じて慢性的に低レベルのアスベストに曝露していたかもしれない。これはとりわけ、働いていた建物(学校、病院、事務所)がアスベスト使用が多かった時期に建てられ、いま老朽化や減退が始まっている場合に当てはまる。これは、職業役割はもちろん、労働環境を評価した職業歴聞き取りの重要性を提起している。
・直接アスベストに関わって働いたことのない人にとって、勝訴した補償裁判例についての注意を喚起する。そうした裁判例について注意を喚起することは、中皮腫とともに生きる人々が補償を追求する際の選択肢をより探求しようと促進するかもしれない。
主要な知見②-すべての年齢の女性と相対的に若い男性は、アスベスト曝露の危険性についての認識を欠いていた。
知識や認識の欠如は、混乱や、ときには診断時の否認につながる。これは、事前にアスベスト関連疾患についての知識をもっていた参加者とは対照的に、何人かは診断に関する必然性の感覚について話した。知識及び事前にアスベスト関連疾患についての知識をもつことの欠如は、診断時における実践のための意味合いをもっている。
大いにアスベストに関わって働いた人または傍職業曝露を通じて(たいてい父または夫経由で)中皮腫に罹患した人は、診断より前にアスベストの危険性に関する知識をもっているかもしれない。認識は、ハイリスクな職業に就く者のための労働関連安全衛生教育に参加することを通じて、または愛する者や同僚がアスベスト関連疾患で亡くなったことから、もたらされるだろう。
「[夫が]アスベスト作業をしていたことだけは知っている。だからアスベストが[がんを]引き起こすことだけは知っていた…[夫は]造船所で働き、友人たちを皆愛していた。彼らは次第に一人、また一人とがん、思ったとおり肺がんで亡くなっていった。」F1 Amy
「私はそのうちの一人だったから、もし誰かが中皮腫にかかるとしたら、それは私か、実際にそこで働いていた他の誰かだった。」M6 Fred
これは、多くの女性や若い参加者とはまったく対照的で、労働でアスベストに関わっていなかったり、アスベスト関連産業で働いた者と一緒に暮らしたことのない者は、診断前に中皮腫について聞いたことはなかった。
「中皮腫と呼ばれる何かにかかったと言われたが、それが何なのかまったく知らなかった。」M11 Kevin(52歳)
「…疑問を感じたことはなかった、アスベストについて知らなかったということだ…中皮腫とは何なのか…それが長い間潜伏していたなど、信じられなかった。」F2 Belinda(81歳)
アスベスト関連疾患について多くの知識をもっている者は、中皮腫の診断がどのような意味をもつのかに関する予備知識を処理するのを助ける必要があるかもしれない。例えば、上記Amyからの引用に暗示されているように、利用できる治験がわずかしかなく、治療が奏功しなくなり、とりわけ結果が厳しくなったいつかの時点で、彼らの記憶はよみがえってくるかもしれない。逆に言えば、中皮腫やアスベスト関連疾患についての知識をもたないか、または知識がわずかな者は、診断とその潜在的意味合いを理解するために、より多くの情報と時間を必要とするかもしれない。
女性と若い男性の多くにとって、アスベストの危険性やそれがどこでみつかる可能性があるかについての認識は、診断された後にもたらされた。彼らの認識はしばしば、支援グループのメンバーはもちろん、医療・法律の専門家との話し合いの後に高められた。
「…私は実際、それ[アスベスト曝露と腹膜中皮腫]についてほとんど知らなかった…手術の後で私は患者グループに参加した…結局そこを通じてだったと思う、数か月して次第にアスベストが原因だった可能性があるという認識が生まれてきた。」F9 Irene
インタビュワー:「どこで曝露したかわかりますか?」
M12 Lenny:「いいえ」
インタビュワー:「何か疑っていることはありますか?」
M12 Lenny:「ありません。大学生のときガスメーターを読み取る仕事をしたことがあった。だから、そのことを言って、補償を請求することは可能だった。彼ら[弁護士]がそれを調べたけれど、証明することができなかった。」
「私は最初は本当にそれ[どこでアスベストに曝露したか]考えたことがなかった。しかし、長い間考えて、その[学校の建物改修工事が私がアスベストに曝露した場所だという]ことをかなり確信している。」F7 Irene
ほとんどの場合人々がアスベストがみつかる可能性がある場所(例えば建物)について気が付いていないとしたら、そのことは人々が、労働生活の間に気づかないまま接触することにつながる。これは、アスベストがどこで見つかる可能性があるか、それがどのように見えるか、見つかった場合に従うべき手順についての社会的認識を高める必要性があることを示唆している。この主要な知見は、診断時に必要な支援の種類はもちろん、中皮腫の予防のための意味合いをもっている。
実践のための意味合い
・たとえば中皮腫で亡くなった同僚/家族を通じて、事前に中皮腫の経験のあった患者は、精神的支援や最新の情報についてより大きな必要性があるかもしれない。現在は、かつて利用可能だったものよりも、中皮腫の治療、治験、症状管理や支援についてより多くの選択肢がある。事前に中皮腫の経験のあった患者は、何年も前の家族または同僚の経験についての思い込みをもっているかもしれない。ケアや治療の選択肢が改善されてきていることを、患者に保証することが重要である。
・事前に中皮腫の知識のなかった患者は、中皮腫の診断について理解するためにより多くの情報や時間を必要とするかもしれない。アスベスト関連疾患に関する知識なしには、中皮腫の診断を理解及び受け入れるのは困難かもしれない。女性または若い男性であることの多い、そうした患者に、質問をするための適切な情報と時間を与えることが不可欠である。
・職場におけるアスベストリスクについての認識を高めるリソースを開発する。これには、オンライン教育やアセスメントツールが含まれるかもしれない。使用者がリソースを活用するのを促進することも、実際の影響を確保するために重要である。
主要な知見③-診断の時点で提供された説明及び支援の経験について、ジェンダー差が存在していた。
MOREデータを使って3番目の主要な知見は、診断の時点をめぐる男女の経験にもいくらかの違いがあること示唆している。女性のほうが、診断の時点で、中皮腫についての説明が理解可能なやり方で与えられたと満足し、医師が彼らの状況について十分に知っていると思い、また、可能な最良のケアを提供するために一緒に働いている専門家のよい全体的経験を報告した場合が、相対的に少なかった。
1男目と2番目の主要な知見は、過去のアスベスト曝露について女性のほうが相対的に気づいていないかもしれず、また、直接アスベストを取り扱わない仕事で働いていた可能性が高いことを強調している。これらの要因は、女性がアスベスト、アスベスト関連疾患及びアスベストの危険性について相対的に少ない知識しかもたないことの原因になっているかもしれない。このことは、診断の時点で女性は、医療専門家からより多くの情報(及びそれゆえ時間)、またおそらく、事前にアスベストの経験をもった男性に対するのとは異なるやり方で伝えられる情報を必要としていることを意味しているかもしれない。
女性は、診断の経験に関してより多くの問題をかかえているだけでなく、診断の時点で援助してくれる近親者の援助がある場合も相対的に少ない。HASAGデータは、コホートのメンバーのうち、近親者の支援があると答えたのが、女性(75%)よりも男性(82.5%)で多かったことを示した。加えて、女性は配偶者/パートナーがいると答えたものが相対的に少なかった(46%対男性63%)。
診断した医師が彼らの状況について十分な知識があったかどうかなど、これらの相違のいくつかは、中皮腫の特定の種類を考慮した場合に、さらに著しくなる。腹膜中皮腫をかかえる女性の60%(対して男性は33%)が、診断をした医師が十分な知識を欠いていたと思った。
実践のための意味合い
・高齢の女性は中皮腫の旅路の間に彼らを支援してくれる近親者またはパートナーがいないかもしれないことに留意し、提供されるケア・支援のパッケージの中でこれに対処すること。
・診断について理解することについて、人々を支援するために十分な時間が確保されるようにすること。
・とりわけ診断が思いがけなかったり、患者が中皮腫やアスベストについての知識をもっていない場合に、診断を理解するために継続的な支援を必要とする患者もいる。
・相対的に多くの女性が中皮腫の説明が理解可能なやり方で与えられなかったと報告していることから、女性は診断を理解するためにより多くの時間と支援を必要としている可能性が相対的に高いという指摘がある。
主要な知見④-家族及び社会における男女の役割の差が、中皮腫の診断に対処する仕方に影響を与えていた。
家族の中での患者の役割が、中皮腫の旅路の間に患者にとって何が重要かについての指標を与える可能性がある。調査参加者について近親者との関係において、多くの家庭はまさに伝統的なジェンダー役割の割り当てをもっていた。これには、感情面のケアや家事の大部分をこなす女性や、金銭面のケアや日曜大工に責任をもつ男性が含まれる。男女双方について、そうした役割を果たすことで、一体感を維持することができた。しかし、家庭におけるジェンダー化された役割の影響にフラストレーションを表明する女性もいた。
「[父親は]いつもほこりだらけの衣服で家に帰ってきたから、身体の具合が悪かった母親のためによく洗濯をした。私たちは、裏口の外でほこりっぽい衣服を払い落としてから洗った…本当に大変な生活だったし、助けは得られなかった…両親を愛していたのに不謹慎だけど、彼らが亡くなるまでいかなる助けも得られなかった…彼らが亡くなって数年後にこれは終わった。それが思い出すたびに私を怒らせること。」F6 Fiona
参加者はまた、彼らが亡くなった後に誰がこうした役割を果たすのかについても心配した。こうした心配は、参加者が愛する人たちに違ったやり方で準備をさせていることを意味している。
「私はネットカーテンを外した。なぜならよく言ったから、男性はネットカーテンを洗わないと…あちこちにブラインドを設置した。」F1 Amy
「請求書の処理はすべて私がやっている、あなたがよければ、やれるかぎりは、家の中のことをなんでもする。銀行のこと、現金のこと、すべての請求書を彼女が処理できるように準備しはじめたところだ。」M4 Derek
病気のためにそうした役割をはたせなくなることは、患者の一体感に重要な影響を与えた。逆に言えば、可能な限りそうした役割を維持することが彼らの一体感を維持するとともに、そうでなければ不確実で破壊的な時期に目的と継続性を与えた。
患者のジェンダーに加えて、彼らの年齢、職業や生活状態も、中皮腫の診断に対処する方法に影響を及ぼした。例えば、統計に関わる仕事をしていたある女性は、落ち着くためには予後に関する定量的情報を必要とした。同様に、聖職者だったある男性にとって、教区民と過ごしたり、合唱コンクールやホールディングサービスなどの活動が、中皮腫の診断に対処するのを助けた。こうした参加者にとって、そうした役割をはたすことが、彼らの精神的ウエルビーイングに重要な目的感を与えた。
この意味で、患者のニーズを考慮する場合に重要なことは、ジェンダーの交差点やアイデンティティの他の側面であることも多い。
実践のための意味合い
・家族や社会の中での患者の役割と、中皮腫とともに生きる間にこれがいかに影響を及ぼし得るかを考慮する。こうした優先事項は、彼らの家族の将来に備えるために選択する方法や彼らが診断に対処するための援助の内容に影響を及ぼすかもしれない。
・患者の職業が、ケアのニーズに関する文脈的情報を提供するかもしれない。患者の職業はまた彼らのアイデンティティの重要な一部を形成しているかもしれない。したがって、彼らのこの役割を継続できるよう確保することが、中皮腫の診断に対処するのを助けるかもしれない。
主要な知見⑤-診断後の治療及びケアの経験については、著しいジェンダー差は報告されなかった。
はじめにで指摘したように、GEMSは、中皮腫とともに生きる男女の経験における(相違性はもちろんのこと)類似性に焦点を当てることを目的にしている。表4に示した定量的データによって強調されるこの主要な知見は、男女が受けた治療及びケアの間に見出された統計的に有意な違いはなかったことを示唆している。インタビューは、治療とケアに関連して著しい相違がなかったことから、この見方を支持しているようにみえる。参加者はまた、医療専門家が患者の個々のニーズに配慮した優れたケアを提供したいくつかの実例も提供した。
「NHSは素晴らしいと思っている…誰かが彼らが決定できない何かを示したときには、優れた様々な病院やセンターの専門部局の間で協議が行われているようだ。」M3 Callum
「彼は偉大だった。彼[コンサルタント]は、私が必要としている知識を尊重してくれたので、本当に好きだ。」F7 Grace
「…2人の専門家、彼[コンサルタント1]と彼[コンサルタント2]は私たちに十分な時間を与えてくれたので、ラッキーだった。」M12 Lenny
これは、全体的に治療とケアが、男女にかかわらず、患者に焦点をあてたもので、個々人のニーズを満たすようあつらえられたものであったことを示唆しており、ポジティブな知見である。
しかし、ここで指摘しておくべきいくつかの重要な点及び限界がある。第1に、治療とケアに関して指摘された相違は、統計的に有意なものではなかったものの、なお重要であるかもしれない。例えば、5%多い男性が呼吸管理の失敗を報告したことは、9%多い女性が咳の管理の失敗を報告したこととともに、臨床慣行に注意を喚起するのを正当化するかもしれない。第2に、直接ジェンダーと関連してはいないものの、(男女について)咳と疲労があまりうまく管理されていない症状のようにみえること、また、これが臨床慣行にとって重要であることを指摘しておくことは重要である。最後に、特定の種類の中皮腫を考慮した場合に、診断した医師が患者の状況について十分な知識をもっていたかどうかなど、いくつかの相違がより明瞭になる-腹膜中皮腫をかかえる女性の60%(男性の33%と比較して)が、診断した医師が十分な知識を欠いていたと考えていた。
「[診断時]彼は、これは私の専門ではない、これは私の専門ではない、と何度も言わなければならなかった。」(腹膜中皮腫とともに生きる)F4 Donna
実践のための意味合い
・医療専門家に、患者に焦点を当てた、個々のニーズに合わせたケアを提供し続けるよう奨励すること。
・咳と疲労の管理を改善する方法を追求すること。これは、すべての患者にとって有益かもしれない。
・腹膜中皮腫の治療を受けている人々が、状況について十分な知識をもつ医師と、診断について話す機会をもてるようにすること。
主要な知見⑥-中皮腫の経路に沿って専門家とのコミュニケーションの取り方が、男女で違っていた。
インタビューデータの分析で、専門家とのコミュニケーションにおける相違が見出された。こうしたコミュニケーションにおけるジェンダー差は、治療、治験や支援が議論及び要求される仕方に影響を及ぼす。
治療や治験に関する決定について表現するときに、男性の参加者は、より直接的な言葉を使うことが多く、決定に自信を持っているようにみえた。対照的に、女性は、治療や治験に関するコミュニケーションにおいて、よりためらいがちで不確実なようにみえた。
「息子が反対しなければ、私は彼らに化学療法を続けるよう話すだろうし、元気であり続け、自分の面倒を見るだろう。」M8 Ivan
「初めてだったかどうか…提案された化学療法を進めることを望んでいたかどうかはっきりしない。それについて考える時間がほしかった。」F3 Cath
上記の参加者は2人とも化学療法を決定したが、決定についての経験は違っていた。男性が治療の決定について話した自信と明確な方法は、心理的支援に関する話し合いについて話したときにははっきりしなかった。
「私はそれ[会話セラピー]をずっとしていた。前の週に…それが有用だとわかっていたかどうかはよくわからない。終了に向けて私は彼[セラピスト]に言った…なぜここにいて、何がここから抜け出すのか、まったくわからない。」M2 Ben
心理的支援の必要性に関する話し合いについて話す場合に、以下の女性のインタビューは、インタビューした男性たちよりもより率直であるようにみえた。
インタビュワー:「あなたは支援グループ…との機会を与えられた?」
F5 Edna:「いいえ、それは私が望んだのではなく、オファーされたの。」
こうした知見は、表明された決定やニーズが最終的なものだと思い込まないように注意すべきであることを示唆している。患者は、治療、治験や支援に関する決定を話し合っているときに、社会的に受け入れられるかを考慮しながら話しているのかもしれない。しかし、選択肢を熟考する検討と時間の後に、最初に表明した希望が変わるかもしれない。
実践のための意味合い
・患者の旅の全体を通じて情報と支援を提供することが、患者が自らのニーズを表明することを促進し、また、スタッフが時間とともに変わる患者のニーズを把握するのを助けるかもしれない。
・患者は、決定をする前に熟考する時間を必要とし、その後で医療専門家にそれを伝えるかもしれない。治療やケアの選択肢について話し合う機会をより多く患者に与えることも、オープンで率直なコミュニケーションを促進するかもしれない。
主要な知見⑦-希望する支援の種類の優先順位は、男女でいくらかの差を示した。
男女とも、個々人の支援のニーズに焦点を当てた人物中心のケアを高く評価した。支援を提供する人々が存在及び利用できることは、すべての参加者によって高く評価された。しかし、データは、支援の種類の好みに関して、大きく2つのグループに分かれた。女性は、話をし、聞いてもらえ、聞いてもらったと感じる機会のある支援を好むことを表明する場合が多かった。
「私は行った、正直に言うと、関わりがなく、私を知らない人、電話を置くことができる誰かににぶちまけるために、[チャリティのヘルプラインに]電話をかけただけ。」F4 Donna
対照的に、男性は、情報の提供、調理済み食糧をもらう、家事の支援を受けるといった、現実的支援を好むことを表明する傾向があった。
「…友人、家族、地元の教会から受けた支援のすべてが、素晴らしかった。どんな種類の援助も。人々の軍隊…80歳の人が私たちのアイロンをかけてくれた。人々は食事券を送ってくれた。素晴らしかった。」M12 Lenny
男女に、話をし、聞いてもらえ、情報を受領及び共有する機会を提供するうえで、ASGsが重要な役割を果たしていることを指摘しておくことが重要である。男性たちとのインタビューでは、言葉によらない支援が強調された。何人かの男性は、身近に人々がいることの重要性について話したが-中皮腫の影響について直接話す必要はない。これは、上述した、言葉で通じ合う支援に対する女性のニーズとは対照的だった。
「訪問したり[病院で]顔を合わせる相手について本当に注意深かった…訪問してくる特定の友人がいて、彼らは何も言わなくても、信じられないほど支えになり、よく理解して、親身になってくれる。私の大好きな特別な友人が一人いたが、彼女がすることは、見つめ、腕に手を置いて、さあ行こう、いい?私はそれは必要としていないし、望んでもいない。」M8 Ivan
支援についての人々の好みに関する知識は、適切な個人に合わせたケアを患者に提供するうえで、医療その他の専門家を助けることができる。
支援グループが患者に、中皮腫とともに生きる他の者と経験を共有し合う機会を提供した。治療、治験や補償について経験を共有しあった。彼らはまた男女双方の患者に、感情について話し合う機会も提供した。(上述した)現実的支援だけを求める男性についての一般的な見方とは対照的に、以下の実例は、以前は不可能と感じていたやり方で、感情を表明することをJudeに可能にした、男性のみの支援グループの重要性を強調している。
「私はとても内気な人間で心配を一人で抱え込んでいたが、金曜日の午後[がん支援]グループに行くようになったことが、恐れやかかえている問題についてもっと話すよう促した[…]違うことについて話すたびにかなり涙が出た。」M10 Jude
すべての参加者が支援グループに出席したわけではない。それが有益でないと感じた参加者もいた。しかし、例えば、オンライングループやフェイスブックなど、参加者が有益だとみつけた、他の支援源についての話があったことが多い。これは、適切な環境の幅広い支援の選択肢を提供することが有益かつ重要である可能性を示唆している。
実践のための意味合い
・人々が自分が適当と考える支援にアクセスできるようにするために、幅広い選択肢を提供すること。これには、単一性の支援グループや参加者数の少ない相対的に小さな支援グループが含まれるかもしれない。
・COVID-19以来のオンラインコミュニケーションへのうごきは、例えば、掲示板、小グループ、単一性グループ、ブレイクアウトルームなど、新しい創造的なやり方で支援を提供するとともに、提供される支援を評価する追加的な機会を意味しているかもしれない。
主要な知見⑧-男女の家族的及び社会的期待が、民事補償を追求する彼らの意欲に影響を与えていた。
HASAGデータによる知見は、労働災害障害給付を受け取り、民事補償を追求することに関して、男女の間に相違があることを示した。以下のことがわかった。
・男性の3%だけなのに対して、女性の11.6%が労働災害障害給付を受けていなかった。
・生存分析の結果、診断から労働災害障害給付を受けるまでの時間は、女性よりも男性について短かった(43日対47日)(p=0.01)。
・女性は、法的助言を追求する可能性が低く(女性の60%対男性の80%)、補償を受け取る可能性が低かった。
・女性は、法的助言を希望する可能性が男性よりも低かった(女性の35%対男性の18%が、法的助言を受けることに関心がないという考えを表明した)。
・こうした数字が検討された3年間の間に、どれだけの男女が実際に法的助言を求めに行ったかについて相違があった。この数字はとりわけ女性について、急速に落ちた。男性については、3年間の間に87%から75%に落ちた。女性については、70%から51%に落ちた。
法的助言を求め、また実際に法的助言を求める男性の数のほうが多いことは、家族の経済的安全に対する責任感と関係しているかもしれない。男性はまた、アスベスト曝露についてのハイリスク職業で働いていた場合には、補償を追求するよう勧められるかもしれない。このデータはまた、いくらかの男性は女性よりも、自分には請求権があると考える可能性が高いかもしれないことを示唆している。インタビューによる知見は、男性参加者は、家族に対する経済的責任感、また補償の資格があると感じることも多いことを示している。これは、彼らの職業を通じた中皮腫の認識と経験が多いことと関係しているかもしれない(知見②参照)。補償を追求することはそれゆえ、彼らにとって重要である。
「私はそれに値するし、それを手に入れるべきである。できる限り多くの額がほしい。私がそれを望む理由は、私はすでに十分手に入れているから自分で使うためではなく、私がここにいなくなったときに家族の必要が十分に満たされるようにするためだ。」M8 Ivan
対照的に、女性参加者は、民事補償の追求を抑止される可能性が相対的に高かった。これは社会的期待によるものと思われた。
家族に対する情緒的負担が、民事補償を追求する女性にとって抑止力として機能する可能性もある(補償を受けることが家族の経済的負担を和らげるかもしれないのにかかわらずである)。
「私は欲深いように見られたくない。」F4 Donna
「私は、たくさんの事柄をひっくり返そうと試みたり、調べたりするために弁護士に莫大な金を払いたくないし、実際には何も得ることはできない。」F4 Donna
「私は、それ[民事補償を追求すること]はとても辛辣で不快なことになる可能性があるとしか感じられない。」F9 Irene
上の引用は、補償を追求することは、あまりにも費用がかかり、時間を消費する、または、中皮腫とともに生きる経験を常よりも困難にするだろうと考えられていることを示唆している。
この主要な知見は、労働災害障害給付及び民事補償を追求及び受領する男女の数に相違が存在することを強調している。データは、この理由は複雑であるが、家族的責任、社会的感覚や補償を追求するプロセスが必要とすることに対する先入観が含まれるかもしれないことを示唆している。
実践のための意味合い
・中皮腫とともに生きる人々と話し合う場合、ASG専門家、弁護士や看護専門家は、個々人が補償を追求しようとしない理由を追求すべきである。
・費用への恐れや辛辣なプロセスは、民事請求訴訟の研究についての情報を提供することによって一掃させ得る。そうした懸念に対処するためのより多くの時間と支援を、サービス提供の中に組み込むことができる。
・なぜ人々が補償追求を選ぶかまたは選ばないかに関するさらなる研究が、中皮腫とともに生きる人々とその家族に助言している医療や法律の専門家、ASGにとって有益であろう。
結 論
混合研究法によるGEMSは、男女について、診断の経験、支援のニーズ及びパフォーマンスにジェンダー差があることを確認した。いくつかの動機がGEMSの開発につながった。それには、中皮腫における性差の証拠が現われつつあること、アスベスト曝露や中皮腫とともに生きる男女の経験に相違が指摘されていることが含まれる。GEMSは、イギリスの中皮腫とともに生きる男女の経験における相違の証拠を提供している。
男女の中皮腫の旅がいかに異なるかについての多くの事例があった。それには、診断前の中皮腫のリスクについての認識、ハイリスクな職業の分類、支援の種類についての好みや、金銭的補償を追求する動機が含まれていた。診断に続く治療及びケアに対する満足が、男女についての類似性として強調された。これは、イギリスにおける中皮腫の治療及びケアについての患者の見方におけるジェンダー不平等については、わずかな証拠しか示唆されていない。
いくつかの実践のための意味合いが示された。実践のための意味合いが導き出された3つの主要な領域があった。それらは、アスベストの危険性についての認識の改善、ジェンダー差を考慮した支援及び情報の提供、男女についての給付/補償を追求するうえでの障害の追求に焦点を当てたものだった。
アスベストはいまもなおイギリス中の多くの労働環境及び建物に含まれている。安全な労働条件を確保することは使用者の義務である。イギリス中の職業及び職場で活用することのできるアスベスト安全ガイドラインの開発及び実施が、スタッフに対するよりよい保護及びアスベスト曝露を避ける方法に関する知識の増大につながるかもしれない。これには、例えば、アスベストが一般に建材として使用された時期に建てられた学校や病院など、アスベストが生じやすい環境で働くスタッフのための義務的なトレーニングの一部として与えられる、情報が含まれる。
中皮腫の旅路の異なる時点で、男女は異なる種類の支援及び情報を必要とするかもしれない。アスベスト及び中皮腫についての以前の知識及び経験を考慮することは、必要とするかもしれない支援及び情報を評価する際に、考慮すべきこととして専門家にとって重要である。給付の評価及び補償の追求において女性が直面するかもしれない追加の諸課題は、女性が常にタイムリーに完全な資格を受けているわけではないことを意味しているかもしれない。給付の請求及び民事請求の追求を望まない、または可能でない理由を理解するためには、現実及び今後の研究においてさらなる説明が必要である。
こうした意味合いは、中皮腫とともに生きる人々及び彼らの家族に関わって働く医療及び法律の専門家、ASGの実践を援助するために設計された。前進するために本報告書に含まれた知見及び実践のための意味合いが、中皮腫とともに生きる男女に提供されるケアを改善することが望まれる。
※https://www.mesothelioma.uk.com/wp-content/uploads/2020/11/GEMS_Report_FINAL.pdf
※アスベスと被害者の全国連携に学ぶ-マンチェスターでの日英+国際交流会と5都市でのアクション・メゾテリオーマ・デー(AMD)イベントに参加(2017年)
※イギリスのアスベスト被害者支援団体とアクション・メゾテリオーマ憲章(2017年)
※イギリスの石綿被害と補償・救済のアプローチ-中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会イギリス訪問団参考資料(2017年)
※中皮腫のジェンダー経験調査(GEMS)/イギリス:メゾテリオーマUK(2020.11)【本稿】