死亡診断書5年廃棄問題で「27年間保存を全国の法務局に要請」と法務省。アスベスト被害者団体の要請に対して 2020年11月5日
全国の法務局に27年間保存を「要請」
27年間保存のはずの役所に提出された死亡診断書が、一部の法務局で、実際には「5年で廃棄」する動きが進んでいることが問題になっている。
このために、アスベスト被害者が死亡診断書による死因の証明ができない苦境に陥ってしまい、現在、当該の労基署との交渉を続けていることが、毎日新聞で大きく報道されたことを本サイトでも紹介した。
この問題に関連して、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会が、アスベスト被害者にとって由々しき大問題であるとして、直接の所管官庁である法務省、ならびに、石綿救済法所管の環境省、労災補償所管の厚生労働省に対して、要望書(稿末に掲載)を11月5日付で提出した。
この際、対応した法務省担当者(法務省民事局民事第一課)が説明したところによると「6月、全国50カ所の法務局に対し、戸籍法施行規則の原則に基づいて27年間保存するよう要請した」ということである。しかし、これは、「要請」つまり「お願い」であって、あくまで「廃棄は適法」との法務省の姿勢は変わっていないなかの「措置」の域は出ていない。
患者と家族の会では(要望書にあるように)、「要請」は一歩前進ではあるが、すでに廃棄されてしまった方について、厚生労働省の保有している人口動態統計データの活用などで対処してもらいたいとしているが、依然として、同省は消極的な姿勢をとり続けているということであり、問題は解消されていない。
発端となった、上記記事の横浜南労基署の事案についても同署と厚生労働省本省との間で打開策が模索されているという状況で解決には至っていないということである。
本件については、患者と家族の立場に立って、一日も早く、抜本的打開策が講じられるべきである。
死亡診断書廃棄に係る石綿被害者の未救済問題に関する要望書
2020年11月5日
法務大臣 上川陽子/厚生労働大臣 田村憲久/環境大臣 小泉進次郎 様
中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会
会長 平田忠男
アスベスト被害者遺族の置かれている環境を改善して頂きたく、下記の事項について要望させて頂きます。法務局では、市区町村が保管する戸籍情報が災害等で消失した際の情報を復元するため、戸籍法施行規則第49条第2項により死亡診断書を原則27年間保存することとされています。他方、同規則第49条および第49条の2の規定によって、一部の法務局において5年で廃棄しする動きもみられます。
アスベスト健康被害の補償・救済において、2006年に施行された石綿健康被害救済法では、被災者の死亡から5年が経過した「労災時効」事案等の被害に関して救済を図る制度的枠組みが整えられています。これら制度では石綿健康被害救済制度が施行された2006年から2017年までの実績だけでも約1500名の被災者遺族の救済につながっており、労災保険制度と石綿健康被害救済制度での全認定者のうち1割程度を占めています。
本件への対応を検討し、被災者遺族の権利が守られる状況がつくられるまでは、一部法務局で実施されている廃棄を中断していただくことを含め、次のとおり要請致します。
記
- 法務局で市町村等から送付を受けた死亡診断書を27年が経過せずに廃棄することを即時に中断してください。
- 戸籍法では「死亡診断書」の27年間保存を義務付けています。「死亡診断書」に記載されている死因他の情報を複製が制度上明確に担保されていないにも関わらず、5年で廃棄できる除外規定が適用されるのはアスベスト被災者遺族救済の観点から問題があります。本件が整理されるまで27年間の保存を徹底してください。
- 厚生労働省においては、人口動態調査「死亡票」に死亡者の死因情報が記載されているのであれば、それは遺族や労働基準監督署の調査においては情報開示すべきです。労災請求等がされた段階で開示して、調査に反映してください。
- 環境省は09年4月21日に「死亡票」を元に、中皮腫で死亡した遺族に石綿救済給付制度の周知事業を行っています。それは「死亡票」を行政目的で利用しているので、目的外使用はできないという説明と矛盾する事業です。実施に至った経過をご説明ください。
- 厚生労働省と環境省で連携し、すべての中皮腫遺族に対し、「死亡票」を元にした「周知事業」を改めて実施してください。
本件関連報道記事
アスベスト労災の死亡診断書、法務省が27年間保存要請 患者団体「大きな進展」
2020年11月5日 毎日新聞