新型コロナ労災認定の現場報告-「増える労災申請/療養・休養補償を給付/感染経路不明も認定」(東京新聞2020/10/19)の見方

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コロナ労災請求1600件超え、不支給ゼロ(2020年10月15日付厚生労働省)の現場からの報告記事

2020年10月19日付など東京新聞、中日新聞などが「新型コロナ 増える労災申請 療養費用、休業補償を給付 感染経路不明も認定」とのタイトルの独自記事を掲載した。

記事の末尾にあるように、労基署が「申立書に行動歴の提出を求める」 という情報は、労災請求経験のある患者でなければわからない重要な情報であり、名古屋労災職業病研究会の成田氏が指摘している通りである。

新型コロナ 増える労災申請 療養費用、休業補償を給付 感染経路不明も認定

勤務中に新型コロナウイルスに感染したとして、労災保険を申請する人が増えている。厚生労働省は、感染経路が不明でも柔軟に労災と認定する方針を示す。無症状でも感染を広めるリスクがあり、どこで感染したかを証明するのが難しいことなどが理由だ。仕事で感染した場合、どのように申請すればいいのか。 (熊崎未奈)

七月に発熱で医療機関を受診した愛知県内に住む七十代の介護職員。感染が判明し、約三週間入院した。退院後もせきや関節の痛みが続く。


発症前、仕事以外は車でスーパーに行く程度。マスク着用や手指消毒など予防は徹底していた。同居の家族二人は陰性。一方、職場の介護施設では職員や宅配業者などと接触があった。

「仕事で感染した」と考えた職員は、施設側に労災保険の適用を申し出た。しかし、施設側は他に陽性者がいないとして拒否。職員は八月中旬、名古屋労災職業病研究会の支援を受け、必要な書類を添付した上で労働基準監督署(労基署)に労災の請求書を提出、九月末に認定された。

労災が認められると、治療にかかる療養費用は自己負担ゼロ。休業中は休業四日目から賃金の八割が補償される。職員は療養費用の給付と、とりあえず約六週間分の休業補償が認められた。

厚労省は四月、コロナ感染に関する労災を積極的に認定する方針を示した。職員のような医療・介護従事者は、業務外で感染したことが明らかな例を除き認めるとした。医療従事者以外も、労基署の調査で仕事が原因の可能性が高ければ感染経路が不明でも認めるとしている。
 厚労省によると、10月14日時点で申請件数は1558件。調査を終えた777件全てが認定された。脳・心臓疾患の認定率が約三割にとどまることを考えると異例だ。同省が公表した事例には感染経路は不明だが日々数十人を接客した小売店販売員や、多数の客を乗せていたタクシー運転手らが含まれた。

労災に詳しい弁護士の川人博さん(71)は「職場で感染した可能性があれば、積極的に申請を」と促す。川人さんによると、申請からおおむね二カ月以内に結果が出ている。ただ、不特定多数と接する通勤中の満員電車で感染したと訴えた場合に認められるかは不透明だ。後遺症が出た場合に出る一時金や年金が支給されるかも分からない。因果関係が医学的に解明されていない点が多いためという。

◆申立書に行動歴を記入

申請の請求書は厚労省のホームページや労基署で入手できる。原則として、療養費用給付の請求書は治療を受けた労災指定医療機関へ、休業補償給付は労基署に提出する。いずれも事業主の証明が必要で、職場の人事労務担当に相談するといい。拒否された場合は、その旨を書面にして、労基署への請求書に添付する。

コロナで労災を申請すると、労基署から認定の判断材料になる申立書の提出を求められる。

仕事でも私生活でも、人が集まる場所や密閉空間など感染リスクが高いところでの動きを中心に発症前十四日間の行動歴などを書く。 名古屋労災職業病研究会の成田博厚さん(48)は、普段からその日の行動や会った人などを記録するよう勧める。「事業主の協力がなくても、仕事で感染した可能性を示せれば認定につなげられる」と呼び掛ける。

東京新聞 2020年10月19日

この記事は、中日新聞にも掲載されている。女性を支援している名古屋労災職業病研究会の連絡先はこちら→名古屋労災職業病研究会HP

筆者が感じる、記事からもみてとれる今日のコロナ労災をめぐる問題点を以下に述べたい。

1 退院後も症状が長引く患者労働者に、不安のない労災補償による治療と休業補償を確保することが求められている

記事の女性は「退院後もせきや関節の痛みが続く」 という。

特に「中等症」以上の方に、退院後も呼吸器を中心に症状が継続・遷延して、職場復帰への困難をかかえる方も少なくない。そもそも新型コロナウィルス感染症は新しい感染症であるので、どのような病気であるのかがよくわかっていない。一方、労災補償制度は、「症状固定」の時点で治療を打ち切り、その時点での障害に応じて障害補償を行う、というのが既定のコースとなっている。したがって、女性のような場合において、主治医が、労基署の問合せや診断書に「症状固定」「治癒」と記載することによって、実際には、とても職場復帰ができないという患者を窮地に追い込むことが、現実におこりかねない。

したがって、新しい感染症であることを前提にして、患者労働者の症状判断について、医師、労基署は、特に慎重な対応と判断を求めたい。たとえば、労基署は、主治医から「症状固定」を意味する内容の診断書等があがってきたとしても鵜呑みにせずに、患者労働者本人の調査や状況確認を慎重に行うことをまず徹底してもらいたい。

2 医療・介護従事者の労災請求や労災認定状況に問題はないのかのチェックを

女性は8月中旬に申請し、9月末に認定されている。通常の労災請求に比較すれば「早い」かもしれないが、筆者は及第点ぎりぎりであって、もっと早くできるしするべきだと思う。「 医療・介護従事者は、業務外で感染したことが明らかな例を除き認めるとした。」なら、もっと迅速にするべきである。

最近までの労災請求、認定状況については、「 厚労省によると、10月14日時点で申請件数は1558件。調査を終えた777件全てが認定された。 」ということを「よくやっている」という良い評価点をつけてもいいほどでは、とてもないことは次の記事で指摘されているとおりである。この点については、本稿の「5 労災請求件数が低レベルにあることは証拠がある」にも述べる。

まず、医療・介護労働者から労災請求件数が、上記記事の通り、感染者数との比較では、過小とみざるを得ない。意図的労災隠しが行われているケースがある一方で、実際、労災請求件数が伸びないのは、意図的な労災隠しばかりともいえないとも考えられる。

コロナ労災に限らず、労災事案は、すべて労災請求を、当然のように実行することが大切である。被災労働者の権利を守り、労災発生の予防対策を職場に定着させるためである。

ところが、労災で処理するべき治療費や休業補償は、短期であるほど、自己負担金を会社が肩代わりしたり、有給で処理することで、労災請求をしないですますことが行われがちなのだ。本来、こうしたことは違法であってしてはならないことだし、1で述べたような事態になっていった場合、被災労働者がわりを食うのは目にみえている。

したがって、厚生労働省と労基署は、新型コロナ感染症についての労災隠しの防止の指導徹底とともに、改めて、適切な労災補償制度利用についての指導を現場に対して徹底するべきである。

3 医療・介護従事者以外の労災請求への対処状況に明らかな問題がみられる(製造業の労災請求件数が低すぎる)

2020年10月15日付の厚労省による「新型コロナウイルス感染症に関する労災請求、認定件数」は次の通りである。

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これをみると「2 医用従事者等以外」の「製造業以外」の労災請求件数は、14件となっている。

たとえば、熊本県長洲町のジャパンマリンユナイテッド(JMU)有明事業所では規模の大きな集団感染が発生している。

全国最大級のクラスターなぜ起きた? 熊本の造船工場、従業員証言 「マスク外し談笑」「ベトナム人共同生活」

記事によると、この時点で112人の感染者のうち47人が技能実習生であるということであれば、労働者の権利保護の観点からは、技能実習生をはじめ患者労働者の迅速な労災請求が平行して行われるべきである。しかし、上記のように該当分類項目の労災請求数からは、この熊本事案の労災請求がおこなわれた形跡はないと言わざるを得ない。

そもそもテレワーク不能な製造業にあっては、業務遂行中の職場集団感染事案については、新型コロナ感染が広がっている状況下では、予め集団感染の危険が通常時に比べ顕著に高い状況における業務遂行であり、集団感染はその危険が現実化したものであるから、労災補償制度上の相当因果関係が認められるのは明らかである。

厚生労働省の新型コロナウィルス感染症事例紹介においても

との記述があり、熊本事案が事例6)で迅速に認定できるケースである。

にもかかわらず、労災請求がなされていないことは、問題である。

このような製造現場における集団感染はほかにも、たとえば、東京都江東区におけるタカラ食品工業においても発生している。

東京・江戸川区でクラスター 工場従業員ら78人感染

東京都江戸川区臨海町3丁目の「タカラ食品工業」葛西工場で、従業員78人が新型コロナウイルスに感染するクラスター(感染者集団)が発生した。区が24日、発表した。

区などによると、同工場で今月中旬に計5人の女性従業員の感染が判明。その後、工場の従業員や関係者314人についてPCR検査した結果、新たな感染が分かった。結果待ちが21人いるほか、濃厚接触者も追跡調査している。

タカラ食品工業(本社・大田区)によると、同工場ではサンドイッチなどを製造しているが、食品に直接触れたり、飛沫(ひまつ)がかかったりすることはなく、保健所の立ち入り調査の結果、食品の衛生管理に問題はないという。同工場は24日から稼働を止めており、工場全体を消毒する。

同社担当者によると、工場内では専用のマスクや帽子の着用を義務づけており、マスクを外すのは更衣室や食事中などに限られているという。共同生活する外国人研修生らもいるが、「なぜここまで感染が広がったのか全く分からない」と語った。

朝日新聞  2020年9月24日 )

こうした製造業における、おこなわれるべき新型コロナウィルス感染症の労災請求がおこなわれていない問題が、「医療・介護労働者等以外」に存在しているとみられるのであるから、この点について、厚生労働省は特段の対策を取るべきである。

4 地方公務員災害の請求・認定状況にも同様の問題がある

地方公務員災害補償基金が公表している公務災害認定請求・認定件数は次の通りである

「土木技師・農林水産技師・建築技師」「清掃職員」がともに、いまだに認定件数がゼロである。

特に、清掃職員は10名以上が申請しているにもかかわらずであるので、これは上記の労災保険の場合と同じ問題が存在しているのはないかと考えられる。

5 労災請求件数が低レベルにあることを根拠をもって推定できる資料がある

東京都が公表している数字を紹介する。

東京都の新型コロナウイルス感染症モニタリング会議は、10月1日開催の第13回から本日開催の第15回まで、資料に「濃厚接触者における感染経路」を含めている。感染経路が職場の割合は13.6%→23.4%→13.0%→9.7%。かりに日本の感染者の10%が職場で感染したとすれば約9千人になる。

民間労働者をカバーする労災保険と地方公務員をカバーする地方公務員災害補償基金への認定請求件数は、合わせても1700件程度(2020年10月15日現在)程度であるので、約9千人という推定値と比較して、請求件数が過小である可能性は極めて高い。

厚生労働省等や使用者団体による政策努力が明らかに不足している。