「監督指導業務運営留意事項」通達の開示命じる情報公開審査会の裁決(安全センター情報2021年5月号)

厚生労働省労働基準局長または同局監督課長名で毎年、「監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について」ほか、労働基準監督に関する行政通達が示されている。

本誌は、2017年11月号で平成29年2月13日付け基発0213第1号「監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について」ほか「『過労死ゼロ』緊急対策」関係通達や、2018年6月号で平成30年2月13日付け基発0213第1号「監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について」を紹介したりしてきた。

しかし、労働基準監督関係通達は、「公にすることにより、犯罪の予防に支障を及ぼすおそれ」(情報公開法第5条4号)及び「公にすることにより、当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり、検査に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法な行為の発見を困難にするおそれ」(同条6号イ)を理由に、墨塗りされてしまう箇所が多い(ほとんどすべて墨塗りということもめずらしくない)。

これに関連して、2019年3月4日に、過去分の「監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について」の厚生労働省による一部開示(墨塗り)決定に対して、情報公開審査会の裁決が出されていることがわかった。
https://koukai-hogo-db.soumu.go.jp/reportBody/13960

厚生労働省は、「本件対象文書には、監督対象事業場の選定方法、措置要領など、監督指導事務に係る実施内容に関する情報が含まれており、これらが公にされた場合には、監督対象とした事業場や業種等において労働関係法令違反の隠蔽を行うようになるなど、犯罪の予防に支障を及ぼすおそれがあり、かつ、労働基準行政機関が行う事務に関する情報であって、検査事務という性格を持つ臨検監督指導業務に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法な行為の発見を困難にするおそれがある。
このため、これらの情報は、法5条4号及び6号イの不開示情報に該当し、不開示とすることが妥当である」と主張した。

これに対して情報公開審査会は、以下のように判断している。

「1 本件開示請求について
本件開示請求に対し、処分庁は、本件対象文書の一部について、法5条4号及び6号イに該当するとして不開示とする原処分を行ったところ、審査請求人は不開示部分の開示を求めている。
これに対して、諮問庁は原処分を妥当としていることから、本件対象文書を見分した結果を踏まえ、以下、不開示とされた部分の不開示情報該当性について検討する。

2 不開示情報該当性について
本件対象文書は、別紙[省略]に掲げる文書1ないし文書9であり、平成21年度ないし平成29年度の各年度における監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について、当該各年度に先立ち厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長に対して通知した文書である。

(1)諮問庁は、不開示部分の不開示情報該当性について、理由説明書(上記第3の3(2)[前掲])のとおり説明する。

(2)当審査会において本件対象文書を見分したところ、別紙に掲げる各文書には、それぞれ平成21年度ないし平成29年度の当該各年度における監督指導業務に当たっての留意点等が記載されていると認められる。
 また、各文書は、冒頭に各年度の『監督指導業務の運営に当たっての基本的考え方』の認識が述べられた後、年度により14ないし18項目の柱が立てられ、監督指導各業務についての各年度の重点課題や業務運営の際の留意点が記載されているものと認められる。また、その記載内容は、各年度の『基本的考え方』を踏まえ、柱立てを含めて毎年度見直し・変更が行われているものと認められる。
 したがって、審査請求人が審査請求書及び意見書(上記第2の2(1)及び(2))において主張しているとおり、本件対象文書である各文書に記載されている内容は、平成21年度ないし平成29年度の各年度において完結しており、毎年度の変更・見直しの中で再び過去の通知と同様の内容が記載されることが仮にあったとしても、原処分の時点においては、それぞれ過去のものであると認められる。

(3)さらに、不開示部分には、原処分において開示されている情報又は労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法等関係法令の規定から推認できる内容が多く記載されているほか、いずれも個別具体の事案に関することは記載されておらず、かつ、業務運営上の一般的な方針・指示の記載にとどまっており、監督指導業務において秘匿すべき調査手法、ノウハウ等が記載されているとは認められない。

(4)以上により、不開示部分は、これを公にしても、労働基準監督機関が行う検査等に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれがあるとは認められず、犯罪の予防に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由があるとも認められない。

したがって、当該部分は、法5条4号及び6号イのいずれにも該当せず、開示すべきである。」

これによって少なくとも、「監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について」は今後全文開示されることになると思われ、他の労働基準監督関係文書の開示に対する影響も期待したい。

しかし他方で、毎年開示させてきた手元の資料でみると、「監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について」は、平成21年度17頁、平成22年度18頁、平成23年度15頁、平成24年度18頁、平成25年度18頁、平成26年度18頁、平成27年度19頁、平成28年度20頁、平成29年度19頁、平成30年度25頁、平成31年度26頁)と、とくに近年増えていた。しかし、情報公開審査会の裁決が出された令和元年度は17頁に減少している(黒塗り部分は依然と比べ明らかに減っているものの、7箇所の墨塗りがある)。裁決によって開示せざるをえなくなったことが、文書に残す情報を減らす方向に影響していないかが気にかかるところである。今後とも注視していきたい。

(安全センター情報2021年5月号)

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