COVID-19(新型コロナウイルス感染症)と職業:ポジションペーパー 48-2021.3.25 労働災害諮問委員会(イギリス)
※訳注:文章中「規定」とは、イギリスの労働災害障害給付(IIDB)の「規定疾リスト」-すなわち給付対象となる職業病リスト-に列挙することを言っている。労働災害諮問委員会(IIAC)は、特定の職業曝露または状況に関連して疾病を発症させる(相対)リスクが2倍を超えることを「規定」の要件としている。
目次
抄 録
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、「非定型ウイルス性肺炎」、2019年コロナウイルス感染症(COVID-19)症例のアウトブレイクの原因として、2019年12月末に中国で確認された。イギリスで確認されたCOVID-19の最初の症例は2020年1月31日だった。イギリスは、2020年3月と6月の間に感染の第一波と、2020年8月後半からはじまる第二波を経験した。2020年12月末までに75,000件を超えるCOVID-19による死亡が生じた。2020年を通じて、検出、感染、診断、治療及び病気の進行を含め、SARS-CoV-2とCOVID-19の多くの側面に関する知見が次第に蓄積されてきた。労働災害諮問委員会(IIAC)はそれゆえ、まだ、最終的な勧告を行うのに十分な質の高い情報はないかもしれないことを認めつつも、2020年における職業とCOVID-19の間の関係の証拠をレビューすることがタイムリーかつ必要であると考えた。
SARS-CoV-2への職場曝露から生じる健康影響は、非職業的状況で感染する感染症と区別することができない。委員会はそれゆえ、この疾病を発症させるリスクは、職業曝露により生じた可能性が高い、すなわち2倍以上であるという強力な研究証拠を探すことになる。
この暫定的ポジションペーパーは、職業別の感染・入院率に関する情報とSARS-CoV-2への職業曝露のパターンに関するデータとともに、死亡診断書に基づく職業性死亡率データに焦点をあてた、入手可能な証拠の評価を報告する。
医療・社会的介護施設や運輸において感染者に近接して働くように、職場で他者と近接して働くことは労働者の感染のリスクを増加させる。重症COVID-19に罹患するリスクは、イギリスの社会的介護・運輸労働者の間でも増加した。しかし、双方の職場や社会環境におけるCOVID-19感染の正確なモードに関する科学的証拠は限られており、職場における曝露の量、曝露頻度や長さに関するデータは乏しい。
2020年3月と12月の間のイギリスの死亡診断書の分析は、社会的介護、看護、バス・タクシー運転、食品加工、小売、地方・国の行政や保安を含め、いくつかの職業では、男性について2倍超のリスクを示している。こうした職業についてRIDDOR(傷害・疾病・死亡報告規則)を通じたCOVID-19による症例・死亡の発生数は死亡データを反映しており、RIDDORはまた、教育など他の職業での症例数が相対的に高いという証拠も提供している。
委員会は、いくつかの職業とCOVID-19による死亡のリスクの増加との間に明らかな関係があると結論づけるが、死亡データの一貫性・程度や貧困などの要因についての調整を欠いていることは、この段階で規定を正当化するには証拠は現在質と量においてあまりに限られていることを認める。職業とSARS-CoV-2感染に続く障害のリスクとの間の何らかの関係に関する情報も現在のところ乏しい。委員会はそれゆえ、全体として、規定を勧告するには証拠は現在のところ十分ではないと結論づける。しかし、いくつかの職業におけるリスクの2倍化の証拠は潜在的な規定への道筋を示しており、委員会は、今後のデータが、COVID-19罹患後症候群が機能の損失をもたらすかもしれないという影響についてのよりよい理解を可能にするだろうと期待している。「確実性のバランス」のうえに、職業曝露が疾病に障害をもたらすという十分強力な証拠がある場合またはそろった場合には、委員会は規定を提案するだろう。
委員会は、いくつかの研究が進行中であることを知っており、近密に文献を監視し続けるだろう。労働者と職場についての質の高い大規模研究と、SARS-CoV-2への感染の死亡・長期影響の双方に関するコミュニティベースの研究にとりわけ関心をもっている。
本報告書にはいくつかの技術用語が含まれており、それらの意味は巻末の用語集[省略]で説明している。
はじめに
1. 2019年12月末に、中華人民共和国湖北省武漢で「非定型ウイルス性肺炎」症例のクラスターが報告された。新しいコロナウイルス、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)がこのアウトブレイクの原因として特定され、2020年1月初旬にその遺伝子コードが報告された。2020年1月には、人から人への感染の証拠も報告された。SARS-CoV-2によって引き起こされる病状は、2019年コロナウイルス感染症(COVID-19)として指定され、2020年1月30日までに世界保健機関は、この流行を国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)と宣言した。イギリスでは、最初のCOVID-19症例は2020年1月31日に報告された。世界保健機関は2020年3月初旬にCOVID-19を世界的パンデミックと宣言した。イギリスは、とりわけロンドンにおける症例の劇的な増加が国民保健サービス(NHS)に圧力をかけはじめた後、全国的ロックダウンに入った。
2. イギリスは、2020年3月から7月にかけて感染の第一波を経験し、COVID-19の確定症例は285,262件、死亡は40,673件であった。感染の第二波は、2020年8月下旬にはじまり、12月末までにさらに2,372,013件の確定症例と35,530死亡があった。このウイルスに関する証拠は急速に蓄積された。労働災害諮問委員会(IIAC)は、決定的な勧告を行うのに十分な質の高い証拠はまだないかもしれないと認めつつも、2020年における職業とCOVID-19についての証拠をレビューすることはタイムリーかつ必要であると考えた。
3. 労働災害障害給付(IIDB)は現在、15の生物学的因子について規定している。これには、職業曝露を通じてかかる可能性のあるいくつかの感染症(結核、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎)が含まれている。
4. いくつかの職業部門の労働者がSARS-CoV-2感染とそれによる死亡双方のリスクが高いという、いくつかの国からの証拠が増えてきている。そうした部門には、医療と地域社会的介護、保安、運輸、小売、食品製造や建設が含まれる。加えて、いくつかの国はいまではCOVID-19を労働関連疾患として認めており、ベルギーやノルウェーなど少数の国はそれを補償が可能な職業病とみなしている。
労働災害障害給付制度
5. IIDB制度は、雇用された賃金取得者の労働の過程で発生した災害または規定された疾病による障害に対して、無拠出の「無過失」給付を提供するものである。この給付は、他の就業不能・障害給付に追加して支払われる。それは非課税であり、労働年金省(DWP)によって管理されている。
6. IIDBを受ける資格があったものの、請求を行う前に亡くなった者に関して、IIDBの死後請求を行うことも可能である。亡くなった者に代わって死後請求をしようとする者は、死亡者に代わって行動するために指名されるための申請をしなければならない。通常は12か月の期限内に、死亡者のために行動し、及び/または、行動するために指名されるために申請し、また指名されてから給付の請求をしなければならない。死後請求は、死亡した人によって死亡日に請求がなされたものとして扱われ、最大3か月の遡及支払いがなされる。
7. 規定のための法的要求事項は、1992年社会保障拠出及び給付法で設定されている。同法は、国務大臣は、ある疾病が、職業のリスクとしてかつすべての者に共通のリスクではないものとして、その原因と発症率及びその他の関連事項を考慮して治療する必要があり、また、特別な状況がなくとも、特定の症例の雇用の性質への帰属が合理的な確実性をもって確立または推定することができるという条件を満たす場合には、当該疾病を規定できると規定している。
8. したがって、病気は、ある職業の労働者に対して認められたリスクがあり、個別症例において、疾病と職業との因果関係を確立する、または合理的に推定することができる場合にのみ、規定される可能性がある。
労働災害諮問委員会の役割
9. IIACは、IIDB制度に関連する問題について社会保障担当国務大臣に助言するために、1946年に設立された独立した法定機関である。委員会の時間の大部分は、給付が支払われる可能性のある規定疾病のリストを拡大または修正すべきかどうかを検討することに費やされる。
10. 規定の問題を検討する際に、委員会は、個別症例において、当該疾病が合理的な信頼性をもって職業曝露に起因した可能性があることを立証するための実用的方法を探しており、この目的のために「合理的な信頼性」とは、確実性のバランスに基づいているものとして解釈される。
11. 一部の職業病は、職業との関連性が明確であるために、検証が比較的簡単である。一部は、特定の労働が原因でのみ発症するか、ほとんどの場合労働に関連しているか、労働との関連を証明する特定の医学検査があるか、曝露との迅速な関連があるか、または労働との関連の確認を容易にする他の臨床的特徴がある。しかし、他の多くの疾病は、特異的に職業性ではなく、職業によって引き起こされた場合、労働でハザードに曝露したのではない者に生じた同じ疾病と区別がつかない。このような場合、職業への帰属は、規定された仕事の労働または規定された職業曝露を伴う労働が、確実性のバランスのうえに当該疾病を引き起こすという研究証拠に依拠することになる。委員会はそれゆえ、特定の職業曝露または状況に関連して疾病を発症させるリスクが2倍を超えるという証拠を探すことになる(この閾値が選ばれた理由は以前の委員会報告書で説明している)。
12. SARS-CoV-2への職場曝露から生じる健康影響は、非職業的状況で感染した感染と区別することはできず、そのため、規定のための問題は、因果関係の蓋然性に関する確固たる研究証拠をもつことにかかっている。
13. 個々のCOVID-19の大部分は自己限定的な病気であるが、感染後に持続する症状を経験する者も少数いる。現在の推計は、成人の感染の死亡率は約1%で、この数字の数倍が数か月症状が続く「COVID-19罹患後症候群」を経験する可能性があることを示している。しかし、現時点では、COVID-19罹患後症候群についての研究はわずかしかなく、症例の定義についての合意もないことから、長期的な影響がどのようなものかわかっていない。さらに、今日まで、職業曝露によるCOVID-19が非職業的に感染したCOVID-19よりも、多かれ少なかれCOVID-19罹患後症候群を起こしやすいという指摘もない。
14. この初期文書の焦点は、2020年のパンデミックに関連した証拠に置いている。情報の主な源は、死亡診断書から抽出され、イギリス国家統計局(ONS)によって報告されたデータである。これらのデータは、感染率と入院率を調査した職業研究を含め、幅広い情報源からの支持的情報とともに、提示及び議論される。
15. 委員会は、検出、感染、診断、治療や病気の進行を含め、SARS-CoV-2とCOVID-19の多くの側面についての知見が、パンデミックの最初の数か月のうちに発達及び拡大したことを認識している。並行して、一般社会と労働者双方についての感染を低減させるための措置に関するガイダンスが、同じ期間に非常に急速に変化した。委員会はそれゆえ、職業に関連した死亡率と罹患率についての評価が明らかになったときに、さらに評価する予定である。これは、今後の文書のなかで報告されるだろう。長期的フォローアップによって明らかになるデータは、COVID-19罹患後症候群が機能を損失させるかもしれない影響についてより多くの理解を可能にするだろう。
疾病の特徴
16. コロナウイルスは、動物や人間の感染の一般的な原因である、リボ核酸(RNA)ウイルスである。風邪などの軽い病気を引き起こすものもある。また、中東呼吸器症候群(MERS)や重症急性呼吸器症候群(SARS)などの重症な病気を引き起こすものもある。
症状
17. SARS-CoV-2に感染した者の約3分の1は症状を発症しない。症状を発症した者は、咳、発熱、筋肉痛、頭痛、息切れ、咽喉炎、下痢や嘔吐、味覚や臭覚の喪失、腹痛、鼻の症状や皮膚の発疹など、様々な症状を経験する可能性がある。大部分の患者は2週間以内に回復する。現在のデータによれば、約5%が1か月後に、また2%が3か月後に進行中の症状を報告している。このCOVID-19罹患後症候群は、必ずしも初期の病気の重度と密接に関連してはおらず、特徴づけが不十分なままである。
18. 患者の少数は、入院を必要とするほど深刻な呼吸不全または他のCOVID-19合併症を発症する。2020年10月時点のデータは、感染した者の約1%が急性疾患の間に亡くなっているが、合併症と死亡のリスクは、年齢や併存疾患の存在に大きく影響されている。
19. 通常は呼吸器症状を呈するものの、COVID-19はいまでは、身体のすべての系統に影響を及ぼす多系統炎症状態であると認識されている。肺線維症、心外傷、肺塞栓症や脳卒中などの血栓塞栓性疾患、及び脳障害はすべて認められている。加えて、集中治療期間を必要とする患者は、集中治療室から退院後も持続する、様々な身体的、認知的及び心理的障害からなるポストICU症候群のリスクがある。影響を受ける患者の割合や障害の経過は、現在のところ不明である。
20. 現在、COVID-19の治療法はないが、多くの治療アプローチの有効性の証拠が現われつつある。
診断
21. SARS-CoV-2感染は、急性疾患の間のウイルスの検出、または回復段階の抗体の検出によって診断できる。
22. 急性COVID-19感染は、核酸増幅検査やリアルタイム逆転転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を使って、上気道分泌物中のウイルスRNAを検出することによってもっとも確実に診断される。不適切な試料採取と検査のタイミングは、偽陰性の結果の原因となる。この検査は、死んだウイルスと生きたウイルスのRNAを区別せず、個人が必ずしも感染性でなくても、症状の発症後数週間は陽性である。
23. RT-PCR検査には高度の機器が必要であり、処理に数時間かかる場合がある。臨床現場での即時使用のためのいくつかの迅速検査が開発されている。それらは、ウイルス抗原を検出するのに、単純化されたシングルステップまたは等温分子増幅や表面結合抗体を用いた側方流動クロマトグラフィーなどを採用している。これらの検査の感度と特異性は、とりわけウイルス量が少ない者の間では、現在のところ不確かである。
24. 以前のSARS-CoV-2感染は、血液中の抗体の存在によって診断できる。
SARS-CoV-2感染とCOVID-19発症のリスク要因
25. 飼育動物からのSARS-CoV-2感染の報告はまれで、感染はほとんどの場合、別の感染した者との直接的または間接的な接触によって引き起こされる。感染のリスクは主に、個人のライフスタイルと、すでに感染している者との接触を増やす(職業性を含めた)個々の要因によって決定される。
26. パンデミックの初期の段階では、COVID-19検査は主として相対的に重度の症状のある者(とりわけ入院した者)に限定され、感染リスクを重度の病気や死亡を発症させるリスクと区別することを困難にした。3つの大規模な人口ベースの研究が問題を明確にするのに役立った。イギリス国家統計局(ONS)の感染症調査とREACT-1は、RT-PCRを使って活動性感染症の検査を実施した。REACT-2は、抗体検査を使って以前の感染を調査した。ONSは、2020年4月から毎週の調査を実施したが、2020年11月までに合計1,116,988検査で、そのうち7,595(0.7%)が陽性だった。REACT-1では、2020年5月から11月の間に7ラウンド行われた。1,197,387検査が実施され、そのうち5,582(0.5%)が陽性だった。REACT-2では、2020年6月と9月の間の3ラウンドで365,104抗体検査が実施され、そのうち17,576(4.8%)が陽性だった。
27. これらの調査が実施された期間にわたって、感染者との明らかな接触を報告した者は、他の者よりも、感染自体の証拠をもつ可能性が30倍高かった。感染率は、若年成人で高齢者グループの約2倍高かった。例えば、REACT-2の第1ラウンドでは、陽性抗体の有病率は、18~24歳グループの7.9%から、75歳以上グループの3.3%に低下していた。感染は女性と比較して男性でわずかに多かった-REACT-1で0.13%対0.12%、REACT-2で6.2%対5.7%だった。
28. 5人以上の者がいる大規模世帯または介護施設に住むことは、一人暮らしと比較して、感染のリスクが約2倍になることと関連していた。社会的剥奪がもっとも奪われた四分位数の人々は、もっとも奪われていない人々と比較して、感染する可能性が約50%高かった。これらの関連は、感染者との接触のリスクの増加を反映している可能性がある。ONS及びREACT調査は、非白人の民族的背景の者は、白人の民族的背景の対象と比較して、SARS-CoV-2の陽性検査を受ける可能性が2~3倍高かった。openSAFELY Collaborativeは、2020年2月から8月までのイングランドにおける1,750万人の成人の一次医療記録を調査した。年齢、性、剥奪五分位、臨床併存疾病率、世帯規模及び介護施設居住について調整した後、結果は、南アジア、黒人と混血民族グループは白人成人と比較して、わずかにSARS-CoV-2の検査を受ける可能性が高く、検査が陽性になる可能性が著しく高かった(南アジア ハザード比(HR)2.02、黒人 HR 1.68、混血 HR 1.46)。
29. 感染症にかかるリスクとは異なり、COVID-19による入院または死亡のリスクは、主に年齢、性及び併存疾患の存在によって決定される。COVID-19のためにICUに入院するリスクは、openSAFELY調査では、白人の成人と比較して、すべての少数民族グループで著しく増加した(南アジア HR 2.22、95%CI 1.96-2.52、黒人 HR 2.86、95%CI 2.61-3.61、混血 HR 2.86、95%CI 2.19-3.75、その他 HR 2.86、95%CI 2.31-3.63)。しかし、COVID-19死亡率のハザード比はそれほど増加していなかった(南アジア HR 1.27、黒人 HR 1.55、混血 HR 1.40)。2020年3月1日から4月28日までのレスターNHSトラスト大学病院でのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査でCOVID-19について評価されたすべての者についてのレスターでの研究、及び同じレスターの研究グループによる系統的レビューとメタアナリシスでも、同様の所見がみられた。
30. こうした知見はおそらく、感染のリスクを増大させる(職業曝露を含めた)社会経済的要因を反映しており、感受性の民族的差異は現在のところ不確実である。Martinらによる研究では、南アジアと黒人の参加者は白人の参加者よりも、著しく若く、糖尿病に罹患し、大規模世帯に住んでいる可能性が高く、また、貧困地域に住んでいる可能性も高いことがわかった。
31. 年齢は、死亡や他の深刻な結果のもっとも強力な予測因子である。全体として、80歳以上の者は、40歳未満の者と比較して、感染後に死亡する可能性が約70倍高い。(年齢とともに増加する)併存疾患について調整した後でも、80歳超の者は50歳未満の者と比較して、死亡する可能性が約14倍高いままであった。
32. 男性は女性よりも、SARS-CoV-2に感染する可能性はわずかに高いだけだが、COVID-19で死亡する可能性は大幅に高い。イングランド公衆衛生サービス(PHE)のデータは、男性の死亡と女性の死亡の調整済みハザード比(aHR)が1.54(95%CI 1.50-1.57)であることを示しており、UK Biobankのオッズ比は1.52(1.28-1.81)、openSAFELYのaHRは1.93(1.80-2.06)である。PHEのデータから、aHR 1.47(1.44-1.51)の64歳超の者と比較して、aHR 1.99(1.85-2.14)の労働年齢の男性では、性差が相対的に大きいといういくつかの証拠がある。
33. 多くの併発疾患が、COVID-19感染後の重篤な転帰と死亡リスクの増加に関連している。肥満は、相対的に悪い結果と一貫して関連している。openSAFELY collaborativeのある論文は、BMIが40kg/m2以上の者は、非肥満者の2倍以上死亡する可能性が高いことを見出した(aHR 2.27、95%CI 1.99-2.58)。その他に、糖尿病、免疫抑制、呼吸器疾患、神経疾患及び悪性腫瘍との間でも関連性が示されている。
34. 非白人の民族的背景の者は、白人の民族的背景の者と比較して、COVID-19で死亡する可能性が2~4倍高い。この差は、社会的要因と併存疾患を考慮に入れると減少するが、結果のいくらかの差は持続するようにみえる。
35. ONSは、2020年7月28日までのCOVID-19による死亡の民族的差異に関する報告書も作成している。黒人のアフリカ人の民族的背景の男性は、白人の民族的背景の男性と比較して、COVID-19による死亡のリスクが2.7倍であることがわかった。黒人のカリビアンの民族的背景の女性は、白人の民族的背景の女性よりも、死亡率が高かった。地域、社会経済的特徴及び既存疾患を考慮に入れても、黒人のアフリカ人の背景の男性は、依然として白人男性の2.5倍のCOVID-19死亡率、女性では対応する推定値は2.1倍であった。中国人以外のすべての少数民族グループは、白人の民族人口よりも、COVID-19死亡率が高かった。同報告書の結論は以下のとおりである。
「COVID-19に関連する死亡率の民族差は、居住地や職業曝露などの人口統計学的及び社会経済的要因ともっとも強く関連しており、病院データまたは自己報告による健康状態を用いた既存疾患によって説明することはできない。」
主な職業における曝露の可能性と曝露パターン、PPEの使用と有効性
36. SARS-CoV-2の感染様式は完全には理解されていない。感染者との密接な接触(飛沫またはエアロゾル感染)から、またはウイルスで汚染された表面に触れることから間接的に感染が発生する可能性があるようである。ウイルス感染のリスクは、曝露レベルに依存し、曝露レベルは感染源(社会的及び職業的の双方)の数、頻度及び近接性に依存する。
37. ONSは、これらの諸要因についてのアメリカでの分析に基づいて、イギリスの職業について、一般的な疾患への曝露及び他者との物理的近接性の推計値を作成した。定期的な病気への曝露プラス人々との密接な接触を伴う職業は感染のリスクが増大する一方で、病気への曝露が少ない職業はリスクが低くなるだろう。例えば、感染者と近接する機会の多い医療及び社会的介護労働者は、在宅勤務者よりも、リスクが高くなるだろう。
38. 入手可能な情報は、すべての研究がウイルスを発見したわけではないものの、病院では、空気中や表面の広範囲にわたる汚染があることを示しており、汚染を確認した研究のほとんどが相対的に低い濃度を示している。公共交通機関の表面でSARS-CoV-2を測定した研究は、低レベルの汚染の可能性があることを示した。その他の職場におけるウイルス汚染の程度は、研究がないために不明である。感染のクラスターは多くの職場や職業で報告されているが、これらが局所的な汚染によるものか、または人から人への感染によるものかは明らかではないものの、後者の方が可能性が高いように思われる。
39. 英国労働衛生協会(BOHS)は、労働者を保護するために採用されるべき管理措置の種類に関する一連の実践的ガイダンスに科学を統合するためのリスクマトリックス(付録表1参照[省略])を開発した。これは、曝露の可能性と期間に基づくものである。リスクの格付けがもっとも高いのは介護労働者であり、次いで対面接触の機会の多い「public facing」労働者である。BOHSマトリックスは、様々な曝露カテゴリーの労働者を保護するために用いられるべき管理措置に関するベストプラクティスの助言も提供する。安全衛生庁(HSE)のガイダンスにしたがって、それは、潜在的感染源における管理、例えば、感染者の隔離、従業員のアクセスの制限、物理的距離置き、定期的な表面の消毒、個人用保護機器(PPE)に焦点を置いている。
40. PPEは着用者を完全に保護することはできない。例えば、保護マスクやフェイスカバーの有効性は、マスクの種類/素材、顔への密着や着用の一貫性などの要因によって異なってくる。適切なPPE慣行は病院環境では可能かもしれないが、労働者が潜在的なリスクにさらされている他の多くの職場では、必ずしも実行可能とは限らない。プラスチックスクリーン、簡単なバイザーや布製マスクなどの他の管理措置は、とりわけ一部の職場アウトブレイクでは空気感染が重大な感染メカニズムかもしれないという懸念が高まっていることから、最適な保護を提供しない可能性がある。さらに、管理措置の有効性を制限する可能性のある、順守と実行可能性の双方の問題もある。管理措置の不完全な実施は、無症候性であるが感染している労働者が(とりわけ若者の間で)未知の割合いることによって悪化するだろう。職場内での感染リスクの効果的な管理は、通勤手段の共有や広い地域社会から職場へのウイルスの侵入を管理するのと同様に、課題であり続ける可能性がある。
41. 要約すると、曝露に関する科学的証拠は、質と量の双方で限られているため、SARS-CoV-2の感染様式に関する新しいデータが出現するにつれて、われわれの理解はさらに発展する可能性がある。したがって、SARS-CoV-2の主要な感染様式の相対的な重要性については不確実性が残っており、曝露時間、近接性、感染量及び職場または地域社会で発生するSARS-CoV-2の相対的な可能性についても不確実性がある。にもかかわらず、職務や職場の特徴に関連した相対的に高い曝露レベルのゆえに、一部の職場/労働者が感染のリスクが高く、このリスクが年齢、性、国及び労働市場での地位によって異なると推測することは合理的である(また、予備的証拠もある)。
職業とCOVID-19による死亡
ONSデータ
42. 国家統計局(ONS)は、職業別の、イングランドとウェールズのCOVID-19に係る死亡についての分析を報告した、3回の報告を発表している。第1回は2020年4月20日までの年齢20~64歳の2,494死亡、第2回は(死亡日に基づくのではなく)2020年3月9日から5月25日の間に登録された年齢20~64歳の4,761死亡、最新のものは2020年3月9日から12月28日までの年齢20~64歳の7,961死亡についてのものである。ここでは、3回目の発表の情報を提示及び検討する。
43. 各職業の人口数は、2019年に収集されたデータを用いて年次人口調査(APS)から入手した。APSは、ランダムに選択された世帯のメンバーに対するインタビューに基づいた、イギリスで最大の継続的な世帯調査である。この調査は、SOC2010マニュアルを用いてコード化された職業に関する情報を含め、様々なトピックをカバーしている。人口数は20~64歳の者に限定され、イングランドとウェールズに住む人々を代表するように重み付けされている。イングランドとウェールズのすべての通常の居住者のよりひろい人口についての死亡率は、2018年半ばの人口推計に基づいている。
44. 死亡診断書の死亡原因は、国際疾病分類第10版(ICD-10)を用いてコード化されている。SARS-CoV-2ウイルス(COVID-19)に関連する死亡には、ICD-10コードU07.1(COVID-19、ウイルスが同定されたもの)またはU07.2(COVID-19、ウイルスが同定されていないもの)の根本原因または何らかの言及があるものが含まれている。ONSは、その範囲外の者についての職業死亡率のデータが限定されることから、年齢制限を適用して、20~64歳の死亡者を選択した。この中には、情報提供者による死亡登録時に死亡診断書に職業が記録されている死亡のみが含まれた。この情報はその後、標準職業分類2010年版(SOC2010)を用いてコード化された。これは、職業をスキルレベルとスキルの内容から分類する、階層的コード化システムである。「スキル」は、特定の職業に関連した職務を実行する能力があるようになるのに必要な資格、訓練及び労働経験の性質と期間の観点から定義されている。管理職から「単純作業従事者」までの9つの大分類グループがあり(表2参照)、1から9(SOC1桁)の番号が付けられている。それらは、中分類グループ(SOC2桁)、小分類(SOC3桁)及び細分類(SOC4桁)に分類されている。
45. 分析は、10万人当たり年齢標準化死亡率(ASDR)(95%信頼区間(CI)付き)として示され、年齢標準化には2013年欧州標準人口が用いられた。職業は、9つの大分類グループ(SOC1桁)、25の中分類(SOC2桁)、90の小分類(SOC3桁)及び350弱の細分類(SOC4桁)の職業グループ別に分析された。
46. 2020年3月から12月末までの年齢20~64歳の者における、COVID-19に係る職業に関する情報を含んだ7,961死亡のうち、60%(4,761)は2020年3月から2020年5月末までの間に生じ、40%はその後に生じた。7,961死亡の3分の2近く、5,128(64.4%)が男性だったのに対して、女性は35.6%(2,833死亡)だった。男性のCOVID-19に係る死亡率は統計的に高く、労働人口の男性10万人当たり31.4死亡だったのに対して、女性は10万人当たり16.8死亡だった(表1)。
47. 労働年齢(20~64歳)の男性の死亡診断書のうち、全体で80.6%の死亡とCOVID-19に係る死亡の82.4%(4,225)が職業に関する情報を含んでいた。女性の死亡診断書で職業情報を含んでいた者は相対的に少なく、全体で69.0%とCOVID-19に係る死亡で61.5%(1,742)だった(付録表2[省略])。死亡数が相対的に少ないため、とりわけ女性で、SOC4桁職業の一部について結果の解釈は制限された。
48. 表2は、男性と女性について別々に、9つの大分類職業グループ別の結果を示している。
49. 男性では、一般人口の同年齢の男性と比較して、もっとも死亡率が高かったのは、単純作業従事者、接客・娯楽・その他のサービス職、工程・工場・機械の運転だった。女性では、一般人口の同年齢の女性と比較して、もっとも死亡率が高かったのは、工程・工場・機械の運転、接客・娯楽・その他のサービス職だった。
4桁SOCコード職業グループ
50. 付録表3[省略]は、男性の、4桁SOCコードでコード化された一定の職業についての結果を示し、付録表4[省略]は、女性の対応する結果を示している。
51. 表3及び4は、各々男性と女性の、付録表3及び4による主な知見を要約したものであり、一定の4桁SOCコード化職業を含んでいる。SOC2010-4桁データ別に定義された各職業グループについて、死亡数と10万人当たり死亡率(及び95%信頼区間)を示している。各職業グループについての相対リスク(RR)は、特定の職業についての10万人当たり死亡率を、全体の10万人当たり死亡率(労働年齢の男性10万人当たり31.4死亡、労働年齢の女性10万人当たり16.8死亡)で割って推計した。RRが以下に当てはまる職業を示したものである。
a. 2倍超かつ20以上の死亡登録あり
b. 2倍よりわずかに少ないが20以上の死亡登録あり
c. 2倍超だが死亡登録は20未満
52. RRは、男性で、最初の7つの4桁職業について3超であり(表3)、さらに8つは2超である。介護労働者/在宅介護者は、女性でRRが2超で死亡数の多い唯一の4桁カテゴリーであるが、理容師、縫製機械工、調理人、寮管理人や店の管理者など、死亡者数の少ないいくつかの他のカテゴリーがある。
53. 男性の運輸労働者についての結果は、一般の人々との接触の程度が異なる労働者が同じ業種に含まれていることから、とりわけ興味深い。2020年3月から12月の間の、タクシー・キャブ運転手の合計死亡(739)の3分の1近く(28%)、及びバス・コーチ運転手の合計死亡(367)の4分の1近く(23%)がCOVID-19によるものだった。これらのグループについて、死亡率とRRは高かった。これらは、一般の人々との頻回の接触が関係する職業である。しかし、男性の(一般の人々との接触が限られる)バン運転手と(一般の人々との接触が少ないかまたはない)大型商品車輛(LGVトラック)運転手についての死亡率はともに、全死亡率を少し上回るだけの、10万人当たり39.7であった。このことは、一般の人々との接触のレベルが高い職業(この場合タクシー・キャブ運転手とバス・コーチ運転手)は、一般の人々との接触の少ない類似の職業(例えばバン運転手や大型商品車輛運転手)と比較して、COVID-19死亡のリスクが高いという仮説を支持している。
54. ONSの死亡率は、年齢と性別について調整されており、剥奪、地域や民族などの他の要因については調整されていない。キャブ/タクシー運転手の率は他の運転グループと比較して著しく上昇しているようにみえるが、民族性を考慮した運転手のデータは現在のところない(段落34及び35参照)。2019/20年の運輸省のデータによれば、タクシー運転手の52%は白人の民族性をもち、37%はアジアまたはアジア系イギリス人であった。同様に、ロンドンのバス・コーチ運転手の高い割合が男性(93%)であり、非白人の民族性(79%)である。ロンドンのバス運転手の死亡の初期分析では、COVID-19による27死亡が確認され、そのうち20が黒人(41%)又はアジア(33%)の民族性の運転手で生じ、22%が白人の民族性であった。さらに、65歳超の運転手は労働人口の4%を占めるにすぎないにもかかわらず、死亡の18%は65歳超の運転手で生じたものだった。
55. 介護及び個人サービス職業で働く者のSARS-CoV-2への曝露の潜在的に高いリスクは、すでに強調された。この部門全体(SOC3桁コード614)についての死亡率は、男性で10万人当たり91、女性で10万人当たり38で、RRは各々2.9と2.2であった。最大の4桁SOCコード細分類グループは、介護労働者・在宅介護者である。2020年3月か5月末までの間に介護労働者・在宅介護者で204死亡あり、12月末までにさらに143死亡あった。男性で3倍超、女性で3倍近い死亡リスクがみられた。リスクは常に2倍超ではないものの、男性と女性双方の看護補助・助手及び男性の救急隊員を含めた他の4桁細分類グループについてもリスクの上昇がみられた。
56. 医療部門では、男性の看護士について2倍超のRRがみられ、女性の看護士についても同様の増加があった(表3及び4)。ONSは、(医師、看護士・助産師、看護助手、パラメディック、救急隊員及び病院の荷物運搬者を含む)医療労働者と(介護労働者・在宅介護者、社会的労働者、居住介護施設の管理者及び介護エスコートを含む)社会的介護労働者の、様々なSOC2010コードをグループ化した2つの大カテゴリーについても特別な分析を実施した。イングランドとウェールズで、男性(10万人当たり79.1、150死亡)及び女性(10万人当たり35.9、319死亡)の社会的介護労働者のCOVID-19に係る死亡率は、(年齢と性別について調整された)一般人口と比較して、2倍超であった。COVID-19に係る死亡率は、医療労働者については相対的に低く、2倍超ではなかった-男性で10万人当たり44.9(190死亡)と女性で10万人当たり17.3(224死亡)。しかし、異なるリスクをもつかもしれない労働者のかかる多様なグループを組み合わせることは、一部のタイプの労働者についての真の関連性を曖昧にしているかもしれない。表3及び4に示されるように、看護士や看護補助・助手などの個々の医療専門職では、死亡率の上昇がみられた。
57. 食品調理と接客職も、小売職と同じように、SARS-CoV-2への曝露の上昇が生じるかもしれない職場として、強調された。表3に示されるように、男性と女性の双方でこれらの産業のいくつかの職業で、RRの上昇がみられた。懸念される他の分野には、保安、清掃、地方・国の行政、郵便や理容が含まれる。
強さと限界に関する議論
58. ONSが認めているように、使用したデータは様々なバイアスがかかっているかもしれない。潜在的な問題のひとつは、死亡と分母の人口が異なる時点や異なるデータシステムで(職業別に)分類されていることから、分子-分母バイアスが生じることである。分子データは死亡診断書からのものであり、男性の比較的高い割合(18%)と女性の非常に高い割合(40%)について、職業が欠落している。分子-分母バイアスは、職業の非記録が体系的にバイアスされている場合に生じるかもしれない。一般的にこの問題はマイナーである可能性が高いが、他のいくつかの職業は記録される可能性が低いのに、医療労働者が情報提供者によって死亡診断書に職業が記録される可能性が高い場合、または、記録の正確さが職業によって異なる場合(例えば、中級事務労働者が「管理者」として記録される場合)、例外があるかもしれない。ONSは、死亡診断書に記録されている職業は、死亡時の職業ではなく、死亡者の主な生涯の職業を反映しているかもしれないと指摘している。ONSは、COVID-19に係る死亡率が高いことがわかった職業は、一般的に曝露が生じる可能性が高い職業に関する他の証拠と一致しているとコメントしている。
59. 分母のデータは、2019年に収集されたデータを用いた、年次人口調査(APS)からとっている。APSは、ランダムに選択された世帯のメンバーへのインタビューに基づいた、イギリスで進行中の最大の世帯調査である。この調査は、職業に関する情報を含む様々なトピックをカバーしており、職業に関する情報はその後SOC2010にコード化される。人口数も20~64歳に限定されており、イングランドとウェールズに住む人々を代表する世に重み付けされている。このような調査が完全に包括的であることはけっしてなく、常に何らかのバイアスの影響を受ける。
60. さらなる潜在的な問題は、負のバイアスの問題、すなわちCOVID-19に係る死亡で職業を原因とするものの過少カウントである。主席検死官(イングランドとウェールズ)は、雇用に起因する可能性のあるそのような死亡事例は、「確定的[prima facie]事例よりもはるかに低く、推測の根拠のみを必要とする」「低閾値検査」を用いて検死官に通知されなければならない、とあらためて主張している。このバイアスは大きなものかもしれない。検死官が死因審問に進むことを決定した場合には、通常は(登録不可能な)死亡事実証明書(CFD)、すなわち原因も職業も記録されないもの、のみが発行される。これは、こうした死亡は少なくとも1年間登録される可能性が低いことを意味し、それまではONSデータには含められない。
61. 死亡診断書に記録された原因も、不確実性や不正確さの対象となるかもしれない。ONSは、「COVID-19に係る」すべての死亡、すなわち死亡原因医学証明書の第1部の根本原因または第2部(一因)のどちらかにある場合、を含めている。これは、併存疾患と職業の間に関連がある場合(例えば保安部門の労働者が健康上の理由で第二のキャリアを追求した場合)、バイアスを導入したかもしれない。加えてONSは、例えば検査でSARS-CoV-2ウイルスが確認された(ICDコードU07.1)ものの、正式にはウイルスが確認されなかった(ICDコードU07.2)死亡も含めた。
62. ONSは、人口データが信頼できないとみなされた一部の4桁職業について、年齢標準化死亡率を計算することができなかった。そうした職業の大部分の死亡数は非常に少なかった。しかし、4桁SOCコード9139「他で分類されない単純な加工工場の職業」については、男性の100死亡と女性の25死亡があった。9139の職業には、エンジニアリング工場の職人・労働者、据付工/電気工助手、及び機械・作業場清掃員が含まれている。全体的3桁カテゴリー「単純な加工工場の職業」(3桁コード913)についての死亡率は、120死亡に基づき10万人当たり143.2の男性と33死亡に基づき10万人当たり49.9の女性で、2倍超だった。
63. COVID-19のリスク及びSARS-CoV-2に曝露する可能性に関するONSの結果の解釈はそれゆえ、幅広い仕事をを含めた9つの広く分類された1桁大分類グループの職業から、行う職務と仕事に関してより具体的に定義された4桁でコード化された職業までの、SOCコード内の集合性のレベルに部分的に依存している。より具体的な欠点は、4桁レベルでコード化された特定の職業の死亡数がかなり少ない可能性があることであり、実際にこれは女性のデータで生じた。これは、上述した医療労働者についての一見異なる結果に示されている。幅広い仕事とSARS-CoV-19への潜在的な曝露を伴う医療職業の大規模なグループについてのONSの分析では、COVID-19による死亡リスクの増加は示されなかった。しかし、男性では、4桁グループ「看護士」と4桁グループ「看護補助・助手」が2倍超のリスクがあった。女性では、それら2つのカテゴリーについてリスクは上昇したものの、2倍ではなかったが、はるかに少ない死亡数に基づいたものであった。
64. 接客・娯楽サービスの管理者・所有者(3桁SOC 122、26死亡、死亡率10万人当たり35.1)、理容師・関連サービス(3桁SOC622、26死亡、死亡率10万人当たり39.8)及び組立工・定型操作者(3桁SOC 813、21死亡、死亡率10万人当たり39.2)については、3桁SOCコードレベルで、女性で2倍超のリスクがみられた。男性では、3桁SOCコード 331、保護サービスの職業(警察事務員、消防・刑務所サービス、警察地域支援スタッフ、その他の地域保護専門職)がCOVID-19による2倍超の死亡リスクを示し、67死亡、死亡率10万人当たり71.2であった。
65. ONSの死亡率は年齢調整されているが、剥奪、民族性や地域などの他の変数については調整されていない。これらの調整によりASDRの違いが減少するかもしれない。しかし、上述したいくつかのASDRの大幅な2倍(超)化が、そのような調整によって取り除かれる可能性は低い。他方、そうした調整が行われれば、表3及び4のリスクの上昇の一部を下げる可能性(及び2倍未満になる可能性)を排除することはできない。これはとりわけ、同じ幅広い職業カテゴリー内で比較することが可能な運輸労働者について当てはまる。また、(一定の職業における高い死亡率が民族性または剥奪領域によるのではなく)一定の民族グループまたは領域でみられる高いCOVID-19死亡率は職業曝露によるものかもしれない。現在のところ、これらの疑問は解決されていない。2020年7月末までのCOVID-19死亡における民族的違いに関するONSの報告も、「対面職業など、リスクのある職業で働く民族グループ間の不均衡が決定要因になっている可能性がある」と指摘している。
RIDDOR
66. COVID-19の発生と死亡に関するもうひとつの情報源は、安全衛生庁(HSE)によって収集されている、2013年傷害・疾病・危険事象報告規則(RIDDOR)のデータである。RIDDORは使用者に対して、死亡または重度の障害を引き起こした労働関連災害、一定の職業病と診断された症例及び「危険事象」、すなわち重大な危害を引き起こす可能性のある事象を、執行当局(すなわちHSEまたは地方当局)に報告する法的義務を課している。正確な疾病の報告は、職業曝露に対する疾病症例の信頼できる帰属に依存する。これは、感染が一般社会で蔓延していることから、COVID-19の場合、とりわけ困難である。
67. COVID-19とSARS-CoV-2に関するHSEのガイダンスは複雑であるが、以下のように要約することができる。
以下の場合に、RIDDORに基づく報告がなされるべきである。
・労働における者(労働者)がコロナウイルスへの職業曝露に起因するCOVID-19に罹患していると診断された(「疾病症例」としての報告)
・労働者がSARS-CoV-2への職業曝露の結果として死亡する(労働関連死亡としての報告)
・労働における災害または出来事が危険事象として報告されたSARS-CoV-2の飛散または漏えいにつながった、若しくはつながった可能性がある
68. ある者の労働の性質とSARS-CoV-2に曝露するリスクの増加とを関連付ける合理的な証拠があるかどうかを判断するために、HSEガイダンスは、労働活動が、SARS-CoV-2曝露のリスクを増加させたか、曝露のリスクを増加させる何らかの具体的な特定できる出来事があったか、またはその者の労働が直接、効果的な管理措置なしに、既知のSARS-CoV-2ハザードとの接触をもたらしたかどうかを考慮しなければならないと指示している。
69. HSEガイダンスは、職業曝露が疾病の原因として判断されるには、一般的な社会的曝露ではなく、その者の労働がSARS-CoV-2への曝露源であった可能性のほうが高かったのでなければならないと指摘している。この点で、感染しているわかっている者と働くのではなく、一般の人々と働くことは、それ自体ではCOVID-19の診断が職業曝露に起因する可能性があることを示すのに十分とはみなされない。職業病の通常の診断に対するのとは異なり、実用的理由からHSEは、例えば検査結果に基づくなど、登録された医師による書面による診断なしにCOVID-19症例を報告することができると認めている。
70. HSEによって公表されるRIDDORに関する国家統計は、データの制限、とりわけ症例の過少報告のために常に疾病報告を含んでいるわけではない。しかしHSEは、COVID-19について、RIDDORデータの技術概要を発表している。これは、相対的に厳密に検証された国家統計としてではなく、「管理情報」として発表されているものである。IIACの本報告のために検討された最新の技術概要は、2020年4月10日から12月12日までの期間に執行当局に通知された報告を照合した。このデータは、大ブリテン(GB)、すなわち北アイルランドを除いて、職業曝露によって引き起こされたことを示唆する「合理的」証拠があった労働者の17,895COVID-19症例があった(223死亡を含む)ことを示している。
71. COVID-19のRIDDOR(GB)通知の週別合計数は、ONSによって報告された一般人口における死亡のピークよりも2週間遅れて、2020年5月2日で終わる週に1,183件(23死亡を含む)でピークを示した。少なくともHSEの12月に発表された2020年概要報告に示されたデータからは、RIDDORにおける第二波は週別第一波のRIDDORピークを超えなかったものの、RIDDOR通知の数は、同様に一般人口の傾向を追って、8月末に再び上昇しはじめた。報告のパターンは2020年全体を通じて異なっていた。医療・社会的介護活動に対して記録された報告の割合は、53%に対して78%で-第一波(4月10日から8月)のほうが第二波(9月から12月12日)よりも多かった。対照的に、教育と製造の組み合わせは、第一波の全報告の2%未満だったが、第二波でなされた全報告の約17%を占めていた。これは、7月に経済が再開し、それから他の部門からより多くの報告がなされたことに部分的に起因している可能性がある。また、職場におけるリスクに対する意識の高まりも反映しているかもしれない。
72. 表5は、標準産業分類(SIC)で定義された業種別の、HSEの2020年12月の技術概要による通知数を示している。これは、ONSが用いたSOCコードと直接比較することはできず、より広範なグループになる傾向がある。例えば、「人間の健康と社会的介護活動」の業種には、看護士、清掃員、総務職やコンピュータプログラマーなどの多様な職業が含まれる可能性がある。表5に示された通知と死亡の70%超は、この業種についてのものだった。この業種の2つの主要なディビジョンである「人間の健康活動」と「在宅介護活動」について、同等の数が報告された。「個人サービス活動」(理容・美容、身体的健康活動、洗濯・ドライクリーニング、荷物運搬等を含む)、宿泊(ホテルその他の宿泊)及び製造、とりわけ食品製造(飲料を除く)も、多数の報告があった。
73. 北アイルランド[NI]では、RIDDORは北アイルランドのHSEに対して報告され、収集されている。HSENIからのコミュニケーションによれば、2020年3月18日から8月12日の間に、HSENIが受け付けたCOVID-19(または同義)に係るRIDDOR報告の合計数は814だった(1死亡を含む)。814件の報告のうち、811件は医療・社会的介護部門に関連し、2件は消防・救助部門関連、1件は製造関連だった。しかし、ガイダンスやデータ収集における違いから、データセットを結合すること、または例えば業種別の信頼できる比較をすることはできない。
74. HSEは、広範囲にわたる症例の過少報告や労働者が雇用される業種のコード化における誤配分を含め、RIDDORデータにおける様々な欠点を認めている。とりわけ、在宅及び社会的介護の労働者は、宿泊業または個人サービス業で働いていると誤って記録されることが多い。加えて、HSEの技術概要では、2020年4月10日より前に通知されたデータが除外されている。概要は、例えば運輸業など、感染していることがわかっている者ではなく、一般の人々に対処する仕事の労働によるCOVID-19症例を除外する傾向があるかもしれない。にもかかわらず、登録された医師が労働関連要因の重要性を強調した症例を受け入れたことが、食品製造などの業種における報告数につながった可能性がある。RIDDORデータは、COVID-19症例が発生している職業についての有用な追加情報を提供するが、多くの、おそらくはすべての職業における潜在的な過少報告を含め、上述した限界に照らしてデータを解釈する必要がある。
職業とSARS-CoV-2による感染率
SARS-CoV-2感染率と職業
75. SARS-CoV-2による感染のリスクに関する情報は、一般の人々と職業部門別の双方について、ますます入手できるようになっている。イギリスとその他の国における検査へのアクセスは、医療などの部門が優先されて、初期の数か月間は制限されていた。多くの研究はそれゆえ便宜的であり、医療環境での感染に商店をあてていた。検査の利用可能性によってもたらされるバイアス、組み入れと思い出しのバイアス、サンプルサイズが小さいまたは参加率が不明瞭、コンパレーター母集団の欠如、不正確な曝露推定、交絡因子の制御の欠如、及び結果に関する不十分な情報によって、解釈は制限される。
医療労働者
76. Chouらは、2020年10月までに、医療労働者の感染率についての85の研究を確認した。SARS-CoV-2の発生率はRT-PCR検査に基づいて0.6%から50%の範囲であり、有病率は抗体検査に基づいて1.6%から32%の範囲であった。Galanisらは、127,480人を対象とするSARS-CoV-2抗体についての49の研究の系統的レビューとメタアナリシスを実施した。このうち7つがイギリスのものだった。全体的なSARS-CoV-2抗体の血清有病率は8.7%(95%CI 6.7,10.9%)だった。イギリスの研究では、6%から44%の範囲の有病率が報告された。医療労働者の感染率のこれらの違いは、地域社会の有病率の変化、労働者の役割や感染患者との接触の程度、サービスの通常の能力がゆがめられた程度、保護機器の利用可能性と使用、及びおそらくその他の諸要因を反映している可能性がある。
77. Houlihanと同僚は、2020年3月26日から4月8日までの間、ロンドンの病院でリスクの高い第一線医療労働者200人をリクルートした。23%は募集時にSARS-CoV-2抗体の証拠があり、1か月後に再検査された181人の被験者の45%が陽性だった。21%がRT-PCR検査で陽性であり、感染率は集中治療室で働く者の37%から急性入院室で働く者の51%まで様々だった。感染は約半数の症例で無症候性だった。
78. 別のロンドンの教育病院での同様の研究では、2020年3月18日から5月3日までの間の、SARS-CoV-2についての1,045人の労働者(全体の約11%)のスクリーニングからウイルス学と労働者の病気の結果が報告された。医療労働者のSARS-CoV-2感染率は、地域の症例数と並行して、大幅に増減していた。白人と非白人の民族グループは同様の感染率を示した。臨床スタッフは、非臨床スタッフ(2.8%)よりも検査で確認された感染率が高かったが(7.3%)、総病気率は同様であった。感染率は、救急医療で働く者の17.3%、急性医療で働く者の10.4%から、薬局の労働者で1.9%、女性のサービスで2.4%まで様々であった。全員がPPEの使用を助言されていた場合には、救急部門での感染率が下がっていた。筆者らは、労働者の感染の多くは地域感染によって引き起こされていると結論づけたものの、感染の局所的クラスターを示した部門別のデータが患者からの感染が生じたかもしれないことを示していることを認めている。
79. Pallettらは、2020年4月8日から6月12日までの間に、ロンドンの2つの病院の以前に症状のあった労働者と無症状の労働者のサンプルのSARS-CoV-2抗体を測定した。6,400人のスタッフの22%がCOVID-19感染と一致する症状を経験し、検査を受けた労働者の47%(622/1,391)が抗体検査が陽性だった。405人の無症状の労働者の10.6%も抗体検査で陽性だった。労働者における抗体検査陽性の全体的有病率は18%と推定された。著者らは、それを一般的なロンドンの人口についての7.1%という数字と比較した。
80. Grantらは、2020年5月15日から6月5日までの間に、SARS-CoV-2抗体検査を自己照会した別のロンドン病院の労働者の約半数(対象者2,167人)を調査した。抗体は32%で検出され、一般的なロンドンの人口における率の約2倍だった。対象者の67%は、患者との直接の接触が長く続いたと報告し、他者よりも検査結果が要請である可能性が高かった(35%、p<0.005)。COVID-19病棟で働く者(41.3-42.0%)は、非臨床的な仕事をしている者(22.6%)と比較して感染率が高かった。集中治療室のスタッフの率は25.0%と比較的低かった。しかし、曝露を防ぐための管理措置は考慮されていない。
81. Eyreらは、主に2020年5月の最初の3週間に、オックスフォードの4つの病院で働く労働者の77%(13,800人中10,610人)のボランティア調査の結果を報告している。全体として、対象者の11.2%は、RT-PCR(2.9%)、抗体検査(10.7%)、またはその双方による感染の証拠があった。イギリス全体の血清有病率は、ほぼ同時期(2020年5月28日)に6.8%だった。
82. 検査結果陽性のリスク要因には、確認された症例との家庭内接触(38.5%対10.7%)、PPEなしでの感染した患者との接触(17.0%対9.6%)、及びCOVID-19患者の世話をする病棟での労働(22.6%対8.6%)が含まれる。荷物運搬人・清掃員がもっとも高く(18.6%)、次に理学療法士・作業療法士・言語療法士(14.9%)、看護士/医療助手(14.2%)が続いた。率はまた自己報告した民族性によって異なり、白人9.5%。アジア人16.8%、黒人18.0%、中国人7.5%、混血1.6%であった。多変量解析の結果は、既知の症例との家庭内接触(調整済みOR 4.82、95%CI 3.45-6.72)、COVID-19対面領域での労働(調整済みOR 2.47、95%CI 1.99-3.08)、及び職場での曝露に関連するリスクの増加が示された。PPEなしでの疑われるまたは既知のCOVID-19陽性患者への職場曝露(調整済みOR 1.44、95%CI 1.24-1.67)に関連したリスクの増加を示している。
83. 個々人についてのユニークなコミュニティ保健指標(CHI)を得るために、2020年3月1日にNHSにより雇用されていたスコットランドの医療労働者全員のコホートが、スコットランドでNHSによるケアを受けるために登録された全患者の登録であるCHIデータベースと関連付けられた。CHI数は、医療労働者に関するこれらのデータを、SARS-CoV-2ウイルス学的検査についての個人レベルの臨床情報、一般的入院データ、コミュニティの記述、救急救命入院、及び死亡の全国登録を含んだいくつかのスコットランド規模のデータセットと関連づけたコホートをつくりだすために用いられた。CHIデータベースはまた、自らは医療労働者ではないが、医療労働者と世帯を共有しているすべての個人の識別も可能にした。
84. コホートは、57%が患者と対面する、158,445人の医療労働者と229,905人の世帯員で構成された。年齢18~65歳の入院の17.2%(360/2,097)は、医療労働者またはその世帯員のものだった。年齢、性別、民族性、社会経済的剥奪及び併存疾患について調整した後、患者に対面しない医療労働者とその家族におけるCOVID-19による入院のリスクは、一般人口のリスクと同様であった。患者に対面しない医療労働者と比較して、患者に対面する医療労働者(ハザード比(HR)=3.30、95%CI 2.13-5.13)は、患者に対面する医療労働者の家族(HR=1.79、95%CI 1.10-2.91)と同様に、入院のリスクが高かった。患者と対面する医療労働者を、「正面玄関」、集中治療室、及び非集中治療室のエアロゾル生成環境その他で働く者に細分化すると、正面玄関の役割を担う者がより高いリスクにさらされていた(HR=2.09、95%CI 1.49-2.94)。著者らは、医療労働者が早期に発症し、COVID-19の一定の重症度で生存率が改善する可能性があり、及び/または、入院の閾値が低い可能性があるとコメントしている。
85. Iversenらは、29,884人のデンマークの医療労働者(参加率97%)と、4,672人のランダムに選択された18~64歳の献血に対してSARS-CoV-2抗体検査を実施した。血清有病率は、献血者よりも医療労働者の方が有意に高かった(4.04%対3.04%、RR=1.33、95%CI 1.12-1.58)。第一線病院労働者は残りの医療労働者と比較して(4.55%対3.29%、RR=1.38、95%CI 1.22-1.56)、専用COVID-19病棟で働く者と同じように(7.19%対他の第一線労働者についての4.35%、RR=1.65、95%CI 1.34-2.03)、有意に高い血清有病率を示した。
86. Jespersenらは、デンマーク中部の17,987人の医療労働者と管理スタッフ(全体の69%)、及び360人の献血者に対して同様の抗体調査を実施した。全体的な陽性抗体率は、医療労働者で3.4%、献血者で0.6~1.2%であった。検査結果陽性率は1.2%~11.9%の範囲で、地域差が顕著だった。検査結果陽性率は若い労働者のほうが高かった。有病率の高い領域では労働の種類との関連があり、秘書と比較したaHRは、看護師で7.3(95%CI 3.5-14.9)、医師で4.0(95%CI 1.8-8.9)、及び(瀉血を実施し、またそれゆえ患者と密接に接触する)検査室スタッフで5.0(95%CI 2.1-11.6)であった。双方の検査を受けた4,364人の労働者では、以前SARS-CoV-2PCR陽性であったことと密接な関連があった。
87. Simsらは、ミシガン州の8つの病院で43,000人のスタッフのうち20,614人に対して抗体検査を実施した。 8.1%が陽性だった。年齢、民族性、職種と関連があった。直接患者ケアを行っている者(9.5%、95%CI 9.1%-10.0%)は、そうでない者(7.0%、95%CI 6.3%-7.6%)よりも血清陽性率が高かった。最大の接触(瀉血、呼吸療法、及び看護スタッフ)のある者(11.0%、95%CI 10.4%-11.7%)は、最大の直接的な患者との接触(医師または臨床サポート(7.4%、95%CI 6.7%-8.0%))よりも有意に高い率であった。フェイスマスクの使用は、血清陽性率の低下と関連していた。
医療・社会的介護労働者を含めたコミュニティ研究
88. イングランドに住み、2020年に65歳未満で生存し、ベースラインデータ収集(2006~2008年)で雇用または自営であった、UK Biobankコホートの参加者の記録が、イングランド公衆衛生サービスによるSARS-CoV-2検査結果(2020年3月16日から7月26日)と関連付けられた。ベースラインで収集された職業データと、2014年4月30日から2019年3月7日の間(中央値2017年8月)UK Biobank Imagingに参加するため診療所を訪ずれた際にさらなるデータ収集に参加したコホートのサブサンプル(n=12,306)について収集された職業データとの比較が行われた。ベースライン時の職業とフォローアップの間に、参加者が同じ職業で働き続けた可能性が高いことを示す高い相関(r=0.71、p<0.001)がみられた。分析では、ベースラインの人口統計的、社会経済的、労働関連、健康及びライフスタイル関連のリスク要因について調整された。120,075人の参加者のうち、271人が、病院で行われた検査結果陽性として定義された、重度のCOVID-19に感染していると判定された。
89. 年齢、性、民族性、及び出生国について調整した後、必須ではない労働者に対して、医療労働者(RR=7.43、95%CI 5.52-10.00)、社会的及び教育労働者(RR=1.84、95%CI 1.21-2.82)、及びその他の必須労働者(RR=1.60、95%CI 1.05-2.45)は、重度のCOVID-19のリスクが高かった。医療支援スタッフはとりわけリスクが高かった(RR=8.70、95%CI 4.87-15.55)。
90. Nguyenらは、COVID症状調査スマートフォンアプリ(Zoe Global Ltdが開発)を通じて自発的に情報を報告した第一線医療労働者を含む、イギリスとアメリカの一般コミュニティの前向きコホート研究の結果を報告している。210万人のユーザーの4.7%が医療労働者であると自己認識していた。2020年3月23日から4月23日までの間にSARS-CoV-2検査結果陽性の報告が5,545件あった。第一線医療労働者は、他の労働者よりも11.6倍検査結果陽性を報告する可能性が高かった(調整済みHR=11.61、95%CI 10.93-12.33)。この関連性は、アメリカ(調整済みHR 2.80、95%CI 2.09-3.75)と比較して、イギリス(調整済みHR=12.52、95%CI 11.77-13.31)でより顕著であった。
91. 医療労働者は、SARS-CoV-2検査を受ける可能性が他者よりも4~5倍高く、検査陽性率が高いことは、検査の適格性に部分的に関連している可能性があることを示唆している。検査の予測因子の重み付けをしたさらなる分析でも、第一線医療労働者の間で感染のリスクが相対的に高いことが示され(調整済みHR=3.40、95%CI 3.37-3.43)、これは、アメリカよりも(1.97、95%CI 1.36-2.85)、イギリスでより高かった(3.43、95%CI 3.18-3.69)。著者らはまた、SARS-CoV-2感染を予測可能な症状の組み合わせの発症が、医療労働者でより一般的であると指摘している(調整済みHR=2.05、95%CI 1.99-2.10)。医療労働者の間では、COVID-19が記録されている患者のケアを報告(調整済みHR=4.83、95%CI 3.99-5.85)、COVID-19が疑われる患者のケアを報告(調整済みHR=2.39、95%CI 1.90-3.00)、及び不適切な個人用保護機器を使用(調整済みHR=5.91、95%CI 4.53-7.71)した者について、リスクの増加があった。
92. ONSは、2020年4月26日から6月27日まで、RT-PCRを用いてSARS-CoV-2感染について一連のコミュニティ調査を実施した。そうした役割で働いていない者の0.27%(95%CI 0.22-0.34%)と比較して、患者と対面する医療または居住者と対面する社会的介護の役割で働いていると報告した者の1.58%(95%CI 0.99-2.38%)が、検査結果陽性であった。2020年9月2日から10月16日の間に実施されたその後の分析では、居住者に対面する介護施設労働者の症例は見られず、患者に対面する医療労働者の感染率(0.37%、95%CI 0.25-0.54%)と他の専門職の率(0.44%、95%CI 0.39-0.49%)の間に著しい差はみられなかった。
93. 2020年5月から11月の間に実施されたREACT-1のRT-PCR調査は、年齢、性、民族、世帯規模、COVID-19接触歴、症状、及び雇用の種類別の感染率の違いを示した。2020年5月に実施された第1ラウンドの検査では、医療及び介護施設労働者の感染率は、その他の労働者(0.09%、95%CI 0.06-0.13%)と比較して、高かった(0.50%、95%CI 0.33-0.76%)。2020年5月19日から7月7日までの間に実施された第2ラウンドの検査では、医療/介護施設労働者(0.09%、95%CI 0.04-0.18%)とその他の労働者(0.08%、95%CI 0.06-0.11%)の間で感染率に有意な差はなかった。2020年11月までのその後のラウンドでも、職業グループ間に有意な差はなかった。
94. REACT-2の抗体調査はまた、医療労働者と社会的介護労働者の感染率が高いことを確認した。2020年6月20日から7月13日までの間に実施された第1ラウンドの検査では、自己報告による患者に対面する医療労働者の12.91%(95%CI 11.61-14.32%)及び自己報告による顧客に対面する介護施設労働者の19.56%(95%CI 16.42-23.10%)で検査結果が陽性だった。これは、その他の労働者の6.50%(95%CI 6.20-6.82%)と比較された。「その他の労働者」の検査結果陽性の割合は、第3ラウンドの検査(9月15~23日)までに4.35%(95%CI 4.1-4.56%)に低下し、また、顧客に対面する介護施設労働者の11.09%(95%CI 8.96-13.59%)に低下した。患者に対面する医療労働者では、わずかに増加して13.37%(95%CI 12.33-14.47%)になった。これは、医療労働者の感染リスクが他のグループよりも継続的に高いことを示唆しているが、以前に感染した者の抗体レベルの低下と重なっているため、定量化することはできない。
その他の労働者
95. 医療労働者や社会的介護労働者と比較して、他の労働者グループにおける感染のリスクについてこれまでに発表された情報ははるかに少ない。
96. ONS感染調査では、4月26日から6月27日までの間に、自宅で働いていると報告した者(0.15%、 95%CI 0.07-0.28%)と比較して、自宅の外で働いていると報告した者(0.56%、95%CI 0.59-0.77%)の方がCOVID-19感染率が高かったことを示している。
97. UK Biobank調査は、必須でない労働者と比較して、社会的及び教育労働者(RR=1.84、95%CI 1.21-2.82)及びその他の必須労働者(RR=1.60、95%CI 1.05-2.45)の重度のCOVID-19の率が高いことを示した。4桁SOCコードにコード化された職業は、5つの幅広いグループ(非必須労働者、医療労働者、社会的及び教育労働者、警察及び保護サービス、並びに「その他」の必須労働者。「その他」の必須労働者はさらに8つのより緻密なカテゴリーの必須労働者-医療専門職(例えば医師、薬剤師など)、医療関連専門職(例えば看護士、救急医療従事者など)、医療支援スタッフ(看護助手、病院荷物運搬者)、社会的介護労働者、教育労働者、食品労働者、運輸労働者、警察及び保護サービス(衛生サービス労働者を含む))に分類された。社会的介護(RR=2.46、95%CI 1.47-4.14)及び運輸労働者(RR=2.20、95%CI 1.21-4.00)は、より幅広いグループのなかでもっとも高いリスクをもっていた。白人の非必須労働者と比較して、非白人の非必須労働者はリスクが高く(RR=3.27、95%CI 1.90-5.62)、非白人の必須労働者はもっともリスクが高かった(RR=8.34、95%CI 5.17-13.47)。SOC2000の主要なグループを用いると、准専門職・技術職、個人サービス職、及びプラント・機械操作員は、管理者・上級公務員と比較してリスクが高かった(注:著者らは、社会経済的状況、ライフスタイル要因、併存疾患など、他のいくつかと、上記の共変量について調整する様々なモデルを用いて、いくつかの分析を実施した)。しかし、この調査の一部の職業カテゴリーでは、例えば食品労働者は7人だけなど、重度のCOVID-19の参加者が少数であることに注意する必要がある。
98. ノルウェーの全人口を対象としたある研究は、20~70歳の約350万人の居住者を対象に、国際標準職業分類(ISCO-8)にコード化して、他者(生徒/学生/患者/顧客を含む)との密接な接触を一般的に伴う職業の労働者が、ノルウェーでの感染の第一波(2月から7月)と第二波(7月から10月)で、COVID-19及び関連する入院のリスクが高かったどうかを調査した。看護士、医師、歯科医、及びバス・路面電車運転手は、労働年齢の全体と比較して、感染の第一波の間にCOVID-19のリスクが2倍超であった。エピデミックの第二波では、これらの職業について過剰なリスクはみられなかった。バーテンダー、ウェイター、食品サービスカウンター係、タクシー運転手、旅行添乗員は、労働年齢の全体と比較した場合、COVID-19のオッズが1.5〜4倍高かった。教師は、どちらの波でも、COVID-19のリスクが増加していないか、中程度にしか増加していなかった。ORが7.66だった歯科医(95%CI 3.17-18.5)とORが1~2倍増えた就学前教育教師、保育士とタクシー・バス・路面電車運転手を別にして、含まれた職業のいずれも、労働年齢の全体と比較して、入院によって示されるCOVID-19の何らかの特段の増加はなかった。著者らは、いくつかの職業では入院がなく、多くの職業では信頼区間が広い少数の症例があったと指摘している。
コメント
99. 医療労働者の研究の多くは、COVID-19感染率が高いことを示してきた。感染率は、一般的な人口調査で報告されたものより一般的に高いが、対照集団と直接比較した研究はほとんどない。医療労働者の間で検査へのアクセスがより容易に利用できることが、いくつかの研究で示された高いリスクの原因になったかもしれない。この潜在的なバイアスは、例えばBiobankやNguygenの研究など、レビューしたコミュニティベースの研究の一部でも発生した可能性があり、参加バイアスはこれらの研究のリスクである。ランダムな母集団サンプルを得ようとした他の研究は、そのバイアスの影響を受けた可能性が低い。
100. コミュニティ研究は、一般的に、流行の初期段階にある他の労働者と比較して、医療労働者及び社会的介護労働者の感染率が高いことを指摘している。
職場におけるクラスター及びアウトブレイク
101. 様々な職業環境でのCOVID-19のアウトブレイクとクラスターに関する多数の報告がなされてきた。欧州連合、欧州経済領域(EU/EEA)及びイギリス(UK)の15か国からの報告では、2020年3月から7月上旬に発生した1,376件のCOVID-19クラスターについて記述している。報告された職業性COVID-19クラスターの大部分は医療部門からのものであり、食品包装及び加工部門、工場、製造業、及び事務所環境からも多数のクラスターが報告された。
102. イギリスのクラスターは食品加工、また小売及び販売においてだった。例えば、アングルシー島の鶏肉加工工場でクラスターが確認され、560人の従業員のうち58人が現場のスタッフにCOVID-19の確定症例があった。別のクラスターが、ヨークシャーの食肉工場でみられ、165人の労働者がCOVID-19の検査結果陽性であった。
討論
103. 本文書は、2020年のイギリスの労働者の健康に対するCOVID-19パンデミックの影響に関する証拠について報告している。証拠を評価する際に委員会は、職場でのSARS-CoV-2感染の健康影響が、非職業性感染に起因するものと区別がつかないことに留意している。
104. この中間報告の焦点の多くは、死亡診断書に基づく職業性死亡率データ、とりわけ2020年から2021年初めにかけてONSによって作成された報告に置いている。これらのデータは、イギリスで最初に出現した職業データであり、本報告の作成時まで、職業リスクに関するもっとも包括的な情報源であり続けている。SARS-CoV-2への曝露パターンに関する情報とともに、職業別の感染率及び入院率に関するその他の情報も評価されている。
105. 本報告は主にSARS-CoV-2感染に関連する死亡を扱っているが、委員会は、COVID-19罹患後症候群に関連する病的状態がかなりの健康負担と潜在的な長期障害を引き起こす可能性があることを認識している。現在のところ、COVID-19罹患後症候群の特徴とその職業との関連についての情報は、現在の報告でさらに検討するには不十分である。委員会は、追加情報が利用可能になり次第、この問題に対処する予定である。
106. 感染のリスクは、感染した者と直接接触したり、介護施設に住んだり、5人以上の者がいる世帯に住んだりすると増加することが示されている。職場での物理的な近接は、医療及び社会的介護環境における感染した者への近接と同様に、労働者の感染のリスクを高めるといういくつかの大規模な発生からの証拠がある。しかし、職場と地域社会の双方におけるCOVID-19の正確な感染様式に関する科学的証拠は限られており、量、曝露頻度、曝露期間に関するデータはほとんどない。さらに、距離置き、物理的障壁の使用、個人用保護機器などの職場での対策が感染の可能性を減らし、職業リスクを軽減する程度についての証拠は限られている。
107. ONSによって発表された死亡率データは、リスクの増加を示す職業は、主に一般の人々及び/または患者と定期的に接触している職業であることを示している。男性の場合、20人超が死亡した15の職業(SOC4桁)はCOVID-19による死亡のリスクが少なくとも2倍あり、食品加工、介護労働、運輸、保安、看護、国及び地方自治体の総務並びに小売労働でもっとも高い率だった。女性の場合、介護労働の死亡数が多く、死亡率も高かった。看護、縫製機械及び理容と同様に、死亡者数は少ないものの、食品加工や小売業も懸念された。
108. 結果は年齢について調整されていたが、民族グループ、居住地域及び剥奪などの他の要因については調整されていない。一部の職業の労働者の民族グループの分布は、居住地域、住宅の種類などの他の要因の分布と同様に、例えば運輸業では、一般人口のそれとは異なる。これらの要因を調整すると、職業に関連するリスクの推計が減少する可能性があるが、ONSデータで確認された高いリスクに実質的に影響を与える可能性は低い。
109. ONSの死亡率データは、リスクの一貫したパターンを常に提供するとは限らず、一部は男性では増加するが、女性または食品加工など同じ業種の異なるサブグループでは増加しない。これらの不一致の多くは、SOC 2010の4桁にコード化されたより具体的な職業での数が少ないことが原因である。労働者の慣行は異なるかもしれないが、同じ仕事をしている男性と女性のリスクが大幅に異なる可能性は低い。
110. 職業の集合性の異なるレベル間のリスクに一見異なる結果もある。例えば、グループ化された医療の職業の大規模なカテゴリーの分析ではリスクの増加は示されなかったが、特定の仕事、看護士、看護助手は、男性で2倍のリスク、女性では相対的に小さいものの、なおリスクの増加を示した。より具体的な職業の分析と比較して、含まれる仕事の範囲が広いため、より大きなグループの分析におけるSARS-CoV-2への曝露のリスクは希薄になる可能性がある。
111. 委員会は、利用可能な死亡率データにはいくつかの限界があるかもしれないことに留意している。職業は、とりわけ女性で、死亡診断書では過少報告されており、不正確である可能性がある。例えば、死亡直前の仕事ではなく、通常の仕事または最長の仕事が報告される場合がある。ONSデータには、検査結果陽性が確認された場合とされていない場合が含まれるが、病院での治療を受けた者についてはほぼ正確である可能性がある。検死官への照会率が高いことと、医療労働者において死亡報告が遅れたり、労働者が通常の役割から離れて再配置されたりすることも、結果に影響を与えた可能性がある。加えて、死亡のリスクはPPEの提供によって修正される可能性があるが、この情報を死亡診断書から直接推測することはできない。
112. RIDDORで使用される職業分類は、ONS死亡率データで用いられる職業分類と直接比較することはできない。しかし、全体的に多数の通知があり、致命的な通知がある職業は、ONSデータで死亡率が高い職業を反映する傾向があり、これには、人間の健康と社会的介護活動、運輸と倉庫、教育、及び個人サービス活動が含まれる。RIDDOR制度は、通知の要件についての雇用主の認識に依存しており、一般的な過少報告があることが認められている。また、パンデミックの様々な段階で報告された数の間で、いくつかの職業に著しい違いがあり、報告行動のパターンの変化を示唆している。しかし、RIDDORデータは、COVID-19の症例と死亡が発生する職業の有用な追加的指標を提供している。
113. 職場での感染リスクに関する初期の研究の多くは便宜的かつ小規模であり、主に検査がより容易に利用できる医療環境で実施された。そうした研究は、一般的に医療労働者の感染率が高いことを見出した。SARS-CoV-2ウイルスまたは抗体の検査を含むコミュニティ研究でも、医療労働者、とりわけ「第一線労働者」及び社会的介護労働者の感染率が他の労働者と比較して高い(いくつかは2倍超のリスクがある)ことが示されている。UK Biobankはまた、運輸労働者のリスクが2倍以上増加したことを示した。これらの研究の結果は、それが実施された日付と予防措置の使用に関するパンデミックの段階によって部分的に影響を受けたようである。例えば、REACT調査では、エピデミックの初期段階で発生率が上昇したことを示す傾向がある。それらはまた、2020年の夏にリスクが減少したといういくつかの証拠を提供している。
114. COVID-19パンデミックが労働者の健康に及ぼす影響に関する証拠に関する委員会の評価は、職業に関する入手可能な情報の不十分さを浮き彫りにした。上で強調した死亡診断書データの使用の問題に加えて、委員会は、感染率と入院率の研究のほとんどは、職業別の分析を含めることも、これについて調整することもできなかったことを指摘する。多くの医療データシステムでは、職業情報が日常的に収集されることはめったにない。
115. これらの問題は、異なるサブグループにおける職業関連のリスクの確認された格差の一因となった可能性がある。例えば、職業別の死亡に関するONSの分析で観察された性差は、女性の職業情報を含む死亡診断書の数が少ないこと、及び/または、職業情報の不正確さと不精密さを部分的に反映している可能性がある。白人の民族的背景をもつ者と比較して、白人以外の民族的背景をもつ者の感染、入院及び死亡のリスクにも格差がある。少数民族のバックグラウンドをもつ者は、より大きな(多世代の)世帯に住む可能性が高く、必須の労働者として雇用されることが多く、在宅勤務が可能でなく、他の労働者や一般市民との接触が多い仕事をしている可能性がある。これらの関連する特徴の影響を評価することは、依然として困難である。それらの評価でIIACは、一般に、関心のある疾病の競合する原因が明確に確立されている交絡因子以外は、交絡因子を考慮していない。加えて、現在の規定の多くに用いられた利用可能なデータは、しばしば限られていることに注意する必要がある。例えば、男性の研究しか利用できない場合があるが、これは関連する職業の女性が、IIDBを請求することを妨げるものではない。
結 論
116. この中間報告でIIACは、SARS-COV-2による感染の健康リスクに関連する証拠を検討し、情報の長所と短所についてレビューした。委員会は以下の証拠を見出した。
a. 一部の職場は、またそれゆえ労働者は、仕事と職場の特性に関連する曝露レベルが高いため、COVID-19のリスクが高くなる。
b. 医療、社会的介護、運輸の労働者は、とりわけパンデミックの第一波で、より高い感染率がみられている。重度のCOVID-19に罹患するリスクは、イギリスの社会的介護及び運輸労働者でも増加している。
c. 2020年3月から12月までのイギリスの死亡診断書の分析では、社会的介護、看護、バス・タクシー運転、食品加工、小売、地方及び国の行政と保安など、とりわけ男性のいくつかの職業で2倍超のリスクが示された。
d. これらの職業についてのCOVID-19の多数のRIDDOR疾病(死亡を含む)報告は、死亡データを反映している。RIDDORはまた、教育など他の職業における多数の症例についての証拠も提供している。
117. 委員会は、いくつかの職業とCOVID-19による死亡のリスクの増加との間に明確な関連があると結論付けているが、死亡率データの一貫性と範囲、及び剥奪などの要因についての調整の欠如は、証拠は現在のところあまりにも限られており、また、この段階での規定を正当化するための質を変化させることを意味していることを認める。職業とCOVID-19感染後の障害のリスクとの関連に関する情報は現在不足している。したがって委員会は、証拠は現在のところ規定に十分ではないと、全体的に結論付ける。しかし、いくつかの職業でリスクが倍増しているという証拠は、潜在的な規定への道筋を示しており、委員会は将来のデータがこれを知らせることを期待している。委員会は、職業曝露が「確実性のバランス」のうえに障害をもたらす疾病を引き起こすという十分に強力な証拠がある場合、またはそろったときに、規定を勧告する。
118. 委員会は、今後発表される論文や報告について文献を監視し続ける。委員会はいくつかの進行中の研究があることを知っている。委員会は、とりわけ労働者と職場についての大規模で質の高い研究、また、SARS-CoV-2への感染の死亡と長期的影響の双方に関するコミュニティベースの研究に関心をもっている。
予 防
119. COVID-19の発症には、ウイルス、SARS-CoV-2の人から人への感染が必要であるため、この病気を防ぐ唯一の方法は、ウイルスが感染者から感染していない者の鼻や口に感染するのを防ぐことである。予防措置は、感染者からのウイルスの飛散を最小限に抑えることにより、例えば顔を覆って人と人との物理的な距離を維持することにより、環境を介した感染を減らすことにより、例えば良好な換気を提供し、また、リスクにさらされている者を保護することにより、例えばバイザーと呼吸器の着用を要求することにより、感染を低減させることを追求する。しかし、複数の経路、すなわちエアロゾルの吸入、大きな飛沫の捕捉、汚染された表面との手の接触、により感染が発生する可能性があることから、労働者の完全な予防は不可能である。曝露レベルは職場によって異なる一方で、曝露を定量化することは困難であり、また無症候性の場合でも人々は感染性である可能性がある。そのため、関係する職場で実行可能な限り多くの管理を適用することが賢明であり、様々な管理措置が必要になる可能性がある。
120. これには、COVID-19リスク評価の実施、可能な場合は適切な物理的距離の維持、例えばスクリーンや適切なPPEなど、物理的障壁の使用、良好な換気の提供、及び手とタッチポイントの定期的な消毒の維持が含まれる。リスクの高い仕事、とりわけ医療、公共交通や小売など、感染の可能性のある者と密接に接触する場合、最善の管理を実現するためには、介入のレベルを比例的に高くする必要があるだろう。BOHSリスクマトリックス(付録表1を参照)は、管理戦略に関する一般的なアドバイスを提供している。職場予防に関する政府の公式アドバイスは、GOV.UKウエブサイト及びHSEウエブサイトから入手できる。
121. 薬理学的予防も発展しつつあり、ワクチン接種はもっとも明白な戦略である。まだ、これらの戦略の全体的な予防の可能性は不明であり、集団保護が想定されるまでにはかなりの時間がかかるだろう。ウイルスとその感染についてさらに学ぶにつれて、予防への最善のアプローチについての理解がさらに深まるだろう。
※文献/用語集/付録及び本文中に括弧書きで示された出典は省略した。