韓国の感情労働/ 労働環境健康研究所を訪問

「過度な親切は止めましょう」
「ただし私が買うときは正当な情報を伝えてください」

千葉 茂(いじめ メンタルヘルス労働者支援センター代表)

2015年11月12日から16日まで、コミュニティユニオン全国ネットワークは韓国で労働組合等と交流した。3日目は、源進(ウォンジン)緑色病院内にある労働環境健康研究所を訪問した。対応していただいたのは任祥赤赤(イム・サンヒョク)所長と研修医。任所長は、2012年の全国安全センターの総会の時「韓国の労働災害の現在と研究所紹介」の報告をした。

目次

研究のための研究をしていない

労働環境健康研究所は、1999年6月に設立された韓国で唯一の民間の労働安全衛生分野の研究所。
設立目的は、1981年に、ソウルの東に隣接するクリ(九里)市の源進(ウォンジン)レーヨンで二硫化炭素中毒事件が発覚し、最終的には1.000人を超える職業病患者を発生させ、死亡者は100人に及んだことを踏まえ、二度とこのような悲惨な被害者を出さないようにすること。患者が闘って獲得した補償金で財団を立ち上げて、病院と研究所を設立した。理事の半数は、患者の集まりが推薦した退職者たち。

ウォンジンレーヨンは1993年に廃業した。日韓条約での戦後補償の一環として東レの老朽プラントを導入して、1966年に創業が開始されていた。
研究所のスタッフは、設立当初は5人だったが、現在は22人が働いている。内訳は、医者3人、研修医4人、職場での身体に良くない化学物質の分析室3人、化学物質を選定し、評価して対策を行う化学物質センター4人、筋骨格系疾患(日本では腰痛・頚腕と言われている職業病)のセンター4人、労働者教育を行う教育センター3人、事務担当1人。

労働組合、労働者、環境被害者の要請に応えた活動をしているが、必要と判断したら独自の活動もしている。政府からはすごく嫌われている。にもかかわらず研究所が成長してきた背景が2つある。
1つは、国内の最高の専門家が集まっている、
2つ目は、現実に最も必要な研究をしているということ。
政府の労働安全衛生政策制定にも深くかかわっていて、研究所が参加することで法案を変更させることもある。政府には嫌われているのに法制化に至らせるのは、労働者と一緒になって社会に問題提起をする中で政府を動かすから。研究のための研究をしていない。
財源は、会員はいるが寄与度は少ない。委託研究は、件数は多くないが政府や行政からもある。労働組合や労働組合を通じた企業からもある。
韓国労総(労働組合のナショナルセンター)は、内部に環境測定をできる組織があったが、最近規模を縮小した。あまり活動していない。

労組や社会団体と一緒にキャンペーン

取り組んできた事例をあげる。

「立っていますか?足が痛くなりませんか?」

コンビニやスーパーのレジで働くサービス業の女性労働者は立って働いていた。足が痛くなるし疲れる。2009年、これらの労働者のために調査を行い、無駄な疲労を蓄積する必要はないので、椅子を置こうというキャンペーンを、民間サービス労働組合や女性団体と一緒に行った。多くの社会団体も参加した。大きな社会的反響があり、政府機関もキャンペーンに参加した。キャンペーンでは「客に対して座っていても失礼じゃない」と宣伝した。
その結果、労働者の疲れも少なくなり、その分接客サービスは向上した。
きっかけとなったのは、イギリスの労働組合のホームページ。「立っていますか?足が痛くなりませんか?」と問いかけ、「労働組合に相談してください」という相談事例を見つけした。椅子を置く取り組みだった。
客がいなければ座れる。制度化は研究によってできるものではない。労働者の力も弱いので消費者や地域住民と一緒に行わなければならない。しかし、椅子を置いても、実際に座るのは難しい。労働組合の力で勝ち取らなければならない。

休むには休む「ところ」を

環境美化(道路清掃)の清掃労働者は、休憩所がなかった。作業を終えた服装で帰宅していた。2010年、彼らのために休息と終業後に洗面するスペースが必要だという研究を行い、環境美化の労働者を組織している労働組合と一緒に、休憩所を設置するキャンペーンを取り組んだ。清掃労働者はほとんどが下請けで賃金が低く、年齢が高い、そして、労働者の権利を持たないままだった。
大きな波紋を社会に投げかけた。環境美化労働者が身体を洗える権利、施設を設置するための条例が制定された。

知る権利を制度に

建設労組と一緒に法律を変えた取り組みがある。
作業環境測定の制度があり、工場の保守、施設の公開には建設労働者がかかわる。例えば、化学物質を扱う工場で、施設を変えるためにプラントの回収に携わる場合には、短期間で清掃する。そのときに化学物資に曝露する。
2つの制度を変えさせた。施設管理に携わる建設労働者に、どのような毒性の物質があるかの情報を伝える法律を制定させた。短期間で工事を行うために環境を評価することができなかった。しかし、有害化学物質に短期間でも曝露することは健康に影響がある。短期間曝露の基準を設定しようと研究成果を発表した。これも法制を制定させた。
地域住民の知る権利が法制化される予定。住んでいる地域に工場がたくさんあるが、そこでどのような物質がどれくらいの量が使用されていて危険なのかを地域住民は知らない。もし事故が起きたとき、事実を知らないと退避することもできない。
そのような情報を地域住民に知らせろとキャンペーンを行った。労働部ではなく環境部の担当で、今、各自治体で地域住民に知らせるための条例作りをしている。

「お客様は神様」ではない

韓国では、消費者に対面したりコールセンターなどで応対する、また顧客に対応するCSなどのサービス業の労働者などを感情労働者、そこでの暴言、脅し、時には暴力に襲われるいじめやパワハラを「感情労働(emotional labor)」と呼んでいる。
感情労働による健康障害は精神疾患。
労災認定・補償の基準を定める法案を作成した。
議員が労働環境健康研究所の研究を反映させて取りまとめた。うつ病、適応障害、パニック障害が対象になっている。とりあえず入り口のところから始まった。長期的にはいろいろな疾病も対象になっていくと思われる。因果関係・認定基準については法制化されていないし、政府の政策もない。労働時間がどれくらいか、企業による無理な要求はないかなどいくつかを考慮し、その結果、精神疾患になりうると判断する。労災認定の中で、精神疾患も年間約20人が認められている。
感情労働をめぐってネットワークを作った。法制化できたのも消費者の支持があったから。「過度な親切は止めましょう」「ただし私が買うときは正当な情報を伝えてください」という要求を掲げたら、労働者の要求と一致した。
まだ立法化はされていないが、今度の国会で成立するかなと思っている。

電話を先に切る権利キャンペーン

感情労働の具体例を挙げる。
サムスン電子サービスセンターのアフターサービスの労働者は、みな非正規労働者。
顧客先に出向き、サービスが終わると顧客にサムスンから電話がかかってくる。「今回のサービスは10点満点で何点でしたか」。10点でないと労働者は始末書を書き、全員の前で読み上げさせられる。「普通」の評価ではだめで、「よくできました」でなければならない。そうすると顧客側の要求が高くなる。「ゴキブリを捕まえてくれ」というようなこともある。ここまでいくとパワハラに近い労働者管理といえる。
労働組合があればそのようなことはさせない。しかし、韓国の労働者の組織率は10%に満たない。
コールセンターにしょっちゅう電話をかけてくる人がいるが、受けた労働者は自分から電話を切ることができない。クレーム電話でも先に電話を切ったらペナルティを課せられる。労働組合があったらそうではないだろう。
労働者が電話を先に切る権利のキャンペーンを進めたら、受け入れる企業も出てきた。それを法制化しようとしている。

感情労働の価値を認めろ

スーパーの労働組合で、感情労働の価値を認めろと要求している。日本では笑顔で対応するのが当たり前と言われるが、そうではないことを認めさせようとしている。
とくに苦しめられているのは、デパートの化粧品売り場の労働者で、トラブルが一番多い。
デパートの化粧品売り場の労働者が、メーカー直属でなく輸入化粧品の販売代理業の会社で労働組合を作り、そこで感情手当を制定させた。会社ごとに差はある。
ロッテデパートの服売り場でパートの責任者の労働者が屋上から飛び降り自殺した。遺書には直属の上司への不満が書かれていた。上司から販売量を上げるようにと実績を要求され、実績を上げないと叱責された。この案件は労災と認められた。
公務職の社会福祉職は、住民との窓口の仕事をしている。おもにお金のない人を相手にする。審査を通じて保護の対象から振り落とすこともする。落とされた住民は役所に来て狼藉を働くこともある。
年ごとに社会福祉制度が変わってきているので業務量も多い。2013年、区役所で社会福祉の部署の労働者3人が相次いで自殺した。自治体で対応すると言っているが、どうなっているかはつかんでいない。
労働者が体調不良に陥った場合の休職期間は、公務員は6か月。しかし、民間企業にはない。

韓国の労働者の労働条件、処遇、健康、労働安全衛生は労働組合がキャンペーンなどを展開し、地域住民や利用者を共感させて共同の闘いを組んで向上させている。その闘いに労働環境健康研究所はコミットしている。そして、社会環境を変えていっている。
「お客様は神様」ではない。
労働者と消費者・利用者はお互いに人権と人格を認め合い、社会のパートナーとして理解しあって共生していくことの大切さを痛感させられた。

ホームプラスでの非正規労働者
「組合結成により同僚の表情が明るくなった」

訪韓の事前学習用として渡された労働政策研究・研修機構作成のパンフレット『韓国における労働政策の展開と政労使の対応-非正規労働者問題の解決を中心に-』に、韓国で2番目の大型スーパー・ホームプラスでの非正規労働者の組織化と処遇改善の闘いについてのヒアリング調査が報告されている(執筆は、呉学殊主任研究員)。
上部団体のサービス連盟や民主労総の地域組織の支援を受けて労組が結成されたのは2013年3月24日。
ホームプラスは年間売上が約10兆ウォンで、大型店舗数は139店。労働者数は約2万1,000人で、2015年3月現在の労働組合員数は約2,500人。正社員の加入も認めているが加入者は少なく、パートタイマーが組合員の大半を占める。43店舗に組合支部が設立されて、そのうち組合員が従業員の過半数を占める支部が10ある。

「不法行為をただすことから組合活動を始めます」

報告の中の感情労働に関連する部分を中心に紹介する。
組合結成の背景には、次のものが挙げられる。
第1に、非正規労働者保護関連法の2年みなし規定により多くのパートタイマーは無期契約労働者となるが、勤続10年でも手取りの月給が100万ウォンを下回る労働者も多く、それも勤続10年までしか昇給しなかった。そのために勤続1年と10年との間に賃金の差はほとんどなかった。
第2に、パートタイマーなのに超過労働を強いられることが多く、手当はほとんど支払われなかった。
第3に、暴言、暴行の人格無視、不当な仕事の命令が日常的に行われていた。また、顧客からのハラスメントに晒されているのに、会社の本格的な対応はなかった。

組合加入呼びかけ文には「不法行為をただすことから組合活動を始めます」の見出しのところに次のことが例示されていた。
「超過労働をさせながらも手当を支払わない」
「週12時間を超えることができないとされる超過労働が数十時間も行われている」
「個別従業員が顧客のクレームに耐えなければならず、冒涜されても、会社はどうしようもないとのことで対応をしてくれない」
「最賃とあまり変わらない賃金」
「上級者が汚い言葉や暴言を吐き、人格的な侮辱感を覚える言葉や行動を惜しまない」。

組合結成後、現場では目に見えるかたちで変化が現われてきた。
1週間も経たないうちに「上司が丁寧語を使うようになった」
「定刻退勤ができるようになった」
「組合結成により同僚の表情が明るくなった」
「協力会社の社員に掃除をさせなくなった」
「休日出勤をしないようにという指示が来るなど奇妙なことが起きている」
「法律で認められた権利を正当に行使するようになった」。

労使は2013年8月27日から労働協約締結に向けた団交に入り、4回目の交渉で基本協約を締結した。組合は152項目の要求項目を掲げて労働協約の締結を目指し、団交を続けていきたが、会社は3分の1の項目を削除するように対抗してきた。組合は11月10日に本社前で座り込み集会を開催した。また、ストへの賛否投票を行い、12月24日に96.7%でスト権を確立し、組合員は、「団結して労働協約を勝ち取ろう」等が書かれた布(背中屏報(トンビョッポ))を背中に張って、仕事を行うことを決めた。12月31日、1つの店舗で部分ストに入り、その後相次いで他の店舗でも部分ストに入った。そして2014年1月9日に全面ストと上京集会に入ることを決定した。会社は、それに押されるかたちで同日深夜1時に労働協約の締結に同意した。

労働組合は労働協約の内容を高く評価している。
第1に、労働時間の確定によるサービス残業の廃止、30分間の休憩時間(有給)の獲得
第2に、入社16か月が経つと自動的に無期契約労働者となる雇用安定。
第3に、感情労働者の保護。職員が顧客から暴行を受けた場合、会社は積極的な救済措置をとることを原則とし、また、暴言・暴行の際に当該の職員は直ちに顧客への対応を拒否し、代わって上位責任者が対応を行う。顧客からの暴言等で深刻な感情の毀損が認められる際に1時間の心理管理時間を与えるとともに、当該の顧客に2回目の対面を原則禁止する。そして、顧客の不平不満の多い顧客センターでは暴行・暴行の予防措置をとる。組合は、感情労働手当として月5万ウォンを要求したが、認められなかった。
第4に、組合活動の保障。企業が賃金を支払う6人の組合専従者を認めるとともに、各店舗に掲示板の設置、また、チェックオフ(賃金の1%)も組合の事務室提供も認めさせた。第5に、組合員は、法律や労働協約によって保障されている権利を正当に行使することができるようになった。

会社を楽しく誇らしい職場に作り替えた

労働協約の締結の後、組合は、2014年4月21日から初めての賃上げ交渉を行った。要求内容は、①生活賃金の保障として、2013年都市労働者の平均賃金の58%水準の基本給(月148万ウォン)、②賃金の低下を伴わないボーナス4か月の支給、③レジうち、調理等職種別に異なる賃金を統一すること、④感情労働手当の新設、等10項目だった(外資系化粧品会社を中心に感情労働手当として月3万ウォン~10万ウォンが設けられている会社もある)。
労働組合は、8回までの団交で具体的な回答内容を示されなかったのでスト権の投票を行うことを決めた。投票の結果、93%の賛成率を記録した。7月11日から部分ストを行い、22日に警告ストの実施を決めた。28日からは部分ストに加えて集団休暇闘争を行い、8月29日は、全面ストの決起集会を開いた。そのほか店舗別ピケッティング及び集会、店舗別一斉食事スト等の多様な争議行為が行われた。このような組合の抗議を経て、10月23日、労使は妥結する方針を示した。

主な内容は、第1に、平均賃上げ率を3.79%以上にする、第2に、職種区分の賃金レベルを従来5つから3つにする。
組合は、初めての賃上げ交渉を次のような意味づけをしている。第1に、会社設立15年ぶりに労働者が賃金を直接決める歴史的な出来事である、第2に、従業員が会社の爆発的な発展を遂げてきた主役であったにもかかわらず、低賃金、高い労働強度に強いられてきた者として、それに相応しい正当な要求を求める交渉であった、第3に、組合員の団結と実践によって、会社を楽しく誇らしい職場に作り替える橋頭堡であった。
ホームプラスでは、非正規労働者が自ら労働組合を立ち上げて、処遇改善活動等をしているが、それも当該労働者が無期契約化されたから可能だった。非正規労働者保護関連法上2年のみなし規定は、非正規労働者の組合立ち上げや活動の環境を間接的に創ったといって過言ではない。

新聞記事からみる韓国の感情労働の実態

関西労働安全センターの機関誌『関西労災職業病』には「韓国からのニュース」のコーナーがある。
中村猛さんが「毎日労働ニュース」から労働安全衛生に関係する箇所を翻訳して掲載している。また、インターネットで「ハンギョレ新聞」日本語版を読むことができる。これ以外の新聞を含めて感情労働に関連する記事をピックアップする。

接客サービス労働者の職場環境
「顧客が王様なら、従業員も王様だ」

2013年6月28日付の「毎日労働ニュース」に「安全保健公団-デパート業界『感情労働者健康保護』業務協約を締結」の見出し記事が載った。

「安全保健公団が、感情労働に苦しめられるデパート労働者が健康に働けるように支援に取り組む。
公団は27日午前、ロッテ百貨店、新世界デパート、ハンファガレリア、現代デパート、AKプラザデパートと『安全なデパート造りの業務協約』を締結した。協約は最近協力業者に対する大企業の災害予防責任が強調されている中で行われたもので、これによって公団は、感情労働に伴う職務ストレスを予防するための『自己保護マニュアル』を開発・普及させ、各デパートは協力会社と一緒に共同の安全保健プログラムを運営することに同意した。公団と各業者は『安全誓約運動』共同キャンペーンも展開する。
公団によれば、流通産業を含む卸・小売業の産業災害が持続的に増加しており、協力業者の労働者に被害が集中している。協力業者の労働者が主として配置される建物清掃と施設保守、駐車場管理などの業務に事故が集中しているのが実情だ。
一方、全部で550万人と推定されるサービス・販売労働者の中で、顧客を直接相手にする労働者は350万人程度と把握されている。自分自身の感情とは関係なく顧客と応対する業務の特性上、顧客の言葉の暴力などに因る精神疾患の問題は深刻だ。長時間立って働いて筋骨格系疾患を訴える労働者も少なくない。
ペク理事長は『顧客が王様なら、従業員も王様だ』。『今回の協約締結を契機にデパートの安全保健水準が改善されることを期待する』と話した。」

2014年10月14日付の「ハンギョレ新聞」に「『感情労働』から社員を守る企業が増える兆し」の見出し記事が載った。

「顧客に応対した社員が悪口や暴言を浴びせられたとき、会社はどのように対処しなければならないか?『お客様は神様』だから我慢しろと命じるか、あるいは、たとえ顧客を失うことになってもまず職員を保護しなければならないか?今後、イーマート(訳注:韓国の代表的大型マート)の顧客応対社員はそんなことが起こった場合『相談が困難です』と了解を求めた上で、通話を切った後に部署長に報告すればすむようになる。
心に傷を受けた職員に対しては、休息が必要と判断されれば、部署長は早退などの勤務調整措置を取り、最高の先任者や自分自身が代わりに顧客と通話することになる。
イーマートの職員たちが顧客に応対するきに受けるストレスによる“感情労働”を認めてほしいと要求してきたことに対して、会社が代案プログラムを用意したと14日明らかにした。顧客に応対する時に発生しうるストレスを予防し、社員を保護するための『イーケア(E-Care)』プログラムだ。
まず、イーマート150全店舗に店長らが参加する内部苦情処理委員会の力量を強化するために相談教育を実施し、業務関連ストレス相談だけでなく家庭、子供の問題など個人的な問題についても心理相談を行う予定だ。
感情労働により職員に心理的安静が必要だと判断されれば、早退させ休憩室も改善する予定だ。状態が深刻な職員のためには、心理相談の専門機関である韓国EAP(Employee Assistance Program)協会の協約機関との相談と連係することにした。極端な悪口などを言う顧客に対しては、顧客の了解を求めて電話を切れという初期対応マニュアルを製作し配布した。
また、各店舗ごとに顧客応対が優秀な職員を選抜し、消費者専門相談士資格証の取得を支援する計画だ。
顧客対面が多い流通業界を中心に、職員の感情労働に対する代案準備が進んでいる。“お客様は神様”という風土の下に、職員に全面的責任を転嫁するのが以前の文化だとすれば、職員のうつ病、自殺など深刻な後遺症が社会的に台頭して“悪質な顧客”を選び出して職員を保護しようという動きが広がっているわけだ。
イーマートの場合、職員が労働組合を中心に昨年から感情労働の価値を認めてほしいと訴えてきた。イーマート労組は昨年4月から今年4月まで『感情労働の価値認定と顧客応対マニュアル作成』を団体協約に反映させることを要求した。チョン・スチャン イーマート労組委員長は『感情労働は顧客応対の内部原則が守られないために発生する場合が多い。例えば、領収書持参、期間基準などの払い戻し規定があるが、顧客が規定を拒否した場合、末端職員が原則通り対応しても、管理者が現れ顧客の希望通りの措置を取るケースが多い。マニュアルも重要だが、そのような状況を源泉から遮断できる環境造成も重要だ』と話した。
イーマートに先立つ今年1月にはホームプラスが、『労使は組合員の感情労働の価値を認める』という条項を団体協約に含めた。釜山のロッテ百貨店は『感情労働者自己保護マニュアル』を用意し、“感情労働者ヒーリング・プログラム”も運営中だ。
感情労働に対して別途の手当てを支給する企業も増えている。ロレアル・コリアは、全国のデパートで化粧品を販売する職員に月10万ウォンの感情労働手当てを支給している。年間1日の休暇も別途与えられる。資生堂は、月額4万ウォンの手当てを、釜山新世界免税店は、月額3万ウォンの手当てを支給している。大型マートの中では手当てを支給するところはまだない。
流通企業ではないが顧客対面が多いサムスン・エバーランドも、感情労働に従事する職員のための心健康管理専門プログラム“ビタミンキャンプ”を開発し、今年6月から運用している。」

基本的人権の保障・支持などの「10大実践約束」

2014年10月23日付の「毎日労働ニュース」に「イーマート・CJ第一製糖など、ソウル市と『感情労働者人権保護協約』締結サービス連盟『協約履行を見守る』」の見出し記事が載った。

「ソウル市が7月から主導している感情労働者人権保護協約に、イーマートなど3企業が追加で参加した。協約締結式にはイーマート・CJ第一製糖・アジア洲キャピタルが参加し、緑色消費者連帯・企業消費者専門家協会も同席した。ソウル市は韓国ヤクルト・LG電子・愛景産業など6企業と1次協約を結んでいる。
ソウル市は『1・2次に参加した9企業は、業務の特性上、顧客を直接相手にしたり電話応対が多い大型流通業者やショッピングモールで、感情労働者が多く働く企業』であり、『感情労働者の人権保護の観点から、他の企業の実践を誘導できると期待する』とした。
協約を締結した企業は『企業の10大実践約束』を基に、感情労働者の勤務環境改善のために努力することになる。10大実践約束は、△感情労働者の基本的人権の保障・支持、△安全な勤務環境の造成、△適正な休憩時間・休日の保障、などが内容。
イ・ソンジョン・サービス連盟政策室長は『イーマートが最近「社員保護応対マニュアル」を作って全職員に配布したが、その趣旨と内容は悪くない』ので、『このような感情労働者保護のための試みがキチンと作動するかどうか、もう少し見守らなければならないだろう』と話した。」

自分の家族がそこで仕事をすると考えてみて下さい

接客サービス労働者の労働環境がここまでに至る経緯を追ってみる。
2011年9月16日付の「ハンギョレ新聞」に「[低い声]灰皿投げられても喉首捉えられても…“愛しています、お客様”」の見出し記事で感情労働者からの実態報告が載った。

「デパート有名ブランド化粧品売場職員イ・ミョンジン氏
私はイ・ミョンジンといいます。今年35歳です。ある外国有名化粧品ブランドの販売社員として、デパートをめぐりながら通って17年間勤めました。元々は陸軍士官学校に行きたいと思っていた気の強い女子高生でした。高等学校を卒業する頃に父が倒れました。やむを得ず生計のために飛び込みました。先生の紹介で国内化粧品ブランドのデパート販売員として就職しました。私は熱心に働いたようです。およそ2年ほど仕事をしたところ、外国ブランドからスカウト提案がきました。そのときから今までこちらで仕事をしています。17年間どうだったかって?私の中がみな腐っちゃいましたよ。こちらの平均勤務期間が3~5年にしかならないのです。みな出て行きます。私のように10年を越す長期勤務者と新入社員だけがいる計算です。中間がいないのです。

パンフレットを引き裂いて顔に投げ付け
トラブルが起きたと言って喉首つかまえ
土下座して謝れとまで…
家族だと考えてみて下さい

そのはずです。私もこれまで何度も泣き喚いて辞めようとしましたよ。でも生きていくことがそんなにたやすいものではありません。そうするうちに17年が流れましたね。私たちは1日に12時間程度勤めます。デパートのドアが開く前から閉じて整理する時間まで合わせればその程度になります。日曜祝日?エイ、そんなものがあるわけないでしょう。日曜祝日がデパートの稼ぎどきでしょう。週5日制?それはどこの国の制度でしょうか?有名ブランド化粧品だから給与も高いかですって?私たちは給与の30~40%がインセンティブです。化粧品をたくさん売ったか、売れないかによって給与が決まります。販売が低調な月は給与が少ないだけでなく、デパートから担当職員の交替要求までしてきます。毎月実績が出てくる度にビクビクですね。
私は他の感情労働者たちも尊重します。でも、デパート化粧品売場の職員たちほど哀歓がある感情労働者もないようです。他のショッピングとは違って、化粧品を買いに来られる顧客はとても鋭敏になっています。大部分が皮膚トラブルのために苦労されたり、老化現象によるシワのために機嫌を損ねた女性の方が多いのです。こうした方々を対象に化粧品を売らなければならないため、どんなに苦労するでしょうか。
デパート売り場はサンプル贈呈行事をたくさんします。パンフレットが発送されて当日になれば大騷ぎになります。限定数量なのですぐ品切れになるのは当然ですね。顧客はそのことに抗議します。パンフレットをビリビリに破って顔に投げつけます。紙で頬を打たれる気持ち、わかりますか?それに対して私たちは“申し訳ありません、お客様”と言うほかはありません。本社では“ミステリーショッパー”(職員親切度を検査するための偽装顧客)をいつも入れてきます。顧客が入ってきて出て行くまで、マニュアルどおりにしなければ、徹底的にチェックして人事考課に反映させます。だから“無限服従”するほかはありません。
私はすべての災難に遇いました。暴力団員が恋人にあげる化粧品を買っていってトラブルが出たとして、私の喉首をつかんで引っ張っていったこともあります。あるお客さんは土下座して謝れば許してやると大騒ぎをするなかで、実際にひざまずいたこともありますよ。ア、本当にそのときのことを考えただけで涙が出ますね。3年前ぐらいには流産しました。ストレスのためでした。お腹の中で死んだ子供を産婦人科でかき出しました。そして3日後には出勤しました。職員がいないというからどうしようもありません。血を流しながらずっと勤務しました。それに耐えて今はマネジャーになりましたが、マネジャーになると一層顔色をうかがうしかなくなりました。“甲”であるデパートの言いなりになるほかはありません。デパートの化粧品チーム長が突然会食でも招集すれば、すべての化粧品コーナーのマネジャーが1か所に集まります。そこで俗称“妓生役”をするほかはありません。お酌をして、2次会に行って歌を一緒に歌ってですね。なぜそうすると思いますか?本社人事評価項目に“デパートとの関係”という項目があります。簡単に言えば、うまくやれということでしょう。それでも化粧品チーム会食くらいは理解できます。なぜ私たちと関連もない経理部会食に呼ぶんでしょう?『今、経理部長がいるので来てください』と電話で言って切るのです。行かないで済むと思いますか?私が以前に仕事をしたデパートでは、あるチーム長がそのような会食の席でセクハラをして辞表を出したこともあります。
最後に言いたいことがあります。お客さんの皆さん、皆さんが真に尊重されたいならば、デパート職員たちのことも尊重して下さい。自分の家族がそこで仕事をすると考えてみて下さい。心からお願い申し上げます。」

ロレアル労組“感情休暇”推進

2011年10月28日付の「毎日労働ニュース」に「感情労働も産業災害誘発する危険要因/労働安全保健体系で管理できるように法改正を」の見出し記事が載っている。

感情労働を、産業災害を誘発する有害・危険要因と規定しなければならない。チョン・ジンジュ社会保険研究所所長が、生き生き女性労働行動が主催した『対案女性労働フォーラム―感情労働と労働安全』の討論会で話した。
顧客の満足のために、自身の感情を押さえて無条件に合わせなければならない感情労働は、流通業・病院・銀行・公共交通・公共機関・電子製品修理業など、顧客と応対する労働者に必然的に伴う労働だ。ヨーロッパなど先進国では、感情労働を将来主要に浮び上がる社会・心理的有害・危険要因だとして着目し、相談と教育を実施してきた。
チョン所長は、『韓国でも産業現場では感情労働による様々な健康問題が発生しているが、製造業中心の安全保健対策のために、感情労働の深刻性が認識されていない』と指摘した。
労働者が体験する苦痛は様々だ。チョン所長は『感情を抑制すれば、心臓疾患と、神経体系を過度に使うことによる高血圧と、癌発生率を高める』とし、『精神的には自己嫌悪感とうつ病、冷笑などの現象を産む』と心配した。しかし、労働者は気分転換をしたり離職をするなどの個人的な方法で問題を解消している。チョン所長は、労働者に転嫁された感情労働に伴う苦痛を、社会と企業が分け合わなければならないと主張した。
彼は『政府は労災を誘発する主要な危険有害要因に感情労働を含ませ、一方的な労働安全保健管理体系の中で管理できるように、産業安全保健法を改正しなければならない』『消費者と会社に対する社会的な教育を実施し、態度変化を誘導しなければならない』と話した。また『会社は不良な顧客に対する対処法を準備するなど、感情労働について健康問題を提起できる通路を事前に用意し、労働条件を改善しなければならない』と付け加えた。」

201年11月28日付の「ハンギョレ新聞」に「販売・サービス業‘強要された笑顔’休暇・手当て補償共感拡散」の見出し記事が載った。

一部業者では手当・文化費支援
ロレアル労組‘感情休暇’推進
“人格尊重など認識変化が至急必要”

お客さんに悪口・セクハラ・人身攻撃を受けてもじっと耐え、笑って答えなければならないサービス業労働者の“感情労働”に対して、その深刻性を認め、適切な補償をしなければならないという共感が広がっている。
27日、化粧品販売会社の‘ロレアルコリア’労組などの話を総合すれば、この会社の労組は関連業界で初めて来年度団体協約要求案に“感情休暇”制度を導入する方案を用意し、去る10日に会社側に提出した。この要求案には、年次休暇とは別に“年6回(有給)感情休暇を実施する”という内容が含まれた。イ・ウンヒロレアルコリア労組委員長は『2006年から感情労働にともなう手当てを受け取ったが、感情労働者のストレスを緩和・解消する実質的な方法としては限界がある』として、感情休暇の推進背景を説明した。…
販売・サービス業の競争が熾烈になる中で、労働者に過度な親切を要求する傾向が増え、関連業種従事者らのストレスとうつ病が激化している。昨年11月、民間サービス産業労組連盟が労働環境健康研究所とともに、民間サービス労働者3,096人を対象に職種別うつ病程度を調査した結果、専門的な相談が必要な重症以上のうつ病が、化粧品販売員の場合、32.7%、カジノディーラー31.6%、レジ26.5%と現われた。これは事務職の23.9%、施設職23.7%より高い数値だ。
ロレアルコリアをはじめとする一部販売・サービス会社では状況の深刻性を認め、すでに数年前から労働者らの感情労働価値を認め“感情手当て”を支給している。連盟の調査内容によれば、2006年ロレアルコリアをはじまりに、現在までにシャネル・クラランス・エルカコリア・資生堂・クムビ・LVMH・ブルベルコリア(以上化粧品販売)、教保ホットレクス(レコード・DVDなど販売)と釜山パラダイス免税店などが月3万~10万ウォンずつの感情手当を支給している。また、一部業者ではストレス緩和のための心理相談(ロレアルコリア)と文化公演費支援(シャネル)等も行なっている。
チョン・ミンジョン民間サービス産業労組連盟女性局長は『2006年には事業主が感情労働を認識すらできない状況であったし、労使共に適切な代案を見つけられないまま感情手当を導入した』として『だが、連盟も手当支給が本質的な代案ではないと認識し、来年から連盟傘下事業場に感情休暇制度が導入されるよう推進する計画』と明らかにした。
しかし、感情労働問題を根本的に解決しようとするなら労働者に休暇や手当てで補償する次元を越え、社会的認識変化のための努力が必要だという提案が出てきている。これに伴い、国家人権委員会はサービス業事業主を対象に“感情労働ガイドライン勧告案”を用意して今年中に発表する予定だ。勧告案には、ひざまずいて注文を受けるなどの行き過ぎたサービスを規制し、お客さんが悪口・暴行などを働いた場合、事業場で対処する基準などが盛り込まれるものと見られる。
キム・ジョンジン韓国労働社会研究所研究員は『西ヨーロッパや日本に比べて我が国の感情労働問題が深刻な状況』とし『サービス労働者に過度な親切を要求し、労働者を人格的に尊重しない社会的雰囲気を変えなければならない』と話した。」

無理な要求をする顧客に一方的に謝らない権利を

2013年1月14日付の「毎日労働ニュース」に「『感情労働者に不当要求拒絶、謝らない権利付与せよ』国家人権委『今年中に感情労働者人権向上勧告案を作る』」の見出し記事が載った。

「『お客様は神様だ、今日も一所懸命働こう』。
『5年前に買った商品を換えに来ました。製品に異常があるから換えてくれと言うのでしょうか?』(KBSギャグコンサートより)
顧客を神様として迎え、病気になっていく感情労働者の健康権を守るための方策を模索する席が用意された。労働環境健康研究所・仕事と健康は、11日午後、『2013労働者健康権フォーラム』を開催した。
キム・テフン感情労働研究所所長は『感情労働をするテレマーケッターの場合には電話を先に切る権利を与え、無理な要求をする顧客には一方的に謝らない権利を与えなければならない』とし、『感情労働の強度が高い職種の場合、定期的に休息を取って精神的な配慮が受けられるように制度的な補完が必要だ』と話した。労働環境健康研究所とサービス連盟が2010年に発表した職種別うつ病発生頻度調査結果によると、化粧品販売員は32.7%、カジノディーラーは31.6%、レジは26.5%と高く現われた。
サービス連盟は感情労働者・消費者・政府・企業のそれぞれの役割を提案した。感情労働者は自分の自尊心を高める認識を持って、消費者は感情労働者に対する認識を切り替えて、政府は産業災害認定によって、感情労働者を保護することを要求した。とくに企業には、△安全保健専門担当部署の設置、△社内心理相談室の運営、△事業場内の悪口と暴言防止対策作り、△顧客によるセクハラ予防マニュアルの普及を要請した。
ユン・ミオク・サービス連盟東遠F&B労組総務部長は『デパートやマートに派遣されて仕事をすると、話にもならない理由で交換や返済を要求する顧客の前で、対応無策になって腹で怒りを鎮めるほかない』。『このような顧客を相手にするときは、元請け業者が対応してくれたら良いのに』と話した。
感情労働を認められるための法制化に関する議論も続いた。シム・サンジョン進歩正義党議員は、昨年10月に感情労働による精神的疾病を労災と認定する内容の産業災害補償保険法改正案を代表発議した。イ・ソンジョン・サービス連盟政策室長は『感情労働が労働とキチンと認められるためには、労災法の改正とともに、勤労基準法と産業安全保健法も改正されなければならない』とし、『感情労働の実態を広く知らせ、法律改正案通過のための署名運動も進める計画』と話した。
この日のフォーラムでは、韓国道路公社が昨年10月に宣言した感情労働者人権保護憲章が注目された。憲章には、△感情労働者が悪性の顧客から人格的な侮辱を受けないような対処対策の樹立、△心理治療プログラム支援、△標準化された顧客応対指針の提供、などが盛られた。
キム・ミンジョン国家人権委員会・差別調査課・女性人権チーム調査官は『人権委員会は、各会社に感情労働者の人権保護憲章を作るように奨励している』とし、『今年中に女性感情労働者の人権向上の法制度改善勧告案を作る計画』と話した。」

アウトソーシング・非正規職拡散が“卑屈”を強要

2014年9月24日の「ハンギョレ新聞」は「暴言にセクハラ…深刻な青年アルバイトの『感情労働』」の見出し記事を載せた。

「24日に青年ユニオンが感情労働全国ネットワーク、国会環境労働委員会チャン・ハナ新政治民主連合議員室と共に全国15~29歳のアルバイト生225人を調査した『感情労働実態調査結果』を発表した。調査対象者はコンビニ、ファーストフード店、レストラン、飲み屋、コーヒー専門店、パン屋など、主にサービス業種で仕事をしているアルバイト生。
最近1年間にお客さんから無理な要求を受けたことがあると答えたのは121人(53.8%)に達した。114人(50.7%)が人格を無視されることを言われた、89人(39.6%)が悪口や暴言を言われたことがあった。セクハラや身体接触をされたが34人(15.1%)、身体的威嚇が35人(15.6%)、暴行9人(4%)だった。
インタビューに応じた1人は『オーストラリアのワーキングホリデーのプログラムに参加した時は、お客さんの行きすぎた要求はマネジャーが遮断してくれました。ところが韓国では「お前がお客さんにうまく接しないからだ」という言葉がとても自然に出てくる』とうんざりした顔をしたという。
過度な感情労働は体と心を害する。20代でコンビニ・飲み屋・レストランでのアルバイトをしたチョン・ジェヨンさん(30)は『仕事を終えて家に帰ると誰とも話をしたくなかった。ささいなことで怒ったり、自らを役に立たない人間だと感じもした』と話した。キム・ミンス青年ユニオン委員長は『アルバイトの現場で被った傷は、自尊心低下、うつ病、就職拒否症状などにつながる。雇用労働部と関連企業が対策を用意しなければならない』と語った。」

「ハンギョレ新聞」は、2014年10月13日から12月5日まで6回にわたって「感情労働」を連載した。第2回は、精神的外傷(トラウマ)を抱いているサービス職労働者3人への深層インタビュー。

「仁川空港販売店のレジ係の労働者は、40代の女性客が腹を立てて入ってくるのを見た。販売職員の心の中に警戒警報が鳴った。客が突然レジに来たので、レジ係の労働者は微笑を浮かべるタイミングを逃した。『ここの職員はみんな表情がどうかしたの?』『申し訳ありません』。いくら頭を下げても怒りはおさまらない。マネジャーを呼べと言う。客は搭乗時間が近づくと捨て台詞を吐いて出て行った。『かわいそうだから許してあげる。あんたの人生も本当に…』
その一言で私の人生は本当に崩れた。今まであくせく生きてきた人生がまるごと否定されたようだった』とレジ係は話す。
健康な人はストレスを発散させようとする。トラウマを体験した人々はしきりにその時に立ち戻ろうとする。そんなことが自分に起きなかったことを願う気持ちのためだ。
レジ係の労働者は客が怒ったその場面を頭の中で数百回も反復再生する。『私がそのような侮蔑を受けて当然な人間だという証拠を自らずっと捜し出そうとしたんです。私が明るく笑えなかったのでお客さんが怒ったのだろう、私が良い大学を出て華やかな会社に通えば良かったのに…。後日には父親が亡くなって生計を私に委ねた母親を恨んだりもしました。私の人生、私という人間が嫌いになりました』。結局、病院を訪れてうつ病の診断を受け、6か月間治療を受けた。
顧客センターの管理者は、新入社員の時ささいな失敗のために顧客に告訴されるところだった。顧客はこっちに来てひざまずいて謝れば告訴しないと言った。チーム長と部長が直接彼を連れていって謝らせた。ひざまずく前に顧客が許したが、親切と歓待でぎっしりと埋まった彼の人生はその日を境に崩れた。『その時、初めて人を殺したいと思った。仕事では不満顧客をののしるが、会社を出れば弱者に大声を上げる自分の姿を発見する』。
マインドプリズムの代表は『攻撃性は慢性的挫折が日常化される時に出てくる自然な反応だ。手足が縛られた状態で顧客の感情を受け入れなければならない感情労働者が、外に出て行けば今度は自ら攻撃性を表出することになる』と話した。」

連載の第5回は下請け労働者の状況。
「衣類売場の販売職員は、ズボンを試着した男性のお客さんにうずくまるようにして長さが合うように裾を折っていると、『どこを触っているんだ』と言われて足で蹴られた。倒れ、顔を真っ赤にして周辺にいる同僚を眺めたが、誰も助けてくれなかった。『おかしなお客さんに会ったとしてやり過ごそうと努めたが、あまりにも無関心な同僚、反対に自分を咎めるマネジャーの姿を見れば、私が間違ったような気分になって恥ずかしかった』と話す。『私が非正規職だから皆が私を余計に無視したのではないか…』
自ら直接貧困労働を体験した後にルポを書いた米国言論人バーバラ・エーレンライクは、本『貧困の経済』のなかで『数多くの低賃金労働者に強要する侮辱的な行為(薬物検査、絶え間ない監視、管理者の厳しい叱責)が低賃金を維持する要因』とし『もし自身が別に使い道のない人だと信じるようになれば、自分が受け取っている賃金が実際に自身の価値だと考えることになりうる』と述べている。

“感情労働”は現代資本主義社会のどこにでもある。それでも韓国社会で“感情労働”の弊害が最も深刻だという指摘が出ている。これについて専門家たちは、『韓国の異常なアウトソーシング・非正規職の拡散』が労働者にますます一層強力な‘卑屈’を強要していると語る。卑屈を強要する構造の中で、多くの労働者たちは自己尊重感を低下させ、自己卑下の奈落に落ち込みやすい。」

2015年4月23日付の「ハンギョレ新聞」に「韓国で『感情労働』に対する労災認定が大幅に増加」の見出し記事が載った。

「ソウル市内デパートの免税店で店舗管理者として働いていた40代前半のパク・インジャ氏(仮名)は、ある顧客とのトラブルを経験した。顧客が化粧品を買っては返品することを繰り返しているうち、再購入ができなくなると、ひどい言葉づかいや罵声を浴びせ、販売台の広告板を蹴って売り場の物品が壊れたこともあった。その顧客は、数日間ずっと店を訪れたり電話をかけたりしてパク氏を呼び出してきたが、上司はパク氏にその顧客の応対を任せ続けた。ついにパク氏は、他の人に会うと深刻な不安を感じるなど、パニック障害を経験した。勤労福祉公団は『業務上のストレスによる一時的な不安障害』という医師の診断書をもとに、パク氏が申請した労働災害(労災)を認め、2か月間の療養を承認した。」

感情労働者から消費者へのアピール――
『私の仕事は世の中で最も美しい労働です』

2015年5月1日の「ハンギョレ新聞」に「感情労働者の苦衷、ちょっとだけ考えて見てください」の見出し記事と写真が載った。写真に写っているステッカーには次のように書かれていた。

「伝えてください
今日差し上げる
バラの花もバンドエイドも
申し訳ないですが
あなたの為のものではありません
日常で出会う
感情労働者に差し上げてください
あたりまえの日常に対する感謝と
互いの労働に対する尊重を
私たちから始めましょう
たった今から」

「『さあ、もう少し頑張りましょう。すぐに手伝いが入ります』。マイクを握った通仁(トンイン)洞コーヒー工房のパク・チョルウ代表が元気な声でバリスタを励ました。昼食を終えて出てきた市民たちが受け取ったコーヒーカップには『私の仕事は世の中で最も美しい労働です』と書かれたピンク色のステッカーが付いていた。ステッカーにはサービス業に従事する“感情労働者”のパク代表とここで働くバリスタ30人余りが感じている苦悩が書かれていた。
メーデーを翌日に控えた30日、ソウル鍾路(チョンノ)区通仁洞のコーヒー工房は『メーデーコーヒー・フリーデー』というイベントを行った。この日だけはアメリカンもカフェラテも全て無料だ。5年前からメーデーの前日に行っているコーヒー工房のコーヒーフリーデーでは、無料コーヒーと一緒に『考えるテーマ』が与えられる。今年のテーマは“感情労働”だ。
パク代表は『ありがとう』とか『コーヒーが美味い』というお客さんの一言を聞くためにこの仕事をしている。互いに少しだけ配慮すれば、人から力をもらうことができるのに、感情労働のせいで傷つく若者の話を聞くたびに心が痛む』と語った。
この日、店の前では青年ユニオンとソウル青年政策ネットワークの青年団体会員たちが、ピンクのバラの花とバンドエイド、ステッカーを配った。パク・ウヨン青年ユニオン労働相談局長は『今日出会う感情労働者たちに花とバンドエイドを渡して暖かい気持ちを交わそうという意味』と説明した。クレジットカードに貼れる小さなステッカーには『あなたの労働にありがとう』『お金やカードを投げたりしません』と書かれていた。
コーヒーを受け取った市民は『消費者の役割』を考えてみたと話した。キム・ヒョジョンさん(34)は『私も感情労働者だけど、同時に消費者でもある。今日コーヒーを飲んで、私が辛かっただけに消費者として誰かには確かな慰労をしなければと考えた』と話した。」

消費者がアピール――
『デパートには人がいます』

感情労働者の保護を求める運動は労働者以外からもある。
2014年11月12日の「ハンギョレ新聞」に「デパート従業員も売場で水を飲めるようにしよう」の見出し記事が載った。

「デパートのサービス・販売職労働者が尊重を受けて働ける環境を作ろうというキャンペーンが開かれる。
光州(クァンジュ)女性民友会は13日、光州市東区大仁(テイン)洞のロッテ百貨店光州店付近で『デパートには人がいます』という主題で『尊重の帯つなぎキャンペーン』を実施する。デパートの女性労働者が人権を尊重されて仕事が出来る労働環境を作ることを促すためだ。
同団体は女性労働者を尊重するデパートの仕事場を作るために、6つの事項を要求している。『デパート労働者は仕事の特性上、話をよくするので喉が渇くが、売場で水を飲めないケースが多い』として『デパート労働者が売場で自由に水を飲めるようにすべきだ』と促す方針だ。また、デパート労働者が顧客用トイレと移動手段を一緒に使えるようにし、売場にお客さんがいない時は椅子に座れるようにしてほしいと要求する計画だ。
この日、光州市北区の北東信用協同組合付近で開かれる市民実践キャンペーンも注目を集めている。この団体は市民に△デパート労働者に丁寧語を使い△返品・払い戻し規定をよく熟知して不合理な要求をせず△会計をする時にはカードや紙幣を放り投げず△不必要なスキンシップや言語セクハラをしない、などを守ろうと知らせる計画だ。また、この団体は『売場に商品がない時、デパート労働者たちは顧客を待たせないよう倉庫まで走って取りに行くよう努めているので余裕ある心でゆっくり待とう、と市民に知らせる』と明らかにした。」

2015年5月15日付の「毎日労働ニュース」に「ソウル市、女性労働者を訪ねてストレス管理」の見出し記事が載った。

「ソウル市中部女性発展センターが15日から来月26日までの7週間、『訪ねて行く女性労働者ストレス管理サービス』を実施する。毎週金曜日にロッテマートの支店を巡回して行う。
センターは『多数の女性の感情労働者が働く企業を直接訪ねて、ストレス管理サービスをするプログラム』で、『今年上半期はロッテマートで試験運営をし、満足度を評価した後に規模を拡大していく』と説明した。サービス対象事業場と期間を拡大することを検討している。
センターで教育を受けて就職できた結婚移民女性と、40~50代の脆弱階層の女性で構成されたピュティー・テラピストがストレス管理を担当する。労働者のストレスも減らし、雇用も創出する、一石二鳥効果を期待している。
ソウル市の関係者は『コールセンターやデパート、マートなど、女性労働者が多いところや、感情労働の強度が高い事業場を対象に、ストレス管理サービスの必要性が提起された』と話した。」

コールセンターの職場環境
「職員が親切になることを望むならば、自身の業務に満足させなさい」

「ハンギョレ新聞」の2014年10月13日から12月5日までの「感情労働」の連載の第6回・締めくくりの見出しは「感情労働[感情労働]苦しめられたソンヒ氏“共感と連帯”で希望の芽が萌え出した」。
ソウル市茶山コールセンター相談員たち
悪性民願・苛酷な成果評価に‘苦痛’
同僚と力を集めて不当労働環境を変え
残業手当・人権委準備など実現”
実績競争を捨てて自負心を取り戻す”

…専門家たちはサービス業種が急増した現代社会で、サービス業種が急増した現代社会で、感情労働自体をなくすことはできないが、その弊害は減らせるという。…
討論会に参加していたイ・ソンヒ相談員は『去る4年間、事務室に小さな引出しひとつ持てずに、毎日席を移動して、消耗品のように働いてきた』として涙まじりに話した。
会社にはいつでも取り替え入れ替えられる“人間乾電池”、“市民様”にはサンドバッグだった。
彼女は日が経つにつれ疲れていきた。悪性民願でも“市民の話を注意深く最後まで傾聴”しなければならず、“傾聴度”点数で評価される。『幼い子供までが電話して、自身が市民であなたは相談員だから、私に行儀正しく応対しろと堂々と言うんですよ』。自尊感は限りなく崩れたという。
ソウル特別市人権委員会インタビュー調査で、多くの相談員は『いつも涙をこらえている』と打ち明けた。感情圧迫、自尊心喪失、憂鬱感など、感情労働者が訴える問題がそっくりあらわれた。相談者は請願人の困った事を解決することにやりがいを探すけれども、ほとんどが非正規職で間接雇用された女性労働者たちは簡単に無視され酷使された。その一方で彼女たちが発揮しなければならない“親切項目”は無制限に増えてきた。
しかし、相談員にきちんとした教育はないが、毎月厳格な試験を受けなければならない。法定公休日はもちろん守られず、週末勤務も頻繁だった。
彼女は会社の前でビラを一枚受け取る。同僚数人が労働組合を結成したという便りだった。“労組”という言葉が恐ろしく思えた。
『コールセンター労働者が30万人、大部分が女性だというけど、私の娘たちが生きていく世の中を考えれば、このままにしておくことはできないと思いました』。すぐに労組に加入した。初めて同じ事務室の同僚と挨拶を交わした。“茶山コールセンターの勤労条件改善と正規職化”を要求するプラカードを持ってソウル市庁前に立った。彼女はその日を“実績競争を捨てて人間的な自負心を取り戻した”日として記憶している。
現在、茶山コールセンター労組には3つの委託業者に所属した500余名の相談員の中で300人余りが加入している。7%まで急騰した月間退社率は、労組結成後には1%台に下がった。
ソウル市も直接問題解決に立ち上がった。
『秒単位で記録される評価を忘れて、相談だけに集中することにしました。……手当てを受け取れなくても、もうそんな相談はしないつもりです。私ができる最善の親切は、偽りの微笑や優しい声ではなく、きちんとした案内ですから。』
米国の経営学者ペチェロが書いた論文〈感情労働:顧客の幸福と職員満足の秘訣〉は『職員が親切になることを望むならば、自身の業務に満足させなさい』と注文している。

悪口を言われても“愛しています、お客様!”

コールセンターの労働者がここまでに至る経緯を追ってみる。
2013年2月14日付の「ハンギョレ新聞」に「清掃の仕事よりさらに過酷なコールセンター…“月給は悪口雑言を浴びる代償”」の見出し記事が載った。

「低賃金女性労働者の中でも職務環境・健康状態などが最も劣悪なのはコールセンター女性労働者だという実態調査結果が出た。食堂・清掃・工場で働く場合より苦痛を訴える人が多い、いわば女性労働の“どん詰まり”なわけだ。
13日ソウル市と衿川区(クムチョング)が中小業種集約地帯である衿川区の低賃金女性労働者5,000人を対象に調査して出した『衿川女性健康管理事業報告書』を見れば、電話相談業務などに従事するコールセンター女性労働者(716人)は労働・夜勤時間など職務環境、うつ病有病率など健康実態まで尋ねた22項目中14項目で“最悪水準”となっている。とくにコールセンターで働く女性の半分以上(51.1%)が、精神健康を害する“ハイリスク感情労働”にさらされていた。10人中3人の割合でうつ病、筋骨格系疾患を病んでおり、19.1%は肥満状態であった。これは同時に調査した生産職(478人)、販売職(580人)、清掃・食堂(その他含む709人)、事務職(2,426人)の女性労働者よりはるかに高い水準だった。
感情労働高危険群の比率は全体平均値より14.6%ポイント、顧客と直接対面する販売職よりも13%ポイント高かった。感情労働と職務ストレスなどが原因になったうつ病は一般女性の2~3倍の水準だった。喫煙率(26.0%)、生理不順(20.2%)も他の職群と最高7~24%ポイントの格差を見せた。
コールセンターの業務方式が第一の理由に挙げられる。コール処理件数により評価等級と賃金が決まり、ほとんどの場合きまった休み時間がない。セクハラ、言語暴力にもまるっきり無防備でさらされている。民間業者3か所が500人ほどを雇用して運営するソウル市茶山コールセンターのキム・ヨンア労働組合支部長は『コール処理件数、処理内容に対する事後評価、業務能力テストを主な基準として毎月評価等級が四段階で決められる。一級ごとに5万ウォンずつ差が付く』と話した。
深層面接に応じたコールセンターの女性8人は主に頭痛、鼻炎、筋骨格系疾患、睡眠障害とうつ病を訴え、換気口、休憩室、年次休暇、評価体系の改善を要求した。衿川区のあるコールセンターの女性は『月給は悪口雑言を浴びる代償だとして、だまって聞いて我慢しろと言う。仕事が多いときは昼休みの時間も減らす。ほとんどみな便秘があり、1年ほど勤めれば5キロずつ太る』と話した。
にもかわらず、最近2年間のコールセンターで働く女性たちの一般検診受診率は46.2%に留まっている。乳癌・子宮頸部癌検診率もそれぞれ71%、52%に過ぎなかった。5人中4人(82.2%)が自ら『健康状態が良くない』と診断し、最近1年間に、業務上の疾病で欠勤したことがあるという人も19.7%であった。コールセンターで働く女性の勤続期間は2年以内で、全体平均値である3.2年よりはるかに短かった。
国内のコールセンター女性労働者は30万~50万人と推算される。キム・ジョンジン韓国労働社会研究所研究室長は『業務量と賃金が直接連結される抑圧的な労働環境で働いている。人権死角地帯に置かれていて、正確な数字さえ把握されていない』と話した。
ソウル市茶山コールセンターはこの旧正月連休に3万8,000件ほどの苦情や問い合わせを処理した。一日平均100人余りが仕事をした結果だ。市は茶山コールセンターの民間委託を続けるか否かを、今年の委託研究を通して検討する方針だ。また、政府事業である『勤労者健康センター』を誘致して、来る5月までに衿川区(クムチョング)加山デジタル産業団地に開所することにした。」

2013年5月10日付の「ハンギョレ新聞」に「非難されても“”愛しています、お客様”…感情労働者の涙10日ソウル市女性家族財団感情労働討論会」の見出し記事が載った。

「『2子供が二人いて一人身になった私にできる仕事はほとんどありませんでした。食堂の仕事は退勤が遅くなるので、それでテレマーケターの仕事をはじめました。ところが電話というものは、顔が見えないから悪口は基本で、一方的に鬱憤を晴らす場面が多いのです。私ができることは、深呼吸をしながら電話通話が終わるのを待つことだけです』(テレマーケターK氏)
『2011年激しい豪雨で嘆願があふれかえりました。雨水が家に入ってくると言って怒っては‘あんたはいいから、区庁長に代われ!’と言いまくる請願人が多くいました。悪口は基本ですから』(ソウル市電話相談員N氏)
300万感情労働者の苦衷を聞いて解決策を模索する討論会が開かれる。ソウル市女性家族財団は14日午後3時、ソウル女性プラザ国際会議場で“女性、労働を語る。感情労働-愛しています、お客様!笑ってアザができた私たちの話”という主題で政策討論会を開くと10日明らかにした。……
とくに女性労働者の場合、就業者全体1千万人の内、314万人(サービス従事者165万人、販売業従事者149万人など)が感情労働者に分類される。全国3万5千余のコールセンターに従事する89万人の女性相談員(全体100万人余)が代表的だ。彼女らはありとあらゆる悪口を言われても“愛しています、お客様!”と答えなければならないのが現実だ。無理に微笑を浮かべなければならないために“微笑うつ病”を病むケースもある。
この日の討論会はコールセンターの女性労働者問題を中心に議論が進められ、労働者が直接立って自分たちの話を放つ。また、女性労働者の精神健康点検、顧客応対マニュアル、顧客によるセクハラ防止問題などが集中討論される。
討論会では外国の模範事例も紹介される。ヨーロッパ連合(EU)は2004年コールセンター労働者の労働環境改善のために“コールセンター労使共同宣言”を発表し、フランスでは、コールセンターに電話をかければ初めから“職員に対する暴言などを防止するために電話内容が録音される”と知らせる。日本のソニーは、労働者ストレス管理のために会社に精神科医師が常勤する。
ソウル市女性家族財団は討論会の成果を集めて、女性労働者のための“顧客応対マニュアル書き直し”に重点を置く方針だと明らかにした。イ・スクチン ソウル市女性家族財団代表は『女性勤労者の相当数が感情労働を必要とする低賃金、非正規職業種に従事しているが、自身の人権は死角地帯に置かれている。彼女たちが真の笑いを取り戻せるようにしなければならない』と話した。」

相談員は4重苦

2014年10月6日付の「毎日労働ニュース」に「タサン・コールセンター公共機関で初めて『有給感情休暇』保障年に1回保障、経歴5年越えれば2回」の見出し記事が載った。

「タサン・コールセンターが公共機関で初めて有給の感情休暇を導入する。希望連帯労組タサン・コールセンター支部は暫定合意案について組合員の賛否投票を行う。
希望連帯労組によれば、タサン・コールセンター支部と委託業者の交渉権を委任された経済人総連は、先月30日に集中交渉を行った結果、暫定合意案を作った。合意案によれば、組合員は年1回『感情馴化の有給安息休暇』を取れるようになる。勤続年数が5年を超えればさらに1回追加して使用することができる。暴言とセクハラなどに苦しめられるコールセンター労働者の心を治癒するための措置だ。
ソウル市は8~9月に2回の労組との面談を通じて交渉を仲裁し、委託業者が解決しにくい福祉問題の解決対策を約束した。
感情労働が社会的な争点に浮上したが、未だ感情労働保護対策や補償は、一部の私企業のサービス事業場に限定されている状況で、今回の事例は他の公共機関にも影響を及ぼすものと見られる。」

「ハンギョレ新聞」の2014年10月13日から12月5日までの「感情労働」の連載の第2回は、精神的外傷(トラウマ)を抱いているサービス職労働者3人への深層インタビュー。

「コールセンターで仕事をする労働者の体験。“お客様”から商品が届かないという電話を受けた。注文番号を入力していると受話器の向こうから悪口が襲ってきました。手が震えてしまって到底注文番号を打てないほどで、20分間浴びせ続けられる悪口をぼうぜんと聞いているだけだった。
客が注文した商品は通関保留中だった。しかし数日間1日1時間、名指しでののしり叱責する電話を受けなければならなかった。商品を受け取ると、客はこの間自分が電話した内容が記録された音声録音ファイルをすべて消去することを要求した。
トラウマは暴力の前で弱者が体験する苦痛。問題は加害者には何事もなく、被害者は同様な状況を体験するたびにトラウマが強化されるということだ。」

連載の第5回は、ソウル市人権委員会が開催した“120茶山コールセンター感情労働および雇用実態”討論会。

「コールセンターは下請け業者からの派遣。『下請け業者は相談員に対して、無礼で非常識な請願人にも無条件に親切に対応するよう強要し、請願人が間違っていても相談員に対して謝れと言う』と話す。相談員は女性労働、感情労働、間接雇用非正規労働、低賃金労働という4重苦を受けている
同じ会社の中でも顧客サービスを専門担当する部署を下位職と見なすケースは多い。国内のある化粧品会社の顧客相談室で仕事をする職員は、マインドプリズムにEメールを送って『本当に笑顔を失わないようにするなら、会社が相談室を冷遇する雰囲気に対抗して、常に闘い続けなければならない』と打ち明けた。英国の言論人ポリートインビーは〈去勢された希望〉で“テレマーケターが電話をかけたとき、人々はすぐにとんでもない話を耳の中に浴びせるテレマーケターの行動を分不相応な私生活侵害だとして怒る”と話した。誰もがしたくない仕事を下請け職員や末端部署が抱え込む。あるコールセンター相談員は『実績を上げてこそ他の部署に行けるから熱心に営業する。同僚は今後営業をしないために売ってはいけない商品まで売って、深刻な感情労働を甘受する』と話した。
イム・サンヒョク労働環境健康研究所長は『わが国において世界で最も感情労働が深刻な社会問題になったのは最少の人員で最大の効率を得るための企業の過度な業務量賦課と非民主的、反人権的経営組織体系、生産体系のため』と指摘する。
<自己卑下>人は自身が大なり小なり価値ある存在だという確信で生きている。しかし、自分の尊重感を守れずに卑屈な態度で生きなければならない状態が持続すれば、自分に対する否定的な考えに捕われることになる。自己卑下的状況になれば失敗に耐えられなくなり、自身の短所にばかり集中して劣等感と憂鬱、無気力を振り切り難くなる。」

サムスン電子サービスセンターの“人民裁判”

「ハンギョレ新聞」の2014年10月13日から12月5日までの「感情労働」の連載の第1回は、三星(サムスン)電子サービスセンター。

「三星電子サービスセンターは、出張設置や修理の後に1人のサービス技師につき月に20回程度、顧客にサービス満足度を評価してもらう“ハッピーコール”をかける。“とても不満”1点、“とても満足”10点。技師は8点であってもサービス改善の『対策書』を書かなければならい。5点ならば“人民裁判”を覚悟しなければならない。
“人民裁判”は午後9時から始まるが、同じ組の1人でも点数が低ければ全員残らなければならない。1人はサービス技師の役割、他の1人は顧客の役割で問題となったサービスを再演する。会社はCSロールプレイと言うが、技師たちは“人民裁判”と呼んでいた。技師の1人は『人間的にいつもみじめだった。今もそのまま残っているその部屋は恐怖の対象』と語る。
6月、金属労働組合三星電子サービス支会が発足してからは中断されたが、慶尚南道地域のあるセンターでは、対策書を朝礼の時に全職員の前で読み“自己批判”をしなければならない。」

病院・介護
感情労働者は“怒る力”さえ麻痺している

「ハンギョレ新聞」の2014年10月13日から12月5日までの「感情労働」の連載の第3回は感情労働者公開相談室の状況。

「心理治癒専門企業で“感情労働者公開相談室”が開催され、事例発表が行われた。
参加者にはあらかじめ“あなたが正しい”、“とんとんと抱きしめてあげたい”、“共感百倍、私も同じ経験があります”、“私がもしあなたならば…”等と書かれた立て札が配られ、発表者の発表が終わると4つの立て札の中のひとつを挙げて話しかける。
発表者が、顧客と会社から侮辱された他の人の経験を自身のことのように読み下す事例発表を終えた。聞いていた病院の顧客センター相談員は“私がもしあなたならば…”を挙げ『何が大変なんだか分かりません』と答えた。
理由を聞くと『顧客センターに電話をする人はほとんどが病院に不満がある、医療事故だと主張する方々です。私は妊娠して臨月まで、殺すと脅迫する顧客を相手にして仕事をしました。私はただうまく行っていると考えていたけど…苦しがっている他人の話を聴けば心がとても変で複雑です』。
彼女は会社で“感情を表に出さず不満顧客もうまく処理する職員”として待遇されたが、いつからか日常の関係は絡まり始めたと打ち明けた。ある時、自分がこの状況でどんな表情をしなければならないのかさえ分からない瞬間が襲ってきた。
感情マヒ”。誰かが自分に侮辱を与え脅迫すれば、羞恥心、侮蔑感、怒り、恐怖などの感情が自然に感じられる。ところが、そのような感情を頻繁に感じ、耐え難い状況が繰り返されると、生きるために正常な感情を停止させる。結局は大変なこともなく、うれしいこともない、日常的な喜怒哀楽のリズムを全て失うことになる。
感情労働者集団相談に参加した親切教育の講師は、『私自身も納得できない会社のマニュアルどおりに、職員にいつも微笑を浮かべやさしくしなければならないと教え、気持ちの中ではよく頑張っていると思っていたが、結局身体が先に音を上げた』と話した。顔面と体の左側にマヒがきて、救急室に運ばれていくこと二回、結局彼女は会社を辞め、その後健康も回復しました。感情労働者は“怒る力”さえ麻痺している。」

連載第4回は福祉士たちが置かれている状況。

「100人が働いている障害者生活施設の福祉士は手袋をはめずに仕事をする。入所した時、責められた。『ここに入ってこられた方々は生涯障害のために差別を受けて生きた方々じゃないの。それなのに私たちまでが手袋をはめてその方に触れるなら距離感も感じて差別を受けると思わないかい?』素手で大小便も片づけ、からだも拭く。
仕事をはじめて3か月後、施設で疥癬がうつり、家族にもうつしてしまった。
『手袋をはめてはならない理由は別にありました。手の動きが鈍くなって仕事をする時間が1.5倍かかるといいますよ』。強制規定ではないが、働く手が遅いと管理者が一言ずつ文句を言うので手袋をはめて仕事をする人はほとんどいないという。
『障害者が殴って来たときにさっと身を避ければ、殴った人が倒れてケガをしますね。上では技術的に受け止めろと教えますね。“奉仕するという使命感を持って来たなら献身して仕事をしろ”そういう話をよく聞きます』。世話をして愛した患者が死ぬたびに、福祉士の精神的傷も大きい。しかし身体と心を慰める時間も余力もない。一緒に仕事をしている同僚で筋骨系疾患に病んでいない人は1人もいない。しかし、労災を申し込んだり認定された人はいない。社会福祉士の権利を主張することは福祉士らしくないことと映るためだ。
感情労働と社会的弱者を相手にしているという倫理的責務感まで重なって、社会福祉士のからだと心が“燃尽”しつつある。
死ぬほど努力したが当初抱いていた理想ほどには仕事が実現されないとき、心理的に“バーンアウト”(焼尽)状態になる。あたかも人生の燃料を全て使い尽くしてしまったように身体的・情緒的に極度の疲労感を感じ、無気力症や自己嫌悪・職務拒否に陥る症状を見せる。」

精神疾患労災申請と判定件数増加

2015年4月23日付の「ハンギョレ新聞」に「韓国で『感情労働』に対する労災認定が大幅に増加」の見出し記事が載った。

「シム・サンジョン正義党議員が勤労福祉公団から提出された「精神疾患労災申請と判定件数」資料によると、様々な精神疾患を理由に労災を申請した労働者は2010年89人で承認率23.6%(21人)、11年は102人と25.5%(26人)、12年は127人と37.0%(47人)、13年は137人と38.7%(53人)、14年は137人と34.3%(47人)と増えている。
産業構造の高度化とサービス業の比重が徐々に高まる傾向と関連して、物理的な被害だけでなく精神疾患が生じる可能性があるという認識が広がったことによる。最近は、職場内のセクハラ被害者やお客様の暴言・暴行被害を受けた労働者に対して使用者の不適切な対応によってうつ病が発症した場合なども、労災として認められる傾向にある。
精神疾患の予防対策を強化する一方、労災と認められるのが困難な制度を改善しなければならないという声も高まっている。シム・サンジョン議員は「まだ仕事上の精神疾患を事前に予防し、発症した場合に加害者を処罰する方法が用意されていない」とし「業務上の精神的なストレスが原因となって発生した病気も労災として認められるように、具体的法律改正案を真剣に検討しなければならない」と語す。」

労災審査対象と承認基準拡大の制度改善が必要

精神疾患労災がここまでに至る経緯を追ってみる。
2014年10月31日付の「ソウル=聯合ニュース」に「『入居者応対』に苦しむマンション警備労働者」の見出しが載った。

「今月7日、ソウルのあるアパート警備員の焼身自殺未遂で、アパート警備員の労働条件に社会的な関心が集っているなかで、賃金以外に『入居者応対』が最も大きいストレスの要因と分かった。
ハン・イニム労働環境健康研究所・研究員は『アパート警備員の労働人権改善のための緊急討論会』でこのように報告した。
労働環境健康研究所によれば、8~9月にソウルの団地で働く警備員152人を対象にアンケート調査を実施した結果、回答者の39.6%が、この1年間にことばの暴力を体験したと答えた。ことばの暴力を体験したこれらの46%は1か月に1回以下、36%は1か月に2~3回体験したと答えたが、『ほとんど毎日』が6%にもなった。また、経験者の69.4%は加害者は『入居者と訪問客』とした。この1年間で身体的暴力や脅しに遭ったことがあると答えた人も8.9%だった。加害者の72.7%は『入居者と訪問客』だと答えた。
回答者の15.8%が、昨年1年間に業務中の事故で病院や薬局を訪ねたと答え、このうち66.7%は治療費を自分で出したと答えた。労災保険で処理したという答は18.5%に過ぎなかった。」

続報が1年1月8日の「中央日報」の社説でふれられている。

「昨年11月、入居者の暴言に耐えられず焼身自殺をしたソウル江南(カンナム)のあるアパート警備員Lさんの家族は、入居者と警備企業を相手取り、最近、民事訴訟を起こした。原告側の弁護人は『Lさんの死に謝罪して責任を全うしなければならない管理会社と入居者が責任を回避している』とし『彼らはLさんを死に追い込みあたたかい家庭を破綻に追いやった直接的な原因だ』と主張した。」

ここの警備員たちは改善要求を掲げて労働組合を結成した。

この事件に関連して2014年10月22日の「毎日労働ニュース」は「政府は感情労働・精神疾患を労災と認定せよ野党議員が福祉公団の国政監査で」の見出し記事を載せた。

「ソウルの江南(カンナム)のあるアパートで発生した警備労働者の焼身事件と関連して、国会・環境労働委員会の野党議員は『感情労働の被害を減らすために、精神疾患を積極的に労災に含ませなければならない』と声を揃えた。
ハン・ジョンエ新政治民主連合議員は勤労福祉公団の国政監査で、『最近5年間の精神疾患による労災申請承認現況」を公開した。資料によると2010年から今年の6月まで、精神疾患に関連した労災申請件数は517件で、労災が承認されたのは167件に過ぎなかった。
ハン・ジョンエ議員は『精神疾患に関連した労災審査に対する制度的な規定が不備なため』と指摘した。とくに『精神疾患の労災処理に関する社会的な議論を疎かにした雇用労働部に責任がある』と批判した。
実際に公団は、昨年『精神疾病の業務関連性の判断と療養方案研究』で、『うつ病や不安障害などは業務関連性を証明しにくく、外傷後ストレス障害以外の精神疾患は労災認定基準に含ませにくい』という消極的な結論を出していた。
公団は最近、精神疾患に対して別途の災害調査シートを作るように調査指針を改正したが、根本的な対策にはなっていないというのがハン議員の指摘だ。『調査指針の改正でなく、労災の審査対象と承認基準を拡げるような制度改善が必要』と強調した。
同党のチャン・ハナ議員は『安全保健公団は2011年から『感情労働による職務ストレス予防指針』を作って対策を立てているが、労災との関連性を判定する勤労福祉公団は消極的な対処しかしていない』。『労働者の感情労働を含む業務上のストレスを、労災として受け容れる必要がある』と主張した。
イ・ジェガプ公団理事長は『精神疾患の労災認定基準を拡げるより、調査指針の改正に力を入れている』。『精神疾患の労災認定可否を統合的に審理するソウル疾病判定委員会に、精神疾患専門医を増やす』と答えた。」

2015年1月14日の「毎日労働ニュース」は「『出勤途上災害・感情労働に労災認定』労働界の念願達成か」の見出し記事を載せた。
「労働界は、感情労働者の職務ストレスを業務上疾病と認定するよう法律改正することを要求してきた。まれに勤労福祉公団が労災と認定するケースはあったが、法的な根拠はなかった。
雇用労働部が朴槿恵大統領に業務報告を行った内容に、感情労働従事者の職務ストレスを業務上疾病と認定するように関連法を改正するという内容も含まれていた。
労働部は『産業安全保健法に、顧客と応対する労働者に対する事業主の職務ストレス予防措置を規定する』こと明らかにした。予防措置をしなかった事業主に対する罰則条項は除くものと思われる。労働部は労災保険法と施行令に、顧客応対労働に伴う疾患を業務上災害と認定し、補償基準を作る作業を2015年下半期に終える計画。」

自身の権利を主張するなら
他人の権利も尊重しなければならない

2015年1月8日の「中央日報」の社説は、韓国ソウル近郊のデパートで、客の母娘が駐車場のアルバイト生をひざまずかせて頬を殴ったという主張がネット上に流れた事件にふれて「『デパート母娘事件』…他人に対する配慮が消えた韓国社会」の見出しで次のように述べている。

「事実関係を確かめてみると、特権層の権力乱用というよりは客の我が物顔の振る舞いといえるだろう。だが、多くの人はこの事件を起こした母娘の単なる逸脱行為とは見ていない雰囲気だ。私たちの周辺でよく目撃する後進的な実状だからだ。ネット上には我が物顔の客による暴言で心を傷つけられた『感情労働者』らの怒りがあふれ返っている。一部の非常識な暴力は感情労働者を病や死に追いやることもある。…
われわれ韓国社会は経済的に相当な水準に到達した。ところが自身の権利を主張する一方で他人の権利も尊重しなければならないという市民意識はまだまだ身についていないようだ。甲乙関係の『甲』でないなら詐称してでも損を回避しようとする浅はかな身分社会の残骸が今も残っている。まだ一部の企業オーナーは職員を作男(雇い人)だと思い込み、一部の我が物顔の顧客は従業員を召使のように冷遇する。『お客様は神様』は、企業が利益を最大化するためにつくり出したただのスローガンに過ぎない。
客は支払った分に対する待遇を受ける権利はあるが、従業員の人格まで侵害する権利はない。一部は感情労働者に対する法的保護を強化しなければなければならないと主張する。だがこれは法で解決するような問題ではない。自身の行動が他人に害を及ぼしていないか振り返る成熟した市民意識が先に定着してこそ解決される問題ではないか。

韓国の「感情労働」、「職場の暴力」に関する新聞記事を読んでいくと、日本より取り組み進んでいる。『お客様は神様』ではない。
ストレスは重層的格差社会が創り出している。その構造の中で、ストレスを誰かにぶつけることで解消する行為は連鎖を呼んでいる。感情労働の被害は労働者の自己を破壊させる。そしてまた加害者の正義感をさらに破壊させていく。
それぞれの立場は違っても、みな消費者であって労働者。お互いが主張し合う中から理解し合えて共感が生まれ、さらに共生が生まれる。
感情労働者の基本的人権の保障・支持という主張だけでなく、安全な勤務環境の造成、適正な休憩時間・休日の保障などの労働条件の改善を並行して勝ち取っていかなければならない。そして、政府や関連企業と一緒に人権を尊重し合う社会運動として取り組むことが緊急課題になっている。

【エピソード】

2013年12月17日付の「ハンギョレ新聞」に「“きれいにできなくてごめんなさい”ストライキ清掃労働者の大字報“ジーンと”“どうして申し訳ないと言われるんですか…”1,113回リツィット“話題”」の見出し記事と大字報の写真が載った。

韓国・中央大学校の清掃をしている外注会社は、労働組合脱退と労働強度を続けていた。労働組合は脱退勧誘の中断と労働強度に合わせた15人追加人材採用を要求してストライキに入る。その時、1人の清掃労働者が、図書館のトイレ前の壁に大学生に向けてA3大の手書きの手紙を貼った。
「学生たちにまず申し訳ないという話からします。今、美化員のおばさんたちがストライキをしています。試験期間にきれいにできなくてごめんなさい。ストライキは本当に大変です。私たちの問題解決がはやく終わり次第、戻ってきてきれいに清掃しますね。愛する学生の皆さん!-美化員おばさん」
1人の学生がツイッターを立ち上げた。すると3時間もしない間に1,113回もリツィットされた。「涙が出る手紙ですね」、「心が痛いです」、「社長には死んでも分からない“本当のお母さんの心”」、「ストライキは憲法に保障された権利です。謝る必要はありません」というような反応があった。
ツイッターを立ち上げた学生は「(掲示物を見て)悲しくなった。法に保障された正当な権利なのに、あのようにまで“ごめんね”と言うのを見ると、この間清掃労働者の方々がどれほど抑圧的な状況で顔色をうかがいながら勤務をしたのかが感じられた」と話す。

11月14日、ソウル市役所前で開催された全国労働者大会・民衆総決起に参加した。雨の中を13万人が結集して、朴政権を弾劾する集会だった。
前日は中央大学の清掃労働者も加盟している公共労組ソ京支部・大学非正規支部と交流した。その時に韓国・中央大学のストライキの記事と写真を見て感動したと報告した。
労働者大会では公共労組ソ京支部の隣に座りこんでいると大学非正規支部の役員の方が、中央大大学支部の大学生に向けて手紙を書いた方と引き合わせてくれ、記念の写真を撮ってくれた。感動的な出会いとなった。

安全センター情報2016年3月号