染料・顔料中間体製造工場で 5名の労働者に膀胱がん /職業がん対策再見直し必要

古谷杉郎(全国安全センター事務局長)

目次

2015年末の厚生労働省発表

2015年12月18日、厚生労働省は突然、「芳香族アミンによる健康障害の防止対策について関係業界に要請しました」として、以下のように発表した。

厚生労働省では、化学工業をはじめ多くの事業場で使用される化学物質について、労働安全衛生関係法令に基づき、健康障害防止対策を進めています。
今般、染料・顔料の中間体を製造する事業場で、複数名の労働者が膀胱がんを発症する事案が発生しました。膀胱がんを発症した労働者においては、オルト-トルイジンをはじめとした芳香族アミンを取り扱う作業に従事していたことが分かっていますが、現在、作業実態や発生原因について所轄の労働局・労働基準監督署及び独立行政法人労働安全衛生総合研究所において調査を行っているところです。
これらのことを踏まえ、予防的観点から、本日(2015年12月18日)、一般社団法人日本化学工業協会及び化成品工業協会に対して、芳香族アミンによる健康障害の防止対策の適切な実施を要請しました。
また、緊急対応として、当該事業場で取り扱われている芳香族アミンのうち、膀胱がんとの関連があるとされているオルト-トルイジンを取り扱う事業場として厚生労働省が把握しているものについて、労働者のばく露防止と健康管理の徹底が図られるよう、労働局・労働基準監督署による調査・指導を実施します。

※当該事業場で取り扱われている芳香族アミン5物質の労働安全衛生法に基づく規制の状況
これらの物質の製造等の禁止や、管理濃度を定めた上での局所排気装置の設置・健康診断の実施等の義務づけはされていないが、これらの物質を取り扱う事業者には、有害性等を確認するよう努めるほか、空気中の濃度が有害な程度にならないようにするため、発散源を密閉する等により適切に管理しながら使用することなどが求められている。また、譲渡提供時の危険有害性や取扱い上の注意事項等を記載した安全データシートの提供が義務付けられている。

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000107468.html

当面の芳香族アミン対策

厚生労働省が示した「当該事業場で取り扱われている発がんに関係する芳香族アミン」は、次の物質。(下記通達の別紙2)。

beshi2

要請」は、両工業協会の長宛ての厚生労働省労働基準局安全衛生部長通達基安発1218第1号「芳香族アミンによる健康障害の防止対策について」として行われ、内容は以下のとおりである。

日頃より、労働安全衛生行政の推進に御理解、御協力を賜り、厚く御礼申し上げます。
今般、染料・顔料の中間体を製造する事業場で、複数名の労働者が膀胱がんを発症する事案が発生しました。膀胱がんを発症した労働者においては、オルト-トルイジンをはじめとした芳香族アミンを取り扱う作業に従事していたことが分かっていますが、現在、作業実態や発生原因について調査中です。(別紙1参照)
これらのことを踏まえ、予防的観点から、下記のとおり芳香族アミンによる健康障害の防止対策が適切に実施されるよう要請したく、貴会傘下の会員事業場等に対して周知いただきますようお願いします。

  1. 事業場で取り扱う別紙2の芳香族アミンについて、安全データシート(労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第57条の2の規定に基づく通知をいう。)の危険有害性情報に従って、業務の状況に応じた換気、防毒マスクの着用等の適切なばく露防止対策を講じること。
  2. 別紙2の芳香族アミンを現に取り扱っている又は取り扱ったことのある事業場においては、一般定期健康診断の実施及び当該事後措置の徹底を図ること。
    また、オルト-トルイジンについては、現にこの物質を取り扱っている労働者及び過去に取り扱ったことのある労働者であって現在も雇用している者に対する緊急の措置として、できる限り特定化学物質障害予防規則(昭和47年労働省令第39号)にある膀胱がんに関する健康診断項目(別紙3)の検査を実施するとともに、この物質を取り扱ったことのある労働者であって既に退職している者に対して、同検査の受検を勧奨することが望ましいこと。

オルト-トルイジンに関する検査項目(別紙3)

1 対象者に共通に実施する項目
① 業務の経歴の調査
② 尿、頻尿、排尿痛等の他覚症状又は自覚症状の既往歴の有無の検査
③ 血尿、頻尿、排尿痛等の他覚症状又は自覚症状の有無の検査
④ 尿沈渣検鏡(医師が必要と認める場合は、尿沈渣のパパニコラ法による細胞診)の検査

2 上記1の検査の結果、医師が必要と認めた場合に実施する項目
① 作業条件の調査
② 医師が必要と認める場合は、膀胱鏡検査又は腎盂撮影検査」

発覚した発症事案の概要

「染料・顔料の中間体の製造工場における膀胱がん発症事案について」は、以下のとおりとされている(上記通達の別紙1)。

1. 事業場の概要

業種:化学工業製品製造業(染料・顔料の中間体の製造)
労働者数:約40名

2. 事案概要

  • 平成27年12月3日、事業場から、当該事業場の労働者4名(他に退職者1名、計5名)が膀胱がんを発症している状況について、所轄の労働局に報告があった。
  • 現職労働者4名については全て男性、年齢は40代後半から50代後半、当該事業場での就労歴は18年から24年。
  • 所轄の労働局・労働基準監督署及び独立行政法人労働安全衛生総合研究所において、作業実態や発生原因について調査を開始。なお、膀胱がんを発症した労働者には、会社を通じて労災保険の請求勧奨を行っている。
  • これまでの調査により、膀胱がんを発症した現職労働者4名については、オルト-トルイジンをはじめとした芳香族アミンの原料(別紙2参照)から染料・顔料の中間体を製造する工程において、原料を反応させる作業、生成物を乾燥させ製品にする作業に共通して従事していたことが分かっている。
  • 厚生労働省としては、引き続き、オルト-トルイジンを中心に原因の究明作業を行う。

朝日新聞によると、記者会見で厚生労働省は、事業場の具体名を問われて次のように答えたと言う。

「行政に相談したら、すぐに事業場名が出るとなると相談も来なくなってしまうので、個々の企業名については現段階では公表は控えたい。所在地についても、事業場の特定につながるので公表しない。事業場の特定につながるような情報については現時点では勘弁してもらいたい。まずは早く警告を出さなければならないと考えており、どのような化学物質で問題が起きているのかという情報が重要だからだ」。

朝日新聞デジタル 2015年12月19日

しかし、12月21日に福井新聞が以下のように報じた。以降のメディア報道も企業名を特定している。

染料・顔料の原料製造工場の従業員ら5人が膀胱がんを発症した問題で、この工場は三星化学工業(東京)の福井工場=福井市白方町=と20日、分かった。同社の泉谷武彦社長は取材に『法令は順守していたが、対策が十分だったのか調べている』と話した。
社長によると、工場は1988年設立。膀胱がんを引き起こすとの指摘がある物質『オルト―トルイジン』を扱っていた。作業工程ではマスクや手袋、帽子を着け、換気装置もある。5人は主に、液体のオルト―トルイジンからつくった粉末状の物質の袋詰めをしていた。機械の保守点検時に粉末が舞うこともあった。
医師の診断では、他の従業員の健康に問題はなかった。同社の他工場でも膀胱がんの発症例はないが、退職者の健康状態も調べるという。
この問題をめぐっては、厚生労働省が18日に発表。同省によると、5人は40~50代の男性で、昨年2月~今年11月にかけて膀胱がんと診断された。今月3日、工場から所管の労働局に相談があって発覚した。
工場側はこの物質の危険性を認識し暴露防止措置を取っていたが、同省は『どこかで漏れがあったと判断せざるを得ない』としている。5人には労災申請を勧めている。
発症した5人のうちの一部が入る労働組合『化学一般労連関西地方本部』(大阪)は21日、今回の問題で報道関係者向け説明会を福井市で開く。
三星化学工業のホームページによると、同社は1953年に設立。有機顔料中間体などの製造販売を手掛けている。福井市のほか、埼玉県越谷市と福島県相馬市に工場がある。」。

福井新聞 2015年12月21日

被害者が記者会見・労災申請

12月21日、福井県庁で、三星化学工業の被災労働者が、労働組合である化学一般関西地本が主催した記者会見に臨み、労働現場の実態や会社側の安全と健康を軽視したこれまでの対応を批判した。以下は翌日の福井新聞記事から。

「染料や顔料の原料を製造している三星化学工業(東京)の福井工場(福井市白方町)で、従業員ら男性5人が相次いで膀胱がんを発症した問題で、発症者の2人が21日、福井県庁で記者会見した。関連が疑われている物質『オルト-トルイジン』の危険性について、約4年前まで会社側から全く周知されていなかったことを明らかにし、『もっと早く危険性を知らせて対策を取っていれば、こんなに多く発症することはなかった』と悔しさをにじませた。
2人は、ともに福井県坂井市在住で現在56歳。通算12年余りにわたり、オルト-トルイジンから作られる粉末状の物質の袋詰めなどに従事している。うち1人が21日に医療機関を通じて福井労働基準監督署に労災申請し、もう1人と別の1人も週内に申請する予定。
会見では、会社側が2011年ごろにオルト-トルイジンの危険性などが書かれた『安全データシート(SDS)』を工場に置くまで、発がん性とは知らなかったと強調。夏場は半袖で作業し、むき出しの腕に物質が付いて真っ白になったという。乾燥機など作業場所の周辺には集じん機があったが、機能が不十分で周囲に粉が舞い、床も白くなるほどだった。集じん機や換気用ファンの増設を求めたが聞き入れられなかったという。
2人はそれぞれ、今年8月と11月に、膀胱がんと診断されて手術を受けた。『膀胱がんは再発しやすいと聞いているので恐怖はある』『若い同僚も今後発症する可能性がある。会社は少しでもリスクが減るよう対応し、発症した場合の補償など安心して働ける環境にしてほしい』などと訴えた。
会見に同席した労働組合『化学一般労連関西地方本部』(大阪)の海老原新・書記長は『会社として安全配慮義務を果たしていたとはいえない状況。1社だけの問題ではなく、他の工場でも労働者が同じような環境に置かれている可能性はあり、国はしっかり調査して規制を強化すべきだ』と述べた。
一方、三星化学工業は、現時点で労災申請の準備を進めていない発症者2人にも申請するよう伝えたという。本社総務部の担当者はこれまでも、工場側に作業中の防じんマスクや手袋の着用を徹底するよう指導していたと説明した上で、『国の調査に全面的に協力し、真摯に対応する』と述べた」。

福井新聞 2015年12月22日

被害者・労組が厚生労働省に要請

年が明けて2016年1月15日、被害者2名と化学一般労連関西地方本部の代表らが上京して、午前中三星化学工業本社で交渉、午後厚生労働省を訪れて下記の要請を行った後、記者会見に望んだ。

「染料や顔料の原料を製造する三星化学工業(東京)の福井市内の工場の男性従業員ら5人が、膀胱(膀胱)がんを相次ぎ発症した問題で、従業員らが16日までに、厚生労働省を訪れ、早期の労災認定を要請した。15日、同省内で従業員2人が記者会見し『会社には取り扱う原料の危険性を我々にもっと早く知らせ、対策を取ってほしかった』と悔しさをにじませた。
厚生労働省などによると、退職者1人を含む5人はおととし2月~昨年11月に膀胱がんと診断された。同工場では芳香族アミンと総称される化学物質のうち、発がん性が指摘されるオルト―トルイジンなどを扱い、5人は混ぜたり、乾燥させたりする作業に携わっていた。
従業員の1人は工場内での作業の様子について『夏場は半袖で作業し、むき出しの腕に物質が付いて真っ白になった』などと話した
発がん性のある化学物質を扱っていた北陸の化学工場の従業員らが相次いで膀胱(膀胱)がんを発症した問題で、支援する労働組合『化学一般関西地方本部』(大阪市)が15日、厚生労働省に労災として認めるよう要請した。発症者には、会社から謝罪があったという。
発症したのは40~50代の男性で、現職4人、退職者1人の計5人。工場では発がん性が指摘されている『オルト-トルイジン』をはじめ、『芳香族アミン』に分類される複数の化学物質を扱っていた。労組によると、すでに5人全員が労災を申請しているという。
15日に厚生労働省を訪れた労組の礒部浩幸・執行委員長は『ぜひ早急に労災認定していただきたい』と要請。ほかに、規制を厳しくするため芳香族アミン類を『特定化学物質』に指定し、工場で防止策が講じられるまでは作業を停止するよう指導することなども求めた。
労組は15日に都内の本社幹部らとも面会。発症者と同様の作業にこれまで約40人が従事したとの説明があったほか、同席した発症者の高山健治さん(56)と田中康博さん(56)に社長から『済まないと思う』などと謝罪があったという。
田中さんは会見で『手術後、膀胱にカメラをいれて再発していないか検査するが、苦痛だ。情けないというか、つらいというか』と述べ、高山さんとともに労災認定を急ぐよう訴えた。」

朝日新聞 2016年1月16日
記者会見を行う化学一般関西地方本部と三星化学工業の被害者組合員


芳香族アミン取扱い事業場での膀胱がん
多発事案を受けての要請書

染料・顔料中間体製造事業場で一昨年来膀胱がんが多発し、厚生労働省におかれましては昨年12月18日予防的観点から関係業界に対し健康障害の防止対策を要請されました。
当該事業場の労働者は、膀胱がん罹患者は勿論のこと罹患者以外の労働者においても多かれ少なかれ当該化学物質への曝露があり、不安な日々を過ごして来ました。
とくに罹患者らは膀胱がん発症後配置転換を申し出ましたが、業務配慮はされることなく不安と怒りを抱えたまま当該作業に従事させられ、12月ついに労災申請の手続きに踏み切りました。また、労働組合による学習会において芳香族アミン類についての発がん性や化学物質の適正な管理について学ぶ中で、あらためてこれまでの劣悪な労働環境や保護具の不適切な点、発がんに至る経過などを振り返り、厚生労働省への要請事項をまとめましたので、ご対応のほどよろしくお願いいたします。

  1. 本事業場で多発している膀胱がん患者の労災申請に対し、早期に労災認定していただきたい。
  2. 芳香族アミン類(芳香族アミン及びその誘導体)を特定化学物質障害予防規則に指定していただきたい。
  3. 芳香族アミン類のがん原性調査をしていただきたい。
  4. 当該事業場における当該作業の適正化について指導をされたい。また、それが完了するまでの作業を停止することを指導されたい。
  5. 本事案に関しては、適切な証拠保全をするよう要請する。
    詳細は、別紙(以下)参照

(別紙:要請書詳細)

1. 本事業場で多発している膀胱がん患者の労災申請に対し、早期に労災認定していただきたい。

従業員約40名の事業場において、膀胱がん患者が既に5名発生しているが、当該業務に従事しているのは約10名程度であり、大変な発症率となっている。罹患者はもとより未だ発症していない者、2次汚染が懸念される者の不安は計り知れない事態となっている。
これらの膀胱がんは明らかに職業がんであると考えるが、当該患者の労災申請に対し早期に労災認定を行い、精神的肉体的経済的負担を軽減し、少しでも不安を軽減されたい。

2. 芳香族アミン類(芳香族アミン及びその誘導体)を特定化学物質障害予防規則に指定していただきたい。

芳香族アミンの発がん性については、古くから知られていることであり、動物実験による発がん性や発がんメカニズムの解明が今日まで進んできている。人に対する発がん性についても、不適切な曝露がされた場合はナフチルアミン、ベンジジン類(ベンジジン、ジアニシジン、トリジン、ジクロルベンジジンなど)などによる職業がんの発生につながってきた実態があり、本事案のように相当程度の曝露がされれば職業がんが発生することは明白である。
日本においては、発がん性物質の取り扱いに際して特定化学物質障害予防規則によって規制をしているが、これまで障害が発生した特定の化学物質のみを指定し、同類の化学物質についての規制をして来なかった経緯があり(有機溶剤中毒予防規則も同様)、この施策はこれまで様々な障害をもたらしてきた。
このことは、近年印刷業界で発生した胆管がん問題を見ればよくわかる。現在、胆がんを発症する原因物質としてジクロロメタンと1,2-ジクロロプロパンが特定されているが、ブランケットのインクの洗浄剤として、従来ジクロロメタンを使用していた。しかし、ジクロロメタンが有機則の規制対象に入ったため同類のハロゲン化炭化水素で同様なインク洗浄機能を持ちつつ規制対象外である1,2-ジクロロプロパンの使用が職業現場で進んでいった。そして、その労働衛生管理は取り扱う事業場の力量に委ねられてしまうため、相当程度の曝露が生じ、胆管がんの発生につなががっていったのである。
本事案においても、規制対象外の芳香族アミンにがん原性があるにもかかわらず、規制対象外であるがゆえ、それらの発がん性が適切に周知されず、取扱い事業場の力量に応じた(結果的に不適切な)労働衛生管理が相当の曝露を生じさせ膀胱がんの多発につながったのである。

2-2. 既存物質であるトルイジン誘導体(アセチルケトン体)の発がん性評価はできているのか教えていただきたい。できていないのであれば、早急に実施してほしい。

本事案の膀胱がん罹患者の労働環境を調査すると、厚生労働省があげた芳香族アミン、原料であるジケテン及び溶剤のトルエンへの曝露が疑われ、さらにその反応物である芳香族アミン誘導体(アセチルケトン体)、とくにトルイジン誘導体への曝露が大量にあったことが判明している。トルイジン誘導体は皮膚及び吸入により体内に取り込まれ、代謝によってトルイジンが生成するなど発がんにつながるメカニズムが存在するのではないかと懸念される。また、トルイジン誘導体に含まれる未反応のトルイジンの発がんへの寄与も同様に懸念される。

2-3. ジケテンの発がん性評価について教えていただきたい。できていないのであれば、早急に実施してほしい。

2-4. IARCが2010年にトルイジンの評価をグループ1に格上げしているが、厚生労働省はどのような対応を取ったのかを教えていただきたい。

3. 芳香族アミン類のがん原性調査をしていただきたい。

本事案を受け、芳香族アミンによる発がん調査はしているのか教えていただきたい。芳香族アミンは主として尿路系がんを発症させるが、その他の臓器の発がん・重複がんの可能性も疑われている。膀胱がんに限定せず広く疫学調査を行い、芳香族アミン類のがん原性を明らかにして、今後の予防と早期発見に役立てていただきたい。
また、一例であるが、全国の芳香族アミン類取扱者の尿検査・腫瘍マーカー及び発がん症例結果を厚生労働省に報告させ、職業がんの発生を早期にあるいいは経年的に把握するシステムの確立を要望するものである。

4. 当該事業場における当該作業の停止について指導をされたい。

当該事業場では、わかっているだけで昨年夏時点で膀胱がんが3件発生しており、続く9月、11月に1件ずつ合計5件も発症して、ようやく12月3日福井労働局へ相談をしている。この間、膀胱がん摘出手術後の罹患者からの配置転換の訴えも退け、昨年12月21日まで操業を継続し当該作業に従事させている。罹患者らが抱いた不安は計り知れない。
厚生労働省においては、会社からの相談を受け、昨年12月18日に予防的観点に基づいて関係業界に対し健康障害の防止対策を要請した。本事案における罹患者らは摘出手術をしたから安全になったわけではなく、むしろ再発が懸念されるハイリスク集団であり、かかる罹患者への人道的な配慮及び予防的観点に基づき、当該事業場において有効な曝露防止対策が講じられたことを確認しない間は、当該作業の停止を指導するのが当然である。

4-2. セーフティアセスメン卜やリスクマジメントによる労働衛生管理の手法及び衛生工学的な曝露防止の指導をされたい。

厚生労働省の要請の中に「業務の状況に応じた換気」とあるが、当該工場では換気扇の増設を行っており、二次汚染が拡大している。特定化学物質障害予防規則に準じた密閉化・囲い込み・プッシュプル換気・局所排気などの具体的かつ衛生工学的な対策を要請すべきである。
また、本事案の当該作業環境を改善するには、セーフティアセスメントやリスクマネジメン卜の運用と労働者の意見の反映が重要である。そのような手法はまだまだ浸透しているとは言い難く、したがって当該事業場に対して指導をしていただきたい。
当該事業場で使用していた防毒マスクは直結式防毒マスクであるが、粉じん除去率が低く、新しい吸収缶を使用しても作業終了後に吸収缶を通過した細かい粉じんを吸引していたことを確認している。粉じん曝露がある作業環境下ではエアーラインマスクの使用など適切な防毒マスクの選定を指導していただきたい。

4-3. 労働安全衛生活動の基本を指導していただきたい。

今回の事案の重大性に鑑み、全事業場を対象に、安全衛生委員会の設置と運営、安全衛生教育の充実(会社に対する教育、SDSに基づく従業員教育などを含む)、合わせて内部コミュニケーションの充実、衛生管理(環境管理、作業管理、健康管理)の推進も指導していただきたい。
そのための監督官の人員配置・増員を検討していただきたい。

5. 本事案に関しては、適切な証拠保全をするよう要請する。

厚生労働省は、当該事業場に12月7目、15日、16日と3回の現地調査をしている。12月7日は会社への通告なしの抜き打ち調査であったが、12月15日、16日の調査時においては事前に会社は連絡を受け、当該作業場の清掃を実施してしまったため、当該作業環境の証拠保全がされたのか疑問がのこる。
また、いずれの調査においても、粉じん曝露が多い午前中の作業環境を測定していないが、その点をどのように考えておられるかお聞かせ願いたい。
また、これまで実施された調査・測定結果及び今後の調査予定を、教えていただきたい。
以上

既知の発がん物質を使用-胆管がん事件とは異なる

職業性胆管がん事件に続いてこのような事態が起こったことに驚きを禁じえない。胆管がん問題を踏まえて2014年に行われた労働安全衛生法改正は、2016年6月1日施行予定で、まだ施行されていない段階ではある。しかし、はたして改正法が実施されていれば今回の事件を防ぐことができたと言えるだろうか。残念ながら「否」と言わざるを得ないだろう現実をあらためて直視して、改正法の運用を含めた見直しを行うべきである。

胆管がん事件における1,2-ジクロロプロパンとは異なり、今回原因物質として名前のあがっているオルト-トルイジンについては、発がん性に関する情報があり、2010年には国際がん研究機関(IARC)が発がん性グループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)からグループ1(ヒトに対して発がん性がある)に引き上げ、また、2008年には国によるリスク評価の対象にも取り上げられていた。発がん性が明らかでありながら、特化則対象物質とするなどのふさわしい規制が遅れたという点は、胆管がん事件と異なり、企業と厚生労働省の責任もより明らかである。企業は、有害性を知りながら、「法律は守っていた」の常套文句を繰り返している。このような事態をいつまでも許してはならないのである。
むろん単一の万能薬があるわけではなく複合的なアプローチが必要と考えているが、胆管がん事件後の対応を含めてあらためて状況を確認するとともに、前出の要請の内容も踏まえて、以下の点を中心に検討してみたい。

  1. 既知の発がん物質として「国によるリスク評価」が行われていたにもかかわらず、「リスクなし」と規制が見送られていたこと
  2. 胆管がん事件を踏まえた「発がん性評価の加速化」の真価が問われているということ
  3. 2016年6月1日施行予定の改正労働安全衛生法-リスクアセスメントの義務化をめぐる問題
  4. 職業がんの労災補償をめぐる問題、その他

である。この順番にみていきたい。

国によるリスク評価制度

まずは、権威ある国際機関であるIARCによって発がん性が確認された物質等が、特化則対象物質にするなどの特別規制の対象に移行されないまま放置されていた問題である。

わが国では、2006年の労働安全衛生規則改正により設けられた

  1. 事業者による有害物ばく露作業報告(第95条の6)を活用して、
  2. 国がばく露評価と有害性評価をもとにリスク評価を行い、
  3. リスクが高い作業等について特別規則による規制等を行う、

という仕組みがつくられている。

現在では、「化学物質のリスク評価に係る企画検討会」で

  • 各年の有害物ばく露作業報告を求める化学物質を選定、厚生労働大臣が告示し、
  • 翌年(1~12月)を報告対象期間として、対象化学物質を年間500kg以上製造・取扱を行う事業場は、対象化学物質の用途、労働者が行う作業の種類、製造・取扱量、対象化学物質の物理的性状、温度等を、翌々年の1~3月に報告する

というかたちになっている。


その後、「化学物質のリスク評価検討会」において、

  • 「有害性評価」+「ばく露評価」→「リスク評価」が行われ、
  • 必要と判断されれば「化学物質による労働者の健康障害防止措置に係る検討会」で検討され、
  • ここで必要とされれば政省令の改正等に進むという仕組みである。

リスク評価対象物質の選定は、当初は発がん性に着目し、報告対象年で

  • 2006・7年度-IARCの評価が「1」または「2A」のもの15物質
  • 2008年度-IARCの評価が「2A」またはEUの評価が「2」のもの44物質
  • 2009年度-IARCの評価が「2B」であって、米国労働衛生専門家会議(ACGIH)のTLVまたは日本産業衛生学会の許容濃度が勧告されているもの20物質

計77物質が選定された(混合物・異性体の存在等の理由によりリスク評価手法が確立していない物は除外等ともされている)。

リスクなしと評価されていた

三星化学工業福井工場で取り扱われていたオルト-トルイジンは2008年度(当時IARC発がん性評価2A)、オルト-アニシジンは2009年度(IARC評価2B)の報告対象物質に選定されている。

オルト-トルイジンは、2001年実績で輸入量5,827トン、2007年度有害物ばく露作業報告が合計19事業場から22の作業についてなされ、作業従事労働者数は延べ153人、対象物質取扱量の合計は延べ1,900トン。22の作業のうち、作用従事時間が20時間/月以下の作業が68%、局所排気装置の設置がなされている作業が64%、防毒マスクの着用がなされている作業が68%であった。

また、オルト-トルイジンを製造または取り扱っている事業場に対し、11の単位作業場においてA測定を行うとともに、特定の作業に従事する15人の労働者に対する個人ばく露調査を行ったところ、A測定における測定結果の幾何平均値は0.009ppm、最大値は0.019ppm。個人ばく露測定結果の幾何平均値は0.013ppm、最大値は0.112ppmであった。

平成19年度化学物質による労働者の健康障害防止に係るリスク評価検討会報告書」は、「リスクの判定及び対策の方向性」として、

「A測定、個人ばく露測定の双方において、測定したいずれの事業場においても二次評価値[一次評価値2.9ppmよりも厳しい産衛学会の許容濃度(1991年)である1ppm]以下であったことから、リスクは低いと考えられる。しかしながら、当該物質は、有害性の高い物質であることから、事業者においてリスク評価を実施し、引き続き適切な管理を行う必要がある」

平成19年度化学物質による労働者の健康障害防止に係るリスク評価検討会報告書

として、特化則等による特別規制は見送った。

オルト-アニシジンについては、2008年度有害物ばく露作業報告が合計2事業場から2作業についてなされ、作業従事労働者数は延べ9人、対象物質取扱量の合計は延べ169トン。

オルト-アニシジンを製造または取り扱っている1事業場に対し、特定の作業に従事する2人の労働者に対する個人ばく露調査を行うとともに、1単位作業場においてA測定、2地点についてスポット測定を行ったところ、個人ばく露測定結果の幾何平均値(8時間TWA)は0.0011ppm、最大値は0.0016ppm、A測定における測定結果の幾何平均値は0.0019ppm、最大値は0.0041ppm、スポット測定の幾何平均値は0.0534ppm、最大値は0.1290ppmであった。

平成20年度化学物質による労働者の健康障害防止に係るリスク評価検討会報告書」は、「リスクの判定及び対策の方向性」として、

「個人ばく露測定はすべて一次評価値[0.0025ppm]以下であり、A測定は一次評価値を超えているものの、すべて二次評価値[産衛学会の許容濃度(2004年)等である0.1ppm]以下であり、スポット測定値も一次評価値を超えているもののすべて二次評価値以下である。以上のことから、オルト-アニシジンの製造・取扱い事業場におけるリスクは高くないと考えられるが、当該物質は有害性の高い物質であることから、事業者においてリスク評価を実施し、引き続き適切な管理を行う必要がある」

平成20年度化学物質による労働者の健康障害防止に係るリスク評価検討会報告書

として、やはり特化則等による特別規制を見送った。

三星化学工業は「調査対象事業場」だった

1月15日の交渉の場で厚生労働省は、少なくともオルト-トルイジンについて三星化学工業福井工場の有害物ばく露作業報告が提出されたことを確認している(国が同工場のばく露状況の把握を行ったかどうか、及びオルト-アニシジンについては執筆時点では不詳)。今後の調査では、同工場から提出された報告等が当時の実態を反映したものであったかどうかも当然検証されるべきであろう。

発がん性が明らかにされていた両物質が、国内の労働現場で使用されていることを確認し、リスク評価とそれに基づく健康障害防止措置の検討を行っていながら、特化則による特別規制の対象とすることに失敗し、結果的に5人もの膀胱がん被害者を生じさせてしまったという事実は重大である。教訓をこのプロセスの改善につなげなければならないのは当然であろう。

「事業者調査を鵜呑み」に問題

重要な教訓は、事業者により提出された有害物ばく露作業報告及びばく露実態調査結果(測定値)に重きを置いて、「リスクは高くない」「リスクは低い」と評価し、特別規制を見送るべきではないということである。

現に使用している事業場において自主的に厳格に管理されていれば特別規制は必要ないということではなく、適切な管理がなされなかった場合に生じうるリスクに見合った特別規制が講じられなければならない。

「国によるリスク評価」によってこれまでに2桁の物質が特化則の対象に追加されてはいるものの、同様の理由で特別規制を見送られてきたもののほうが多く、両物質に限らず、対応を見直す必要がある。

リスク評価での規制の要否判断

「国によるリスク評価」については、この間、

などがまとめられてきた。

しかし、上述のように、オルト-トルイジンについて「リスクは低い」と評価して規制を見送ってしまったという一点からだけでも、「リスク評価の手法」には問題があると言わざるを得ない。

一方、リスク評価の結果「リスクが高い」と判断された作業については、事業者団体か等からヒヤリング等を実施して、事業者や関係事業者団体が実施している健康障害防止対策等を確認したうえで、健康障害防止対策案、技術的課題、規制化の必要性を検討して、以下のように「最適な健康障害防止対策」を検討することとされている(「健康障害防止対策の検討手順」)。

最適な健康障害防止対策の検討

ア 対策オプションの提案

最適な健康障害防止対策を策定するため、対策オプションを比較検討する。検討に当たっては、事務局が3つの対策オプションを検討会に提案する。3つ対策オプションは次の方針で作成する。

(ア)オプション1:原則、規制措置の導入を前提として作成
(イ)オプション2:現行の規制における健康障害防止措置のセットを規制によらずに行政指導により普及徹底させることを前提として作成
(ウ)オプション3:関係事業者団体が妥当な健康障害防止対策を推進している場合には、当該自主的対策の維持すること(規制化しないこと)を前提として作成

イ 対策オプションの比較検討

3つの対策オプションの比較検討は、「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」中の「10 リスク低減措置の検討及び実施」において掲げられている優先順位でリスク低減対策の内容が検討されているとともに、必要な労働者の健康障害防止対策が図られていることを前提に、次の考慮事項に基づき行い、その結果を踏まえ、対策オプション中の健康障害防止措置の見直しを行い(新たな健康障害防止措置の追加、不適当な健康障害防止措置の削除等を含む。)、最適な健康障害防止対策を取りまとめる。

  • (ア)健康障害防止の効率性(効率性のより高いものを採用)
  • (イ)技術的な実現可能性(実現の可能性がより高いものを採用)
  • (ウ)コンプライアンス(遵守の可能性)(作業者が守りやすいものを採用)
  • (エ)産業活動への影響(影響がより小さいものを採用)
  • (オ)措置の継続性(事業者によって継続的に措置をとることがより容易なものを採用)
  • (カ)遵守・進捗状況の把握等の容易性(健康障害防止措置の導入の状況等の把握等がより容易なものを採用)
  • (キ)その他
ウ 規制影響分析(RIA)の実施

イの検討の結果、規制の導入が必要と判断された場合は、当該規制措置の導入に係る影響を分析する。
なお、分析に当たっては、厚生労働省規制影響分析(RIA)規程に基づき、次の3つの選択肢を比較する手法で実施する。

  • (ア)選択肢1:イで取りまとめられた最適な健康障害防止対策
  • (イ)選択肢2:アのオプション1又は2の健康障害防止対策
  • (ウ)選択肢3:アのオプション3の現行の規制における健康障害防止措置のセットを規制によらずに行政指導により普及徹底させる対策
エ 留意事項

イの検討の結果、規制の導入が必要と判断された場合は、取りまとめた最適な健康障害防止対策については、当該対策を導入するに当たって留意すべき事項として以下の検討を行う。

  • (ア)リスクが低いとされた作業に係る規制の緩和、免除等に関する事項
  • (イ)健康障害防止対策の実施に際し、効率的な実施を支援する施策に関する事項

このようなことからすれば、「リスクが高い」と評価された場合であったとしても、なお規制が見送られ、今回のような事態が再発する可能性が大きいように思われる。適切な対策がなされなかった場合に生じうるリスクに見合った特別規制が確保されるように、こうした検討のあり方も、抜本的に見直されるべきである。

リスク評価対象物質の選定

なお、リスク評価の対象物質はその後、発がん性だけでなく、生殖毒性、神経毒性等、他の重篤な健康障害にも着目して選定されるようになっている。
現在の考え方-2009年9月15日「化学物質のリスク評価に係る企画検討会」資料、2013年4月23日一部改正-は、以下のとおりである。

リスク評価対象物質・案件の選定の考え方

  1. 今後のリスク評価の対象物質・案件(なお、対象物質名を指定できないもの、指定することが適当でない場合(例、非意図的に発生する化学物質等)にあっては案件として整理する。以下同じ。)については、次の(1)から(3)のいずれかに該当するものの中から選定するものとする。

    (1)ヒトに対する重篤な有害性を有する又は、有するおそれのある化学物質・案件として以下に該当するもの
    ア 有害性にかかる次の(ア)から(エ)の情報において、以下の①から⑤に掲げる重篤な有害性があるか、又はあることが示唆される化学物質・案件
    (ア)国際機関又は政府の有害性にかかる分類・情報
    (イ)国内外の産業衛生にかかる学会等における有害性にかかる分類・情報
    (ウ)国内外の主要な学術誌に掲載された論文
    (エ)国が実施した吸入ばく露試験等の発がん性試験、国に届け出られた有害性調査の結果
    ①発がん性
    ②生殖毒性
    ③神経毒性
    ④ヒトの生体で蓄積性(生物学的半減期が長い)があり、蓄積することにより疾病(例、慢性肺障害等)を発生する毒性
    ⑤その他ヒトに対して非可逆性の障害を発生させる毒性
    なお、有害性の程度が低く(ばく露限界値等の数値が大きいもの等)、かつ、当該物質の物理的性状からみてばく露程度が低いと判断されるもの(ガス、粉じん、ミスト以外の性状のもの)については、リスク評価の対象から除外して差し支えないものとする。
    イ 労働に伴う疾病に関する次の(ア)、(イ)の情報において、化学物質による疾病が増加し、又は、増加するおそれが示唆される化学物質・案件
    (ア)労働災害の発生等にかかる情報
    (イ)大学、医療機関、試験研究機関等に所属する有識者からの疾病の発生にかかる情報

    (2)国内における健康障害防止措置等に関する次のア、イの情報において、当該措置について問題が生じている又は生じるおそれが示唆される化学物質・案件
    ア 労働安全衛生にかかる行政機関からの情報
    イ 労働安全衛生団体等からの情報

    (3)国内において、有害性にかかる懸念・不安が広がっているものとして、次のア、イに該当する化学物質・案件
    ア パブリックコメントその他でリスク評価の要望が多かったもの
    イ マスコミ等において取り上げられる頻度が顕著に増加したもの

    なお、当該条件に該当するものについては、有害性評価を先行して実施し、労働者等に対して正確な情報提供を行うこととする。但し、(1)に該当するものは、この限りではない。
  2. なお、以下の(1)、(2)に該当する場合にはあっては、対象物質・案件から除外するものとする。但し、対策の見直しが必要なものについてはこの限りではない。

    (1)国内における製造又は取扱いがない場合や僅かである場合(製造し、又は取扱う事業場数の把握が困難な場合にあっては、製造・輸入量を指標として判断することができるものとする。)
    (2)既に法令等により適切な対策が講じられている場合
  3. リスク評価の効率的・効果的な推進のため、リスク評価対象物質・案件数を絞り込む場合にあっては、ヒトに対する有害性の確度の高いもの、有害性の程度、物理的性状等からみたリスクの高いもの及び対象物質を取扱う事業場、労働者数からみた影響度の大きいものの中から、専門家の意見を踏まえ、選定するものとする。
  4. なお、労働安全衛生法においてSDSの交付(法第57条の2又は労働安全衛生規則第24条の15)、又は表示(法第57条)の対象物質となっていないため、事業者が取り扱った製品に対象物質が含まれているか否かを確認できない場合等ばく露調査を実施する上で、支障が生じるものについては、SDSの交付の対象又は、表示の対象となった段階で、リスク評価の対象とすることとする。
    但し、上記1の(3)に該当する場合(有害性にかかる懸念・不安が広がり、正確な情報を提供することが必要な場合)にあっては、有害性評価を先行して実施し、情報の提供を行うものとする。

発がん性評価の加速化

次は、芳香族アミン等の発がん性確認と規制導入に係る要請とも関連する問題である。
職業性胆管がん事件の社会問題化により、発がん性等が明らかになっていない化学物質対策の見直しも課題になり、厚生労働省が2012年7月12日に公表した対策のなかには、

  1. 収集した危険有害性情報、IARCの知見及び変異原性試験の結果を活用し、専門家により発がん性リスクから優先的に取り組む物質をスクリーニング。さらに、職場での労働者へのばく露実態を踏まえた絞り込み(当時約600物質程度と推定)。
  2. 選定された物質の詳細なリスク評価、またはがん原性が明らかになっていない物質はがん原性試験を実施し、試験に応じ規制対象物質へ移行する(特別則による規制やがん原性指針による指導)、「発がん性に重点を置いた化学物質の有害性評価の加速~存化学物質評価10か年計画(CAP10)」

が含まれていた。
この発表に先立ち2012年6月28日に開催された「リスク評価に係る企画検討会」では、今後のリスク評価対象物質の選定に併せて、「リスク評価対象物質の選定根拠となる化学物質の発がん性に関する評価を促進するため、国が委託により実施している発がん性試験の手法の効率化について、今後、リスク評価検討会において検討を行う」ことが確認された。

これを踏まえて、2013年2月27日に、「リスク評価検討会(有害性評価小検討会)」において2012年9~12月に検討が行われ「職場で使用される化学物質の発がん性スクリーニングについて」及び「国が行う長期発がん性試験の試験方法について」を含めた「職場で使用される化学物質の発がん性評価の加速化に関する検討結果」が取りまとめられた。

これらに沿って、職場で使用される化学物質の発がん性評価を推進するに当たって、専門家による判断が必要なものの検討を行うため、有害性評価小検討会の中に「発がん性評価ワーキンググループ」及び「遺伝毒性評価ワーキンググループ」が設置された。次の図はその概要である。

がん原性指針対象選定見直し

そして、2014年3月6日の「リスク評価に係る企画検討会」において、以下が確認された。

安衛法第28条第3項の規定に基づく指針(がん原性指針)対象物質の選定ルールの見直しについて

1 これまでの選定ルール及び問題点

安衛法第28条第3項第2号により、がん原性指針の対象物質は、「がんその他の重度の健康障害を労働者に生ずるおそれのあるもの」と規定されている。
この規定を踏まえ、国(厚生労働省)が実施した発がん性試験により、動物への発がん性が認められた化学物質をこれまで指針の対象としてきた。
しかしながら、労働者の健康障害防止のためには、国の試験により発がん性が明らかとなった物質だけでなく、それと同等又はそれ以上の発がん可能性を国際機関等で指摘されている物質についても指針の対象としていく必要がある。

2 選定ルールの見直し

指針対象物質の選定ルールを次のように改める。
次のいずれかに該当する化学物質をがん原性指針の対象とする。

(1)国が実施した発がん性試験(短・中期発がん性試験を含む。)により動物への発がん性が認められた物質
(2)IARCの発がん性分類の1~2Bに該当する物質、又は国際機関等による発がん性分類又はその他の発がん性に関する知見によりそれに相当すると専門家が判断した物質

なお、一旦、がん原性指針の対象物質とされた物質又は業務であっても、リスク評価の結果等により特定化学物質障害予防規則(特化則)により発がん予防の観点での規制がなされた場合には、指針の対象から除外する。

3 新ルールに基づく指針対象物質の検討

上記2(2)に基づく具体的な指針対象物質の候補として次のものが挙げられる。

(1)発がんのおそれのある有機溶剤
印刷業の胆管がん事案を契機として、有機溶剤の規制が見直され、これまで有機溶剤中毒予防規則で規制されていた物質のうち発がんのおそれのある10物質(含有量1%超の有機溶剤業務に限る。)について、特定化学物質障害予防規則により規制する予定である。
これら10物質のうち6物質は既に指針対象物質となっているが、他の4物質に係る有機溶剤業務以外の業務について指針対象に追加する必要がある。
(2)発がん性評価ワーキンググループにおいて、IARCの発がん性分類の1~2Bに相当すると判断された物質
平成25年度より発がん性評価WGにおいて、既存の知見(国際機関等の発がん性分類結果だけでなく、分類の際の根拠資料となっていない試験結果等を含む。)に基づく発がん性評価を行うこととなった。ここでは、発がん性がIARCの1~2Bに相当するか否かを判断する予定である。
平成24年度の有害性評価小検討会において化学物質の発がん性評価の加速化について検討した結果、既存の知見により発がん性のおそれありとされた物質については、指針又はリスク評価の対象物質とする等により対応することとなっているため、これに基づいて対応する必要がある。
(3)リスク評価において発がん性のおそれありとされた物質のうち、リスクが高くないと評価された物質又は業務
厚生労働省では平成18年度から、主として発がん性のおそれのある化学物質(IARCの発がん性分類の1~2Bに該当する物質等)のリスク評価を行い、労働現場でのリスクが高い物質については特定化学物質障害予防規則等による規制を行ってきた。
一方、リスク評価の結果、労働現場での発がん性に関しリスクが高くない(「リスクなし」、「リスクが低い」を含む。)と評価された物質については、健康障害防止措置に関して安全衛生部長名の行政指導を行ってきた。また、リスク評価の結果、特定化学物質障害予防規則で規制することとなった物質であっても、労働現場でのリスクが高くないとされた業務については、健康障害防止措置の対象となっていない。
今後は、リスクが高くないと評価された物質又は業務についても、発がん性に鑑み、指針の対象物質とすることが適当である。
ただし、有害物ばく露作業報告の報告事業場がなかった等の理由により、リスク評価を打ち切った物質は、原則として指針の対象としないこととする。

特化則と指針のあり方見直しも

「がん原性指針(労働安全衛生法第28条第3項の規定に基づき厚生労働大臣が定める化学物質による健康障害を防止するための指針)」(労働大臣告示)は、1991年に導入されたもので、上記のルール見直しを受けて、2014年10月31日付けで一部改正されている。

「いったんがん原性指針の対象とされた物質または業務であっても、リスク評価の結果、特化則等により発がん予防の観点での規制がなされた場合には、指針の対象から除外する」一方で、含有量や業務の範囲によって特別則の対象になる部分と指針の対象になる部分がある場合には、「対象物質のうち有機則、特化則が適用されるものは、有機則、特化則が優先される」とされている。

「職場で使用される化学物質の発がん性評価の加速化」は、2013年度から動き出したばかりであるが、今回の膀胱がん事件を契機に芳香族アミンにうまく対処できるかどうかによっても、その真価が問われることになろう。

一方で、上記のルール見直しにしたがえば、オルト-トルイジン等も、(3)「リスクが高くないと評価された物質又は業務についても、発がん性に鑑み、指針の対象物質とする」こととされていたかもしれない。しかし、前述のとおり、リスク評価及び特別規制の対象とする考え方自体の見直しが必要であり、発がん物質に関しては特化則による規制に一本化することが望まれる。これは、「発がん性評価の加速化」によって今後新たに発がん性が明らかになった化学物質についても同様である。

表示・SDS・RAの対象物質

ところで、職業性胆管がん事件を契機にした化学物質対策見直しの最大の柱は、リスクアセスメントに関する2014年の労働安全衛生法改正であった。これは、2016年6月1日から施行される。

リスクアセスメントの実施とその結果に基づいて必要な措置を講じることは、わが国では2006年の法改正によって「努力義務」として導入された(第28条の2)。
2014年改正では、法第57条に規定する譲渡または提供する者の「容器または包装へのラベル表示義務」の適用対象化学物質の範囲を、法第57条の2に規定する同じく「安全データシート(SDS)の交付義務」の適用対象範囲にそろえて拡大したうえで(労働安全衛生法施行令第18条の改正)、同じ範囲の化学物質に係るリスクアセスメントの実施とその結果に基づいて必要な措置を講じることについては「努力」付きでない「義務」としたものである(法第57条の3)。

すなわち、「人に対する一定の危険性または有害性が明らかになっている化学物質」-労働安全衛生法施行令別表第9に掲げる633物質令別表第3第1~7号に掲げる7物質(特定化学物質第1類物質)の合わせて640物質については、

  1. ラベル表示
  2. SDS交付
  3. リスクアセスメント

3つがセットで義務付けられることになるということである。

別表第9に列挙されている物質のうち、有害物質の選定の考え方は、SDS交付が義務付けられた2000年改正法の施行通達(平成12年3月24日付け基発第162号)において、「法律第57条に基づく表示の対象となっている化学物質並びに日本産業衛生学会またはACGIHにおいて許容濃度等が勧告された物質及び労働災害の原因となった物質から選定を行ったものである」とされている。

前述した国によるばく露評価と有害性評価をもとにしたリスク評価においてIARC発がん性評価物質を対象とする際にも、令別表第9に列挙されたもの-ACGIHのTLVまたは日本産業衛生学会の許容濃度が勧告されているものという絞り込みがかけられている。同表に列挙されることは、わが国の化学物質規制においては大きな意味を持っている。

2015年9月1日に公表された「平成27年度化学物質のリスク評価に係る企画検討会報告書」は、令別表第9に新たに追加する物質についての検討結果をまとめたものであった。ここでは、基本的に前述の「考え方を踏襲」しつつ、「選定の基準」について、以下のようにしている。

ア 基本的な考え方
本検討会においては、日本産業衛生学会が新たに許容濃度を勧告した化学物質及び米国労働衛生専門家会議が新たにTLVを勧告した化学物質は原則として令別表第9へ追加することとする。
ただし、特に、危険性又は有害性が低いと考えられるもの、及び職場における使用の実態等に鑑みて我が国において労働災害発生のリスクが極めて低いと考えられるものについてはその対象から除くこととした。
イ GHS 分類について
今回、令別表第9への追加を検討した化学物質については、一部、政府によるGHS分類及び区分並びにモデルSDSの作成の行われていないものがある。これらの物質については、まず速やかにGHS分類及び区分等が行われる必要がある。このため、これらの物質は、今回は結論を出さず、GHS分類及び区分が行われた後に、改めて検討を行うものとする。」

平成27年度化学物質のリスク評価に係る企画検討会報告書

1998年1月1日以降に日本産業衛生学会が新たに許容濃度を勧告した化学物質及びACGIHが新たにTLV(気中濃度で表した職業曝露を評価するための指標)を勧告した化学物質の全て-38物質について検討を行った結果、令別表第9に追加すべき-24物質、引き続き検討すべき-12物質、追加を見送るべき-2物質とされた。

厚生労働省は2016年1月22日、労働政策審議会に対し、労働安全衛生法施行令及び労働安全衛生規則改正案の要綱を諮問、妥当であるとの答申を受けて、2017年3月1日の施行に向け、速やかに政省令の改正作業を進めると発表した。
数え方に違いがあるが、前期報告書の提言どおりに、27物質を令別表第9に追加するという内容である。以下の図は、その説明用に公表したものである。

リスクアセスメントの実施時期

リスクアセスメント義務づけに関する法改正が施行されていれば、胆管がん事件や今回の膀胱がん事件を防ぐことができたかどうかは、誰もが気になるところだろう。
「胆管がん事件を踏まえた法改正」であるものの、1,2-ジクロロプロパンは、発がん性が明らかになっておらず、対象物質にはならないので、事件発覚前に実施されていたとしても、胆管がん事件は予防できなかったであろうと言わざるを得ない。

三星化学工業福井工場で取り扱われていた、オルト-トルイジン、オルト-アニシジン、2,4-キシリジン、パラ-トルイジン、アニリンは、いずれもSDS交付対象物質であるから、リスクアセスメントの対象にもなる。

一方で、リスクアセスメントの実施時期に関する法令上の規定は以下のとおりとなっている。

  1. 調査対象物を原材料等として新規に採用し、又は変更するとき。
  2. 調査対象物を製造し、又は取り扱う業務に係る作業の方法、手順を新規に採用し、又は変更するとき。
  3. 1.及び2.のほか、調査対象物による危険性又は有害性等について変化が生じ、又は生ずるおそれがあるとき。
    加えて、化学物質リスクアセスメント指針では、3.には「譲渡・提供者がSDSの危険性又は有害性に係る情報が変更し、その内容が事業者に提供された場合等が含まれる」とするとともに、次の場合にも実施するよう「努めること」としている。
  4. 化学物質等に係る労働災害が発生した場合であって、過去のリスクアセスメント等の内容に問題がある場合
  5. 前回のリスクアセスメント等から一定の期間が経過し、化学物質等に係る機械設備等の経年による劣化、労働者の入れ替わり等に伴う労働者の安全衛生に係る知識経験の変化、新たな安全衛生に係る知見の集積等があった場合
  6. 既に製造し、又は取り扱っていた物質がリスクアセスメントの対象物質として新たに追加された場合など、当該化学物質等を製造し、又は取り扱う業務について過去にリスクアセスメント等を実施したことがない場合

しかし、化学物質リスクアセスメントの解説通達(平成27年9月18日付け基発0918第3号)は、わざわざ次のように言っている。

改正法「施行日(2016年6月1日)前から使用している物質を施行日以降、施行日前と同様の作業方法で取り扱う場合には、リスクアセスメントの実施義務が生じない」

したがって、膀胱がんの発生が明らかになっていなかったら、改正法施行によっても新たなアクションはとられていなかった可能性が大きい。
化学物質の種類を問わず、同通達で「実施するよう努める」としている、「過去にリスクアセスメント等を実施したことのない場合又はリスクアセスメント等の結果が残っていない場合」には実施を義務づけるべきである。
また、「『新たな安全衛生に係る知見』には、例えば、社外における類似作業で発生した災害など、従前は想定していなかったリスクを明らかにする情報が含まれる」のであるから、「当該事業場で取り扱われている発がんに関係する芳香族アミン」を使用している事業場では、あらためてリスクアセスメントを実施すべきことは当然であろう。
私たちは、「一定の期間ごとに定期的に見直す」ことを含めて、実施時期の規定を改善するよう要求してきた。

最優先措置の内容が後退

化学物質リスクアセスメント指針は、2006年に策定されたものが、法改正を受けて2015年9月に改訂された。もっとも重要な内容は、リスクアセスメントの結果に基づいて検討・実施するリスク低減措置であるが、その内容に変更が加えられている。

優先順位がもっとも高い措置について、2006年指針では以下のような順序で明確に2つのカテゴリーに分けられていたものが、統合されてしまった。

○2006年指針の最優先措置
ア 危険性若しくは有害性が高い化学物質等の使用の中止又は危険性若しくは有害性のより低い物への代替
イ 化学反応のプロセス等の運転条件の変更、取り扱う化学物質等の形状の変更等による、負傷が生ずる可能性の度合又はばく露の程度の低減

○2015年指針の最優先措置
ア 危険性又は有害性のより低い物質への代替、化学反応のプロセス等の運転条件の変更、取り扱う化学物質等の形状の変更等又はこれらの併用によるリスクの低減

「安易な代替化がかえって危険・有害な場合もある」「危険・有害性について十分わかっている化学物質を正しく管理して使用するほうが、わかっていないものを不十分な管理のもとで使用するよりもよい場合もある」等の「理由」によるもののようであるが、そのような理由が一般的に成り立ちうることを認めつつも、其れを理由として今回の変更を正当化することはまったく妥当とは認められない。
「危険・有害な化学物質の使用中止または相対的に危険・有害でないことが判明している物への代替」を他の措置に優先させるという正当かつ適切な原則からの後退だと言わざるを得ない。
化学業界からの圧力を疑っているところである。

有害性不明物質の考え方

他方で、胆管がん事件を踏まえて出された「洗浄又は払拭の業務等における化学物質のばく露防止対策について」(2013年3月14日付け基発0314第1号、同年8月27日付け基発0827第3号で一部改訂されるも、以下の内容には変更なし)は、通達の別添に「危険有害性が不明の化学物質への対応」という項目を設けて、以下のように指示している。

法令に基づく「SDSの交付を受けることができない化学物質については、国内外で使用実績が少ないために研究が十分に行われず、危険有害性情報が不足している場合もあるため、洗浄剤として使用するのは望ましくないこと。やむを得ず洗浄又は払拭の業務に使用させる場合には、危険有害性が高いものとみなし、以下に規定する措置[雇い入れ時等の教育、作業指揮者の選任、発散抑制措置、作業の記録、保護手袋の使用]を講ずるとともに、労働者に有効な呼吸用保護具を使用させることによりばく露を防止すること」。

私たちは、胆管がん事件を踏まえた対策のもっとも重要なひとつとして、この内容こそを法令に、少なくともリスクアセスメント指針に明記すべきだと主張してきたが、2015年指針にも入っていない。
前述の「理由」から導き出す対応としては、最優先措置内容の改悪ではなく、むしろこちらであろう。

すべての化学物質を対象に

法改正をめぐる議論で私たちが強調したもうひとつのことは、今回セットとしてそろえられた、①表示、②SDS、③リスクアセスメントの対象を、640物質に限定するのではなく、すべての化学物質を対象とすべきだということである。すべての化学物質について、危険・有害性に関する情報がないのであればないということを含めた入手可能な情報が提供されることが、化学物質対策の出発点である。

現実的に、SDSの交付されない化学物質は職場に持ち込ませない、入手した情報からまずは対策の検討をはじめるという原則を確立することができる。

2012年の労働安全衛生規則改正によって、640物質以外の「危険性又は有害性を有する化学物質」則(約4万種類)についても、ラベル表示とSDS交付が「努力義務」とされている。
リスクアセスメントについても、640物質以外の「化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物で労働者の危険又は健康障害を生ずるおそれのあるものに係るもの」については、改正法施行後も引き続き「努力義務」である。
すべての化学物質を対象とした包括的な原則が確立されない限り、これらの対策の真価は発揮されないと考えているところである。

迅速な補償・時効の撤廃等

被害者らは、早期労災認定を求めている。
胆管がん事件のときのように検討会を設置して対処するのか未定だというが、迅速かつ適切な対応を求めていきたい。他の事業場及び退職者を含めて被害がどのくらい広がるかという要素もある。

判明している5人の被害者については時効の問題は生じないが、死亡後5年以上経過している事例がでてきたら、どうするのか。
提起してきたように、職業がんのような職業病については、時効を撤廃すべきである。また、クボタショック後、労働基準行政におけるアスベスト関連文書の永久保管が指示されながら、誤って廃棄されていた事件について、厚生労働省は膀胱がん事件と同じ日に公表した。職業がんに関連した文書についても、同様の対応が必要と考える。
また、可能性のある職業がん等についての情報を広く知らせるための、職業病リストの活用及び/または他の手段についても提起してきた課題である。
本誌は意識的に、職業がん対策、労災隠し(過少報告)対策に関する内外の最新の知見を紹介しているが、増加し続けるアスベストがん、胆管がん事件に続いて起こった今回の膀胱がん事件を深刻・真剣に受け止めて、職業がんの防止と埋もれた職業がんの掘り起こし、迅速・適切な補償のために叡智を結集することを訴えたい。
厚生労働省は、1月21日時点の「芳香族アミンの取扱事業場に関する調査結果等」の「第一報」を翌日公表した。やはり、他の事業場においても膀胱がんの発症事例が確認された。今後の対応を注視していただきたい。

芳香族アミンの取扱事業場に関する調査結果等について
~第一報(平成 28 年1月 21 日時点)~

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「安全センター情報」2016年3月号