2025.4.28-5.9 バーゼル、ロッテルダム及びストックホルム条約締約会議の概要/IISD Earth Negotiation Bulletin, 2025.5.12

ロッテルダム条約COP12[第12回締約国会議]

クリソタイルアスベスト:5月7日、事務局は、2006年にCOP[締約国会議]がリスト搭載基準が満たされていることを確認していることを想起しつつ、決定案及びDGD(UNEP/FAO/RC/COP.12/9, Add.1)を提示した。多くの締約国がリスト搭載を支持したものの、6か国が反対した。同日、COPは、クリソタイルアスベストをCOP13の議事日程に追加することを決定した。
※ロシア、キリギスタン、カザフスタン、ラオス、ベラルーシ、インド、ジンバブエの7か国が反対を表明。

条約の有効性向上:条約の有効性向上:条約の有効性を向上させるための3つの提案が提出され、各提案は実施すべき作業の範囲において異なっていた。COP全体を通じて議論は対立的でした。5月5日、事務局は、事務局ノート及び受け取った情報に関する報告書(UNEP/FAO/RC/COP.12/16、INF/18)を含む文書を提出した。
ブラジルは、提案(UNEP/FAO/RC/COP.12/CRP.4)を提出し、FAOと世界保健機関(WHO)に対し、RCリストが、認証機関などが農薬の禁止に用いる高危険性農薬(HHP)の分類基準として使用されないよう確保することを要請した。また、技術支援、能力強化及び恒久的な有効性委員会の設置に関する要請を強調した。
EUは、行動はRCの権限の範囲内にとどまるべきであり、COPは他の国際機関に指示を与えることはできないと強調した。また、新たな付属機関の設置を拒否した。彼らは、農業及び食品生産分野における基準設定機関及び認証機関が附属書Ⅲのリスト搭載をどのように利用しているかについての理解を深めるため、関係国がこれらの機関と協力するよう求める提案(UNEP/FAO/RC/COP.12/CRP.8)を提示した。
5月6日、COPはカザフスタンが提出した、RCの議事規則を改正し、3回の通常会合を経ても完了しない場合には、その議題を終了したものとみなして議事日程から削除できるようにする提案(UNEP/FAO/RC/COP.12/CRP.2)を審議した。本会議での審議の結果、この提案は撤回された。
RCの有効性に関する連絡グループ(共同議長:リンロイ・クリスチャン(アンティグア・バーブーダ)とカロリナ・アントネン(フィンランド))において、6日、7日、お予備8日に議論が行われた。一部の議題はとくに議論が激しく、とりわけに有効性委員会の設置の是非が主要な争点となった。一部の者は、CRCが実質的にその目的を果たしていると考え、新たな下部機関の設置に伴う予算上の影響を指摘した。彼らは、COPにおいて一部の当事国がリスト化勧告を阻止することが問題の原因だと指摘した。他の者からは、リスト化の社会経済的影響を考慮する必要性や、当事国に対する財政的・技術的支援の必要性が挙げられ、これにより各国がリスト化を支援できるようになる可能性があるとの指摘があった。…
最終決定:最終決定(UNEP/FAO/RC/COP.12/CRP.18)において、RC COPは事務局に対し、以下を含む措置を講じるよう要請する。

  • 資源の可用性を条件として、CRCへの支援を提供する際に、現在の及び新規のメンバーに対し、オンライン手段を通じて追加の訓練を提供するイニシアチブを検討し、可能な場合は実施すること。
  • 締約国及びオブザーバーから提出された、農業及び食品生産分野の品質基準に関連するRCの規定に関する情報を整理すること。
  • CRCの作業手続及び方針指針のハンドブックを、国連の6つの公用語に翻訳すること。

決定はまた、FAOとWHOの農薬管理合同会議に対し、国際農薬管理行動規範におけるHHPの定義に関する基準において、HHPを定義する基準としての附属書Ⅲの使用について、適切と判断される場合、議論するよう要請している。

会議の簡単な分析

「種の生存は、もっとも強いものやもっとも知能の高いものではなく、変化にもっとも適応できるものにある」-チャールズ・ダーウィン
バーゼル、ロッテルダム及びストックホルム(BRS)条約は、変化に直面している。これらの条約は現在、国際機関、条約、及び進行中の交渉からなるより広範な生態系の一部となっている。汚染はこれまで以上に政治的に重要な課題となっており、世界第5位のグローバルな製造業セクターである、化学物質を管理するに関する根本的な経済的現実は依然として存在している。問題そのものも絶えず変化している。イノベーションは新たな化学物質と新たな廃棄物の流れを生み出している。これに対応するため、BRS条約は、新たな化学物質のリスト化や新たな廃棄物の流れへの対応を、長大な新たな批准手続ではなく、迅速な決定を通じて柔軟に対応できるように設計された。
この簡潔な分析では、各条約が内在する柔軟性をどのように活用して、他の国際機関の活動やサプライチェーンに適応したかを検討している。各条約において、代表団は各条約の内側に目を向け、徹底的に見直しを行い、異なる解決策を見出したり、ほとんど解決策が見つからなかったりした。

ロッテルダム条約-適応するか、滅びるか

バーゼル条約が他の国際機関の任務に軽くふれるにとどまるのに対して、ロッテルダム条約は、今回の会議で明らかになったように、多くの大規模かつ尊重される条約の真っ只中に位置している。ロッテルダム条約は長年、有効性の欠如に苦闘してきた。多くの者にとって、今回のCOPでフェンチオンとカルボスルファンという2つの農薬のリスト搭載は、嬉しい驚きだった。しかし、議題に載っていた他の8つの化学物質は次回の会議に先送りされた。フェンチオンとカルボスルファンは以前は、これらの農薬を使用する者によってブロックされていた。他の未決定の化学物質は、ほぼすべてが生産国によって阻止されている。
ロッテルダム条約は、締約国間の情報共有を目的として設計され、多くの締約国は、複雑な化学物質とその影響を分析する能力が限られている。情報に基づき、締約国は、他の国が禁止または規制している物質の輸入を許可するかどうかを決定することができる。他の条約とは異なり、この条約は禁止または段階的廃止を義務づけてはいない。そのため、財政的な仕組みや地域センターは存在しない。
ロッテルダム条約は、自らが他のより大きな組織に包含されつつあることに気づいている。国連食糧農業機関(FAO)はその「農薬管理に関する国際行動規範」において、ロッテルダム条約の附属書Ⅲに搭載された農薬を「高危険性農薬」として扱っている。「化学物質に関するグローバル・フレームワーク」は、2035年までに農業における高危険性農薬の使用を廃止することをめざしている。ロッテルダム条約へのリスト搭載は、多くの締約国が主張するように、農薬に標的を定め、その貿易、価格、及び入手可能性に影響を及ぼす。民間認証機関や基準設定機関も、附属書Ⅲへのリスト搭載を禁止措置と解釈しており、アルゼンチンなどの国は、農家が製品を認証できないため、自国農家の市場へのアクセスへの制限を主張している。観察者は、認証機関との関連性についてより懐疑的であり、認証機関は、附属書Ⅲに追加される前に多くの農薬をリストアップしていたと指摘している。
代表団は、モントリオール議定書、水俣条約、及びストックホルム条約によってそれぞれ根絶または段階的に廃止されつつあるメチルブロマイド、水銀、クロルピリホスをリストに搭載することに合意できなかった。代表団は、ロッテルダム条約による措置が、それらのうまく機能している条約の妨げになる可能性を懸念した。各条約には独自の貿易規定があり、また、その中心的な目標に効果的に対処してきた。クロルピリフォスは、とくに一部の人々にとって我慢がならないものだった。ストックホルム条約の下でそれを根絶することに締約国が合意した数日後に、ロッテルダム条約の下での貿易中のそれに関する情報共有について合意できなかったからである。
ロッテルダム条約の有効性については、ブラジルのよう野心的なものやEUのような段階的なものなど多くの提案が出され、10年にわたり議論が交わされてきた。ブラジルは、新たな有効性委員会を設置し、化学物質審査委員会(CRC)の審査プロセスを徹底的に見直すことを求めた。彼らにとっては、CRCが「明らかに品質に欠ける」規制措置を根拠に化学物質のリスト搭載を勧告し続けていることが問題である。より漸進的なアプローチを重視する他の締約国は、アセトクロルの例で示されたように、明確な科学的根拠と搭載基準が満たされているという認識があるにもかかわらず、わずかな諸国がプロセスを人質に取っているために、多くのリスト搭載が宙に浮いた状態にあることを強調した。この結果、有効性強化に関する決定は、CRCと質の高い審査を行うその能力を強化することを目的としている。
有効性の改善について議論する中で、多くのものが締約国が「核心的な問題に取り組んでいない」と指摘したが、代表者たちはそれが何かについて合意することができなかった。ある観察者が指摘したように、「一部の者は、リスト搭載が貿易に悪影響を及ぼすと主張してるが、その根拠を体系的に証明できない。他のものは、たんに情報交換に関することだと言うが、その情報はインターネット上に存在している。彼らは悪循環に陥っている」。 各国が問題の共通認識に到達するまで、条約は適応するのに苦慮し、既存の国際的努力や新興の努力に後れを取る状況が続くだろう。

変化を見えるようにする

会議のモットーは「見えないものを見えるようにする」だった。プラスチック中のPOPsや航空機の接着剤中のUV-328が見えないように、交渉者が条約を反映し、学び、適応する能力は気づかれにくいものである。これには時間がかかり、微妙な変化であることも多い。しかし、附属書や付随する決定における、それらの小さな変更は、周囲の世界が変化する中で諸条約の関連性を維持するのに役立つ。
この変化し続ける世界の一部として、化学物質と廃棄物管理の課題に取り組む国際機関の急増が起きている。「化学物質に関するグローバルフレームワーク」はまさに始動したばかりである。間もなく、プラスチック条約及び化学物質と廃棄物に関する科学・政策のパネルが設立される可能性がある。機関のランドスケープは今後も進化し続けるだろう。COPの次回会合まで2年間あるため、そうした競争の激しい環境下で、ロッテルダム条約の関連性を検討する時間はある。一方、バーゼル条約とストックホルム条約は、今後も目標に向かって前進する見込みである。しかし、適応は効果を保証するものではない。人々と地球を保護するために行動することは、締約国に委ねられている。

https://enb.iisd.org/basel-rotterdam-stockholm-conventions-brs-cops-2025-summary

安全センター情報2025年8月号