新たなEUのOSH戦略に寄与するための今後のEUのOSH執行優先課題に関する意見-2021年1月20日 [欧州連合]上級労働監督官委員会(SLIC)

はじめに

上級労働監督官委員会(SLIC)によるこの意見は3つの部分からなる。第1部は、一般的な紹介を提供するとともに、EUのポリシーコンテクスト及び現在のマクロレベルの傾向を設定する。これに基づいて第2部は、具体的な労働安全衛生(OSH)リスクと執行上の課題を示す。第3部でSLICは、新たな欧州連合(EU)のOSH戦略によって考慮されるべき、今後のEUのOSH執行優先順位、及び、新たなSLICの作業計画のなかで扱われるべき優先分野と今後の取り組みを提案する。

この文書全体を通じて、2020年初めに欧州を襲ったCOVID-19[新型コロナウイルス感染症]のアウトブレイクとそれが各国の労働監督官の機能に与えた、そしていまもなお与え続けている影響と労働監督官が遂行してきた活動を考慮に入れている。
SLICは、この意見を起草するにあたって、とりわけ以下の文書を考慮した。

  • 2014年6月の2014~2020年労働安全衛生に関するEU戦略枠組み(COM/2014/332)
  • 人に感染することが知られている生物学的因子のリストへのSARS-CoV-2の追加に関して欧州議会・理事会指令2000/54/ECの付録Ⅲを改正するとともに、委員会指令(EU)2019/1833を改正する2020年6月3日の委員会指令(EU)2020/739
  • SARS-CoV-2に職業曝露するまたは職業曝露する可能性のある労働者の安全衛生の予防及び保護に関する、2020年6月の委員会指令(EU)2020/739の欧州議会・理事会への提出を受けた委員会の声明
  • 2020年1月の委員会による欧州議会、理事会、欧州経済社会委員会及び地域委員会に対する通知、公正移行に向けた強力な社会的欧州
  • 2019年9月のウルズラ・ゲルトルート・フォン・デア・ライエン[現欧州委員長]の次の欧州委員会2019~2024年に向けた政治的ガイダンス、「より多くの人々のための連合:欧州のためのアジェンダ」
  • 2019年12月の欧州グリーンディール
  • 2017年11月の欧州における社会権の柱
  • 2020年6月8日に書面による手続で採択された、クロアチア[が議長を務める]理事会の結論、労働におけるウエルビーイングの強化
  • 2019年12月のフィンランド[が議長を務める]理事会の結論、労働安全衛生に関する新しいEU戦略枠組み:EUにおける労働安全衛生の実施の強化
  • 2019年6月のルーマニア[が議長を務める]理事会の結論、変化する労働の世界:新たなかたちの労働に関する考察と労働安全衛生との関わり
  • 2003年2月の自営業者の労働安全衛生の保護の改善に関する理事会の勧告
  • 2012年2月にSLICが提出した、2013~2020年EU戦略的優先課題
  • 2019年6月の労働安全衛生諮問委員会(ACSH)の、職場におけるよりよい安全衛生に向けて-今後の優先課題に関する意見
  • 2019年12月の労働安全衛生諮問委員会(ACSH)の、よりよくかつより広い保護、順守及び執行の確保に関する意見
  • 2020年4月24日のEU-OSHA[欧州労働安全衛生機関]の、COVID-19:職場への復帰-職場の適応と労働者の保護
  • 2020年4月6日のEU-OSHAの、COVID-19:職場のためのEU-OSHAガイダンス
  • 欧州労働監督機関を創設し、規則(EC)No 883/2004、(EU)No 492/2011及び(EU)2016/589を改正するとともに、決定(EU)及び2016/344を廃止する、2019年5月の欧州議会・理事会の規則
  • 2019年6月の、労働の世界における暴力・ハラスメントの根絶に関するILO第190号条約
  • 国連、2030年持続可能な開発アジェンダ、とりわけディーセントワークと経済成長に関する持続可能な開発目標8

第1部:EUのポリシーコンテクスト

1. EUの法律の効果的な執行は、労働環境の質を改善するための前提条件である。[欧州労働安全衛生]枠組み指令89/391/EEC第4条によれば、加盟国は、使用者、労働者及び労働者の代表が指令の実施に必要な法的諸規定の対象であることを確保するとともに、とりわけ適切な管理及び監督を確保するために必要な措置をとらなければならない。それゆえ全加盟国におけるEU労働安全衛生(OSH)法令の正確かつ同等の実施が不可欠である。枠組み指令第4条によって課された義務を満たすためだけではなく、[欧州]連合全体を通じて同じ最低レベルの労働者保護を保証するとともに、企業の公平な競争の場に貢献するやり方で指令の諸規定が適用されることを確保するためにもである。

2. 1995年に、国レベルにおけるEUのOSH法令の執行を監視するのに欧州委員会を援助するために、SLICは設立された(委員会決定95/319/EC、委員会決定2008/823/ECにより2008年に改訂)。SLICによって実施された活動の卓越性と関連性は国際レベルで認められており、また一般に、欧州と世界中における執行活動の組織及び実施のための基礎を提供している。

3. EUのOSH法執行の責任は加盟国の役割ではあるものの、国のOSH法令のよりよい順守を促進するのに委員会を援助するうえでSLICの果たしてきた中心的役割は、様々な最近のEUのポリシー文書のなかで、また社会パートナーによって強調されてきた。

4.  また、労働の世界一般ととりわけOSHに対して長期的な影響を与えるに違いない新型コロナウイルスである、COVID-19パンデミックが進行中という状況のなかで、EUのOSH法令の効果的かつ一貫した実施及び執行の促進はきわめて重要である。この点に関してSLICが果たす重要な役割が最近数か月の間に明らかになってきた。とりわけ委員会は2020年6月に発表された声明のなかで、生物学的因子指令のなかで規定された、COVID-19を引き起こすウイルスの分類に関連した義務の加盟国による厳格な実施を確保する執行活動の支援を行うようSLICに呼びかける意向であると表明した。そのような活動は柔軟なアプローチをとるべきであり、また関連する場合には公衆衛生当局と協力して実施されるべきである。

5. ACSHは、加盟国によるOSH法令の執行を促進することは、現在のEUのOSHポリシーの優先事項のひとつであり、あらゆる今後のEUのOSH枠組みイニシアティブのアジェンダにおいても高く位置づけられ続けるべきであると強調した(2019年6月のACSH意見)。

6. これに関連してACSHは、とりわけ監督の共通原則、キャンペーン及び労働監督官交流/訓練プログラムの確立を通じた、加盟国の執行ポリシーのよりよい調整を促進するうえで委員会を支援するSLICの役割は、適切な資源を通じて強化及び適切に維持される必要があると強調した。

7. ACSHはよりよくかつより広い保護、順守及び執行の確保に関するその意見(2019年12月)のなかで、労働監督官は、SLICによって開発されたしっかりしたレベルの知識と適切な能力を備えていなければならず、また、SLICガイダンスに基づいて適切に訓練を受けていなければならないと強調した。

8. 季節労働者を含め、モバイル労働者の権利を保護するとともに、企業間の公正な競争を促進するために、労働移動の領域で[欧州]連合法の国境を越えた執行を改善することがきわめて重要である。この目的を達成するために、とりわけ、連合をまたがった労働移動に関連した連合法の一貫した、効率的かつ効果的な適用及び執行におけるEU加盟国間の順守及び協力を支援し、連合内における社会保障制度の調整において、加盟国と委員会を支援するために、2019年に欧州労働監督機関(ELA)が設立された。

9. 2020年1月に委員会は公正移行に向けた強力な社会的欧州に関する通知を発し、欧州における社会権の柱の実施に寄与するであろういくつかのイニシアティブの計画を示した。なかでも委員会は、その高い基準を維持するために、現行の労働安全衛生に関するEU戦略枠組みを見直すとともに、有害物質への曝露や労働災害のリスクなど、相対的に伝統的なリスクとともに新たな現出しつつあるリスクに対処すると発表した。

10. SLICの主な仕事と活動は、今年終了する、2017~2020年委員会活動計画のなかに規定されている。これに関連して、2017年1月のOSHに関する委員会通知のなかで記述されたSLICの具体的諸活動は、現行のSLIC活動計画の実施を通じて遂行されてきた。

マクロレベルの流行

11. COVID-19のアウトブレイクは、2020年初め以来加盟国に影響を及ぼし、すべての部門・サービスに重大な混乱を引き起こし、EU全体ですべての労働者の安全衛生に直接影響を与えている。これまで以上に、連合の労働安全衛生ルールを転置した国の諸規定の厳格な順守と適用が何よりも重要である。

12. パンデミックは、以下でさらに詳しく説明するように、グローバリゼーション、技術変化や気候変動など、労働の未来のドライバーが密接に相互接続及び相互関連した世界を支援する要素であることを示してきた。パンデミックはまた、デジタルツールやテレワーク手続の使用が例外というより標準になる速度で実現されたように、将来の労働の世界を急速に発展させた。

13. こうした急速に進化する社会的、経済的及び技術的発展とその活動のすべての領域における諸課題は、横断的及び広範囲的アプローチを必要としている。労働者保護のための諸措置とOSH領域の法令は、こうした変化のペースに追いつく必要があるとともに、労働の未来のドライバーに適応すべきである。

14. COVID-19への対応のなかで実施されたものを含め、職場に対する進行中の急速な変化は、労働者の安全衛生状態に影響を及ぼしつつある。それらは労働監督官に、それらに対処するのにふさわしい知識と手段を備えているようにするために、新たなアプローチと能力を開発することを求めている。

15. デジタル化とオートメーション、ロボットや人工知能などの新たな技術の利用は、労働監督官に機会と課題の両方をもたらしている。それは労働者の労働条件に影響を与え、労働監督官が考慮しなければならない新たなリスクを生じさせるかもしれない。それには、仕事と私生活の境界の曖昧化、仕事のコミュニティからの潜在的隔離と非社会化、テクノストレスと認知作業負荷及びロボットとの共働・相互作用に関連したリスクが含まれる。

16. 新しい働き方と非定型雇用関係、新しい労働組織形態(例えば、プラットフォーム労働、ジョブシェアリング、コワーキング、オンデマンド・ワーク、ICTを使ったモバイル労働)の増大及びテレワーカーや自営業者の増加は、監督がますます困難かつ複雑になっていることから、労働監督官にとっての課題である。労働力は分散しており、伝統的、現場、労使的な関係に従事することがまれになっている。

17. 同時に、労働のグローバリゼーションが、企業と労働者がますます国境を越えて活動する新たなプラットフォームを生み出している。労働力移動、他国で活動している国境を越えた労働者と使用者がより複雑な労働の世界に一層貢献している。

18. こうした労働の世界における技術的及び組織的変化にはさらに、人口動態の変化、労働力の高齢化やジェンダー考慮事項などの社会的及び経済的課題がともなっている。

19. 例えば極端な温度、伝染病、風水害などにつながる気候変動は、いくつかの既存の職業ハザーズの発生及び程度を高め、また予期しないリスクにつながるかもしれない。気候変動に対応して進化する新しい働き方、いわゆる「グリーンジョブ」(例えば、エネルギー部門、廃棄物及びリサイクル)や環境を保護するよう設計された新しい技術(例えば、代替エネルギー源を利用する電気自動車や機械)が、労働者にとっての新たなリスクにつながるかもしれない。

第2部:リスクと執行上の課題

20. 技術進歩、新しい働き方、人口動態の変化と気候変動及びグローバリゼーションの複合した影響が労働組織、労働条件及び労働安全衛生に直接影響を及ぼしつつある。新たに現出しつつあるリスク、新たな技術・機器の使用及び変化しつつある労働環境・労働関係の複雑かつ連結した混じり合いは、労働監督官に広く多様な領域の知識と適切な能力を備えているよう求めている。

21. 同時に、「伝統的リスク」も依然として関係しており、労働監督官の継続的な注意が必要である。例としては、人間工学的、技術的及び心理社会的リスク、高所からの転落、及び物理的、生物学的及び化学的リスク(例えば、発がん物質やアスベスト)が含まれる。また、最近開始された欧州がん撲滅計画との関連で、労働監督官は重要な役割を果たす可能性がある。関連する化学物質法令の諸原則の順守を確保するだけでなく、労働者のライフスタイルに肯定的な影響を与えうる労働における健康増進アプローチを促進するうえでもである。

22. こうした伝統的リスクの継続的な関係性はまた、COVID-19アウトブレイクによっても明らかに示されている。職場における訓練の提供と個人保護機器(PPE)の正しい使用、医療労働者、食品産業や物流など最前線で活動する労働者の心理社会的リスク、在宅勤務中の組織的及び人間工学的リスク要因は、OSH課題として知られている主な問題である。しかしそれは、労働監督官にパンデミックに関連したひとつの課題を提示する、問題の大きさでもある。

23. 伝統的リスクに対処する場合には、それゆえ労働の世界に対する進行中の変化とそれらがもたらす課題との関連でこれらを考慮することが適切である。例えば、気候変動との関連で、一定の生物学的因子への労働者の曝露が、洪水のリスクが高い地域で発生する可能性が高い。さらに、グローバリゼーションが感染症をより急速に世界中に広げる可能性があり、それはとりわけ医療、廃棄物または運輸部門の労働者と関係がある。別の例は、心理社会的リスクと労働ストレス、及び新しい働き方や労働者のワークライフバランスの曖昧化とのからみでのそれらの関連性である。アスベストへの曝露は、エネルギー効率の目標に照らして住宅の改修とのからみで関係するようになるかもしれない。

24. 国の労働監督機関とSLICにとっての課題のひとつは、域内市場ポリシー、機械指令や職場機器指令の活用など、OSHと関連活動の他の分野との間のインターフェースである。REACHとOSH法令との間のよく知られたインターフェースは、化学物質に関連したリスクの管理において、共通の要素と考えられる相違の継続的考慮を必要としている。別の例は、パンデミックと関連したOSH上の重大な懸念である、PPEその他の安全機器の市場監視である。

25. 新たな及び伝統的なリスクはすべての部門で見出し得るが、現出しつつあるまたは横断的な問題を数多く経験している部門もある。例えば、パンデミックによって示されたように、人口動態の変化とグローバリゼーションによって促進された、現出しつつある感染症のアウトブレイク・拡大は、最前線で働く人々に重大な追加的負担をかけている。一部の労働者は、危機の最中でさえ義務を遂行し続けるであろうし、またその結果、パンデミックの間に他の労働者と比較して、危険な生物学的曝露の不釣り合いなリスクに曝露することになるだろう。これはとりわけ医療、緊急対応、法執行、清掃、農業、物流その他の必須労働者と関係している。

26. もっとも危険な業種のひとつである建設部門にとってのひとつの複雑さは、それが幅広い労働を網羅していることである。それは、主要な請負業者によって実施される大規模なインフラプロジェクトから、一般的に労働関連災害に巻き込まれる可能性が高い、自営業者によって実施される小さな仕事にまで及んでいる。また、成長している部門である、物流とデジタル対応の労働は、MSDs[筋骨格系障害]や労働関連ストレスなどの労働関連健康問題に遭遇する頻度が高い。教育部門は、心理社会的リスクの発生が増加している別の事例である。

27. 洗練された、多様なグローバルサプライチェーンを利用する企業を伴ったグローバル化した経済は、OSH法令の執行を複雑にしている。OSH法令の執行の対象は国レベルであることから、国境を越えた物品・サービスの調達は、職場レベルの順守の達成及び適切な監督の確保に困難を生み出している。とりわけ建設部門では、グローバルサプライチェーンの利用が、労働監督官に追加的な課題を生み出している。

28. 循環経済という概念は、気候変動や環境関連諸課題に対処するなかで、持続可能な成長、よい健康とディーセントな仕事への道を提供している。循環経済への移行のなかで、国境や企業を越えて実施される、新たな(デジタル)技術・プロセスの活用が不可欠である。循環経済への道筋は、リサイクルや製品加工などの活動にかかわる労働者、または廃棄物や原料物質に曝露する労働者に、新たなOSHリスクを引き起こすかもしれない。

29. 新たな技術の開発や労働のデジタル化は、人々が自営業者になる、また、国境を越えることを含め、異なる環境で働くより多くの機会を生み出してきており、過去数十年間のこうしたタイプの労働者の急速な増加につながってきた。自営業者やモバイル労働者-移住労働者の立場であることも多い-は、労働関連災害に巻き込まれ、または職業病を発症する可能性の高い、とりわけ影響を受けやすい集団と考えられている。

30. 労働安全衛生ルールの順守を高めるために零細企業やSME[中小企業]に到達及び援助することは、課題として残されている。EUの労働力人口の3分の1は、欧州の全企業の99%を占める、零細企業とSMEに雇用されている。

31. それゆえ、執行活動を通じて対処されるべき幅広い様々なリスクが存在しており、労働監督官に、変化の速度に追いつくとともに、職場におけるOSH法令の効果的活動等の執行が確保され得るやり方で執行活動を適応させるよう求めている。わずかな例外を除いて、労働監督官は急速に変化する環境のなかでより広範な職務を割り当てられている一方で、その数は少なくなりつつある。労働監督機関は、より短い期間で、より少ない人的・財政的資源で、より多くを提供するよう求められている。

32. これは労働監督官に、積極的で、的を絞った、調整された監督を効率的に計画及び管理するよう、ますます圧力をかけている。例えば、データの共有や、危険な労働現場の監督にドローンなどの新たな技術を利用することにより、新たな技術が労働監督官がそうするのを支援する機会を提供する可能性はあるものの、この領域はいまなお未踏である。

第3部:SLICの勧告と優先領域

新たなEUのOSH戦略のためのSLICの勧告

33. OSHへの投資は労働関連疾病・災害の予防に役立ち、それゆえ欠勤や労働関連健康障害の費用を削減するとともに、労働者とその家族にとって明らかな利益以外に、よりよい生産性と自足可能な労働キャリアに貢献することによって、企業と社会全体両方にとっての経済に肯定的な効果をもつ。このことは、これに関連してEUのOSH法令の適切かつ完全な執行が果たす重要な役割とともに、新たなEUのOSH戦略によって認識され、また対処されるべきである。

34. 労働安全衛生に関連した労働監督の共通原則によって示されているように、EUのOSH法令が正しく適用され、適切に実施され、また同等に執行されることを確保するであろう、新たな労働の世界の必要性と要求に合致するようにEUのOSH指令を更新を継続する必要がある。COVID-19に関連して、すべての職場におけるよりよい準備と対応計画という観点から学んだ教訓に基づいて、生物学的因子指令2000/54/ECを改訂する必要性が評価されるべきである。さらに、画面表示機器に関する理事会指令90/270/EEC及び職場に関する理事会指令89/654/EECの更新がとりわけ関連性がある。さらに、SLICは、自営業者の労働安全衛生の保護の改善に関する理事会勧告(2003年)を再検討し、及び執行活動における心理社会的リスクの適切な考慮を促進するための特別なイニシアティブを開発する必要性を評価することを勧告する。

35. 加盟国によるEU法令の効果的な執行を促進することは、「私は、法の支配違反の基礎としてのEU法に対する影響を示した最近の司法裁判所の判決を活用して、より厳格な執行に焦点を置くつもりである(…)」と述べた、ウルズラ・ゲルトルート・フォン・デア・ライエンによる政治的ガイドラインで強調されているように、現在の委員会の優先課題である。それはまた、今後のEUのOSH戦略イニシアティブの政治的課題の上位にあるべきである。これに関連して、他の部門または領域(例えば、環境、教育、調達)でOSHをメインストリームにすることがとりわけ重要である。加盟国が、かかる優先課題を国のOSH戦略に含めることによって、また国の労働監督機関に適切な人的・財政的資源を提供することによって、現場での適切な監視及び執行を確保することが不可欠である。

36. 新たなOSHに関するEU戦略枠組みは、伝統的な手段や執行方法を補完することのできる新たなアプローチが現われつつある一方で、新たなリスクと新しい働き方が、効果的な労働監督にとって追加的な課題を提起している事実に対処すべきである。さらに、労働監督官が、とりわけ職場での関連するOSH法令の執行を通じて、パンデミックへの準備や欧州がん撲滅対策などの欧州の課題に関する重要な諸問題に貢献していることを認識すべきである。

37. とりわけ労働者の地位(例えば、常用または臨時契約、自営、派遣労働者)や業種、及び、例えば関係した作業機器・機械の性質に関連したものなど、原因や発生状況との関連で、(認定された)労働災害・職業病に関する一層のまたは改善されたデータ収集。これは、(より多くの)信頼できる執行ツールや効果的な監督計画の開発を可能にするだろう。

優先領域とSLICによる今後の活動

以下が、今後のSLICの活動の中心である、確認された優先領域と活動である。
・ 執行
・ 現出しつある及び伝統的なリスク
・ 新しい働き方
・ 知識の開発及び交流
・ コミュニケーション

これらの優先領域に基づいて構築する新たなSLICの活動計画が採用される予定であり、また、それに基づいて的を絞った委嘱事項と構造をもったワーキンググループがつくられる予定である。この活動計画は、例えば新たなEUのポリシー展開に適応させるためなど、必要に応じて見直されるかもしれない。
以下は、新たなSLICの活動計画のなかで考慮されるべき活動及び行動の提案を提供している。

執 行

39. 監督は委員会の中核事業である:今後のSLICの活動計画は、監督の促進及び推進、また労働者の移動への対処に焦点を置くべきであり、SLICの構造と組織及びその活動をそれに応じて適応させるべきである。COVID-19アウトブレイクの影響を考慮に入れるべきである。

40. SLICは、労働監督機関の危機緊急時対応計画の策定または更新及び/またはパンデミックのアウトブレイクなどの危機の場合の停止と再開のためのチェックリストの策定、並びに具体的な部門・職場の状況への対処の重要性に対処するための努力を開始すべきである。かかる危機緊急時対応計画はまた、必要な労働監督官の保護対策も考慮すべきである。

41. SLICは、事例を確認する作業を実施するともに、とりわけ執行活動の有効性の増大及びOSH監督の標的設定と計画のために、労働監督官の活動を支援することのできる技術に関する情報を交流すべきである。

42. 労働監督の有効性をめぐるSLICの議論を継続する。例えば、OSH監督の分析、計画及び管理、他の執行機関・部門との協力、及び執行の影響の測定。

現出しつある及び伝統的なリスク

43. SLICは、執行活動に関するすべての部門にまたがった新たな及び現出しつつあるリスクの影響を確認すべきである。とりわけCOVID-19アウトブレイクの影響及び国の労働監督機関が学んだ教訓から学習を引き出す必要がある。公衆衛生ルールと関連づけた、OSH執行のグッドプラクティスが促進されるべきである。

44. 伝統的リスクは依然としてSLICにとっての優先領域であり、とりわけ有害物質と人間工学的・心理社会的リスクへの曝露、及び執行を支援するあらゆる必要性が考慮されるべきである。

45. SLICは、OSHと執行に影響をもつ新たなEU法令・ポリシーに関する意識を高めるうえで、労働監督官を支援すべきである。これに関連して、他の執行機関との調整及び協力を追求すべきである。

新しい働き方

46. SLICは、新しい働き方に対処し、非定型雇用関係に関する労働監督官にとっての課題(と法的限界)及び関連するEU機関(例えば、EU-OSHA、ELA、Eurofound)や(国レベルとACSHを通じたEUレベルでの)社会パートナーとの協力を確認すべきである。

47. とりわけパンデミックのアウトブレイクの結果として、テレワークをする人々の数が著しく増加し、監督及びOSH要求が満たされることの確保に関して、労働監督官にとって課題を提起している。この点では、心理社会的・人間工学的リスクに対処することがとりわけ関連している。

知識の開発及び交流

48. 執行活動の広い対象範囲に対処するために、訓練と加盟国間の交流を通じて、労働監督官の知識と能力を改善及び拡大する必要性がある。SLICの交流計画と訓練の組織化は、EU全体の労働監督官が同等なレベルの知識と能力をもつことを確保するためにもっとも重要である。

49. SLICの評価計画は、(新たな)執行アプローチと加盟国によって採用された核心を確認及び共有するうえで、依然として重要である。

50. SLICは、SLICの課題設定日の主題やSLICのキャンペーンがEUのOSHポリシー課題・優先事項と関連付けられていることを確保すべきである。

コミュニケーションと協力

51. とりわけ委員会のウエブサイトに関するSLICのウエブページの見直しやSLICに関する有益な文書の作成を通じて、SLICのビジビリティと外部コミュニケーションを改善する。

52. SLICによる膨大な量の出版物、ガイドラインや報告書の、EU中の労働監督官、また関連する場合には他の関係者、にとってより利用可能にする。それらの現実の実施を促進する努力がなされるだろう。

53. SLICは、労働監督官、政策決定者や職場に対するOSH情報や関連出版物の普及を促進するために、EU-OSHA、ECHAやILOなどの他機関との協力を発展させ続けるべきである。さらに、SLICは、ELAとの連携を検討するとともに、協力のための相乗効果と機会を確認すべきである。

出典:https://circabc.europa.eu/ui/group/fea534f4-2590-4490-bca6-504782b47c79/library/59de9da0-5102-4f1f-8862-af64c899a327/details

(安全センター情報2021年5月号)

違反事業場率は増加傾向、多いのは安全基準と労働時間-労働基準監督実施状況データと全労働の提言(安全センター情報2021年5月号特集)
「監督指導業務運営留意事項」通達の開示命じる情報公開審査会の裁決(安全センター情報2021年5月号)