参考:韓国の労災保険特別加入と「特殊形態勤労従事者」の関係-2021.10.19.作成 鈴木明

宅配運転手は、韓国の法律上「特殊形態勤労従事者」に含まれ、労働界などでは「特殊雇用職」「特雇労働者」と称されています。

韓国の労災保険法である「産業災害補償保険法」第125条第1項は、特殊形態勤労従事者を、「契約の形式にかかわらず勤労者と同じように労務を提供するにもかかわらず、勤労基準法等が適用されず、業務上の災害から保護する必要のある者」であり、次の2点に該当する者と定義しています。

・主に1つの事業に、その運営に必要な労務を常時的に提供し、報酬を受けて生活する者
・労務を提供するにおいて他人を使用しない者

上記に該当する者は、労務を提供する時点から「特殊形態勤労従事者適用特例」により、労災保険の適用対象になります。

現在、産災保険法の対象となっている特殊形態勤労従事者の職種は、以下のとおり14種です。(制度施行日-該当職種)

2008年7月1日-①保険外交員、②コンクリートミキサー車持込運転手(2019年1月1日→建設機械持込運転手)、③学習誌の家庭教師(赤ペン先生の家庭訪問版)、④ゴルフ場キャディ

2012年5月1日-⑤宅配運転手、⑥専属クイックサービス運転手(集荷過程なし)

2016年7月1日-⑦金融ローン営業者、⑧クレジットカード営業者、⑨専属代行運転手

2020年7月1日-(③同種)家庭教師(学習教材会員の家庭訪問教師)、⑩訪問販売員、⑪レンタル製品訪問点検員、⑫家電製品設置員、⑬貨物車運転手(コンテナ、セメント、鉄鋼材、危険物質運送)

2021年7月1日-⑭ソフトウェア技術者(フリーランサー)

※参照:勤労福祉公団(https://www.kcomwel.or.kr/kcomwel/paym/spec/mean.jsp

特殊形態勤労従事者の労災保険料

保険料の負担:事業主と従事者がそれぞれ2分の1ずつ負担し、事業主は従事者の保険料負担分を天引きすることが可能です。

宅配労働者の労災保険料:2万2千ウォン。(2020.11.25 ハンギョレ新聞記事より https://www.hani.co.kr/arti/society/labor/971427.html

■労災保険料算定基準(2021年)

月保険料(3)=月報酬額(1)×労災保険料率(2)

(1)宅配運転手の月報酬額は2,420,000ウォン(雇用労働部告示第2021-59号「特殊形態勤労従事者への産災保険料及び保険給付算定の基礎になる報酬並びに平均賃金」http://www.moel.go.kr/skin/doc.html?fn=20210629203413827bcc2d0760456f88e68435a8d13fc0.hwp&rs=/viewer/BBS/2021/)
(2)宅配業の労災保険料率は1.0%(雇用労働部告示第2020-145号)
(3)月保険料は2,420,000×1%=24,200ウォン

宅配運転手の本人負担分ならびに事業主負担分はそれぞれ12,100ウォン。

この労災保険料の事業主負担をめぐり、事業主側の不当な対応が指摘されています。

  1. 事業主負担分を配達単価から天引き

上記ハンギョレ新聞の記事です。CJ大韓通運傘下の代理店で、労災保険加入を理由に、配送手数料を1個当たり20ウォン差し引きました。宅配運転手の月平均配達数は8千個を超えるので、労働者は月16万ウォン手取りが減ります。

2. 労災保険特別加入を拒否させる

宅配運転手は、「特殊形態勤労従事者適用特例」として特別加入を行うことにより労災保険の対象になりますが、雇用時に事業主による「適用除外申請書」作成の圧力により、自ら保険対象を放棄する事例が報告されています。

宅配業を行っている大手物流会社は、集荷配送を担当する物流センターと代理店契約を結び、宅配運転手は代理店主と直接契約します。労災加入の場合、代理店主が事業主分の保険料負担をするわけですが、ここでも保険料負担を理由に、代理店が受け取る手数料の引き上げの可能性などを言及することで、労働者が圧力に感じて適用除外申請する実態が、全国宅配労組教育宣伝局長の談話として紹介されています。(ハンギョレ 2021.2.17)

適用除外申請を代理店が代筆したことが明らかになった事件もあります。2020年10月に配送中呼吸困難を訴え、搬送された病院で亡くなったキム・ウォンジョンさん(48歳)が、2021年4月に労災認定されました。このケースでは、労災認定を行う勤労福祉公団が、当該代理店から提出された適用除外申請書9件が同一筆跡であることを確認し、効力無効としたものです。

雇用労働部の2020年7月の資料では、宅配運転手2万2052人のうち、6割の1万3206人が労災適用除外申請した実態が報道されています。(ハンギョレ 2020.10.15)

宅配労組は、適用特例でなく、労災加入義務化を訴えています。

特殊形態勤労従事者労災適用除外を厳格化

雇用労働部は、無分別な適用除外申請を防止し労災加入を促進させるため、産業災害補償保険法と保険料徴収に関する法律施行令・規則を改正し、2021年7月1日から施行しています。

改正法令では、以下の事由で実際働かない事実が確認された場合にのみ、適用除外を認めるというものです。

  1. 疾病・負傷、妊娠・出産・育児による1か月以上の休業

2. 事業主の責に帰する事由による1か月以上の休業

3. 天変地異、戦争、感染病拡大、その他これに準ずる災難で事業主がやむを得ず1か月以上休業する場合

宅配運転手のような労災特別加入対象の特雇労働者と契約した事業主は、労務の提供を受けた日を基準に、翌月15日までに「入職届」を勤労福祉公団に提出しなければなりません。

この入職届が、労災特別加入届と同じ意味を持つので、不正な「適用除外申請書」も同時に提出されてきたわけです。事業主が拒否することはできません。

ですから、特別加入は、特雇労働者が申請するのではなく、事業主あるいは代行機関が行い、同時に保険料の徴収が行われるようになります。
2021年7月1日に改正施行された法令は、適用除外の事由を狭め、契約―労務提供と同時にほぼ労災特別加入させる効果を狙ったものですが、脱法行為があるかどうか、経過を見て行かないと分かりません。

■事業主の義務

  1. 最初に労務の提供を受けた日から14日以内に、勤労福祉公団に保険関係成立届を提出しなければならない(雇用産災保険料徴収法)。

2. 最初に労務の提供を受けた日が属する月の翌月15日までに、勤労福祉公団に入職届を提出しなければならない。事業主が入職届提出を行わない場合、100万ウォン以下の過料が賦課される(産災保険法)。

ちなみに、中小事業主が労災保険への加入を望む場合、「任意加入」といって、保険料は全額本人負担です。

対象:
・すべての業種の労働者未使用の事業主
・労災加入の300人未満の労働者を使用する事業主または名目事業主の配偶者で実質的な事業主

クイックサービス配達員の専属性基準

特雇労働者の労災適用職種に「専属クイックサービス運転手」が列挙されています。その範囲は、「統計法の韓国標準職業分類表の細部分類による宅配員のうち、小貨物を集荷・輸送過程を経ず配送するクイックサービス業で、主に1つのクイックサービス業者から業務を依頼され配送業務を行う者」と示されています。

日本の「バイク便」に相当する韓国の「クイックサービス」ですが、2012年5月の施行前に労災適用対象の議論が行われた当時は、ナンバープレートのあるオートバイや軽商用車を対象と考え、利用の少なかった自転車は言及されませんでした。現在、食料品即時配達の「クーパン」やフードデリバリーの「配達の民族」という業者では、自転車を使用した配達が行われており、従事者から労災保険料の徴収が行われています。

産災法第125条は、特雇労働者への労災適用の条件として、「1つの事業に」「労務を常時的に提供し、報酬を受けて生活する者」と定めています。その基準は、特雇労働者の職種ごとに雇用労働部長官の告示で定められています。

■「クイックサービス配達員及び代行運転手の専属性基準」(雇用労働部告示第2017-21号、2017年3月31日)

  1. 1つのクイックサービス業者(飲食物専門配達業者を含む)に所属(登録)し、その業者の配送業務のみ行う者

2. 1つのクイックサービス業者(飲食物専門配達業者を含む)に所属(登録)し、その業者の配送業務を行いながら部分的に他の業者の配送業務を行う者として、次の各号のいずれかに該当する者

ア. 所属(登録)業者の配送業務を優先的に行うことを約定した者
イ. 輪番制等、所属(登録)業者が定める方式で業務を割り当てられて行う者
ウ. 業務を行うにおいてクイックサービス携帯用情報端末機(PDA等)を使用せず、配送業務を割り当てられて行う者
*クイックサービス携帯用情報端末機(PDA等)とは、クイックサービス情報の収集、保管、作成、検索及び通信機能が結合した端末機を言う
エ. 収益を清算するにおいて毎月の費用等を定額で納付するなど、事実上、所属(登録)業者の配送業務を主に行う者
オ. 所属(登録)業者から所得全体の半分以上の所得を得るか、業務時間全体の半分以上を従事する者。この場合、これと関連した所得及び時間についての具体的な基準は、勤労福祉公団が毎年該当業種の実態を調査し、別途に定める。[i]

3. 第1号又は第2号に該当する者か否かを判断するにおいては、所属(登録)業者の業務開始又は終了時間の有無、配達(呼び出し)割り当て等、所属(登録)業者の配達業務規則が使われており、その規則により配送業務を行うのか否か等、総合的に考慮し判断する。

*該当規則を遵守しなければ不利益がある場合

(代行運転手の専属性基準:省略)

[i] ■クイックサービス配達人の専属性基準に関する第2号オ目による所得及び従事時間基準

  1. 2021年の所得及び従事時間の基準

ア. 所得:月1,164,000ウォン
イ. 従事時間:月97時間

2. 所得及び従事時間の適用基準

ア. 所得及び従事時間は次のとおり算定する。
・所得は、所属(登録)業者の事業主が支給する配達手数料を合計して算定する。
・従事時間は、業務に従事した日を基準に、最初の配送業務を始めた時点から最終配送業務を終えた時点までの時間を合計して算定する。
・配送業者別従事時間は、該当業者の配達(呼び出し)を始めた時点から、異なる業者の配達(呼び出し)を始める前までの時間を合計して算定する。
イ. 所得や従事時間は、毎月の初日から末日単位で算定し、該当月に専属性が認められる場合、翌月末日まで専属性があるものと見なす。

3. 施行日:2021年1月1日

(勤労福祉公団>労災・雇用保険適用特例>特殊形態勤労従事者産災保険>定義及び適用範囲 https://www.kcomwel.or.kr/kcomwel/paym/spec/mean.jsp

安全センター情報2022年1・2月号