【全国安全センター第32回総会特別報告】ウーバーイーツで働くということ/事業者負担で労災保険を-2021.10.23 土屋敏明(ウーバーイーツユニオン執行委員長)
【天野】東京労働安全衛生センターの天野です。ここからはウーバーイーツユニオンの執行委員長の土屋さんにお話をうかがっていくかたちになります。土屋さん、よろしくお願いします。
【土屋】よろしくお願いします。
【天野】ウーバーイーツユニオンは2019年10月に発足しまして、つい先日、第2回の総会を終えられたばかりという状況です。その執行委員長を務めている土屋さんに、どういう経緯で配達員になられて、またどういう経緯でユニオンに入ることになったのかという点について、自己紹介をかねてうかがえればと思います。
目次
契約と事故体験からユニオンへ
【土屋】私がウーバーイーツに契約したのは2018年の7月です。そのときに勤めていた会社、そこではアルバイトでしたが、そちらを9月に退職するにあたって次の職を探すまでのつなぎとしてウーバーイーツと契約しました。次の職が見つかったのが11月半ばでしたので、それまではウーバーイーツ専業だったということですね。
せっかく就職したのはいいのですが、そこでは契約社員という待遇で就職したのですが、その就職先でパワハラに遭い、適応障害という診断を下されて2か月ほど傷病手当で療養して、だいたい5月からまたウーバーイーツで復帰しました。
その後に、7月に、ウーバーイーツの配達中に自損事故で単独転倒事故を起こしまして、ウーバーイーツの運営から事故を起こしたら報告してくれと言われていたので、報告をしたところ、「あなたの責任で事故を起こしてしまって、今後二度とこのようなことがあった場合は永久にアカウントを停止する可能性があります」という文面が返ってきて、何じゃこりゃと。対人-誰かを傷つけたわけでもなく、対物-何かを壊したわけでも、誰かの車にぶつかったわけでもなく、加えていうならその後配達も済ませたんですね。だから誰にも迷惑かけてないのに、どうしてこんなことを言われなきゃいけないんだろう、こんな脅しみたいな目に遭わなきゃいけないんだろうと思いまして、ちょっと怒りまして。そのとき、たまたまウーバーイーツユニオンがまだ成立前の準備会の段階でしたので、参加してもよいでしょうかと打診して、そこからユニオンに合流したという経緯です。
【天野】もともと土屋さんは、いわゆる就職氷河期の世代に属しています。仕事の面でずっと様々な苦労があり、直近の仕事でもパワハラに遭ったという状況のなかで、ウーバーイーツの仕事がメインになっていったということですね。
【土屋】はい。
ウーバーイーツで働くメリット・デメリット
【天野】次に、ウーバーイーツでの仕事についてです。配達システムはこの間、かなりの変動があって、配達員も翻弄されているところがあると思います。実際にこの2年あまり稼働されてみて、ウーバーイーツの配達システムが、配達員の目から見てどういうものなのか、少しご説明いただければと思います。
【土屋】先ほど申し上げたとおり、私は適応障害を患いまして、非常に情緒が不安定というか、時間感覚とか、睡眠ペースも一定ではない。時間の感覚もちょっとあやふや。そういう感じですと、時間を守ることができないという状況などがあったので、シフトがないので空き時間に配達することができる、働く時間やスケジュールを自分で決めることができるというのは大変魅力的な働き方でした。私同様にメンタルを壊したりしてしまった元従業員というのがウーバーイーツで働くというケースは決してめずらしいものではありません。
また、通勤の手間がないというのもメリットですね。自宅で注文を受け取ることができる場合は、自宅で注文を待っても稼働することができる。注文が入ったから出かけるか、ということができるんですね。これはちなみに税制上、確定申告上、自宅を自宅兼事務所として計上することができるというメリットもあります。
あと、参入障壁の低さと申しましょうか、自転車があれば手軽にはじめられるというのがあります。私はたまたま原付を持っていたので、それで配達しています。
そのへんがまずは魅力ですね。また、コロナ禍もあって、同業他社もそうなんですが、オンライン上で登録ができるというのも、大きなメリットではないかと思われます。気軽にはじめられるということ。その他に、報酬額がすぐに提示される。報酬が週払い。これ、大きいんですよね。私が、2018年10月ほぼいっぱい専業でやった後に11月に就職したところでは月払いだったので、最初の給料が出るまで、もう素寒貧だったんですね。それでそのときも、休日にウーバーイーツをやって糊口をしのいだということがあります。
デメリットになりますといろいろあるんですが、大雑把で言うと運営がわりとでたらめというのが、まずはじめてからすぐにわかります。そのでたらめさ加減を公表されたくないのかなというところが、団体交渉を拒否しているというところにもつながっているのかな、なんて思ったりします。
サポートがサポートになっていないときがある。しかも往々にして30分ぐらい待たされるということもあります。
先ほど呉さんがおっしゃってくださいましたけど、労災ですね。「ウーバードライバーアプリ」というものを使わなければ稼働できないにもかかわらず、いったん事故が起こったら、2019年10月までは自己責任だったんです。悪い意味での自己責任。自分でなんとかしてよ。2019年10月から事故補償(傷害見舞金)が始まったんですが、それもちょっと適用されたかどうかも曖昧でして。それをもちろん公表しておりません。いまなお、どれくらいの人が使ったのかということがわかりません。それからほぼ2年、2021年9月より労災保険の特別加入の対象となりましたが、保険料は自己負担ということで、これはちょっと労働実態に合っていないんじゃないかなと思っています。
先ほど申しましたとおり、万事、運営が不透明です。そして、決定は一方的です。そのへんのストレスというか、不満というか、いやこれ変だろう、という声が高まってユニオンが結成されたという経緯があります。
あとはシステム上、やはり事故を誘発するような仕組みというものも結構放置されていますので、そこはもう、おそらくすべての配達員が不安に思っているところだと思います。
【天野】ありがとうございます。労災の部分については、私たち東京労働安全衛生センターも協力をして、2020年の1月から3月にかけて事故調査プロジェクトというのを行いました。実際に配達員の方からいろんな事故の報告をいただいて、過去の分も含めて30件ぐらいの事故体験の情報を寄せていただきました。それを見ますと、やっぱり1か月以上休むような怪我を負った方が2割以上いて、ウーバーイーツ側の事故補償の保険(傷害見舞金制度)がまだない時期の事故事例も多く、多くの配達員が生活に困ったという実態が浮かび上がってきました。
先ほど土屋さんのお話にもあったように、2019年10月から、ウーバーイーツが外部の保険会社と提携して、傷病見舞金制度というのを開始しました。しかし、これをどれぐらいの人が使えているのかというのは全然数字がわかりません。しかも土屋さんも体験されたように、また事故調査プロジェクトの調査でも明らかになっていますが、これを使おうとすると「アカウントを止めます」というようなことを言われるということで、使うのをためらっているという声が、複数の配達員の方から寄せられているというような状況でした。
そういう状況の中で、ようやく労災保険の特別加入の対象に2021年9月からなったというところです。しかし、はたしてこれがどれぐらい配達員が使えるものなのかどうかというところは、今後の状況を見てみないとわからない。特別加入ですと労災の保険料は自己負担ですから、それをどれぐらいの人がかけるのかという問題があるのではと思います。
では土屋さん、次に、基本的な配達の仕組みについてもう少しご説明いただけますか。
ウーバーイーツ配達員の仕事の実際
ウーバーイーツ配達員の出来るまで
1. 公式サイトにアクセスして配達パートナー用のアカウントを登録(氏名・メールアドレス・電話番号・稼働するエリアを決定。※その際、簡単な交通ルールに関する設問あり)
2. 本人確認書類、プロフィール写真をアップロード(自転車で配達する場合)
3. 報酬振り込み用の口座情報を登録
4. 専用アプリのダウンロード
5. 配達用バッグの購入(Amazonで\4000)
6. 出来上がり!
※登録資格は
・18歳以上
・日本で就労する事が出来ること(外国籍の方でも登録可能)。
【土屋】先ほどちょっとふれましたけど、こんな手順で稼働できるようになります(別掲「ウーバーイーツ配達員の出来るまで」参照)。登録資格も18歳以上で、日本で就労できれば、就労資格があれば誰でもオッケーだよ、ということで。最近は、簡単な交通ルールに関する設問を登録時に実施するようになったようですが、それ以前はそれさえも一切なかったので、交通ルールに対する知識がもう皆無な方でもできちゃっていたというのがありました。いろいろニュースでも報じられて問題になったのを気にしたのか、ちょっと簡単な設問というのを実施するようになったようです。
作業サイクルは基本的に決まっています。実際、どんな仕事をするのかというと、営業時間というのがありまして、これはエリアごとに異なるのですが、東京ですと朝の7時から翌日の1時までが営業時間ということになっています。私が受けたもっと遅い受注時間は深夜の1時半ですので、このへんは結構あいまいだったりします。とりあえず営業している時間内、営業エリア内で配達注文を受ける。ちなみにこの営業エリア内というのは、ウーバーイーツ配達員で登録していれば、全国どこでも配達、受注することはできます。これは後でもふれるかもしれませんが、会社によって違うところもあります。登録するエリアというのがあって、そこでしか稼働できないという会社もあります。
まずアプリをオンにします。そうしますと注文が入ります。まず、お料理を作ってくれる-お料理だけではないんですけどね、運ぶものは-とりあえずお店に向かって商品を受け取る。受注の際に、これはちょっと自分が思っているのとは違うという場合、拒否することも可能ですけど、先ほど呉さんがおっしゃってくださったとおり、拒否率があまりに高いとアカウントを停止させられる。つまりアプリにログインすることができなくなる。仕事を奪われるという状態になってしまうことがあります。
お店から注文を受け取る際に、例えば待ち時間があまりにも長いという場合、いやこれ、ちょっと料理できるのに20分ぐらいかかるわって言われたときに、じゃあキャンセルしますと言うことは可能ですが、このキャンセル率というものも結構重要な要素で、高すぎるとこれもアカウント停止の理由になります。
それらを乗り越え、というか、無事に商品を受け取ることができたら、今度は注文先へ向かいます。そこに行って、どうもありがとうございましたとお客様に注文した品を受け渡す、もしくは置き配ですね。コロナ禍以降、これが増えました、半数以上ですね。置き配にして、注文が完了したということをアプリで、スワイプという作業をしますと、1つの注文は完了です。基本的に、この繰り返しです。
すべての作業は専用アプリを介して行う。ただ、一部、推奨ルートというものが出まして、そこにアクセスする際にはグーグルマップに切り替わるということがありますが、ほぼ専用アプリを介して行います。
注文を完了した地点ですぐ次の注文を受ける可能性があります。お店から注文者に届けるときにも次の注文が入ることがあります。これが続くことが理想的なんですが、届け先の最寄りのお店の注文を受けて、さらに遠くへ行かされて、さらに遠くの注文を受けて、ということをやっていると、どこまでも流されていく可能性が理論的にあるわけで、気づいたら埼玉県ということも。私は東京をメインに活動しているんですが、荒川を越えていたとか、江戸川を越えていた、多摩川を越えていた、ということもあります。
自由があるようにみえて縛られている
【天野】ありがとうございます。「注文から配達まで」という流れを示した図(別掲)も作っていただいていますが、こういう流れになりますということですね。選択の自由があるようにみえてかなり縛られているというお話が出てきたと思うんですけれども、もうちょっと補足でお話していただけますか。
注文から配達まで
1. 利用者は料理を選び注文する
2. ウーバーはレストランに注文通知、配達員にリクエスト通知を送る
3. 配達員がリクエストを受諾
4. 配達員がレストランへ商品を取りに行く(ピックアップ)
5. ウーバーはピックアップの完了を受けて配達先の情報を配達員に表示
6. 配達員は表示された届け先(利用者)に商品を配達(ドロップ)
【土屋】はい。注文が入ってきたときに、例えば、あと1回で自分は注文をやめたいと。できれば自分の家の方向の注文が望ましいかなというときに拒否をしたりなんていうときもありますし。あと、このお店はちょっと駄目だわっていう、配達員はそれぞれブラックリストみたいなものを持っていると思うんですけど、明らかに接客に難のあるお店からの注文であることがわかったら拒否したりというのがあるんです。また、距離が長すぎるとかいう場合に拒否できるんですが。これを、数回って言っていますけど、私が検証したときは3回でした。続けると自動的にアプリがオフになりますね。こういう現象が発生して、あと、時間帯によっては、これは実証できていないんですが、配達員全員の共通認識として、あんまり拒否を続けると干されると。何十分か注文が、あるいは1時間、2時間、注文が入らなくなるという現象が発生します。これが拒否にかかる現象ですね。
キャンセルが多すぎると強制的にアプリを停止させられ、キャンセル率がエリアの平均値を大きく上回るとアカウントが停止させられるって書いてあるんですね、「配達パートナーガイド」という運営側が出しているマニュアルに。ただし、ではエリアの平均値って何%なのというと、わからないんです。それは公表されていません。自分のキャンセル率というのは、それを調べるアプリもあるので知ることができなくはないんですが、肝心の比較の数字がわからないので、どうしてアカウント止められたんだろう、ひょっとしたらキャンセル率が高すぎたのかな?と思ってしまう。いつでもこのアカウント停止の可能性というのはあって、その理由として、ああキャンセル率かなというのが、そういう心理というのは誰もが、配達員ならば味わったことがある不安ですね。
あと、「goodボタン」と「badボタン」というのがありまして、これは配達員から店舗、配達員から注文者へ付けられるものです。店舗が配達員をgood、badというのはありますし、店舗が注文者にbadをつけるというのはまずないと思うんですけど。注文者が配達員に対してgood、badというのは付けることができます。これもまた地域の平均値を下回るとアカウントが停止されると言っているんですけど、店舗によっては、配達員から噂になっている評判の悪い店というのがずっとあり続けるんですね。ですので、どうやらこの対象になるのは配達員だけなんじゃないかと噂されております。
直近100件のgoodもらった、badもらったという数値として表われます。ですので、普通に、普通というか何て言うんでしょうね、よほど接客態度に問題がない限り、90%以上は行くくらいが目安だったりします。
また、届け先は、住宅とかオフィスとか店舗とは限らないんです。別のお店、別の食料品店とかに、まったく別の食料を運ぶということもある。具体的に言うと、私はピザ屋さんにタピオカドリンクを運んだことがあります。どこからでも頼めるんですね。住所さえ明記すれば。だから、お花見のシーズン、コロナ禍の前のお花見のシーズンは稼働を見合わせる配達員もいました。いまではもう、たぶんそうしたケースはないと思います。
システムの変更とそれにともなう問題等
【天野】以前、ユニオンで、「届け先の表示が非常にシステム上ずさんで、どこに届けていいかわからない。まごまごしている間に配達時間が経ってしまって、結局、理不尽なbad評価を食らう羽目になってしまった」というような話を聞いたことがあるのですが、その問題はいかがですか。
【土屋】まだ私はそれには当たってないんですが。2021年5月10日から新しいシステムになって、それ以降は、そういう極端な例はないのですが、それ以前は、練馬区とか自宅って表示された届け先表示というのがあって。2021年5月以前のシステムですと、お店で商品を受け取るまでは届け先がわからないシステムだったんですね。ですので、商品を無事に受け取ったぞ、よし届けるぞ、オン!ってやると、「自宅」と出るんです。そういう理不尽な状況はいくつかありました。はい。
【天野】いまのシステムだと、地図上の表記もそんなにおかしくはないから、正確に届け先がわかるようになったという感じですか。
【土屋】そうですね。いまのシステムではそういう理不尽なものはいまのところは当たっていませんが、ただ、最初に表示されるときに、練馬区なら練馬区、文京区なら文京区、そこまでしか出ないというバグはあります。
内訳不明に、「スリコ」まで
【天野】わかりました。次に、新しいシステムでいうと、大きく問題になっているのが報酬ですよね。その報酬システムについてご説明をお願いいたします(別掲「報酬体系」参照)。
報酬体系
1. ベース料金:配達時間や距離にかかるとされる報酬。(内訳は不明)
2. 配達調整金:道路事情や料理の待ち時間を勘案した報酬。(内訳は不明)
これらの総計からサービス手数料(10%)を差し引いたものが基本配送料となる。
上記に加えて、
-場所や時間帯に応じて定められ、ベース料金にのみかかる「ブースト」
-繁華街の配達員不足の度合いに応じて発生し、短い間隔で金額が変動する「ピーク料金」
-月曜~木曜、金曜~日曜の間に一定回数クリアすると発生する「日跨ぎ報酬」
-降雨時に一定の回数を配達すると発生する「雨インセ」
といった「インセンティブ」という追加報酬が付加される。
※基本報酬だけでは最低賃金を割る事は珍しくない。日跨ぎ報酬は配達件数が多いほど報酬も増えるため、 配達員は長時間労働を促される傾向にある。その危険性を指摘するベテラン配達員は多い。
【土屋】まず、以前はどうだったかということをお話ししたいと思います。というのも、この報酬体系の①ベース料金、②配達調整金ともに「内訳は不明」となっていて、結局、なんだかわかんないじゃんということで、これが2021年5月9日まではある程度わかっていたんですね。受け取りの際に、商品を受け取る際に発生する料金、商品をお渡しする際に発生する受け渡し料金、あと距離にかかる距離料金-1キロあたり60円とかありまして、そこからサービス手数料を引いたものが基本報酬となって、そこに上乗せ分のインセンティブが付くよという、ある程度、明快に説明できたんです。だから最低でも1回あたりの配達料は351円かな、東京の相場ですと、というのがあったのですが、そういう諸々が2021年5月10日から、「内訳は不明」というものになり、ベース料金と配達調整金という基本配送料にいろいろ、下に書かれたようなインセンティブが上乗せになるというかたちは変わっていないんですが。ただ、これが不思議なことなんですが、これらを全部ひっくるめて300円という配達料が、その現象って言うんですかね、配達1件あたり300円っていう案件が、時間帯、場所と時間帯によって多発することが報告されていますし、私も現にそれを受注したことがあります。
具体的に申しますと、まず需要の少ない時間帯-朝とか深夜とか。あとは地方都市で多く観測されていて、これは報酬体系が改められた全国的には2021年5月10日からのことです。先行してこのシステムが導入された京都と福岡では、先行した2021年3月1日から報告されていて、これでは仕事にならないよという声が配達員から多数寄せられております。
【天野】ありがとうございます。今年の5月から大きく全国的に変更になったということですけれども、その変更のときの連絡というのは、ウーバーイーツの運営側からどういうふうに配達員になされたのでしょうか。
【土屋】はい。1週間か2週間ほど前に、メールのほうに運営からこのようなシステムになりますという、システム変更のお知らせというのが届きました。報酬体系についてのみ話しましたが、その他にもシステム上大きな変更点があり、先ほどちょっとふれましたが、それまでは商品を受け取るまでは届け先がわからないという、これで個人事業主って言い張るかという状態だったのですが、5月10日の変更からは、受注したときにそれまでわからなかったのがもうひとつあって、お店ですね。商品を受け取るお店の名前と住所がわかるようになったこと。届け先の住所がわかるようになったこと。あと、配達の総合距離というのがわかるようになったこと、つまり長距離案件かどうかを受注時にわかるようになったんですね。もうひとつは見込み金額ですね。配達を想定時間内で終わらせた場合に、だいたいこれくらいの金額ですよという情報が提示されるようになり、受注時に表示される情報量が2、3倍になりましたね。それらと、この報酬体系の変更というものがワンセットで行われました。
【天野】そうするとメールでの連絡一本だったということですね。
【土屋】はい、そうです。
【天野】ある程度、受注する時に表示される情報量は増えたものの、料金、支払われる報酬の根拠、計算内容というか内訳についてはさっぱりわからなくなってしまって、どんな長距離でも300円という案件も出てくるようになったと、こういうことですね。
【土屋】そうですね。たしかに最初に提示される情報は増えたんですが、ではなぜこの配達がこの金額になるのかというところは、まったくもって不明になってしまいました。
【天野】報酬の根拠がブラックボックスだということですね。
【土屋】そうですね。たしかに最初に提示される情報は増えたんですが、ではなぜこの配達がこの金額になるのかというところは、まったくもって不明になってしまいました。
ですから、おまじないみたいな感が増しましたね。この注文はなぜこの金額なんですかというと、それはAIがそう言っているからです。AI様、AI様って箱の中につぶやくような。そんな感じの状況になりましたね。
【天野】配達員のなかでは、300円のやつが多いので、特殊な言葉が生まれてますよね。「スリコ」という。
【土屋】はい。100円玉3枚の注文だから、スリーコイン、略してスリコ案件とわれわれは呼んでいます。
受注時間1分から30秒に短縮
【天野】それともうひとつ、最近、配達員のスマホに運営側から発注がきたときに、それに配達員が対応しなければいけない反応時間について、かなり制限があるという話なんですが、そちらはいかがでしょう。
【土屋】そうなんですね。先ほど申し上げましたとおり、2021年5月10日から非常に多くの情報が受注時に表示されるようになり、それを見て判断してね、できるようになったよって、運営側は言ったんですけど、それまで1分程度あった、いわば受注画面ですよね。これを拒否するか受けるか選択することのできる時間が、それまで1分だったものが、この変更を機に、なぜか30秒程度にほぼ半減させられました。これらは体感時間ですので、厳密には何秒ということは言いかねるのですが、これがさらに2021年8月3日から2週間程度、なんと15秒になるという改悪がなされて、だいたい距離とか想定金額とか、お店の住所と名前とか、あとは届け先の住所とかをたった15秒で判断しろと。しかも、これがバイクで幹線道路を走っているときに来た日には、もう安全なところに停車して受注するかどうかを選択しなきゃいけないし、それは無理ですのでこれは大変危ない、まさに改悪だったんですけど。私もそのときはもう、注文入った、取った、やった、取れた、みたいな。停めてから取った、ですね、順番としては。すみません。走りながらそれを見ちゃうと事故につながりますので。
ですので、これは大変危険な状況でしたけど、さすがにこれは不評が多かったためか、あとは、これで事故が多発しちゃったらまたイメージが下がるからか、2週間程度で30秒に戻されましたが、それでも30秒です。
【天野】そういう変更というのは、さっきの報酬体系もそうですけど、要するに運営側からいきなり連絡が来て、それで変わるっていう感じなんですよね、どれも。
【土屋】この受注時間の短縮に関しては、これは実際に私測ったので15秒ってわかるんですけれど、15秒になったときには何の連絡もありませんでした。
【天野】アナウンスなしですか。
【土屋】なしです。まさに一方的決定。
労災事故への対応と労災保険のあり方
【天野】報酬体系ですとか、あるいは配達中の応答時間の変更とか、そういったものが一方的に行われる。ときにはアナウンスなしに行われて、配達員の方がその対応に苦慮する、振り回されてしまうという状況になっているというお話でした。
ここからはもうひとつ、先ほども出ましたが、労災のお話をもう一度ちょっと確認をしたいと思います。土屋さんご自身が2019年7月に自損事故を配達中に起こした際に、きちっとルールどおり、サポートセンターに電話で報告をしたら、アカウントが永久停止になるというようなことが書かれたメール(別掲)が返ってきたということですが、この話とその後の労災関係の動きについて、あらためてご報告していただけますか。
Uber事件対応担当部署の■■と申します。
事故に遭われたとのこと、お見舞い申し上げます。
事故後の適正なご対応ありがとうございました。
私たちはUberの乗車体験が全てのユーザーに安全で快適なものになるよう望んでいます。
配達パートナー様の不注意による事故の場合、配達パートナー様はUberシステムへのアクセスを失うことにもなりかねません。
厳しい注意喚起ではございますが、今回のようなことが再度あれば、あなたのアカウントは永久停止となるかもしれませんのでご注意ください。
お怪我の経過にご留意いただき、回復されましたら、配達パートナー様としてご協力いただければ幸いでございます。
【土屋】先ほど申しましたとおり、ウーバー側が配達員を対象にした傷害見舞金制度というのを作ったのは2019年10月1日です。それ以前から、月に一度のペースでウーバーイーツユニオンは、まだ結成前の準備会の段階ですが、その様子をYouTubeなどで公開していました。そのなかで、ユニオンの三本柱の方針ということで、運営の透明性、適切な報酬、そして労災の適用を掲げていたのですが、それにぶつけてくるかのような対応でした。10月3日にユニオンを設立しますと公開で言ったら、10月1日に配達員を対象にした傷害見舞金というのをあちら側が用意したという経緯です。ちなみに、対人・対物補償というものはそれ以前から一応ありました。
ただ内容としては、治療費の保障が最大で当時は25万円。稼働できなくなったときの1日あたりの補償が7500円。入院費用も最大30日までしか持ちませんよというので、これはちょっといくらなんでもしょぼくないですかという声があり、2020年の9月くらいにそれはやや改善されました。治療費は最大50万円。入院は60日まで。1日あたりの補償額は変わらないのですが、あと自転車配達員がヘルメットを被っていたか被っていないかによって金額が上乗せされるとか、そういうものがあります。
それまでにはわれわれが、先ほど天野さんがおっしゃってくださった事故調査プロジェクトを行ったんですね。実施したのが2020年1月から3月。発表したのが2020年7月。で、それで結構注目していただいて、各所で報道していただきました。おそらくそれを受けての改善なのではないかというふうに考えています。
https://www.ubereatsunion.org/blog/169/
【天野】その後、2021年の9月に今度は労災保険の特別加入ということになりました。バイクの人たちはいままでも特別加入できましたが、自転車配達員の人たちについて、新たに特別加入が認められるというかたちになりました。ユニオンとしては、特別加入の拡大ではなくて、より抜本的な改革をということをずっと言い続けているわけですが、どういったことをユニオンとして求めているのかについて話していただけますか。
【土屋】やはりこの、なんで事故のときだけその責任から逃げるのという、まずそこですよね。先ほども言いましたとおり、ウーバーイーツの配達員として稼働するためには、このウーバードライバーアプリというものをダウンロードしないとまず稼働できないんですね。ですので、使用従属性という観点からもこれは重要なことでして、そのような状況下にあって事故が起きたけれど、あとは自分で責任を負って、自費でなんとかしてねというのはちょっと虫がよすぎるというか不自然ではないかなと思いますし、同業他社の出前館というところでは、直接雇用、アルバイト、業務委託、個人事業主の配達員が混在していますが、アルバイトには社会保障が適用されるわけですが、業務委託や個人事業主には適用されない。これはやはりおかしい。これはもうフードデリバリー産業すべてに言えるんですが、専用アプリを使わないとまず仕事ができないんですね。なぜそこの状況下で事故を起こしても企業側が何もふところが痛まないようにできているんだろうという疑問があります。
【天野】ウーバーイーツユニオンでは、「労災保険制度の見直しに関する要望書」を2020年8月13日に出して、その後も同じ趣旨で記者会見をしたり、厚生労働に要請をしたりしていますが、土屋さん、その点について少しご説明いただけますか。
【土屋】「雇用類似の状態で」というのが先ほど申しましたアプリですね、いわば企業側が用意したプラットフォームによって、われわれは行動を制限されているわけです。その指示どおりに仕事をこなしているわけです。で、そのなかで労働力を確保する企業側の責任や負担を回避して制度変更を進めようとする姿勢が顕著です。先ほども呉さんがおっしゃってくださったとおり、同一労働なんです。同一労働同一待遇というのがなされていない現状というのを追認しているわけですね。例えば、いつでもログインできて、いつでもログオフできるから、そんなの労働者って言わないよって、それは暴論だと思うんですね。仕事は仕事だし、仕事をしているときのリスクは同じでしょう、と。リスクは同じなのに、なぜ個人事業主という言い分で企業側が責任を回避できるのかということです。
われわれが労働力を提供することによって対価が発生している。これはすべての労働者に共通する要素ですね。労災保険制度は、「業務に関連する怪我や病気による労働者の損害を補填することだけにとどまらず、日本で働くすべての労働者の生活保障の機能も持っています」。やはり労働者間の分断のひとつの現われなんです、これは。同じ仕事をしているにもかかわらず、待遇というか定義づけが違うために、本来権利として保障されているはずの待遇を受けられていないというのが現在のフードデリバリー業界の現状であり、それを追認したというか、それをむしろ補強したのが政府の決定だったわけですね、特別加入枠という。
当事者の声を政策に
【天野】ウーバーイーツユニオンとして、労災についてどういうことを要求しているのかというところをちょっとご説明いただけますか。
【土屋】このウーバーのような、労働力を確保して事業を行う企業が労災保険の保険料を事業主負担するかたちで労災保険の適用を行うことを要請しています。これは、われわれの結成当初から一貫した主張です。
具体的には、現在の労災保険法を改正して、労災保険の対象を定めた条文を新設し、「労務を提供し、その対価を得ている者」など、現行のフリーランスの労働実態に即した対象の定義を行い、適用対象の拡大を行うことを要請しています。
これは、最後に呉さんがおっしゃってくださった、柔軟な法制度の適用というものに相当するものだと思います。新法を作ってくれということではないのです。改正してほしい、というものです。新法を作るというと、現行の日本ですと相当時間がかかるので、枠組みのほうを変えてほしいというものです。
ヨーロッパでは現在、フードデリバリー配達員、もしくはライドシェアの運転手たちが労働者性を認められるケースというのが、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペインなどで相次いでいます。これらは枠組みのほうを拡大したり変えたりということによって、そのような決定がなされています。ちなみに、韓国では、組合と業界が協定を結んで、それを国がこれから法制化していこうという段階です。
それに比べると日本というのは、この特別加入枠を適用するにあたって、われわれには一切の連絡がありませんでした。いわばハブられて、除外されていたわけです。ただ、われわれのみならず、この審議会のなかで一部の識者らもこれはちょっと拙速ではないかと、まだこの業態についての研究も足りないし、実際に配達員の声もきちんと聞けていないではないか、もっと慎重に議論する必要があるという意見があったにも関わらず、6月ですね、決定したのは。かなり早く決定してしまっていたというのが日本の状況です。
【天野】当事者の声を聞くようにはなっていないということですね。
【土屋】そうですね。その問題点というのは、先ほど呉さんがおっしゃってくださったところと密接に関わっていると思います。
【天野】ありがとうございます。最後に、土屋さんの方で言い残したことがあればお話いただければと思うのですが。
【土屋】はい。ちなみにフードデリバリー産業というものは、ウーバーイーツだけではありません。先ほどちょっとふれた出前館が、いわば二強という状態で、ウーバーイーツに追いすがるかたちになっています。その他にも様々な企業、特色を持った企業がありますので、そちらについて知りたい、ちょっと興味があるという方がいらっしゃいましたら、そちらの資料も作っていますので、後ほどご紹介できたらと思います(囲みに用意していただいたスライドのみ紹介)。私からはこんな感じです。
【天野】土屋さん、どうもありがとうございました。
安全センター情報2022年1・2月号