毒性物質の漏出に『手で止めて、待避もさせずに』LGディスプレイ事故の顚末 2021年7月7日 韓国の労災・安全衛生

5月16日、ソウル雇用労働庁の前に『仕事をして、死なないように』という垂れ幕が掛かっている。/イ・ジュンホン記者

1月に毒性の化学物質が漏れ出て、協力業者の労働者1人が死亡、5人が負傷した坡州のLGディスプレイ工場事故の背景に、元請けLGディスプレイの総体的な安全管理不良があったという調査結果が出た。漏れ出た毒性物質を下請け業者の職員が手で止めている状況が10分余りも続いたのに、LGディスプレイは安全措置や事故後の応急措置も執っていないことが判った。

6日、京郷新聞が正義党のペ・チンギョ議員を通して確保した『災害調査意見書』には、このような内容が記載されていた。労働者が現場で亡くなる重大災害事故は、労働庁と韓国産業安全保健公団が調査して、災害調査意見書を作成する。LGディスプレイ工場事故に関する意見書は、雇用労働部・高揚労働支庁と韓国産業安全保健公団の合同調査の結果と、事業場の関係者との面談・陳述内容、現場での確認内容を根拠に作成された。35ページの意見書には『元請け』という単語が26回登場した。

災害調査意見書によれば、事故は本来の担当でない業者が工事を引き受けて始まった。現像工程用のタンクの交換に、新規のタンクが大きく、今まで使っていた水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)の配管を短くして方向を変えるなど、配管の修正作業が必要だった。TMAHは急性毒性物質だ。本来この業務を担当するA社が、事前に協議していないので直ぐには工事しにくいと言っため、業務の経験がないB社に依頼した。「費用が掛かれば後で処理をするから作業をして欲しい」と、即興的に決定された。

安全作業許可制度は有名無実だった。具体的な作業計画書が必要な一般作業許可書の代わりに、事故の心配され、直ちに措置が必要な時に限って制限的に使う緊急作業許可書によって工事が進められた。許可書の作業内容は実際と違い、作業前に作成する日々点検票には『配管内残留物除去良好』等、形式的な内容が書かれた。B社はLGディスプレイから、作業期間は2ヶ月を45日に短縮して欲しいという要請も受けていた。

配管修正作業のためにはバルブを締めて、配管に残っているTMAHを完全に除去しなければならないが、そうでない状態で作業が進められた。事故の瞬間を目撃した現場作業員によれば、新規のタンクに連結される配管ラインの組み立ての準備作業をしているのに、別の作業員がメイン配管の連結部位のナットを外した瞬間に化学物質が噴出して、配管が裂けてしまった。作業者3人が配管を再度挟もうとして化学物質を被った後、洗っている時に倒れた。

化学物質漏出事故が発生した1月13日午後、坡州市のLGディスプレイ工場内で車輌が忙しく現場を行き来している。/聯合ニュース

LGディスプレイの職員が漏出を止めるためにどのバルブを閉めるのかを見付けられなくて、あたふたしている内に時間が遅れた。TMAHが止まるまで、あちこちのバルブを閉める過程で、LGディスプレイの職員はTMAHに接触した作業者を直ちに避難させることもしなかったことが分かった。10分余り、作業員が化学物質が出てくる配管の隙間を塞いでいたのだ。作業員は調査で、TMAHが危険な物質かどうかは全く知らなかったと話した。

一人の負傷者は「漏れた配管を再び連結したが、余りに多くの薬液を浴びたので自分でシャワー施設を探したが、LGディスプレイの職員が待避するとか言ったのを聞いたことはない。」「臭いもなく色もなく、(掛かった液が)危険な物質かも解らなかった」と調査で述べた。別の負傷者は「漏れた物質が危険な物質かは解らなかったので、事故当時に手で止めていた。」「もし危険な物質だったら、LGディスプレイの担当者が、すぐその場所から出て行くように措置するべきだったのに、ビニール袋を持って来たので、私たちが止めなければならないと考えた」と話した。

事故の調査者は意見書で「元請け(LGディスプレイ)の職員は、協力業者の作業者に、待避や応急措置よりも、脱落したTMAH供給バルブを閉じることに汲々とした。」「脱けたバルブの位置も分からないまま約30分程漏れ出るなど、漏出の遮断にも失敗した」と指摘した。

現場作業はもちろん、安全措置まで協力業者の主導で行われたのが問題と指摘された。調査者は「元請けの職員は、生産装備は装備を供給した協力業者が専門で、装備に関する変更作業も協力業者が判断して作業するのがより効率的だという考えが広まっていた。」「開閉装置が設置されたバルブの配管の解体は、元請けが開閉装置を先に解体した後に行われるべきで、開閉装置を解体した後でバルブを少し開いて、配管内にTMAHが供給されているのかを確認していれば、今回のような多量漏出事故には繋がらなかったかも知れない」とした。

調査者は「主管部署(LGディスプレイ)は、事故当日まで配管内部TMAHを除去する方法を調査中で、協力業者にTMAH配管の解体は未だ指示しておらず、協力業者が配管を解体するとは思わなかったと主張している。」「しかし配管の修正作業を続いて進めようとしていた情況がある」とした。

LGディスプレイのチョン・ホヨン社長は、2月に国会・環境労働委員会に出席して、「危険作業を直営化して直接行う方案を進める」と話した。その後、LGディスプレイは、全事業場の精密な安全診断、主な危険作業の直営化、安全環境専門担当者の育成・協力会社の支援強化、安全組織の権限と力量の強化を内容とする四大安全管理革新対策を発表した。LGディスプレイの関係者は「(坡州工場の事故に関して)関係機関の調査に誠実に応じた。」「元請けとして責任を負える部分は責任を負うという立場で、色々な改善作業をしている」と話した。

ペ議員は「契約から安全管理まで、元請けの総体的な不良によって重大災害が起きたことが明らかになった以上、重大災害法に準じた経営陣の処罰は避けられない。」「LGディスプレイの危険業務の直営化など、進行事項を国会段階で点検する」と話した。

2021年7月7日 京郷新聞 イ・ヘリ記者

https://www.khan.co.kr/national/labor/article/202107070600031