【ハラスメント防止に職場でどう取り組むか?】韓国・産業安全保健法の2021年改正による「顧客の暴言等による健康障害予防措置」

韓国では、2018年以降、ハラスメント対策関連の法整備が行われ、2021年にさらに改正が行われている。主な内容について紹介する。

まず、産業安全保健法に、顧客の暴言等による健康障害予防措置が導入され、現在以下のような規定になっている(2021年10月14日施行)。2021年法改正は、直接対面する顧客対応労働者のみならず、業務遂行過程で顧客の暴言等にさらされる可能性のある労働者への保護が不十分だったため、第2項に追加した。また、第3項で労働者が業務の一時中断等の措置を事業主に求める権利を規定して、労働者が安全で尊重される労働条件を造成することが改正の理由とされているという。

第41条(顧客の暴言等による健康障害予防措置等)

事業主は、主に顧客に直接対面し、または、「情報通信網利用促進及び情報保護等に関する法律」第2条第1項第1号による情報通信網を通じて応対しながら商品を販売し、若しくはサービスを提供する業務に従事する顧客応対労働者に対して、顧客の暴言、暴行、その他適正範囲を超える身体的・精神的苦痛を誘発する行為(以下この条で「暴言等」という。) による健康障害を予防するため、雇用労働部令の定め(1)により必要な措置を講じなければならない。

2 事業主は、業務と関連して顧客等第三者の暴言等により労働者に健康障害が発生し、または発生する顕著なおそれがある場合には、業務の一時的中断または転換等、大統領令(2)で定める必要な措置を講じなければならない。[→罰則は1千万ウォン以下の過料]

3 労働者は事業主に第2項の規定による措置を求めることができ、事業主は労働者の要求を理由に解雇またはその他の不利な処遇をしてはならない。[→罰則は1年以下の懲役または1千万ウォン以下の過料]

(1)雇用労働部令第336号<11月19日改正>

第41条(顧客の暴言等による健康障害予防措置)

事業主は、法第41条第1項の規定により健康障害を予防するため、次の各号の措置を講じなければならない。

1. 法第41条第1項の規定による暴言等をしないよう要請する文句の掲示または音声案内

2. 顧客との問題状況発生時の対処方法などを含む顧客応対業務マニュアルの作成

3. 第2号による顧客応対業務マニュアルの内容及び健康障害予防に関する教育の実施

4. その他、法第41条第1項による顧客応対労働者の健康障害予防のために必要な措置

(2)産業安全保健法施行令

第41条(第三者の暴言等による健康障害発生等に対する措置)

法第41条第2項で「業務の一時的中断又は転換等、大統領令で定める必要な措置」とは、次の各号の措置のうち必要な措置をいう。

1. 業務の一時的中断又は転換

2. 「勤労基準法」第54条第1項による休憩時間の延長

3. 法第41条第2項による暴言等による健康障害関連の治療及び支援

4. 管轄捜査機関または裁判所に証拠物・証拠書類を提出する等、法第41条第2項による暴言等による告訴、告発または損害賠償請求を行うのにおいて必要な支援

他方、勤労基準法には、以下のような規定が設けられている。

第76条の2(職場内ハラスメントの禁止)

使用者または勤労者は、職場における地位または関係等の優位性を利用して、業務上の適正範囲を超えて他の勤労者に身体的・精神的苦痛を与え、若しくは勤務環境を悪化させる行為(以下「職場内ハラスメント」という。)をしてはならない。

第76条の3(職場内ハラスメント発生時の措置)

① 何人も職場内ハラスメント発生の事実を知った場合、その事実を使用者に申告することができる。

② 使用者は、第1項による申告を受け付け、または職場内ハラスメント発生の事実を認知した場合には遅滞なく、当事者たちを対象に、その事実確認のために客観的に調査を実施しなければならない。

③ 使用者は、第2項による調査期間中、職場内ハラスメントと関連し、被害を受けた勤労者又は被害を受けたと主張する勤労者(以下「被害勤労者等」という。)を保護するために必要な場合、当該被害勤労者等に対し、勤務場所の変更、有給休暇命令など適切な措置をとらなければならない。この場合、使用者は、被害勤労者等の意思に反する措置をしてはならない。

④ 使用者は、第2項による調査の結果、職場内ハラスメントの発生事実が確認された場合、被害勤労者が要請すれば勤務場所の変更、配置転換、有給休暇命令など適切な措置をとらなければならない。

⑤ 使用者は、第2項の規定による調査の結果、職場内ハラスメントの発生事実が確認されたときは、遅滞なく行為者に対し、懲戒、勤務場所の変更など必要な措置をとらなければならない。この場合、使用者は懲戒等の措置をする前にその措置に対して被害勤労者の意見を聴かなければならない。

⑥ 使用者は、職場内ハラスメントの発生事実を申告した勤労者及び被害勤労者等に解雇その他の不利な処遇をしてはならない。

⑦ 第2項により職場内ハラスメント発生事実を調査した者、調査内容の報告を受けた者及びその他調査過程に参加した者は、該当調査の過程で知ることになった秘密を被害勤労者などの意思に反して他の人に漏洩してはならない。ただし、調査と関連した内容を使用者に報告し、または関係機関の要請により必要な情報を提供する場合は除く。

2021年法改正(10月14日施行)では、使用者の調査が客観的でないことが多かったために第76条の3②が改正され、また、被害事実の漏洩が多かったために第76条の3⑦が追加されたとのこと。

さらに、①加害者が使用者または使用者の親族である場合、②職場内ハラスメント発生の事実確認のための調査をしなかった場合、③勤務場所の変更等の適切な措置をとらなかった場合、④加害者に遅滞なく懲戒などの措置をとらなかった場合、⑤事実調査過程で知ることになった秘密を漏洩した場合には、違反条項・違反回数に応じて、200万ウォン以下から1,000万ウォン以下の過料が賦課されることにもなった。

産業災害補償保険法では、職業病リスト(第37条)に、「勤労基準法第76条の2による職場内ハラスメント、顧客の暴言等による業務上の精神的ストレスが原因で発生した疾病」が追加されている。
「龍谷法学50(1)」に、脇田滋氏が、「ソウル特別市感情労働従事者の権利保護などに関する条例」、「感情労働者保護法案」等の日本語訳を紹介している(https://cir.nii.ac.jp/crid/1520009407
386773504
)が、ここで紹介されている感情労働者保護法案は成立せずに、代わりに、勤労基準法、産業安全保健法、産業災害補償保険法の改正が行われたという経過である。

防止措置の具体的内容に関連しては、ソウル特別市条例第9条(ガイドラインの公表)でガイドラインの内容として、①基本的人権の保障、②処遇保障、③適正な休憩時間・休憩空間の保障、④安全な作業環境造成、⑤顧客対応マニュアルの準備、⑥作業中止権等の付与、⑦専門担当者の配置、⑧定期的教育実施と精神的・身体的健康プログラムの支援、⑨高危険職群に対する特別な保護方案、があげられていることも参考になると思われる。