【全国安全センター第32回総会記念講演】フリーランスの実態と政策課題-2021.10.23 呉 学殊(労働政策・研修機構(JILPT)統括研究員)

ご紹介いただきました労働政策研究・研修機構の呉と申します。私は2007年からコミュニティ・ユニオンの皆さんから貴重な情報提供やご教示をいただいておりまして、コミュニティ・ユニオンの会議を東京・亀戸の安全センターの会議室で行うことが多く、皆さまの活動に対して感謝の気持ちを込めて少しでも理解しようというふうに思っているところです。横浜シティユニオンの川本さん(神奈川労災職業病センター)には、アスベスト問題の解決に向けた運動などについても機会あるたびに教えていただき、皆さまのご尽力によって多くの人々が救われているということを自分なりに理解をし、この場をお借りしまして、心より敬意を表したいと思います。

私は韓国の者で、1991年に日本に留学にきました。6年間大学院で勉強した後、いまの職場に入って、主に労使関係、労使コミュニケーションを中心に研究を進めてきています。本日お話しするフリーランスの問題については、2020年9月から厚生労働省の委託研究の一環として、主にヒアリング調査を中心に研究を行っているところです。
フリーランスの話をする前に、私がいままで行ってきた労使関係の観点から、いまの日本の現状を少し共有しながら、フリーランスの方々の労働者性の認定あるいは地位向上が、いかに重要であるのかということを共有したいと思います。

日本の賃金は上がっていない

日本の賃金ですが、私が日本にきた1991年以降、日本の賃金はほとんど上がっていません。OECDのデータから、G7と韓国の賃金を比較してみました。2000年から2019年までのデータで、アメリカのドルで換算した賃金水準ですが、一番下にあるのが日本です。G7の中で賃金が一番低い国は、日本なのです。

自国の貨幣でみても、他の国はどんどん賃金が上がっているのですが、日本だけが上がっていない。むしろ減っているということが、このグラフ(図省略)で確認できるのではないかと思います。日本は上から3番目です。G7の国々はすでに成熟社会で、成長はもうほぼないのではないかと思っていたのですが、実はそうではなくて、他の国は成長し、また、それに伴って賃金もどんどん上がっているのに、日本だけが取り残されていることが確認できるのではないかと思います。

次に、日本と韓国の労働者の平均賃金を年収ベースで見た推移ですが、2015年から韓国のほうが日本より高くなっているということで、私が博士論文で日本の新日鉄、いまは日本製鉄になっていますが、それと韓国のポスコ(POSCO)、新日鉄並みに大きい製鉄会社ですが、両者の比較研究で博士論文を書きましたけれども、1990年代は、ポスコの賃金が新日鉄の3分の1というふうに言われたわけでありますが、去年、両社の賃金の比較をしてみますと、なんとポスコが新日鉄の2倍になっているんですね、年収ベースで。新日鉄が労働者の平均年収が490万円ですが、韓国のポスコはちょうど980万円でして、いかに日本の賃金が低いかということが象徴的にわかると思います。2つの会社の比較をしてみると、如実に日本の賃金は上がっていない。韓国の賃金は上がってきているということを実感できるわけです。もちろん賃金が上がることにともなって価格競争力が落ちる可能性もありますが、そうならないように、製品の質をもっと上げるとか、あるいは新しい、高い付加価値があるところにどんどん事業展開をする等を通じて、価格競争力より品質あるいはサービス競争力を高めていくということで、賃金が上がっても企業経営は健全な発展を遂げていくということが、韓国では見られるのではないかと思います。

労使関係対等原則の希薄化・形骸化

本当にいまの日本の状況を見ますと、私は非常に危機感を覚えております。なぜ、日本の賃金が上がらないのか。そういうことを見ますと、やはり労使関係というのは対等性原則が基本ですが、それが確保できていないということが一番大きな要因ではないかと思うのですね。労働基準法、労働契約法、労働組合法には、労使は対等であるべきだという原則が具体的に定められていますけれど、実態はそうなっていないということが、一番大きな要因ではないかと思います。

なぜ、労使関係の対等性が希薄化・形骸化されたかということを見ますと、ご存じのとおり、労働組合の組織率がほぼ一貫して低下をしている。また、36協定-残業・休日労働協定の締結などにおいては、過半数組合がなければ従業員過半数代表者が代わりにその役割を果たすことができますけれど、過半数代表者の選出、また役割を見てみますと、まったく意味がない。私は形骸化という言葉を使っていますけれど、なぜ形骸化が起きているかと言いますと、代表者の選出だけを見ても、労働基準法施行規則第6条に3つの要件、働き方改革でもうひとつ増えて、いま4つの要件があります。それは、①管理・管理監督者ではないこと、②選出目的を明示して選出を行うこと、③選出の時に民主的な手続で選ばれること、そして、④使用者の意向によって選ばれることではないことが、働き方改革の一環として付け加えられました。この要件を厳格に満たして選出されることはほぼゼロなんですね。それと同時に、やっぱり過半数代表者の役割は、もう判子を捺すだけの役割しか与えられていないということで、私から見るとまったく意味がないことではないかなと。もっぱら行政的な手続をするための従業員過半数代表者ではないかと思っています。

そういうことで、組合の組織率の低下とともに、いま組合がないところ、労働者ベースで言えば8割以上が組合がないわけですが、そこには労使関係の対等性はまったくないということで、労使関係の緊張感というものがその職場にはまったく見られないのではないか。交渉という面から見ると、労働者の交渉力は弱体化、あるいはもうほぼないに等しい。それにともなって産業民主主義ということもまったく見られないのではないかと思うのです。
その結果、日本の雇用・労働条件の下降平準化というものが、その間、行われてきたのではないか。と同時に、私は労使コミュニケーションが経営資源であると主張していますが、この過半数代表者の役割を見ますと、労使のコミュニケーションを図るようなことは一切ないということで、労使コミュニケーションの経営資源性を発揮できる環境がもうないということが、日本の労働者の交渉力を弱体化し、賃金も上がらないということにずっとなってきたのではないかと思うのですね。

コミュニティ・ユニオンの皆さんのご協力を得て、2007年からヒアリング調査をして、全国の労働者約60人に、1人あたり2時間、3時間ぐらい時間を割いていただいてヒアリング調査をしましたけれども、そのとき、「現代版奴隷市場」とか、「江戸時代だったら刀を持っていって社長の首をはねてやりたい」とかですね、「とにかくダメージを与えたい」、「にっちもさっちもいかなくて本当に路頭に迷っていただろう」、「もう死んでしまうかもしれない可能性がある」、「女性30歳高齢者」などなど、なかなか私が想像もできなかった言葉を労働者から言われまして、え、ここも日本なの?と疑ったことがあるのですが、フリーランスの調査をしてみますと、こういう状況がまったく変わっていないということで、いかに日本の労働現場、フリーランスの労働実態がひどいかということを身をもって体験しておりまして、2007年の調査のときといまはほとんど変わっていないということを感じています。

韓国の勤参法とその運用実態

一方、韓国はなぜ賃金が上がり続けているのか。韓国の経営者たちは、上がりすぎてもうダメだということをよく言うわけですが、労働組合の組織率は日本と比べてもまだ低いのですね。12.5%しかありません。日本が17.1%なので、日本よりはるかに低いわけです。しかし韓国では、「勤労者参与及び協力増進に関する法律」というものがあり、略して「勤参法」と言うのですが、組合があってもなくても、30人以上の企業には、この法律に基づき「労使協議会」を設置することが義務づけられているわけです。その労使協議会は、労働者代表と使用者代表-使用者代表は社長ですが、労働者代表も選ばなければいけなくて、その選出においても本当に民主的なかたちになるように法律に明記されています。また、協議会は3か月に一度、必ず定期的に開催することが法律に定められています。こういうことを守らなければ罰則規定があります。

そういう意味では、法律の履行確保措置もとっているわけですが、この労使協議会は主に3つの役割を果たしています。1つは、協議事項の協議をします。生産性向上とか成果配分など、いまであればAIを職場に導入することについても、労使が協議しなければいけないということになります。

2つめは、議決事項ということで、労使が合意しなければ実行できないというものがあります。

3つめが、報告事項というものがあって、会社、経営計画、生産計画、人員計画、また、その企業の実績などを、全部報告することになっているんですね。この報告事項を報告しない、あるいは資料を提出しないということであれば、労働者委員が資料提出等を要求することができるわけです。正当な理由なく応じなければ、罰則適用がされます。

こういうことで、労働組合がなくても会社の状況をきちんと労働者が把握できる。また、会社の様々なことについて協議できる環境が整っているわけです。

2020年2月~3月に韓国に行き、17社の労使協議会の運用実態を調査させていただきました。17社の調査で多くのことがわかりましたけれども、簡単に申し上げますと、4つの性(企業経営の透明性、労働者の参加性、主体性、納得性)の確保と緊張感ある労使関係ができていると思いました。

1つ目が、企業経営の透明性が確保されているのですね。四半期ごとに企業業績などを全部報告しなければならないので、年4回、企業の業績を全部、労働者側に開示しなければいけない。

2つ目は、労働者の参加というものが確保されているということで、この労使協議会の活動は勤務したこととみなされていますし、また実際、労使協議会の運用実態を見ますと、協議事項も事実上、合意されているわけです。ですので、労働者の参加がなければ協議事項も実行できないという側面があります。

3つ目が、労働者の主体性が確保できているということで、労働者側の委員の選出のときに、使用者側が介入することが禁じられており、また、労働者が労使協議会の代表として、いろんな活動をすることがけしからんということで使用者が不利益取り扱いをすることができないことになっています。

また、いろんな協議会の活動ができるようにサポートをしなければいけないと、ちゃんと法律に書いてありますので、それを通じて労働者側は主体性を発揮しながら労使協議会に臨むことができます。

4つ目ですが、労働者の納得性が確保されていると思うわけです。この企業のことは全部わかっているので、もうこの企業があんまりこの先望みがないとすれば転職すればいいのであり、あるいはよくないことを改善しようという、その思いで自分なりにこの企業でやってみようという選択肢もあるわけですね。とにかく働き続けることでも、辞めることでも、自分が納得しながら意思決定ができるという、4つの性が確保されているというふうに思うわけです。

これにともない労使関係は、もちろん労働組合があったほうがより対等でありますけれど、しかし組合がなくても、ある程度、日本に比べると、はるかに対等性が確保されている。労使関係も本当にピリピリしているんです。緊張感ある労使関係となっているわけです。

また、協議議決事項などがあるので、すべて企業内の意思決定は労使コミュニケーションをとらなければいけないということで、労使コミュニケーションの経営資源の発揮をして、企業の健全な発展と労働者の処遇改善が図られる好循環になっているのではないかと思うのです。

そういうことから、韓国がなぜ賃金がこんなに高くなっているのかということを見ますと、労働組合運動だけではなくて、この勤参法という法律に基づいて、個別企業の中で労使がある程度、対等な話し合いができる基盤ができているのではないか。できていることによって、それが実現されているのではないかなというふうに思うわけです。

こういうことを見ますと、日本でも従業員代表制の法制化、韓国の労使協議会のような制度が導入されることを望んでいます。

フリーランスの定義・規模

こういうことを、私は研究してきたわけですが、フリーランスのヒアリング調査の内容をご紹介したいと思います。

フリーランスについては、いろんな定義、調査がございますが、2021年3月に内閣官房厚生労働省や公正取引委員会などが出したフリーランスのガイドラインというものがありますが、そこでは、「フリーランス」とは、実店舗がなく、雇い人もいない自営業種や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者、と定義されています。

規模は300万人台から400万人台となっております。国勢調査によりますと、過去30年間、自営業者全体は減ってきているわけですが、いわゆる「雇用的自営業者」は増え続けているということです。
大規模調査が4つありますが、最近の調査であり、またサンプルも一番大きい内閣官房の調査を見てみますと、フリーランスの方々が460万人強となっています。

労働者性の判断基準

私が行っている調査は、フリーランスの方々に労働者性がどのぐらいあるのかということの実態調査ですが、日本では労働者性の判断基準は、2つの側面であるわけですね。労働基準法上の判断基準と労働組合法上の判断基準ですが、今回の私の調査は、主に労基法上の判断基準からフリーランスの方々に労働者性がどのぐらいあるのかということを調査していますが、一番重要なものが「使用従属性」があるのかどうか。すなわち指揮監督のもとで仕事をしているのかどうか。補強要素として、事業者性があるのかどうかということもあります。労基法上、ある人が本当に労働者であるのかどうかということを判断するのに使用従属性が最も重要な要素であると言って過言ではないと思います。

2020年の9月からフリーランスの方々、34人の実態調査をさせていただきました。後ほど特別報告をなさる土屋さんにもご協力をいただき、2回にわたって貴重なお話を拝聴いたしました。

スライドの6ページ(省略)が、調査にご協力いただいた方々の職種とヒアリングの日時を一覧にしたものですが、今日は時間の関係もありますので、フードデリバリー(ウーバーイーツ)配達員の状況、出版社で校正をしている方、ホテルの経営をしていた方、芸能従事者、4つの事例を簡単にご紹介申し上げたいと思います。
この4つの事例は、労働者性の判断をするにあたり、いまの時代だから考慮しなければいけない新たなことが考慮事項として現われているのではないかということであります。

それと、フードデリバリー配達員を除いて、他の3人の方々は労働者である可能性があるということを強く主張しておりますし、ウーバーイーツは社会的な注目度が非常に高いということから、4つの事例を取り上げることにしました。

結論的に申し上げると、労働者性の判断基準から見てどのようなポイントがあるかということですが、事例1:フードデリバリー、ウーバーイーツの場合には、使用従属がシステムに組み入れられているということで、日々これをやれ、あれをやれということを、いわゆるプラットフォーム事業運営者から言われなくても、使用従属の下、仕事をしなければいけないということがあります。

事例2の出版社の校正ですけれど、出版社にずっと朝から夕方までいながら仕事をする方を「常駐フリー」と言われていますが、以前は本当に正社員とほぼ同様の仕事をしてきましたけれども、会社が労働者性の判断基準を避けるために様々な工夫をしてきていますが、その一環として、その校正をやっている人の上司がフリーランスになっているのですね。そういうかたちで労働者性を逃れようとする動きがあるということ。

事例3は、ホテルの経営です。本当にすべての仕事がマニュアル化されていて、それに従属されているということです。

事例4は、俳優兼歌手ですが、労働者以上に実は拘束されているという実態があります。

こういうことを見ますと、フリーランスの方々にも労働者性がかなり強く見られると言って過言ではないのではないかと思います。もちろんそうではない方も調査していて、いわゆる純粋なフリーランスの方もいらっしゃいますけれど、とりわけ一番問題として、こういう労働者性の判断基準から見て、大きな問題をかかえている事例について、具体的に見てみたいと思います。

フードデリバリーサービス配達員

フードデリバリーにつきましては、ウーバーイーツユニオンの土屋委員長からお話が後ほどあるということで、簡単にふれさせていただきたいと思いますが、労働者性の観点から見ますと、配達するかどうかというのは自由だというふうに多くの方が考えていると思いますが、もちろん自由の側面がありますが、しかし、オンラインにして配達をするかどうかという、リクエストが現われているのに、それを拒否し続けると最終的にアカウント停止につながる可能性があるわけです。会社側からは「応答率が低い場合、配達パートナーの皆様にはアカウントを停止する場合もございますので、あらかめご了承をお願い申し上げます」ということで、まったく自由ではない。拒否し続ければアカウント停止につながるということですので、「不自由な諾否の自由」というふうに表現をさせていただきました。

それと、配達するにあたって、レストランと注文者から注意事項というものがあるのですが、それをきちんと確認をして、それにしたがって配達することが求められているわけです。

そういうことから見ますと、プラットフォームシステムの中に使用従属というものが組み込まれていると言って過言ではないのではないかというふうに思います。配達にはいつも事故の可能性がありますけれども、一番、配達員が求めているのが、労災適用です。2021年9月、特別加入になって一歩前進したと思いますが、しかし、一般の労働者のように労災適用を強く求めているということで、労働者性がそれなりに認められるということ。それと、仕事をする上で、正社員かどうかということで、その事故が回避されるわけでもないわけですね。みんな仕事をするときに事故が起こらないように、怪我しないように注意しますけれど、でも仕事をするのにともなって事故、労災はつきものですので、やはり同じ仕事をすれば一般の労働者のように労災適用になるのが当たり前ではないかと思います。

ちなみに韓国は、かなり労災適用範囲を拡大しております。いまフリーランスの方々もかなり適用されておりますが、2021年7月からどんどん適用拡大をしています。また韓国でも、この特別加入制度があるのですが、特別加入であっても保険料は労使折半なんですね。韓国と比較して、日本は、働く人に過度な負担を強いているのではないかと思います。

出版社での校正

校正の方ですが、もともとこの方は正社員の編集者でありましたけれど辞めまして、辞めた理由は趣味をもっとしたいということだったわけですが、辞めてすぐ校正プロダクションのテストに合格をし、その後、大手出版社に「出向」ということで出され、そこでずっと仕事をしています。

最初はパートタイム的なかたちで仕事をしましたが、2006年からは専業でやっているということです。

契約書と実態を見ますと、偽装請負であると言って過言ではないのではないかと思います。会社では「出向」と言うのですが、出向元で正社員であるわけでもない。また、派遣労働者かと言えばそうでもないわけです。この校正プロダクションが派遣事業の許可を得ていないということで、結果として偽装請負に等しいと言って過言ではないと思います。

最初は校正プロダクションからは念書を渡されて、期限のない契約であったわけですが、いわゆる5年ルールが適用される2018年以降、万が一ということで出版社が法律違反を回避するために、2018年度からは単年度契約となり、不安定な就業が一層高まったということです。

以前は、出版社の人事異動の一環として、出版社の中で異動させられました。諾否の自由はありません。1回、難色を示したことがありますが、それによって首切り騒動になったということです。

この方は正社員であれば、やる仕事があっていいなというような思いを持っているわけですが、本当に仕事があるかどうかもよくわからない。出社して本当にいろんなかたちで仕事をもらうわけですが、「社内日雇みたいな」働き方をしているというふうに表現をしています。

報酬はずっと下がってきています。ボーナスは一切ないという状況でございます。

使用従属性から見ますと、2018年前までは社員から仕事をもらって行ってきているわけですが、会社がどんどん法律違反を回避するために様々な工夫をして、いまは使用従属性があるのかどうかということを判断するのが非常に難しい状況に追い込まれています。

この方は趣味をもっとするためにフリーランスを選択しましたけれども、自由な時間がまったく取れず、2016年に結局、趣味も辞めることになりました。正社員を辞めてフリーランスを選択したのが誤算であったと言われています。

有給休暇なども一切ありませんので、ずっと仕事をし続けてみると、同年代の人と比べてみるとやはり体力的に駄目だなと。何か頑張りがきかないということで、非常に身体が弱まってきているということを自覚しているわけです。

ホテルの支配人・副支配人

次はホテルの支配人・副支配人ですが、この2人の方は夫婦ですが、地域振興に非常に関心があって、そのための事業計画書を作ってみたのですが、事業化には2000万円の資金が必要であり、どのように確保できるかということでいろいろ当たってみたところ、求人サイトで「4年間で3000万円が貯蓄できる」という広告を見て、ホテル経営に応募して合格しました。

上野にあるホテル店舗に配属され、仕事をしました。会社がいろんな広告には4年契約というふうになっていたわけですが、実際に契約してみると、1年契約となりました。

契約の内容でが、ホテル運営のすべての業務となっています。と同時に、付帯の一切の業務となっていて、業務遂行方法は「統一的な営業品質を確保するため」、ホテルの本部の経営理念、経営方針、その他のマニュアル、1300ページ以上ありますけれど、それに従って仕事をすることが求められています。

したがって、自主的・主体的にできることはほぼないということです。

就業の内容を見ますと、毎日がマニュアルに基づいて決められていますので、それに従ってやらなければいけない。1週間の中で曜日ごとにやらなければいけない仕事も決まっているわけです。また、1か月の中に、特定の日ごとにやらなければいけない仕事もあって、本当に日常的な業務はすべてマニュアル、ホテルの本社の指示に基づいてやらなければいけないということです。

クレームなどもたくさん宿泊者からありますが、そのクレームなどの異常時の業務も実はすべてホテルの本部に報告をし、指示を受けて処理しなければいけません。なぜかというと、金銭的な費用は全部本部負担であるわけです。ですので、すべてクレームなどは本部に報告することになっていて、その指示を受けて仕事をしている。

それと、ホテルは清掃が非常に大事ですが、清掃業者は本部が一方的に決定するわけです。それとアルバイトの採用も本部の承認が必要であるということで、ホテルの経営ということで、支配人・副支配人が自主的にできることがあるかと言えば、ほぼないと言って過言ではないと思います。

就業時間を見ますと、副支配人は朝5時30分に起きて、夜9時、10時ぐらいまで仕事をするわけですが、クレームがあると深夜2時、3時まで対応しなければいけない。

支配人は夫ですが、朝5時、6時ぐらいから休んで、寝ていくわけですが、12時、13時頃起きて仕事をして、翌日5時30分まで仕事をします。すなわち深夜就業するわけですが、なぜ深夜に仕事をしなければいけないかというと、クレームに対応しなければいけない。空室があったら埋めなければいけない。不審者の出入りを監視すること。防火管理責任者となっているので、深夜の仕事をしなければいけない。また、満室にするためには営業活動を常にしなければいけない。また、曜日、月の特定日に報告しなければいけないことに対応するために、深夜就業をしなければいけない。

553日間就業しましたけれども、1日も休みがなかったということです。報酬は、当初4年間3000万円以上貯金できるということでしたが、蓋を開けてみると実はそうではなくて、1年目の1100万円の委託料がありましたが、これは支配人・副支配人合わせての委託料ですが、アルバイトを雇ったら、そのアルバイト代を委託料から払わなければいけないわけですね。税金などもすべてそこから払わなければいけない。またアルバイトも長く定着してもらわないといけないので、その人たちに食事代も出すなど、経費もかなりかかるわけです。それらを差し引くと、毎月残るものは20万円から30万円しかないということで、当初、ホテル本部が示した、4年で3000万円貯金ということとは大きく乖離しているということ。

また、マニュアルに従って仕事をしなければいけないのは、いわゆる人事評価があるからです。「ライセンス成果給」というものがあり、マニュアルどおりやっているのかどうかということをチェックするので、それに従っていかなければいけないということになっています。

結局、コロナの影響もあって、解約をされることになりましたが、このままだったらもう死んでしまうということで、やっぱり身の危険を感じて命を救うためにユニオンに加入をしました。それにともなって解約させられました。

本当に、事業者の自主性などは一切ないと言っていいと思います。

この2人はもういろいろと体調不良をかかえていたのですが、553日間一日も休みがなければ、いくら頑丈な人であっても身体に異常が発生するのは間違いないことだと思います。

芸能-俳優・歌手

俳優兼歌手の方です。本当に自由だと私たちはたぶん考えているというふうに思いますが、実は労働者以上に拘束されているというのが俳優さんの実態ではないかなと思います。

私はこの方の契約書全部をご提供いただきました。契約書に「甲の指示」すなわち専属事務所の指示にすべて従って行動しなければいけないということで、事前に休日・労働時間が設定されておりません。仕事をする場所もわかりません。仕事の内容も、撮影地に行くと、もういろんな人から指示されるわけです。それだけではなく、人間関係も実は許可を得なければいけないということで、そこまで従属されているということです。

また、A事務所からB事務所に移籍されることになりましたが、本人の同意を事前に得ることなく、人身売買的な形でB事務所に移籍させられるということで、労働者以上に考えられないほど拘束されているという実態があります。

契約のときに交渉力は一切ありません。ですので、契約の内容もちゃんと理解できないまま契約をすることになります。やはり、契約は当事者の対等性が必要ですが、まったくそれがされていないというのが大きな問題であると思います。

考察(政策課題)

ちょっと時間が来ましたので、最後に、政策課題について申し上げたいと思います。

この4つの事例を見てみますと、政策課題は4つあると思います。第1に、労働者以上に弱い立場にあるのがフリーランスであると思います。さらに弱くなっているという側面がありますが、とくに校正の事例では、事業主は労働者性の判断基準に該当しないように様々な工夫をしているわけで、フリーランスはそれに対抗できる力がないです。

また、契約はしますけれど、やはり、実際にその契約書どおりに仕事をやってみないと契約の内容がわからないわけです。そういう意味では、何もわからないまま契約を締結する。しかし、その後に問題があっても、契約したからということでそれに拘束されて異議申し立てもなかなか受け入れられないということで、非常に大きな事業主と対等な関係を持つことができないような契約となっていると言って過言ではないと思います。労働者以上に弱いフリーランスをサポートしていく政府の政策が講じられる必要があります。

第2に、現在の労働者性の判断基準から見ても、やはり、労働者性の認定が必要ではないか。その際には、プラットフォームシステムやマニュアルをどのように取り扱うのか。日々口頭で事業主から指示されなくても、それに従って仕事をしなければいけないということから見ますと、私は、こういうかたちで仕事をする人に対しても労働者性の認定が必要ではないかと思います。

もし認定が難しい場合には、新たな認定基準を設ける必要があるのではないかと思いますが、1985年に労働者性の判断基準が定められて以降、労働者の働き方はものすごく変わってきているわけです。一言で言えば、労働者は受け身的な存在から主体性を発揮できるような、そういう役割を求められており、いまの判断基準はもっぱら受け身的な労働者の姿を前提にしていますので、この間の企業の人事労務管理の変化が踏まえられていないということで、見直しのときには、人事労務管理の変化を踏まえて見直しをすべきではないか。

さらに、第3に、それが難しい場合には、1つ目に、フリーランス独自の保護措置をとらなければいけないと思いますが、フリーランスの保護措置をとるにあたっては、やはり、就業形態に中立的な費用システムを構築すべきであると思います。岸田首相が働き方に中立的な社会保障、勤労者皆保険の実現を経済政策に掲げていますが、是非実現されてほしいと思います。実態に目を転じれば、フリーランスと正社員との間には費用の格差がもう3倍ぐらいあるわけです。そうであれば、事業主はフリーランスをもっと多く使いたいということになりますので、やっぱり中立的な費用システム、すなわち、基本的に社会保障はどのような雇用・就業形態であっても同じく適用されるようにしなければいけないと思います。最低賃金の適用もそうです。

2つ目ですが、フリーランスはいわゆる事業主と契約をするわけですが、やはり、契約のときに対等性が確保できるような環境を国が作らないといけないのではないかと思うのですね。韓国では2009年から芸能従事者に対しては、公正取引委員会が標準契約書を導入して、対等な立場で契約が結ばれるような環境が作られているわけですが、日本でも早く、国がそういう制度を作るべきではないかと思っています。

3つ目ですが、All or Nothingではなく、柔軟な法・制度の適用が必要ではないか。とくにフードデリバリーの場合には、皆さん労災適用を強く求めているわけですね。そういうことでは、仕事の実態を踏まえて、労働者ではないから一切駄目ということではなく、やはり、保護の必要性があるということであれば、もう少し柔軟な制度の適用も必要ではないかと思います。

今回、4つの事例をみて見ましたが、フリーランスは労働者以上に弱い存在であり、そのために労働者以上に労災の危険にさらされています。一般の労働者のような労災に適用されることを期待します。また、安全センターの皆様にフリーランスの方々がサポートされていくことを望みます。

ちょっと時間をオーバーしてしまいまして、大変申し訳ございませんでした。皆さん、ご静聴いただきまして、心より感謝申し上げます。

安全センター情報2022年1・2月号