イギリスのアスベスト被害者支援団体とアクション・メゾテリオーマ憲章(2017年)

アクション・メゾテリオーマ憲章

私たち、下記の署名者[省略]は、以下のことを確信する。

  1. 中皮腫患者及びその家族は、以下の権利を有している。多分野総合チームの検討に支えられた迅速かつ的確な診断

2. 様々なメディア及び言語で利用可能な多様な情報源からの質のよい情報

3. 闘病期間中を通じて適切な資格を有する看護士及び多分野総合チームによる支援

4. 多分野総合チームによる支援及び助言を利用できる環境のもとで可能な最良の治療が考慮されること

5. 諸給付に関する最新の助言及びその申請にあたっての援助を受け、また、給付の迅速な支払いを受けること

6. 中皮腫事件に経験をもつ弁護士事務所から法的助言及び指導を受けること

7. 終末期の決定及び自宅でのケアに関する指導

8. 最大3か月以内に透明かつ公正な手続によって検死官による、首尾一貫した全国的サービスの提供

また、政府に対して以下のことを要求する。

9. 国家がん対策長官によって中皮腫を国の優先課題とすること

10. 診断、治療及び患者のための転帰を改善するという観点から、他の国レベルの諸団体とともに、質のよい調査研究に資金提供すること

11. 中皮腫の診断及び管理のグッド・プラクティスに関する臨床ガイドラインの作成を支援すること

12. 安全衛生庁(HSE)が現行のアスベストに関する諸規制を精力的に執行するのを保障すること
また、すべての使用者に対して以下のことを要求する。

13. 労働者の防護に必要な全ての機器を含め、安全な労働環境を提供することにより、将来のアスベストへの曝露を予防すること

14. 全ての労働者を保護する現行の諸規制の執行を確保するために、労働組合及び関係者と協力すること

15. 政府の管轄する施設におけるすべてのアスベストを確認し、現実的または必要な場所で、除去作業を行う場合には、安全な除去を組織すること

アスベスト被害者支援団体フォーラムUK(AVSGF-UK)

[ここに紹介するのは、日本の中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会が2017年7月にイギリス訪問団を派遣した当時の内容である。]

イングランドのアスベスト被害者支援団体は、アスベスト関連疾患による人的被害の真の大きさを、ついに医学専門家や産業界、政府、安全衛生規制当局が受け入れた1990年代の初めに、誕生しはじめた。
不幸にも1960年代と70年代、アスベストの生産と使用が最大になり、政府や産業界がともにアスベストの健康被害を知ったときに、強力なアスベスト産業に立ち向かう用意があったのは、わずかな少数の団体と活動家だけだった。現在の団体の多くは、その存在がそうした活動家たちの勇敢な不屈の活動の恩恵を受けている。

かねてから、北部イングランドのアスベスト被害者支援団体は、非公式に集まって、共通の関心事について議論し、また、アスベスト被害者の利益を前進させるために共同行動を展開してきた。私たちは、共同で取り組むことのみが、アスベスト被害者の利益を効果的に代表できると信じている。この理由のために、アスベスト被害者支援団体フォーラムUKが、2005年に設立された。

フォーラムは、アスベスト被害者を代表して活動するすべてのアスベスト彼我者支援団体に対して開かれている。すべての団体は、自立的で、非営利団体または登録チャリティでなければならない。それらの団体は、フォーラムの規約、団体についての最低基準を定めたフォーラム原則に従わなければならない。

諸団体は、その提供するサービスによって定義された3つのカテゴリーのうちのひとつに登録される。すべての団体はフォーラムのキャンペーンを積極的に支援する。

●フォーラム団体メンバー

フォーラム団体メンバーは、様々なサービスを提供している。いくつかの団体メンバーは、専門家による専門的かつ包括的な助言サービスを提供している。中皮腫研究への資金調達を専門にしている団体もある。すべての団体が幅広い課題で積極的にキャンペーンを展開しているが、そのうえ貴重な情報や調査研究を提供して、特定の課題についてキャンペーンを展開している団体メンバーもいる。
団体メンバーは、その提供する特定のサービスに応じて掲載されている。

①アスベスト被害者助言団体

これは、アスベスト被害者の自宅訪問、包括的な助言サービスの提供、支援の継続的提供、被害者を代表したキャンペーンを主要な活動としている団体である。

・アスベスト・アクション・テーサイド(スコットランド東部を対象)[所在地:ダンディー]
www.asbestosactiontayside.org.uk/

・アスベスト支援ウエストミッドランズ[所在地:バーミンガム]
http://www.asbestossupportwm.org/

・チェシャー・アスベスト被害者支援グループ[所在地:チェシャー]
http://www.cavsg.co.uk/

・クライドバンク・アスベスト・グループ[所在地:クライドバンク]
http://www.clydebankasbestos.org/

・ダービシャー・アスベスト支援チーム(DAST)[所在地:チェスターフィールド]
www.asbestossupport.co.uk/

・グレーター・マンチェスター・アスベスト被害者支援グループ(GMAVSG)[所在地:マンチェスター]
www.asbestos-victims-support.org/

・ハンプシャー・アスベスト支援&啓蒙グループ(HASAG)[所在地:ハンプシャー]
http://www.hasag.co.uk/

・マーシーサイド・アスベスト被害者支援グループ(MAVSG)[所在地:リバプール]
www.asbestosdiseases.org.uk/

・サウスヨークシャー・アスベスト被害者支援グループ(SARAG)[所在地:ロザラム]
www.saragasbestossupport.org/

②フォーラム・ネットワーク・メンバー

これは、支援の提供、被災者を代表したキャンペーン、アスベスト関連疾患研究への資金調達を主要な活動としている団体である。

・アスベスト啓蒙&支援ウェールズ[所在地:ペンブルックシャー]
http://a-a-s-c.org.uk/

・学校アスベスト・キャンペーン http://www.asbestosinschools.org.uk/

・カンブリア・アスベスト関連疾患支援(cards)[所在地:カンブリア]
www.cumbria-ards.co.uk/

・ジュン・ハンコック中皮腫研究基金[所在地:シェフィールド]
www.junehancockfund.org/

・ミック・キングトン中皮腫研究基金[所在地:ウェールズエンド]
www.mickknightonmesorf.org/

・北部TUC[労働組合会議]アスベスト支援&キャンペーン・グループ[所在地:ハートルプール]
www.ascg.org.uk/

・ポール・リードヘッド・アスベスト支援&啓蒙グループ[所在地:ダーハム]
www.prasag.co.uk/

・スポドン渓谷を救え[所在地:ロッチデール]
www.spodden-valley.co.uk/

③その他の連絡先

・ブリティッシュ・アスベスト・ニュースレター http://britishasbestosnewsletter.org/

・ロンドン・ハザーズ・センター http://www.lhc.org.uk/

・アスベスト禁止国際書記局(IBAS)www.ibasecretariat.org/

・メゾテリオーマUK[所在地:レスター] www.mesothelioma.uk.com/

アスベスト被害者支援団体-組織体制・活動に関する調査

・フォーラム・メンバーに調査用紙送付:回答10、無回答6のうち3は患者支援を主とした団体でない

○アスベスト被害者支援団体を誰が、なぜ、いつ、どこではじめたか?
・労働衛生、安全衛生団体、労働組合、給付助言者、アスベスト疾患被災者、または相対的に少ないが被災者の遺族
-不正義に気が付いたこと及びアスベスト被災者(主として労働者)が経験した苦しみ
-アスベスト被災者に関係する人々が必要としている助言や支援のニーズが満たされていない
・1事例ではパブリック・コンサルテーション:病気に関する専門家の意見、給付や補償、家族の支援及び医療従事者の教育に対する要望
・大部分が10年以上前に設立(6団体が12~20年前)
・主としてイギリス北部、アスベスト関連疾患発症率の高い地域(重工業におけるアスベスト使用)

○どのように組織されているか?
・資金:一般の人々、労働組合、弁護士からの寄付、慈善信託や地方自治体からの助成金
・資金調達-多彩な資金集めの活動+アクション・メゾテリオーマ・デーやインターナショナル・ワーカーズ・メモリアル・デーなどの行事、アスベストと法律会議などの教育行事
・スタッフ:5の相対的に大きな団体 60,000~100,000ポンド[年間予算]、3つの相対的に小さな団体 5,000~30,000ポンド(これら3団体はボランティアのみ)
・10団体中9団体がサービス利用件数の増加を報告
・10団体中3団体が継続可能性に関心
・サービス提供は無料
・相談は主として専門看護師

○アスベスト被害者支援団体は何をしているか?
1. アスベスト関連疾患被災者の支援
・10団体が国の給付に関する助言・支援を提供(7団体は給付不服法廷における代理を提供)
・10団体が民事賠償に関する助言を提供
・6団体が病気に関する情報を提供(6団体中5団体は専門看護師、4団体は医師が活用で可能)
・6団体が書面による情報を提供、またはメゾテリオーマUK、マクミランがん支援、ブリテン肺財団などの他の提供者を照会
・6団体が被災者のため毎月の集まりを開催、他は年次行事を開催
・大部分が毎年誰でも参加できる教育/宣伝の会議を開催

2. アスベスト被災者家族の支援
・給付や補償に関する助言のほとんどは、被災者の自宅で提供される
・ほとんどの団体が少なくとも毎年、誰でも参加できる教育的会議を開催
・7団体が死別支援を提供、2団体は訓練を受けた死別カウンセラーをもち、5団体は死別サービスを紹介
・ほとんどが追悼サービスを開催、普通はアクション・メゾテリオーマ・デーに実施
・6団体が公式な影響評価を実施、きわめて肯定的

3. フォーラムを通じたキャンペーン(「アスベスト被災者のためのひとつの声」)
・中皮腫憲章、アリムタ(ペメトレキセド)
・例えば退役軍人補償など法律の改正
・中皮腫の研究のための資金調達
・例えば、アスベスト生産・使用の世界的禁止、発行アスベスト団体など、他のアスベスト・ハザード・キャンペーンの支援

○アスベスト被害者支援団体が直面している課題
・アスベスト関連疾患の地理的及び人口統計学的分布の変化は、イギリス全体にまたがった新たなサービス提供モデルの必要性を示唆
・アスベスト関連肺・卵巣・喉頭がん被災者の支援ニーズを満たせていないことは、アウトリーチやノウハウをめぐる問題を提起
・国からの支援の減少と並行して、あらゆるチャリティがボランティアや資金の減少に直面

○最後に
・毎年イギリスで中皮腫に罹患する人々の約40%が、本調査の10のアスベスト被害者支援団体に支援を受けている
・アスベスト被害者支援団体は、中皮腫被災者とその家族の支持的ケアに重要な役割を果たしている。
・限られた、不安定な場合もある資源にもかかわらず、アスベスト被害者支援団体の知識やスタッフには大きな貢献がみられる。
・アスベスト被害者支援団体フォーラムの多彩な活動と様々な組織構造は、長い時間をかけてつくられたものである。本調査は、活動の監視や促進に、またおそらく研究者にとっても、有用な包括的データベースのはじまりとなる。
・課題に対処していくために、アスベスト被害者支援団体は、組織や共同活動の合理化と技術の効果的利用を身につけるべきである。

※調査時期が明記されていない。少し古い調査のようだが、参考になるのではと思い紹介する。

安全センター情報2017年10月号

※アスベスと被害者の全国連携に学ぶ-マンチェスターでの日英+国際交流会と5都市でのアクション・メゾテリオーマ・デー(AMD)イベントに参加(2017年)
※イギリスのアスベスト被害者支援団体とアクション・メゾテリオーマ憲章(2017年)【本稿】
※イギリスの石綿被害と補償・救済のアプローチ-中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会イギリス訪問団参考資料(2017年)
※中皮腫のジェンダー経験調査(GEMS)/イギリス:メゾテリオーマUK(2020.11)