アスベスト関連肺がん(ARLC)のいくつかの側面に関する学際的レビュー/Frank et al. Lung Cancer, January 17, 2024●アスベストと関連肺がんアップデート
タバコは依然として肺がんの支配的な危険因子であり、他の空気伝搬性発がん物質の危険性を覆い隠す傾向がある。長い潜伏期間とアスベスト曝露の正確なデータの欠如が、主要な肺がん発がん物質であるという認識を大幅に遅らせてきた。前世紀の前半に、いくつかの臨床観察により、アスベスト曝露が肺がん及び新しいタイプの胸膜がん(中皮腫)の原因である可能性が示唆されていたが、この疑いは数年後に完全に確認された。さらに最近では、アスベストは消化管、喉頭、卵巣などの他の固形がんとも関連づけられてきた。70年以上も前に重要な肺がん発がん性物質であることが暴かれていたにもかかわらず、アスベストは一般的な(建築、摩擦材などの)材料として使用され続け、その結果、前世紀にはアスベスト消費量が急激に増加した。1980年代の終わりまでに、アスベストがすでに人工環境に普遍的に存在していた、ヨーロッパ諸国とオーストラリアで最初の予防措置が実施された。その間も、アスベスト消費は新興国で急増し続けた。
近年、喫煙経験のない人々においても肺がん症例が増加していることが指摘されている。それとは別に、大気中の粒子状物質(PM)の存在と肺がんの発生との関連性が、複数の研究で報告されている。最近の疫学的観察と実験的研究は、吸入された微小粒子状物質(PM2.5)が2段階のがん化プロセスを引き起こすことが示唆されており、そのプロセスでは、すでに変異のあった肺胞細胞がさらに悪性へと変化する。PM2.5への曝露は、インターロイキン-1βのアップレギュレーションを引き起こし、続いて慢性炎症が起こり、それはアスベストによる発がんの特徴と考えられている。
中皮腫は、ほぼ例外なくアスベストによって引き起こされるものであり、アスベスト曝露の代替マーカーとしてよく用いられる。しかし、アスベスト関連肺がん(ARLC)の正確な数を確実に推定することは依然として困難である。全ゲノム解析データは、喫煙に関連した変異変化のほうが、喫煙歴よりも、肺がん患者を喫煙関連群と非喫煙関連群に分けるのに信頼性が高いことを示唆している。もし、アスベスト関連肺がんの特異的シグネチャーが利用可能になれば、アスベスト起因肺がん流行の規模の算出ははるかに容易になる。いずれにしろ、アスベストは中皮腫よりもはるかに多くの肺がん被害者を引き起こす。中皮腫1症例につき、2~6人の肺がん症例をともなうものと考えられている。タバコの煙とアスベストへの同時曝露は、発がん的相互作用をもたらし、その作用は相加的よりも強く、相乗的よりも弱い。
Stantonによる初期の動物実験では、短く薄いアスベスト繊維は長い繊維ほど中皮腫の発生に寄与しないことが示唆されていたが、一連の中皮腫症例で繊維の寸法が評価された際には、この理論は確認されなかった。繊維のサイズに関するこの理論は、相対的に小さいクリソタイル繊維の発がん性は相対的に長い繊維よりも低くなく、また、現行の曝露規制では対象外とされている「未規制」小繊維への曝露がもっとも高い肺がん発生率と関連していることが判明したため、ARLC[アスベスト関連肺がん]には適用できなかった。アスベスト産業が資金提供した研究では、実験動物の肺に沈着したクリソタイル繊維は、マクロファージによりより急速に消化されることが示唆されている。このような研究は、クリソタイルアスベストには発がん性がないという主張に悪用されてきた。腫瘍学的に関心があるとされたのは、相対的に大きな繊維だけだった。しかし、ある系統的レビューがり、アスベスト繊維を5μmより大きいまたは小さいグループに分けるという決定は、確固としたデータに裏づけられていないことを明らかにした。
最近の研究では、女性の肺がん患者数の増加と中国の建造環境の間の関連性が指摘されている。微小粒子状物質(PM2.5)はアスベストも含有している可能性があるという仮説や、汚染された大気中のアスベストの含有量を定量化することが困難であるという事実は、ARLCのレビューが必要なよい理由である。同時に、喫煙歴のまったくない者の肺がん症例が増加している背景にあるメカニズムを解明することも不可欠である。
ARLCの診断基準の更新も必要である。循環腫瘍細胞を特定し、特徴づけるための新しい技術が現われており、それらは診断精度を向上させ、腫瘍治療の個別化に向けた基盤作りに役立つ可能性がある。
これまでのところ、肺がんスクリーニングは主として喫煙歴と年齢に基づいて実施されてきたが、他の肺発がん物質への曝露によるリスクについては、スクリーニングガイドラインでは考慮されていない。ごく最近、低線量胸部コンピュータ断層撮影(LDCT)スキャンによるデータを利用して、非喫煙者の肺がんリスクを予測できる可能性のある人工知能(AI)ツールが導入された。かなりの数の若い女性がLDCTスキャンによるスクリーニングを希望しており、疑わしい結節が見つかった場合、手術を受けることも少なくない中国における肺がんスクリーニングの慣行から得られたデータも、現行のスクリーニングの慣行を調整する必要性について議論すべき時期が来ていることを示唆している。
本特集には、7つの論文が含まれる。
[以下、著者の所属団体情報は省略]
- アスベストの歴史と使用
Arthur L. Frank and Nico van Zandwijk - アスベスト関連肺がん(ARLC):過小評価されている腫瘍学上の問題
Nico van Zandwijk, Glen Reid, Arthur L Frank, Oluf Dimitri Roe, Christopher I. Amos - アスベストに起因する肺がんの病理:報告する病理医が知っておくべきこと
Sonja Klebe, Vivek Rathi, Russell Pa - 環境アスベスト曝露と肺がん
Muzaffer Metintas, Guntulu Ak, Selma Metintas - アスベスト関連肺がんが疑われる患者の循環腫瘍細胞の評価:新たな診断アプローチ
Helen Ke, Steven Kao, Nico van Zandwijk, John E. J. Rasko, Dannel Yeo - 肺がんスクリーニング:更新が必要な時?
Henry Marshall, Kwun Fong - アスベストと微粒子の定義と発がん性に関する解決策
Sean Fitzgerald
※https://www.lungcancerjournal.info/article/S0169-5002(24)00007-2/fulltext
安全センター情報2024年12月号