イタリアにおけるアスベスト禁止:重要なマイルストンだが最終場面ではない/Daniela Marsili, et.al., IJERPH, 2017, 14, 1379
目次
抄録:
背景及び歴史:イタリアは、1992年にアスベスト禁止が導入されるまで20世紀における、主要なアスベスト生産国であり、最大の消費国のひとつでもあった。アスベスト曝露は幅広い労働環境、すなわちアスベストの採掘・流通、アスベスト・セメント生産、造船業や繊維業の人々に影響を及ぼした。これはまた、周辺の地域社会に影響を与えた広くいきわたった環境アスベスト曝露も決定した。
方法:アスベスト禁止とそれに続く実施につながったプロセスの推進力と困難を調べるために、われわれは、環境保健政策、能力開発やコミュニケーションに関わった関係者に焦点をあてた。
結果:過去30年間に関係者らは、工業用アスベスト代替プロセス、予防・是正介入の進展に役立ってきた。さらに、関与は能力開発とコミュニケーションを含め、国、地方及び地域レベルにおける環境及び保健政策の統合にも貢献した。世界的公衆衛生の側面では、国際的な科学的協力が、アスベストを使用・生産している諸国との間で確立されてきた。討論及び結論:いまもなおアスベストを使用している諸国の関係者がその使用の終了に貢献するのを支援するために、成功した及び役に立たなかったアスベスト政策の双方における主要な要因とイタリアで学んだ教訓を示す。
1. 序文
アスベストの生産、貿易及び消費は現在、多数の国における世界の人口の大きな部分にとって関心事になっている。過去20年間に世界のアスベスト生産量は減少したが、年に約200万トンを下回らないアスベストが多国籍及び各国のアスベスト産業によって採掘されている。クリソタイル・アスベスト繊維及びアスベスト含有製品の国際貿易は、いまだ規制されていない。アスベストの人間に対する発がん性の科学的証拠が、数十年間にわたってIARCモノグラフによって提示及び評価され、WHOやILOによってアスベスト関連疾患根絶のための勧告やガイドラインが発行されているにもかかわらず、これが生じているのである。
国レベルにおけるアスベスト使用を禁止する政治的決定は、保健、環境、産業及び労働政策の間の既存の相互影響のゆえに、マルチセクターの影響を考慮に入れなければならない。それゆえ効果的な公衆衛生アプローチは、国連の2030年開発アジェンダの持続可能な開発目標(SDGs)にしたがって、公衆衛生と環境保護を守るために、アスベスト代替品の工業的製造・消費の持続性及び有害化学物質の削減を促進する、マルチセクターの政治的枠組みを必要とする。
WHO欧州地域に属する53か国のうち37か国がすでにアスベスト禁止を採用している。WHO欧州地域事務所は、WHO・ILOと協力してアスベスト関連疾患を根絶するための国家計画を策定するという、この地域のすべての国に対するその勧告を繰り返し行っている。
欧州連合(EU)に関する限り、委員会指令1999/
77/ECが、EUにおけるアスベスト禁止が当時25だったその全加盟国で2015年までに実施されるべきことを確立した。当時、イタリアは、欧州での20世紀における主要な生産・消費国であった後、1992年に承認されたアスベストを禁止する国の法律を実施しているところだった。アスベストを禁止するイタリアの法律の実施は、マルチセクターの介入、アスベストのリスク・影響に対する認識の増大、工業用アスベスト代替プロセスの進展をリストに掲げていた。過去30年間に、後述するような関係者の関与を含め、予防対策と是正介入が増大しつつあった。後述するような、広範囲に及ぶ危機的な状況の結果として、国、地位法及び地域レベルにおける環境及び保健方針の統合はそれまでのところ不完全だった。
過去数十年間の国際的公衆衛生の見地からは、アスベストをなお使用し続けている諸国におけるアスベスト関連疾患の予防において、イタリアの国際協力は有益であった。
本論文の目的は、イタリアにおけるアスベスト禁止の実施と、アスベスト除去、環境クリーンアップ、廃棄物処理、疫学的及び健康的監視とコミュニケーションを含め、その後に続く取り組みにつながったプロセスを取り扱うことである。本論文では、そうしないと役に立たなかった、アスベストを禁止する法律を実施する必要性を強調する。さらに、国際協力の枠踏みのなかで、いまなおアスベスト使用している諸国の関係者がその使用の終了に貢献するのを支援するために、アスベスト関連疾患の予防におけるイタリアで学んだ教訓も示される。
2. イタリアにおけるアスベストとアスベスト禁止法につながったステップ
イタリアではアスベスト曝露が幅広い労働環境、すなわち採掘・流通、アスベスト・セメント生産、造船業・繊維業で雇用される人々に影響を及ぼした。この状況はまた、周辺の地域社会に影響を与える広範囲に及ぶ環境アスベスト曝露も決定した。
アスベスト採掘は数十年間にわたり、北イタリアにおける重要な産業活動だった。とりわけ、欧州最大のクリソタイル採掘場だった、ピエモンテ地方のバランジェーロの採掘場は1917年に開かれ、カサレ・モンフェラート市に(ピエモンテ地方)大工場を設立させて、最終的に1985年に閉鎖された。1930年代から数十年間、ブローニ(ロンバルディア地方)やバーリ(プーリア地方)の諸都市で他の工業用アスベスト・セメント工場が操業した。これらの地域ではいまもなお中皮腫発症率の過剰が記録されている。上述したすべての場所は、環境的是正が必要なイタリア全国優先汚染地域のリストに挙っている。海軍造船所や、石油化学や製鉄所など、アスベスト繊維やアスベスト含有製品が広く使用された他の産業活動があったあった地域でも、予想よりも高い中皮腫の発症率と死亡率が観察されてきた。イタリアにおける職業、環境及び家庭内曝露によるアスベスト関連疾患の年間負荷には現在、400件の新たな石綿肺事例と1,500件の新たな中皮腫事例が含まれている。アスベスト関連腫瘍の年間推計は参照文献のなかで見ることができるかもしれない。
ヴィリアーニによれば、アスベスト・リスクと健康影響の調査へのイタリアの研究者の関与は、アスベスト産業労働者における結核及び結核を合併した石綿肺の致死的事例を記述した2つの研究が発表された、1908~1910年にまで遡る。その後1940年代後半、1964年に開催されたにニューヨーク科学アカデミーのシンポジウム「アスベストの生物学的諸側面」で発表された、ヴィリアーニとモットゥーラによる研究は、アスベスト繊維の発がん性を指摘した。その後の数年間に、いくつかのイタリアの研究が、アスベスト・セメント工場や造船所などの伝統的な職業環境、及び、鉄道車両の建設・修理、以前アスベストを含有していた麻袋にぼろきれが梱包されたノンアスベスト繊維産業のような、当時は思いもよらなかった産業部門に関連したアスベスト曝露の健康影響についての証拠を提供した。
アスベストに関するイタリア国立衛生研究所(Istituto Superiore di Sanita-ISS)の関与は、アスベストに関する疫学的、環境的及び電子顕微鏡を用いた研究を実施するための学際的研究グループの設立を通じて、1980年にはじまった。アスベストの健康影響を調べるために、①環境的及び生物学的マトリックスの双方における繊維の電子顕微鏡による検出、及び、②20のイタリアの地方、100の州及び8,000の自治体の死亡率をマッピングする、悪性胸膜腫瘍の地理学的調査、の2つの手段が用いられた。
保健及び環境専門家のためのISS訓練活動も、国立労働安全予防研究所((Istituto Superiore per la Prevenzione e la Sicurezza del Lavoro-ISPESL)と協力して実施され、これはその後イタリア労働者補償機関(Istituto Nazionale Assicurazioni contro gli Infortuni sul Lavoro-INAIL)に統合された。
アスベスト産業活動が大量に存在した地域で活動する地方環境当局はアスベスト・サンプリングとその後分析的判定の能力を発展させた。同湯に、同じ地域で活動する地方保健当局は、診断手順や疫学的調査を含め、アスベスト関連疾患の認定に関与した。国と地方/地域の機関の間、及び労働組合との協力は、国のアスベスト禁止の実施を支援するために、1980年代に成長した。
アスベスト禁止を承認するためのイタリア議会の取り組みは4年間続き、アスベストを禁止するイタリアの法律-法律257/92(Legge 27 marzo 1992, n. 257, 「Norme relative alla cessazione dell’ impiego dell’ amianto」)が1992年に施行された。この法律は、労働における化学的、物理的及び生物学的因子への曝露から生ずるリスクからの労働者の保護に関する欧州指令80/1107/EEC、82/605/EEC、83/447/EEC、86/188/EEC及び88/642/EECを実施する指令第277号、15/08/1991によって予測されていた。地域レベルでアスベストを禁止するパイロット介入は、上述したように、イタリア・エターニトの主要工場が所在した、その町におけるアスベスト関連疾患の劇的な状況を踏まえて、1987年にカサレ・モンフェラート市長によって採用された。
アスベスト及びアスベスト含有製品の通出、輸入、輸出、流通及び製品を禁止する、法律257/92のもっとも重要な規定には、一貫した分析的管理の定義、目的、基準及び手法のセット、政府の行動のためのガイドライン、アスベスト廃棄物を管理する手順、環境クリーンアップの計画、元アスベスト労働者を支援するための社会保障的介入及び資金提供を含んでいた。
アスベストの健康影響を調べるイタリアの科学界の長期間続いた関与は、国の方針決定者がアスベストを禁止する法律を採択するのを支援した。国のアスベスト禁止から25年後、イタリアのアスベストに関する科学界はいまもなお、とりわけもっとも汚染された地域におけるアスベスト関連疾患の予防及び環境的是正に関して、法律の実施における制度的及び社会的関係者の支援に関与し続けている。
3. イタリアにおける禁止後のアスベスト政策の実施
アスベストを禁止する法律の採用は、前項で議論したように偉大な成果だった。法律は実施されるべきことを求めており、(いまもなお進行中の)このプロセスは以下のように要約することのできる一連の諸活動を暗示していた。
(1) アスベスト代替品のための公共政策。アスベストによって引き起こされる健康影響に関する認識が広まった1980年代に、いくつかの産業が、技術的機能性を損なうことなしにアスベストに置き換える可能性のある代替物質について調査研究を行った。それらはまさにアスベストを含有せず、またそれゆえいかなる用心もなく使用されたことから、新しい物質は危害がないと誤ってみなされるリスクがったことから、それらの安全使用のためのガイドラインが提供された。アスベスト代替品は、繊維のサイズと呼吸器中で溶解する可能性に基づいて選択された。アスベスト繊維は縦方向に割れ、それゆえ長さを変えないままより直系の小さな繊維を生み出すことは、よく知られている。こうした鉱物の多くは、グラスウール、ロックウール、スラグウールやセラミック繊維などの人造鉱物繊維(MMMF)でできていたし、いまもなおできている。IARCは、MMMFを人に対して発がん性の可能性ありに分類し、グループ2Bに割り当てたモノグラフを発行したが、2002年には、セラミック繊維だけをこのクラスにとどめ、その他は、「ヒトに対して発がん性として分類できない」であるグループ3に移した。MMMFにおける代替物の選択は、①フィラメントは、技術的要求事項がそれを許す場合には、その幾何学的直径が吸入されるのを防ぐことから、ウールが好ましい、②生物的液体中でより容喙しやすいことからグラス物質が好ましく、使用する物がミネラルウールでなければならない場合にはなおさらそうである、という2つのことを考慮して行うことができる。禁止以来、この鉱物をもっとも大量に採用していた製品(アスベスト・セメント及び摩擦材)はいまではセメントや有機人口繊維(ケブラー)と混合したセルロースやフェノール樹脂と混合した無機物(MMMF)で製造されている。しかし、アスベスト製品の製造が粉じん管理システムとともに行われていた場合には、その費用が競争力があったことはないことを言っておくべきである。アスベストはただひとつの物質で置き換えることはできない。各用途は一般的に特別の物質を必要とする。多くの代替品は、セラミック繊維を除いて、発がん性として分類されないか、または発がん性を疑われていない。技術的見地からは、アスベストの他の物質への置き換えは、100%の場合で成功している。
(2) 中皮腫発症率の全国監視システム。1992年のイタリアにおけるアスベスト禁止後、欧州指令83/477/CEEと一致して、悪性中皮腫発症事例の疫学的監視の必要性が高まった。中皮腫発症率の永久的監視システムは2002年に悪性中皮腫全国登録(Registro Nazionale dei Mesoteliomi、イタリア語でReNaM)によって設立された。(法律によって設定された)ReNaMの目的は、症例を確認し、中皮腫発症率を推計し、アスベスト曝露を評価し、とりわけ未知の汚染源を認識し、最後に研究プロジェクトを促進することである。ReNaMは、イタリアの20の地方に徐々に設立されてきた、地方事業センター(Centri Operativi Regionali-イタリア語でCOR)をもっている。各CORは、全国ガイドラインに示された全国標準手法を用いることによって活動している。2016年12月までにReNaMは、1993年から2015年を発症期間とする27,035件の悪性中皮腫症例を収集し、そのうち21,108件(78%)について曝露モードが調べられた。疫学的発見についてはReNaMの全国報告書のなかで詳細に記述及び議論されている。中皮腫発症事例とアスベスト曝露が関係する経済活動の系統的収集は、疾患発生の時間的傾向、発症事例の地域的クラスターとその原因、曝露の環境・家庭モードの特徴・規模に関する信頼できる情報の入手を可能にし、非職業曝露の現在の重みを事例の約10%と推計している。さらに、平均潜伏期間と生存率の決定因子も推計及び議論されてきた。前述した数字は、これまでのところ減少するに至っていない、イタリアにおける中皮腫の疫学的カーブを正確に解釈するために重要である。奨励及び彼らの最近親者によって報告された職業の分析は補償手続を改善するのに貢献してきた。イタリアにおける中皮腫の登録は、国レベルでの中皮腫の発生の状況を提供することに加えて、悪性胸膜がんの死亡率の局所的なクラスターを解釈するうえできわめて重要であった。このことは、死亡率の数字が、診断手順、リスク推計と原因因子、その後フルオロエデナイト[フッ素エデン閃石]と名付けられ、IARCによってヒトに対して発がん性と分類された、以前知られていなかったアスベスト様繊維に関して確認された、胸膜中皮腫の過剰リスクの発生を示唆した、ビアンカヴィッラ(シチリア)の場合に当てはまる。アスベスト関連疾患発症率の疫学的系統的関心はそれゆえ、保健・福祉システムの効率性を支え、疫学的証拠をつくるための、アスベスト曝露の予防において基本的なものである。
(3) アスベスト曝露者及びアスベスト曝露労働者のための健康監視。全国的禁止の後、なおアスベストに曝露する労働者、すなわちアスベスト含有物質のメンテナンス、除去及び廃棄に従事する者の健康監視は、使用者の責任及び義務であり続けた。指令257/2006とその指令81/2008第259条によって微調整されたもの、またそれに続くアップデートによって規定されているように、アスベストに曝露した労働者は現在、少なくとも3年毎に、労働衛生医による健康診断を受けている。健康診断には、肺機能検査、最新の科学的知見によって日露とされた場合には、放射線学的または他の診断検査が含まれる。企業/工場レベルで曝露登録も保管され、全国保健制度の調査機関、及び、疫学的目的のためにイタリア労働者補償機関(INAIL)の双方に送られる。労働生活の最後の時点における健康診断が1990年代半ばに義務付けられて以来、アスベスト曝露がなくなった後の労働者の健康状況を監視する必要性もイタリアの登録のなかで考慮されてきた。健康診断のなかで、企業医は労働者に長期的な悪影響について知らせなければならない。地方政府は医療施設に責任があり、様々なイタリアの地方当局によって様々な手順が採用されている。以前曝露した労働者を対象にしたヘルスケア・プログラムの非常に数多い経験が、主として全国保健制度地方保健ユニットの予防労働安全衛生サービスが関与して、地方・地域レベルで実施された。WHOとイタリア国立衛生研究所の共同研究プロジェクト「シチリアにおける環境リスクの高い地域におけるコホート研究」は、とりわけ、ミラッツォ・バレ・デル・メーラ地方のメッシーナ(シチリア)近くのサン・フィリッポ・デル・メーラに所在したあるアスベスト・セメント工場の元労働者を調査した。このプロジェクトの目的のひとつは、元アスベスト労働者の医学的監視プログラムの実行可能性を調査することだった。手順を標準化し、元労働者と患者に同じ保健サービス・給付を提供するために、CCM(疾病予防・管理センター-全国保健省)、INAIL(全国労働者補償機関)及び地方・自治州会議は、元アスベスト曝露労働者の健康監視のための全国プロトコルを起草した。このプロトコルの主要な特徴は以下のように要約することができる。それは科学的証拠に基づかなければならず、その内容は宣言された目的を遵守しなければならない。包含の基準、確認されるべき疾患、関与する医療施設、コミュニケーションのための手順、及び一般臨床医(GPs)の役割が明確に述べられなければならない。関係する労働者及び被用者は適切なスキルをもっていなければならない。呼吸器科医、放射線科医、病理医、外科医、がん専門医(腫瘍科医)及び技術スタッフが必須である。腫瘍、とりわけ中皮腫の治療のための専門センターとの連携が非常に重要である。健康監視プログラムの最低限レベルは、以下のように要約することができる。①健康診断、②肺機能検査(フロー・ボリューム曲線などのLFT、DLco)、③ILO基準にしたがって実施・解釈される胸部X線、CXR、④禁煙、⑤さらなる診断を必要とする場合に対処するための計画手順、⑥肺炎球菌感染症とインフルエンザ予防接種。①、②及び③の点は5年ごとの間隔で繰り返されなければならない。検査でアスベスト関連疾患がネガティブで、その初回アスベスト曝露が遠い者はさらに検査を受ける必要はないが、対象者は、特別な症状が生じた場合にはかかりつけの一般臨床医に相談すべきであり、必要な場合にはプログラムに戻されるであろうことを知らされなければならない。検査でネガティブで、その初回曝露が遠いとまでは言えない場合には、プログラムに参加後5年毎に検査を繰り返さなければならない。検査で石綿肺についてポジティブだった労働者は、毎年肺炎球菌感染症とインフルエンザ予防接種を受け、プログラムにしたがって5年ごとの検査が与えられる。所定の年齢に達するまでは、健康診断、LFT及びCXRはいかなる場合でも保留することができる。さらなる調査(すなわち肺結節)については、明確な診断に至って治療が決定されるまで、適切な設備をもった施設がさらなる検査を実施すべきである。胸膜中皮腫の診断・治療が関係する場合には、この領域における必要な経験をもった施設・専門家との連携が図られるだろう。喫煙者は禁煙を進められる。用いられるすべての手段は要求事項に一致していなければならず、業務上肺疾患についての肺機能検査(LFT)及び胸部X線(CXR)の場合にはすでに存在している。
プログラムの定期的報告が地域保健ユニットの主要人物に届けられなければならない。科学界は出版という手段を通じて情報を提供され続けなければならない。決められた間隔で、プログラムの内容と予定は参加者の特徴及び科学的知見に照らしてレビューされなければならない。
(4) アスベストに関する疫学的研究の促進。アスベスト禁止法が明示的にアスベストに関する疫学的研究の促進という概念を扱っていなかったとしても、全国研究評議会、保健省、その他の機関によって支援された研究の発展を間接的に支持していた。法律は、幅広い参加者、すなわち、専門家、労働組合、企業、環境・消費者団体、大学・研究機関にねらいを定めた、工業技術プロセス、物質及び製品の環境・安全衛生に関する全国会議を設立した。最初のアスベストに関する全国会議は1999年にローマで開催され、これまで調査研究が不十分だった諸問題に光をあてた疫学的研究を含め、研究結果を発表・議論する場を提供した。8千のイタリアのすべての基礎自治体における悪性胸膜腫瘍死亡率の疫学的監視の実施は、大きなアスベスト・セメント工場のあったロンヴァルディア州ブローニという町や、土壌や地元の建設業で使用された建材が自然生成のフッ素エデン閃石を含有するシチリア州ビアンカヴィッラなど、多くのリスクの高い地域に光をあてた。両地域は結果的に全国優先汚染地域に含められた。
国立衛生研究所(ISS)によって行われた疫学的研究の対象とされた相当量のアスベストが存在する産業は、全国会議の直前に一部公表され、その後出版された。それには、海上輸送、岩塩施設、鉄道車両の建造・修理、アスベスト・セメント産業、化学・壁産業が含まれていた。ISSと他の協力機関の研究者らは、保温工、石綿肺で補償を受けた者、及び自然生成角閃石繊維のある地域の住民を含め、リスクの高い人口集団の研究も行った。
疫学的研究へのさらなる支援は、2012年にベニスで開催された第2回全国会議の枠組みのなかで提供された、それは、とりわけ全国優先汚染地域における中皮腫発症率の大規模調査を含む、2年間の研究プロジェクトにつながった。
INAILの3年間(2016~2018年)の研究計画は、アスベスト繊維の技術的測定方法の調和化、汚染地域の監視・是正、アスベスト関連疾患疫学的監視システムの実施及びアスベスト関連疾患被害者・介護者に対する心理的支援を含め、アスベストに関する専門領域を提供した。
労働災害職業病のリスクに対する労働者の保険の公的制度は、INAILに主導的役割をもたせて、1930年ころから実施されている。指令626/94はINAILの役割を、もっぱら保険責任をもつ機関から、計画、予防、情報、流布及び支援に関する積極的役割及び責任をもつ機関へと、大きく変えた。2010年のINAILと研究機関ISPESLの統合も、労働安全衛生に関する調査研究活動にINAILにより大きな役割を与えるこの調整戦略の一部だった。アスベスト関連疾患の予防はINAILの研究活動計画の重要な課題のひとつである。さらに、この研究機関は企業に対して、アスベストの除去・廃棄のための技術的・金銭的支援を提供している。
(5) アスベスト除去及び廃棄物処理。1992年の禁止は、是正の一般的側面及び是正作業が特別の技術的条件を必要とする特別な側面の双方に対処するための技術的規則の採用を提供した。過去25年間にわたって、何千もの鉄道車両、多数の軍艦、化学工場や発電所に関わる大きな是正プロジェクトが行われてきた。多くのアスベスト・セメント製造工場はアスベストを含有しない繊維セメントを製造するように転換され、是正も行われた。今日、もっとも多い是正はアスベスト・セメントで作られた工業用・民生用被覆の除去に関するもので、それよりはるかに少ないが飛散性保温剤がある。
いくつかの地方及び全国機関によるデータ収集の結果は、1992年の年間アスベスト除去作業は存在するアスベスト含有物質全体の1重量%を占めたことを示しており、それは75%がなお回収されなければならないことを意味している。介入の数は是正の履行に対して経済的インセンティブが与えられた期間に比例的に増加した。特別の経済的措置がつくられなかったら、アスベスト除去プロセスが完了するのに今世紀末までかかっただろう。
しかし、そのような長い間には、風化により、またもしかしたら環境条件の変化が起こって、物質の劣化が生じるかもしれない。アスベスト・セメント除去作業は周辺環境への繊維の飛散の特別なリスクは生じさせない。対照的に、上述したすべての工業分野においてもろくなった物質の除去が必要であり、これには大気中への粉じんの飛散を防止するための最新の技術的手順が必要である。
限定されたエリア内で避けられない汚染を維持するために、減圧にした(動的封じ込め)もとで境界領域の密閉化(静的封じ込め)が行われる。このエリアの入口と出口もトンネルを通じてとなる。とりわけ出口が臨界点で、スタッフは、最初の「汚れた」着替え室で作業で使った衣服を脱がなければならず、次の区画で防護マスクを着けたままシャワーをしてから、最後に再び「外出着」を着る着替え室に至る。除去した物質を入れた袋も頑丈で密閉されたビニール袋に入れて作業エリアに残され、その後注意深く洗ったのち、あらためて新しいきれいな袋に密閉される。こうしたサービスを提供する企業は公的なリストに登録され、適切なノウハウをもつものとして是正作業を行うことを認可される。種類と量別の廃棄物のリストが特定の様式に記入され、管理者に送られ、次に有害廃棄物を輸送することが認可される。管理者は当該様式を配送時に埋め立て場に提出する。次に埋め立て場は当該様式を廃棄物生産者に戻し、これによって必要な輸送手順が正常に完了したことを証明する。イタリアでは、埋め立て場は、廃棄することができる物質の種類別にリストにされている。アスベストを含有する廃棄物は他の特別廃棄物とは別に埋められ、数立法メートルの土壌で覆われる。こうした埋め立て場の所在は将来のアクセスのために地方自治体のアーカイブに記録される。その場所が適切な地質学的及び論理的観点から選ばれていれば、アスベストを埋め立てることを選ぶのはもっとも合理的かつ経済的なやり方と思われる。こうした場所の地理配置は、輸送のエネルギー費用と交通事故のリスクを低減するために、全国に均等に分布させるべきである。
(6) アスベスト除去労働者保護法令の最新化。職場における粉じん保護に関するイタリアの法令は1956年にさかのぼり、アスベストについては1991年まで実施された。法律は限界値を規定せず、たんに労働者は粉じん曝露から完全に保護されなければならないと述べていた。今日生じているアスベスト関連疾患は30/50年前、それゆえ前述した法律が実施されていた期間中に起きた曝露の結果である。明らかに法律は適切に適用されていなかった。作業中のアスベスト清掃労働者を保護する法令の最終バージョンは約10年前に度乳・制定されたものだった。2000年にコペンハーゲンでWHOによって発行された西欧向けの大気質基準に基づいた、呼吸器限界値が導入された。作業中に生じた呼吸器限界値(0.01繊維/cc)を上回る衛生事故は特別の登録に記録され、少なくと40年間保存されなければならない。
法律257/92(第9条)によれば、アスベストを「直接」及び「間接」に使用し、若しくは是正または廃棄作業を行う企業は、年次報告を地域保健ユニットおよび地方評議会に送る義務を有している。報告の内容には労働者の健康の保護及び環境の保護のためにとられるべき措置が含まれている。例えば、トスカーナ地方はかかる作業の検証を1993年に開始し、いままで続けてきた。除去したアスベスト量に関する年次データの提供に加えて、是正の分野で働く労働者のリストも確立されてきた。このリストは実際にはアスベスト・リスクに曝露した可能性のある労働者のコホートであり、現在合計6,500人近い労働者になっている。年間労働時間及び職務の名称も記録される。後者は、半定量的用語で潜在的曝露の推計を可能にして散る。係る企業は、個人的及び集団的防護状況の双方にふれる作業方法について訓練を受ける。しかし、彼らが扱っている物質を考えれば、アスベストにごくわずかしか曝露していないようだが、一般の人々よりも高いレベルで曝露しているように見えるコホートに彼らを組み入れることはきわめて合理的であると思われる。それゆえ、健康監視活動、健康増進活動及び将来の疫学的研究の計画の可能性にアクセスが容易な人口集団でもある。法律257/92第9条は、あらゆる段階で「アスベスト根絶プロセス」のために公的機関が有用な情報を得ることができるようにしている。
(7) 世界的公衆衛生の観点における国際協力。アスベストに関するイタリアの科学的協力は、世界的公衆衛生の観点における健康の公平性のビジョンを共有することによって、アスベスト関連疾患の予防を促進するために、いまなおアスベストを使用している諸国に協力してきた。これは、すでにアスベストを禁止し、予防措置を経験している諸国に対て、いまもなおアスベストを使用している諸国におけるアスベストに曝露した地域社会に影響を及ぼしている予防可能で、不必要かつ不公平な疾患の最大の負荷を引き起こしている健康の不公平性を対比するという目標と一致している。公衆衛生アプローチにおけるその優れた経験に基づいて、そうした諸国が予防とアスベスト禁止に向かうことを支援する国の努力によってイタリアは貢献している。
この枠組みのなかでISSは、同地域の諸国がいまもなおアスベストを使用し、そのうちのいくつかは生産もしていることから、イタリアとラテンアメリカの諸機関が関わる科学的協力のネットワークの確立を思いついた。過去数十年間に協力ネットワークは、研究を発展させる学際的スキル、訓練及び普及活動に関わり、イタリア、ブラジル、コロンビア、ボリビア及びエクアドルの研究者の経験とスキルを融合させてきた。この協力ネットワークの活動と結果は、アイルランド(2009年)、スペイン(2011年)、アメリカ(2014年)、ブラジル(2015年及びイタリア(2016年)の5回の国際環境疫学会年次会議に参加した研究者によって支持されてきた。イタリアとラテンアメリカ諸国で得られた結果は、予防イニシアティブとアスベスト禁止に向かうために、アスベストを使用し続けている諸国におけるもっとも重大なアスベスト問題に対処する国の努力を支援するために、国際的科学的協力発展の重要性を裏付けている。協力するパートナーの間で公衆衛生の観点を共有することは、地方/国の優先課題と各国の真のニーズにしたがって、行われる協力活動の有効性を確保するための重要な要因のひとつである。
4. 公衆衛生の観点におけるアスベスト政策の主要な要因
公衆衛生の観点におけるアスベスト政策のロードマップには、社会全体のために重要な役割を果たす主要な要因を含めなければならない。
各国におけるアスベスト政策の採用及び実施に向けて進むための附帯的責任を割り当てるために、公共機関及びその他の関係者の関与。様々な行政レベルの公共機関の役割が確認されなければならない。国立公衆衛生研究所は、前世紀80年代のイタリアにおけるISSの経験のように、その他の機関や関与する当局のネットワーキングのための調整的役割を果たすかもしれない。アスベスト使用がいまなお許されている諸国でアスベストを禁止するための知見と理由を固めることに狙いを定めたプロセスを促進及び強化するためには、いくつかの段階及び活動を経るかもしれない。例えば、アスベストの生産及び仕様の職業、環境及び公衆衛生影響に関する情報の収集、アスベストに職業及び/または環境曝露した対象者、アスベスト関連罹患率及び死亡率の調査研究の実施、アスベスト関連疾患の発症率の高い具体的領域の確認、並びにアスベスト・ハザーズ及び効果的な予防活動に関する情報の様々な地方当局への伝達、である。すでにアスベスト使用を禁止している国の国立公衆衛生研究所も、アスベストを使用し続けている国の専門家や研究機関と協力活動を実施し、アスベストを禁止する法令を確立するためのカウンセラーとしての役割を果たすこともできるかもしれない。会議、シンポジウム、研究論文、公式な声明もプロセス全体を強化するための重要な手段である。これらすべてのステップは、国の政策決定主体、当局、機関の間の強力な結びつきに基づいている。
多くの諸国で国立労働安全衛生研究所は、国立公衆衛生研究所とは対照的に、独立機関である。2つの研究所の間の協力が勧告される。これは、上述したように、ISSとISPESL(国立労働安全衛生研究所)、その後INAIL(イタリア労働者保険機関)と合併、が協力したイタリアの場合に当てはまる。
イタリアにおけるアスベスト関連疾患とは対照的に、公共機関以外の関係者が果たした役割を簡単に検討するためには、歴史的な観点が不可欠である。ヴィリアーニ、スキャンセンティ及びカルネヴァーレ&チェリーニによる論文を紹介することに加えて、労働組合が労働条件と補償慣行の改善における主要な促進力だったことはよく記録されている。職場における予防対策の採用及び実施に関する労働者団体の指導的役割を検討する際には、以下の点に留意すべきである。イタリアにおける第2次世界大戦後の工業化(1950~1960年)以来、労働運動は工業部門と工場に特有だった交渉アプローチを発展させた。健康ハザードが当初は金銭補償と等しかったとしても、工業組織と健康ハザードの間の内在的関係に対する認識が発展した。とりわけ、これは、労働組合や社会科学によって支援された労働条件に関する労働者の調査及び研究を促進した。1960年代後半にこうした多因子の経験は合わせて健康ハザーズを確認及び予防するためのシステムの開発につながった。結果的に「リスク・ペイ」という感が方は放棄され、交渉は労働条件の監視及び改善に焦点がおかれるようになった。これは、まず1970年以後労働環境における予防サービスを確立した地域当局、すなわちより進歩的な地方政府のある工業地域での、対応を決定した。その後、1978年の保健改革の採用に伴って、労働環境のための予防サービスは、国を分割して、その後10年間に約60%をカバーするようになった、672の地域保健機関に含められた。職場における健康ハザーズの予防に対する労働運動の要求を引き金としたこの公衆衛生対応は、1992年にアスベストを禁止する法律が承認されたときに有利な条件であった。アスベスト禁止採用の時点で、アスベスト採掘やアスベスト・セメント製造など、最大の人員削減に直面しつつあった部門のいくつかの労働組合を除いて、大部分の労働組合はまったく賛成であった。法律257/92と上述した状況を受けて労働組合は主として、幅広い状況でのアスベスト除去及び環境クリーンアップにおける労働者のアスベスト曝露の予防に焦点をあてた。同時に、アスベスト関連疾患の事例に対する公正な補償慣行のための闘争が追求された。
その一方で、新たな関係者、アスベスト被害者とその家族及び彼らの団体が進行中の政策決定プロセスに重要な貢献をするようになった。アスベスト被害者・家族協会(AFEVA)が1988年にカサレ・モンフェラート(ピエモンテ地方)で設立され、その後主要なアスベスト産業が操業していたイタリアの多くの他の部分で発展した。アスベスト禁止に貢献したことに加えて、AFEVAは現在。医療、社会保障、補償及び裁判における法律相談に関して、アスベスト関連疾患患者を支援している。被害者団体の役割は、アガタ・マッゼオによる一連の人類学的研究によって調べられている。被害者団体を特徴づける慣行には、疾患の治療や被害の重要性の認識が含まれ、それらは本質にかかわる問題であるだけでなく、権利のための交渉と変化の促進にねらいを定めた反アスベスト活動の基礎でもある。これはまた、地方の政治家や公選された公務員、公衆衛生機関、世界的アスベスト禁止のための司法的多国境を越えた運動など、他の社会的プレーヤーとの交流を必要とする。この点において、優先順位は被害者の声に与えられ、アスベストによって引き起こされた災害を目に見えるようにする。被害者によって表明されたメッセージは(信頼できるものにするために)科学界と共有され、メディアに示され、法律によって合法化され、最後にだが大事なことは活動の国境を越えたシナリオに統合されなければならない。イタリアとブラジルのアスベスト被害者団体の間の驚くべき一貫性は、カサレ・モンフェラート(ピエモンテ地方)とオザスコ(サンパウロ州)で活動しているエターニトの被害者団体を調べることによって明らかにされた。
アスベストに関する訓練、健康リテラシー及びコミュニケーション。アスベストへの曝露によって引き起こされるリスクと健康影響、及び正しい作業方法と個人的・集団的保護機器の管理に関する重要な情報を提供するために、既存アスベストの是正またはメンテナンスに関わるものを含め、アスベスト曝露労働者のための特別な訓練が必要である。アスベスト含有物質の幅広い存在と、しばしば影響を大げさに言う傾向のあるメディアの情報が、人々に幅広い不安を生じさせ、場合によってはアスベスト・セメント屋根がある場所で不安を感じることもあるかもしれない。重要な焦点は、危険の概念とハザードの間の区別に関する正しい情報を人々に普及することである。それが国中に広まった発がん物質であることから、アスベストの危険性について知らせることは正しい。しかし、繊維が大気中に飛散せず、それゆえ吸入することがなければ、それはハザードではない。適切な管理なしに物質が機械的かく乱または破砕されれば吸入が起こる可能性がある。繊維が飛散する可能性はハザードとして定義される。不幸なことに、この区別がメディアによって尊重されたことはほぼなく、あたかも危険=リスク=ヒトの健康への影響とする誤解を生じさせている。影響を受けた人口における健康リテラシーの欠如は、アスベスト関連問題の管理に負の影響をもたらす。
公衆衛生に有益な影響のある活動に資金を導くのではなく、公衆衛生に対し予測できる影響がゼロの是正作業に投資を強いることによって、市民の講義はしばしば公共機関の介入の優先順位を覆す。アスベストに関する情報のコミュニケーションと普及は、問題に向かい合う効果的なアプローチのために、重要な問題について人々に知らせることを目的にした公的行事や移動展示を通じて提供されるかもしれない。アスベストに関するイタリアの移動展示の一例、すなわち「BastAmianto」(ストップ・アスベストの意)は、一般の人々に理解される言葉を使って科学的情報を広め、普及することを目的に、1991年にイタリアで開発された。知識は健康リテラシーと予防の実施の起訴である。展示は情報パネル、プレキシグラス箱に入れた古いアスベスト含有物質、ビデオと写真からなっている。いままでこの展示は非常に多くのイタリアの都市で展示され、何千もの人々が訪れている。
失敗。イタリアでアスベスト使用の禁止を実現した規制努力の全体的に肯定的な評価にもかかわらず、主として地方及び地域レベルで環境及び健康保護を扱う異なる公共機関に割り当てられた役割の過剰な細分化に関連した、いくつかの失敗を取り上げることは有用である。この一例は、サルデーニャで抽出され、イタリア及び海外双方のセラミック産業に原料として配給された長石のトレモライト繊維汚染(重量で1~2%)に関する最近の論文で報告されている。この活動は長い間存在していたため、数千の労働者が知らぬ間にアスベストへ曝露したことを暗示しているが、まだ確実ではなく、安全に終わってもいない。
上述の規制の細分化は、例えば、除去の観点から、アスベスト含有物質の量と位置を自己評価することになっている一般の人々にとってタスクの過負荷となってきた。多くの事例でまた時宜にかなったやり方でこの種の情報を売るためには、税の還付または少なくとも金銭的インセンティブかボーナスが必要だろう。
5. 学んだ教訓
いくつかのもっとも重要な「学んだ教訓」をリストにする前に、本論文は、法律自体の採用の前後双方でアスベスト禁止を決定づけた活動に焦点をあてた。イベントを提示するこのモードは、うまくいけば、読者、とりわけ工業におけるアスベストの使用がいまなお許されている諸国に住む者にとって役に立つかもしれない。
・ 地方及び国の政策決定者の間の遅れ及び規制の細分化を避けるよう地方及び国当局に働きかける。所与の国においてアスベストの使用を禁止することは、医療と環境クリーンアップの経済的費用ができるだけ外部化されず、費用と利益の分配的側面が十分に考慮されるうちに、アスベストの経済発展に対する貢献が誤っているという認識に基づいた政策決定が必要である。さらに、圧倒的な科学的証拠が、アスベスト関連疾患の長い潜伏期間に伴う将来の疾病負荷を含め、アスベストの健康影響の大きさを明らかに示している。いったんかかる決定がとられれば、中央及び末端保健当局の活動の間の一貫性が確保されなければならない。
・ 専門家と行政当局者の訓練。影響を受けた地域釈迦に働きかける。この目的の追求には、認められた科学的な証拠及び評価を共有することを基礎にして、共通の言葉を開発するための、大きな健康リテラシー・キャンペーンが必要である。このプロセスはまた、専門家と地方当局を訓練し、影響を受けた地域社会とメディアに知らせることを必要とする。
・ アスベスト疾患の全国保健及び疫学的システムの創設及び実施。時期と場所の座標と変動や曝露状況との関連性を含め、アスベスト関連疾患の発生に関する保健情報システムを設定および実施することが非常に重要である。同時に、アスベスト繊維のサンプリングと分析のための能力構築が図られなければならない。国際協力が重要な支援を確保するかもしれない。
・ アスベスト汚染地域を管理する政策。アスベストの広範囲にわたる使用を踏まえ、(曝露人口のサイズと年齢構造を、現在の曝露レベルと合わせて考量して)予防可能な事例の推計数、費用及び方針決定プロセスの公平への意味合いを考慮して、(廃棄物管理のための適切な手順を含め)環境クリーンアップの高い費用、避けられない予算の制約、優先順位設定の手順が実施されなければならない。後者は、最悪の設定への優先順位の割り当て、またそれゆえ、環境リスクと不利な社会経済的条件が同時に進んでいる、周縁化された末端の地域社会に努力を集中することを意味している。
・ 必要な場合にはアスベスト曝露及び関連する健康影響に関するさらなる研究の促進。最後に、必要な場合には、問題が明確に示されることを確保し、また、異なる状況であっても有用でありうる知識の進歩に貢献するために、以前は知れれていなかったまたは過小評価されていた曝露状況に関する特別な研究を発展させるべきである。
6. 結論
1992年のイタリアにおけるアスベストを禁止する法律の採用は、20世紀にイタリアがヨーロッパにおける主要な生産・消費国であったことから、重要な成果であった。アスベストを必要とする産業モデルから抜け出す(いまも進行中の)プロセスを促進するためには一連の取り組みを強化することが不可欠だった。こうした取り組みは主として、アスベスト代替品、中皮腫発症率の全国監視システム、アスベスト曝露者やアスベスト曝露労働者、とりわけ是正作業、アスベスト除去・廃棄物処理に関わる者の健康監視のための公的政策やアスベストに関する疫学的研究に関わるものである。
イタリアの経験に基づいて、公衆衛生の観点におけるアスベスト政策のロードマップには、公共機関及び他の関係者の関与、訓練計画、アスベストに関する健康リテラシーやコミュニケーションなど、社会にとって重要な役割を果たす主要な要因が含まれなければならない。
アスベストの使用の禁止のために尽くしたイタリアにおける規制努力の全体的に肯定的な評価にもかかわらず、本論文は、潜在的リスクを強調するために、地方・地域レベルにおける環境・健康保護に対処するイタリアの様々な公共機関に割り当てられた職務の過度の細分化という失敗についても説明・議論している。
イタリアにおける成功したまた効果がなかった政策双方から学んだ主要な要因及び教訓を、アスベスト使用の中止に向けて貢献することを目的に、アスベストをいまなお使用し続けている諸国の関係者を支援するために、ここに示す。とりわけ本論文は、①地方及び国の政策決定者の間の遅れ及び規制の細分化を避けるよう地方及び国当局に働きかける、②専門家と行政当局者を訓練する、③影響を受けた地域社会に働きかける、④「アスベスト汚染地域」を管理するための政策を実施する、⑤とりわけこれまで知られていなかったまたは過小推計されていたリスクについて、アスベスト曝露と関連する健康影響に関するさらなる研究を推進する、ことの関連性を指摘した。
最後に、アスベスト既に禁止している諸国とまだ禁止していない諸国との間で国際的科学協力を発展させることの関連性についても、国際的公衆衛生の観点における健康の公平性を共有する必要性を強調しながら、議論した。
※原文:https://www.mdpi.com/1660-4601/14/11/1379
筆者は、Daniela Marsili*1, Alessia Angelini2, Caterina Bruno, Marisa Corfiati3, Alessandro Marinaccio3, Stefano Silvestri2, Amerigo Zona1 and Pietro Comba1
1 イタリア国立衛生研究所環境保健局、イタリア
2 がん研究・予防センター、イタリア
3 イタリア労働者補償機関(INAIL)労働環境医学局、イタリア
*責任筆者
参考:
アスベスト使用禁止後のイタリアにおける胸膜中皮腫死亡の予測(2020年11月号)
中皮腫の疫学(抄:イタリアの状況)(2020年11月号)
史上最大のアスベスト訴訟/イタリア最高裁が逆転無罪(2015年1・2月号)ほか
安全センター情報2025年8月号